魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0490:神の島。

 神さまの島の直前にある岩礁に辿り着く。

 

 漁船からひょいっと自力で上陸できれば良かったのだが、何故かリンに抱えられてひょいっと移乗した。ジークも船から岩礁に降りエーリヒくんと緑髪くんの手を取って補助を担っている。ソフィーアさまとセレスティアさまは自力で岩礁に船から辿り着いているのに、男性陣が女性のような扱いを受けていて少し面白おかしい光景だった。

 ちなみに副団長さまは自力で降り、猫背さんは副団長さまの手を借りて岩礁に降りたものの、濡れた岩場に足を取られてずっこけていた。防寒対策のお陰で傷を負っていないが、お尻は打ったそうなので私が魔術を施したから凄く嬉しそうな顔になっている。女神さまがまた『なにやってんだか……』と呆れ声を出しつつも、なんだか憎めない表情を浮かべて猫背さんを見守っていた。

 

 「よーし、行くぞ。あたしの周りにみんな集まれ」

 

 女神さまの声に私が『はい』と返事をし、周りの皆さまも確りと頷く。引率の先生みたいだと女神さまを見ると、足元に魔術陣が幾重にも浮かんだ。眩いばかりの光に包まれると、一瞬にして景色が変わっているのだった。

 

 副団長さまとロゼさんの転移を経験している身として、転移時にはお腹が浮くような独特な感覚を味わうのだが女神さまの時には全く感じなかった。技術体系が違うから、こんなものかなと納得して周りの景色を見る。一面の雪景色と極寒の地特有の薄暗さはなく、今、私が目にしている光景は春先のような暖かさに包まれ新芽の黄緑色に染まった大地が広がっていた。

 

 「暑いね……脱ごうか」

 

 気温の差で直ぐに暑くなってくる。このままでは大汗を掻いて大変なことになるぞと真っ先に――女神さまは脱いでいるけれど――私が防寒着を脱ぎ始めた。私に倣って皆さまが脱ぎ始め、ほっと息を吐いている。北大陸に赴いてから本当に寒かったけれど、アルバトロス王国の冬が明けた頃の気温で有難い。

 

 「誰かいると良いんだがなあ」

 

 女神さまが防寒着を脱いで、肩を回してリラックスしながら声を上げた。今の言い方だと複数人神さまがいるように聞こえる。

 

 「女神さまのご家族以外の神さまもいらっしゃるのですか?」

 

 私は疑問に感じて問うてみた。

 

 「おう、いるぞ。あたしたちは創造神みたいなもんだな。他の星には神さまは一人しかいねえところもあるらしいんだが、この星はあたしたち一家が一番格が高いんだ」

 

 ふふっと自慢そうに笑う女神さま。あっちだと行先を指した女神さまに従い、彼女の後ろを私たち一行は足を進める。入って良いのかと疑問であるが、入って駄目なら神罰が即行で下っていることだろう。恐れても仕方ないし、腕の怪我を治して貰わなければならないので私は進むしかない。付き添いで巻き込まれた方々には申し訳ないが、皆さま良い働きをしてくれたと報告に上げておくので許して欲しい。

 緑溢れる森の中を歩く。北大陸の薄暗い針葉樹の森の空気と一変し、小鳥が囀り虫の鳴き声も聞こえる。テッペンハゲタカーと鳴く鳥は確かホトトギスだったか。それならウグイスもいそうだなあと森を見回してみるが、鳴き声は聞こえてこなかった。

 

 歩くこと暫く、こじんまりとした集落が見えてきた。白い外装の建物がぽつんぽつんと点在し、かなり大きな建坪になっている。また歩いて先を進むと、私たちの正面に白亜のお屋敷がどーんと姿を現した。

 

 「ここだ。あたしの実家だな。さて親父がいると良いんだが」

 

 女神さまの声にふと気付く。女神さまはお父上の話はするが母上さまの話をしない。気になるが立ち入らない方が良いだろうと黙って女神さまに頷くと、彼女が足を進める。貴族のお屋敷のように広いけれど警備の方がいる雰囲気はないし、庭師の方が丹精込めて整備している様子もない。それなのにお屋敷にある草花は綺麗に赤やピンクや黄色の花々を咲かせている。

 

