魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
普通科から特進科への転科に驚き、掲示板側にいた年若い教諭をひっ捕まえて事情を聴いた。――曰く。
歴代から合わせて、試験で初めて満点と次点をたたき出した受験者がおり、職員会議の結果その二人を特進科へと転科させることを満場一致で決まった、と。本来ならば特進科は貴族の子女で成績優秀者のみの編成だと聞いていたのに、こんなことになるだなんて。
学院側は何を考えているのだろうか。目の前で困り顔を披露している教諭に問い詰めても仕方なさそうだし、ここは諦めてさっさと教室へと向かった方が良さそうだ。少し時間が押しているし、特進科クラスで一番下っ端になることが決定しているのだから、遅れると不味いだろう。先ほど私の隣で喜んでいたピンクブロンドの少女の姿が見当たらないので、急いだほうが良さそうだ。
「大丈夫か?」
「どうにかなるよ。それに、あの頃に比べたら全然マシでしょ」
私に付き合ってくれているジークとリンも入学初日に教室に遅れて入る訳にもいかないから、笑って大丈夫だと伝えると呆れられた。
呆れられたことに噛みつくと、私の周りでいろいろと事件が起こり過ぎてて『これもお前が引き寄せた運だろう』と言われるのがオチ。それに栄養失調寸前の孤児だった頃に比べれば些末なことなのだ。面倒事は増えてしまうけれども。
「行こう、遅れると不味いし」
「ああ」
「うん」
校舎の方へと歩き始めてしばらくすると、騎士科と特進科の校舎が別の為、二人と別れなければならなくなった。
「ここまでだな」
「ナイ、無茶したら駄目だよ」
「無茶なんてしないし、無茶するようなことが起こる訳ないよ」
リンが言った無茶なんてするつもりはないし、学校生活なのだから無茶をすることなどないだろう。ジークもリンも心配しすぎなのである。先程の掲示板の所で出会った貴族の人はたまたまガラが悪かっただけだ。殆どの人は私――というか平民なんて相手にしないから空気扱いするだろうし。
「じゃあまた後で」
手を軽く振り二人と別れて特進科の校舎へと続く道を歩く。整備された草花や木が実る小さな庭を突っ切りながら、周りを観察しつつ少しばかり早歩きで進む。校舎は近代と中世を混ぜ込んだような、不思議な感覚の建屋だった。
中世っぽい国だというのに、この学院は不思議なもので日本的なもの――例えば桜――ぽいものがあったり、水洗トイレ――かなり近代的な造りだ――があったりと時代が混ぜこぜである。制服もスカート、ブレザーにネクタイという随分と服飾センスが新しい。外に出ると目立ちそうなのだけれど、街中で見かけた学院生を気にしている人など居ないので馴染んでいるのだろう。
こういう時はこういうものなのだと納得した方が早いのは、魔力や魔術、魔物や魔獣が存在すると知った時に学んでいる。
「待て」
唐突に何の前触れもなく横から声を掛けられ、声の主へと向き直る。
そこに立っていたのは陽に光る金糸の髪をシニヨンで纏め、端整な顔立ちの同じ制服を着こんだ女子生徒。またしても私より背が高いのは、どうにかならないものだろうか。夜にこっそり山羊のミルクとか飲んでいるのだけれど、私の背が伸びる気配は一向にないのだが。
他所事を考えながら、もう一度目の前の生徒の顔を見る。どこかで感じた既視感をそうしてようやく思い出した。
ああ、そうだ。公爵さまに貴族の顔や名前は覚えておいて損はないと、手紙で書かれていたのと一緒に送られてきた貴族名鑑に彼女によく似た姿絵が乗っていたのだ。その人物と言うのが公爵さまの孫娘となる、ソフィーア・ハイゼンベルグ公爵令嬢。公爵さまとは似ても似つかないのだけれど、まあ公爵さまの血は薄くなっているのだろうから、似ていなくても問題はない……はずだ。
「ネクタイが曲がっている、直せ」
薄紫色の目を細めながら高圧的な言葉を紡ぎ、不快そうな顔をありありと浮かべ私へと言葉を投げつけた。顔を下に向けると確かに私のネクタイが曲がっていたので、彼女の指摘を無碍にする訳にはいかない。慣れないネクタイに暫く悪戦苦闘しつつ、どうにか直すことができた。鏡があればもう少し早く結びなおせたのかもしれないが、ないものは仕方ない。
「ありがとうございます。お陰で恥をかかずに済みました」
教室に入って後ろ指をさされながら笑われるよりは、こうして指摘された方が助かるので頭を下げて礼を述べる。
「ふん。こうして頭を下げる前に、最初から気を付けておけ。――身だしなみはきちんとしろ」
