魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0488:バレバレでんがな。

 西大陸の北部にある国に転移で辿り着いた。その国の王さまと挨拶を交わし城を出て、借りた馬車に乗り込み海辺に辿り着く。ここから先はロゼさんの転移で北大陸まで赴く。

 

 とある国の団長閣下については外務部の方がアルバトロス上層部に一報を入れてくれている。お互いの国が納得して行動した結果だから、文句はどこからも出ないはず。唯一出るとすれば団長閣下の関係者であろうが、鬱陶しければまとめて処分されそうだった。

 

 今回の一番の功労者であるヴァナルを呼ぶと私の横にちょこんと座る。高い波が岩場にぶつかり水飛沫を上げていた。そんな景色を横目で見つつ、私はヴァナルに顔を向ける。

 

 「ヴァナル、お疲れさま。子爵邸に戻ったらお礼をしなきゃね。なにかある?」

 

 団長閣下が毛玉ちゃんたちを欲しいと願い出るのは意外だったけれど、フソウの抗議も追加されるだろうから先ほどの国の王さま的には『なにしてくれとんじゃ、騎士団長!』と言いたいはず。

 

 帝さまとナガノブさまにも外務部の方に連絡をお願いしている。フソウの神獣さまのお仔を横取りしようと狙った方がいたよ、と。

 とはいえ毛玉ちゃんたちがフソウで過ごす予定なのは公式に発表された事実ではないので、チクチクとした内容の抗議だろうけれど。知っていて狙ったならば、帝さまとナガノブさまの怒髪天が相手国に落ちそうだ。国民全員が決起して相手国に必死で乗り込み、目的の人物を探し出し刺し違えても……なんて事態になりそうである。

 

 『主と一緒に寝たい。みんなも一緒が良い』

 

 ヴァナルの可愛いらしいお願いに、私は目を真ん丸にしたあと微笑んだ。そして『みんなも一緒』というヴァナルの声にいの一番で反応した方がいた。

 

 「そんなことで良いの?」

 

 とはいえ簡単に実行可能なことで良いのだろうかともう一度聞き直す。お肉を沢山食べたいとか、広い野原を思いっきり走りたいとか希望があるのではなかろうか。私の言葉に某お方が肩を落とし、ヴァナルがむーと考えながら首を空に向けて答えが出たのか元の位置に顔を戻した。

 

 『お肉より寝たい。群れのみんなと寝るのは、きっと幸せ』

 

 またヴァナルの言葉に凄くテンションが上がった方がいる。その方の隣で溜息を吐いた方もいるのだが、相変わらず子爵邸のメンバーは平常運転だ。

 

 「そっか。戻ったらみんなと一緒に寝よう。まだ暖かいから外で寝るのもアリだね」

 

 外で寝るのは怒られてしまうだろうか。ヴァナルとは何度か一緒に寝たことがあるが、みんなと一緒は皆無である。男性陣は混ざれないけれど、女性陣を呼んで一緒にお泊り会をするのもアリかなあ。

 赤丸健康優良児なので早寝早起きと八時間睡眠を心掛けているが、偶には夜更かしも楽しそうだ。リンとソフィーアさまとセレスティアさまとアリアさまとロザリンデさまを誘ってみよう。断られるかもしれないが、お一方は確約してくれるはず。

 

 『楽しみ』

 

 「うん」

 

 そんなこんなでお泊り会が私とヴァナルとの間で決定し、ロゼさんに北大陸への転移をお願いするのだった。

 

 ◇

 

 思えば遠くにきたものだ。

 

 科学技術が発展していない世界で海を渡るという行為は命懸けである。それなのに俺、エーリヒ・メンガー……違った。エーリヒ・ベナンターは西大陸と東大陸と北大陸に足を踏み入れている。ナイさまのスライムの転移で北大陸南端の街に辿り着き、今は大陸横断鉄道に乗り込んでいる。十数両編成の内、二両はナイさまの名義で貸し切っていた。

 

