魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0485:再び南の王族さま。

 私がいなくなれば領地がどうなってしまうのかと頭を悩ませるが、悩んでも仕方ないのでゆっくりでも前に進んで次に領地を管轄する方に迷惑が掛からないようにしておこう。未来はどうなるか分からないが、ある程度の予想はできるはず。

 子爵領も侯爵領も発展させて領民の方たちが問題なく生活できるように仕向けていかないと。とはいえ難しいことなので一朝一夕ではできないけれども。

 

 「戻りましょうか。今日はご領主さまが屋敷に泊るということで、料理人たちの気合がいつもより上がっております」

 

 「それは楽しみですね。戻りましょう」

 

 代官さまの言葉に返事をして子爵領の視察を終えた。全て回れてはおらず明日も見学を続行予定である。何気に地味な作業だよなと感じつつ旧屋敷に戻った。そうして細々とした仕事を済ませつつのんびり過ごしていると、バカンスの時期はあっという間に過ぎており朝晩の気温が丁度良い頃となっている。

 

 赤米を作付けする新規の田んぼを代官さまに依頼し、種籾を渡して王都に戻ってきていた。新規の田んぼを選定する際にジークが土の質を見てくれて、良さげな場所を提案してくれたのでたわわに実ってくれると良いなあと願う。もしかしてラウ男爵さまにジークが師事しているのは、農地開拓の秘伝でも教えて頂いているのだろうか。

 有難いなと感謝しつつ、ジークは私の護衛任務もあるのによくパンクしないなと感心している。体力を有していることが羨ましい。どうにも魔術師タイプは肉体強化タイプの方々よりも体力が少ない。

 

 「あれ、バカンスってなんだっけ?」

 

 西洋のバカンスって海に行って裸で日焼けをし、夜な夜なパーティーを開いていそうだ、という全く関わりのなかった元日本人である私の想像だ。こちらの世界で貴族の皆さまの休暇がどんなものなのか、領地でゆっくりしているとしか詳しく知らない。

 

 長期休暇というのに半分近くはお仕事に精を出していたような。とはいえ雇っている人たちは優秀なので、私は子爵領の見回りと最終決定を下しただけだけれど。私の我が儘でジークとリンとクレイグとサフィールには申し訳ないことをした可能性がある。来年はもっとゆっくりしようと決めると、王都にある子爵邸の私室でクロが私の顔の上で顔をすりすりと擦り付けていた。

 

 『南の島から戻ってからは、ナイはちょこちょこお仕事していたよねえ』

 

 自分で決めたことだから文句はないのだが、暇だからと言って仕事を入れるのは気を付けないと。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまも実家の領地から戻って、子爵邸に顔を出してくれた。お土産に領地の特産物と衣装を頂いている。そして先日、子爵邸に顔を出した副団長さまと猫背さんに南の島での出来事を問い詰められた。どうして彼らが王都に戻ったあとで、海竜を引っ張ってくるのかと涙ながらに語られたのである。

 

 「来年はもっとゆっくり過ごそう……でも、暇だとなにか予定を入れたくなるんだよね」

 

 『ナイらしいけれど、今日は南大陸の王さまたちとお話するんだっけ?』

 

 部屋の中でクロと今日の予定を話し合う。今日は南大陸のとある国の男性王族の方がアルバトロス王国にやってくる。

 

 「うん。浄化魔術を施して呪いが消えるか試してみる」

 

 黒髪黒目の女神さまを信仰しているというのに、四大陸では珍しい黒髪黒目の女性の見目を蔑んで怒りを買ったという方々である。少し情けない理由で女神さまの罰を受けているので、浄化儀式を執り行う意味はあるのかと疑問に感じるが私が言い出したことだ。真面目にお務めを果たしましょうと気合を入れる。

 

 『女神の罰を呪いって称しているのは、どうなんだろうね?』

 

 「神さまから罰を受けることはあっても、確かに呪いって言っちゃうのは変かも。せめて徳を積んで贖罪をって行動する方が神さまの信徒っぽいよね」

 

