魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0475:満を持して。

 朝になり目が覚める。昨日は女性陣は夜遅くまで話し込んでいたようだけれど、私は眠くて仕方なかったので先に休ませて頂いた。聖女の方が多いし、共和国の皆さまがいたので魔術の話題で盛り上がっていたのだが、その後はなにを話していたのやら。

 

 まあ、みんなが絆を深められるなら良いことだなと部屋を出て、朝ご飯を終え孤児仲間と一緒に外へ出る。外にはポポカさんたちがロッジの片隅で固まって朝日を浴びていた。幸せそうな顔で『ポエ~』と間抜けな声を出している。彼らの邪魔をしては悪いとみんなと一緒に目的の場所を目指せば、副団長さまと猫背の魔術師さんが並んで私たちを待っていた。とりあえず挨拶をしようとお二人の前に立つ。

 

 「おはようございます。今日はよろしくお願い致します」

 

 私はお二人の前に立ち小さく頭を下げる。今日の予定は錫杖を使って魔術の試し打ちをする予定だ。長く時間は取らず直ぐに終えるつもりだけれど、魔術が大好きなお二人がいるのでさてはてどうなるのやら。

 

 「おはようございます、聖女さま」

 

 「聖女さま、おはようございます。昨日は迷惑を掛けてごめんなさい」

 

 副団長さまと猫背さんが頭を下げた。気にしなくて良いし予見はしていたので問題ない。ただ無茶をし過ぎると身体に良くないから、加減は学んで欲しい所である。

 

 「あ、大事なことをずっと忘れておりました」

 

 私はやるべきことを思い出し、背筋をぴっしりと伸ばす。

 

 「?」

 

 「ん?」

 

 副団長さまと猫背さんが首を傾げ、私の言葉を待ってくれる。

 

 「ナイ・アストライアーと申します。名乗りが遅くなってしまい申し訳ありませんでした」

 

 いきなり名乗ってしまったが、副団長さまは状況を理解してくれ猫背さんは『あ、わすれてた』と仰った。クレイグのお陰で名乗ることができたので彼には感謝しないと。

 

 「ヴォルフガンク・ファウストです。よろしくお願いします」

 

 猫背さんも頭を下げてくれた。でも猫背さんの名前が凄く立派である。名前負け……はしていない――顔が良いので――けれど、彼のことをどう呼べば良いだろうか。お貴族さま出身で当主ではないらしい。ファウストさまが無難だろうけれど、心の中では猫背さんで良いかと決める。

 

 「さて聖女さま。せっかく良い性能の錫杖も持っているだけでは意味がありません。亜人連合国の皆さまもご協力なさってくださいますので、全力の魔術を遠慮なく放ってみましょう」

 

 副団長さまが、王家が所有し魔術師団が管理している領地で放った私の魔術には遠慮があったと申した。加減をしたつもりはないのだが、やはり森や生き物に被害が出ると申し訳ないので、気付かぬうちにセーブしていたのかもしれない。

 今日は上空に放つのでタイミングさえ誤らなければ誰も巻き込まないはずだ。最大火力の魔力を放てば、どれだけ魔力を消費するのかとか疲れとか、連射ができるとか確認したいことは沢山ある。機会を設けて頂けて有難いとみんなに感謝しなければ。副団長さまの案内でロッジから離れると、森の一角でディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんが、私たち一行を待っていた。

 

 「ナイちゃん。今日は思いっきり魔術を使ってみましょう!」

 

 「代表の背中に乗って空に上がるから、地上のことは気にしなくて良いからね~空の上の更に上へ打ってみよう~」

 

 ダリア姉さんの言葉は分かるが、アイリス姉さんのディアンさまの背の上で魔術を放つとは一体……。地上では危ないから空中で放てということのようだが、微妙に納得できない。この違和感はなんだろうと頭を回転させて、一つの答えを見つけてしまった。まさか私の全力全開の一発は皆さまに警戒されているのだろうか。いや、でもエルフであるダリア姉さんとアイリス姉さんの魔法も凄いし、ディアンさまとベリルさまは竜種なので超強い。

 

