魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
フィーネさまに個人的に聖王国を訪ねたいと手紙を認めて送ったのだが、何故かアストライアー侯爵として公式に赴くことになった。首を傾げたくなるが、アストライアー侯爵である私と縁を取り持ちたい方が沢山いるとフィーネさまが教えてくれた。
縁を持っても付き合いが続くとは限らないのに。まあ、お貴族さまの世界は一度顔を合わせておけば取次ぎし易くなるので、名乗りあっておくことは結構大事である。
子爵邸の私室で聖女の衣装に着替えを終えた私は、護衛のリンとソフィーアさまとセレスティアさまと話し込んでいた。私的訪問の予定が公式訪問となったので割と無茶が利く。少し急な話となったが、教会で研修を受けている共和国の皆さまも一緒に聖王国へ見学しに行ってみようとなった。
言い出しっぺは私であり、聖王国の説得に邁進してくださったのはフィーネさまである。東大陸の方がくるならば、と割とあっさり聖王国の許可が下りたそうだ。
あとは女神さまの文献を漁る許可も頂いている。禁書扱いされているが、持ち出しせず監視の下で読むなら問題ないと仰ってくれた。メモ等も禁止だけれど、頭の中に叩き込めば良いし記憶力が良いお方たちが目の前にいるので問題ない。
よし、と気合を入れて席から立ち上がれば、リンが小さく頷き、ソフィーアさまとセレスティアさまも小さく笑った。学院を卒業しても忙しい日々は変わらず続き、あっちへ行ったりこっちへ行ったりしているなあと口を開いた。
「亜人連合国、アガレス大帝国、共和国にミズガルズ神聖大帝国、フソウ国、南の一部の国々に縁があるだけなのに……って言いたいんだけれど、滅多にいないのか。本当にいろんな方と知り合えましたねえ」
部屋の扉を目指しながら、私と縁がある国の名を上げてみる。他にも関係がある国もあるのだが、主な国々はこれくらいか。しかし三年強で付き合いの幅が本当に広くなった。巻き込まれて仕方なく縁を取り持ったともいうが物は考えようである。今では美味しい食べ物や特産物が手に入るので有難い。
「他にもいらっしゃるだろう……神と直接会ったというのに、ナイはどうして落ち着いていられるのやら」
「魔獣と幻獣とも縁を取り持っていますわね。わたくしとしては嬉しいですが」
ソフィーアさまは小さく呆れ、セレスティアさまはもっと増えても構わないと仰る。リンはお二人がいるので喋る気はないようだが、いつだってどこへだって一緒にいるよと言いたげである。
ジークもおそらくリンと同じ言葉を伝えてくれるだろう。クレイグとサフィールも呆れながらも私に付き合ってくれるのだ。いつまで続くか分からないが、幼馴染との関係は一番大事にしたい縁だった。
「そんなに落ち着いていましたか?」
落ち着いていられたのは、南の女神さまが取っ付きやすい方だったからである。気さくに話してくださるし、私たちの話を聞いてくれる。ユーリにも優しい態度だったし、クロたちにも普通の態度だった。
お屋敷の方々とも普通に会話していたから、南の女神さまの恐怖伝説はどうして生まれたのだと首を傾げていたのだが。まあ黒髪黒目に対してあまりよろしくない態度を取っていた南大陸の方々の落ち度だろうなと、私はソフィーアさまの顔を見る。
「ああ。普通はもっと驚いても良さそうだがな」
ソフィーアさまは片眉を上げながら答えてくれた。
「それを言ったら皆さんも落ち着いていましたよ」
私だけではなく、お屋敷の皆さまも女神さまに対して落ち着いた態度で接していた。もちろん最初こそ驚いていたけれど、日が経つにつれて馴染んでいたのに。
「態度に表れていなかっただけなのでは。わたくしは神さまと面通しできるなど全く考えていませんでしたわ」
セレスティアさまが鉄扇を開いて口元を隠す。私も神さまと顔合わせできるなんて驚きだけれど、会ってしまったのだから現実を受け止めないと。グイーさまより上位の神さまがいれば、また驚く羽目になるなあと部屋の扉を開く。廊下にはジークとクロとロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたちが待ってくれていた。
「お待たせ。行こうか」
「ああ」
『フィーネと会うのは久しぶりだねえ』
