魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0478:お昼ご飯を作ろう。

 みんな慣れない水の中は疲れるようで、夜の早い時間から各自に割り当てられている部屋に戻って直ぐに眠った。そうして陽が昇り朝がくれば『ポエーーーー!』とポポカさんが鶏のように大きな声で鳴く。

 

 彼らの大きな鳴き声は早朝と真昼に一度鳴くだけで、残りは大声で鳴かないので凄く不思議だ。そんなポポカさんの鳴き声で私は目が覚めて、ベッドから起きようと身体を動かそうとしたのに微動だにしない。

 金縛りかと一瞬気を張るが、単にリンが私のベッドに忍び込んで彼女の腕が私の身体に巻き付いているだけだった。せっかくの休暇だし、彼女を起こすのは忍びない。このまま二度寝を決め込むか、リンが起きるまで待つかどうしようか迷っていれば、クロとネルが寝床の籠からベッドに飛んでくる。

 

 ネルが枕元で私の頭をあむあむと甘噛みして、なにか訴えている。どうしたのだろうとクロに視線を向けてみた。

 

 『疲れているからリンを起こしちゃ駄目って』

 

 クロがリンを起こさないようにと小声で教えてくれた。

 

 「そっか。クロとネルも一緒に二度寝しよう」

 

 私も小声でクロとネルを誘うため掛布団を動かせば、嬉しそうにクロとネルが布団の中に入ってきた。お互いに居心地の良い場所を探して、足踏みをしながら身体を丸くしている。

 常日頃身体を動かして鍛えていても、水中では勝手が違って疲れが溜まったようだ。リンは私より先に目覚めていることが多いので本当に今日は珍しい。クロとネルがいる位置を確かめリンの顔に掛かる赤髪を手で払い、そのまま私の腕を彼女の腰に回す。背丈が全然違うから腕が回り切らないのはご愛嬌だけれど、二度寝を貪る日があっても良いかと目を瞑った。

 

 「あれ? おはよう、リン。起きてたんだ」

 

 一時間ほどだろうか。ふと目が覚めると、リンが笑いながら私を見ていた。随分と確りとした表情なので、起きたばかりではないはずだ。

 

 「うん、さっき。おはよう、ナイ」

 私の腰に回っていた彼女の腕に力が入り更に引き寄せられると、クロとネルがなんとも言えない声を上げて中から出てきた。

 

 『吃驚したよ。二人とも起きたんだね』

 

 クロは困ったように笑い、ネルは身体を一度振ってリンに顔を擦り付けている。

 

 「おはよう、クロ、ネル」

 

 リンがクロとネルに挨拶をしながらベッドから身体を起こした。私も起きて着替えを済ませる。食堂に赴くとジークとクレイグとサフィールがリンと私を待ってくれていたようだ。寝坊助と揶揄うクレイグにごめんと謝り朝ご飯を胃に納める。今日も美味しいご飯に感謝していれば、クレイグが口を開いた。

 

 「今日はジークに護身術を教えて貰うことになった」

 

 ご飯を食べ終え食後のお茶を頂きながら、私はクレイグの顔を見た。クロもどうしてだろうと首を傾げながら彼の話を聞いている。サフィールは苦手分野のため微妙な顔になっていた。

 

 「どうしてそんな話になったの?」

 

 「単純に自分の身は自分で守らなきゃなんねーし、誰か助けられるならそれに越したことはないだろ?」

 

 クレイグが私の問いに真面目に答えてくれる。ぶっちゃけると貧民街というアウトローな場所にいたせいで、喧嘩であればクレイグは割と強い。鍛えている軍人や騎士の方には敵わないが、街のチンピラ相手であれば負けないのではなかろうか。

 

 「それはそうだけれど、外に出る時は護衛の方が就いてるし問題ないような……」

 

 お出かけの際は護衛の方が必ずいる。慣れないけれど、身分と立場を得ているからそうなる。クレイグも子爵邸から外に出る際は必ず誰かが就いているのに。

 

