魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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※ちょっと時系列がおかしいですが、書いたので投げます。前半は主人公が星に新しい模様を作った直後になります!┏○))ペコ


0479:困惑のアルバトロス王国。

 ――今日は綺麗な星空だった。

 

 ミナーヴァ子爵家――正確にはアストライアー侯爵家だけれど――に勤め始めて三年近く経ち、お屋敷の不思議な出来事にも慣れてきている。騎士爵家出身でしかない私がご当主さまの侍女を務めているのは恐れ多いが、横柄な態度も威張りもしないご当主さまの下で働くのは凄くやりがいがあった。

 

 陽が沈むと同時に仕事を終え、仲の良い同僚とご飯を食べようと従業員用の食堂へと足を運んでいる最中だ。ご当主さま不在のお屋敷は少し寂しい気もする。いつも外でくつろいでいるエルさんとジョセさん一家もいないし、最近子爵邸に居着いたポチとタマとグリフォンさんもいない。

 その所為なのか、厩の馬が嘶く機会が多くなっていた。厩の世話人の方は『寂しいようです』と言っていたし、お屋敷で働く方たちも少し口数が減っている気がする。ご当主さまは波乱に巻き込まれることが多く話題が尽きない方だ。南の島から戻ってくれば、なにかまた事件に巻き込まれるだろう。そうなれば、きっと子爵邸はいつも通りになる。

 

 「もうすぐご当主さまたちが帰ってくるわね」

 

 「うん。ユーリさまをおいて休暇に入ったから、凄く気にしてたよね」

 

 やはり私と仲の良い同僚もご当主さまがいないと寂しいようだ。私の休暇はもう少しあとに取ることになっている。ご当主さまの意向で長期休暇の時期を自分で選択できるのだ。

 有給休暇? もお屋敷で働く方たちに浸透してきているし、夏と冬に出る特別手当が凄く得をした気がするし嬉しいことである。他にもご当主さまが取り入れている施策があるけれど、上げると沢山あるので割愛だ。もう暫くすればミナーヴァ子爵邸からアストライアー侯爵邸に居を移すので、私は侯爵邸で務めることができるのか。

 

 「あれ?」

 

 「どうしたの?」

 

 廊下を歩いていた同僚が窓際で足を止め、夜空を見上げた。私も彼女の隣に立って窓から空を見上げて同僚の視線の先を追う。そこには双子星が浮かんでおり、いつものように明るく光り輝いている。それならば彼女が空を見上げたとしても声まで上げるはずはないのだ。彼女が感じているものを見つけようと私は目を細める。――あれ?

 

 「大きな方の星の右下……あんな模様あったかな?」

 

 同僚が私と視線を合わせながら確認を取った。

 

 「なかったはずだよ。どうして急に跡が浮かんだの……?」

 

 私は彼女の疑問に答えながら不安に襲われた。夜空に浮かぶ星の模様が変わったことなんて今まで一度もなかった。隣に立つ彼女の顔色が悪くなっているのが手に取るように分かった。

 

 「え、やだ。なんだか怖い」

 

 「みんなに知らせよう。詳しい方がなにか知っているかもしれない!」

 

 彼女の言葉に同意しながら、食堂へ急ごうと促す。どうしてこんなことが起こったのだろう。不吉なことの前触れなのか、それとも良い兆しなのか。どちらかすら分からなくて、不安ばかりが増していく。夜の星について詳しい方がいるかもしれないと、お互いに頷いて食堂へと急ぐのだった。

 

 ◇

 

 今宵の星はいつにもまして美しい――……一国の王として執務を終えた私はワイン片手に城の窓から、煌々と光る宵闇の星を眺めていた。数々の星の中には、ひときわ大きな双子星がある。その双子星のお陰で真っ暗闇にはならず、今日は灯りを点けずにワインを楽しんでいた。

 

 「静かな良い夜だ」

 

