魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0474:真ん丸鳥さんのお名前。

 ダークエルフさんたちの拠点から、沼地を住処としている大蛇さまの所へ行く。真ん丸鳥さんを抱き抱えていると時折『ポエ~』と鳴き声を発するのだけれど、間抜けな鳴き声で脱力しそうになる。

 

 リンとクロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちは、面白おかしそうに真ん丸鳥さんの鳴き声に耳を傾けていた。私は慣れるのが早いと感心しながら沼地に辿り着いた。私たちに気付いた大蛇さまがぬっと鎌首を擡げて顔を近づけてくる。大蛇さまに気付いた真ん丸鳥さんが『ポエーーーー!』と絶叫を上げてみんな気絶した。こてんと腕の中で脱力しており、彼らを抱えているリンと毛玉ちゃんたちと私はどうしようと顔を見合わせた。

 

 『おや。まだ生き残りがいたのだな。随分と前にいなくなったと思っておったのに』

 

 大蛇さまが赤い目にある膜を閉じたり開いたりして、真ん丸鳥さんを見つめている。どうやら本当に珍しい鳥らしく、島の大蛇さまでも彼らを見ることはなく随分と昔に全滅したと思い込んでいたらしい。

 

 「警戒心がなくて私たちに懐いているのですが、彼らのお世話をしても良いのかご意見を伺いたくて……」

 

 私は大きな大蛇さまを見上げて問う。ふすーと息を吐いた大蛇さまは目を細めながら顔を更に近づけてきた。

 

 『好きにすれば良いだろう。ポポカたちが人間に懐いたというのであれば、それはそれで見物だの』

 

 どうやら真ん丸鳥さんたちは『ポポカ』という名前のようだ。緑色の体毛に覆われ、真ん丸な身体と小さな羽故に空を飛ぶことはない。

 地面を歩いて移動し生活圏は随分と狭く、特徴的な鳴き声なのだそうだ。食べ物は木の実や果物を食べて生活しているとか。しかしまあ弱肉強食であろう島で良く生き延びたなあと感心していると、大蛇さまが私から視線を逸らす。

 

 『我が若かりし頃、食べたのじゃよ。逃げないし美味いし絶好の得物であったわ……我を見て気絶したのは本能で覚えておったか』

 

 照れ照れと大蛇さまが恥ずかしそうに告げた。

 

 「…………」

 

 そうか。大蛇さまが大きくなった一因は真ん丸鳥さんたちの犠牲が数多くあったようだ。腕の中で気絶しているポポカさんを撫でていると、クロがこてんと首を傾げて大蛇さまを見る。

 

 『それは……仕方ないことかな?』

 

 クロの言う通り仕方ないことなのだろう。大蛇さまに食べられまくったとしても自然の摂理なのだから、大蛇さまに抗議するのは野暮である。生き残っていた事実を喜ぼうと、もう一度ポポカさんを見る。

 

 「美味しいのか……」

 

 焼き鳥、唐揚げ、手羽先、親子丼……と鳥メニューが頭の中に浮かぶけれど、流石に飢えていないのに彼らを捌くのは気が引ける。ちょっと出てしまった欲を心の奥底に仕舞い込んで、大蛇さまの沼地にある赤米さんの様子をついでに伺った。

 去年よりも確実に増えているので、収穫量が多く見込める。種籾を確保して、アルバトロス王国とフソウで育つか来年は実験だなあと、まだ緑色の稲の葉に触れた。

 

 『良い感じじゃろ? 我、頑張ったぞ?』

 

 私の視界に大蛇さまの顔がぬっと出てきた。

 

 「ありがとうございます。栄養価が高いと言われていますし、いろいろな面で役に立ってくれれば良いなと」

 

 白米さんより赤米さんの方が栄養価が高いらしい。エーリヒさまが、五穀米として食べても良いかもしれないと提案してくれた。黒米や玄米にもち米はフソウにあるそうだから、ちょっと融通して頂く予定だ。

 アルバトロス王国ではご飯食が根付いていないので、普及を目的とするならフソウだろうなあと考えている。ナガノブさまと帝さまに相談して役に立てて頂こう。栄養価が高い食事を幼い頃から食べれば、生存率や身体が大きく育つはずである。

 

