魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0483:帰郷。

 南の島での滞在期間が終わり、アルバトロス王国へ戻ってきた。

 

 子爵邸に戻って急ぎの仕事を片付けて、ユーリの下へと向かう。四週間ほど会っていないから、私のことを忘れ去られていないか不安だ。乳母さんには私が部屋に向かうことを告げてあるので問題なく通してくれる。ユーリの部屋の前で立ち止まり、ノックをすれば乳母さんの声が返ってきた。

 一緒に部屋に赴いているジークとリンと一緒に扉を開けて中へと進めば、私の姿を見た乳母さんが丁寧に腰を折った。

 

 「ただいま戻りました。ユーリをずっと任せっきりにして申し訳ありませんでした」

 

 「おかえりなさいませ、ご当主さま。彼女の面倒をみるのが私たち乳母の仕事です。どうか仕事を取り上げないでくださいまし」

 

 私の言葉に乳母さんが笑みを浮かべながら答えてくれた。冗談の範疇と分かっているし、私が出しゃばり過ぎると彼女たちの仕事を奪う羽目にもなる。島にユーリを連れて行かなかった理由は、まだ小さいからに限る。

 病気の予防接種とかないし、なにが起こるか分からないので念のためだった。乳母さんと留守中のユーリの様子を聞きながら、ベビーベッドの下へ行く。ユーリは私の顔を見ると『あいー』と言葉にならない声を出して手を伸ばしている。

 

 「ただいま、ユーリ。良い子にしてたかな? あれ、ちょっと重くなった? 少し大きくなっているような?」

 

 私はユーリの両脇に手を入れて彼女を抱き上げた。子供特有の体温の高さ故か熱の伝わりが早い。島に出発する前より彼女が重い気がするし、なんだか大きくなっているようなとジークとリンを見た。そっくり兄妹はイマイチ分かっていないようで右に少し顔を傾けて、彼らの肩の上に乗っているアズとネルも一緒に右側に身体を倒している。

 

 「私には分かりませんが、幼い子供ですから成長は早いかと」

 

 乳母さんがくすくす笑いながら教えてくれた。簡単に測れる体重計はないし、なんとなく自分で感じ取るしかないのだが確実にユーリは重くなっている。掴まり歩きとかもし始めているし、彼女の成長は順調そのもの。

 

 「あ、そうだ。お土産預かっているんだよ。島の貝殻をフィーネさまがユーリにって私に預けてくれたんだ」

 

 私はフィーネさまから預かった貝殻をユーリに見せる。フィーネさまとの別れ際、ユーリにと手渡してくれたのだ。彼女の隣にはエーリヒさまが立っており、いつもより半歩距離が近いような気がしたのだがなにかあったのだろうか。

 偶々だろうと、皆さまとの別れを惜しみつつそれぞれの家へと戻ったのが昨日である。長期休暇はあと一ケ月残っているので、ソフィーアさまとセレスティアさまは実家の領地に戻っている。いつもより静かな子爵邸だけれど、屋敷が機能する人員は残してあるので問題はなかった。

 

 「巻貝だから耳に当てれば波の音が聞こえるんだけれど……まだ分からないよねえ」

 

 私はユーリの顔を見てむーっと口を伸ばす。内陸国家だから海を見たことがある人はかなり限られる。それこそ高位のお貴族さまがお忍びで、国外へ赴いた時くらいではなかろうか。現に乳母さんは波の音がどんなものか分からないので、頭の上に疑問符を浮かべていた。

 そう考えると私は凄く恵まれているなあと、貝殻がなにか分からず不思議そうな顔になっているユーリに苦笑いを向ける。

 

 「音を聞かせることはできるんじゃないか?」

 

 「海の波音がどんなものかは、大きくなってから分かれば良いんじゃないの、ナイ」

 

 ジークとリンがユーリの代わりに答えてくれた。聞くだけなら今でもできるし、おいおい貝殻がなにか教えて、海の波がどんなものなのかも伝えなければなあとユーリの小さな耳に貝殻を当てた。彼女は私がなにをしているのかさっぱり分からず、手を伸ばして貝殻を取ろうとしている。

 

 「音より、見えるものに興味があるみたいだな」

 

 「ナイに似てきている?」

 

 ジークが苦笑いを浮かべ、リンが私とユーリの間に視線を彷徨わせた。

 

 「似てるのかな? 黒髪黒目だからそう感じるだけかも……」

 

