魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0472:お付き合い。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが女性陣を誘って温泉へと向かう。私たちは一度は入っているから『裸の付き合い』の免疫はあるけれど、アリサさまと共和国組が少し躊躇っている。そういえば動画投稿サイトで日本の銭湯や温泉で裸になるのは恥ずかしいと、国外の方が告げている映像を観たことがあった。

 

 その方たちは、恥ずかしかったけれど気持ちよかったとか、他の方はまったくこちらを気にしていないので自分も気にならなくなった……と言っていた。文化圏による違いだけれど、郷に入れば郷に従う精神で赴けば案外簡単に慣れてしまうものだろう。本当に無理なら、直ぐにお湯から上がれば良いのである。と言っても立場があるので難しい場合もあり一概には言えないけれども。

 緊張せずに温泉を好きになって貰えると良いのだが、果たしてどうなるのだろうか。脱衣所で服を脱ぎ畳んで籠の中に入れる。恥ずかしい方用にバスタオル擬きが置いてあって配慮されていた。私とリンは気にしないし、ダリア姉さんとアイリス姉さんも気にしない。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまもお貴族さまなのに気にしないし、ロザリンデさまとアリアさまは前回で慣れたご様子だった。あとは共和国の方だけだなと横目で確認してみる。やはり少し恥ずかしいようで周りを気にしているけれど、周りがあっけらかんと脱衣したため自分たちの価値観がおかしいのかもと頭の上に疑問符を浮かべていた。彼女たちは意を決して服を脱ぎ、お風呂場に足を運んだ。

 

 「うわ~全部、お水で満たされています!」

 

 「凄いけれど、恥ずかしいなあ……」

 

 プリエールさんと彼女と仲の良い女性が声を上げた。確かに大量のお湯を使用しているから、もったいないと解釈しても仕方ないのだろう。自然に湧き出ている温泉だから費用は掛かっていない。シャワーや清拭で済ませる方がほとんどなので、お風呂の文化が広まってくれると嬉しい。

 お風呂の入り方はアリアさまとロザリンデさまが手解きしており、共和国の方と仲良さそうに喋っている姿は正直羨ましかった。私が赴いても共和国の方々は緊張するだけだし、我慢我慢とリンと一緒に湯舟に浸かる。――なにがとは言わないが、みんな大きかった。

 

 「気持ち良いね、ナイ」

 

 「うん。リンは私の影響でお湯に浸かるのは慣れているけれど、長い時間は平気?」

 

 湯舟に浸かって一息吐けば、リンがへにゃりと笑いながら私に声を掛けた。元々、シャワー文化な世界なのにリンは私の影響を強く受け、湯舟に浸かることに慣れている。この辺りはアルバトロス王国王都の水質の関係もあったのだろう。髪を洗っても軟水と硬水で差が出てしまうようだから。普通に毎日お風呂に入れるのは本当に有難いことである。

 

 「他の人よりは大丈夫だけれど……でも何時間もナイみたいにいるのは難しい」

 

 リンが微妙な顔になった。体力やリーチになんやかんやと彼女に敵わないところが沢山あるけれど、長時間湯舟に浸かっていても平気なことは私に分がある。

 

 「私は好きで長湯しているだけだから、無理して付き合わなくても良いからね?」

 

 私に合わせると少々大変なことになってしまう確率が高い。今回はゆっくりできるので、少し長めにお風呂を楽しもうと考えている。

 

 「うん。上がって身体を冷やして何度も入ることができるから。ナイの側にいる」

 

 苦笑いを浮かべながら私の意思を伝えると、リンは微妙な顔になりつつも一緒にいることを選択した。無理をしないなら良いかとリンの横でお湯の心地良さを堪能していると、ダリア姉さんがゆっくり歩いて、アイリス姉さんがすいーと泳ぎながらこちらにやってきた。

 