 彼の国の王族の方々が呪いと称しているのは、血統維持のために必死なのだろう。数代前の男性王族がやらかしたことを、次々代が引き継いでしまうのは大問題だ。特に子を成すことが義務であるお貴族さまや王族となれば尚更である。一応、国を無難に治めているようなので浄化依頼を受けた。悪政を敷いていれば、クーデターでも他国と戦争でもして負けてしまえと過激な思想に走っていたかもしれない。

 

 開いたままの扉からソフィーアさまとセレスティアさまが顔を出す。

 

 「ナイ、そろそろ時間だ」

 

 「浄化儀式の成否に関わらず、寄付代は頂くと聞いて安心しましたわ。失敗して責められては困りますもの」

 

 いつも通りのお二人に私は小さく笑みを浮かべながら頷く。錫杖を持って部屋を出るとジークとリンが教会騎士服を着込んで待ってくれていた。そっくり兄妹の所属は教会であるが、アストライアー侯爵家が直に雇っても構わないのだろうか。

 二人の意思と教会と国の判断次第だが、教会から新たな専属護衛騎士を派遣して貰えば問題が少ないような。教会騎士も職業斡旋の側面があるので、新規に就職先が増えるなら教会も悪くは捉えないはず。アルバトロス上層部は口出ししない範囲だろうし、貴族間のバランスに問題なければ好きにしなさいと言われそうではある。ジークとリンの意思を聞いてから家宰さまに相談してみようと、子爵邸の地下へと赴く。

 

 「アストライアー侯爵閣下、お待ちしておりました」

 

 転移を終えて直ぐ近衛騎士の方が私たち一行に声を掛けた。思えば子爵位の時より侯爵位を賜ったあとの方が護衛の方々の数が多い。ジークとリンがいるから問題はないと言いたくなるものの、近衛騎士の方にだって面子がある。改めて侯爵位の凄さを実感しながら謁見場控室まで赴いた。

 

 「ナイ、久しぶりだ。元気にしていたか?」

 

 「閣下、お久しぶりでございます。いつも通り元気です。閣下はお変わりなく?」

 

 控室には公爵さまがどっしりと構えてソファーに腰掛けていた。挨拶をしようと声を掛ける前に公爵さまに先制されてしまった。とはいえお貴族さま的には上の方から下の者への声掛けが通例である。有難いと感謝しつつ礼を執り会話を続けた。

 

 「ワシも問題ない。南の島の土産、去年に引き続きすまないな」

 

 「アルバトロス王国では珍しい品を選びましたが、好みの物があれば教えて頂けると助かります」

 

 公爵さまが南の島の果物を好んで食べている姿を想像するのは難しい。それよりフソウの酒の肴を豪快に食べている姿を描く方が簡単だった。

 

 「ワシの好みか……島の物ではないがフソウの酒は気に入っている」

 

 公爵さまが腕を組んで私から少し視線を外し右上の天井を見上げている。島の品ではなかったことを申し訳ないと捉えているようだ。やはり甘味よりアルコールの方が好まれるかと、私が小さく笑うと彼は短く咳払いをした。

 

 「なるほど。また出向いた時に仕入れてきますね」

 

 公爵さまであれば私を通さなくとも、勝手に仕入れルートを構築しそうである。それをしないのは私の面子を立ててくれているのだろうか。お互いにふふふと笑っていると、私の背後でソフィーアさまが『二人はなにをしているのやら』という雰囲気を醸し出していた。

 まあ、彼と出会ってからこんなやり取りを良く行っている気がするので通常運転だ。同じ部屋にいたヴァイセンベルク辺境伯さまとも挨拶を交わして、こっそりと彼もフソウのお酒が気に入っていると教えてくれた。フソウの品をアルバトロス王国の方々が気に入っていると知れば、ナガノブさまが大層喜ぶので有難い。

 

 「今回はナイが失敗してもしなくても、責任を問わないと先方は言っている。書面にも認めて貰ったからな。気に入らない相手であれば失敗しても構わんぞ」

 

 「それは流石に。失敗すれば教会の面子が立たないので上手く収めたいのですが……」

 