私がジークたちに声を掛けると、列に加わり子爵邸の地下室を目指す。魔術陣で王城へ行き、案内役の近衛騎士の方によって王城にある転移陣へ辿り着いた。既に共和国の研修生たちと教会の方数名が待っていて、プリエールさんが私たち一行の登場で嬉しそうに笑っている姿を目にする。
報告では島から戻って研修を再開していると聞いていたが、教会に寄る時間が取れなくて今日となってしまった。共和国の皆さまに突然聖王国に赴くことになって申し訳ないと謝罪を入れれば、外務部の皆さまも姿を現した。
「遅れてしまい申し訳ありません、アストライアー侯爵閣下」
「気になさらないでください」
小さく息を切らしている外務卿さまに私は首を振る。時間には間に合っているし、急な件となったので外務部の皆さまには申し訳ないことをしてしまっている。今回もまたエーリヒさまと緑髪くんが私の同行者となるようで、外務卿さまの後ろに控えている。
同行メンバーが揃ったので転移陣に魔力を込めた。向こう側の担当はフィーネさまが務めると聞いている。転移の先で知り合いがいることが珍しいので、なんとも不思議な感覚であった。
床に描かれた魔術陣が光を発し、お腹が浮くような感覚に苛まれた次の瞬間には聖王国の魔術陣側に転移を終えていた。凄いと感心している共和国の研修生たちの姿が微笑ましいが、私は代表として聖王国の皆さまと挨拶をしなければ。
「アストライアー侯爵殿、聖王国へようこそ」
豪華な衣装を纏った六十代くらいの男性が私の前で礼を執る。目の前のお方は聖王国の現在の教皇猊下である。教皇ちゃんは失脚しており、蟄居処分となっているとかいないとか。他国のことなので詳しく知らないが、聖王国が順調に運営されているならばなによりである。
フィーネさまが腹を括って決意をし、残っていたまともな方々で腐敗した国を立て直したのだから二度とないようにして頂きたい。上の人間が失敗すれば、下にいる人間も痛い目にあうのだから。
私はふうと息を吐いて腹に力を入れる。南の島に赴く前、フィーネさまを迎えるために聖王国に立ち寄ったが、聖王国上層部の皆さまとは話をしていない。教皇猊下たちとは三年前のあの件以来の顔合わせだった。一部の方が私を見て青い顔を浮かべているのは、後ろめたいことでもあるのだろうか。
「猊下、直接の出迎え感謝致します。そして我々の要請を受け入れてくださったこと恐悦至極でございます」
「気になされるな。我々が貴殿に無理を申し出たのだ、そう畏まらずとも。共和国の研修生たちも我が国で学べることがあれば嬉しく思う」
教皇猊下の右手薬指には大きな青い宝石が施されている指輪を付けていた。フィーネさま曰く聖王国の聖職者は青い宝石が付いた指輪を嵌めている。青は魔を払うと言われ、身に着けるようになったそうだ。
それを知るまでの私はお金に困った時に換金するのだろうと捉えていたので、金剛石の方が換金率が良さそうだと頭に過ったのは致し方のないことである。
ふと、私の視界の端に映った可愛らしい子――年齢は私より三歳ほど下だろう――に視線を向ける。彼女の魔力量は多く、フィーネさまと同じ位かそれ以上に感じられる。
魔力感知は得意ではないのでざっくりとしたものであるが……なんだろう、この違和感というか胸騒ぎは。彼女自身から嫌な感じはしないのだが、何故か気になって仕方ない。仕方ないが、それよりもやらなければならないことがある。教皇猊下と入れ替わりでフィーネさまが私の前へと進み出たのだから。
「アストライアー侯爵閣下、聖王国へようこそいらっしゃいました。お久しぶりでございます」
フィーネさまの隣にはアリサさまも控えており、私たちに向かって礼を執っていた。島で遊んでいたのが懐かしいと目を細めながら私は口を開く。
「大聖女フィーネさま。またお会いできて光栄です。今日から二日間、よろしくお願い致します」
綺麗に笑うフィーネさまに私も笑みを浮かべて礼を執る。こうして公式の場で挨拶をマトモに交わすのは初めてだ。三年前はお互いに未熟でぎこちない挨拶だった気がする。時間が進み関係性も変われば、お互いに笑い合いながら挨拶できるものなのだなと少し可笑しい気持ちに襲われる。教皇猊下とフィーネさまが顔を合わせると、彼女が半歩前に進み出た。
「さっそくで申し訳ありませんが大聖堂へ赴きましょう。案内は私と聖女アリサが務めさせて頂きます」
フィーネさまが笑みを携えて私たち一行と共和国の研修生に視線を向けた。二日間という短いスケジュールなので割と予定が詰め込まれている。