 半分血を分けた姉妹だし、似てたらそれはそれで嬉しいけれど。クロが私の顔とユーリの顔を見て不思議そうに首を傾げる。鏡を見て私の顔がどんな造形をしているのか理解しているが、ユーリと似ているのだろうか。彼女と似ているイコール実父と似ているとなるから少々複雑ではあるけれど。

 でも、私と顔が似ていればユーリが将来育った時にプラスになるかもしれない。ミナーヴァ子爵位を譲る予定であるし、変なやっかみは減りそうではある。成長したユーリ次第だなあと笑っていると、アンファンが部屋に顔を出した。

 

 「アンファン、お久しぶりです」

 

 「お久しぶりです、ご当主さま」

 

 私の姿を見て少し身を固くした彼女だが、ちゃんと頭を下げてくれた。彼女も少しずつ成長しているようだと感心しつつ口を開いた。

 

 「ユーリのお世話お疲れさまです。島のお土産を持ってきていますので、託児所で先生たちから受け取ってくださいね」

 

 私はアンファンと託児所の子供たちと子爵邸で働く方々にお土産を用意していた。大袈裟な品ではなく島で取れた果物だ。物品だと売り払ったりしたら問題になりそうで、消費できる品となれば島の果物が無難だった。

 お猫さまには島の魚を持ってきているので、凄く喜んでくれていた。ジルヴァラさんにはドワーフさんが作ってくれた箒と塵取りを贈ったのだが、これがお土産で良かったのだろうか。本人が喜んでいたから良いけれど、もう少しお土産の選択肢が増えると嬉しい。なにをお土産にするかは毎度悩ましい。

 

 「また屋敷が騒がしくなると思いますが、ユーリのことよろしくお願いします。もちろんユーリのことだけでなく、自分自身のことにも向き合ってくださいね」

 

 「……はい。ありがとうございます」

 

 私の言葉にアンファンは少し間を置いて返事をくれた。少し抽象的だったかなと反省しつつも、彼女にはユーリのことだけでなく自分のことも考えて欲しいと願っている。

 ユーリの側仕えとして働くのも良いが、なにかやりたいことがあるなら、進む方向を変えても構わない。魔術師に騙されて利用されたテオだって騎士の道を進み始めている。彼の妹であるレナも服飾関係の店で働くため、シスターたちから刺繍やら裁縫を仕込まれているそうだ。

 

 「申し訳ありませんが、ユーリのことお願いします」

 

 私はアンファンにユーリを預け、乳母さんにも彼女をお願いしますと告げて部屋を出た。もう少しユーリの相手をしたかったけれど、一緒に戻っているポポカさんたちの様子も気になる。南の島とアルバトロス王国では環境が違うし、なにか体調の変化があるかもしれない。ポポカさんとグリフォンさんの卵さんは陽当たりの良いサロンを住処として貰った。

 

 「さて、ポポカさんたちの様子もみてみようか」

 

 「ああ」

 

 「ん」

 

 ユーリの部屋の前から長い廊下をジークとリンと私は歩いて進む。階段をおり、一階にあるサロンへと足を向けている途中だった。目の前に黒い小さな物体、お猫さまが三叉の尻尾をゆらゆらと動かしながら私の方へとてててと小走りできた。私の前でピタッと止まり前脚を揃えて廊下にお尻を付けたお猫さまは金色の瞳を私に向けた。

 

 『おお、主! こっちにいたか。土産の魚はもうないのか?』

 

 どうやらお土産のお代わりを催促しにきたようだ。きらきらと目を光らせながらうっきうきで問うてくる姿に私は少し申し訳なさを感じつつ、お猫さまのちょっと出ているお腹に視線をやった。

 

 「お猫さま、お魚さんは食べた分しかないですよ。それに一気に食べるとお腹を壊します」

 

 お猫さまは野良生活から家猫へと変わったためか、お腹周りのお肉が多くなっている。たるんと垂れているし、そろそろダイエットを考えても良さそうだった。

 お猫さま曰く、野良時代と食事量は変わっていないので運動の必要はないらしいが、たるんと垂れているお腹はよろしくないように見える。せめてお代わりは控えて貰おうと、持って帰ったお魚さんは打ち止めだと告げた。

 

 『美味いからもっと食べたかったのだが……』

 

 しょぼんと私から視線を外したお猫さまは廊下の床を見つめている。お猫さまの視線が下がれば、ゆらゆらと揺れていた三叉の尻尾も廊下にぺたっと付いていた。少し可哀そうだが、これもお猫さまの健康のためである。