 しかしまあ、ナイさまもトラブルが尽きないものである。

 

 今度は南大陸の女神さまによってナイさまが傷を負い、アルバトロスの聖女でも治せないから北大陸の北側にある島へと赴くことになったのだから。そこには神々が住まうといい、前人未踏の地であるらしい。俺は列車の中で外務部の同僚であるユルゲンと隣同士の座席に腰を下ろし他愛のない会話を繰り広げていた。

 

 「そういえば外務卿が休暇から戻ってきたベナンター卿はやる気に満ち溢れている、と仰っていましたよ」

 

 緑色の長い髪を揺らしたユルゲンが俺の顔を覗き込んだ。やる気に満ち溢れているのか分からないが、頑張って仕事をしなければという気持ちは以前より強くなっている。

 

 フィーネさまから告白の返事を頂いて浮かれているだけでは、俺たちの今の関係だと破局に向かうだけだ。なにをどう頑張れば良いのか分からないものの、仕事を真面目にこなして国に貢献すれば俺の評価が上がるはず。

 ハイゼンベルグ公爵閣下と上司であるシャッテン卿には俺がフィーネさまに告白してOKを頂けたことを打ち明けている。聖王国の護衛の方々に見られていたのだから、遅かれ早かれアルバトロス上層部にも話がいく。

 だから先手を打って打ち明けておいた。公爵閣下には『聖王国から奪ってきても良いんだぞ?』と煽られ、シャッテン卿には『おや。でもまあお二人の距離は近かったですからねえ』とにやにやされた。もしかして俺の感情は俺以上に正直で、周りの方々にバレバレだったのかとベッドの中に潜り込んで悶絶していたけれど。

 

 あまり考え込んでいるとユルゲンに不信感を与えてしまうと、俺は口を開く。

 

 「いつも通りなんだけどなあ。ユルゲンは仕事に慣れたのか?」

 

 警備は専門の方がいるので俺たちの出番はない。他国の高貴な方とお会いした時に同席して、話を一言一句聞き逃さないようにと集中しているくらいだ。西大陸のとある国で、その国の騎士団長がナイさまに自分に都合の良い話を語っていたが、事前に相手国から通達されていたため大事にはなっていない。少々、予想が外れフソウ国を巻き込むことになったが概ね予定通りであるし、今回の旅程も時間通り進んでいる。

 

 「ええ、大分。元々殿下の側近を務められるようにと育てられましたからね。少し畑違いですが応用は利きます。エーリヒは?」

 

 ふふっと軽く笑ったユルゲンが俺を見た。

 

 「俺も慣れた。忙しいけど、やりがいはあるな。いろいろな国へ向かうことができているし」

 

 最初こそ、どうなるのか不安であったが仕事内容は覚えて問題なく捌けているはず。分からなければ周りに聞けば、快く教えてくれる環境なので有難い。外務部が数年前まで左遷部署だったことが信じられないくらいに有能な方が揃っていた。外務卿曰く、日陰部署故に少数精鋭でしたから……と少し煤けた顔で俺に教えてくれた過去がある。

 

 「僕もエーリヒも貴族ですからね。頑張って国に貢献しないと。しかし僕の所感では休暇から戻ってからのエーリヒはやる気に満ち溢れているのはもちろんですが、時折にやっと笑っていることがあります」

 

 アルバトロス王国には当然、義理を果たす。俺を爵位持ちに上げてくれ、生活の保障をしてくれているのだから。公爵閣下も俺に目を掛けてくれているし、外務部の長であるシャッテン卿も同様だ……って、ユルゲンは今なんと言ったか。

 

 「え?」

 

 俺が時々、気持ち悪い顔で一人笑っていると言ったのか。きょとんと呆けた俺にユルゲンが苦笑いを浮かべる。

 

 「気付いていなかったのですか? 先ほどもにやーと笑っていましたよ。仕事に支障はないので僕や外務部の者は構いませんが、エーリヒを悪く思う方がいれば逆手に取られましょう。気を付けてください」