私はアルバトロス王国の聖女として聖王国の大聖堂を覗いてみたかった。研修生たちには異文化交流と聖王国の聖女がどういうものか見て感じて貰おうという算段だ。別名、敵情視察とも言うけれど。
「よろしくお願い致します」
「よ、よろしくお願いいたしますっ!」
私のあとに共和国の研修生が緊張しながら、フィーネさまとアリサさまに礼を執る。お二人は聖王国の聖女の衣装を纏い、手を口元に当てて小さく笑みを携えた。こうしてみると雰囲気があるよねえと転移陣のある部屋から外へと出る。
護衛の方に守られながら建物の外へと出て大聖堂を目指す。馬車に乗るほどの距離ではないので、珍しく歩き移動であった。聖王国の聖都は街自体は小規模であるが、西大陸の宗教のご本尊のため大陸から集まった信者の方で賑わっている。
殆どの方が参拝中の証である白い布を羽織っているので、道を歩く人々の姿は皆同じであった。面白いなときょろきょろと視線を動かしていると、割と直ぐに大聖堂に辿り着く。
アルバトロス王都の一番大きな教会よりも大きい大聖堂の中へと入る。中の内装も随分と豪華であり、立派な信徒席がズラリと並ぶ一番奥に祭壇がある。祭壇横には人だかりができており、神父さまが信徒の皆さまに聖水を掛けていた。聖水を施している神父さまの直ぐ横には聖女の衣装を纏った女性が手を翳して、誰かに治癒を施している。
「あの方は先ほどの……?」
手を翳している女性は、私が教皇猊下と挨拶を交わしていた時に気になった方だ。いつの間に移動を済ませていたのか、私たちより先に大聖堂へ赴いて信者さんたちに治癒を施している。
「最近、聖女として名を上げておられる方ですね。精力的に治癒院や慰問に参加しておられますよ」
フィーネさまが目を細めながら手を翳している女性について教えてくれた。最近頭角を現した聖女さまで、フィーネさま一派とは別の派閥所属の聖女さまなのだとか。別派閥の間では大聖女の印である聖痕が現れるかもしれないと噂されており、彼女が該当の人物なのだとか。
「同時に大聖女さまが二人存在しても良いのですか?」
「大聖女が二人存在しているのは神の導きだ、めでたいことだと捉えられているので構わないそうです。彼女と肩を並べる日がくるのかもしれませんね」
私の問いにフィーネさまが答えてくれた。でもそれって……騒動の種じゃないかなと私は遠い目になるのだった。
◇
私たち一行と共和国の研修生は聖王国の大聖堂に赴いて、西大陸における宗教の総本山の雰囲気を噛みしめていた。大陸全土から信仰心の高い方がいらっしゃっており、時折私のことを知っている方から『黒髪の聖女さま』『竜使いの聖女さま』と囁かれている。
おそらくアルバトロス王国から巡礼の旅に出て辿り着いた方であろう。他国から大聖堂に辿り着いた皆さまは、総本山である聖堂を見上げたり聖堂に向かって手を組んで祈りを捧げていた。そして私よりも多くの信者の方から声を掛けられる方がいるのである。
「大聖女フィーネさまにお目通りできるなんて……!」
「大聖女さま、神のお導きを!!」
フィーネさまは信者の方からの声掛けに笑顔で対応している。軽く会釈をしてみたり、神のご加護をと告げたり、寄付と引き換えに病気や怪我を負っている場所に触れて凄く簡易な治癒を施してみたりと忙しそうだ。一通りの波が過ぎるとフィーネさまは困ったような顔で私たちへと視線を向け、アリサさまが『ドヤ』とした顔になっている。
「申し訳ありません、大聖堂に出るとどうしても務めを果たさなければならなくて」
フィーネさまは大聖堂を見渡しながら私たちに小さく目線を下げる。きちんと大聖女さまの務めを果たし、信者の方々から人気を得ているようだ。私にはできないなあと口を開く。
「いえ。大聖女であらせられるフィーネさまの仕事振りが見えて良かったです」
信者の方々がフィーネさまに羨望の眼差しを向けていること、私は宗教に興味がない故に一ミリも理解できていないけれど。でも小柄なのに胸の大きい方なので羨ましくはあるなと、彼女の胸をチラリと見た。
「聖痕のお陰です。聖痕がなければ私はただの七大聖家の娘でしかありませんから」
彼女の身体にある聖痕を、南の島でお風呂に一緒に入った際に見たことがある。痣というよりは、模様や印という感じで割と複雑に描かれたものだった。
これがある日突然身体に浮かんでくるのだから、きっと驚いた――フィーネさまは乙女ゲームの知識があるので知っていただろうが……知らなければ――に違いない。私だったら『なんじゃこりゃー!』と悲鳴を上げそうだ。
