魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0496:変化の予感。

 ――翌日。

 

 私たち一行は大聖堂に赴いていた。朝の早い時間というのに参拝する方は多くいらっしゃる。皆さまは祭壇に向かって膝を突き胸の前で手を握り祈りを捧げていた。流石宗教の総本山と感心していると、大聖女であるフィーネさまが登場した。

 

 今から神さまに祈りを捧げるようで、彼女の雄姿を一目見ようと朝の早くから大聖堂に赴いているのである。しずしずと祭壇横の扉から姿を現したフィーネさまに、信者の皆さまが感嘆の声を漏らし注目を浴びている。真っ白な布地に金刺繍が施されている衣装に身を包んだ銀糸の髪を持つ彼女の姿は神々しい雰囲気を持っており、信者の皆さまが見惚れるのも仕方ない。

 

 私は信徒席の隅っこでフィーネさまの様子を眺めている。私は私で大勢の護衛の方を侍らせているので、別の意味で信徒の皆さまから注目を浴びていた。

 

 取って喰いやしないし、関わらなければ痛い目を見ないので見て見ぬふりをしてくださいと願うばかりだ。

 暫くすると祈りを捧げ終えたフィーネさまがゆっくりと立ち上がる。そうして信徒席に座す皆さまに声を掛け始めた。これは大変な作業だと彼女の姿を眺めていると、聖王国の聖女さまも参加して信者の皆さまに声を掛けている。アリサさまもいらっしゃるし、水色の髪の少女もいた。

 

 少し騒がしくなっている大聖堂の片隅で私は息を吐く。

 

 「アルバトロス王国の聖女さまも大変だけれど、聖王国の聖女さまも大変そうだね」

 

 私は少し後ろを振り向いて、護衛に就いてくれているジークとリンを見上げた。アルバトロス王国の聖女さまは魔物討伐に治癒院に慰問にと仕事は多岐に渡り、割と簡単に予定が埋まる。

 聖王国の聖女さまも大聖堂に赴いて信者の皆さまの悩みを聞いたり、治癒を施していたりと大変忙しそうであった。毎日続けているならば、私の場合メンタルを擦り減す可能性が高い。凄いよねえとそっくり兄妹と視線を合わせれば、彼らは口を開いた。

 

 「アルバトロスとは聖女の定義が少し違う気がするが、大変なことに変わりはなさそうだ」

 

 「大変だけれど、選んだのは彼女たち」

 

 ジークとリンが聖王国の聖女さま方に視線を向けながら返事をくれる。怪我や病気が治らなければ患者さんや家族から責められることもあるし、治らなかったことに嘆かれることもある。割とメンタルを持って行かれるので心を強く保てなければ、やってられない状況に陥ることもあった。

 リンの言う通り、聖女の立場を望んだのは彼女たちなので、大変そうという言葉は失礼にあたるかもしれないが。共和国の研修生にも、母国に戻って治癒師を務めていれば不条理に襲われることもあると知って貰えれば良いのだけれど。

 

 「聖女の運営方法は国によるけれど、聖王国も上手く利用しているよね」

 

 聖王国もアルバトロス王国も聖女の仕事の根幹は治癒であるが、聖王国は信者の皆さまから崇拝を集めている。もちろんアルバトロス王国でも教会に赴いた皆さまから信頼されているけれど、少し向けられる視線の質が違っている。聖職者の皆さまと同様に神さまに近しい存在とでも言おうか、特別視されている感が強かった。

 

 「大聖女さま! どうか我々に神の加護を!」

 

 口々に紡がれる言葉をフィーネさまは無難に対処していた。慣れているなと感心していると、水色の髪の聖女さまが祭壇に向かって祈りを捧げ始めた。彼女も彼女で雰囲気のある方である。私は聖女の役職を担っているけれど、神さまにこれっぽっちも意識を向けたことはなかった。今は別であるが。

 

 熱心に祈っている彼女の信仰心は本物なのだろうと目を細めると、彼女の足元に眩い光が溢れ出し模様が描かれ始めた。突如現れた模様は南の女神さまが姿を現した時のものと似ており、白く輝く光は収まりそうもない。

