魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0476:あっさりと。

 エル一家と一緒に森の中に入っていたグリフォンさんが戻ってきた。エル一家に戦闘力というものは皆無なので、鋭い爪と嘴を持つグリフォンさんが護衛役というわけだ。談話室の窓からちょこんと顔を出したグリフォンさんは、目を細めてポポカさんたちを見つめている。

 

 『おや? わたしの卵を気に入って頂けたようでなによりです』

 

 グリフォンさんが私の説明を聞いた第一声だった。さらに続けて、ポポカさんたちが卵さんのお世話をするのは問題ないとのこと。グリフォンさんは托卵を推奨しているので、ポポカさんたちと大喧嘩にならなくて良かったと私は安堵の息を吐いた。私がグリフォンさんの首を撫でているとエルとジョセが窓の隙間から、ポポカさんたちに視線を向けている。

 

 『お可愛らしいですね』

 

 『小さき者が更に小さき者を守る姿は愛おしいです』

 

 エルとジョセもポポカさんたちを受け入れてくれている。天馬さまは敵対心がすこぶる低いので、仲良くできるなら受け入れてくれる種族だ。ぶっちゃけエルとジョセに卵さんを預ければ温めてくれたはず。

 そんな見守り部隊をポポカさんたちは『ポエー!』と鳴いて、近寄るなオーラを醸し出していた。私は問題ないようで、ポポカさんたちのお腹の下に手を伸ばして卵さんに触れることを許してくれている。敵対する判定が曖昧だなあと苦笑いを浮かべていると、ソフィーアさまとセレスティアさまが窓から顔を覗かせ、ギド殿下とマルクスさまが彼女たちの背後に立つ。

 

 「まあ、なんということでしょう! グリフォンの卵を鸚鵡が抱くだなんて!」

 

 セレスティアさまが凄く嬉しそうに声を上げる。私は彼ら彼女たちに事の経緯を伝えた。

 

 「ロッジの中で育てるなら問題は少なそうだが……王都に戻るまでに卵が孵らなければどうするつもりなんだ、ナイ?」

 

 ソフィーアさまが首を傾げて私に問う。王都に戻る日がくるまでポポカさんたちに托卵の托卵をしようと決めている。戻る日になればポポカさんたちの意思に任せるつもりだ。

 彼らに対して通訳はクロが担ってくれるし、ポポカさんたちがアルバトロス王国に移住することもあるだろう。移住は大蛇さまと亜人連合国の皆さま次第であるが、数が減っているなら場所を移動して増やす活動を行っても良い訳で。ソフィーアさまに私の意見を伝えると『分かった』と彼女が頷き、ギド殿下とマルクスさまがお嬢さまお二人と入れ替わりで窓から談話室を覗いた。

 

 「種族を越えて愛情を注ぐ姿は凄いな」

 

 「グリフォンが孵った時、喰われるんじゃねえか?」

 

 目を細めたギド殿下が感慨深そうに呟き、マルクスさまが首を捻ると横に立っていたセレスティアさまの鉄扇を持つ腕が動いた。刹那のあと『スパン!』と良い音が響けば『いってえ!』と悲鳴に近い声があがる。

 その光景を見たクレイグとサフィールが驚いているけれど、いつものことだと伝えると『そうか』『そうなんだね』と直ぐに納得してくれた。ツッコミは野暮だし、マルクスさまの失言であると判断したようだ。

 

 「そういえば、森でなにか見つけられましたか?」

 

 私は探検組がなにか発見していないか気になって、ソフィーアさまとセレスティアさまに聞いてみる。

 

 「珍しい動植物には沢山出会えますが、幻獣や魔獣の方々を目にすることはできませんでした」

 

 「新たな遺跡は見つからないままだな。一応、アルバトロスで育てられそうな食物は確保しているが」

 

 愉快なお嬢さまと真面目なお嬢さまはお互いに顔を見つめ肩を竦めると、苦笑いになって視線を私に戻した。森の中で新たな発見には至っていないようだ。一応、以前に発見した遺跡は魔術師の皆さまと亜人連合国の皆さまの手に寄り、隅々まで調べられた。

 

 「先ほど、反対側の砂浜で遺跡がちょこっと出ているのを発見しました。興味があれば行ってみてください」

 

 私は発見した遺跡を彼女たちに伝えておく。興味があれば赴くだろうし、副団長さまたちが嬉々として調べるのは決定しているので彼女たちが知っても問題ないだろう。亜人連合国の皆さまも知っているし、大蛇さまも動植物のこと以外は口を出さない方針だ。