 星明りが差し込む部屋で一人呟く。この数年間は怒涛の日々だった。息子の婚約破棄宣言から始まった多くの出来事は、私を王として大きく成長させてくれたのだろう。そして我が国自体も大陸各国に名を轟かせ、他の王から一目置かれている。

 

 もちろん、良いものばかりではなく妬みや嫉妬も向けられている。野心の高い王は私に直接嫌味を言ってくるし、アストライアー侯爵との縁を取り持って欲しいと囁く。私はやんわりと断っているが、叔父上……ハイゼンベルグ公爵は不敵に笑って相手を煽っていた。

 侯爵を紹介したとして、お前が差し出せる物があるのかと。叔父上の場合、相手が益を齎すとなればアストライアー侯爵に直接伝え『行け』と命じるだろう。そしてアストライアー侯爵も『はい』と頷き、アルバトロス王国に益を齎すようにと動く。

 

 それは二人の間で築いた信頼関係のお陰だと私は知っている。知っているが故に私はアストライアー侯爵に無理を命じることはないが、アルバトロス王国に危険が迫った時には彼女の命を失うとしても、王として『行け』と命じなければならない。

 まだ年若い少女に酷なことだが貴族とはそういうものであり、侯爵自身も理解しているはずだ。彼女は国に利益を齎すからこそ、私は王として彼女と彼女に連なる領地や民を守らねば。

 

 とはいえ、これから先も今のようなペースで事件が起これば私の胃が持たない。

 

 各国との関係強化を図れたが、全ての国と良いとは限らず我が国を憎々しく捉えている者たちもいる。口には出さないが、ありありと顔に出ているのだから分かり易い。

 

 ヤーバン王国もグリフォンの関係でアルバトロス王国とは友好関係でありたいと書状が届いているので、彼の国を恐れる周辺国は我らに手出しできぬだろう。北のミズガルズ神聖大帝国も東のアガレス帝国と共和国も今の所アルバトロスに手を出す気はない。ヴァイセンベルグ辺境伯の大木の下には竜たちが集い、ミナーヴァ子爵邸には竜と天馬とフェンリルとフソウの神獣とグリフォンがおり、グリフォンの卵も二個産まれている。

 

 精霊も居着いているし、猫又もいて、凄く強いらしいスライムもいる。亜人連合国の者たちもアストライアー侯爵と懇意にしているのだが……侯爵の下に武力という力が集結し過ぎている。

 彼女がもし苛烈な者であればアルバトロス王家から玉座を奪い新国家を樹立し、西大陸の覇者になり北大陸と東大陸と南大陸に攻め入っていただろう。幸か不幸か侯爵は基本的に平和主義である。敵に回さなければ彼女は普通の少女なのだから。

 

 「ふう。これから先、早々大きな事件など起こるまい」

 

 そう、大きな事件など起こらないさと双子星に私はまた視線を向けた。

 

 「ん?」

 

 少し違和感を受けて声が漏れた。双子星は私が生まれた時から、夜になれば自然と現れ見慣なれたものである。その見慣れているはずの双子星の片割れ、少し大きな方の星の姿が様子を変えていた。

 丸い星の右下部分。いくつもある丸い模様がひとつ増えている。それも小さなものではなく、割と大きい形だ。数日前に夜空を見上げた時は変化に気付かなかったのだが、一体いつの間に変わってしまったのだろう。

 

 「不味い変化だな」

 

 また一人、部屋で呟く。双子星の片割れに突然現れた変化は占い師や呪術師たちが一儲けのために、平民たちの不安を煽りかねない。今年は不作になると煽り、逃れるためには呪符を買えと商売を始めるのだ。それだけならまだ可愛らしいものである。国が滅ぶ前兆だと煽り、信じた民が不安に駆られれば脆くも崩れ去る時もあろう。少し手を打たねばと窓から離れようとした時だった。

 

 「陛下、急ぎお伝えしたいことがあります」

 