 

 「そっか……教えてくれてありがとう。気を付ける」

 

 ユルゲンが真面目な顔で俺に忠告してくれた。貴族社会は足の引っ張り合いの世界である。俺を敵視している方はいないと言いたいが、どこかで俺を追い落としたい者がいてもおかしくはない。今の俺の立場を奪えば外務部の椅子とナイさまとの縁を築けるはずだ。聖王国のフィーネさまにも繋がれるかもしれない。

 

 「そうしてください。エーリヒは優しいですね。僕の言葉をきちんと聞いてくださるのですから」

 

 「普通だよ。ユルゲンとの付き合いは短いけれど、俺のことを心配してくれているって分かるし事実だしなあ」

 

 少し困ったような顔でユルゲンが俺に告げた。彼が俺に嘘を吐く要素はないし、真っ当なことを言っているから素直に頷くのは普通だろう。俺が小さく顔を横に倒すと、ユルゲンが小さく顔を振る。

 

 「今は自由時間ですし、鉄道車両の音で僕たちの声は掻き消えます。エーリヒは聖王国の大聖女さまとお付き合いなさるようになったのですか?」

 

 にやにやしている原因でしょう、とユルゲンが片眉を上げながら笑う。俺は彼にフィーネさまのことを一言も告げていないし、俺とナイさまとフィーネさまとの関係はアガレス帝国に巻き込まれ召喚された際に仲良くなっただけという認識のはず。

 ナイさまと付き合う可能性だって選択肢あるだろうに――本当はあり得ない、というかジークフリードの邪魔をする気はない――どうしてフィーネさまの名をドンピシャで上げるのか。ドキリと高鳴る心臓の音に負けないようにとユルゲンの顔を見る。

 

 「ぶ! な、なにを言っているんだ、ユルゲン。俺が他国の女性に手を出せるはずがないだろう!?」

 

 お付き合いを始めたのは事実であるが、公言して良いかどうかの確認は取っていない。とりあえず誤魔化さなければと俺は言葉を紡いだ。

 

 「確かに。手は出せませんが、口は出せますよ」

 

 「屁理屈!」

 

 ユルゲンはふふふと良い顔で笑う。そういえば外務部の他の同僚からも今のユルゲンと同じ顔を浮かべて、俺と仕事の話をしていた。

 

 「あ、いや、もしかして周りの方にバレバレなの?」

 

 「そういうことです。正式な祝いの言葉は贈れませんが、頑張ってくださいね、エーリヒ」

 

 ユルゲンに『そうか……』と俺は返事をして顔が赤くなっていくのを自覚する。島から戻って少し時間が経っているのだが、その間に噂が広まっていたようだ。

 ユルゲンによると外務部のほとんどの方には好意的に受け取られており、俺が聖王国へ婿入りするのか、フィーネさまが俺の下で嫁入りするのかとトトカルチョが開かれているそうだ。彼は賭けに参加していないが、ユルゲンは馬鹿な行動で婚約を白紙に戻しているから俺のことを応援していると言ってくれた。

 

 「未来はどうなるのか分かりませんが、僕はエーリヒを応援していますよ」

 

 「ありがと……なにかあったら相談に乗って欲しい」

 

 フィーネさまのことや女性について相談できる同性が増えるのは有難い。女性のことはナイさまか母上に聞くのが無難だろう。妙な女性に相談すれば変な方向に話がいき、噂が立つと一瞬で命取りとなる。

 

 「僕で良ければ。エーリヒの愚痴なら聞きますよ」

 

 ユルゲンの好意に素直に甘えて頷けばガタン、と列車が大きく揺れた。なにか変わったことはないかと、ちらりと女神さまとナイさまを見る。お二人は一緒の席に座しており黒髪黒目の容姿が姉妹のように錯覚させた。

 そういえばナイさまは古代人の先祖返りだと耳にした記憶がある。もしかして古代人は女神さまと近しい関係だったのか。ナイさまは女神さまの神々しい雰囲気を気にする様子はない。魔術具で女神さまのオーラを抑えて、俺たちはどうにか周りに侍ることができていた。