 公爵さまも分かって発言しているので特に私から言うことはない。とはいえ教会の側に立てば失敗しない方が無難だろう。

 

 「海を隔てているので距離がありますからね。アルバトロス王国に足繁く通うことはできないでしょうから、気負う必要はないかと」

 

 辺境伯さまも成功しても失敗してもどちらでも良いと考えているようだ。他国の王族の方を迎え入れるため結構な方々が謁見に参加する。南大陸の王族の方を見る機会は少ないし、珍しさもあって謁見希望者が多く集まったようである。儀式は別枠で設けるため、私が参加しても意味がない気もするが顔を出さなければ相手も不安になろう。

 

 リーム王国の聖樹へ魔力補填を行った時より緊張していない。成功するに越したことはないが、失敗する可能性も視野に入れている。女神さまの怒りを収められる魔力量が備わっていると良いのだが、以前より魔力量が増えているのでワンチャン成功する可能性がある。

 

 近衛騎士の方が『そろそろお時間です』と呼びにきてくれた。彼らの後ろに就いて謁見場へと移動する。毛玉ちゃんたちは謁見場に飽きたのか、私の影の中で待機している。もちろんヴァナルと雪さんと夜さんと華さんもだし、ロゼさんも他の方々に興味が薄いので影の中であった。

 謁見場に辿り着き、侯爵さまと辺境伯さまの間に挟まれる位置を指定された。壇上には玉座が一つ。主はまだきておらず、平場にいる皆さまが登場をじっと待っている。陛下を見たのは建国祭の時だから、約三ヶ月振りに彼の顔を見る。そういえば陛下にも日本酒ならぬフソウ酒を贈っているが気に入ってくれただろうか。

 

 ――陛下お成り!

 

 係の方の大音声が場内に響く。壇上横の出入り口から、陛下と王妃さまと王太子殿下と妃殿下に王女殿下と第二王子殿下が姿を現した。どうやら王族全員で南大陸の王族の皆さまを迎え入れるようだ。気合が入っているなと感心しながら、陛下は玉座に腰を下ろし他の方々は後ろで彼の周りを固める。

 

 そうして南大陸の王族の方々が姿を現した。アルバトロス王国の方々が好んで纏う衣装とは趣が異なった服を彼らは着込み、ゆっくりと赤絨毯の上を歩いてくる。平伏はしないものの、陛下であるアルバトロス王に小さく目線を下げて、相手国の王さまが口を開く。

 

 「この度はご迷惑を掛け申し訳ない。だが、我ら王家の血を未来に残すため、アルバトロス王国の黒髪の聖女殿にはお力添え頂きたく」

 

 南の王さまと第一王子殿下と第二王子殿下がちらりと私の方を見た。謁見場にいる男性陣の視線は相手国の方々の腰の位置に向けられている。

 同情しているのか、それとも馬鹿なことをと呆れているのか……どちらか分からないが、同性同士であれば大きな問題なのであろう。警備に就いているクルーガー伯爵さまも確りと相手国の方々を見据え、難しそうな表情になっているのだから。

 

 「我々アルバトロス王国としては、寄付を払うのであれば問題にしない。教会からも同様に告げられている。あとは失敗しても我が国の黒髪の聖女を責めないのであれば我らが口出しすることではない」

 

 陛下が玉座にどっしりと構えて告げた。

 

 「承知した。もとより治らない可能性は覚悟している。だが希望を捨てたくはない。アルバトロス王、並びに黒髪の聖女殿、よろしく頼む」

 

 相手国の王さまが頭を下げた。どうやら本当に困っているようで、王子殿下二人も丁寧に頭を下げる。向こうの護衛の方々は仕事熱心なようで、感情を表に出していない。さて、上手くいくかなと私は浄化儀式の手順を頭の中で反芻し謁見場を出るのだった。

 

 ◇

 

 アルバトロス城のとある部屋で南大陸の王族ご一行さまと私は対面していた。彼らは縋るような視線で私を見ている。次代を授かれないならお家騒動となってしまうから、必死なのは理解できるけれど失敗した時のことも考えていて欲しいのだが……大丈夫だろうか。前リーム王のようにならなければ良いがと願いつつ、挨拶を交わした彼らに私は口を開く。