 「女ならそれで良いけどよお、俺は男なの! 誰かの身を守って死ぬのは柄じゃねえから、誰かの身を守るなら俺も生き残れるように立ち回んだよ! バーカ」

 

 クレイグが私に向かって馬鹿と言っているけれど……照れ隠しのような気がする。もしかして誰か守りたい人ができたのだろうか。それならそれで喜ばしいことだが、危険な目にはあって欲しくないという気持ちもある。

 感情というものは難しいねえと私から視線を外したクレイグに笑って、ジークの顔を見た。どうやらジークは真面目にクレイグに手解きするようだ。

 

 「昨日の夜ね、男の人たちが集まっていたんだけれど、ギド殿下とマルクスさまとエーリヒさまたちが暴漢に襲われた時の対処の仕方を話していたんだ」

 

 サフィールが詳しい経緯を教えてくれる。彼の姿にクレイグが慌てているので、私たちには知られたくなかったようだ。

 

 「クレイグ、恥ずかしいからって誤魔化しても結局ナイに話は伝わるよ」

 

 苦笑いを浮かべるサフィールにクレイグがそっぽを向いて照れていた。昨日の夜、男性陣が泊っているロッジでギド殿下とマルクスさまとエーリヒさまで暴漢の対処の仕方を話しており、クレイグが興味を持ったそうだ。男性陣のみということで話に加わることができ、今日の午前中に浜辺で体術や剣術をかじってみようとなった。付け焼刃でも学んでいないよりマシだし、なにかあった時に動ける。確かに危ない状況で動けないのは危ないかと考えを改め……。

 

 「なるほど。私も習った方が良いのかなあ」

 

 私の攻撃系の魔術は対軍とか対城レベル――認めたくないけれど――なので、個人で身を守る力を備えておくに越したことはない。障壁展開が間に合わない場合も想定しておけば安心だろうし。

 

 「ナイは俺たちがいるから必要ないだろう」

 

 私の言葉にジークが苦笑いを浮かべてフォローを入れてくれる。

 

 「そうなんだけれどね。でも運動がてらに教えて貰って良い?」

 

 確かにジークとリンがいれば問題ないが、最近運動をしていないし動きたい気分でもあった。

 

 「じゃあ、私が手解きする」

 

 リンが目を細めながら笑い私の服の袖を引っ張る。それじゃあ、ギド殿下たちが待っている浜辺に行こうかと朝ご飯を済ませてロッジから出るのだった。

 

 ◇

 

 ――男性陣とナイさまとジークリンデさんが浜辺へと遊びに行った。

 

 話によると皆さまはお昼にはロッジに戻ってくるそうだ。私は少し前から考えていたことを実行するには良い機会だと、女性陣を誘って調理場に足を運んでいた。

 ちなみに私の提案に乗ってくれた方は、ソフィーアさま、セレスティアさま、アリアさま、ロザリンデさまである。ナイさまとジークリンデさん以外の女性陣が参加しているので、女性全員と言っても過言ではない。

 

 「フィーネさま、本当に行うのですか?」

 

 アリサが心配そうな顔で私に聞いてくる。男性陣が留守にしていること、そして男性陣が一堂に会しているという絶好の機会だ。今回を逃せば次はいつになるのか分からない。

 

 「……丁度良い機会だし、エーリヒさまに頂いた髪飾りのお返しになるかなって」

 

 他の方々を誘ったのは、婚約者の方に手作りのお昼ご飯を持って行くため、アリアさまは気になる男性に向けて、ロザリンデさまはお料理の練習のためである。アリサは私の付き添い兼、危なっかしい所はフォローしてくれるのだろう。

 一応、前世では授業の家庭科の時間にお料理の基礎を習っている。家でも偶に自炊していたし、記憶は薄くなっているけれど身体が覚えていてくれるはずだ。

 

 「でも、よく料理人さんが許可してくれましたね」

 

 「そうね。ナイさまの所で働いている方だから状況に慣れているみたい。刃物は使えないけれど、味付けや他のことは自分でできるもの」

 