 

 「女神さまが降臨なされ、そして自分の目の前にいるなんて信じられませんよね」

 

 「でもアストライアー侯爵閣下が関わっているからなあ……」

 

 ユルゲンの言葉にナイさまだからなあと俺は返す。この言葉で解決している辺り、本当にナイさまは破天荒というか波乱に満ち溢れている人生を送っているというか。

 

 「竜使いの聖女さまですからねえ。西大陸では知らない者はいないでしょうし、他の大陸の方々とも縁を持っていることは、本当に凄いことです。神さまの島から無事に戻ることができれば良いのですが」

 

 「不安なことを言わないでくれ」

 

 俺は無事にアルバトロス王国に戻って、フィーネさまに手紙を認め土産物を送ると決めているのだから。これから神さまが住まう島まで少しの時間を要する。一先ず島に無事に辿り着けるようにと、願わずにはいられなかった。

 

 ◇

 

 北大陸、ミズガルズ神聖大帝国の最北端にある領に大陸横断鉄道を使い辿り着いた。北大陸の最南端から最北端まで三日を要している。列車の最高速度が遅いので致し方ないことだし、夜は列車から降りて宿に泊まり睡眠をとるので寝不足にはなっていない。

 

 時刻は夕方。暗闇の中の移動は危ないので宿で一泊して、明日の朝から大陸最北端から船で神さまの島に渡ることになっている。誰も辿り着けなかったのに、女神さまの案内で行けるとは不思議な感覚だ。

 南の島で見つけたホログラムの方が知れば、凄く羨ましいと言われそうである。亡くなっているから神さまの島に自生している花を頂いて、お屋敷に献花してみようかと考えていると本日の宿へと辿り着いた。

 

 宿屋に辿り着きソリから降りて、リンのエスコートを受ける。馬車の扉を開けた瞬間に肌を刺すような風が吹き込み顔の熱を奪っていた。

 

 「流石に堪えるね……着込んでいても寒いなあ」

 

 私はリンとジークの顔を見上げると、二人も困ったように笑う。かなり着込んでいるのに寒いと感じてしまうのだが、そっくり兄妹や同行している皆さまは大丈夫だろうか。鉄道移動でも夜は列車から降りて宿に向かうから、その途中で寒い方には防寒着を買っても大丈夫だし、お金がなければ払うと伝えておいたのだが……我慢している方がいるかもしれない。

 

 「冷えるな。早く宿に入って温まろう。風邪を引いたら大変だ」

 

 「そうだね、兄さん。島に行く前に風邪を引いたらナイの傷を治せない」

 

 ジークとリンも流石に寒いようで、随分と着込んでいる。レダとカストルも寒過ぎるのか沈黙を保っていた。水に濡れたら鞘と剣が抜けなくなるなと二振りに視線を注げば『今、すっげー寒気がした!』『マスターがなにか考えていらっしゃいます!』と沈黙を破る。あまり煩くするなと言うようにジークとリンがレダとカストルの柄に触れれば、二振りはまた静かになる。

 

 「クロは平気?」

 

 『ボクは大丈夫~でも、ロゼが寒さが苦手なんて意外だなあ』

 

 クロは竜なので寒さは平気だそうだ。アズとネルも大丈夫なようで、いつもの姿でジークとリンの肩の上に乗っているのだが、着ぶくれしている二人の側に居辛そうだった。

 クロもクロで時折私の肩から滑り落ちそうになっている。三頭とも飛べるので落ちても問題はないものの、落ちそうになっている姿を見るのはヒヤッとする。

 

 ロゼさんは私の影の中で待機しており、度を越した寒さが苦手と教えてくれた。ちなみに今の気温はマイナス三十度である。西大陸の中央部に位置するアルバトロス王国で育った身としては結構キツイ。魔術でどうにかできるものの、魔力が尽きると死に直結するので防寒対策は最重要項目だ。