 一体何事だとアルバトロス王国のメンバーは身構えて、聖王国の皆さまはあり得ない光景に沸き立っている。そして水色の髪の少女は自分の身に降り掛かっている状況を理解していないのか、きょろきょろと周りを見回して戸惑っていた。

 

 「き、奇跡だ! 奇跡が起こった! 聖女さまに主の御印が現れたのだ!」

 

 「聖女さまに女神さまが意思を告げたのだ! 素晴らしい!」

 

 皆さまから向けられていた注目が大聖女であるフィーネさまから、一気に水色の髪の少女へと向けられている。信者の皆さまによって大聖堂は興奮の嵐に包まれていた。

 元々信仰心の高い方が聖王国の大聖堂に訪れている。それ故に神さまの御印だと声高に叫び、他の方にも興奮が伝播して大事になりつつあった。私は状況が不味そうだとジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまに、エーリヒさまと緑髪くんへ視線を向ける。今いる場所から少し距離を取ろうと席から立ち上がり移動を始めた。

 

 「聖女さま、我らの主はなにを告げられたのですか!?」

 

 私の背後から興奮気味な声が耳に届く。後ろの状況は確認できないけれど、今もまだお祭り騒ぎとなっているのだろう。

 フィーネさまとアリサさまは大丈夫か気になるが、今は妙なことに巻き込まれる前に退散した方が得策だ。フィーネさまとアリサさまにも聖王国精鋭の護衛が就けられている。大丈夫、と自分に言い聞かせていると水色の髪の聖女さまの声も耳に届いた。

 

 「も、申し訳ありません。弱輩者の私には女神さまの声を聞き届けることができませんでした。しかし女神さまから新たな力を頂いた気がします。今ならどんな怪我も病気も治せそうな気分です!」

 

 水色の髪の聖女さまの言葉に信者の皆さまの声がわっと盛り上がる。凄いなと大聖堂の物陰に移動した私たちの下に、困惑の表情を携えたフィーネさまとアリサさまがやってきた。

 

 「ナイさま、騒動に巻き込んでしまい申し訳ありません」

 

 「いえ、お気になさらず。しかし今の状況は一体どういうことでしょうか?」

 

 フィーネさまが私の顔を見ながら小さく頭を下げる。彼女の所為ではないし、自然に起こった奇跡なのだからめでたいことだ。しかし今起こらなくてもと考えてしまうのは、トラブル続きの日々だからだろうか。今にも万歳三唱を始めそうな大聖堂の雰囲気に少し引きながら状況を整理する。

 

 「私にもさっぱり分かりません。ですが女神さまからなにかの啓示が聖女ウルスラにあったことだけは事実でしょう」

 

 流石大聖女を務めるフィーネさまである。水色の髪の少女の名前を憶えているようだ。魔術で人工的に演出することも可能であるが、彼女の足元に現れた模様は魔術陣の模様ではないし、光量が異常に多かった。とはいえ決めつけるのは危ない。本当に神さまからの啓示なのか、誰かが裏で糸を引いているのかは分からなかった。

 

 「本当に女神さまの御導きなのでしょうか……?」

 

 西の女神さまは絶賛引き籠もり中なので、西大陸を司る彼女が起こした奇跡とは考え辛い。ならば他大陸の女神さまが起こしたのだろうかと考えるが、四女神さまの間で他大陸には手出し無用というルールが設けられている。

 ならば星を創造したグイーさまかと姿が浮かぶものの、割と豪快な彼が先ほどのような細かな仕事を成し遂げるのだろうかと疑問が残る。ふと私の脳裏にグイーさまに聞いてみるのもアリかと浮かぶ。しかし下界で起こっていることを安易に頼って良いものかと迷ってしまった。私がどうするのか迷っている内に、件の少女を紹介してくれた男性が私の目の前に立つ。

 

 「いくら双子星に傷を付けたアストライアー侯爵といえど、神の加護を受けたことはないでしょう? どうかな、聖王国の聖女は素晴らしかろう」

 

 ふふふと笑い私を見下ろす赤の差し色を施した黒衣を纏う聖職者さんは、フィーネさまをチラリと見て口元を伸ばし水色の髪の少女へ視線を向けながら私に言葉を投げてきた。

 