 副団長さまも実力者なので私を恐れていないだろうし、猫背さんの実力は分からないが術式開発では右に出る人はいないので、私のことなど恐れてはいないはず。きっと気の所為だと自分の心に言い聞かせて、竜化したディアンさまに『よろしくお願いします』と告げて彼の背に乗る。

 

 『まさか空の上で放つとはねえ。おもしろいことを考えるなあ』

 

 クロが私の肩の上でしみじみと呟いた。クロは口からビームを出せるので私になにも言えないはずである。ロゼさんも期待の眼差しで私を見ていた。そんなに期待されても困ると、むーっと考えていれば副団長さまと猫背さんがクロと視線を合わせた。

 

 「地上だと聖女さまは遠慮なさっていましたから。アガレス帝国で巨大魔石を破壊したこと、島を大きくしたのは魔力の多さ故にです。そこから聖女さまの魔力量を推し量れば、それはもう未知の領域です。僕は凄く期待していますよ」

 

 「たぶん、すごいの放ってくれる。僕が考えた術式も試して欲しい……」

 

 魔術師二人は面白そうな顔でぶっそうなことを言い放つし、凄くキラキラした純粋な目をしているのだが……私が放った魔術がしょぼかった場合、彼らは凄く落胆しそうだ。錫杖を持ち歩き始めてから私の体内に流れる魔力は凄く静かだし、お城の魔術陣へ魔力を補填する際も凄くスムーズに終えている。確実に頂いた錫杖のお陰なので、ちょっと期待している部分はある。

 

 『この辺りで良いか。随分と高い位置だから空気が薄い。長居はしない方が良いだろうな』

 

 ディアンさまが仰る通り、随分と高い所まで昇ってきており鳥さんも飛ばない高度である。クレイグとサフィールは竜の背に乗り慣れていないので緊張しているし、毛玉ちゃんたちは酸素の薄さに少し混乱していた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがいるので問題はないけれど、さっくりと終わらせて高度を下げて貰おう。空の上には興味があるのかベリルさまや他の竜の皆さまが一緒に飛んでいる。

 

 これ、セレスティアさまが一緒にきていれば凄く喜びそうだが今日は一緒にきていない。まあ、また竜のお方の背中に乗ることがあるだろうと、錫杖を空へと構えた。空の上にいるから、空へと掲げるのは変だから……成層圏へ構えたことになるのだろう。

 

 「クロ、念のためにリンかジークの方にいてね」

 

 私がクロの顔を見ると『分かった~』と軽く声を上げたクロが肩から飛び立つ。

 

 「では……遠慮なく」

 

 最高威力の魔力を打つため、身体の中にある魔力をありったけ集める。学院に入学した頃よりも魔力を扱える量が増えているし、制御もし易くなっているから、威力はどれほどのものだろうか。はらはらと風に揺られていた私の黒髪が魔力の奔流によってばさばさと揺れ始める。

 

 「ええ、どうぞ。聖女さまの実力、この目で拝見させて頂きます!」

 

 「あとで僕の術式も試して欲しいなあ……」

 

 副団長さまが確りと目を見開いて言葉を発し、猫背さんが先程と同じ言葉を呟く。

 

 「ナイちゃん、全力でね!」

 

 「なにか目標があれば良いけれど……あ、あそこに星が見えるよ~」

 

 ダリア姉さんは私の全力に期待して、アイリス姉さんは一番近くにある大きな衛星二つを指差した。晴れた空でも見えるのだなと感心しながら私は錫杖の向きを衛星へと変えた。衛星とは何千、何万キロと離れているから魔術が届くわけがない。もし届いたなら快挙だなと口の端が伸びそうになった。

 

 「俺、そういえば魔術を見るのは初めてだ」

 

 「攻撃系の魔術を見る機会は少ないよね。ナイが治癒を発動させているところは孤児院や託児所で見るけれど」

 

 クレイグとサフィールがしみじみと言葉を交わしている。確かに軍か騎士団か魔術師団に入っていなかれば、平民が魔術を発動させている所を見る機会はほとんどない。

 