 「親父ー帰ったぞー!」

 

 玄関の扉を勢い良く開けた女神さまが同時に大きな声を出す。広いロビーの真ん前には上階に上がる階段があり、登った先は左右に分かれていた。外から見ても広いお屋敷だけれど、中に入った方が広さが倍増している気がする。

 女神さまの声に誰も反応しないなと首を傾げると、上階の右端と左端からすらっとした背の高い白い髪の女性と黒髪の女性が同じ速度、同じ歩幅で歩いて階段の上で合流し、来訪者である私たちを見下ろした。

 

 「おや、家出した末妹がどうして島に戻っているのでしょうか?」

 

 「おチビちゃん。威勢良く家を出て行ったのに戻ってきたのですか?」

 

 上階に立つお二人は、言葉振りから女神さまの姉上さまのようだ。おそらく北と東を創造したお姉さまだろう。人間離れした別嬪さんで、凄く背が高い方々である。その身長少しくださいと願ってしまうのは不敬だろうか。

 

 「あのなあ……ここはあたしの家でもあるんだ。戻って悪いかよ。そりゃ、姉御たちの態度に耐えられなくなって、数万年前に出て行ったきりだけどよぉ。あとチビ言うな」

 

 むっと口を尖らせながら女神さまが仰るのだが時間規模が凄い。数万年振りの帰郷って大丈夫なのだろうか。凄く人間臭い南の女神さまであるが、本当に数万年生きているのだなあと改める。ずっとこの家に引き籠っている姉御たちもどうかと思うんだがなあとぼやいた南の女神さまを無視して、お二人が視線を私に固定して階段をすすすと降りてきた。

 

 「あら。人の身でありながら貴女は黒髪黒目なのね、珍しい……私が築き上げた東大陸だと、私に対する信仰心が篤くて黒髪黒目の子を崇拝するようになっていたけれど、そういえば今はどうなっているのかしら?」

 

 きょとんと首を傾げる女神さまA。今の口ぶりから東大陸を創造なさった方のようだ。

 

 「東や南の人間よりも、北だと黒髪黒目に対して興味が薄いのだけれど……珍しいわねえ。私たちの血を色濃く引いたのかしら。でもおかしくないかしら。私たちの血は時間と共に薄くなっているというのに」

 

 もう一人の女神さまBもこてんと首を傾げながら、指を口元に当てて考える素振りを見せている。おそらく北大陸を創造した女神さまなのだろう。しかしまあお二人共リンより背が高いので百八十センチを超えているのは確実か。

 ジークの身長――百九十ちょい――は超えていないので、その間である。胸も大きいし羨ましい限りであるが、末妹である南の女神さまの身長は私より少し低いくらいなので、お姉さま方から容姿を言及されるのは致し方ないのかもしれない。

 

 お二人の女神さまの態度に南の女神さまが『あたしの話を聞けよぉ』と頬を膨らませている。あれ、あと一人いるはずの西の女神さまはどこにいるのだろうか。女神Aさまと女神Bさまが私の黒髪黒目について、何故だといろいろ考え込んでいる。

 私は言葉を上げても良いのか判断に困り、黙ったままお二人の行動を見守るのみ。一緒に同行している皆さまも口を挟む気はないようで黙ったままである。あーでもないこーでもないと話ながら、私の匂いを嗅いだり瞳の奥を覗き込んでいる女神さま二人に、南の女神さまが後ろ手で頭を掻いて片眉を上げた。

 

 「考えているところを悪いんだが、コイツの怪我を治してくれる奴はいないか?」

 

 「怪我?」

 

 「何故、怪我を負ったのかしら?」

 

 南の女神さまが右の親指を立てて私を差すと、高身長な北と東の女神さまの目が私を射抜き自然と包帯を巻いた右腕を見ていた。

 

 「あたしがやっちまったんだよ。あたしは攻撃一辺倒だからコイツの怪我は治せねえ。あと、あたしの力が強すぎて人間には治せなかった。親父に聞こうと最初は考えていたけど二人が出てきたから、誰か治せそうな奴を紹介してくれ」

 

 南の女神さまの言葉に姉の女神さま二人が『人間が治せるはずはない』『治せた人間がいるなら人の枠から外れているわね』と小さく呟いた。そうして二人の女神さまが私の腕から顔に視線を移した。