 「大聖女さまも彼の聖女さまも素晴らしい力をお持ちのようで、聖王国はこれからも安泰でしょう」

 

 自国の聖女さまを自慢したい気持ちは理解できるので、私は無難な言葉を彼に返した。グイーさまに腕の傷を治して貰ったので神さまから治癒を受けたことはあるが、確かに神さまから加護を得たとは言い難いか。

 

 「ははは! 聖王国を崩壊の危機に陥れた貴殿にそう仰られるのは痛快だ!」

 

 くくくと喉を鳴らした黒衣の聖職者さんは豪快に笑った。それは貴方方がアルバトロス王国で枢機卿の座に就いていた方が無茶をやらかして、聖王国が彼を保護したからである。

 国を一つ崩壊させれば面倒な事態になるのは明白なので、亡国にするつもりはなかったのだが。これを口にすると皆さまから『嘘だ!』と言われそうなので黙っておくけれど。黒衣の聖職者さんの言葉にフィーネさまとアリサさまが青い顔になる。私は目の前に立つ彼に気付かれないように、お二人に気にするなと小さく首を振った。

 

 「貴方さまは聖王国が滅ぶことをお望みでしたか?」

 

 私に嫌味や皮肉を投げられたならば、彼に嫌味や皮肉で返しても構わないだろうと言葉を投げる。

 

 「まさか! 聖王国が滅ぶなど微塵も考えてはいないよ。だがね女神への信仰心を忘れた前教皇には辟易していた。今の状況には大変満足しているからね」

 

 だから私が教皇ちゃんを追い詰めたのは彼にとって痛快な出来事だったそうだ。その前に自分たちで腐敗していた彼らを追い出して欲しかったが、出来なかったものは仕方ないのだろう。

 

 「それは良いことでござます。しかしながら今起きていることは大聖女フィーネさまの地位を危ぶむ事態と見ても良いでしょう。貴方さまは今の状況をどうお考えですか?」

 

 フィーネさまと先々代の教皇さまたちが努力して実らせたことを、黒衣の聖職者さまが壊すのであれば私も対応させて頂く。今の彼の行動は水色の髪の聖女さまを持ち上げようと、画策しているようにしか見えないのだから。

 

 「そのような怖い顔をなさるな、アストライアー侯爵。私は聖王国を滅ぼすつもりはないと言ったよ? あと大聖女である彼女の意思も大事ではないかね?」

 

 それはそうだと黒衣の聖職者さまの言葉にそれもそうだと頷いて、フィーネさまに視線を向けた。彼女は突然のことできょとんとするけれど、私たちの言葉に答えなければならないと腹を括ったようだ。

 

 「もし聖女ウルスラに聖痕が浮かび、今持ち得ている私の印より上位のものであれば素直に大聖女の地位をお譲りいたします」

 

 たしか聖痕にも階位があってフィーネさまが持つ印は上から二番目だと聞いている。聖痕の階位を誰が決めたのか知らないけれど、面倒な事態になりそうなことだけはヒシヒシと肌に伝わる。

 

 黒衣の聖職者さんは不敵な笑みを浮かべ、フィーネさまは真面目な顔で彼に言葉を投げる。心配そうな顔でアリサさまは行く末を見守り、大聖堂ではめでたいめでたいと騒ぐ信者さんたちの輪の中で起こった奇跡を噛みしめている水色の髪の聖女さまの姿に私は目を細めた。

 

 各々の思惑がありそうだなと、私は黒衣の聖職者さまと視線を合わせて口の端を伸ばすのだった。

 

 ◇

 

 黒衣の男性と私の一触即発が起こるかなと思いきや、彼はすごすごとウルスラと呼ばれる少女と共に大聖堂を去って行った。フィーネさまは私に平謝りするし、彼女の所属する派閥の皆さまも申し訳なさそうに青い顔をしていた。

 

 ――大聖堂の一件から、数時間が経った。

 

 水色の髪の聖女さまに聖痕が現れたそうだ。それも一番上の階位のものだそうで……なんとももやもやする気持ちを抱えながら、私たちは大聖堂から官邸に戻って来賓室にお邪魔させて頂いていた。

 