 

 「ナイは行きませんの?」

 

 「私が赴くと、罠に掛かって皆さまに迷惑を掛けそうなので遠慮しておきます」

 

 セレスティアさまの言葉に私は苦笑いになる。ソフィーアさまが我慢をする必要はないのではと言いたそうな顔をしているが、私はみんなに心配を掛けたくない。あと世紀の大発見は勘弁して欲しい。

 机の上で『ポエー』声を漏らしているポポカさんたちに笑みを向けると、彼らは雛鳥の様に『ポエ』と鳴いて嘴を開いた。

 

 『お腹空いたって』

 

 クロが私の肩の上で通訳を担ってくれる。担ってくれるのは良いのだけれど……。

 

 「よくこれで生き残れていたなあ……」

 

 私は小さく息を吐きながら少し呆れた声を出した。でも、クロとアズとネルも私たちからご飯を貰っているので、ポポカさんたちだけを責められない。セレスティアさまが窓枠を乗り越えて談話室に入ろうとして、ソフィーアさまに止められていた。

 どうやら彼女はポポカさんたちの給餌を行いたいようだ。私は玄関からゆっくりきてくださいとお願いすると、ソフィーアさまが安堵の息を吐きセレスティアさまが消える。

 

 『賢い証拠じゃないかな。人間の庇護下に入って、ご飯を望んでいるからね。普通ならやらないよ?』

 

 「確かにそうだけれど……ポポカさんたちでご飯を取りに行くはずだったのに」

 

 クロの声に私は溜息を吐いた。そうして直ぐにセレスティアさまが果物を抱えて姿を現す。魔獣や幻獣以外にも興味を持っているのだなと感心しながら、彼女は私にポポカさんに餌を与えても良いかと尋ねる。

 彼女の問に私は構わないと返せば、ソフィーアさまとギド殿下とマルクスさまが遅れて談話室にやってきた。呆れ顔のマルクスさまはセレスティアさまを止める気はないようで、お二人の力関係が分かり易い。

 

 「なにが喜ばれるのでしょう。ナイは知りませんの?」

 

 セレスティアさまが首を傾げた。流石に昨日今日保護した鳥さんの味の好みは把握していないので、私はいろいろと試すしかないと質問者に答える。セレスティアさまは島で取れた果物を手に取り、嘴を開ける呆けた顔のポポカさんへと運んだ。

 ポポカさんは咀嚼してごっくんと果物を飲み込むと、美味しかったのかまた嘴を開く。幻獣や魔獣以外に興味を示すセレスティアさまは珍しいような気がする。生き物を愛する心に貴賤はないから構わないけれど、彼女がポポカさんに大層興味を示しているのは少し不思議だ。辺境伯家で買っている猫さんを大事にしているし、私の思い違いだろうか。

 

 「嗚呼、お可愛らしいですわ! 大きな方々も素敵ですが、小さな者にも彼ら特有の可愛らしさがあります!」

 

 セレスティアさまが嬉しそうに顔を緩める。私たちはいつものことだなあと彼女を見守りながら、お昼が過ぎ夕方を迎えた。ポポカさんは卵さんを交代で温めながら、ロッジの中で気ままに過ごしている。他の皆さまもポポカさんが居着いたことに直ぐに慣れているので凄く適応力が高い。

 

 ――そうして夜を迎え、静かなロッジでは穏やかな時間が流れていた。

 

 談話室で女性陣が集まり姦しく会話を交わしている。男性陣は別のロッジで各々の時間を過ごしていることだろう。ロッジにあるウッドデッキで星を眺めていたフィーネさまとアリサさまが談話室に戻ってきた。お二人は首を傾げながら、部屋の中にいる私に視線を向けた。

 

 「浮かんでいる星がいつもと違う気がするのですが、私とアリサの気の所為でしょうか?」

 

 フィーネさまの言葉にまさか……と私の背中に冷や汗が流れる。今日のお昼、空高く昇って打った全力全開の魔術の件が今になって掘り返されるとは。私が真実を告げるべきか迷っていると、フィーネさまの言を確認しようと他の女性陣がデッキへと足を向ける。

 私はリンにヤバいどうしようと視線を向けるけれど、彼女はゆるゆると頭を振るだけ。これはもう怒られるか、ドン引きされる覚悟を決めた方が良いだろうと私は全てを諦めた。

 

 「星の模様が変わっています!」

 