 クレイグは商家に住み込みで働いていたし、教会との関わりも薄いから魔術を見たことがないのは仕方ないのだろう。でも荒事に身を置かない方が幸せだから、魔術のない世界を目指すのもアリなのだろうか。難しい所だなと考えながら、私は一節目と二節目を唱えると、錫杖の先に幾重もの小さな魔術陣が浮かび光が集まり私の足元にも巨大な魔術陣が浮かんだ。

 

 「――"一条の光となり、降り注げ""彼の者を貫き、絶命させよ"」

 

 四節目、五節目を唱えると、集まっていた光が膨張して巨大な玉となる。少々、いや随分と大きな光の玉と化しているが、全力全開で放つと決めている。遠慮は無用だと残りの魔力をありったけ込めて、心の中で『行け!』と叫べば、大きな光の玉が物凄い速さで射出され『ぶお!』と風を切る音を上げた。

 

 「おお~流石ナイちゃん。凄く威力の高い魔術だね~」

 

 「本当に凄いわね。代表が耐えかねて飛んでいた高度が下がっているもの」

 

 アイリス姉さんが感心しながら額に手を翳して放たれた魔術を視線で追い、ダリア姉さんがきょろきょろと周囲を見つめる。いつの間にか私たちは、ベリルさまや他の竜の方々より下の位置を飛んでいる。どうしてこんなことにと慌てながら、私はディアンさまに声を掛ける。

 

 「……ディアンさま! すみません! 大丈夫ですか!?」

 

 『問題ない。高度を下げたのは、君の魔術の反動を相殺するためだ。驚かせてしまったな』

 

 ディアンさまが落ち着き払った声で教えてくれた。どうやら私が魔術の反動で倒れてしまわないようにと、ワザと高度を下げてくれたようだ。ディアンさまにお礼を告げると『気にするな』と言ってくださる。いつも優しくして頂いて有難いのに、小さなことにまで気を使って頂いているのが嬉しかった。暫く平謝りしていると、周りの皆さまがざわつき始める。

 

 「なっ!? おいおいおいおいおい!」

 

 「え、そんなことあるの!?」

 

 クレイグとサフィールが顔を空へと向けたまま声を上げる。

 

 「凄いな…………」

 

 「ナイ、凄いよ! 星まで届きそうだ!」

 

 ジークも空を見上げたままぽつりと声を零し、リンは私を見て嬉しそうに笑う。クロとアズとネルも放たれた魔術を視線で追っているので、空に顔を向けたままだった。

 ふと、首から下げているグリフォンさんの卵さんが重くなった気がするけれど、今は私が放った魔術の行方がどうなるのかが心配だ。私も上空を見上げて、成層圏を抜けた魔術の光を目で追う。大きな衛星まで辿り着くのか分からないが、放った魔術の光は消えていない。もし今の時間帯が夜であれば綺麗に光っていたことだろう。そうして暫くすれば巨大な光の玉が目視できなくなる。

 

 「マジかよ……」

 

 「丸い円が増えている?」

 

 クレイグとサフィールが呆れた声を出していた。大きな衛星二つのうちの一つに私が放った魔術が当たったようだ。衛星は私たちが住んでいる星と近い位置にあるため、衛星のクレーターがはっきりと捉えることができていた。大きなクレーターの横に新なクレーターが出現したのである……嘘でしょと言いたくなるが、原因は私と分かっているので否定ができない。

 

 「まさか本当に星まで届くなんて」

 

 「流石、ナイちゃん~期待を裏切らないね~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんの声が聞こえると、空を飛んでいた竜の方々が咆哮を上げる。祝ってくれているのか、驚いているのか、どちらか分からないけれど……私は複雑な心境である。

 流石に空に浮かぶ衛星に新たなクレーターを出現させるような威力の魔術は放てないと、副団長さまの顔を見る。変態と呼ばれている方々の目には『歓喜』の色がありありと浮かんでおり、話しかけたくないなと私は視線を逸らすのだった。

 

 ◇

 

 全力全開の魔術を放ってみたら、空に浮かぶ大きな衛星の地表に新たなクレーターが出現した。衛星といっても実際にはかなり距離が離れているだろうし、大きさも随分と広いはずである。それなのに視認できるクレーターを新たに作ってしまった。