 宰相の声が扉の外から聞こえた。

 

 「どうした、入れ」

 

 私は問題ないと判断して入室を促す。部屋の外で警備を担う近衛騎士が扉を開ければ、少し息を切らした宰相が部屋の中へと勢い良く入ってくる。

 

 「南の島に休暇に赴いているアストライアー侯爵から連絡が……」

 

 「……どうした?」

 

 宰相の言葉に私の返事が少し遅れてしまった。さて、なにを聞かされるのだろうかと覚悟を決める。――もしや双子星の傷は……いや、まさか。

 

 「陛下から下賜された錫杖を使用して全力の魔術を空へと向かって放ち、双子星の片割れに衝突して形状を変えてしまったと……にわかには信じられませんが、アストライアー侯爵のことです。多大な魔力で星まで届いてしまったのでしょう」

 

 宰相は続けて、亜人連合国からも同様の連絡が入っていることを私に伝える。どうやらアストライアー侯爵が嘘を吐いているのか我々に疑われぬようにと、同時に連絡を寄越したようだ。侯爵が嘘を吐くことはないが、信じない者がいた場合の想定だろう。にわかに信じがたい出来事であるが、彼女であれば可能であろう。大量の魔力を有し、彼女に惹かれている魔獣や幻獣が沢山いる。

 双子星からなにかやってこないか心配になってくるが、まさかと首を振った。先ずは亜人連合国と侯爵に返事をして対策を取らねばならない。

 

 「…………そうか。しかし民たちは真実を知らぬ。おそらく噂になり不安を覚える者もいよう。夜が明け次第、騎士団と軍の者たちに王都の状況を調べさせ、必要であれば真実を打ち明けよ」

 

 王都の民だけではなく、アルバトロス王国中の者たちが不安に陥る可能性がある。各地の領主たちにも理由を告げねばならないと宰相と顔を合わせた。

 

 「陛下、他国の者たちも不安に駆られてしまい、占い師たちはこぞって民を煽りそうですな」

 

 「宰相も私と同じ見通しか。騒ぐだろうなあ……厄介な国は責任を取れと言いそうだ。まあ、取る責任などないから突っぱねるが」

 

 宰相の言葉に私は抑揚に頷く。双子星に人間や亜人、そして生き物が住んでいると聞いたことがない。一番有力な説によれば、空気が存在せず生き物が住めない場所だとか。仮に双子星に生き物が住んでいようとも、こちらと連絡手段がないし、こちらも向こうに連絡手段がない。ようするに、どうにかしたくともどうにもできないのだ。

 

 「南大陸の者にはどう説明なさいます? アストライアー侯爵は女神の力を多大に引き継いでいると盛り上がりそうですが……」

 

 「妙なことを口にしないでくれ。秋には南大陸の王族がアルバトロスにくるのだぞ?」

 

 そう。秋には南大陸の女神の怒りを買ったという王族が、アストライアー侯爵の浄化魔術を受けるためにアルバトロスにやってくる。呪いが消えるかどうかは分からないが、彼女に向けている信仰心が妙な方向へと走らなければ良いが。

 

 「呪いが消えれば女神から許されたと勘違いしそうですな」

 

 「…………」

 

 どうして宰相も叔父上も私の胃に痛みが走る言葉を口にするのだろうか。面白がっていないかと言いたくなるが、王として威厳がなくなるので口にはしない。ヘルベルト、お前は私よりアストライアー侯爵との付き合いが長くなるはず。

 私が……父がせめてもの手向けとして良い胃薬を見つけ出してやるからなと心に誓っている。亜人連合国のエルフが作った薬草茶も効くし、フライハイト男爵領で採れた薬草で作った薬も良く効いたのだが最初だけだった。

 

 「とにかく関係各国に連絡を。友好国から急いでくれ。もちろんアルバトロス国内も優先だ」

 

 「承知致しました。外務部と協力し事に当たりましょう」

 