 「貴女たち、本当に仲が良いわねえ。錫杖のお陰でナイちゃんの魔力の巡りが良くなっているから、少しは魔術の発動が早くなったかしら?」

 

 「ナイちゃんの身を守るためだし、試し打ちしたの~?」

 

 すすすと寄ってきたダリア姉さんが私を抱え込んだ。胡坐を掻いて膝の上に乗せられる形になっているのだが、裸で肌が触れていることを気にしていないご様子。それなら私も気にする必要はないのだが、リンがむっとした顔で膨れている。

 ダリア姉さんはリンのことも加味して私を抱き上げているので、どこ吹く風である。で、ダリア姉さんが行動に出たならば、アイリス姉さんもその内に行動に移す筈だ。

 

 「あ……試そうと考えていたのですが、いつの間にか月日が流れてしまいました」

 

 副団長さまにお願いして魔術師団の訓練場でも借りようとしていたけれど、猫背の魔術師さんの件ですっかり忘れていた。錫杖のお陰で私の魔力の流れが良くなっているのは確実なので、改善されていると良いのだが。

 

 「なるほど。まあ立場があると仕方ないのかしらね。置かれた環境も変わるでしょうし」

 

 「人間は面倒だよね~。でも前の環境よりは良いはずだし、ナイちゃん今の状況を楽しんでいるみたいだからね~」

 

 ダリア姉さんが声を上げ、アイリス姉さんが口を開くと彼女の腕が私に伸びてくる。アイリス姉さんの膝の上に私は移動して、お腹の所に彼女の両腕が回る。以前と同じ状況だなと苦笑いを浮かべて周りを見渡すと、私たちのやり取りに気付いた方々が微笑ましそうにこちらを見ていた。

 

 「魔術を放っても大丈夫な所を見つけられると良いのですが、中々難しくて」

 

 アルバトロス王国内で遠慮なく魔術を放てる場所となると限定されてしまう。どこか良い場所があれば嬉しいけれど、試し打ちができるのはいつの日になるのか。

 

 「ならこの島でやれば良いじゃない。代表が管理しているんだし、申し出れば許可してくれるわよ。あと大蛇もかしら」

 

 「ああ、その手もあるね~。ナイちゃんが魔術を放つ時間は外出禁止にしていれば問題は少なくなるね~あとは予想外の威力が出なければかな~?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが一緒であれば、少しでも危険度は下がるだろうか。有難い提案だし、空に放てば被害は減るはず。お風呂から上がって代表さまと顔合わせできるなら相談してみよう。あと大蛇さまにも許可を取らないといけない。

 やることが増えたけれど、前から決めていたことだし問題はない。むしろ遅くなってしまったと反省すべき点だろうか。エルフのお姉さんズと暫く魔術と魔法談義を繰り広げていると、先にお二人が湯舟から上がる。他の方たちも身体は十分に温まったようで、残っているのはリンと私だけになっていた。

 

 ふいに毛玉ちゃんたちの遠吠えが聞こえてきた。どうしたのだろうとリンと顔を合わせて首を傾げる。なにか問題があれば急いで伝達がくるはずだ。誰もこないということは問題は起こっていないはず。それでも寂しそうに鳴いている毛玉ちゃんたちの声が気になって、私たちも上がろうかとリンに声を掛けた。

 

 「水分補給しておきなさいな。冷たいお水が良いなら魔法で用意するわ」

 

 「氷作ったげるよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが声を上げる。まだ脱衣所に残っている方々はいて、温泉を気に入ってくれた方もいればイマイチの方もいる。差の出具合が面白いと周りの方々の会話に聞き耳を立てながら、エルフのお姉さんズから冷えたお水を受け取った。

 

 「ありがとうございます」

 

 受け取ったカップ越しに伝わる冷気が気持ち良い。お姉さんズはリンにも手渡してくれていた。

 

 「どういたしまして。そういえば魔法で氷を出すのって人間には難しいって聞いたけれど……」

 