 やべえ、どうしようと震えるものの、やっちまったものは仕方ない。衛星は青や緑色は存在せず、地球の月と酷似しているから生物はいないはず。地上で打って被害が出なくて良かったと安堵する気持ちと、アルバトロス上層部に知らせを入れた時の周囲の皆さまの反応が気になるところだった。

 

 責められはしないけれど、珍獣や猛獣を見る目を向けられるのだろう。

 

 公爵さまは豪快に笑ってくれるはずだが、陛下とアルバトロス上層部の皆さまは各国に向けた説明に追われてしまいそうだ。私はふうと息を吐いて、空の上にいるディアンさまの背中から衛星を見上げる。

 

 「地上で全力の魔術を放つと都市一つ吹き飛ばせそうな勢いだね……これは打ったら駄目かも」

 

 私の声にクレイグが『絶対打つなよ! 都市どころか国の一つ二つ落ちそうな威力じゃねえか!』と突っ込んでくれた。サフィールも『ナイの身に危険が迫った時以外は使わない方が無難だろうね』と驚きつつフォローを入れてくれる。

 

 ジークとリンも『俺たちが守り手としているからな』『ナイは聖女が似合ってる』と小さく笑う。エルフのお姉さんズも『ナイちゃんの全力は凄いわねえ』『錫杖の効果は十分だね~』とあらあらまあまあと言った感じだ。

 ディアンさまとベリルさまと空を飛んでいる竜の皆さまは驚きつつも『しかし凄い魔力量だな』『そうですねえ』『凄い、凄い!』と話していた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは驚いているし、毛玉ちゃんたちは私を見る目が少し変わったような気がする。で、一番興味を引きそうな方々が口を開いた。

 

 「いやはや。星に大きな傷を負わせるとは、流石聖女さまです」

 

 「僕の術式も試して欲しいけれど……聖女さまの全力は危ない。防御系の魔術を試して貰った方が安全」

 

 副団長さまと猫背さんが私を見下ろす。感心しているのか呆れているのか分からないけれど、彼らが私に向けている興味は失せていない。むしろまた別のことを思いついて試して欲しいと請われそうな勢いである。

 

 「体調に問題はありませんか?」

 

 「随分と魔力を消費しましたが疲労感はありません」

 

 副団長さまの質問に答える。そういえば多くの魔力を消費すると、疲労感と空腹に襲われるのにあまり感じない。これも錫杖のお陰なのかと視線を向ける。数千年以上生きている木の枝から切り出した杖には所々に魔石が散りばめられているが、派手さはなく品のある形状だ。

 私が派手なものを好んでいないと知っていた皆さまの気遣いが有難いし、大量の魔力を使用しても疲れないのも有難い。錫杖は術式展開の補助も担ってくれるので、そのことが疲労感を軽減させてくれているのかも。討伐遠征に参加すれば、できることが増えそうだけれど、大規模な遠征が組まれない限り参加は難しそうだ。私が苦笑いを浮かべると、副団長さまがまた口を開く。

 

 「まだ打てそうですか?」

 

 「同じ威力の魔術であれば、もう一発か二発は可能かなと。威力を落とせば何度でも可能でしょうか」

 

 打てと言われれば、同程度の魔術を二度か三度は放てるだろう。副団長さまに回数を抑えて申告したのは、もしもの時のためである。

 

 「本当に凄いですねえ。僕は一度放てば二度目は無理かと」

 

 「ん。僕は打てる気がしない」

 

 副団長さまは感心したように、猫背さんは羨ましそうに声を上げた。放ってみたいならば魔力を譲渡すれば可能かもしれないが、どうなるのだろう。気になるけれど、口にすれば目の前のお二人さんの興味を絶対に引く。

 黙っておいた方が無難だと別の話題をと頭の中で考え始め……あ、そうだ。グリフォンさんの卵さんが重くなっていたんだ。

 

 「えっと、少し失礼しますね」

 

 私は断りを入れて、副団長さまと猫背さんから二歩ほど下がる。異性の前で胸元から卵さんを取り出すのは不味いだろう。お二人は私が距離を取ると不思議そうな顔を浮かべるものの、黙ったまま私を見守ってくれている。私は首から下げている巾着袋を取り出して、中から卵さんを取り出した。