 宰相が礼を執り部屋から出て行く。星見を楽しむのもこれまでかとワインを執務机に置き手紙を認めるのだった。

 

 ◇

 

 フィーネさまが作った納豆サンドは衝撃だった。好きなものを悪く言うのはアレだけれど、苦手な人間からするとちょっとドン引きである。エーリヒさまも納豆が苦手なのだが、食べられないことはないので挑戦していた。

 勇者だなあと感心しつつ、アリアさまとクレイグとサフィールの面々を見ると、クレイグが妙に緊張している。サフィールはいつも通りなのだが、なんでクレイグが緊張しているのだろうか。アリアさまはとっつきやすい方だし、身分的にもあまり問題はない。クレイグがお互いの身分を読み違えるはずはないのにと私は首を傾げていた。

 

 そして現在……アルバトロス王国の王都では、大きな衛星の片方の模様が変わったことが大騒ぎになっているらしい。

 

 アルバトロス上層部に出した手紙に申し訳ございませんと記しておいたが、陛下たちは大変な思いをしているかもしれない。島から戻ったら果物やなにかお礼の品を差し入れしようと考えている。

 騒ぎになるのは予想済みだから各国にも連絡を入れるようにお願いしたのだが、どうなっているのやら。やってしまったことは元に戻せないし、ごめんなさい行脚をしろと命じられれば行くしかないのだろう。

 

 気持ちを切り替えて。今日は前にやった釣りのリベンジをしようとなった。

 

 前回はフィーネさまが黒鯛を一匹だけという寂しい釣果に終わったので、今日は是非とも大漁となれば良いのだけれど。釣り竿代わりに錫杖の先に糸を垂らそうと考えたが、流石に変なものを釣ってしまえば事後処理が面倒である。諦めて普通の木を加工して、釣り竿を新たに作った。リールはないので釣れたら手で手繰り寄せるつもりである。そのための手袋も用意したし、岩場から蟹やゴカイを採って餌も準備完了だ。

 

 「よし。今日は釣ろうね」

 

 ふん、と息を吐いて幼馴染組に声を掛けた。

 

 「釣れると良いな」

 

 「本当にね」

 

 クレイグが全く期待していない顔で答え、サフィールも彼と同様に釣れないと思っているようだ。

 

 「運次第だ。気長にいこう」

 

 「ナイ、頑張ろうね」

 

 ジークとリンは私にフォローなのかフォローでないのか微妙な声掛けである。みんなテンション低くないかなと首を傾げると、私の肩の上に乗っているクロが顔を擦り付けてきた。

 

 『大きいお魚が釣れると良いねえ』

 

 「うん。沢山釣って沢山食べたいね。そうだ、クロはお魚は食べられるの?」

 

 前に釣ってお魚を焼いた時は遠慮しておくと言って食べなかった。彼らは雑食と聞いているけれど、果物以外を食べているところを滅多に見ない。

 

 『焼けば食べられるけれど、やっぱり果物の方が好きかな。甘い方が好みだよ』

 

 どうやら生魚は駄目で焼き魚は普通、果物の方が好みのようだ。無理して食べなくても良いかと、クロの顎下を指で撫でると嬉しそうに喉を鳴らす。とはいえこれで話が終わるのは面白くない。

 

 「お子ちゃまだねえ」

 

 『ナイだってお菓子を嬉しそうに食べているじゃない。ボクのことは言えないでしょ』

 

 揶揄ったつもりが、クロに揶揄い返されてしまったと肩を竦め海の磯部まで移動を開始する。今回の面子は幼馴染組のみだ。他のメンバーは探検も飽きたし、ロッジでゆっくりと過ごすと言っていた。

 

 ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちもロッジでまったり過ごすそうだ。エルとジョセ一家とグリフォンさんも外でまったりと過ごすとのこと。そういえば、ポチとタマは一体どこに行ってしまったのだろう。