 

 「また海のお魚を仕入れてきますから、少し我慢してください」

 

 お猫さまは川魚より海のお魚が気に入ったようで、度々美味しいと主張していた。仕入れ状況もあるから直ぐに用意できないけれど、料理長さんたちにお願いすれば入手してくれる。

 

 『本当かっ!? 美味しい魚がまた食べられるのか!?』

 

 私の言葉にぱっと顔を上げたお猫さまは嬉しそうに尻尾をゆらゆらと揺らし始めた。

 

 「はい。あ、そうだ。お猫さまは島からポポカさんたちを預かったことは知っていますよね?」

 

 『話はジルヴァラから聞いたぞ。なんでも鳥がグリフォンの卵を温めるようになった、と』

 

 屋敷の皆さまに通達は済んでいるけれど、お猫さまは時折『そんな話は聞いていないぞ!』と仰る時がある。本当に聞いていなかったのか、あるいは聞き逃したのかは分からないが確認は何度やっても構わない。

 

 「はい。ポポカさんたちと仲良くして頂けると嬉しいです」

 

 『鳥とぉ? 狩猟本能が疼けばどうなるかわからんぞ?』

 

 お猫さまが床からお尻を上げて私の周りをくるくると回り、ドヤ顔で言い切った。

 

 「お猫さま……お猫さまが狩りをしている所を私は一度も見たことがないのですが……お猫さまに狩猟本能は備わっているのですか?」

 

 お猫さまと出会ってから、お猫さまが自前でご飯を用意したことはないはず。仔猫のお世話をしていた頃は、子育てが大変だから人間を頼ったのだろうなと一人納得していたが、仔猫たちが巣立ってからもご飯を自分で用意することはなかった。

 ポポカさんたちを仕留められるのか謎だよなと考えるが、ポポカさんたちは島で生存数が少なくなっているのでお猫さまに仕留めて貰うわけにはいかない。

 

 『し、失礼だな、主は! しゅ、狩猟本能くらいあるぞ! 嗚呼、あるともさ。なにせ猫だからな!』

 

 私とお猫さまのやり取りに、後ろで控えているジークとリンが苦笑している気がする。クロも信じられないようで『本当かなあ……』とお猫さまに懐疑な視線を向けていた。

 

 「預かったポポカさんたちは襲わないでくださいね」

 

 大蛇さま……もといガンドさま曰くポポカさんは美味らしいから、お口が肥えているお猫さまが気に入ると大変なことになりそうだった。

 

 『お主次第だな』

 

 とりあえず釘を刺して、お猫さまと共にサロンに向かう。歩くのが面倒だったのか、お猫さまが私の胸元にひょいっと跳んできた。そんなお猫さまを私はキャッチしてそのまま歩いて行く。

 

 『ポエ~』

 

 『ポエー』

 

 サロンに入るとポポカさんたちが、陽射しの温かさに微睡みながら奇妙な声を上げていた。

 

 『なんじゃ、このでっぷりとした鳥は……脂が多そうじゃな』

 

 お猫さまが開口一番、ポポカさんたちを初めて見た感想を告げる。確かに丸いフォルムなのででっぷりとしているように見える。そのでっぷりとしたお腹の下にはグリフォンさんの卵が二個、確りと抱えられていた。

 

 『グリフォンの卵は順調なのか?』

 

 抱っこしているお猫さまが私の顔を見上げる。

 

 「多分、大丈夫かと」

 

 『多分ってお主、適当だなあ』

 

 私の腕の中にいたお猫さまがひょいっと降りて、ポポカさんたちの側に寄る。ポポカさんたちはお猫さまを気にする様子はなく『ポエ~』と小さく間抜けな鳴き声を漏らしている。

 

 「流石に育てたことはありませんし、グリフォンさんも分からないと仰っているので」

 

 『本当にこの鳥たちは卵を抱いておるのか?』

 

 首を傾げたお猫さまが前脚を片方上げて卵へと伸ばそうとしたその時だった。

 

 『ポエーーーーーーーーーーーーーーーー!』

 

 『ポエ~~~~~~~~~~~~~~~~!』

 

 お猫さまが脚を卵へと伸ばした瞬間にポポカさんたちが目をかっぴろげて凄い大きな鳴き声を出した。子爵邸のお屋敷全体に響く声に驚いた方々が何事かとサロンに駆け込んでくる。