 

 「あらあら、まあまあ。確かに貴女は不器用で、なんでもはできなかったものねえ。というか姉妹の中で一番粗暴な妹の攻撃を受けてどうして生きているのかしら?」

 

 「私たちとは違って、おチビちゃんは力に訴えた方法で南大陸を創り上げたものね。おチビちゃんは姉妹の中で一番弱いけれど……確かに人間の枠に収まっていないわね」

 

 首を傾げる東の女神さまと、手を伸ばしてぐりぐりと私の頭を撫でている北の女神さまに私はなされるがままである。南の女神さまが『すまねえな』みたいな顔で私を見るので、やり取りはお任せするしかないのだろうか。人間の社会ではなく神さまの社会に入り込んでいるので、どうすれば良いのか作法が分からない。南の女神さまは『あたしに任せておけば良い』と言われているから、黙っている部分もあるのだけれど。

 

 「貴女、お名前は?」

 

 「そうね、名乗りなさいな」

 

 お二人の女神さまは私に興味を抱いたのか、そんなことを問うてきた。私は無言のままでいるより居心地は良いと、居住まいを正して礼を執ったあと口を開く。

 

 「ナイ・アストライアーと申します。この度は御縁を得て南の女神さまと邂逅することになりました。その際に怪我を負い、南の女神さまのご厚意で皆さま方が住まう島で治療を行おうと提案を受け、参った次第でございます」

 

 一応、島に赴いた経緯を再度伝えておく。お二人の女神さまのご尊顔を眺めていると、にこりと笑い私の背中に東の女神さまが手を当てて、腰に北の女神さまの手が回る。あれ、どういう状況だろう。

 

 「あらまあ、小さいのにご丁寧に。妹と違って礼儀正しいのねえ」

 

 「本当に。おチビちゃんとは大違いだわ」

 

 南の女神さまが『うっせーよ』と口を尖らせるのを見て、お二人の女神さまは笑いながら歩を進め始めた。後ろの皆さまにも二人の女神さまは『こちらへ』『一緒にきなさいな、人間』と言い放った。私以外の扱い悪いけれど無視されるより良いのだろう。

 私は申し訳ないと目線で彼らに訴えて、女神さまと歩を合わせる。足、長いなあと微妙な気持ちを抱けば、南の女神さまも私と同じ気持ちであるようでお二人の女神さまの足元を見ていた。

 

 「さて、座って」

 

 「怪我を見せて頂戴な」

 

 お屋敷のとある部屋に案内された。ガラス張りの部屋は温室のように暖かく、観葉植物らしきものが鎮座している。他にも鉢植えに花が植えられ綺麗に花を咲かせていた。

 花粉症の方がいれば大変そうだと部屋に満ちている花の匂いを感じ取る。甘過ぎない匂いを楽しみながら、私はお二人の女神さまに導かれ椅子に腰を下ろした。そうして東の女神さまが指を鳴らすと、私の腕に巻いている包帯が勝手に取れる。

 

 「良く、この程度で済んだわね」

 

 「加減した……いえ違うわね。加減できたのおチビちゃん?」

 

 「いや、あまり加減しないでいった。でもコイツ、あたしと姉さんの血が濃くでてるみたいで、右腕に怪我を負っただけでケロッとしてる」

 

 お二人の女神さまの言葉に南の女神さまが怪訝な顔で答えた。どうやら割と本気だったのに今の状態で済んでいるのが不思議なようである。魔力量が高いから勝手に防御されたのだろうか。そういえば錫杖を持って儀式に挑んだから、錫杖が気を利かせて自動で魔術を発動させていたとか……いや、まさかと頭を振って、お三方のやり取りを見守る。

 

 「確かに妹と姉上さまの匂いを、この子から感じるような?」

 

 「おチビちゃんとお姉さまの匂いがありますわね」

 

 私の顔を不思議そうに東と北の女神さまが覗き込んだ。そうして怪我は父上に治して貰いましょうとお二方が告げる。え、目の前の女神さまが治してくれるんじゃないの、と悲鳴を上げたくなるが拒否権はない。