 悪の枢機卿のような黒衣の男性は私に喧嘩を売りたいのか、自分たちの方が優秀だと言いたかったのか判断が付きにくい行動だったし、他国の方に私から喧嘩を売る行動は慎まないといけないので奥歯にものが挟まったようなやり取りしかできなかった。

 

 むーと口を膨らませているとソフィーアさまが『よく我慢したな』と目線で訴え、セレスティアさまが『買っても良かったのでは』と言いたげに無言で鉄扇を開く。ジークは黒衣の男性の行動を警戒しているし、リンも男性のことを良く捉えていない。エーリヒさまは凄く浮かない顔を浮かべて眉間に皺を寄せている。緑髪くんはそんなエーリヒさまを見て苦笑いを浮かべ、落ち着きましょうと彼に伝えていた。

 

 「彼にあのようなことを言って、良かったのですか?」

 

 私は大聖堂から一緒に戻っているフィーネさまに問い掛ける。彼女は大聖女さまの座を降りても構わないと公言してしまったのだ。聖王国の大聖女がどう代替わりするのかさっぱり分からないけれど、フィーネさまは大聖女の地位と聖王国を持ち直させた立役者という功績があるのに……新たな大聖女候補が出てきたと言って、直ぐに代れるものなのか。

 フィーネさまの地位が危ぶまれないと確約されていれば、このなんとも言えない気持ちを抱えてはいなかっただろう。

 

 「どうでしょうか。売り言葉に買い言葉だったかもしれませんが……新たな大聖女が誕生するならば歓迎しなければなりませんしね」

 

 「聖王国の仕組みに詳しくないので私が口を挟むのは無粋ですが、フィーネさまの功績を横から掻っ攫うような形になるのは如何なものかと」

 

 私が納得できていない部分は横から功績を掻っ攫う形で新たな大聖女さまを据えようとしている所だろうなあ……聖王国が荒れた原因である私が言えることではないけれど。またむーと口を尖らせていると、フィーネさまが『まあまあ』と私を宥める。

 

 「世代交代はいつか必要になりますから。遅いか早いかの違いです。それに大聖女が二人いることもありますよ」

 

 「あの胡散臭い男性は水色の髪の聖女さまのみを大聖女の座に就かせたい様子でしたけれど……」

 

 大聖女さまが二人以上在位する場合もあると聞いたけれど、黒衣の男性がフィーネさまを排除しようと画策してもおかしくはない。フィーネさま一派の方々が彼女の警備レベルを上げると仰っていたけれど大丈夫だろうか。

 命を狙われるならアルバトロス王国に亡命することも可能だから、マジでフィーネさまに身の危険が及ぶなら強硬な手段に出るつもりでいよう。ただ今はまだ状況がどう転ぶか分からない。水色の髪の聖女さまがフィーネさまと共に大聖女の座に就きたいと言ってくれれば、黒衣の男性の目論見は潰えることもあるだろう。

 

 「確かに胡散臭いですが、事務方仕事は優秀な方です。聖女ウルスラを希代の大聖女に仕立て上げる腕はある方かと……多分ですが」

 

 フィーネさまは彼の男性が胡散臭いことは否定しないのか。西の女神さまの引き籠もりを解消するために奔走していたけれど、少し吹っ飛んでしまったなと私は天井を仰ぎ見る。少し長めに目を瞑り再度開いて、フィーネさまに視線を戻した。

 

 「えっと……再度確認です。フィーネさまは今の地位から退いても問題ないと?」

 

 怒りに任せて動いても良いけれど、当事者はフィーネさまである。黒衣の男性は私も巻き込みたかったようだけれど、他国の者が聖王国の事情に介入するのはよろしくない。今の立場や状況であれば関わっても不問にされそうではあるが、あとからなにを言われるか分からないので慎重にいかなければ。

 

 「条件が付きますね。これでも五年近く大聖女の座を務めてきて恩のある方々がいます。その方々が私に対してどう考えているか分かりませんが……退けというのであれば私は退きます」

 

 フィーネさまが大聖女として残るかどうかは、周囲の方たちの意見次第と言ったところか。なんだかスッキリしない私の気持ちに無視を決め込み、もう一度彼女に口を開く。

 

 「大聖女の地位と今までフィーネさまが築いてきた功績からも降りると言っているようなものではありませんか?」

 

