魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0491:神さまのお願い。

 神さまがクロと毛玉ちゃんたちのもふもふっぷりを堪能したあと東と北の女神さまもしきりにナデナデして、お茶会を開くことになり東屋へと誘われる。他の人も誘って良いよと神さまに許可を頂けたので、後ろを振り返ると誰も挙手する方がいなかった。

 何故と言いたくなるが諦めて神さまに案内された席に着く。東と北の女神さまがちょいちょいと人差し指を動かせば、お茶とお菓子が唐突に現れた。食べ物を生み出せる神さまスゲーと感心していると、神さまが私の正面にどっかりと腰を下ろす。そうしてグラスをどこからともなく取り出して、透明な水を一気に飲み干す。

 

 「ぷはー! 水は美味いなあ」

 

 くーと唸った神さまが嬉しそうな声を上げた。東と北と南の女神さまも同席しているのだが、父親である神さまに白い目を向けているので中身はお酒なのかもしれない。よく酔わないなと感心していると、お茶とお菓子を勧められたので真っ白なティーカップに手を伸ばし少し熱いので冷ましてから頂く。南の女神さまも同様にティーカップを手に取って、ふうふうと息を吹きかけていた。

 

 「そうしていると本当の姉妹みたいねえ」

 

 「おチビちゃんの方が小さいから、お嬢ちゃんがお姉さんねえ」

 

 東と北の女神さまがくすくすと笑いながら、南の女神さまと私を交互に見た。彼女たちもティーカップに手を伸ばしてお茶を飲んでいる。冷やさなくても飲めるのは羨ましい。ちなみに南の女神さまは一口目をまだ飲んでいなかった。

 

 「あたしを見た目と猫舌振りで判断するな! 背の小ささを弄られるから戻りたく……いや、なんでもない!」

 

 南の女神さまが猫が逆毛を立てるように声を上げる。私の右腕に視線を向けると直ぐに言葉尻が弱くなって首を振り語気を強めた。どうやら島に赴くようになった経緯を思い至り口を閉じたようだ。

 

 「あら、成長したわね」

 

 「何万年経っても身長は変わらないから、おチビちゃんはおチビちゃんだわ」

 

 東と北の女神さまが目を真ん丸にして南の女神さまを見ていた。

 

 「うっせ!」

 

 南の女神さまは言葉を荒げつつも我慢しているのか、いつものことで慣れているのか、ようやくお茶を口にして嚥下する。姉妹仲が良いようでなによりと私は小さく笑うのだが、西の女神さまはどこにいるのだろうか。

 一応、西大陸出身者だし、アルバトロス教会の本山である聖王国は西の女神さまを崇めているので一目お会いしたかったのだが……無理なら仕方ないと私はもう一口お茶を啜る。

 

 「ねえ、貴女。見た目はおチビちゃんに似ていて、貴女から溢れ出ている力はおチビちゃんの雰囲気もあるわ。でも、西のお姉さまの雰囲気にも似ているし強いわねえ」

 

 「ああ、確かに。言われてみればお姉さまの雰囲気にも似ているわ」

 

 東と北の女神さまがお菓子に手を伸ばしながらそんなことを告げる。西の女神さまを知らないのでなんとも言えないのだが、私の魔力は西の女神さま譲りというわけか。

 見た目は南の女神さまが強く影響しているようだけれど……あれ、私の見た目が西の女神さまに似ていればリンとまでは行かなくともソフィーアさまとセレスティアさまの身長くらいには育っていたのでは。いや、でも突然変異なら西の女神さまの血を色濃く引いても背が小さかった可能性もあり得ると納得させる。このままでは南の女神さまに恨み節を吐き出しそうだ。

 

 「別大陸の方々との混血は珍しいのですか?」

 

 「一番最初にお互いに創った大陸には関わらないでおこうと取り決めをしていたの」

 

 「でもまあ、長い時間が経ったから薄れたみたいね。取り決めを縛っていた血の力も弱くなったようだし」

 

 なるほど。東大陸から西大陸へと移動してきた方がいるのが証拠か。南大陸からも西大陸へと移動して住み着いた一族がいるのだから、年月を経て女神さま同士で築いたルールの効力が薄くなってしまったのだろう。自然とか人間って本当にたくましいなと感心していると、四姉妹の父親である神さまが微妙な顔をしていた。少し酔っている気がするので、神さまは放っておこう。