「治癒を覚えて皆さまに施していることは、紛れもなくフィーネさまの努力ですよ」
私はフィーネさまと視線を合わせる。治癒魔術は適性がなければ使えないし、適性があったとしても才能か知識量で効果が左右する。私には前世の記憶があるので、アリアさまのように失った内臓や肉体を再生するなんてできないだろう。
大聖女さまは奇跡の体現者でなければいけないから、割とフィーネさまは難しい立場にいるのではなかろうか。聖王国を立て直した立役者なので、治癒能力の不足を問われることはなさそうだけれど。
「大聖女になりたての頃は役を演じなければという気持ちが強かったのですが、最近は自然体で信者の皆さまと接することができている気がします。頑張らなければならないことも増えたので、今より邁進していかないと」
フィーネさまがふふふと笑みを携えた。頑張らなければならないことってなんだろうと、私はクロと視線を合わせる。クロも良く分かっていないようで小さく首を傾げていた。
『フィーネもアリサも頑張っているんだねえ』
「アストライアー侯爵閣下に追い付かないと!」
「私はフィーネお姉さまに追い付きたいですね」
クロの言葉にフィーネさまとアリサさまが答える。私を追い抜かしてくださいと願いつつ彼女たちと一緒に大聖堂の聖堂横から奥へと入り、長い廊下を歩いて図書室に向かう。
人の気配が少ない大聖堂の中庭は綺麗に整備されており、庭の真ん中には女神像らしきものがどーんと立っていた。アガレス帝国の帝都にあった初代アガレス帝の像のようだなと私の頭に過る。アガレス像より随分と小さいけれど、近くに寄れば像の顔を見上げなければ拝めないはずだ。
流石に某国の自由を司っている女神さまのような豪快さはなく、胸の前で手を組んで地面を見下ろしている形だった。静かな中庭に佇む真っ白な石像に目を向けていると、フィーネさまが私に気付いた。
「西大陸を創造した女神さまを模していると言われていますね。お会いしたことはないので本当かどうかは分かりませんが」
「女神さまの彫像があるということは、昔の方は西の女神さまにお会いしたことがあるんですね……」
人の気配が減って身内のみとなっているので、ラフな問い掛けとなる。共和国の研修生たちも私たちの関係性を知っているし、共和国の皆さまも私たちのことを知っているから問題ない。私が怪我を負って神さまの島に向かったことは極一部の方のみしか知らないので、口にできなかった。もちろんフィーネさまは個人的なやりとりがあるので知っているけれど。
「昔と言っても、本当に凄く随分と前のようですよ。当時に生きておられた方でさえ、口伝えに聞いた容姿を像にしたと文献に残っているだけですから」
フィーネさまの補足にほえーと頷いていると図書室に辿り着いた。ここで共和国の研修生たちは私たちを待つ間、聖王国方式の治癒魔術を勉強することになっている。
私たちは司書の方の案内で禁書部屋に赴いて、西の女神さまについて習う予定だ。なにか西の女神さまが引き籠もりになる切っ掛けを探し出せると良いのだが。ちなみに、西の女神さまが引き籠もり状態であることを伝えても構わないとグイーさまから許可を得ている。他言は無用と伝えて禁書部屋の中でフィーネさまとアリサさまに知らせるつもりである。驚くかなと心配しつつ、プリエールさんたち研修生と別れて奥の部屋を目指す。
「雰囲気がありますね。凄い蔵書量……」
アルバトロス王国の城にある図書室も凄いけれど、聖王国の禁書部屋も凄い状況だった。保管庫も兼ねているようで、過去の偉大な聖職者の衣装も保管されており探せば即身仏も出てきそうである。
「女神さまに関する記録や聖王国の過去に存在した偉大な方々のことをきちんと残しているそうです。熱心な方は閉じ籠って研究なされていますよ」
フィーネさまが笑みを浮かべながら教えてくれる。許可があれば入ることができるので、研究職の方が入り浸りになっているそうだ。今日は私がくるということで一日入室禁止となっているらしい。仕事の邪魔をしているが私も知りたいことがあるので許して欲しい。私たちは案内されるまま席に座して、司書さんがお勧めしてくれた文献が机の上に何冊も乗っている。
「フィーネさま」
「どうしました、ナイさま?」
私の対面に腰を下ろしたフィーネさまと視線を合わせる。今回の訪問は西の女神さまについて詳しく知りたいとお願いしただけで、フィーネさまたちに本当の目的を伝えていない。