 

 「グリフォンの卵になにかあったのですか!?」

 

 「それは大変」

 

 副団長さまが目を見開き、彼の声に猫背さんが反応する。手の上に乗せた卵さんは、なんとなく大きくなっているような。卵さんが二個に分かれてから変化は殆どなかったのに、ここにきて大きくなるとは。卵さんの変化にダリア姉さんとアイリス姉さんも興味が湧いたのか、いつの間にか私たちの側に寄っていた。

 

 「ナイちゃんが放った魔術から漏れた魔素を取り込んだみたいね」

 

 「元気な証拠だよね~大きくなりたいって願わなきゃ成長しないんだもん~」

 

 エルフのお姉さんズの言葉に副団長さまと猫背さんがほっとしている。分かり易いなあと苦笑いしていると、島に戻ろうとディアンさまが仰った。卵さんを巾着袋に戻せば、ゆっくりと高度を下げて行く。

 

 「ねえ、ナイ」

 

 「どうしたの、リン?」

 

 リンが私の服の袖を掴みながら名前を呼ばれ、私は彼女の顔を見上げる。彼女の視線は地上のある一点に向けられていて、不思議そうな顔を浮かべている。

 

 「あんな建物あったかな?」

 

 「……ごめん、どこだろう。私はまだ見えない」

 

 彼女の視線の先を私も見てみるものの、視界には南の島しか映っていない。目を細めてみても、私の視界に映る光景は変わらなかった。リンの言葉に他の方も島を覗き込んだいる。

 

 「えっと島の外周。新しくできた浜辺に建物が少しだけ出てる」

 

 「ああ、確かにあるな。島に着いた時はなかったはずだ」

 

 リンの言葉にジークが答えた。ダリア姉さんとアイリス姉さんも見えているようで『あら、本当だわ』『あるね~』と声を上げ、ディアンさまとベリルさまも確認できたみたい。私とクレイグとサフィールは確認ができず首を捻っている状態である。

 

 『確認のために少し近づいてみよう』

 

 ディアンさまがふっと笑って提案してくれた。さて、いつになれば見えるかなとクレイグとサフィールの顔を見れば、楽しそうな顔をしている。未知の発見は面白いようで、男の子なんだなあと二人が微笑ましかった。

 

 「まだ見えないけれど……ジークとリンの言葉から察するに海に沈んでいたみたいだね」

 

 私はリンが指した方向を見ながら声を上げた。落ちないようにとリンに服を掴まれているのはご愛敬である。クロとロゼさんとヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちも私の側に寄って、眼下に広がる島を見ている。

 クロとロゼさんとヴァナルと雪さんたちはリンが見つけた建造物を認識しているようだ。毛玉ちゃんたちが分からなくて鼻をピーピー鳴らしている姿は可愛い。とはいえ可哀想なのでそろそろ見えてきても良いはずと目を細めた。

 

 「あ、本当だ。砂浜からちょこっとだけなにか見えてる。あの辺りってまだ誰も立ち入っていないんだっけ?」

 

 ディアンさまが高度を下げつつ砂浜に近づいてくれると、リンが発見した建物が私にも見えた。私にも見えたということはクレイグとサフィールにも見え、毛玉ちゃんたちもようやく見えるようになって声を上げている。毛玉ちゃんたちは嬉しかったようでぴゅーとディアンさまの背中の上を駆け回り始めた。

 

 「探検組が見つけていないからな。人知れず現れたのかもしれないな」

 

 「行ってみるの、ナイ?」

 

 ジークとリンの言葉に私は小さく首を振る。

 

 「うーん。探検組の人に伝えて調べて貰えば良いかなって」

 

 私が行くと大事に発展しそうだし、休暇にきているのだからゆっくりと島の自然を楽しみたい。私の意見を聞いたジークとリンは納得してくれ、副団長さまと猫背さんが『え~』と言いたそうな顔になっている。

 子供じゃないのだから、感情を外に丸出しなのは止めましょうと苦笑いを浮かべてディアンさまは今回見つけた建物の反対側にある浜辺に降りる。上空で見えていた衛星は、地上に降りると見えなかった。

 