 

 「西から他大陸へ渡った方たちはいるのですか?」

 

 私は女神さまと神さまの顔を順に見ると、皆さま首を緩く振った。どうやら長女である西の女神さまの力が一番強いので、取り決めの効力が西大陸の方々に強く長く効いていたのだろうと私に教えてくださる。私が想像を巡らせるよりも、勘の良い副団長さまとエーリヒさまに話して推測して貰う方が効率が良いだろうに件の方々は私の後ろで大人しくしている。

 

 「アレの考えていることは儂にも分からん。ずっと引き籠もっているしなあ……そうだ、お主、引き籠もりの我が娘を訪ねてみてくれんか?」

 

 「私が西の女神さまに声を掛けるのですか?」

 

 神さまだから西大陸の女神さまのことをアレと称せるようだ。私がアレとか言えば天罰が下りそうである。はあと大きな溜息を吐く神さまに続いて、東と北の女神さまも溜息を吐いた。

 

 「ああ、そうだ。儂が声を掛けても、娘三人が声を掛けても一向に部屋から出てこないのだ。引き籠もってから数万年経っているのだが、そろそろ出てこなければ神格を失って死んでしまう。せめてテラがいれば良いのだが……」

 

 困り顔の神さまが私を見据える。私が声を掛けたとしても成功率はコンマ一パーセントもないのではなかろうか。いやコンマ一パーセントでも成功率が高い気がする。しかし西の女神さまが死んでしまうということは、イコール西大陸も終わるのだろうか。

 

 「なに、星に力を注いだ其方だ。力技を使っても構わんぞ。消失はしないだろうし」

 

 先ほど神さまは西の女神さまが神格を失って死んでしまうと言ったのに、消失と言い直している。もしかして私という人間が魔術で吹き飛ばした所で、神さまクラスとなれば怪我を負ったり霧散させても細胞レベルで再構築できるのだろうか。

 そういえばヴァナルの元であったフェンリルも副団長さまの手により消し炭にされていたけれど、魔素を集めて新たに生まれ変わっている。クロの様に記憶を持っていないけれど、近しいことをヴァナルはやってのけているはず。

 

 「不躾な質問で恐縮ですが、閉じ籠っておられる西の女神さまに私の全力の魔術を放っても良い、ということでしょうか?」

 

 一応、大気圏を抜けて一番近くにある星にまで到達できる威力の魔術を放てるけれど……ジークとリンは私の後ろで黙って耳を傾け、ソフィーアさまとセレスティアさまは『止めておいた方が……』『ナイであれば女神さまを吹き飛ばしそうですわ』と言いたげである。

 副団長さまと猫背さんは面白そうな方向に話が流れていると期待の眼差しを私に向けている。エーリヒさまと緑髪くんは目を丸く見開きながら驚いているようだ。まあ彼らを見ることはできないので、全て私の背後で感じ取った雰囲気からの予想だけれど。

 

 「ああ、構わない。お主の全力を儂は知り得ないが、人間が神を超えることはないからな」

 

 ハハハと笑う神さまにアルバトロス王国一行が微妙な雰囲気を醸し出していた。これは一言告げておいた方が良いと決心して、私は口を開く。

 

 「あの……力自慢のようでお恥ずかしいのですが、私が全力を出すと夜に浮かぶ一際大きな星に届きます。そのような威力をこの島で放っても問題はありませんか?」

 

 「親父、コイツを人間の枠で捉えない方が良い」

 

 私の問い掛けに南の女神さまが補足してくれる。ちょっと待って。私は人間の枠に収まっているはずだけれど…………無理か。いくらファンタジー世界とはいえ、とんでもないことが私の身の回りで起こり過ぎている。

 ぽかーんと目を見開いて神さまと北と東の女神さまが私に視線を向けて、ぽつりと一言『力技は止めよう』と神さまが漏らした。良かったのか悪かったのか分からないが、神殺しの二つ名を賜る可能性は消え去る。

 

 「……本当に奇跡のような存在だな、ナイは」

 