 

 「暖かい部屋に行けば、きっとロゼさんも顔を出してくれるよ。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちは平気そうだね」

 

 ロゼさんは私の影の中で過ごしているが、毛玉ちゃんたちは雪が楽しいのか列車から降りると私の影から出てきて、外で五頭は走り回ったり絡み合ったりしている。雪がクッションになってくれるし、じゃれ合いなので牙や爪で怪我を負うこともないだろう。毛玉ちゃんたちにはヴァナルと雪さんたちが付いているので、私たちとはぐれそうになれば毛玉ちゃんたちを引き戻してくれる。さて、他の方は大丈夫かなと周りを見渡すと女神さまと視線が合った。

 

 「不躾な質問ですが、女神さまも大丈夫ですか?」

 

 「ああ。あたしは平気だ。暑さ寒さは分かるんだが、耐えられるようになっているみたいでな。着込む必要もないんだが、流石に薄着でいると目立つ……」

 

 女神さまもクロと同様に暑さ寒さは関係ないようだ。防寒着を纏う必要はないものの、薄着でいると悪目立ちするし『死にたいのか!』と街の方から怒られそうである。

 

 「あはは。でも丁度良かったです、黒髪が隠れるので。目立つのは避けたいですからね。宿に入りましょう」

 

 笑った私に女神さまが肩を竦めた。南と東大陸ほど酷くはないが、北大陸も黒髪黒目の数は少ないので人々から珍しいと視線を受ける。こればかりは仕方ないと割り切り、宿の扉を見据えた。

 

 ミズガルズの帝都は魔法で街そのものを覆い、雪と寒さを防いでいるが、地方都市となると難しいようで今いる場所は野ざらしだ。北大陸最北端の地は針葉樹が多く生え、雪により白色に染まっている。私の足元も随分と雪に沈み込んで歩き辛い。

 なんとか扉の前に辿り着き、ジークに扉を開けて貰う。玄関は北国らしく二重になっているのか、扉の先にまた扉が佇んでいた。そうしてまたジークに扉を開けて貰い中へと入る。

 

 宿の中は凄く豪華な内装だった。真っ赤な絨毯が敷き詰められ、柱や壁の所々には金細工が施されている。従業員の皆さま一同で礼を執り、私たちを出迎えてくれた。

 高級ホテルに泊まったことはないし、旅館にも泊った経験は数少ない。大勢の方に迎え入れられるという、慣れない厚意を受けながら受付へと足を向ける。アルバトロス王国一行の長を務めるので受付の方に挨拶をした方が良かろうと、宿に泊まる度に私が真っ先に赴いている。私が挨拶を終えれば手続きは外務部の方やソフィーアさまとセレスティアさまが行ってくれる。極寒の地だというのにこんなに豪華な宿があるのだなあと感心しながら、支配人さんとの挨拶を終えた。

 

 「一泊だけですが、どうぞよろしくお願い致します」

 

 「承知致しました。運が良ければ、空に赤や緑の帯が現れることがありますよ。深夜や明け方に見る機会が多いでしょうか」

 

 宿の主人が私たち一行に声を掛けてくれた。この地域はオーロラが見れる場所のようだ。見に行くか話題に上って、せっかくなら見てみようとなる。しまった。写真の魔術具を持ってくれば良かったと後悔していれば、副団長さまが私の横に立ちさっと写真の魔術具を手渡してくれる。

 なんだか高くつきそうであるが、オーロラを見ることなんて滅多にできない。テレビの中でしか見られなかった光景を、自分の肉眼に捉えて思い出として写真に残せるのは幸せなことである。神の島に辿り着く前だけれど緊張しっぱなしでも駄目だし、気を抜く時間も必要だろうと陽の出の時間を教えて貰って、興味のある方はオーロラ鑑賞に行こうとロビーで誘ってみた。

 

 興味のある方は皆さま頷いてくれている。ジークとリンは私の護衛なので付き合わなければならないが、ソフィーアさまとセレスティアさまと、副団長さまと猫背さんが頷いてくれる。