 『お嬢ちゃんの好きにせい。島を大きくして貰った恩があるからなあ』

 

 大蛇さまがふふふと笑うと、私の腕の中にいるポポカさんが意識を取り戻したようで目をゆっくりと開いた。

 

 『ポエーーーーーーーーー!!』

 

 目覚めたポポカさんが最初に目にしたものは、本能で天敵と認識している大蛇さまだった。丸い目を更に開きながら絶叫を上げ、沼地を越えて遠くの森まで木霊しそうな鳴き声である。仲間の絶叫に目が覚めた他のポポカさんたちも大蛇さまを見た途端、驚きの絶叫を上げた。

 

 『……いや、我、力を付けたからもう食べん。そう怖がるな? ほら、顔を近づけても口は開けんぞ』

 

 大蛇さまは代わり映えしない表情をどうにか動かして笑い、私が抱いているポポカさんに顔をぬっと近づける。

 

 『ポエーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!』

 

 更に増した絶叫に耳を塞ぎたくなる。元々真ん丸な鳥さんなのに、驚いて毛がぶわっとなって更に丸くなっている。気絶はしないけれど、拒否し続ける様子に大蛇さまの方が先に折れた。

 

 『嫌われてしもうた……もう食べとらんのに』

 

 『んー、頻繁に彼らと会って敵じゃないよって根気強く頑張ろう』

 

 しょぼんとしている大蛇さまにクロが私の肩から飛び立って、顔の前で停滞飛行しながら大蛇さまををクロが慰めた。お主は優しいのうと感動している大蛇さまにクロは少し照れながら私の肩に戻ってくる。

 ポポカさんは『ポエーーー!』と鳴きながら、未だにビビり散らかしている。必死過ぎて可哀そうになってきたので、一度大蛇さまの沼から離れることにした。とりあえず大蛇さまは、ポポカさんたちが人間の下で生活するのは好きにして良いとのこと。

 

 「大蛇さまは怖いかあ……慣れてくれると良いけれど」

 

 「凄く煩かったけれど仕方ないのかな? 慣れてくれると良いね」

 

 私とリンはポポカさんたちを抱いたまま顔を見合わせて笑う。大蛇さまは彼らに慣れて貰うために、頻繁にコテージに顔を出すと仰っていた。また大声を上げて鳴きそうだけれど、これから先はどうなるのやら。

 

 『本能に刷り込まれているから難しそうだけれど大蛇に敵意はないからねえ。ポポカたちが大蛇は平気って覚えてくれれば大丈夫だよ』

 

 クロが私の肩の上で教えてくれた。クロの言葉であれば大丈夫かなと、まだ興奮状態のポポカさんを撫でると、ようやく落ち着いたのか丸みがマシになってきた。コテージに戻れば、話を聞きつけたフィーネさまとアリサさまとアリアさまとロザリンデさまが入り口前に顔を出し、ポポカさんたちをまじまじと見つめる。

 私が抱えていたポポカさんを地面に降ろせば、よちよちと女性陣へと歩み寄って行く。尾を左右に振る姿は、脚元が覚束なかった頃の毛玉ちゃんたちのお尻を見ているようだった。他のポポカさんたちも同じように尾を左右に振りながら、ゆっくりねちねちと前に進んで四人の下へと歩いて行く。足元に辿り着くと『ポエ~』となんとも言えない抜けた鳴き声を出して、彼女たちをつぶらな瞳で見上げていた。

 

 「可愛いわ! ね、アリサ」

 

 「フィーネお姉さま、ええ、本当に!」

 

 フィーネさまが長い銀糸の髪を耳に掛けながら地面にしゃがみ込み、彼女の隣にいるアリサさまも一緒に地面にしゃがみ込む。二人にポポカさんが二羽寄って、彼女たちの膝に嘴を擦り付けている。

 暫くすると、ポポカさん二羽はお二人の膝の上に乗ろうと足掻き始めた。上手く乗れず何度か失敗していると、苦笑いを浮かべた彼女たちはポポカさんが登り易いように膝を地面に付けている。ぱあっと顔を明るくしたポポカさんは『ポエー』と鳴いて嬉しそうに膝の上に乗り、身体を丸くしてくつろいでいる。

 

 「真ん丸ですね。つぶらな目が可愛いです!」

 