 お三方の父神さまとお目通りすることになり、私は大変なことになったなとガラス張りの部屋の天井から見える空を眺めるのだった。凄く良い天気である。

 

 ◇

 

 女性に私の匂いを嗅がれるのは如何なものかと言いたいが、相手は女神さまでありちっぽけな人間が敵うはずのない相手である。なされるがまま私の肩と腰に回された東と北の女神さまの手を受け入れて移動を開始する。

 お屋敷の長い廊下を進み庭に出て、整備された道を進むと東屋が見えてきた。小鳥が囀り、そよ風が草木を揺らしている庭の東屋で大柄な男性が一人、グラスを片手に景色を楽しんでいる。東と北の女神さまは男性の姿を見て、千年近く東屋にいるわねえと呟いている。やはり時間単位が凄く大仰だが、神さまたちの時間感覚は凄くルーズそうであった。

 

 「お父さま」

 

 「父上さま」

 

 東と北の女神さまと共に東屋へと進む。髭を生やした男性は娘の登場を全く気にしておらず、違う方向を見据えたままグラスを少し倒した。

 

 「どうした。我が娘よ」

 

 男性、もとい神さまは声だけを上げて東と北の女神さまに問う。

 

 「妹が帰ってきたのだけれど、人間にオイタをしたようなの」

 

 「おチビちゃんとはいえ神格持ちでしょう。人間には治せなかったようで、私たちを頼りたいみたい」

 

 お二人の声にやっと神さまがこちらを向き、南の女神さまに視線を向けた。一応、私と私たち一行にも視線をくれたので、認知してくれたはず。

 

 「ふむ。まだ数千年は戻ってこないと考えていたが珍しいこともあるものだ。しかしまあ人間に手を出したというのは一体どういうことか?」

 

 神さまはグラスを口元に持って行き中身を飲み干す。口からグラスを離すと勝手に中身が補充された。神さますげえと感心していると、南の女神さまが前に進み出て神さまと相対する。

 空気が緊張しているような気がするけれど……大丈夫だろうか。私は視線を神さまと南の女神さまの間を行ったり来たりさせていると、東と北の女神さまが『お父さまは末妹には甘い』『おチビちゃんは父上だけには素直だから』と告げた。

 

 「親父……久しぶりだ。黒髪黒目の人間は昔と違って随分と減って、妙に持て囃されるか嫌われるかだろ。だからあたしが築いた南大陸ではあたしが黒髪黒目の連中を見守っていた。家を出て暇だったしな」

 

 南の女神さまは東と北の女神さまの身長弄りを嫌って家を出て行ったそうだ。何万年も前のことであるが、南の女神さまは東と北の女神さまに苦手意識を持っているとのこと。

 そんなこんなで自身が創造した南大陸で時間を潰していたのだが、南大陸で生まれた黒髪黒目の扱いがよろしくない。黒髪黒目の人間は南の女神さまの血を色濃く引いた者なので捨て置けなかったそうな。だからこそ現界して黒髪黒目を助けていた。そして南大陸の方々からは女神さまは敬う対象でありながら畏怖される存在へと少しずつ変化していった。

 

 そして低身長な黒髪黒目の女性を某王族さまが小馬鹿にしている所を見てしまい罰を与えた、と。で、数百年越しに罪を勝手に消し去ろうとしていたので、ついうっかり私に攻撃を放ってしまったと。

 神さまと南の女神さまの話を聞きながら、良く生きているな私は……と一人感心する。東と北の女神さまも良く腕の怪我だけですんだわねと、驚きながら私を見下ろしている。持っていた錫杖のお陰かなあと、左手の錫杖に視線を向けると施されている魔石がキラリと光った。そして私は神さまと南の女神さまへと視線を向け直した。

 

 「南はお前のものだから好きにすれば良いが、他の大地に手を出していまいな?」

 

 手は出していないけれど、南の女神さまが西大陸へ出現なさったことはどうなるのだろう。南大陸の王族の方々を西大陸のアルバトロス王国へと呼んだのは私の都合であるが、王族の方々が浄化儀式を望みアルバトロスまでやってきたから問題ないはずである。とはいえ場所や時が変わればルールなんて違ってくる。人間のルールで物事を考えていたら痛い目に合いそうだと南の女神さまを見た。

 