 「じゃあ、ナイちゃんは興味がないのね」

 

 「前みたいに罠に嵌ってご迷惑を掛けそうなので……」

 

 ダリア姉さんは片眉を上げながら笑うが、私が巻き込まれて怪我を負ったりして責任を負うのはみんなである。ウロウロし過ぎるのも考え物だし、遺跡に興味はあるが専門家がいるので任せた方が効率は良い。

 

 「ナイちゃんって、なにかに巻き込まれやすいよね~」

 

 「うっ……それは言わないでください」

 

 アイリス姉さんは私の体質を確りと理解しているようで、ふふふと面白そうに笑っていた。

 

 「ごめんごめん~でも、避けるのは良いことだけれど、巻き込まれに行っても問題ないんじゃないかな? みんないるんだから我慢は必要ないからね~」

 

 どうやらアイリス姉さんは行きたいなら我慢する必要はないと伝えてくれているようだ。彼女の言葉に私は小さく頷くと、アイリス姉さんは更に笑みを深めた。そして副団長さまと猫背さんの顔がぱっと明るくなっている。

 私が赴けば確実になにか掘り当てると考えていないかな、魔術師の二名は。まあ、みんなが島で過ごす時間が楽しくなるなら、行ってみるのもアリなのかなあと考えを改めてディアンさまの背から降りる。

 

 浜辺で亜人連合国の皆さまと副団長さまと猫背さんと別れ、私たち孤児仲間はロッジに戻った。ふうと息を吐いて談話室に入り、各々好きな場所に腰を下ろした。

 

 「先ずはグリフォンさんに卵さんがちょこっと大きくなったって伝えないと」

 

 私はもう一度首から下げている卵さんを巾着袋から取り出して、机の上に二個並べる。成長日誌もつけて、アルバトロス王国にも報告しなくては。

 ヤーバンの方々も卵さんが孵るのを楽しみにしているそうで、ヤーバンの女王陛下はうっきうきの文面をアルバトロスと私に送ってくれている。どれだけ時間が掛かるか分からないが、私が墓の中に入るまでにはグリフォンの幼獣を見てみたいと切実に書かれているんだもの。どうにか女王陛下の夢は叶えられるようにしたいが自然の生き物だから、人間が勝手に願うのは野暮かもしれない。

 

 「いつ孵るんだろうな?」

 

 「元気に孵ってくれるなら、いつでも良い気がするけれどナイがずっと首から下げているのも大変だよね」

 

 顎に手を当てたクレイグと苦笑いを浮かべたサフィールが机の上に鎮座している卵さんをじっと見ている。卵さんを下げていることには慣れてしまった。ただ私が死ぬまでに孵ってくれないと少し心配である。

 

 「慣れたけれど、早く孵って欲しい気持ちはあるよ。グリフォンさん、凄く喜びそうだし……ってどうしたの?」

 

 私の足元にポポカさんたちが擦り寄って、彼らの身体を私の足に擦り付けてくる。私は疑問符を浮かべながら、ポポカさんの一羽を抱き上げれば『ポエー』と鳴いた。そうして私の膝の上に乗せたポポカさんがまた『ポエー』と気の抜けそうな声を上げる。

 

 「どうしたんだ?」

 

 「なにか訴えているみたいだけれど……」

 

 ジークとリンが首を傾げながら足元のポポカさんに視線を向ける。そしてクレイグとサフィールも床の上のポポカさんを見た。

 

 『みんな、他の仔たちも抱き上げて~』

 

 クロが私の肩の上で尻尾を揺らしながら声を上げる。クロの言葉に四人がポポカさんを一羽ずつ抱えれば、彼らは机の上にどうにかよじ登り、お尻を振りながら卵さんへと寄って行く。食べる気はないようで、ポポカさんたちが卵さんに向けている視線は凄く熱量が籠っている。なんだろうと暫く眺めていると、彼らはお尻を寄せ合って卵さんの上にちょこんと乗った。

 

 『卵、みんなで育てるみたいだよ』

 

 「グリフォンさんは托卵だから良いのかな? 良いのかなあ?」

 

 クロの言葉に私は首を傾げながら、早くグリフォンさん帰ってきてーと願うのだった。

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