 「鳥なのに空が飛べないとは……でも愛らしいですわ。しかし何故、こんな所に自然の生き物が?」

 

 へにゃっと笑うアリアさまにロザリンデさまが少し困った顔で同意の声を上げた。彼女たちの足元にもカカポさんが擦り寄って、お二人の顔を見上げている。フィーネさまとアリサさまの姿を見ていたので、ポポカさんがなにをしたいのか丸分かりだった。

 アリアさまとロザリンデさまも地面にしゃがみ込んで、ポポカさんたちが膝上に乗ってくるのを待っている。少し考えているのかポポカさんは首を捻るも、嬉しそうに彼女たちの膝の上に登っていく。貴族の皆さまに爪を立てないか心配だったけれど杞憂であった。

 

 「毛玉ちゃんたちが偶然見つけて、人間に懐いたようなので暫くは面倒をみようかと。代表さまと大蛇さまに確認は取ってきました」

 

 私はポポカさんたちの事情を四人に伝える。話を聞いた毛玉ちゃんたちがお嬢さま四人にドヤ顔を披露していた。毛玉ちゃんたちはまだ言葉を話せないけれど、理解しているようでなによりと彼らの頭を撫でると幸せそうな顔を見せている。

 外で話し込んでも仕方ないし、猫背さんの様子も気になるので中に入ろうと皆さまを誘う。ジークとクレイグとサフィールはまだ外をウロウロしているようで戻っていなかった。私たちがコテージに入ると、ポポカさんたちも一緒に付いてくる。本当に人慣れして警戒心がないと呆れ顔になりながら談話室へと入った。

 

 「ナイさま、懐いたのは良いことですが、ご飯とかはどうするのですか?」

 

 フィーネさまが私に問いながら一羽のポポカさんを抱き上げて椅子に腰を下ろした。

 

 「自力で頑張って頂きます。自然に生きているので過剰な手助けは不要かと。まあ、一緒に過ごすのも過剰ではあるのですが……個体数を随分と減らしているようなので」

 

 ご飯は自前で調達して頂かなければ。果物や木の実を食べるそうだが好みも知らないし、食事量も分からない。自前で調達できても食べ過ぎて肥満になるとか洒落にならないし、一緒に過ごすのも大変である。

 

 「このロッジが彼らの巣となるのでしょうか?」

 

 アリアさまが私に聞く。

 

 「そんな感じでしょうね。共存と言った所でしょう」

 

 共に暮らしつつ、過剰な干渉はしないのが一番だろう。ポポカさんたちも分かっているだろうから、餌は自分で取りに行ってくれるはず。まあ、賢いならば人間を見張り役に使うだろうなあ。どうなるか分からないけれど、奇妙な共同生活が始まりそうだと部屋にいるみんなで笑う。談話室で話していると、部屋の窓にプリエールさんの鸚鵡さんが番で姿を現した。

 

 『ナカマ! ナカーマ! 大事にしろ! 喰うな!』

 

 雌の鸚鵡さんが声を上げると、ポポカさんたちも『ポエー!』と鳴き返す。どうやらポポカさんたちを知っているのか、鸚鵡さんは彼らのことを気に掛けているようである。雄の鸚鵡さんが部屋に入ってきてポポカさんたちと挨拶を交わしていると、プリエールさんが鸚鵡さんたちを探しているようで名前を呼んでいた。

 

 「プリエールさん、こちらです。入ってきてください」

 

 「申し訳ありません、アストライアーさま」

 

 私はプリエールさんに窓から声を掛けて、ロッジの中へと入って貰う。プリエールさんはアルバトロスと聖王国の面子に少し驚きつつ頭を下げて挨拶をし、私たちも彼女と交わす。事情を伝えて、クロに頼んで番の鸚鵡さんにも説明して貰うと納得してくれたようだ。鸚鵡さんの話では五十年前の難破船の船員さんも好んでポポカさんたちを食べていて、随分と数を減らしたとか。

 

 「食べないですよね?」

 

 フィーネさまが真面目な顔で私に問うので、視線を少し逸らして黙って頷く。鳥肉料理を頭の中で考えていたとは決して言えない雰囲気だった。

 

 ◇

 