 最悪、功績を全て奪われて退位しなければならないのではという心配がある。フィーネさまの周囲にいる方々がそう考えてはいないだろうが、黒衣の男性一派がどう動くか分からない。

 

 「そうなる可能性もありますが、大聖女の地位に執着していないのかもしれません。私の生活が保障されれば生きて行けます。それに私がやるべきことは三年前に終えましたから」

 

 フィーネさまはふふふと綺麗に笑う。本当にマジで大聖女の座に拘っていないようだ。まあ彼女が大聖女の地位から降りれば、白馬に乗った王子さまが迎えに行ってくれるはず。エルかジョセにお願いして、鞍を付けて貰って空からフィーネさまを迎えに行けば聖王国に意趣返しができるだろうか。

 エルたちに断られればヴァナルにお願いして貰おう。白馬じゃないけれど白い狼だから同じようなものである。あとはエーリヒさまが頷いてくれるかどうかになるが、おそらく大丈夫なはず。ヴァナルに断られたら、クロにお願いして大きくなって貰おう。白銀の竜だけれど、白馬と一緒で乗って迎えに行くのだから。

 

 「あの、ナイさま。どうしてそんなに不機嫌なのですか?」

 

 フィーネさまが眉をハの字にしながら私に問い掛けた。不機嫌というより悪い顔をしていただけ。

 

 「私が口を出すことではないのですが、今の地位からフィーネさまが降ろされようとしていることに納得がいきません」

 

 自分の心配をしなきゃいけないのにフィーネさまは私のことを気に掛けている。

 

 「ありがとうございます。ちょっと嬉しいです」

 

 へなっと笑うフィーネさまを見て私は心配な気持ちが溢れ出す。むーとまた考え込んでアルバトロス王国に迷惑が掛からない範囲で自分ができることをしようと口を開いた。

 

 「ヴァナル、お願いがあるんだけれど」

 

 流石にアルバトロス王国の息が掛かっている方を聖王国に残す訳にはいかない。であれば私と懇意にしてくれている彼に頼るのが一番だろうと声を掛けた。

 

 『主、どうしたの?』

 

 「暫くの間、フィーネさまと一緒に過ごしてくれないかな? あ、でもフィーネさまの許可を貰ってからだけれどね」

 

 私の影の中から出てきたヴァナルは、私の前で床にお尻を付けて顔を斜めに傾げた。護衛を担うならグリフォンさんやポチとタマでも良いけれど、影の中に入ってひっそりと護衛を担うことができないのでヴァナルが適任である。

 

 『良いよ。フィーネと一緒に寝た。仲間大事。主の言うことも大事。フィーネ、どうしたい?』

 

 ヴァナルが何度か尻尾を振ってフィーネさまの方を見る。おもむろにヴァナルが立ち上がってフィーネさまの前に移動してペタンと床にお尻を落とした。

 

 「え、え? それは凄く助かるし頼もしいけれど……ナイさま宜しいのですか?」

 

 「私は構いません。フィーネさまが心配ですから。ヴァナルにはフィーネさまに身の危険が及んだ時だけ護衛を頼もうかと。それか常に一緒にいて貰えば牽制になるでしょうから」

 

 どうにも不安が拭えないのでヴァナルの護衛があるなら安心だ。まあ水色の髪の聖女さまがヴァナルか、ヴァナル以上の存在を連れていれば意味は薄くなるけれど。みんなで話していると雪さんと夜さんと華さんたちも私の影の中から出てくる。

 

 『番さま……』

 

 『彼と離れるのは少々問題が』

 

 『ヴァナルさまと離れるのは頂けません』

 

 雪さんたちは寂しそうに鼻を鳴らしていると、毛玉ちゃんたちも呼応して影の中から出てくる。ヴァナルは『少しの間だけだから大丈夫』と彼女たちを説得していた。私はどうしようかと考えてフィーネさまに視線を向ける。

 

 「フィーネさま、雪さんたちも一緒に構いませんか?」

 

 「え、えぇー!?」

 

 フィーネさまはヴァナルだけなら問題なかったけれど、雪さんたちも一緒になるとは露とも思っていなかったようだ。とはいえ雪さんたちは私がフソウからお預かりしている身である。