 私は屋敷の皆さまに理由を告げ、心配は要らないと納得して貰った。ポポカさんは大変お怒りのようで、身体の大きさにそぐわない小さな翼を広げながら、大きく嘴を開けてお猫さまを威嚇している。

 

 『お、おお……すまぬ。もうやらんから、許してくれ……』

 

 へちょっと耳を垂らしたお猫さまが、お怒りモードのポポカさんたちに平身低頭謝っていた。なんだか微笑ましいなあと笑っていると、お猫さまは暫くサロンには寄り付かないと言い残し、尻尾を下ろして部屋を出て行くのだった。

 

 ◇

 長期休暇、というか貴族のバカンスは残り一ケ月を切っている。

 

 残った一ケ月は王都の子爵邸でゆっくり過ごそうと考えていたのだが、学院を卒業したならば領地に戻った方が良いと家宰さまに助言を頂いていた。

 

 どうやら、領地持ちの当主が自領をずっと留守にしていると、領民の方々から『領地を治める気がないのでは?』と不安がられるそうだ。特殊な事例だけれど、確かに言われてみればずっと王都に居着いていれば文句の一つも言いたくなるだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまにアリアさまとロザリンデさまも領地に里帰りしているし、聖女のお仕事も落ち着いている。

 

 アルバトロス王国と教会には緊急の用件があれば遠慮なく呼び出してくださいと伝えて、ミナーヴァ子爵領へと幼馴染組で足を運んだ。と言っても、ロゼさんに転移を依頼したので一瞬で移動が可能だけれど。

 

 ロゼさんの転移で子爵領のお屋敷の庭に転移した。あとでエルとジョセ一家とグリフォンさんが飛んでくる予定だ。一応、アルバトロス上層部に許可を得て、移動ルートの領主さまには声を掛けているから、騒がれないと信じたい。

 

 ポチとタマはお留守番をするそうで王都の子爵邸に残っていた。私の影の中からヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがひゅばっと出てくると、毛玉ちゃんたちも影の中から順番に出てきた。

 毛玉ちゃんたちにとって見慣れない場所のため、遊びに行って良いかと期待の目で見つめられる。私はお屋敷の中で悪戯しないなら好きにして良いよと伝えると、毛玉ちゃんたちはヴァナルと雪さんたちの許可を取ってぴゅーっとダッシュして、邸の方へと走っていく。

 

 「新しい屋敷の方に泊るのか?」

 

 「ううん。そっちは家具の搬入とか細かい所がまだ終わっていないから、元々のお屋敷の方で過ごそうって決めてるよ。それに新屋敷は広いから落ち着かない……」

 

 ジークの疑問に私は答えた。子爵領の新屋敷はアルバトロス王家とハイゼンベルグ公爵さまとヴァイセンベルク辺境伯さまがお金を出して、新築されたものである。当然、凄くご高名な方々が出資したのだから名に恥じない出来になっているので、子爵領のお屋敷なのに伯爵家規模あるのだ。

 聞いた話によるとバーコーツ元公爵領にある領主邸の方が広いらしいのだが、私にとって子爵領の新屋敷は滅茶苦茶広いという感覚しかない。いつかは慣れるだろうけれど、今はまだ良いかなと目を逸らしていた。

 

 「まあ、休みで人手が足りねえんだ。元男爵家の屋敷の方が使用人連中には都合が良いだろ」

 

 クレイグが両手を頭の後ろに当ててお屋敷を見上げている。貴族のバカンスの時期ということは雇っている使用人さんたちもお休みに入っている。交代でお休みを取ってお屋敷の運営には問題ないし、南の島に出掛けていたから留守の時は本当に最低限の方々がお屋敷に残っていたのだ。

 

 「かもしれないね。でも介添えが必要なお貴族さまだと今の時期は大変そうだね」

 

 身の回りのことを自分でできなければ、使用人さんが里帰りをする今の季節は大変そうだ。主に本人ではなく使用人の方々が、であるが。主の呼び出しがあれば直ぐさま向かわなきゃいけないだろうし、遅ければ文句を言われるらしい。

 本当にお貴族さまっていろいろな方がいるなあと苦笑いになると、クレイグも口をへの字にして妙な顔になっていた。

 

 「自分のことくらい自分でやりゃあ良いじゃねえかと言いたいが、生粋の貴族だと難しいんだろうなあ。それで、こっちにいる間はなにをするんだ、ナイ」

 