 ポポカさんたちは見た目のキモ可愛さから女性陣に好評である。ポポカさんたちも女性陣の足元に寄って、顔をすりすりしたり居眠りをしたりと自由に過ごしていた。

 苦手な方がいなくて良かったと安堵していると、外に出ていたジークとクレイグとサフィールが戻ってきた。途中でエーリヒさまとも合流したようで、一緒にロッジの談話室に顔を出したそうな。

 

 彼らは女性が多くいたことに驚きつつも、ポポカさんが視界に入って気持ちがそちらに移ったようだ。人懐っこい鳥さんだから男性陣にも寄って行くだろうと微笑ましくポポカさんたちを見ていると、彼らは一羽も男性陣に近づいていかない。どうしてだろうと私が首を傾げると、クロが『なにか怯えている感じがするねえ』と呟いた。

 

 「もしかして五十年前の水夫さんたちのことが記憶に残っているのかな?」

 

 難破船の船員さんであればほぼ確実に男性だろう。食べられてしまいポポカさんたちは数を減らしたと聞いたし、本能レベルで刷り込まれている可能性もある。なにせ大蛇さまも怖がっていたのだから。

 

 『かもしれないねえ。本当に覚えているのか不思議だけれど』

 

 「語り継がれていたのかもね」

 

 ポポカさんたちの平均寿命が何年あるのか分からないが、五十年生きるとなればかなり長生きである。それならば親や仲間から、大蛇さまや人間の男性は避けろと話を聞いていたと考える方が納得できる。

 

 「俺たちはいない方が良いか?」

 

 ジークが男性陣を代表して私に問うた。

 

 「大蛇さまほど怖がっていないし、敵意がないって分れば問題なくなるはずだよ」

 

 ポポカさんたちは、大蛇さまの時は絶叫を上げていたのに男性陣には叫ばない。だから拒否しているというより、敵か味方か判断が付かないのだろう。ポポカさんたちが男性陣には敵意がないと分かれば、直ぐに懐いてくれそうである。

 現に男性陣に興味があるようで、近づきはしないけれどポポカさんたちは彼らの顔を観察している。懐いてくれるのは時間の問題だねえと、談話室のみなさんと話をするのだった。

 

 ◇

 

 ――夜。そろそろ日付が変わる頃のことでした。

 

 夜更かしをして、ロッジの中の談話室で女性陣が集まって話をしている最中です。部屋の隅っこではアストライアー侯爵閣下が連れてきたポポカさんが五羽固まってすやすやと寝息を立てています。ソルくんと番の鸚鵡さんは彼らを知っているようで、保護して欲しいと願い出ました。

 

 侯爵閣下のご厚意によりポポカさんを保護することになったので、良いことだと私は思います。様々な意見があるでしょうけれど、数を減らして助けを求めにきたようなので侯爵閣下と島のみなさまには本当に感謝です。集まっているのは聖国で大聖女さまを務めるフィーネさまと聖女のアリサさま、アルバトロス王国で聖女を務めているアリアさまとロザリンデさま、そして共和国の研修生です。

 

 「プリエールさんは誰か気になる男性はいないの?」

 

 わたしに問うた方は聖王国で大聖女さまを務めているフィーネさまです。銀糸の長い髪に小柄な方で、共和国の私たちに凄く気さくに接して頂いていました。

 

 「気になる方はいましたが、振られてしまいました。今は研修中ですから、きちんと学べるのかが気になりますね!」

 

 フィーネさまの問いにわたしは答えます。ルグレさんに仄かな恋心を抱いていた自覚はあるのですが、上手くは行きませんでした。でも彼のお陰で多くのことを手にしたと思います。

 だから……私が失恋したと嘘を吐いてしまいました。でも私が彼を振ったというのもおかしいですし、これで良いのではないでしょうか。今は忙しいので新しい恋を見つける暇もありませんし、共和国の現状を変えることが優先です。その中で素敵な男性と出会えたなら嬉しいですけれど。

 

 「真面目ですね。あまり根を詰めないでくださいね。また分からない所があるなら気軽にお聞き頂ければ、出来得る限りお答えします」

 

 「はい! ありがとうございます!」

 

 フィーネさまにお礼を伝えます。彼女には治癒魔術のコツを少し教えて頂きました。教えてくれる方によりますが、私にとって分かり易い解説です。私の横に座っている共和国の皆さんもなるほどと頷いていました。

