魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

495 / 740
0495:大聖女候補さま。

 エーリヒさまが片手を上げて意見を良いかと許可を求めてきた。フィーネさまは彼に『大聖女さま』と称されたことに対して微妙な表情を浮かべている。名前で呼んで欲しかったようだと私は彼女を横目で見ながら、エーリヒさまと視線を合わせた。

 

 「構いませんか?」

 

 「もちろんです」

 

 アルバトロスであれば『どうぞ』と答えていたが、今は聖王国にお邪魔している身である。フィーネさまの許可も必要だと確認を取れば彼女も承諾してくれる。エーリヒさまは安堵の息を小さく吐いて、すっと背筋を伸ばした。

 

 「フソウ国に女神さまが閉じ籠ってしまったという伝承があったような気がしますが……女神さまもフソウの神さまと同じような理由ではないでしょうか?」

 

 エーリヒさまの言葉を聞いてフソウにそのような伝承があるのかと雪さんと夜さんと華さんに聞いてみる。雪さんたちはゆるゆると首を振ってフソウに伝承が残ってないことを教えてくれた。

 あれ、と首を傾げているエーリヒさまにフィーネさまと私は日本のことかと気が付いた。そういえば日本に天照大神が悪戯の限りを尽くす須佐之男命に辟易して、岩の中に閉じこもったというものだ。確かに似ているなと頭の中で思い出していると、フィーネさまもエーリヒさまの真意に辿り着いたようだ。

 

 「フソウにはないようでベナンター卿の勘違いでしたが……」

 

 「似た話を知っていますね」

 

 フィーネさまと私はエーリヒさまの顔を見た。私たちが気付いたことに安堵の表情を浮かべるエーリヒさまに、神話やサブカル系に詳しくなくて申し訳ないと苦笑いを浮かべる。この辺りの話は女より男の人の方が何故か詳しい確率が高い。性差の不思議だよなとフィーネさまと改めて顔を合わせる。

 

 「しかし西の女神さまに嫌がらせをした神さまがいません。ということは自主的に引き籠もった線が濃厚ですよね」

 

 西の女神さまを虐めたとか嫌がらせを敢行した神さまの文献は残っていないし、なによりグイーさまからその手の話を聞いていない。うーん、どうしたものかと考えていればフィーネさまが口を開く。

 

 「あ、でも、閉じ籠った部屋の前で舞を踊ったり、お酒を酌み交わして女神さまの興味を引けば出てきてくれる可能性もありそうです」

 

 フィーネさまがぽんと手を叩く。そういえば伝承では岩の前で飲めや歌えやの大騒ぎを敢行して、天照大神さまが参加したくなって岩から出てきたのだった。勝手に部屋の扉を開けるより良い方法だし、グイーさまに許可を得られるなら試しても良いのかもしれない。

 

 日本舞踊はフソウで習えばフソウ舞踊を教えてくれるだろうし、日本酒ならぬフソウ酒も用意できる。他にも大陸にはいろいろな舞があるし、お酒も揃っている上に音楽も沢山ある。

 西の女神さまが出てこないとしても、楽しそうな宴会になりそうだ。美味しい料理も用意できるだろうし。せめて引き籠もった場所が外であれば、バーベキューの匂いで誘い出そうと試みるのだが、残念ながら屋内である。って、神さまのお屋敷の庭でバーベキューをしても良いだろうか。グイーさまの許可次第だなと頷き、まだ時間があるので西の女神さまについての文献を漁り始めた。

 

 「好きな物とか書いてあると良かったのですが、流石に無理ですね」

 

 「女神さまのことですからね。起こした奇跡についてが殆どで、私生活は記されていませんでしたから」

 

 私とフィーネさまは小さく肩を竦めて笑い合う。西の女神さまについての収穫は、西大陸を創造したことと大陸が誕生したばかりの頃は現界して手を出していたようだ。大陸に興味が薄くなっていったのか、時代が進むにつれて西の女神さまについての記述が減っている。