少し真面目な話がありますと先に告げて、西の女神さまが神さまの島で引き籠もり状態であること、このままでは一万年くらい先に女神さまは神格を失って西大陸と共に消滅してしまうことを伝える。
「えーっと……話の規模が大きすぎて実感が湧かないですね……あと少し頭が混乱しています」
フィーネさまは片眉を上げながら情報処理をしているようだ。彼女の後ろに控えているアリサさまも驚いた顔になっている。そして聖王国の面々もぎょっとした顔を浮かべて私を見ていた。
「南と東と北の女神さまと星を創造なされた神さまとお会いしたのですが、西の女神さまと顔を合わせることはありませんでした。そして神さまご自身からどうにかできないかと依頼を受けたのです」
私の言葉に聖王国の面々が更に目を丸くしながら驚く。いや、成り行きだったけれど神さまと会うことになったのだから、会うのは当然であろう。聖王国の皆さまからすれば神さまと顔を合わせることは至上の喜びかもしれないが、そんなに驚かないで欲しい。そもそもファンタジーな世界なのだから神さまがいるなら悪魔だっているかもしれないのに。
「…………へあ?」
フィーネさまはキャパオーバーしたようで、口から間抜けな声が漏れ出ていた。私が正気に戻って下さいと願っていると聖王国のお付きの皆さまが疑いの視線を向けてくる。嘘は吐いていないのだが、突拍子もないことなので信じて下さいといえない。それに信じる信じないは個人の自由であるのだから。
「ナイさまが嘘を吐く必要がないので私は信じます。しかし一万年先と言われてしまうと危機感が薄いですね……」
フィーネさまが遠い目になる。確かに人間の寿命で考えると未来の方たちに任せようとなる。
「確かに薄いですが、クロとヴァナルたちやエルたちのことを考えると西大陸が消滅するわけにはいきません」
クロたちだけではなく亜人連合国の皆さまも含まれるし、妖精さんや精霊さんも含まれている。
『自然に任せるから仕方ないけれど、できれば寿命を全うしたいねえ。我が儘を言ってごめんね』
私の肩の上でクロが小さく頭を下げると、フィーネさまが慌てて口を開く。
「あ、いえ! 申し訳ありません。私の考えが浅はかでした。クロさまたちのことを考えるとナイさまが真剣になられている理由がはっきりしました」
落ち着きを取り戻したフィーネさまが真面目な顔を浮かべて
「ありがとうございます。今回の聖王国に赴きたいと打診した本当の理由です。限られた方にしか知らせられないので、遅くなってしまい申し訳ありませんでした」
世界が終わるかもと知れば混乱する方もいようと情報制限していた面もある。神の島へ赴いたことは知らせていたが、西の女神さまが引き籠もっていることは伏せていた。神さまから託されたことを改めて告げ、私がやりたいことも改めて伝える。
フィーネさまとアリサさま、そして一部の聖王国の皆さまが気合を入れ直して、禁書部屋の女神さまについて記された文献を精査しようとなった。
「女神さまはなんでもできる、ですか」
文献を一通り読み私の口から漏れ出た言葉だった。西大陸を創造した女神さまは力によってなんでもできる方のようである。大陸を創造し、生き物を作り出して命を育んだ。時折、地上に現界して命を管理していたとか。
古代人の方々の間で文明が築かれると女神さまの役目は終わったとばかりに姿を見せなくなったようだ。特に引き籠もる切っ掛けになるような文献は残されてはおらず、女神さまの功績を記されたものしか発見できなかった。
「失敗をしない故につまらなくなったとか?」
フィーネさまが頭に疑問符を浮かべながら女神さまを考察している。確かになんでもできて失敗していない。
「あり得ることですが、女神さまなのに気にする所なのでしょうか……」
そんな人生、神生はつまらないのかもしれないが……それが神さまの役目ではと私は視線を天井に向けた。
「こういう所は人間と同じということかもしれません。しかしなにも良い方法が浮かんできませんね。なにもしないまま滅びを迎えるなんて嫌ですし……」
フィーネさまがうーんと唸って私と顔を合わせる。アリサさまも聖王国の皆さまも、アルバトロス王国の面々も困った顔を浮かべていた。誰も反応がないまま少し時間が経つと、私たちの前に誰かが半歩踏み出た。
「失礼致します。アストライアー侯爵閣下、大聖女さま。発言を宜しいでしょうか?」
エーリヒさまが小さく片手を上げながら神妙な顔で言葉を紡ぐのだった。