 ちなみにアストライアー侯爵閣下は眠そうにしていたので、みんなで『寝てください』と説得して部屋に戻って頂いております。侯爵閣下の幼馴染であるジークリンデさんが一緒ですし、クロさまとヴァナルさんと神獣さまたちが一緒でした。閣下が幻獣の皆さまと一緒に部屋に戻って行く姿はもの凄く神秘的でした。流石、黒髪黒目のお方です。

 

 「アリアさまは誰か気になる方は?」

 

 フィーネさまは私から視線を変えて、アリアさまを標的としたようです。皆さんお若い方ですので、やはり恋愛の話は盛り上がります。

 

 「え? え、え? わたしですか!?」

 

 アリアさまは困った表情を浮かべていますが、どんどんと顔が赤くなっていました。どうやら意中のお方がいらっしゃるようです。

 

 「はい。良いお方はいらっしゃらないのですか?」

 

 「え、いえ、そんな! い、いい、いませんよ!」

 

 「本当ですかあ?」

 

 ふふふと笑うフィーネさまがアリアさまを追い詰めると、ぷしゅーと火が吹きそうなほどにアリアさまのご尊顔が真っ赤でした。大丈夫かなと心配になりますが、立場はフィーネさまの方が上となり、アリアさまはなにも言えずにいます。助け船を出した方が良いのかなと悩んでいると、ロザリンデさまが『まあ、その辺りで』とフィーネさまをお止めくださいました。

 

 「…………」

 

 ア、アリアさまが顔を真っ赤にしたまま、恥ずかしそうに膝上に両手を置いて肩を竦めています。どうやら恥ずかしかったようです。アリアさまは素直で可愛いお方ですし、フィーネさまは位を翳さずお茶目な方ですね。ロザリンデさまはアリアさまに落ち着くように促しているので、お優しい方なのでしょう。

 フィーネさまの次の標的は私と仲が良い青髪の方へと移りました。高貴な方と接する機会が少なくてお友達は緊張しているようですが、女の子なので恋のお話は丁度良い話題だったのでしょう。

 

 「幼馴染とお付き合いをしたいのですが、これが中々で……向こうも私のことを意識してくれていますが告白されなくて悩んでいます」

 

 恥ずかしそうに語るお友達の言葉にフィーネさまとアリサさまとアリアさまとロザリンデさまの目つきが変わった気がしました。お友達に気になる方がいるとは初耳です。そういえば治癒魔術や共和国がこれからどうなるかを話しているばかりで、私的なことを話す機会は少なかったのかもしれません。反省すべき点ですし、これからはわたしも頑張って私的なお話をしてみようと決意しました。

 

 「それは……照れているだけのような?」

 

 「どうなのでしょう……貴族だと家が決めた婚約が多いですからね」

 

 「わ、わ! 素敵です! でもやきもきしてしまいますよね」

 

 「殿方から告白して欲しいものですが……難しいのでしょうか?」

 

 フィーネさまが首を傾げ、アリサさまが目を細めて、アリアさまが両手を胸の前で組み、ロザリンデさまがふうと溜息を吐きました。お友達は顔を赤らめながらも助言が欲しいようで、皆さまを真剣に見つめておりました。

 

 「普段お会いして、お話はするのですか?」

 

 「はい。なので手紙を出したいのですが……そもそも彼は字が読めません……」

 

 お友達の言葉に皆さまが言葉に詰まります。共和国の貧民と呼ばれる方たちの多くは字の読み書きができないので仕方ないことですが、この場にいる皆さまはしまったという顔になりました。

 

 「……ナイさまを頼りましょう。いえ、魔術師団の副団長を頼ると言った方が正しいでしょうか!」

 

 「え? お、お姉さま!?」

 

 フィーネさまががたりと椅子から立ち上がって右手を握り込みました。そしてアリサさまが彼女の顔を見上げて驚いています。他の皆さまもフィーネさまの提案に驚いて、彼女に視線が集まっています。しかしアストライアー侯爵閣下を頼るのではなく、ヴァレンシュタイン先生を頼るとは一体どういうことでしょうか?