 「えっと、島の赤米さんを大蛇さ……ガンドさまから譲って貰ったから、田んぼを作りたいなって。新しいお野菜の種も王都で仕入れているから、子爵邸の土に合えば量産できると良いかなあ」

 

 バカンス期間の残りのほとんどは子爵領で過ごす。今回はユーリも一緒にきているので顔を忘れ去られる心配は必要ない。領地内で生れた新生児の健康状態も気になるので、領にある教会に赴いてなんちゃって健康診断を行うつもりである。

 栄養バランスとか全く気にしてくれないので、素人ではあるもののアドバイスを送りたい。王都で育児関係の書物を見つけるのも良いかもしれないなと、私は視線をクレイグからサフィールへと移した。

 

 「サフィール、私の我が儘に付き合わせてごめん。まあ、みんなに付き合って貰っているようなものだけれど」

 

 なんちゃって健康診断にはサフィールも巻き込んだ。子供のことであれば私よりサフィールの方が詳しい。親御さんに子供の悩みがあるのなら、サフィールの方が的確なアドバイスができるはず。

 

 「気にしなくて良いよ。子供がいない領地は栄えないだろうから、ナイが心配していることは尤もじゃないかな。まあ難しいことは分からないけれど、僕のできる範囲でナイを手伝うよ」

 

 「ありがとう、助かる」

 

 サフィールに礼を告げ、みんなの顔を見るとリンが半歩前に出た。

 

 「ナイ、お屋敷の中に入ろう。持ってきた荷物を入れなきゃね」

 

 「そうだね。エルたちがくるのも待ってなきゃいけないし、搬入済ませて今日はゆっくりしようか」

 

 リンの言葉に頷けば、クレイグとサフィールとジークも頷いた。

 

 「おう」

 

 「うん」

 

 「ああ」

 

 彼らの短い返事を聞きながら子爵邸の玄関へと足を進める。新しく賜った侯爵領にはバカンスを終えて、南の国の王族の方の浄化儀式を済ませてから視察に赴く。かなり広いと聞いているので、どれくらい広いのか謎だけれど……いろいろとできることが増えるので有難いとは考えている。

 子爵領と侯爵領は飛び地となるがロゼさんの転移で飛べる。侯爵領の視察も楽しみだなあと、代官さまに挨拶をして屋敷の中へと入った。それと同時に毛玉ちゃんたちも一緒に中へと入る。お屋敷の使用人さんたちによろしくお願いしますと挨拶をして当主用の部屋へと足を踏み入れた。

 

 「む。狭い?」

 

 『王都のお屋敷にあるナイの部屋より狭いねえ』

 

 クロの声を聞いて苦笑いになる。教会宿舎から王城の離宮に移り住み、王都の子爵邸に居着いたけれど……まさか私が狭いという感想を抱くとは全く考えていなかった。男爵家といえども当主部屋なので十分広いのだが、子爵邸と比べるとどうしても狭くなっている。

 毛玉ちゃんたちもいるから余計にそう感じるのかなと持ってきていた荷物を置いて、集合場所になっている食堂へと足を向けた。途中、廊下でリンと出会って一緒に歩く。リンの肩に乗っていたネルが飛び上り、私の肩の上に乗り換えクロと顔を擦り付け合っている。

 

 「ナイ、先ずはどこに行くの?」

 

 リンが私の顔を覗き込みながら問うた。

 

 「ん、教会かな。先に挨拶しておいた方が良いだろうし、子供たちがどんな感じで勉強しているかも知りたいしね」

 

 聖女の衣装ではなく私服で訪れるけれど、教会にはこれからもお世話になる予定である。魔力が多く備わっている人を探し出す所でもあるし、怪我人や病人を治す場所でもあるし、子供たちの学び舎でもあり託児所でもあるのだから。少し教会の方に負担が掛かり過ぎかなと頭に浮かぶが、人員は増やす予定なので大丈夫だろう。なににしても手探り状態なので、失敗しながらゆっくり確実に進むしかないのである。

 

 「魔力量の多い女の子は教会の聖女を目指すんだよね。男の子は魔術師団に行くの?」

 

 「本人の意思によるけれど、教会にも魔術師団にも伝手はあるから推薦状は書けるからね。あとはやる気があるか、かな」

 