 「なんでだろうね~?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが不思議そうに小さく首を傾げた。そういえば氷系の魔術は使い辛いと聞いたことがある。どうしてだろうと私も首を捻るけれど、そもそも氷系統の魔術を教わったことがない。

 

 「どうしてでしょうか。氷系の魔術を習ったことがないので、なんとも言えないですね」

 

 水系統の魔術に術式を弄ればどうにかなるのだろうか。その辺りは魔術に詳しい副団長さまに聞けば分かるかと、ダリア姉さんとアイリス姉さんに告げると微妙な顔になる。どうにもお二人は副団長さまに苦手意識を持っているようで、一体彼は無敵のお姉さんズになにをしたのだろうか。

 

 「そういえば魔術師の方たちは森の探索から戻ってきていないですね……大丈夫かな」

 

 エルとジョセたちと一緒に探検に赴いていたメンバーは無事に戻ってきている。あれ、グリフォンさんはいずこに行ったのだろうか。島から出ないようにと約束しているから外に赴くことはないはずだ。

 いつもエルたちと楽しそうに過ごしているのに、今回はどこにいるのやら。まあポチとタマも森の中に入って戻ってきていないので、グリフォンさんと一緒にいるのかもしれない。

 

 「まあ死ぬようなことはないでしょう。竜たちがいるから、狼煙を上げれば直ぐに赴けるもの」

 

 「弱いと淘汰されるのが自然だからね~。まあナイちゃんの連れてきた人間だから無下にできないけれど」

 

 お姉さんズはみんなでコテージに戻ろうと声を上げる。脱衣所から外に出ると、待っていてくれたクロが私の肩に乗りネルもリンの肩に飛び移る。お待たせと声を掛けていると、ピーピー鼻を鳴らしながら毛玉ちゃんたちがこちらに寄ってきた。

 嬉しさで飛びつきたいのを我慢して、地面に伏せて脚で器用に張っている。待たせてごめんと謝りながら、それぞれの頭を撫でているとヴァナルと雪さんたちもこちらにやってきた。お待たせとまた声を上げると『急かした?』『仔たちが申し訳ありません』と謝るので、気にしなくて良いよと伝える。

 

 毛玉ちゃんたちは私に挨拶を済ませたことで、興味の対象が変わっていた。他の方たちにも『遅いよ~!』と訴えるために、小さく声を上げて抗議している。ソフィーアさまとセレスティアさまは目を丸くしつつ、待たせて申し訳ないと謝りながら撫でると、次だと言わんばかりにロザリンデさまとアリアさまの下へと掛けて行く。

 フィーネさまとアリサさまにも駆け寄ったあと、毛玉ちゃんたちは共和国の皆さまの下にも脚を運んだ。毛玉ちゃんたちは人見知りをしないし、言葉を交わせなくても表情豊かなので感情がダイレクトで分かる。可愛いなあと見つめていると、満足した毛玉ちゃんたちが戻ってきた。

 

 「コテージに帰ろうね」

 

 そう言ってみんなで歩き始める。ぴゅーと駆け出した毛玉ちゃんたちが先頭を行き、遅れて私たちも歩いている。

 季節は夏で湯冷めすることはないが、陽が落ちているので夜の外気は少し冷たく気持ちの良い散歩だった。時折『ぽえー』と奇妙に鳴く声が聞こえて、どの動物の鳴き声だろうかという話題になる。ダリア姉さんとアイリス姉さんも知らないようだった。

 大蛇さまなら知っているかもしれないから、次に会った時に聞いてみよう。歩くこと暫くコテージに戻った私たちは、泥だらけになって森の探索から戻ってきた魔術師組と合流することになる。

 

 「副団長さま、皆さま、おかえりなさい。ご無事でなによりです」

 

 私は副団長さまたちに声を掛ける。ダリア姉さんとアイリス姉さんは苦手なのか、そそくさとコテージの中に引っ込んで行った。他の方たちも部屋に戻っているので、彼らに興味がないらしい。