 「本当ですわね。しかし一夜にして変貌を遂げるとは。なにか凶兆があるというお告げでしょうか?」

 

 デッキからアリアさまの驚きの声とロザリンデさまの不安そうな声が私の耳に届いた。クロは私の肩の上で『説明しないの?』と首を傾げている。私は椅子から重い腰を上げてゆっくりと歩き始めた。リンも一緒にきてくれるようで私の隣を歩いている。

 

 「あまり良い予感はしないな。おそらく星を見た皆が気付く」

 

 「王都の皆さまや他の国々の方々の不安を煽りそうですわね」

 

 ソフィーアさまの真面目な声とセレスティアさまの今後の展開を予想する声が聞こえて、これは不味いと彼女たちの下へと私たちは辿り着く。

 

 「あの……その件について話がありまして………………」

 

 デッキに立った私はおずおずと彼女たちに手を上げる。

 

 「ナイさま?」

 

 「どうなされました?」

 

 アリアさまとロザリンデさまが振り返り私を迎え入れてくれ、彼女たちの隣に立っているソフィーアさまとセレスティアさまが不思議そうに首を傾げた。

 

 「珍しいな。ナイが言い淀むなんて……大丈夫か?」

 

 「?」

 

 お嬢さま二人が私と視線を合わせた。とりあえず理由を真っ先に伝えなければと私は意を決する。

 

 「えっと星の模様が変わったのは、今日の朝に試し打ちをした私の魔術が原因です。放った魔術が消えずに星まで辿り着いたようなんです」

 

 私が告げた事実は亜人連合国の皆さまか副団長さまに問い合わせて頂ければ証明できる。ぽかーんと口を開いている皆さまの中で一番復帰が早かったのはソフィーアさまだった。

 

 「ナイが朝に陛下から賜った錫杖を使って試し打ちをすると知っていたが、そんなことが起こるのか?」

 

 彼女は考える素振りを見せながら、流石に星の模様を変えるような事態が起こるのか頭の中で検証している様子であった。

 

 「ソフィーアさん、ナイが嘘を吐くはずはありませんわ」

 

 セレスティアさまが鉄扇を開きながら、ソフィーアさまに語り掛ける。嘘を吐いても得することはないのだが、

 

 「ああ、いや。ナイの言葉を疑ってはいないが、本当にそんなことが起こるのかと疑問に感じただけだ。ナイの魔力量は底知れないし、事実星の模様が変わっているからな」

 

 ソフィーアさまが顎に手を当てて考えながら、アルバトロス王国に連絡を入れた方が良いだろうと告げた。星の様子に気付いた方々の不安を煽ってしまうし、私が原因だと知れば納得してくれるはずだと。

 どうやらお二人は『竜使いの聖女さまが全力を出した証』と噂を流せば不安を払拭できると踏んでいるようだ。彼女たちの話にアリアさまとロザリンデさまは納得しているし、フィーネさまとアリサさまも同様の連絡を聖王国へ直ぐに入れると仰っている。プリエールさんたち共和国の方々もできることなら、アルバトロス王国から共和国へと知らせて欲しいと願い出た。

 

 話が大事になっているけれど、皆さまが私が起こしたことだと納得しているのが解せないと悲鳴を上げたくなるのだった。

 

 ◇

 

 ――南の島生活五日目となった。

 

 副団長さまと猫背さんとプリエールさんたち共和国の皆さまはアルバトロスにそろそろ戻る予定である。副団長さまと猫背さんは仕事の収穫があれば滞在を延長すると言っていたが、特にこれと言った発見には至っていない。

 

 私たちが見つけた浜辺の遺跡の調査は最終日に探索を行うそうだ。砂浜に埋まっているので、探索は難しそうだけれど確認はしておきたいとのこと。

 

 ちなみに私が全力の魔術を放って星の模様を変えたことは、やはりアルバトロス王国や各国で話題となり、陛下と外務卿さまが国内と国外に通達を行ってくれた。そして私がやったこと知るや不安は収まったというのだから、大陸各国の皆さまには一体どう思われているのやら。いろいろな噂が流れていそうで、怖くて聞けていない。

 

 そして今現在。ロッジの談話室でフィーネさまに呼び止められた私は、彼女の真剣な眼差しに威圧されている。なにか妙なことを私がやらかして、フィーネさまが怒っているのだろうかと心配になる。私の後ろにはリンが控え、ソフィーアさまとセレスティアさまも一緒に控えているので外交問題に発展すれば即対応できる、はず。

 