 「悪い。傷を治して欲しい奴は西の姉御の地の者だ。南大陸の者が西に渡ったから、ちと手違いを起こしちまった……親父、すまないがコイツの怪我を治してやってくれ」

 

 南の女神さまが神さまを確りと見据えて、今回の旅の目的を告げた。神さまがゆっくりと私に視線を向けると、一瞬にして私の目の前に現れる。手にしていたグラスはどこかに消え去っており、大柄な神さまが凄く腰を曲げて私の目を覗き込む。

 

 「ふむ。面白いな、お主。人間ではあるが……少し我々の存在と近しいな。とはいえ神でもない半端者。これはこれは儂が創った星は面白いことを仕出かしてくれる!」

 

 くくくと面白そうに神さまが喉を鳴らす。そうしてまた私の腕に巻かれていた包帯が勝手に解けていった。

 

 「末娘の怒りを受けて、この程度で済んでいることが奇跡なのだが……まあ今は機嫌が良い。治してやろう」

 

 にかっと笑う神さまが私の右手を取ると、綺麗に怪我が治っている。詠唱も魔力を練った痕跡もなしに傷が治っていることに私は目を見開いた。

 

 「……凄い」

 

 私の口から勝手に漏れ出た声を聞いた神さまが『ぶっ!』と息を吹く。

 

 「凄いもなにも、儂はこの星を創った者だぞ。このくらい些末なことよ! しかし儂を褒める者がいるとは驚きだ!」

 

 神さまはなんでもできる故に神の島の皆さまから頼られているそうだ。なんでもできる故に困ったことがないし、行動を起こしても成功が当たり前だから褒めてくれる方がいない。

 新鮮な気持ちを味わえたと私の頭を大きな手でぐりぐりと撫でつける。身長が低くなりそうなので止めてくださいと訴えたいが、大人しく受け入れるしかない。暫く成されるがままでいると、神さまの腰の位置から盛大な音が漏れた。

 

 「おっと、すまん。最近、腹の調子が悪くてな」

 

 「お酒を嗜み過ぎではないでしょうか」

 

 ガハハと笑う神さまに私はつい聖女職の癖で即答えてしまった。黙っておくことが正解なのだが、話を聞いてしまえば答えてしまう。神さまが東屋でグラスを掲げていた中身はお酒だろうし、立ち上がる際にも身体が揺れていた。まだ耄碌しそうな年齢ではなさそうなので、お酒に酔っているなと踏んだのだ。

 東と北の女神さまが『お父さま、控えてくださいまし』『お父上、近頃はずっとお酒を嗜んでおられますから』と呟いている。その声を聞いた南の女神さまがじとーとした視線を神さまに向け、ご本人は三人の娘さんの圧に敵わなかったのか、目を細めて父親の威厳という物が掻き消えそうになっていた。

 

 「失礼致しました。職業柄、身体の悩みを聞くと推測を述べてしまう癖が身についているので……誠に申し訳ありません」

 

 お貴族さまになって治癒院に赴く機会は減っているというのに、癖というものは抜け辛いものらしい。私は腰を折って頭を下げれば、気にするなと神さまの声が降り注ぐ。お言葉に甘えて顔を上げると、神さまは髭を撫でながら面白そうな顔で私を見下ろす。

 

 「ん、んんー? お前さん数年前に大地に力を込めなかったか? お前さんの力の雰囲気を知っている気がするのだが」

 

 「二年ほど前、魔力を大地に注ぎ込んだことがあります。そして『もっとだ』と請われたような気もしています」

 

 「おお!? あの時の! 面白いからもっとと請うてみたのだが、本当に追加で注ぎ込むとは思わなんだ! 地上にあれほどの力を持つ者がいるとはと感心していた。そして星の命も伸びているぞ!」

 

 神さまが腕を組んで豪快に笑い、クロが驚きつつも星の命が伸びていることに嬉しそうである。それ、私の命が縮んでいないかなと首を傾げたくなるが、今は元気に生きているから問題はない。

 

 「お主、名は?」

 

 「ナイ・アストライアーと申します。怪我を治していただき感謝致します」

 

 神さまに問われたので素直に答えておく。

 