 

 「聖女さま、お疲れさまです。魔術に関することは見つけられませんでしたが、本当に面白い島ですねえ。固有種がたくさんおりますし楽しい二日間でした」

 

 「ただいま。おもしろいものは見つからなかったけれど、めずらしい動植物がたくさん。でもつかれた……」

 

 副団長さまと猫背の魔術師さんが良い顔でドヤっているけれど、泥だらけでイケメン度合が台無しだった。でもまあ楽しんでいたなら、なににも代えられないものだと彼らと視線を合わせる。

 

 「無理をしてはなりませんよ。しかし二日間、よく体力が持ちましたね」

 

 本当にあの酷い状態で随分と改善したものの、体力はあまり期待できない状態だったのに。

 

 「せいじょさまのおかげ」

 

 「以前のままでは無理だったでしょうねえ。聖女さまの尽力により彼は魔術師として生き生きとしております。感謝をしなければ」

 

 私のお陰というよりは、自分たちの興味度合が最大値に上がっていたから疲れを感じなかっただけではなかろうか。欲望に忠実だなと感心していると、コテージから男性陣が姿を現す。

 どこに行くのだろうと首を傾げていると、一行から離れたジークとクレイグとサフィールがこちらにきた。ジークが代表して失礼しますと一声上げると、副団長さまと猫背の魔術師さんは空気を読んでくれて場を譲る。

 

 「ナイ、俺たちも風呂に入ってくる。アズを頼めるか?」

 

 「うん、分かった。ゆっくり楽しんできて」

 

 私の言葉にクロが一鳴きすると、ジークの肩の上からアズが地面に降りてリンの肩の上に跳び乗る。あ、そうだと私は副団長さま方を見て、サフィールにも視線を向けた。

 

 「副団長さま方も温泉に入って汚れを落としてください。あ、サフィール。副団長さまたちのお世話というか……いろいろと面倒をみて貰っても良い?」

 

 私の言葉に副団長さまと猫背の魔術師さんから文句は出なかった。少々人として駄目なところがあると自覚があるのだろうか。私は猫背の魔術師さんがマトモにお風呂に入ることができるのか心配だったので、その手のことに慣れているサフィールに声を掛けた訳だけれど。

 

 「構わないけれど……僕で良いのかな?」

 

 サフィールは身分的に問題にならないかと言いたいらしい。私は気にしない方々だと捉えているのだが、本人に問うた方が早いと視線を向ける。

 

 「申し訳ありません、お世話になります。彼は随分と浮世離れしておりますので、介助してくださるならば助かります」

 

 副団長さまがサフィールに丁寧に礼を執る。この辺り、副団長さまは分け隔てなく接してくれるので有難い。サフィールも困ったような顔をしているが、服の脱ぎっぱなしとか気になる性格なので丁度良いはず。

 

 「衣装の介添えで大丈夫でしょうか?」

 

 「はい、それだけで十分です。休暇で赴いているのに申し訳ないことを……」

 

 「ごめんなさい。おねがいします」

 

 「いえ。専門ではないですが、衣装の介添えであれば僕にも担えます」

 

 穏便にやり取りが済み、男性陣と魔術師組が温泉へと赴いて行く。場所は知っているし、道なりだから迷うことはないだろう。いってらっしゃいと声を掛けて、私とリンはコテージに入る。

 

 「大丈夫かな?」

 

 「さあ?」

 

 二人して顔を見合わせる。ギド殿下とエーリヒさまがいるから大丈夫だと思うけれど、温水プールみたいにならなければ良いなあと願うのだった。

 

 ◇

 

 うーーん。どうしてこんな状況になっているのだろう、と僕とクレイグは無言で顔を合わせた。

 

 ナイ曰く、お風呂は裸の付き合いで交流を深める場所なのだそうだ。確かに服を全て脱いで一糸纏わず、みんなと一緒にお風呂に入るのは難易度が高いけれど。猫背の魔術師の世話をナイから任されたけれど、本当に僕で大丈夫だろうか。