 今では姿を現すことはないので聖王国は西の女神さまが現界する時を待ち望んでいるのだとか。西の女神さまではないけれど、南の女神さまが降臨なさったことも凄く喜んでくれそうだし、北大陸から更に北に神さまの島が本当にあると知れば、ハッピーハレルヤアーメンソーメン言い始めそうだなあと遠い目になる。

 

 「大聖女フィーネさま、お時間でございます」

 

 凄く派手な格好をした神父さまがフィーネさまを呼びにきた。彼女は大聖堂でお務めがあるので一旦お別れとなり、私たちは禁書部屋で調べ物を続ける予定だ。

 

 「はい。では、私たちは行って参りますね。終わればこちらに戻ってナイさまたちのお手伝いを再開します」

 

 「ありがとうございます。いってらっしゃい、フィーネさま」

 

 フィーネさまに私が見送りの言葉を送ると彼女は笑みを携えながら立ち上がり、アリサさまと一緒に部屋を出て行く。途中、エーリヒさまとフィーネさまが視線を合わせて微笑み合っていた。

 

 その様子をじっと視線を向けているジークがいる。彼が他の方に視線を移すのは珍しいので、どうしたのかと暫く見ていると私に気付いた彼がバツの悪そうな顔を浮かべた。エーリヒさまとフィーネさまのやり取りを見たところで誰も咎めやしないのに、どうしてそんな顔になるのやら。私が片眉を上げて気にすることはないと彼に無言で告げてみると、ゆっくりと一度目を瞑ったジークは元の雰囲気に戻っていた。

 

 「もう少しお付き合いください。なにか発見があるかもしれませんし」

 

 私が声を上げると部屋にいる皆さまが頷いてくれる。フィーネさま方が退室したことにより、手が空いている方も文献漁りに加わった。大事な資料なので雑な扱いはできないから人海戦術は有難い。ロゼさんも文献漁りに加わって、なにかないかなーと一ページ一ページを捲って文字を読み進めていく。

 

 「アストライアー侯爵」

 

 ふいに名前を呼ばれて文献から視線を外して、声が聞こえた方へと私は顔を上げた。

 

 「はい?」

 

 黒を基調に赤を差し色にしている服を着込んだ男性が私たちの前に立っていた。フィーネさまが残してくれた聖王国の補佐役の方が私に耳打ちをする。三年前の粛清でフィーネさま一派とは別に聖王国で頭角を現した派閥の方だそうだ。

 

 当時、フィーネさま一派とは協力体制にあったが力を付けたことにより、自然と関係に溝ができたとか、いないとか。目の前の彼は聖王国で他国の侯爵位と同等の位置に座しているので、フィーネさま一派も無下にできない存在だと教えてくれる。

 

 「不躾に貴女の名を呼んで申し訳ない。だが私の話を聞いて欲しい。三年前、聖王国が浄化されたのは貴女のお陰。忙しさもあり礼を伝えるのが遅くなった。大聖女フィーネの奮闘で聖王国は立ち直ったと皆は言うが、貴女がいなければ我々が行動に移すことはなかったのだから」

 

 男性はふっと笑って深く礼を執る。一応、聖王国で重要な立場に立つ方のようだし、フィーネさまの面子を潰す訳にもいかないと私は席から立ち上がる。私が立ち上がるとジークとリンが少し距離を詰めた。私の返事を聞かないまま喋り始めたことで、二人は目の前の男性を警戒していると気配で分かる。

 

 「ご挨拶感謝致します。きっかけはわたくしでしたが、聖王国を清めたのは大聖女さまを始めとした皆さまの尽力によるものです」

 

 私は場を乱すだけ乱して、あとは知らないとアルバトロス王国と聖王国に丸投げしたのだから礼を言われる理由はない。丸投げしたことは責められる方だと言えるけれど、教皇ちゃんたちの仕出かしにインパクトがあり過ぎた。

 