 島から出るなら一声かけてねと伝えているが、自由気ままなポチとタマである。どこか遊びに行った可能性も高いはず。まあ自由に遊べるのは良いことだし、危ない目に合えば飛んで帰るはず。

 

 森を抜け浜辺を歩いて行て暫く、ようやく磯辺に辿り着いた。足元が悪くジークとリンが私の手を引いてくれる。偶につるっと滑るのだが、どうしてジークとリンは確りと立っていられるのだろうか。鍛えている上に体幹が強く、私を抱えても余裕そうにしているのが羨ましかった。岩場の足元が良い場所に立ち、竿を投げようとした時だ。

 

 「妙なモン釣るなよ、ナイ~」

 

 クレイグが揶揄いを含む声で私を見ている。彼はぽりぽりと後ろ手で頭を掻いているので、多少は心配も含まれているようだが。

 

 「クレイグ、期待しているの?」

 

 私はそんな彼に、口の端を伸ばしながら答える。妙なものを釣れる可能性は低いだろう。そもそも釣れるのであれば前回、海に糸を垂らしていた時に引っ掛かっているはず。それがなかったので安心しても構わないはずだ……たぶん、多分。

 

 「ちげーわ! 本気で変なものを釣るなと俺は心配してんの!」

 

 クレイグがそう言って言葉を続ける。彼曰く、前はエーリヒさまとフィーネさまとアリサさまがいたから妙なものが釣れなかったのでは、と。今回は幼馴染組だけで遊びにきているので、なにか起こりそうな予感がして仕方ない、と。

 

 「流石にもう大丈夫だよ。だって空飛び鯨さんは前に助けたし、釣るって一体なにが釣れるの?」

 

 釣れてもお魚さんが精々だし、そもそも妙な生き物が釣り針に引っ掛かるはずはない。クレイグの顔を見ると言葉に詰まったようで、少し考える様子をみせた。

 

 「……クラーケンとか海に住む竜とかか? なにせ強くてやべー奴だよ。ナイは引き寄せるだろ」

 

 クラーケンって大きな烏賊だっけ。ダイオウイカとかと見間違えた可能性がありそうである。それにしても……。

 

 「ねえ、クロ。海に住む竜なんているの?」

 

 気になって私はクロに視線を向けた。クロもクレイグと同じように考える素振りを見せながら、長い尻尾を動かして私の背中をぺちぺち叩く。

 

 『うん、いるよ。ボクは一度も会ったことがないけれど、見たって仔はいたねえ』

 

 クロの言葉にそうなんだと返事をして、海へ竿を投げた。私の姿を見たクレイグが肩を竦めてサフィールとジークへ視線を移す。どうやら三人固まって釣りをするようで、リンが私の隣に立つ。

 

 「リン、クレイグとサフィールとジークに負けないように頑張ろうね」

 

 「うん。沢山釣ろう」

 

 リンの顔を見上げると彼女がへにゃりと笑い、ネルが一鳴きする。二人とも――一人と一頭が正解か――可愛いなと見ていれば、クロがべしんと私の背中を尻尾で叩く。クロも仲間に入れて欲しかったようで、申し訳ないと顔を撫でると機嫌が戻る。

 針に蟹を刺して竿を勢い良く振って、なるべく遠くへ糸を飛ばす。重りのお陰でそれなりに飛ぶけれどリンには敵わず、彼女は私の三倍近く遠くに飛ばしていた。

 

 「凄いなあ」

 

 「次に投げるのは私がやろうか?」

 

 私が感心しているとリンが首を傾げながら問う。確かに最初の遠投を彼女に任せてみるのもアリかと私はリンにお願いをした。一投目は自分で投げた糸を暫く待ってみようと、竿を時折上げたり下げたりしながら魚のアタリを待っている。

 魚が餌を突いている感覚が手に伝わるけれど、ぱくっと咥えてくれない。もうそろそろ糸を巻いて、餌を付け替えても良いかなと竿を上げた。

 