 

 脱衣所でみんなで服を脱いでいると、猫背の魔術師が服をポイっと床に置いた。どうして着る物を床に遠慮なく置けるのだろうかと疑問を感じていると、ナイはこれを見越していたのだなと納得できた。僕は彼の行動をあまり良く捉えておらず、脱衣所に残って床に置かれた服を畳んで籠の中へ入れようとするはずだ。先に許可さえ取っておけば遠慮は必要ないし、相手が貴族の方だとしても問題はない。

 

 ナイは良く見ているなと感心しながら、僕は彼の下に行き『手伝います』と声を掛けて衣装を受け取り畳んで籠に仕舞う。脱ぎ辛そうであれば手を出すのだが、目の前の男性は本当に成人しているのか怪しく感じてしまう。

 ナイから話は聞いていたけれど更に幼いというか……興味のあることにしか思考を割いていないというか。魔術師の人は特殊な者が多いと言われているから、こんなものなのだろうか。いずれにせよ深く考えると、余計なことまで考えそうだから止めようと誰にも分からないように首を振る。

 

 そうして他の方は先に扉の向こうへと歩いて行った。僕はゆっくり服を抜いでいると、全裸のクレイグとジークが隣に立つ。

 

 「大丈夫かよ、サフィール」

 

 妙な顔を浮かべてクレイグが声を上げた。ジークは僕を心配しつつも、クレイグがいるので横に控えているだけのようだ。

 

 「なにが?」

 

 「ナイから面倒を押し付けられただろ?」

 

 「確かに面倒を押し付けられたかもしれないけれど、ナイなりに考えがあったみたいだよ。服、そのまま脱ぎ捨てていたからね」

 

 服をそのまま脱ぎ捨てていたし、着替えも苦手な様子だった。まるで小さな子供を見ているようだから、僕は気になっていただろう。彼は僕から介添えを受けることを嫌がっておらず、特に気にしてもいないようだった。

 

 「そりゃ、そうだが。まあ魔術師だからなあ……」

 

 「うん、魔術師だもの。ナイからお願いされていなければ、僕は最後まで脱衣所に残って服を拾い上げていただろうから結果的に良かったかなって」

 

 魔術師だからで済ませられるのが恐ろしいというか、なんというか。

 

 「クレイグ、サフィール。長く話していると心配される、行こう」

 

 ジークが少し苦笑いを浮かべながら、向こうへ行こうと促してくれる。確かにあまり遅くなるとなにを疑われるか分からない。警戒しすぎなのかもしれないけれど、身分の差が気になってしまうのだ。

 

 「あいよ」

 

 「うん、行こうか」

 

 ジークの声に答えて扉の向こうに進む。湯気の立っているお水を見ると、凄く贅沢をしているようだ。こんなに沢山のお水を用意するのは大変だけれど、勝手に湧いて出てきているらしい。火山の地熱で熱いお湯として地上に湧いてくるそうだ。

 原理は詳しく分からないけれど、少し独特な匂いが立ち込めている。イオウの匂いと教えて貰ったが、イオウがなにか僕はイマイチ分からない。クレイグも首を傾げていたし、ジークも微妙な顔をしていた。

 

 リームの王子さまとクルーガー伯爵子息と魔術師団副団長と猫背の魔術師は、ナイの学友に温泉の入り方の手解きを受けていた。僕たちは去年に経験しているから、なんとなくだけれど覚えている。入る前にナイが掛け湯をしてから入ると教えてくれていた。どうやらその手解きをしているようで、学友の彼が桶の中に湯を組んで肩から掛けている。

 僕たちもお湯に浸かろうと桶を取り掛け湯を済ませて身体を湯舟の中に浸けた。ジークとクレイグも僕と同様に掛け湯を済ませて、湯舟の中に身体を浸けている。布をお湯の中に浸けることはあまりよろしくなく、頭の上に乗せておくのが通のやり方らしい。ナイが過ごしていた世界の話だから、守らなくても問題ないが気にしてくれたら嬉しいと彼女が告げていた。