 

 「よろしくお願い致します。浄化儀式が成功するか否かは分かりませんが、全力を尽くします」

 

 私がお城の魔力補填以外で聖女の衣装を纏ったのは久しぶりだった。浄化儀式で全裸になる必要はないし、頑張って儀式を務めあげようと気合を入れる。

 教会の皆さまも見守りにきており下手なことはできない。流石に三名を個別で行うと時間が掛かるし、同じ女神さまの呪いだから一緒に取り行っても良いだろう。魔力量が少なければ個別でとなるが、阿呆のように魔力が備わっているので同時進行が可能だろうと教会と副団長さまによる判断が下っていた。

 

 男性王族の皆さまの痣の程度は同じくらいだ。流石に大事な所を診るわけにはいかず、確認は取っていない。王家の恥部を聞いているのだから、嘘を吐く必要はないだろう。ふう、と息を吐いて私は部屋にいる皆さまの顔を見渡した。

 

 「では、始めましょう」

 

 私の声と共に南大陸の王族の方が床に膝を突く。左手に錫杖を持ちながら右腕を差し出して目を瞑り、浄化魔術の詠唱を唱えれば大きな魔術陣が現れた。青白い光が部屋を照らし温かい空気が部屋を満たす。感覚的にまだ浄化には至っていないと、更に魔力を練って展開された魔術陣に注ぎ込む。私の髪がバサバサと激しく揺れて、部屋にいる方々が固唾を飲んだ。

 

 「あ……呪いの痣が薄く……」

 

 ぼそりと声を漏らした王さまに喋らないでと言いたくなるが、術者は私語厳禁である。薄くなっただけで消えていないなら浄化に至っていないのだろう。魔力生成速度を上げて魔術陣へ更に注ぎ込む。

 

 ――余計なことすんじゃねーよ。

 

 ふいに私の耳に声が届いた刹那、パン! と短い音が部屋に鳴り響く。

 

 「っ!」

 

 それと同時に私の右腕に痛みが走り、急な状況の変化にただ事ではないと目を開ければ、右腕が悲惨な状況になっていた。肌が焼け爛れ、言葉に形容すれば痛みが増しそうだった。

 痛いと叫びたくなるのを歯を食いしばって我慢して周りを見る。目を見開いて驚いている皆さまの顔と、鬼の形相でジークとリンがレダとカストルの柄に手を掛けて周囲を警戒している。

 

 「なっ!?」

 

 教会の皆さまの視線が私の手元に向けながら驚きの声を上げた。

 

 「ナイ!」

 

 「ナイっ!?」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが私の名を呼ぶ。南大陸の男性王族三名はなにが起こったのか分かっておらず、相手国の護衛の方々が三人を囲み警戒態勢に入っていた。展開していた魔術陣が消えたので儀式は失敗だ。また私がやり直すか、他の誰かが代役を務めることになるけれど、今は。食いしばっていた歯を解く。

 

 「儀式を妨害したのは誰ですか!?」

 

 怪我を負った右腕を左手で抑えながら腹に力を入れて声を張る。厳重な警備の中、妨害できる人物がいたとは考え辛いが現実に儀式は失敗した。腕から流れ落ちる血が床に落ち、豪華な絨毯に染みを作っている。

 

 私の声に反応して場にいる皆さまがしんと静まり返ったその時、幾重にも重なる魔術陣が突然現れた。護衛の方々が部屋の隅へと重要人物を避難させると、魔術陣の中に人影が現れた。人影のサイズは私より小さく、魔術陣の光に照らされて姿ははっきりと見えないけれど子供に見える。しかし子供がいきなり王城へと転移してくることは、事故でもない限りあり得ない。

 というか、王城の重要エリアは魔術妨害の措置が取られているはず。そこから導き出される答えは、たとえ子供であろうと実力者であるということ……!