 

 このメンバーであれば警備面は心配いらないだろう。展望台が整備されており、明かりが灯されているとのこと。他にも行きたい方はいないかと聞いてみるれば、エーリヒさまと外務部にいつの間にか配属されていた緑髪くんが手を上げる。

 じゃあみんなで温かくして行きましょうと頷き合い、それぞれに割り当てられた部屋へと移動する。何故か女神さまと私は同室で、女神さまも嫌がっていない。別室を提案すると女神さまは妙な顔になって、何故か天候が荒れてくる。大荒れにはならないが不思議と荒れるのだ。では同室でと告げると天候が回復する。

 何故、と思うが嫌な方ではないし、他の方に当たり散らす様子もなく普通に一緒に過ごしているので問題はないけれど。何気にリンとも仲良くしており、珍しいこともあるものだと感心しているのだが。本当、何故だろう。

 

 私と女神さまに宛がわれた部屋に入ると凄く広い。部屋が数室あるし、ベッドも人数分以上ある。ひえーと驚きながら最北端の地で豪華な宿が作られる理由を考えてみた。

 

 「宿が立派なのは、光の帯を目的に観光で高貴な方がきているのかな?」

 

 私の言葉にジークとリンと女神さまが『どうだろう?』と首を傾げる。

 

 「なにかの本で読んだことがあるが、本当にそのようなものが夜空に浮かぶとは……確かに珍しい現象だから、興味がある者がわざわざ足を運ぶのかもしれないな。ナイの推測は合っているんじゃないか?」

 

 「でしょうねえ。世界を旅する冒険書に記されていた気がします。大陸横断鉄道が僻地にまで設けられている理由が分かった気がします。価値のあるものでしょうから見れると嬉しいですわ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまもオーロラは初めて見るようで興味があるようだ。女神さまはお二人が喋っても、侍従が喋るなとか無茶なことは言わない。

 

 背が低いとかチビとか侮蔑の視線を向けられなければ、女神さま的に友好関係を結べるそうだ。そんなに背の低さを馬鹿にされてきたのかと彼女を見るが、私より背が低いのでなんとも言えない気持ちになった。

 子爵邸のメンバーに女神さまが馴染んているなあと、夕ご飯まで打ち合わせをしていると部屋の扉を叩く音がする。ジークが対応を担ってくれると、エーリヒさまがきているようだ。個人的に用があるのでお邪魔しても良いですか、とのこと。男性も女性も揃っているので入室自体に問題はない。あとはエーリヒさまの個人的な用事の内容によるが、彼であれば無理難題は吹っ掛けられないだろうと入室の許可をジークに申し出る。

 

 リンが私の後ろに回り、椅子に腰掛けていたソフィーアさまとセレスティアさまも私の側に控える。女神さまは私の横の椅子に腰掛けて、用意されていた茶菓子を興味深そうに食べている。私も食べていたけれど、食べながらは失礼だと一旦手を止めた。宿の方にお茶を頼んでいると、エーリヒさまがジークと共にやってきた。彼の後ろには緑髪くん……えっと……ユルゲン・ジータスさまもいらっしゃる。

 

 「失礼します。夕食前に申し訳ありません。個人的にナイさまにお願いがありまして……あと彼は俺の付き添いです。異国の地で一人行動は危ないと、常に誰かと共にするのが外務部のルールとなっているので。申し訳ありません」

 

 エーリヒさまがジータスさま……緑髪くんに視線を向けると、緑髪くんが小さく礼を執った。私も目線を下げると、彼は部屋の隅へと下がって待機している。話に加わる気はないようで、エーリヒさまの付き添いのために部屋に赴いたのだろう。

 宿の方がお茶とお菓子を用意してくれて部屋から下がっていく。女神さまは嬉しそうにお菓子に手を伸ばして、美味しそうに頬張っている。美味しいならなによりと私はエーリヒさまへと視線を向けた。