 「あれ? 根がかりしちゃった」

 

 私が投げた竿の糸が海底のなにかに引っ掛かったようだ。石なのか珊瑚なのかゴミなのか分からないが、竿を上げると糸が張り動かない。諦めて糸を切ってしまっても良いが、流石に海の中にゴミを残すのは気が引ける。

 どうにか針が外れないかなと、竿を何度も上げたり下げたりを繰り返してみる。私の様子に気付いたリンが心配そうにこちらを見ていた。

 

 「リン~凄いの釣れたよー星が釣れたー!」

 

 心配そうにこちらを見ているリンに私は笑いながら冗談を投げる。クレイグが釣りを開始する前に言った言葉が現実になった。確かに星を釣れば凄いことである。よし、これ以上凄いものが釣れるものはないと竿を力一杯引き上げようとした時だった。

 

 「あれ?」

 

 素っ頓狂な声が私の口から勝手に漏れた。かくんと膝が落ちて岩の上に尻餅を付く。驚いたクロが私の肩から飛び上がって、顔の前で滞空飛行して顔を覗き込む。

 

 『ナイ、大丈夫!?』

 

 「ナイ!」

 

 リンが竿を上げて慌てて私を抱える。クロとリンに視線を合わせながら、私の身に起こったことを伝えるべく口を開いた。

 

 「ごめん、貧血と言いたいけれど……魔力を持ってかれた……酷くない?」

 

 『前に一度繋がっているから、ナイの魔力は取り易いのかもしれないね』

 

 私がむーと口を尖らせているとクロが仮説を立ててくれた。確かに島に向かって魔力を注ぎ込んだから私の魔力を感知し易いのかもしれないが、それにしたって声くらい掛けてくれれば良いものを。

 声掛けがあれば魔力を練って今以上のものを渡せたはずである。まあ話の内容次第で渡したかどうかは分からないけれど……まあ、なにせ、予告なしの盗みは勘弁して欲しい。

 

 「大丈夫なの?」

 

 リンが声を上げると同時にクロが私のお腹の上に乗り、肩まで昇ってきた。こてんこてんと顔を左右に倒しながら、なにかを確認しているようだった。納得したのかクロは私に顔を擦り付けて、リンの様子を伺っている。

 

 「うん、勝手に魔力を取られて驚いただけで大したことはないよ。その証拠に気絶していないでしょ」

 

 リンが支えてくれていた手をやんわりと放して、私は立ち上がる。魔力を勝手に奪われて驚いたけれど、状況を理解出来たから身体と脳味噌が追いついたようで意識は確りとしていた。魔力もそれなりに減ったけれど遊ぶだけなら問題ないし、お城の魔力補填をお願いされても快諾できる。

 

 「そうだけれど。驚いた……」

 

 「ごめんって。星が釣れたーなんて冗談は言わない方が良いみたいだね」

 

 リンと話していると、ジークが私たちに気付いたようでこちらへやってきた。

 

 「ナイ、リン」

 

 「ジーク、どうしたの?」

 

 私とリンはジークと顔を合わせた。彼は少し気を張っているから、先ほどの場面をばっちりと見ていたのだろう。

 

 「どうしたのじゃないだろう。ナイが地面に尻餅を付いていたが大丈夫なのか?」

 

 「大丈夫だよ。なんだか勝手に魔力が取られて驚いただけだから。クロ曰く、以前に島に私が魔力を注いだから繋がり易くなっているんだって。さっき釣り針が海底に引っ掛かったから、それが切っ掛けみたい」

 

 嘘は良くないので、私はなにも誤魔化さずにジークに説明をする。

 

 「……そんなことがあるのか。クロが言うなら信じるが、本当に体調に問題はないんだな?」

 

 「うん。お魚さん一杯釣りたいから、一回投げたくらいじゃ疲れないよ」

 