 

 「手紙でなくても魔石を使えば『声』を届けることができるはずです! 丁度、副団長もいらっしゃっていますし、ナイさまを経由して話を持ちかけて頂きましょう!」

 

 彼女はふふふと笑い天井を見上げていました。心なしか、鼻が高くなっている気がするのですが……大丈夫でしょうか。とはいえ聖王国の大聖女さまの意見を止められる方がおりません。これは流れに任せて、アストライアー侯爵閣下にどうにかして頂く他ないのでしょう。でも、声で手紙のやり取りができるならば凄く素敵なことです。できることなら叶うと良いなと願ってしまいました。

 お友達はフィーネさまの言葉にぽかんとしていますが、事情をようやく呑み込んで『え?』となっています。そうしてハイゼンベルグ公爵令嬢さまとヴァイセンベルク辺境伯令嬢さまが談話室にやってきました。

 

 「そろそろお開きにして良いのでは?」

 

 「夜更かしは美容の大敵ですもの」

 

 お二人の言葉に皆さまと『また話をしよう』と約束を取り付けて、各々宛がわれている部屋へと戻るのでした。

 

 ◇

 

 野郎陣と女性陣のロッジは完全に分かれている。男女一緒だと妙な勘繰りを受けそうだから有難いことだ。そして俺の同室は爵位持ちのジークフリードだった。

 物静かな彼だが何度も顔を合わせているし言葉も交わしている上に、実年齢より落ち着きのある雰囲気は俺には丁度良かった。夜、月明りが入り込む窓の桟にジークフリードが小さな天然石を大事そうに置いている。

 

 「ジークフリード、それは確か……」

 

 俺はジークフリードの横に立って置かれた天然石を見た。月明りに照らされた紫色の小さな天然石は綺麗に輝いている。

 

 「エーリヒ。柄じゃないが大事なものだからな」

 

 ジークフリードの気持ちを理解している身としては、早く気付いて欲しいと願っているが、お互いに距離が近すぎていろいろと見えていない。ジークフリードの方が客観的に見て自分の気持ちに気付いているが、ナイさまは……彼の気持ちに気付いているのだろうか?

 俺としては是非ともジークフリードに頑張って欲しいのだが、茨の道だけに彼が大変な思いをするのが目に見えていた。それでも、やはり、ジークフリードがナイさまを見る目は優しく、穏やかな雰囲気を保っているので俺は彼を応援している。

 

 「渡せたのか?」

 

 俺と一緒にアガレス帝国の店で買い付けた品は、ナイさまへと無事に渡ったようだ。

 

 「一応」

 

 ジークフリードは照れ臭そうに短く答えてくれた。

 

 「そうか。アストライアー閣下から俺もお土産で貰ったけれど、ジークフリードが持っている方が質は良いな。天然石の力の込め方は閣下から教えて貰ったのか?」

 

 俺がナイさまから譲り受けた天然石は、俺の瞳の色と同じだった。アガレス帝国ではお土産兼御守りとして流行っているのだとか。ナイさまはみんなに渡していたから深い意味はないのだろうが、ジークフリードにとって大事なもののようだ。

 

 「ああ。こうすると石に力が貯まるとナイが教えてくれた」

 

 「加工は?」

 

 「今はまだ考えていないんだが……いずれは。王都の職人に頼もうと考えたが、なにかあるとお互いに困るしな」

 

 ジークフリードは片眉を上げて少し困った顔になる。天然石を壊した時のことを考えると、店もジークフリードもナイさまも不幸になる。ドワーフの職人に頼むことも考えているが、言い出すタイミングが見つからないようだ。

 

 「エーリヒはアガレスで買った品を渡せたのか?」

 

 「……い、一応。その、なんだ。照れ臭いな」

 

 少し気恥しい。人生経験の長さならジークフリードより俺の方が長いのだ。ジークフリードが俺の心配なんてする暇はないだろうに、こうして気に掛けてくれるのは素直に嬉しい。とはいえ照れ臭いが。

 

 「そうだな。なあ、エーリヒ」

 

 「ん?」

 

 真面目な顔のジークフリードが俺を見る。

 

 「こうして相談できる相手が俺にできるとは思っていなかった。ありがとう」

 

 「お、おう。俺もジークフリードに感謝してる」

 

 お互いに笑って、もう寝ようとベッドの中に潜り込むのだった。

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