 腕を組んだ神さまが唸りながら言葉を放ち空を見上げた。私も神さまに釣られて上空に視線を向けると、晴れ渡った空の上に双子星が薄く浮かんでいた。緯度が高いせいなのかアルバトロスで見る双子星よりも大きい気がする。星による自転と公転の関係もあるけれど、今見えている双子星はいつもみるものより大きく見えていた。

 

 「テラがいればなあ。でも、彼女が創造した星で忙しそうにしておるし、楽しそうだから引き戻すのも気が引ける。久方ぶりに会いたいが……娘が引き籠もっていると知れば儂がテラに怒られる……はあ……」

 

 テラという名前は神さまの奥方さまのようで、神さまは大袈裟に溜息を吐いて頭を抱えていた。あれ、と私は疑問が浮んで少し後ろを振り返りエーリヒさまの顔を見る。彼も微妙な顔となっているので、テラという名前は地球に関係しているのではないかと思い至ったようだ。

 

 「失礼ですが、テラさまは神さまの奥方さまですか?」

 

 勘違いしてもいけないし、愛人の可能性だってある。神さまが沢山いらっしゃるなら、前世で聞いたドス黒い人間模様……神さま模様をしている可能性だってある。これで本妻の方がいれば、少し引いてしまうなあと私は神さまを見た。

 

 「ああ、そうだ。彼女の星は彼女の名前を付けて創造した。儂の星より随分と文明が発展しているぞ。人間に不思議な力はないが知恵を使って進化しているそうだ。ナイ、儂の名を呼んでも構わん」

 

 気まぐれでグイーさまが管理しているこの星に戻ってきた時が怖いとのこと。奥方さまと顔を合わせたのは一億年前だそうで、四人の女神さまはだいたい一億年くらい生きているそうだ。

 

 神さま方は神格さえ落とさなければ不老であり星と共に生きている。星が尽きてしまえば神さま方は共に尽きてしまうそうだ。地球が存在しているとは予想外であるものの、果てしない宇宙の一角に地球があってもおかしくはないし、地球とよく似た星があってもおかしくはない。少し混乱しそうになるが、人間の身では地球には辿り着けないだろう。それに地球によく似ただけの別の世界という可能性だってある。

 

 今、目の前でやるべきことは神さま、グイーさまからお願いされた引き籠もり状態の西の女神さまを引っ張り出すことだ。

 

 「私にできましょうか?」

 

 西の女神さまが私の言うことを聞いてくれるのか甚だ疑問である。

 

 「駄目で元々だ。やってみてくれぬか?」

 

 グイーさまが仰る通り、駄目元かと私は西の女神さまを呼び出してみよう。腕を治して貰ったお礼もあるし、グイーさまの申し出を無下にはできない。

 

 「成功すれば、ナイが欲しいものを儂が創造して与えよう」

 

 にっと笑ったグイーさまに特に欲しいものはないなと……あ、身長とか貰えないかなあ。南の女神さまもついでにお願いできると良いけれど。うーんと考え始めた私にグイーさまが『悩め、悩め!』と良い顔を浮かべるのだった。

 

 ◇

 

 私の望みをグイーさまに告げてみた。それを聞いた彼はむむむと考えながら私を見据えている。

 

 「身長が欲しい、と。ナイは我が末娘と同じことを言っておるな。しかし伸びる必要はあるのか? 可愛らしいではないか」

 

 グイーさまが言い終えると私から南の女神さまへと視線を向けた。やはり身長は欲しいものである。高望みはしないからあと十センチは欲しい。仮に十センチ伸びて、百六十センチ台になってもアルバトロス王国では小柄な部類に入るので些細な可愛い望みである。

 百七十センチが成人女性の平均身長と言われており、今現在百五十一センチしかない私は小柄、どころか子供に分類されてもおかしくはない。グイーさまが『えー伸ばすの勿体ない~』みたいな微妙な雰囲気を携えていた。

 

 「身長は私の成長に期待します」

 

 身長は諦めるしかないようだ。本当、自身の成長に期待しようと決意すると、私の隣から微妙な視線を感じる。

 

 「……無理じゃねえ?」

 

 南の女神さまが妙な顔を浮かべてなにか言ったようだが私の耳にきちんと届かなかった。

 

 「今なにか仰いましたか?」

 