 アリサが苦笑いをしながら私を見た。まあ身体が覚えていなくとも包丁は使用禁止である。流石に身分と立場がある私たちが怪我を負えば料理人の方々の責任となる。包丁の扱いはある程度大丈夫だし、最初から最後まで自分でやりたいけれど諦めなければいけない所だった。

 

 「では皆さん! 頑張って作って男性陣に食べて頂きましょう! 簡単なメニューを選んで料理人さんに準備して頂いたので、全く経験のない方でも大丈夫です!」

 

 事前聴取によればソフィーアさまとセレスティアさまとロザリンデさまは全く料理経験がないそうだ。アリアさまとアリサは実家が困窮していたことで、料理の腕前は人並みとのこと。

 今回、作るのはサンドイッチがメインだ。少し洒落てバゲットを使って、その上にベーコンとマッシュポテトを乗せたオープンサンドも作る。白米があるし、ナイさまのお陰でおにぎりも平然と提供されているので、今回メニューに入れさせて頂く。日本食が提供された時のエーリヒさまは嬉しそうだから、おにぎりは外せなかった。

 

 「じゃあ、私が先ずお手本を。少し緊張しているので、不手際があるかもしれませんがお許しください!」

 

 私は良しと気合を入れて、料理人さんから用意して頂いたホワイトブレッドをまな板の上に置いて、バターを塗る。具材はシンプルにハムとチーズとレタス、たまご、ハムたまご、ポテトサラダ、等々だ。

 男性陣に好き嫌いはないらしい。納豆サンドも良いなあと笑みを浮かべながら作り方を伝えた。ここにいる皆さまは一度話を聞けば覚えてしまうタイプの方たちである。一度聞いて十できるか百できるかは相手の方次第だけれど、説明を一度すればマスターしてくれるので有難い。

 

 参加している方が多いのでサンドイッチは直ぐに出来上がった。バゲットを使ったサンドも直ぐに出来、美味しそうである。おにぎりは、炊き立ての白米の熱さに苦戦しつつも、梅干しや鰹節を具材にして詰めていく。

 ちなみに納豆サンドを作ったら、みんなにドン引きされた。苦手な方が多いのは知っているけれど、こんなに美味しいものを嫌がるのか私は理解できない。まあ、食べられるようになっただけ有難いけれど。

 

 「喜んでくれると良いのだが……」

 

 「わたくしが作ったものを、あのマルクスさまは食べるのかしら?」

 

 ソフィーアさまがギド殿下を思い、セレスティアさまが首を捻りながら疑問を口にした。ギド殿下は嬉しそうに食べてくれそうだし、マルクスさまは文句を言いつつ口にするだろう。

 私が作ったサンドイッチとおにぎりをエーリヒさまは食べてくれるだろうか。柔らかい顔で美味しそうに食べてくれると凄く嬉しいけれど……エーリヒさまの方が料理が上手そうなので少し不安である。

 

 「大丈夫ですよ、お姉さま! 自信を持って行きましょう!」

 

 「そうね、アリサ。先ずは食べて貰わないと始まらないもの」

 

 私の気持ちを知っているアリサが励ましてくれた。隣ではアリアさまが難しい顔を浮かべ、彼女の隣に立つロザリンデさまが心配そうに見ている。アリアさまはナイさまの幼馴染であるクレイグさんが気になっているそうだ。

 はっきりと『好き』という気持ちはまだ分からないけれど、気になって目で追ってしまうと本人から聞いた。婚約者がいる方たちは契約という形で繋がっているけれど、私とアリアさまは志を同じくする者である。どうか今回のことでクレイグさんが彼女の気持ちに気付いてくれますようにと願う。彼女は凄く可愛らしいし、素直な子なので応援したくなる。

 

 「皆さま、浜辺に行きましょう!」

 

 作った大量のサンドイッチとおにぎりを篭に詰めて、女性みんながロッジから出陣するのだった。

 

 ◇

 