 「ナイさま……とても、凄く真面目なご相談があります」

 

 フィーネさまが背筋をピンと伸ばし、いつもより強い視線を私に向けてくる。向けられたものは敵意ではないが、なんだか真面目な雰囲気であり彼女にしては珍しい。彼女の隣に静かに座るアリサさまは苦笑いを浮かべていた。

 

 「話を聞くだけならタダですし、内容次第で動きますが……一体、どうなされました?」

 

 話を聞くだけなら問題はない。夏休みというプライベートな時間だから、政治的な話をしようが私的な話をしようがスルーを決め込むこともできる。なにか動かなければならない案件だとなれば、急いでアルバトロス王国に帰還して関係各所に連絡を入れる。さて、フィーネさまの真面目な相談とやらはなにかなと私も彼女と同じように背筋を伸ばした。

 

 「ヴァレンシュタイン副団長さまに、声を録音できる魔石を作って欲しいのです!」

 

 「はあ」

 

 フィーネさまの声に私は拍子抜けする。どんな大問題が起こったのかと身構えていれば、副団長さまに魔術具の制作依頼を出したいという可愛らしいものだった。普通に副団長さまを捕まえてお願いすれば、作成依頼を受けてくれるのではないだろうか。

 

 「む。興味がなさそうな顔をしないでください! 良いですか、ナイさま。これは乙女の一大事ですよ!」

 

 「と言われましても、まったく話が見えてこないのですが……」

 

 フィーネさまは椅子からお尻を上げて私に顔を近づける。というか、声を録音できる魔石となれば諜報用に作られていそうだ。難しく考える必要はなさそうだなと考えていると、フィーネさまの顔が遠ざかりぽすんと椅子に彼女のお尻が沈んでいる。

 

 「共和国の研修生の中に、気になる殿方を国に残している方がいらっしゃいます」

 

 「はあ」

 

 「その研修生は手紙を出したくても、お相手の方は文字の読み書きができません! でも声でならやり取りが可能ですよね!?」

 

 「そうですね」

 

 「という訳で、ヴァレンシュタイン副団長さまに魔道具の制作をお願い致したく!!」

 

 フィーネさまが言いたいこととやりたいことは理解した。

 

 「ならフィーネさまが直接副団長さまに声を掛ければ良いのでは? 私を通さなくても問題ない気がしますが」

 

 私が副団長さまを経由せずとも、フィーネさまが直接彼に声を掛けてお願いすれば良いだけである。もしくは共和国の研修生が副団長さまに直接お願い……は難しいか。流石に身分差があるので、なにか特別な理由がないと無理だった。

 

 「ナイさまが塩対応です! えっとヴァレンシュタイン副団長さまがナイさま以外の女性と話している所を見たことありますか!?」

 

 「ありますよ。ソフィーアさまとセレスティアさまと会話を交わしておられます」

 

 フィーネさまの疑問に私は答える。普通に彼のお二人と言葉を交わしているし、私とも喋っているし、副団長さまには奥方さまもいるから女性不信ということはあるまい。

 私の背後でソフィーアさまとセレスティアさまが『彼女の言いたいことはそうじゃないのでは』『わたくしたちは除外してくださいまし。単に師弟関係ですもの』と言いたそうだ。確かに副団長さまが仕事以外の関係で女性と話しているところは見たことないかもと考えを改めるが、少し遅かったようでフィーネさまが眉間に皺を寄せて厳しい顔を浮かべている。

 

 「…………ち! ではアプローチの仕方を変えましょう」

 

 今、フィーネさま舌打ちをしたような。銀髪で小柄な美少女が舌打ち……一部の方に需要はありそうだが、聖王国の大聖女さまとしてその態度は如何なものか。まあフィーネさまは大聖女をきっちり務めているので、プライベート故の態度だろうけれど。

 

 「気になる男性と離れてしまえば不安は募ります。それが思い人であれば尚更でしょう。そんな恋焦がれている女の子を見て、ナイさまは助力したくなりませんか?」

 

 確かに好きな人と離れると不安は募るかもしれないが、恋を成就させるには周りだけが盛り上がっても仕方ない。当人同士が頑張らなければ、幸せは掴めないし長い時間ときめきを維持することも難しそうだ。

 

 「どうでしょうか。生きていれば振られることもありますし、自然消滅することもあります。お付き合いをしていないなら、相手の心は誰に向かおうと自由ですし……」

 

 「ナイさまぁあああ! どうして貴女はそのように淡泊な考え方をしているのですか!? 恋する女の子を応援したくないんですかぁ!? ないんですねえ!?」

 