 「いーや、なんでもねえ」

 

 私の言葉に南の女神さまが両手を頭の後ろに回して口笛を吹いている。絶対なにか言ったと気になるけれど、大したことはないか碌なことではないと問い質すのは止めておく。なにか代わりのものはないかなと考え始めて、そういえばグイーさまが美味しそうな水を最初口にしていたなと思い出した。

 

 「あ、美味しいお酒を知りませんか?」

 

 神さまであれば各大陸の美味しいお酒を知っていそうである。教会に貢がれたお酒をこっそり拝借して飲んでいる可能性だってありそうだ。教会の地下室にはワインが眠っているので、割とアルコールに対して寛容な所があった。もしかして神さまはお酒が大好きだから、教会にもワインが眠っているのではなかろうかと勝手に推測を立てる。

 

 「ん、そんなもので良いのか。分かった。儂と娘たちが気に入っている酒をナイに贈ろう」

 

 グイーさまから了承を頂けたので交渉成立である。お酒はお土産で公爵さまに買って帰る予定だったので丁度良い。公爵さまであれば神さまから頂いたお酒でも、珍しいお酒と喜びながら飲んでくれそうだ。

 

 陛下にもご迷惑を掛けているのでなにか贈りたいけれど……公爵さまと同じ品で良いだろうか。引き籠もりの西の女神さまを外に出せなくてもお酒を頂けるそうだが、流石に失敗すればお酒は辞退しよう。

 グイーさまだけでなく女神さまたちもお酒を飲むんだなあと、東と北の南の女神さまを見ればなにやら考えているご様子。私はとにもかくにもと居住まいを正して、グイーさまに視線を合わせた。

 

 「無策で挑めば失敗する可能性を高めてしまうので、西の女神さまが引き籠もる切っ掛けに思い当たることはありませんか?」

 

 私の問いにグイーさまが微妙な顔を浮かべ、右手を伸ばして立派な髭を撫で始めた。

 

 「…………儂らは神であろう?」

 

 「はい」

 

 神さまを騙ることはできるので違うのかもと言いたいが、この島にいらっしゃる方の雰囲気は人間や魔獣、そして竜の方たちよりも雰囲気の重みが違う。凄い方々と私が対話できているのは、偶然というよりは相手の方に会話をする意思があるからだろう。なければ話を交わすことなんて無理だろうと心のどこかで理解している。

 

 「感情の機微に疎いところがあってなあ。さっぱり分からん!」

 

 グイーさまがあっけらかんと言い放つ。ご自身の娘なのに切っ掛けや原因を掴めていないのか。大らか過ぎではと口にしたくなるが、ぐっと堪えて私は東と北と南の女神さまへと視線を変える。西の女神さまの姉妹であるお三方も分からないようだった。

 

 「では少し、私と一緒にきた者たちと話し合いをさせて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 「良いぞ。娘は屋敷の部屋にいるのだが、あ奴の力で部屋の扉を開けられないようにしていてな。頑固な所があるのか、儂でも開けられなかった」

 

 グイーさまが渋い顔になる。この星の頂点であろう方の力技ですら開けられなかったのかと、私はアルバトロス王国の面子の顔を見た。グイーさまが作戦会議が必要なら、我々は暫く消えておこうと言って文字通り東屋からいなくなった。

 会議が終われば声を掛けろとのことだったので、婉曲的な言い回しではなくこの場で『終わりました』と口にすれば、直ぐにきてくれるとのこと。北の女神さまが気を利かせて、人数分のお茶とお菓子を用意してくれている。いきなりの出来事に驚いているアルバトロスの面々であるが、副団長さまが一番早く回復して猫背さんの背中を叩いている。

 

 「ふふふ。本当に聖女さまは面白いことを引き起こしてくれます。まさか西大陸を創造したお方に魔術を放つ可能性が出てくるなんて」

 

 副団長さまが東屋に備え付けられている椅子に腰を掛けると、猫背さんも彼の隣に腰を掛ける。次にジークとリンが私の背後に回って立つ。そっくり兄妹はいつも通り護衛に回ってくれるようだ。

 

 「危ないことはしませんよ。怪我を負わせてしまえば責任を取れないので。なるべく穏便な方向で済ませたいです」

 