 「怪我は我が娘の不始末だ、気にするな。儂はグイー。この星の生まれから最後を見守る者だ。とはいえ地上に関わる気はない。関わるなら大陸を創造した四人の我が娘たちだな。南は手を出し過ぎているようだが!」

 

 神さまが名前を教えてくれた。彼の名を私が呼んでも良いのか迷っていると、三人の女神さまが『お父さまの名前を初めて聞いたわ』『そういえば父上の名は初耳ですわね』『親父、名前あったんだな』と驚いている。

 家族関係が少々心配になってくる発言を聞いたが、私の家族関係の方が破綻しているので野暮なことは口にできない。神さまと話を交わしていると、ふいに彼がクロへと視線を向けた。

 

 「何万年も生きる獣よ、儂の下へきてくれんか?」

 

 私の肩の上で大人しくしているクロを神さまが呼ぶ。クロが行っても良いかと視線で問うので、どうぞと私は軽く頷いた。クロは私の肩から飛び立って、神さまの伸ばした腕にゆっくりと乗る。

 

 「おお! 愛いのお、愛いのお。お主のような存在が生まれていることは知っていたが、直接関わることになるとはなあ」

 

 神さまがデレデレとした顔でクロに右の人差し指を伸ばした。クロはなにをすれば良いのか理解しているようで、彼の指に顔を擦り付ける。

 

 『ボクはクロっていうんだ。獣じゃなくて竜なんだよ』

 

 「言葉を交わせるのか! 知能が高いんだなあ……儂の手が気持ち良いか? 気持ち良いのか! ウリウリウリウリ」

 

 クロと話しながら神さまはデレデレした顔になっている。竜の存在は知っているけれど、竜という生き物がどんな生態で生きているのかは知らないようだった。神さまって全知全能と言われているけれど、目の前のような神さまもいるようだ。

 ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちにロゼさんと会えば、彼はどうなってしまうのだろう。神さまのテンションがMAXになりそうだから止めておこうと私の影を見つめた。すると桜ちゃんが顔だけを出して、神さまに熱視線を向けていた。それに気付いた神さまが『ふほっ!』と息を吹いて、おいでおいでと桜ちゃんを誘う。

 ヴァナルと雪さんたちが許可を出したであろう桜ちゃんは勢いよく飛び出して、彼女を先頭に残りの毛玉ちゃんたちが一斉に飛び出し神さまの周りをクルクルと回っている。飛びつかない理性は残っているようで、遊んで遊んでと毛玉ちゃんたちが訴えていた。

 

 「お、おおおおお! 斯様な愛い者も! ナイ、まだおらぬのか!?」

 

 わしゃわしゃと毛玉ちゃんたちを満足そうな顔を浮かべて撫でている神さまに問われたので、私はロゼさんを呼ぶ。もうネタ切れするのだが、まだ足りないだろうか。私の影の中からぴょーんと飛び出したロゼさんを見た神さまは目を見開きながら驚いている。

 忙しいなあと目を細めると、神さまがロゼさんもおいでおいでと誘っていた。でもロゼさんはツンデレなのか、神さまの要請に答える気はないようだ。

 

 「儂のことは嫌いか……?」

 

 眉を垂らした神さまがロゼさんに問えば、私の方を見たロゼさんがゆっくりと神さまの方へと進み出る。クロは神さまの邪魔をしないようにと彼の肩の上に移っていた。

 

 「お主は不思議よのう。軟体生物なのに意思がある。賢いのだなあ」

 

 ロゼさんボディーを神さまがぺちぺちと撫でる。ぷーと大きく膨らむロゼさんに神さまが驚いて、面白そうにロゼさんボディを撫で続けている。

 

 『うー……変な感じがする。マスターの手の方が良い』

 

 ロゼさんがぼそりと声を零して神さまの下から私の足元に移動した。少し残念そうな顔になる神さまであるが、代わりに毛玉ちゃんたちが鼻を鳴らして相手をしてと訴えている。

 私はロゼさんを抱き上げて何度かロゼさんボディーを撫でると、満足したロゼさんは影の中へと戻って行った。何故か毛玉ちゃんたちの輪の中に北と東の女神さまも加わって、もふもふ大会が始まっている。神さまなのに普通の人間ぽいよなあと、楽しんでいる方々の様子を見守る私たち一行だった。

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