 私の言葉にフィーネさまが長くて綺麗な銀糸の髪を掻き毟る。そんなにおかしなことを言ったつもりはないのだが、フィーネさまは甚くご立腹のご様子で。

 

 「応援する気持ちはありますよ。でも頑張らなければならないのはご本人ですしね」

 

 「そうれはそうですが、こう一緒に盛り上げようとか、恋の話を一緒にしたいとかありませんか?」

 

 フィーネさまから視線を外して部屋の四隅の一角へと変える。私自身から誰かを好いていて気になると、他の方に話すことはない。聞かれれば答えるけれど、まあ口にはしないはず。

 

 誰かが困っていれば話を聞いたり、助言するくらいはするが、それ以上手を出すことはないだろう。前世の職場で、スマホアプリを通じ海外の男性と惚れた腫れたと話していた女性同僚の話をうんうん聞いていたことがある。少しというか、随分と浮かれた状態で話をしていたし、話を聞いて欲しいだけで私の意見を求めているとかはなく、単に女性同僚に今起こっていることを誰かに聞いて欲しいだけの様子だった。

 聞く耳を持てていない状況だと判断した私は彼女の話を全て聞き入れ、うんうん頷くだけの全肯定お話聞きマシーンに徹していた。そして女性同僚は他の社員にも同様のことを話し、自分の思い通りに事態が展開しなければ腹を立てていた。

 

 私は海外男性と繋がろうとする彼女に結婚詐欺ではと言いたかった。でも言った所で恋に恋している同僚には無意味だし、不貞腐れて仕事をしてくれなくなっても困る。

 

 「私の経験上、その手の話を聞くと大体面倒なことになっているので……」

 

 学生時代も恋の話を聞くことはあったが、面子が面子だっただけにDVの話とか浮気されたとか、避妊してくれないとかであった。

 

 「例えば?」

 

 「結婚詐欺ではと思える案件や不倫話とかですね」

 

 あれ? 私、恋愛関係で良い話を聞いたことがないかもしれない。不倫相手が病気で亡くなり寂しくて三人目の子供を作っちゃったテヘペロ、という話も大概であるし、三人目の子供は旦那の血を引いているのかと聞けなかったチキンな私も大概である。

 

 「ナイさま……恋は素敵なものですよ! 女の子の栄養素です! そんな枯れた話をしているから、ナイさまにはときめきが湧かないのです! というかナイさまを思う方がいるのであれば、その方が可哀そうなのですが……!?」

 

 ふんすと力説していたフィーネさまが私に微妙な視線を向ける。なんだかいたたまれないので席から立ち上がり、とりあえず副団長さまを探してみようと誤魔化した。机の上でグリフォンさんの卵を温めているポポカさんがこてんと首を傾げる。邪魔してごめんねと彼らに視線を向けたあと、副団長さまの下へと向かうためみんなで部屋を出た。

 

 「副団長さまを知りませんか?」

 

 私は部屋を出て見つけた下働きの方に声を掛けた。

 

 「ヴァレンシュタイン卿はダークエルフの方々の拠点に向かったはずですよ。確かファウストさまも一緒だったかと」

 

 下働きの方は私たちの洗濯物を抱えながら教えてくれる。副団長さまたちはダークエルフさんたちに魔術か魔法を教えて貰うのだろう。

 

 「ありがとうございます。私も拠点に赴いてみますね」

 

 「承知致しました。お気をつけて」

 

 私はお礼を告げてその場から歩き始める。フィーネさまとアリサさまも下働きの方に頭を下げて歩き始めた。リンとソフィーアさまとセレスティアさまも一緒にくるようだ。

 ロゼさんは副団長さまと一緒に行動しているようで私の影の中にいない。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちも私たちの後ろを歩いている。ロッジに出て、ハンモックに揺られているクレイグとサフィールにお出掛けしてくると伝えれば、ジークも護衛として一緒に行くとのこと。森の中の道を抜け、ダークエルフさんたちの拠点に辿り着く。

 

 「おや、訪問の予定はなかったはずですが、どうなされましたか?」

 

 ダークエルフのお姉さんが私たち一行を見つけて声を掛けてくれる。

 

 「突然申し訳ありません。ヴァレンシュタイン副団長がこちらに赴いていると聞いて足を運んでみました」

 

 「彼ならダリアとアイリスと魔法が得意なダークエルフと話し込んでいますよ。ご案内しましょう。こちらへ」

 