 ロッジを出て森の中にある道を歩いて行く。調理場でサンドイッチを作っていた時はみんな姦しかったのに、今は黙々と足を進ませて浜辺を目指している。この道を歩く時は耳を澄ませて鳥の鳴き声を楽しんでいるのに、今は私の心臓の音の方が煩くて仕方ない。

 

 貴族の家に生まれ、聖王国の大聖女を担っているからご飯を作る機会はなかった。実家暮らしだった前世では、学校の授業と数回やった自炊のみ。今回は料理人さんの手が入っているので、次になにか料理を作る時は全て自分で行えるようになりたいものだ。まあ、環境が許してくれないかもしれないけれど、虎視眈々と機会を狙わなければ上達は不可能だ。

 

 「緊張するな。自分で作った品を誰かが口にするなんて夢にも思っていなかった」

 

 「ですわね。とはいえ食べる殿方がマルクスさまなのでわたくしは気楽です」

 

 私の少し後ろを歩いているソフィーアさまとセレスティアさまが緊張を紛らわすためなのか、言葉を交わし始めた。彼女たちも生粋の貴族でしかも高位の家のご令嬢である。公爵家と辺境伯家の深窓の令嬢が食パン片手にバターを塗っているのだから、なんとも貴重な光景を見た。ナイさまであれば前世で自炊していたから特に驚きもしないけれど、少し難儀している二人を見ていると微笑ましかった。

 

 「セレスティア、マルクス殿が手を付けなかった場合はどうする?」

 

 「婚約者が作った料理を食べぬ殿方などあり得ませんもの。拒否すれば強制給餌ですわ」

 

 ソフィーアさまがこれからを想定してか、セレスティアさまに疑問を投げた。マルクスさまはゲームでも不器用で、主人公にぶっきらぼうな態度を取っていたので、セレスティアさまにも適用されているようだ。

 ただし、彼女の場合は力と口で捻じ伏せているので問題ないけれど。耐えているマルクスさまもマルクスさまだけれど。

 

 「ほどほどにしておけよ。土壇場になって婚約を解消されれば困るのはお前だぞ」

 

 強制給餌、という声を聞いたソフィーアさまが苦笑を浮かべた。伯爵家であるマルクスさまが辺境伯家であるセレスティアさまとの婚姻を解消や白紙に戻すことはあるのだろうか。家と家との契約だから簡単に反故されないだろうが、場合によってはあり得るかもしれない。

 

 「あら。そのようなことになるかしら?」

 

 「例えばの話だ。それに無茶をし過ぎて相手に嫌われては元も子もないだろう」

 

 ソフィーアさまがふうと息を吐きセレスティアさまが持つ篭に視線を向けた。セレスティアさまは一応、マルクスさまの好きな品や色を考えてサンドイッチを作っていた。だから、彼が彼女の好意を無下にするような行動を起こせば、そりゃ強制給餌されても仕方ない。きっと二人なりの愛のカタチがあると信じよう。

 

 「ソフィーアさんは殿下との関係が上手くいっているから余裕ですわねえ」

 

 セレスティアさまは籠に視線を向けたソフィーアさまに声を掛けた。アルバトロス王国で元第二王子殿下との婚約破棄事件を詳しくしらないが、新たな婚約が結ばれている。リーム王国のギド殿下は大型犬っぽい感じで、男性陣と仲良さそうに言葉を交わしていた。身分に拘りがなく、平民出身の方とも気さくに話している姿はゲームでは知れなかったことである。

 アリアさんからソフィーアさまに対象が移ったけれど、公爵令嬢と隣国の殿下であれば丁度釣り合っているし本人たちも満更ではない様子だ。気の強そうな彼女がギド殿下と一緒にいると、時折照れている姿を見せる。ここにも恋の花が咲いていると、私は微笑ましく見守っていた。

 

 「そんなつもりはないがな」

 

 アルバトロス王国のお嬢さま二人の会話をBGMに歩いていると、ようやく浜辺に辿り着いた。護身術や剣術を習うと聞いていたとおり、エーリヒさまとギド殿下とマルクスさまとジークフリードさんとクレイグさんとサフィールさんが手合わせをしている。