 「ご謙遜を! やはり貴女がいなければ我々は前教皇一派に物申すこともせず、破滅の道をゆっくりと進むだけだった。本当に感謝している」

 

 はははと笑いながら目の前の彼がまた礼を執る。彼の右手薬指には大きな青色の宝石が付いた指輪を嵌めている。ということは神職者であり聖職者なのだが、衣装の色合いのお陰で悪の秘密結社のお偉いさんというイメージが強かった。

 

 「いえ、ここまで立て直されたことは本当に多大なご苦労をなさったと肌で感じ取れます。聖王国がますます繁栄なさることを心からお祈り申し上げます」

 

 私もふふふと笑いながら目の前の彼に視線を向けた。お互いに探り合っているような雰囲気を醸している所為か、お付きの皆さまの雰囲気が剣呑なものになっている。

 

 「しかしアストライアー侯爵は勉強熱心な方であらせる。女神さまに興味を持ち大聖女に願い出て、自ら文献を読み漁っているとは驚きだ。して、女神さまのなにに興味を持たれているのかな?」

 

 目の前の彼が小さく首を傾げた。フィーネさまほど仲良くはないし、彼に本当のことを告げるのは少々危ないし、神の島へ赴きたいと言い出せば面倒なことになる。聖王国は宗教で成り立っている国だからこそ、誰かが関わることに慎重になっておかないと。

 

 「南の女神さまの話を聞く機会があり、西の女神さまの伝承に興味を持ちました」

 

 南の女神さまを出汁に使って申し訳ないと心の中で謝罪しながら、目の前の彼に適当な言い訳を披露した。それを聞いた彼は随分と機嫌良く両手を広げる。

 

 「なるほど。アストライアー侯爵は西大陸以外とも繋がりがある。南の女神がどのような方なのか私は知り得ないが、西の女神に侯爵が興味を持たれたことは良いことだ!」

 

 ふははと笑う目の前の彼に私も小さく笑みを浮かべる。なにか裏がありそうだけれど、彼の立場と私の立場を考えると話に付き合うしかない。ふふふ、あははと暫く話していると機嫌良く彼が口を開いた。

 

 「そうだ! 今、聖王国で一番力が抜きんでている聖女を紹介したい。きっとアストライアー侯爵も同じ聖女として彼女を気に入る筈だ」

 

 「ご紹介の判断は致しかねます。わたくしを政治的に利用なさらないと確約できるのであれば、お会い致しますが」

 

 もしかして大聖堂で信者の皆さまに囲まれていた少女であろうか。フィーネさまが最近頭角を現してきた聖女と紹介していたので、彼が言っている方と合致している気がする。会うのは良いけれど、私を巻き込んで碌なことになって欲しくないと牽制しておく。本当に熱心に聖女として活動しているのであれば、目の前の行動は聖女さまにとって邪魔にしかならないだろう。

 

 「アストライアー侯爵は用心深い方だ。なに、下心など持っておらぬよ。大聖女以外にも聖王国に聖女が存在し、信徒から覚えの良い者がいると知って頂きたいだけ。如何であろうか?」

 

 彼の言葉に私はワザと大きく息を吐いて致し方ないと伝えておく。伝わったかどうかはさておき、周りの方に私は聖女さまと面会する気はなく、目の前の彼の要望に従っただけと意識付けるためもある。

 

 「承知致しました。貴方さまのお言葉を信用致します」

 

 「本当に用心深い方だな。他意はない。安心なされよ」

 

 一応、私の意図は彼に伝わっているようだ。少し予定を変更して彼と共に大聖堂へと再び向かう。私たち一行に気付いたフィーネさまが『あちゃー……』という雰囲気をありありと醸し出して、額に手を当てて困っている様子だ。

 面倒なことになったら申し訳ないと心の中で彼女に平謝りしつつ彼の出方を伺う。信徒の皆さまの合間を縫って、私たちは彼が紹介したいという聖女さまの下へと辿り着いた。

 