 

 「出てくる気はなかったが、あたしが施した罰を解こうとしている馬鹿がいるからなあ……」

 

 展開していた魔術陣が消え去り、真っ白な衣装に身を包んだ女の子が姿を現して声を上げた。物言いは乱暴なのに、彼女の見目は儚い姿である。そして黒髪黒目であった。

 突然現れた人物の幼さに驚いていると、目の前の女の子が私に近づいてくる。ジークとリンが私の前に立って、レダとカストルを鞘から抜いた。いつも饒舌なのに今日に限って二振りは一言も発しない。

 

 「――"動くな"」

 

 彼女が右手を払う動作を取って一言発すると、周りの皆さまの動きがピタリと止まる。本当に寸分も動かないので大丈夫だろうかと心配していると、私の前に女の子が立ち踵を上げて、すんすんと私の臭いを嗅ぐ。

 

 「お前……西の匂いが強いけど南の匂いも混じっているな」

 

 女の子は長い髪を揺らして小さく首を傾げる。目の前の少女から発する雰囲気は異様な感じだった。有体に表現すれば、格が違うと私の心が訴えている。でも慄いているだけでは話は進まないし、今の状況を少しでも変えなければ場にいる皆さまの命が危ない。

 

 「少し話を良いでしょうか?」

 

 「なんだ?」

 

 話を聞いて貰わなければ、命を掛けて全力で魔力を使って女の子と相対しなければと口を真一文字に食いしばった。そして直ぐに私は言葉を発する。

 

 「この場にいる皆さまを解放してください。貴女さまの力は強すぎます……」

 

 「んあ? わりぃ。気を付けているつもりなんだけどな、どうにもあたしの力は強すぎる」

 

 緊張で息を呑んだ私とは対照的に、目の前の少女は片手で黒髪を掻き上げながら息を吐いた。同時に場にいる皆さまの呼吸と行動制限が解除され、はっと大きく息を漏らしている。話が通じる方で良かったと安堵しつつ、目の前の少女と視線を合わせた。

 

 「お前があたしが施した罰を解こうとしたのか?」

 

 「はい。貴女さまのお話と南大陸の方々のお話を推測するに、南の女神さまでしょうか?」

 

 女の子は少し私を見上げながら疑問を投げ、私はその疑問に答えて新たな質問を投げる。私が質問を投げたことに不快感や問題はないようで、雰囲気を変えないまま目の前の少女が答えてくれる。

 

 「ああ、そうだ。あたしが南大陸を造った者だ。あんま女神の実感はねえけど、南大陸はあたしの魔力を元にできた土地だ。で、遥か昔から南の女神と言われているな」

 

 ふっと息を小さく吐いた少女は南大陸を創造した女神さまだった。女神さまを騙れば宗教心の強い国では問題となるので嘘を吐いても仕方ない。目の前のお方はとんでもないほどの魔力持ちであることは、ヒシヒシと私の肌に伝わっている。

 それになにより今まで会った方たちの中で存在感が頭ひとつ、ふたつ分以上抜けている。ただならぬお方だとはっきりと自覚できるのだ。それにクロがじっとして黙ったままである。クロほどの存在がそうなるなんて、本当に限られているだろう。どう話を進めようか考えていれば、女神さまを見た南大陸の王さまが平伏する。

 

 「お話し中、申し訳ありません!」

 

 王さまの声色には必死さが混じっていた。でも今話に割り込むのは悪手ではなかろうかと私は目を細めた。

 

 「我らの血族が昔、女神さまの使徒である黒髪黒目のお方に酷い仕打ちを施し、貴女さまから罰を受けました! しかしながら、既に彼の者は存在しておらず我々も猛省しております」

 

 女神さまは平伏している王さまを見下ろし、黙ったまま彼の言葉を聞いている。大丈夫かなと女神さまを見ると、彼女の開いていた手がぎゅっと握り込まれている。

 

 「どうか、どうかお許しを!!」

 

 「あのなあ……容姿を馬鹿にされたり、力をチラつかせて誰かを脅す行為がどんだけ阿呆なものって自覚あんのか、お前らは?」

 