 

 「雪さんたちはフソウに話を通してからで構わないかな? 多分、通るはずだから」

 

 ナガノブさまに話をすれば許可を出してくれるはず。そもそもフソウに神獣さまの行動を阻害する気はないだろうし。

 

 『ではナガノブたちに直接許可を頂きましょう』

 

 『ええ。番さまと離れるわけにはいけませんから』

 

 『ヴァナルさまと一緒に彼女の護衛を務めれば良いのですね』

 

 雪さんたちの言葉を聞いて、目を真ん丸に見開いて驚いているフィーネさまと聖王国フィーネさま一派の方々に私は笑みを浮かべる。少し寂しくなるけれど、彼女の身の安全を考えれば妥当な措置だろう。毛玉ちゃんたちもヴァナルと雪さんたちの下にいたいのか分からないけれど流れ次第であろう。聖王国に波乱が訪れそうな気配が漂っていた。

 

 ◇

 

 夜。私は部屋に一人で椅子に深く腰を掛け窓の外を見ている。三年前、聖王国は腐敗の一途を辿っていた。同時、神職として低い地位に就いていた私はなにもできないもどかしさに苛まれていた。

 

 どうすれば聖王国を健全な状態に戻すことができるのかと、毎日神に祈りを捧げ天啓が降りるのをまっていたのに終ぞそうなることはなかった。そして神が御光臨さなることはなかったが、アルバトロス王国から黒髪の聖女と呼ばれている少女がやってきた。

 彼女は前教皇一派に堂々と立ち向かい……いや、前教皇一派が余りにも愚者であっただけか。私は彼らが自滅していく姿を眺め、黒髪の聖女が聖王国を潰す勢いで迫っていたことに怒りを覚えるも、場を荒らすだけ荒らして去って行った彼女に驚いたものである。

 

 そうして私は大聖女フィーネと先々代の教皇と共に立ち上がり聖王国を立て直し現在の地位を得て、大聖女フィーネ派と並ぶ派閥の長となっている。そして一年ほど前に孤児院で見つけたウルスラと呼ばれる少女は、類まれなる魔力量を持ち才能に満ち溢れていた。

 私は彼女の後ろ盾になり聖女になるようにと導き、信徒の皆から慕われている。ウルスラは今の地位で満足しているが、私は今以上の地位を彼女に与え私の派閥の影響力を高めたい。

 

 「当時、君と関われなかったことが残念だよ……アストライアー侯爵。私が見出したウルスラと君、どちらが優れているのか楽しみだ」

 

 私がアストライアー侯爵を丸め込めば、聖王国で更なる地位を築くことができる。ウルスラは大聖女フィーネよりも階位の高い聖痕を神から授かった。ウルスラが受けた啓示は、私も神から認められているということだろう。

 

 「ふふふふふ。次の教皇の地位は私が最有力になる」

 

 三年前、聖王国に暗雲が立ち込めなければ今の私の地位はない。本当にアストライアー侯爵には感謝しているし、大聖女フィーネにも感謝している。しかし、今の地位で終わる訳にはいかない。私は教皇の地位に就き、信仰を広め、いずれは神に近い存在か神になるのだと窓の外の双子星を見上げると、扉を煩く叩く音が響いた。

 

 「どうした?」

 

 気持ち良くなっていた所に邪魔が入り、私の声のトーンが少し落ちる。

 

 「聖女ウルスラが息絶えていた赤子を生き返らせました!」

 

 「おお、それは真か!? そのようなことができるのは神くらいであろう。やはりウルスラは神から地上に贈られた使者なのだ!」

 

 目を見開きながら報告をする私の部下の声に歓喜する。ウルスラは私が見つけた少女である。そして私が彼女の才能を開花させ神の啓示を受けた。ならば私はウルスラの父となろう。

 さあ、これから楽しくなるはずだ。大聖女フィーネを追い落とせば、教皇の座にまた一歩近づく。アストライアー侯爵と懇意になるか、彼女を追い落とせば聖王国で私は一目置かれる存在となる。

 

 「ウルスラの下へ参る!」

 

 「承知致しました」

 

 私に礼を執る部下を一瞥して、部屋から足早に大聖堂へと向かうのだった。

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