 私が言い終えるとソフィーアさまとセレスティアさまがジークとリンの隣に立つ。作戦会議に直接加わる気はないようで、助言を求められれば答えるスタンスらしい。

 

 「女神さま、なにが効果があるんだろう?」

 

 猫背さんが首を傾げながら口にした。確かに女神さまの興味を引くなにかがあれば良いけれど。男性が引き籠もっているのであれば美女の裸踊りとか実行してみるのだが……女神さまだしなあ。イケメンの裸踊りで出てきてくれるだろうか。でもそんな俗物的なもので興味を引けそうにない。なにか西大陸の女神さまについて知ることができると良いのだが……あ。

 

 「聖王国に赴けば、西大陸の女神さまについて文献が残っていそうですが……その時間はないでしょうし」

 

 ふと、聖王国になにかしら古い文献でも残っているのではと思い至る。腐っていても鯛は鯛であり、教会は教会であり、女神さまを信仰している場所である。良いこと思いついたと言いたいが、流石に西大陸へ戻る時間はなさそうだ。

 アルバトロス王国に戻って打診をしてみるのもアリだと手を叩きたくなるが、妙な神職の方に絡まれるのは気が重い。フィーネさまに直接聞いてみるのが無難そうだと私は苦笑いになる。

 

 「失敗しても構わないと仰って頂けているので、先ずは行動に起こしたいですねえ」

 

 副団長さまが言い終えると、エーリヒさまと緑髪くんがはっとして、ソフィーアさまとセレスティアさまの横にそっと控えた。彼らも椅子に座る気はないようである。

 作戦会議の場にいるのが副団長さまと猫背さんと私という、一番神さまに敬意を向けていなさそうな面子になってしまった。いや、待て。クロたちもいるから多少はマシだろうか。深く考えても仕方ないし、適宜助言を貰えれば良いかと私は前を見る。

 

 「この場には信頼を置ける方しかいないので口にしますが、元居た場所では『テラ』の別名は『地球』とも称します」

 

 「へえ、面白いですねえ。聖女さまの元居た場所と今いる場所が関連している可能性があるとは」

 

 「グイーさまの奥方さまのようですし、アレとの繋がりもあるのでしょうね」

 

 遠回しな言い方になるのは仕方ない。アレというのは転生のことである。開けっぴろげに話して知らない誰かに伝われば不味いことになりそうだ。神さま方にゲームが舞台の世界だよと告げたら、彼らは一体どんな反応を見せるのだろうか。気にはなるが、聞かれたら答えるくらいのスタンスでいた方が良いだろう。自分から墓穴を掘るわけにはいかない。

 

 「ああ、アレですか」

 

 「はい、アレです」

 

 副団長さまと私がふふふと笑いながら含みを持った言い方でやり取りをする。

 

 「女神さまは部屋に引き籠っているとのことですが、開錠の魔術なんてものはないのですか?」

 

 「ありますよ。お宝を封じて鍵を掛けている箱を開けるという代物です。部屋の鍵も応用できましょう」

 

 私が副団長さまに問い掛けると、開錠魔術があると教えてくれる。一つ試せる手があることに安堵の息を吐くのだが、女神さまの開かずの部屋を開放できるだろうか。

 

 「突貫工事になりますが、術式とやり方を教えて頂いても宜しいでしょうか?」

 

 試してみるしかあるめえよと私は副団長さまの顔を見る。

 

 「術式は彼に書き換えて貰えば直ぐに可能ですね。聖女さまは補助系の魔術に適しているようなので問題なさそうですし……試してみる価値はありましょう」

 

 にこにこ顔で教えてくれる副団長さまは猫背さんに可能かと無言で問い、猫背さんが頷いてさっそく副団長さまに術式を教えて貰っていた。行動が早いと感心しつつ少し私からも注文を入れてみよう。

 

 「ファウストさま、申し訳ないのですが……女神さまの部屋の開錠です。魔力を膨大に注いでも術式が壊れ辛いようにできますか?」

 

 半端な魔力を込めても開かないと簡単に想像できる。猫背さんは術式の開発が得意分野なので、おそらくできるだろうと願い出てみた。

 

 「ん? やれないことはないけれど…………面白そうだからやってみる!」

 