 「ウルスラ、少し良いかな?」

 

 「はい、どういたしましたか?」

 

 彼が声を掛けた少女が振り返って視線を合わせた。長い水色の髪を伸ばした可愛らしいお方である。歳は十五歳くらいだろう。背は私より随分と高いので百六十センチ台後半くらいである。聖王国の聖女の衣装を身に纏い――アルバトロス王国の聖女の衣装より装飾品が多い――物静かな雰囲気を携えていた。

 

 「紹介したい方がいてな。君と挨拶をと願えば快く許可をくださった。アルバトロス王国で聖女を務めておられるアストライアー侯爵だ。侯爵、この者はウルスラと名乗り貴殿と同じく聖女を務めている」

  

 目の前の彼が少女の経歴をつらつらと並べる。曰く、親のいない孤児出身で聖王国の孤児院に拾われたあと魔力持ちと判明し聖女に召され、彼が後ろ盾として彼女を支援しているそうだ。彼女の成り立ちが私と似ていると、ウルスラという少女に視線を向けた。

 

 「アストライアー侯爵閣下、ウルスラと申します。お見知りおきを」

 

 「よろしくお願い致します。聖女としてお互い切磋琢磨できれば良いですね」

 

 彼女との顔合わせを何事もなく無事に終え、禁書部屋へと戻るのだった。

 

 ◇

 

 禁書部屋に戻ってきたフィーネさまが、長い銀髪の髪をはらはらと肩から落としながら私に頭を下げた。

 

 「申し訳ありません。彼がナイさまと関わろうとするなんて予想外でした」

 

 フィーネさまが顔を上げて私と視線を合わせると言葉を紡いだ。彼女の予想の範疇から外れたことを聖王国の方が取ったので、フィーネさまは私たちアルバトロス一行に頭を下げるしかない。私的な聖王国への訪問であれば不問にできただろうが、今回は聖王国から請われて公式訪問となっている。その代わりに共和国の研修生を同道させたいと、私が条件を出して叶った訳だ。フィーネさまは聖王国の看板、顔となるので私に頭を下げなければならないから大変だ。

 

 特に問題なく件の方と挨拶を終えたので文句はない。ないけれど、注意しておかなければ次に誰かが続く可能性がある。フィーネさま一派の皆さまは平身低頭で私に頭を下げていいるので、彼らと敵対するつもりのない私は居たたまれない気持ちになってしまう。

 

 「いえ、致し方のないことかと。しかし、どうして私と接触をしたのでしょうか」

 

 私は首を傾げながらフィーネさまを見る。目的がなければ行動に移さないだろうし、一番の目的はウルスラと呼ばれた少女と私を引き合わせたかったのだろう。しかし引き合わせた所でなにになる訳でもない。やはり男性の行動の真意が掴み辛いと目を細めた。

 

 「なにか目的があるのかもしれませんね。少し調べさせてみます」

 

 フィーネさまが後ろを振り向いて聖王国の方に目配せする。お相手の方が確りと頷いて禁書部屋を出て行った。西の女神さまのことも大事であるが、今起こっていることも大事である。文献をテーブルの隅に寄せて、フィーネさま方と話し合う態勢を取った。

 

 「青色の長い髪を持つウルスラと名乗る方の情報も頂けませんか?」

 

 少女の第一印象は儚いけれど芯を確りと持っていそうな方というものだ。信者の方々にも認知されており、治癒をお願いしたいと望まれていた。数年前まで治癒代を徴収していなかった聖王国で、信者の方が快く寄付を捧げていたので少女の実力は確かなものなのだろう。聖女として腕がなければ信用されないから、患者さんが快くお金を払ってくれる聖女は実力が高いとも言える。

 

 「最近頭角を現している聖女さまですね。私を超えるかもしれないと噂されているようです」

 