 

 ふう、と息を吐いてお湯の温かさに人心地突く。ふいに僕の前に腰を下ろしているジークとクレイグの裸を視界に捉える。男同士だから女性のように気にしないけれど、裸でこうして向き合うのは凄く不思議な感覚だ。そして僕と彼らの徹底的な差が浮き彫りになっていた。

 

 「……僕は筋肉が少ないから、みんなが羨ましいよ」

 

 僕の体質なのか運動しても筋肉が付き辛い。ジークは騎士で訓練を怠っていないから、腹筋や腕や太腿の筋肉が凄いことになっていた。肩幅も広いし羨ましい限りである。クレイグも割と筋肉が付いている。お腹は締まっているし、僕のように筋肉がない訳じゃない。どうしてだろうと自分のお腹を腕で抑えて揉んでみる。柔らかい。

 

 「サフィールは託児所に勤めてるから筋肉はいらねえだろ。ジークは騎士だから分かるけどよ」

 

 「ジークは本当に凄いよね。腕とかお腹の筋肉を僕に分けて欲しいくらいだ」

 

 クレイグとジークが僕の身体に視線を向ける。うーん、クレイグは僕に筋肉は必要ないと言うけれど、あって困るものでもない。力が足りない場面に出くわすことはないけれど、でもやっぱりあるのとないのでは違う気がする。

 

 「身体を鍛えるなら付き合っても良いが……急に動いても危ないだけだからな。サフィールが急に無理する必要はないし、筋肉を鍛える方法なら一緒に考えられる」

 

 ジークが少し考える様子を見せながら、僕に合う鍛え方を教えてくれるようだ。子供たちの相手を務めているから持久力には自信があるけれど、瞬発的な力を発するのは苦手になるだろうか。それにお腹の筋肉が割れていることに憧れがあるから、口にするだけでなく頑張ってみようと僕が決意していると、クレイグが顔を近づけてきた。

 

 「でもよ、あの魔術師よりはマシだろう?」

 

 クレイグが小声で口にした。気付かれないように話題に上がった人物にちらりと視線を向ける。確かに猫背の魔術師の方より酷くないけれど、ナイの治療を受けている方なので比べる対象ではないような。クレイグにそんなことを言っちゃ駄目だと苦言を呈していると、一塊になっていた他の方たちが僕たちの方に移動してくる。三人でどうしたのだろうと首を傾げた。

 

 「仲間内で話しているが、邪魔して良いだろうか?」

 

 ジークの筋肉は凄いけれど、リームの王子さまもまた筋肉が凄かった。骨が太く肉付きが良いので、がっしりとした感じだ。

 

 「ギド殿下、構いませんよ」

 

 王子さまの要望に僕たちの中で位が一番高いジークが対応してくれる。僕とクレイグは小さく目線を下げた。一応、島に滞在している間は身分に囚われないと亜人連合国の方たちと約束を交わしているそうだ。とはいえ、やはり弁えないといけない場面が出てくる。難しいけれど、慣れれば割と便利な所もあった。

 

 「島にいる間はあまり敬称を付けないでくれ、ジークフリード。皆がいると中々二人にきちんと挨拶ができなくてな。このような恰好で済まないが、ギド・リームだ。アストライアー侯爵閣下の幼馴染と聞いている。島にいる間よろしく頼む。もちろん、これからも」

 

 確かにお互いに裸で挨拶する機会はあまりないだろうと苦笑いになる。そうしてにかっと笑ったギド殿下が横にいるナイの学友二人に視線を向けた。

 

 「エーリヒ・ベナンターです。アストライアー侯爵閣下とは王立学院でお世話になっていました。それが縁で気に掛けて頂いています。これからよろしくお願いします。それと今日、一緒に釣りができて楽しかったです」