 

 「大丈夫ですよ。エーリヒさま、どうしましたか」

 

 「ナイさまは光の帯を見れたら、魔術具に絵を収めるのですよね?」

 

 「はい。持参していなかったのですが、副団長さまにお借りすることができたので」

 

 副団長さま以外にもセレスティアさまも持っていたので、写真が撮れれば焼き増しして貰える予定である。私の言葉を聞いたエーリヒさまが小さく息を呑んだ。

 今更、緊張する関係でもないだろうに……あ、女神さまがいるからだろうか。日本人は神さまを側にある存在として認識しているけれど、エーリヒさまは神さまを上位に置いている方かもしれない。

 

 「あの、もし撮れたらで良いので絵を複写できないかなと。もちろんお金は払います。高いと少し支払いを待って頂くかもしれませんが……」

 

 言い終えたエーリヒさまは少し顔を赤らめた。顔を赤くする場面でもないし、綺麗な光景を写真に収めたいという気持ちは誰にだってあるものだ。

 

 「構いませんよ。複写も安い魔石ほどの値段なので気になさる必要はないかと」

 

 写真が欲しいなら気楽に伝えてくれれば良いのにと私は笑い、値段を伝えると彼はほっとしていた。また明け方に顔を合わす約束をしてエーリヒさまと緑髪くんが部屋を出て行く。

 ソフィーアさまとセレスティアさまも彼らが去って直ぐ、自分の部屋に戻ると言って歩いて行く。残ったお菓子に手を伸ばして、ジークとリンに食べると聞けば構わないと返事がきた。私はそっかと返事をして女神さまと一緒に残ったお菓子を頂く。北大陸のお菓子も美味しいなあと味を噛みしめながら、ジークとリンに視線を向ける。

 

 「写真くらい気にしなくて良いのにね」

 

 そっくり兄妹が私の言葉に片眉を上げた。

 

 「エーリヒのことだ。筋を通しておきたかったんじゃないか?」

 

 「大聖女さまに贈るのかな?」

 

 ジークは珍しく誰かに対して柔らかい笑みを浮かべ、リンは顔を傾げている。

 

 「そういえばエーリヒさまとフィーネさまは手紙のやり取りしているんだっけ。マメだなあ……私は無理かも」

 

 多分細かいやり取りと気配りは私には無理である。オーロラの写真を撮って誰かに贈るなんて考えたことはない。

 

 「……なあ、ナイ」

 

 「どうしたの、ジーク。深刻な顔になってるよ」

 

 ティーカップを手に取って口に含もうとした瞬間、リンが口を開く。

 

 「あの二人、付き合っているんじゃないかな。ねえ、兄さん」

 

 リンの言葉にジークが渋い顔を浮かべて深く頷いた。

 

 「え? ええ!?」

 

 え、エーリヒさまとフィーネさまっていつ付き合っていたの? 島から帰国する際に二人の距離が近かったけれど、たまたま距離が近いこともあるだろうと思っていたのに。告白する機会なんていつあったの……って、まあ四六時中一緒にいるわけじゃないし、別行動を取っていたので学院や島で告白する機会はあったのか。

 ジークは『何故、アレで気付かない』と言いたげだし、リンは『ナイだから』と嬉しそうな顔を浮かべている。

 

 「うーん……人間関係って難しい……」

 

 「……お前、お子ちゃまだなあ」

 

 女神さまがジークとリンが言いたかった台詞であろう言葉を口にする。はい、恋愛関係には鈍くて誠に申し訳ありません。ヒロインちゃんくらいあからさまであれば分かるけれど、どうにも他の方の人間関係に興味が薄いのか気付き辛いところが私にはある。

 

 「お菓子を美味しそうに頬張りながら言う台詞ではないかと……」

 

 「んあ? まあ、確かに」

 

 ししし、と歯を見せながら笑う女神さまに、エーリヒさまとフィーネさまに祝福の品を贈った方が良いのかなと悩み始めるのだった。

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