 もしかしてフィーネさまがアルバトロス王国の王立学院へ留学している間に、少女の存在が大きくなっていったのだろうか。孤児院出身と聞いたし、おそらく必死で治癒魔術を習っていたのだろう。私は公爵さまの庇護下に入ったおかげで真っ当に聖女の仕事を務めていたが、少女が政争の道具にされないか心配になってくる。とはいえ今は私の同郷である彼女の立場が心配である。

 

 「フィーネさまは宜しいのですか?」

 

 少女に立場を取って代わられることもあるだろう。欲深い方であれば喉から手が出るほど欲しい物だから、大聖女という称号は聖王国では大きな価値を持つ。

 

 「良いことだと考えていますよ。医療の発達していない場では治癒魔術の使い手は貴重です。私にできないことを彼女は難なく成し遂げていますから。大聖女が二人いても問題ないのであればそれで構わないですし」

 

 フィーネさまは確りとした考えを持ち大聖女の地位に就いているようだった。

 

 「しかし聖痕がなければ大聖女を超えられないですよね? 男性が腹に一物を持っているなら、少女には大聖女の座に就いて欲しいでしょうし……本当になにを考えているのやら」

 

 私はむーと考えながら天井を見上げる。クロが私の肩から落ちそうになって長い尻尾を首に絡めてきた。ごめんとクロに指を伸ばせば、ぐしぐしと顔を擦り付けてくる。

 

 「確かに同格の存在かそれ以上の存在として扱われないでしょうけれど……いずれは大聖女の聖痕が現れるだろうと周りの方々は噂しております。今は私が所属している派閥が一番力を持っていますが、変わることもあるでしょう」

 

 フィーネさまの落ち着き具合に私は驚きを隠せない。少し前であれば『どうしましょうナイさま、エーリヒさま!』と言ってアルバトロスに乗り込んできそうな勢いがあったはずだ。それなのに落ち着き払って菩薩のような表情で少女のことと別派閥のことを語っている。不思議に感じてアリサさまへ視線を向けると、彼女は『お姉さまが凄く成長なさいました』と一人で感動に打ちひしがれていた。

 大丈夫かな聖王国と心配になるものの、残念ながら聖王国に口出しすれば内政干渉となる。私ができることは、フィーネさまの話を聞いてアドバイスを送るくらいだと結論付けて禁書部屋をみんなと出て行く。

 

 「では、晩餐会で」

 

 「はい。聖王国のお料理楽しみにしています」

 

 聖王国の大聖堂側にある官邸の分かれ道で、夕陽を浴びながらフィーネさまと言葉を交わして一旦別れる。休憩を取って聖王国の皆さまと晩餐会である。

 おもいっきり政治の場なので、赤の差し色が施されている黒い服を纏った男性にまた絡まれるのだろうか。そうなるとお互いに腹の探り合いとなるので、目的を直接問うのもアリだなとソフィーアさまとセレスティアさまとエーリヒさまと緑髪くんに視線を向けた。彼らと相談しようととりあえず来賓用の部屋に戻り席に着いた。

 

 「公式に聖王国に訪れることになったので、なにかあると考えていたのですが……まさかフィーネさま一派でなく別の派閥の方が画策していたとは」

 

 私は言葉を紡いで天井を仰ぎ見る。てっきりフィーネさま一派――分かり易いので便宜上称す――が仲直りアピールを兼ねて公式訪問を打診したのだろうと考えていたのが甘かったようだ。

 

 「でも私と縁を取り持ってどうするんだと言いたいのですが、相手からすればメリットがあり過ぎるのでしょうね……」

 

 面倒な、と言いそうになるのをぐっと堪える。一番面倒な立場に立たされているのはフィーネさまだろう。あと彼女が所属する派閥もか。

 

 「それはそうだな。ナイと繋がりを持てば西大陸のみならず、南と北と東にも繋がりが持てる可能性が出てくる」

 

 「それがなくともアストライアー侯爵であるナイと顔合わせしただけでもメリットはありますわね」

 