 

 去年南の島でナイがナットウやオショウユの実験を提唱した方だった。温和そうな方で爵位を持っているのに告げなかったのは僕たちへの配慮だろう。

 

 「マルクス・クルーガーだ。エーリヒと一緒で侯爵閣下と同じ学院に通ってた。俺は伯爵位の息子でしかないから気軽に接してくれ。よろしく頼む」

 

 ぶっきらぼうで気の強そうな表情の彼はジークの異母兄弟である。ナイが一年生の頃にいろいろあったそうだが、ジークと目の前の方は親の責任だから気にしていないとのこと。ギド殿下と同様に筋肉が付いていて、今は近衛騎士に勤めているそうだ。彼はがりがりと後ろ手で頭を掻き少し照れた様子である。

 

 「ハインツ・ヴァレンシュタインと申します。皆さんより歳が上になりますが、あまり気になさらないでください。子爵家には度々訪れていますが、こうしてきちんとお話をするのは初めてですね。これからもお世話になります」

 

 にっこりと銀髪の魔術師の方が笑うのだが感情が読み取り辛い。飄々としていそうだけれど、彼は今僕たちのことをどう捉えているのだろう。ナイの幼馴染として僕たちに不遜な態度を取れないと考えているのか、それとも全く興味はなく単純に円滑に人付き合いを行うための社交辞令なのか。少し怖いと感じてしまうのは何故だろうか。

 

 「えっと……さっきはお手伝いありがとう。ヴォルフガンク・ファウスト……よろしく」

 

 猫背の魔術師の方が礼を告げる。介添えを感謝してくれているので僕は小さく頭を下げる。へらりと笑う姿は実年齢より幼さを感じてしまう。とりあえず集まった方が言い終えたので僕たちの番となった。

 

 「クレイグと申します。アストライアー侯爵の功績によりハイゼンベルグ公爵閣下が私に貴族籍を手配してくださいました。――」

 

 クレイグが小さく目線を下げて、頂いた家名を名乗る。子爵邸で名乗る機会は少ないので耳に新鮮だった。

 

 「サフィールと申します。クレイグと同様に僕も公爵閣下により貴族籍をご用意頂きました。――」

 

 僕もクレイグに倣って家名を名乗ってよろしくお願いしますと頭を下げると、この場にいるみんなが頷いてくれた。ナイのお陰で彼らと挨拶を交わしたけれど、これから先は僕の意思で彼らと関係が続くかどうかが決まるはず。仲間内以外の人と関わる機会が少なくてきちんと対応できるのか不安だけれど、ナイはまた来年も島で遊ぶつもりだ。今、こうして彼らと挨拶できたのは良いことだろう。

 

 「身分は皆それぞれ弁えているだろう。今は男だけだし、いろいろと話ができるはずだ」

 

 ギド殿下はもう少しすればアルバトロス王国入りして、ナイの侍女を務めている公爵さまの孫娘の下へ婿入りするそうだ。その話をしている時は照れ臭そうに笑っていたので、良好な関係を築いているのだろう。

 貴族の方は若いうちから結婚しなければならないので大変である。平民は早い人もいれば遅い人もいて様々だ。僕とクレイグもジークも婚約者なんていないし、家庭を持っている姿を想像できない。でもいつかは素敵な女性と出会って、恋をして愛を育み子供ができたら良いなと考えている自分がいる。こうして考えられるのはナイのお陰だなと感じながら、男組で島でやりたいことや将来のことを話している。

 

 聞き手に回っているけれど、ギド殿下とベナンターさまとクルーガーさまが話を回してくれる。僕たちも話に参加できるようにと共通の話題を振ってくれたり、凄く気を使ってくれていた。申し訳ないなと感じながら、彼らと普通に語れる日がくると良いなと願ってしまうのは駄目だろうか。ナイが取り持ってくれた縁を大事にしたいから、僕にできる努力をしようと決めるのだった。

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