 私がダークエルフさんに訪問理由を話せば、彼女は手を伸ばして進むべき場所を示してくれる。副団長さまは魔術と魔法談義に花を咲かせているようだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんを少し困らせているようなので、彼が一体どんな話をしているか気になるところではある。

 とあるロッジに案内されて中へと促される。部屋の扉をダークエルフさんがノックもせずに開くと、副団長さまと猫背さんとダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフさん数名がテーブルを囲んでいた。

 

 「ナイちゃん~どうしたの~? こっちにきてくれて嬉しいな~」

 

 「あら、連絡なしでナイちゃんがくるのは珍しいわね。どうしたのかしら?」

 

 アイリス姉さんとダリア姉さんが迎え入れてくれた。案内を担ってくれたダークエルフさんにお礼を告げると、気にしないでと言い残して部屋を出て行く。

 

 「すみません、副団長さまに話がありまして」

 

 私が副団長さまの名前を上げるとダリア姉さんとアイリス姉さんが口を尖らせる。

 

 「ええ~! どうして私たちじゃないかなあ」

 

 「そうね。お姉さん悲しいわ」

 

 残念そうに言っているけれど、お二人が冗談で告げているのは伝わった。

 

 「ダリア姉さんとアイリス姉さんも聞いて欲しいです」

 

 苦笑いで私が告げると、アイリス姉さんが私の肩をくるりと回してテーブルに導いてくれた。他の方もダリア姉さんが案内をしてくれて、フィーネさまが私の席の隣に腰を下ろす。

 

 「えっと魔術具か魔法具の制作依頼をお願いしたいのですが」

 

 「おや。聖女さまの発想は独特ですので、どのようなものがお望みなのか気になりますね」

 

 私の声にふふふと副団長さまが笑みを深め、猫背さんがこてんと首を傾げる。

 

 「ナイちゃん、魔法具に興味あったっけ~?」

 

 「あまり利用していないわよね?」

 

 アイリス姉さんとダリア姉さんが疑問を呈す。確かに私が魔術具や魔法具を望む機会は少ない。特に不便を感じていないし、今ある品でも十分に便利だから。あ、でもお魚さんを保存するクーラーボックスは欲しい……って話が逸れる。

 

 「今回は私ではなく、聖王国の大聖女であらせられるフィーネさまが望まれております」

 

 「あら。それで、どんなものがお望みなのかしら?」

 

 私がフィーネさまに視線を向けると、ダリア姉さんとアイリス姉さんに副団長さまと猫背さんとダークエルフさんの視線が彼女に注がれる。フィーネさまは驚きつつも背を伸ばして声を上げる。

 

 「あ、は、はい! えっと文字の読み書きができない方と交流を持てる方法を模索していまして、声自体を記録できる魔法具か魔術具があれば嬉しいなと!」

 

 彼女は続けて共和国の研修生の話を語った。私が先ほど聞いた内容と変わらないものだけれど、皆さまに状況が伝わったようだ。確かに文字の読み書きができない方々が連絡手段を持てる。

 ただ高額になってしまうとお財布事情が大変だろう。あーでも、その辺りは声が録音できる量を調節すれば良いのか。十秒間でも録音できれば大事なことは伝わるはずだし、一文字に意味を込めれば暗号のように利用できるから。

 

 「なるほど。面白いわね」

 

 「魔法で声が届くから、その発想はなかったなあ~」

 

 「シャシンの魔術具と似たようなものですねえ。応用すれば直ぐに作れるかと」

 

 「できると思う。あとは術式をどう組むかだけ」

 

 四人とダークエルフさんたちが話し込んでいる。話を持ち掛けた私たちはスルーされているが、どんどん話が決まっているようだ。なんだかんだで彼ら彼女たちは仲が良いなあと見守っていると、直ぐに完成できそうだと教えてくれた。

 流石に彼らに対価を払わないのは違うと報酬の話を持ち掛ける。副団長さまと猫背さんは、私たちが浜辺で見つけた遺跡の探索に同行すること、ダリア姉さんとアイリス姉さんとダークエルフさんたちは王都のお店についてや私がもう少し頻繁に顔を出して欲しいと願う。そんなことで良いならと快諾して、魔石の話はお開きとなったのだった。




 【お知らせ】リアルが忙しくなってきたので、暫くの間投稿をお休みさせてください。再開は5/16~の予定です。申し訳ありませんが、よろしくお願い致します! ではでは~!┏○))ペコ
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