 隣ではナイさまがジークリンデさんに手解きを受けているようで、ナイさまが木剣を、ジークリンデさんが短剣を構えて対峙している。波際では毛玉ちゃんたちが五頭戯れており、その近くでヴァナルさんと神獣さまがまったりと過ごしていた。

 

 エーリヒさまたちは武器を持っていないので体術を習っているのだろう。エーリヒさまはギド殿下に軽くあしらわれて浜辺に尻餅を付き、差し伸べられた手を取って苦笑いを浮かべている。もしエーリヒさまとギド殿下が逆の光景だったら、私はなにを思っただろうか。強くて素敵と思うのか、勝った姿がカッコいいと思うのか。

 エーリヒさまが負けて砂浜に尻餅を付いていても、カッコ悪いなんて全然思わない。だって彼は荒事には慣れていないし、伯爵家の三男として学院に通い勉学に励んできたのだから。カッコ悪くても、有事の際に動けるようにと学んでいる姿に好感が持てる。

 

 けれど、どうして急に護身を習おうなんて考えたのだろう。

 

 エーリヒさまはアルバトロス城で外務部に勤めている。身体を鍛えなくても城勤めの騎士の方々に守って頂ける立場にある。うーんと首を捻るけれど、私が導き出した答えは『男の子は厨二病を患っている』というものだ。カッコ良く動ければ良いに越したことはないし、長剣を扱うことができればカッコいい。お城では習えないし、個人的な時間に個人的な立場で習えば誰も文句は言わない。

 やっぱり男の子だなあと笑って浜辺にいる彼らの下へと歩いて行くと、浜辺にいる方々が私たちに気付いて一度手を止める。

 

 「フィーネさま、どうなさったのですか?」

 

 ナイさまが私を見上げながら声を掛けてくれた。彼女の横にはジークリンデさんが控え、少し離れた所からジークフリードさんが素早く歩いて後ろに控えた。エーリヒさまたちは私たちがきたことに驚きつつも、手を止めてこちらに視線を向けている。

 

 「浜辺で皆さまが手合わせしていると聞いて、お昼ご飯を用意しました。すれ違わなくて良かったです」

 

 私の言葉にナイさまが素早く手元の籠に視線を移した。嬉しそうに笑った彼女は中身がなにか気になるようで、小さく首を傾げている。それに倣ってクロさまも彼女の肩の上で小さく首を傾げた。クロさまたちにも果物を用意したので、食べてくれると嬉しいけれど。

 

 「ジーク、せっかくだから頂こう」

 

 ナイさまはジークフリードさんが後ろにいることを疑わずに振り返ったのだろうか。まるで彼が控えていることが当たり前のように振り返り、そして彼も彼女が紡ぐ言葉を予想していたかのように小さく頷く。

 

 「分かった。伝えてくる」

 

 ジークフリードさんはナイさまに短く答えて他の男性の下へと歩いて行けば、みんながこちらへくる。私たちが下げている籠に視線が注ぎ込まれるので、みんなお腹が空いているのだろう。

 

 良かったと安堵していると、護衛の方が日よけ用のパラソルをいくつか差してくれ腰を下ろすための布も敷いてくれた。ありがとうとお礼を伝えて、先ずは女性陣が布の上に移動する。用意していた布と濡らした布で汗と手を拭いて頂き、ナイさまとジークリンデさんと男性陣に腰を下ろして頂いた。婚約者同士はお互いの隣に腰を下ろし、ナイさまを中心にジークリンデさんとジークフリードさんにクレイグさんとサフィールさんが固まって座っている。

 

 エーリヒさまがどこに座ろうかと迷っていたので、彼に視線を向けると気付いてくれて照れ臭そうに私の近くに腰を下ろしてくれた。アリサがそれに気付いてニヤニヤしているけれど、気付かない振りをしておいた。