 ソフィーアさまが苦笑いを浮かべ、セレスティアさまが鉄扇を広げながら答えてくれる。星に傷跡を残した噂は西大陸を超えて広まっているから、確かにそんな単体個人武力を持った人間と知り合いだと言えば自慢になるし話題にもなる。そんな方がいるなら私も是非お見知りおきして欲しいと願うだろう。

 

 「喧嘩を売られれば買っても良いか、聖王国とアルバトロス王国に確認を取っておきましょう。今は腹の探り合いなので、どう転ぶか分かりません」

 

 私の言葉にソフィーアさまとセレスティアさまとエーリヒさまと緑髪くんが頷いてくれる。そしてエーリヒさまと緑髪くんが外務部の方として部屋を出て行った。おそらく許可取りに向かったのだろう。忙しくさせて申し訳ないが、荒事にならないように努めるつもりである。攻撃ではなく口撃を持って相手を制することができれば良いのだがと、床にある自分の影を見つめるのだった。

 

 ――晩餐会が始まる。

 

 聖歌隊の天使のような歌声を耳にしながら歓迎され、用意された席へと案内を受ける。共和国の研修生は別室で聖王国料理を提供されているので、異国の雰囲気を楽しんでいると良いけれど。

 

 私は上座にいる教皇猊下の横にいるのだが、対面にはフィーネさまがおり、更にその横にはアリサさまがいる。お二人はがっつり政治面に関わっているのだなと感心していると、聖王国のお偉いさん方に見つめられているので、私は並べられたカトラリーと銀食器を視界に捉える。

 

 そういえば赤の差し色を施されている黒服の男性はどこだと目をさ迷わせた。先々代――正しくは先々々代――の教皇さまがアリサさまの隣に座しており、彼女彼らの周りには聖王国のお偉いさん方がいる。そして少し離れた所に例の彼がいた。期待のホープである聖女さまは参加していないので、空気を読むことはできるようだ。

 

 「本日はアルバトロス王国よりアストライアー侯爵閣下が参られた! 聖王国とアルバトロス王国に神の加護を!!」

 

 教皇猊下が水の入ったグラスを掲げて乾杯の音頭を取る。その合図を皮切りに料理が給仕の方により運ばれてきた。アルバトロス王国より地味な見た目であるが、お野菜には確りとした味付けが施されているし、じゃが芋さんやハムは美味しかった。パンも焼きたてを提供してくれていて、バターを乗せるととろりと溶けていく

 聖職者の方々が多いので肉料理は控え目であるが、禁止されている食材ではないので問題はない。というか禁止されている食材自体がなく、なにを食べても良いのである。お酒は堕落を招くと言って、適量を推奨されているくらいであろうか。大らかだよねと少し笑みを携えながら、出された料理を楽しんでいた。

 

 ナプキンで口元を拭っていると、教皇猊下が私に視線を向けている。どうしたのだろうと私は彼と視線を合わせばにこりと彼が笑みを携えた。

 

 「アストライアー侯爵には助けられてばかりであるな。感謝を示したいのだが、其方の活躍が眩すぎて私の言葉に価値はない」

 

 「猊下、恐れ多いことでございます。聖王国が立ち直ったのは猊下を始めとした皆さまの意思によるものです。全ての方が腐っていれば聖王国は今頃亡国となっていたでしょう」

 

 立ち直る気概がなければ国は直ぐに腐敗する。軍政になっていないだけマシだろうと、私が猊下に笑みを向けると周りの方々がぴくりと肩を揺らしていた。脅しているつもりはなかったのだが、今までの聖王国に向けていた私の態度が彼らを恐れさせているのだろうか。

 

 流石に教皇猊下は怯えた様子を見せずどっしりと構えていらっしゃる。彼であれば聖王国は暫く安泰だろうなと、新たに提供された料理に舌鼓していた。西の女神さまについて大きな収穫はなかったけれど、聖王国に少しの変化が訪れそうだなという雰囲気が会場内にあるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。