 状況や本人に確認を取って、領地で修業をするか王都に向かうかを決めることになるだろう。領から出ずに一生を終える方もいるので、平民の方が王都へ出向くのは一世一代の行事と言っても過言ではない。王都に向かう場合は手助けするけれど、一方的に支援するだけでは駄目だ。考えることが山積みだなとリンの顔を再度見る。

 

 「ナイに推薦状を書いて貰ったなら、死ぬ気で遣り遂げるべき」

 

 きりっとした顔を浮かべるリンだが、それはどうだろうか。

 

 「べきって。言い過ぎじゃないリン? まあ少しでも領地に貢献して貰わないと困るけれどね。里帰りすれば、子供や才能のある人たちに魔術を教えてくれれば嬉しいなって考えてはいるよ」

 

 資金援助ならば返却もお願いしなくちゃいけない。お金を返してくれなければ、一族全員を捕えて打ち首処分とかあり得るそうだ。お貴族さま怖いと言いたくなるが、面子を大事にする文化なので致し方ないのだろう。

 そうなることを防ぎたいので、なるべく穏便なモノで代替案があると良いのだが、頭が芳しくない私は魔術を領内で教えて欲しいとか、領が発展する案があれば教えて欲しいとかしか思いつかなかった。

 

 「ジークとクレイグとサフィールはいるかな?」

 

 「先にいるんじゃないかな。男の人は早いから」

 

 食堂の扉の前に立てば、クロとひとしきり絡んだネルがリンの肩の上に戻った。仲が良いなあと、扉のノブに手を掛けて開けば、リンの言葉通りに彼らが既に待ってくれていた。

 

 「遅いぞ~」

 

 「まあまあ。少ししか待っていないから気にしないで良いよ」

 

 クレイグの声が上がると、サフィールがやんわりと諫めている。気にする必要もないじゃれ合いだ。男性陣三人が椅子から腰を上げて、教会に行こうと促してくれた。そうして用意された馬車にみんなで乗り込んだ。

 

 「あれ、私たちが揃って馬車に乗ったのって初めて?」

 

 私の隣にリンが座り、正面にジークとクレイグとサフィールが腰を下ろしている。

 

 「そういえば、そうだな」

 

 「機会がなかったから」

 

 ジークとリンの場合は護衛に就くので、外で歩いていることが多い。今日は他の方が馬車の外で護衛を担ってくれている。

 

 「ナイと一緒に乗れば、なにか巻き込まれそうだよな」

 

 「まさか。南の島でたくさんのことがあったのに、領地でも起こるなんて……ははっ」

 

 クレイグが呆れ声を上げると、サフィールがフォローに入ってくれた。でもその言い方だとなにか呼び寄せそうな気がする。気にしても仕方ないと五人で話していると、直ぐに領内にある教会に辿り着く。

 

 「ご領主さま、お待ちしておりました」

 

 教会を預かる神父さまが私を出迎えてくれた。彼の後ろにはシスターが数名控えており、彼女たちも小さく礼を執っている。教会の聖堂へと案内されて、彼らの話を暫く聞いていた。問題なく領地の方たちの魔力測定を終え、魔術の才能の有無も調べ終えたそうだ。大人の中にも魔力量の多い方がいるが、その方たちは既に家庭を持ち職も得ている。

 興味のある方とやる気のある方は魔術を教えて――攻撃魔術はNG――いるそうで、センスのある方は問題なく使えこなせる領域に達したとのこと。子供たちも吸収が早く、魔力制御と基礎魔術を習得して次の段階に進むそうだ。聖女の適性がありそうな女の子も数名いて、出だしは順調だと神父さまがホクホク顔で告げる。

 

 「良い方向に向かっているようで安心しました。託児所や文字の読み書きはどうなっておりますか?」

 

 子供たちが文字を読めるようになって、大人たちも感化されたのか習いにくる方が多くなっているとのこと。託児所も問題なく運営できているし、困ることもあるけれど自分たちで解決しようとしている。無理はしないようにと告げれば、確りと教会の皆さまが頷いてくれる。さて次は畑の様子を伺いに行こうと立ち上がった時だった。

 

 「――……さい! ――神父さま、シスター! 助けてください!!」

 

 突然、聖堂の方から大きな声が聞こえた。何事かとジークとリンが気を張り詰める。神父さまが臨月を迎えた方の旦那の声ですね、と告げて聖堂へと歩いて行った。私も無視はできないと、聖堂の手前まで赴いて事の顛末を見守るのだった。

 

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