 ナイさまたちにはアリアさまとロザリンデさまとアリサが作ったものを、エーリヒさまには私が作ったものを、ギド殿下とマルクスさまにはソフィーアさまとセレスティアさまが作ったものが渡るようになった。

 

 事前に皆さまと相談しておいたので、こういう布陣になったとも言える。アリアさんの気持ちをクレイグさんに気付いて貰いたいので、是非とも頑張って欲しい。彼女は家庭的で優しい子だけれど聖女を務めているので、男性にとって彼女の壁は厚いだろう。子爵邸で一緒に過ごしているクレイグさんならば、彼女のことを知る機会は多いはず。

 アリアさまは貧乏男爵家出身で政略婚はあり得ないと言っているけれど、そうなる前にお互いの気持ちが繋がって欲しいから。なにかきっかけがあれば動くのではとも考えた。

 

 難しいなあと悩みつつ、籠に掛けていた布を取る。他の方たちも布を取ったようで、男性陣とナイさまのどよめきが上がっていた。

 

 「えっと、包丁は危ないので下拵えは料理人の方にお願いしました。慣れない具材や苦手なものがあるかもしれませんので、好みの物を手に取って頂けると」

 

 一応、今回の企画の発起人なので音頭を取らなければと声を上げた。おにぎりはナイさまとエーリヒさま用で、ジークフリードさんたちは白米に慣れているとも聞いている。美味しく食べて頂ければ嬉しいなあと少しドキドキしながら、みんなが籠の中のお料理に手に伸ばすところを見つめてる。

 エーリヒさまはサンドイッチよりおにぎりが気になったようで、さっそく手を伸ばしてくれた。ラップがあれば握り易かっただろうけれど、流石にラップは存在しない。綺麗に手を洗ってから白米を手に取り、具材を詰めて塩を振ったけれど美味しいのか不安がある。

 

 「あ、梅干しですね。運動の後なのでしょっぱいのは有難いかもしれません」

 

 エーリヒさまは私が握ったおにぎりの三分の一を口の中に入れた。丁度具材も口の中に入ったようで、彼が選んだのは梅干しだった。ナイさまから頂いた品を持ち込んでいて良かった。白米はナイさまが持ち込んでいるものを分けて頂いている。

 一応、場所で具材はなにが入っているのか把握していたけれど、問われないままなのでエーリヒさまは好き嫌いが少ないらしい。あ、でも納豆が苦手と聞いたので少し寂しい気もするが、嫌いなものや苦手ならば仕方ない。

 

 「梅干しでしたか。他には鰹節や高菜も詰めていますよ。ナイさまのお陰で白米が食べられるのは本当に有難いです」

 

 「ですね」

 

 私の言葉にエーリヒさまが短く答えて、二口目を頬張り三口目でおにぎり一個が消えた。食べるのが早いなあと感心していると、エーリヒさまは一度手を拭いて次のおにぎりに手を伸ばしている。

 

 「男の方ですねえ。沢山あるので遠慮なくどうぞ!」

 

 学院のサロンで出されたお茶を飲んでいる時やナイさまの子爵邸に誘われて日本食を堪能した時よりも、エーリヒさまの食べっぷりは豪快だ。

 

 「すみません。沢山動いたのでお腹が空いて。でも明日が心配です」

 

 照れ臭そうに笑ったエーリヒさまは、またおにぎりにかぶりつく。

 

 「筋肉痛ですか?」

 

 「はい。いつも事務作業ですし、こんなに運動したのは久しぶりでした。疲れていないジークフリードとギド殿下とマルクスさまが鍛えているのが直に分かりましたよ」

 

 私も基本的に聖王国の教会で事務作業を行っているか、聖女として治癒を施しているかなので運動は滅多にしない。少し運動をしてみるのも良いかなあと考えながら周りを見る。

 ナイさまとジークフリードさんとジークリンデさんたちも、ギド殿下とマルクスさまたちも美味しそうにそれぞれが作った品を食べていた。少しでも距離が縮まると良いなと納豆サンドを食べながら願いつつ、私とエーリヒさまの距離も縮まれば良いのになあと願うのだった。

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