 猫背さんは紙に術式を起こしながら一瞬だけ視線を私に向けて、顔を明るくしてまた紙へと視線を戻した。私は副団長さまに顔を向けると、彼が肩を竦めて小さく笑う。

 どうやら猫背さんは通常運転のようである。楽しそうに術式を起こしているから良いかと、お茶を一口含んで嚥下した。他になにか思いつくことはないかと、皆さまに問うてみるけれどなにも手が浮かばないようだった。ならば、開錠魔術を試してみようと決めた。私の全力の攻撃魔術は屋敷自体を駄目にしそうだから控えようとのこと。

 

 「できた!」

 

 猫背さんが嬉しそうに笑ってA4サイズの紙を両手で掲げる。細かな術式がびっしりと書き込まれており、私に理解できるかと不安になってくる。あ、開錠儀式を試す前に普通に針金でも開錠を試みてみよう。

 前世の学生時代、面白半分でピッキングを教えてもらったことがある。流石に不法侵入をするつもりはなかったので、教えて貰うだけになっていたけれど。なんとなく覚えているし、感覚も手に残っている。

 

 「副団長さま、ご指導宜しくお願い致します」

 

 「承知致しました。術式は複雑そうに見えますが一度覚えてしまえば、誰にでもできる代物かと。僕は苦手な術なので手解きのみとなりますが」

 

 「なら僕もハインツを手伝う。術式を仕立てたのは僕だから、聖女さまにも伝えやすいかも」

 

 副団長さまに私が礼を執れば、猫背さんも教師役を買って出てくれた。イケメン二人に囲まれながら手解きを受ける。開錠魔術と私の相性が良かったのか、割とすんなり実行できた。あとは本物に試してみるだけなのだが……流石に複雑な仕掛けのある錠前は持っていない。

 

 「ロゼさん、ロゼさん」

 

 『どうしたの、ハインツ?』

 

 副団長さまがロゼさんを呼ぶと、私の影の中からロゼさんがぴょーんと出てきた。本当にロゼさんは副団長さまと仲が良い。

 

 「なにか聖女さまの開錠魔術を試すのに適したものを持っていらっしゃいませんか?」

 

 『これで良い?』

 

 ロゼさんがぽいっと小さな箱を取り出した。あれは以前お試しでドワーフさんに作って頂いた小箱である。特殊な組み方をしており、手順通りに動かして鍵穴まで辿り着かなければならない。

 で、そこから特別に作って頂いた鍵で開けるのだけれど、使い道がないのでロゼさんの収納に仕舞って貰っていた。丁度良いかと私は先ほど教えて頂いた開錠魔術を試すと、勝手に小箱が動き始め錠が開く音がする。凄い、本当に開いたと感心すると猫背さんがドヤ顔を浮かべていた。魔力を割と多めに込めても術式は保たれているし、大量に魔力を注ぎ込んでもいけそうである。

 

 「決まったか?」

 

 私が呼び鈴を鳴らすとグイーさまが姿を現した。

 

 「正攻法で部屋の鍵を開けてみようかと」

 

 一応、作戦を伝えてみる。大丈夫かなと不安になるがグイーさまはなるほどなるほどと耳を傾けていた。

 

 「ほお。そんなことができるのか」

 

 感心したグイーさまが私たち一行を西の女神さまの部屋の前へと一瞬で連れて行ってくれた。なんの変哲もない部屋の扉だけれど、ドアノブ周辺はなんだか靄が掛かっている。

 

 女神さまが力を施しているようだと推測し、私は右腕を伸ばして大量の魔力を練る。足元に現れた魔術陣は青白く光り輝きながら、明るい時間帯だというのに周りを照らしていた。いくら魔力を注ぎ込んでも、扉が開く気配を全く感じず術を中断させる。

 

 「失敗したなあ……しかしまあ、ナイの力は凄いな。島に魔力を注ぎ込んだだけのことはある」

 

 「駄目でしたねえ。その件は成り行きというか、思い付きというか……」

 

 グイーさまと私は小さく息を吐きながら視線を合わせた。流石に長い時を引き籠もっている女神さまの部屋の扉を開くのは一筋縄ではいかないかと、グイーさまとアルバトロス王国のみんなと顔を合わすのだった。

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