 今日の目的はお魚さんを沢山釣ることだ。潮の満ち引きがあるので、干潮になるとこの場所で釣りができないからそれまでには釣果を上げたいところだ。

 

 「分かった。調子が悪くなったら直ぐに教えてくれ。海と魚は逃げやしないんだ。また明日も出掛ければ良いだけだろう?」

 

 「子供を諭すみたいに言わなくても」

 

 ジークの言い方に私は肩を竦めながら苦言を呈した。

 

 「ナイは無茶をするからな」

 

 「ジークたちは釣れたの?」

 

 いつもの返事だったので話題をすり替えてジークに問う。

 

 「小さいのが何匹か。美味いと良いんだがな」

 

 どうやらクレイグとサフィールとジークは既に釣果を上げているようだった。私たちはまだボウズなので頑張ってなにか釣らなければ、また自分で釣ったお魚さんを食べられない。フィーネさまが釣り上げた黒鯛のように大きなものは狙っていないが、手のひらサイズの塩焼きに丁度良い型を望んでいる。お刺身は、温かい気温と寄生虫が怖いので食べていない。

 

 「良いなあ、釣れたのか。リン、私たちも頑張ろう」

 

 私はジークからリンへと視線を移すと、リンがへなっと笑った。

 

 「うん。でも無理しないでね」

 

 「分かってるよ。根がかりしないように気を付ける」

 

 ジークとリンが釣りを続行させてくれたのは私の顔色がいつも通りだったからだろう。悪ければ、撤収を告げて私を抱えながらロッジに戻っているのだから。ジークが小さく笑うとクレイグとサフィールの下へと戻って行った。

 

 リンと視線を合わせて根がかりしている竿を持ち、もう一度引き上げると針が海底から外れたようで回収できた。良かったと安堵して、今度はゴカイを針に付けてリンが海に投げ入れてくれた。ぽちょんと音を立てて水中へと沈んでいく仕掛は、時間を掛けて海の底に辿り着いたようだ。ゆっくりと竿を上げ下げして、泳いでいるお魚さんを誘う。

 

 『殺気が強いような……』

 

 クロが私の肩の上でぼそりと呟く。殺気をだしているつもりはないし、釣れて欲しいなと願っているだけである。

 

 「そんなつもりはないのに」

 

 「気長に頑張ろう、ナイ」

 

 リンの声に頷けば、針に反応が現れる。何度かちょこんちょこんとあたりがあって、次の瞬間にぐっと竿が持っていかれる。よっしゃ! と声を上げそうになるのを我慢して、私は竿を引き上げた。

 

 「掛かったー!!」

 

 できれば採ったどーと言いたいけれど、それは釣り上げてからの話である。ぐぐぐとしなる竿に私の口の端が伸びていく。これ、フィーネさまが釣り上げた黒鯛より良いサイズなのではなかろうか。

 竿のしなりが半端ないし、力も強い気がする。惜しいことは、私の力が足りなくて糸がどんどん沖へと持って行かれていることだ。強化魔術を自分に施せれば、自力で釣り上げることができたのにと心の中で悔し涙を流す。

 

 「大きそうだね。ナイ、頑張って!」

 

 リンが期待の眼差しで私を見るので、バレる訳にはいかないと必死に竿を上げて糸を巻いているのだが、お魚さんとの駆け引きは相手の方が一枚上手のようだ。

 

 「リン、助けてー!」

 

 もう無理だと判断してリンに助力を願うと、彼女は待っていましたとばかりに私の背に回って後ろから両手を伸ばして竿を支えてくれる。

 リンの力が凄いのか、それとも魚が弱ってきたのか糸を巻く早さが上がる。どんどんとお魚さんとのご対面が近づいてくると、心臓をドキドキさせていると魚影が見えてきた。かなり大きなサイズというのが今の段階でも分かる。さて、もう少しと気合を入れるのだった。

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