 女神さまは平伏している王さまを見下ろして、ふんと鼻を鳴らす。私は問題が起こった現場を知らないので迂闊に口を出せなかった。

 

 「そ、それは……我らは民を統べる王族です。彼の者はきっと権力に溺れていたのでしょう。女神さまの罰により、晩年は後悔していたと聞き及んでおります」

 

 南大陸の王さまは女神さまとは視線を合わせないまま言葉を交わしている。周りの方々も止める気はないようで状況を見守るしかない。

 

 「そりゃ、なにより。ま、あたしが話をしている最中に割り込んできたんだ。それなりの覚悟はあるんだろ? だったら暫くそのままだ」

 

 女神さまは握り込んでいた手を緩めて、私を少し見上げた。しょぼん、と女神さまに怒られた南大陸の王族の方々が自身の一物のように小さくなって黙り込む。確認は取っていないので知らんけど。

 呪いの解除は無理と判断したのか、これ以上話を続ければ女神さまの怒りを更に買うと判断したのか……分からないけれど、女神さまと彼らとの対話は終えたのだろう。

 

 「んで、馬鹿をやらかした奴は完全に南の匂いだ。お前以外の連中は西の姉御の匂いがしてるから、あたしが今いる場所は西大陸だと判断できる。それなのに黒髪黒目のお前はどうして南の匂いが混じっているんだ?」

 

 どうやら匂いで西大陸出身なのか南大陸出身なのか判断できるようだ。西大陸にいるのに南大陸の匂いがしている理由は簡単である。

 

 「わたくしの父の祖先は南大陸出身と聞き及んでおります。南大陸の事情に疎いので詳しいことは理解し兼ねますが、お家騒動に負け西大陸へと逃げたと聞いております」

 

 「なるほどな。西の姉御の所に渡った連中がいたのか。最近はあんまり地上に関心を向けていなかったからな。いつの間にか人間は知恵を働かせて大陸を移動できる手段を持っていたのか」

 

 ふーんと興味深そうに南大陸の王さま方を見下ろす女神さま。南の女神さまは過激と聞き及んでいるが、言葉使いが荒いだけで粗暴な所はなさそうだ。単に私が女神さまの地雷を踏み抜いていないだけかもしれないが。

 

 「つーかお前、西の姉御の血が入った者なのに、背、小せえのな」

 

 「……」

 

 貴女の血が混じっているからでは、と決して口にはしなかった。本当は速攻で突っ込みたかったけれど、言えばきっと南大陸の王族の皆さまと同じ扱いを受けそうだ。

 

 「あ、いや、すまねえ。気にしてたんだな。西の姉御はあたしたち姉妹の中で一番背が高いから、西の者は背が高いんだよ」

 

 ちなみに南の女神さまが姉妹の中で一番背が小さく、そして一番若いそうだ。北と東の女神さまに容姿を揶揄われるため、南の女神さまのコンプレックスとなってしまったようだ。末妹の宿命なのかと目を細めていれば、女神さまは私の言葉を聞く前に口を開く。

 

 「怪我、悪いな……治してやりてえんだが、あたしは攻撃一辺倒だから無理だ。でもよ、なんでこいつらの罰を解こうとしたんだ?」

 

 案外女神さまも万能ではないんだなあと、世の不条理を嘆いてみる。とにかく目の前の方に返事をしないとと視線を合わせた。年齢はかなり上のはずなのに私の視線が下がっているのが、凄く不思議な感覚だった。

 

 「情報を得たお礼として、わたくしが浄化儀式を提案しました」

 

 南の女神さまに私が南大陸へ渡ることになった経緯を伝えると、凄く面倒臭そうな顔になっていた。張り詰めんばかりの緊張に忘れていたが、怪我を負っていたなと我に返ると右腕の痛みが増してくる。ぽたぽたと腕から滴り落ちる血は未だ止まらず。少し血を流し過ぎているかなと他人事のように考えていると視界が歪む。

 

 「ナイ?」

 

 「ナイ!?」

 

 ジークとリンの慌てた声が私の耳に届いて、意識がぷつりと途切れるのだった。

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