普通、身分の高い人が下の者、というか関係もないのにこうして簡単に声など掛けない。一瞬公爵さまが彼女に私の話をしたのだろうかと考えが過るが、それはない。
あの人は仕事のことを家庭に持ち込まないだろう。夫婦円満で今でも冷める気配がないと、公爵さまの部下から聞いたことがある。そんな人が家庭に仕事の話を持ち込みそうにはないから。
注意してくれた当の本人は鼻を鳴らして踵を返しさっさと校舎の方へと向かっていった。
腕時計――公爵さまから入学祝いだといって頂いた――をみると、もうすぐ集合時間になる。急ぎ足を駆け足に変え、校舎の中へと入り教室を目指すのだった。
◇
――い、居場所がない……。
特進科に用意されている教室へと入ると、異様な視線を向けられてしまった。覚悟はしていたけれどこうもあからさまとは。
仕方ないので教室の片隅に移動し手持無沙汰なので、周囲を観察しているのだけれど、これは関わるなという視線なのだろう。
どこの誰とも分からないし、貴族でもないのだから不審人物としか映らないよね。彼らからすれば。廊下には護衛の人たちが何人か居るので、よほど高位の人がクラスに在籍するのだろう。先程の公爵令嬢さまも、この国においてかなり重要な立ち位置だろうし、警備を受け持つ人たちは大変だ。問題が起これば、自分たちの首が飛ぶんだし。比喩ではなく実際に飛ぶものなあ、この世界。
「各自適当に席に着け~」
随分と軽いノリで教室へとやって来た無精ひげを生やし猫背ぎみな中年男性。こげ茶色の髪をざんばらに伸ばし後ろで緩く結び、たれ目姿が彼のやる気のなさそうな雰囲気に拍車を掛けていた。
「ごめんなさ~いっ! 遅れましたっ!!」
ガラリ、と教室の引き戸を開けて突然に入って来たのは、掲示板の前で特進科へと転科出来ることを喜んでいたピンクブロンドの女の子。息を切らしながら空いている席を目指して、着席したのだった。
「間に合ったんですね~よかったあ。――あ、よろしくお願いしますね!」
元気だなあと視線を彼女へ向けていると、隣の席となった男子生徒へと無邪気に声を掛けていた。その人はこの国の第二王子殿下だよ……。顔を知らないのか、それとも無邪気すぎるのか。
「ああ、よろしく」
いいのかなあ、あんなに簡単に声を掛けて。隣国の王子さまや王女さまが学院へ留学して彼に声を掛けたのならば、何ら問題はない。むしろ仲良くなれるならば好都合だろう。
平民出身の彼女と仲良くしても得することはない。寧ろ隙を見せていると周りから見られてしまうのがオチだろうに。とはいえここは平民も学院生である。あまり横柄な態度を取るわけにもいかないのか、殿下は無難に声を返していた。
誰にも分からないように心の中で溜息を吐くと、ピンクブロンドの少女へ厳しい視線を向ける人がいることに気が付いた。その視線のもとは公爵令嬢さまだった。
私のネクタイのことを注意した時よりも更に険悪な雰囲気だった。自分に向けられている訳でもないのに、背中にたらりと汗が流れるのを感じると、その空気を打ち破る人が居たのだった。
「俺を無視せんでくれんかねえ……――まあ、いい。今日の予定と今後のことを簡単にだが話していくぞ~」
呆れ声を上げた教師はこの特進科の担任教諭だそうだ。これから始まる入学式の説明と今後の学院行事をざっくりと説明して、早々に講堂へと移動するようにと促される。集まっていた在校生の席を抜け、一年生にと用意されていた椅子へと腰を掛けると開会のアナウンスが流れた。魔術具で作ったマイクで講堂の隅から隅へと聞こえるように配慮されたのだろう。
お偉いさん方の挨拶が終わり在校生挨拶となる、どうやら生徒会長を務めているようで学院に早く馴染めるようにと心遣いをしていた。サラサラの髪に良い顔立ち、身体の発育の良さから高位貴族だというのがうかがい知れた。同じ制服を着ているというのに空気が違うんだよね、私たちとは。そんなことを考えていると、先程教室にいた第二王子殿下が新入生代表として壇上に立つ。
「学院に咲く桜の花が私たちを迎え入れ、本日から――」
声変わりがまだ終わっていないのか少しだけ高い音を感じさせる声色で、奇麗なテンポで原稿を読み上げていく殿下。その姿にキラキラと目を輝かせながら、顔を上げている令嬢たちが何人も居た。
ついでにピンクブロンドのクラスメイトもその中の一人だった。若いねえと、周囲を見ていると数名の女子は何かを考えているような顔で殿下を見上げていた。どうやらいろいろと思うことがあるらしい。それが何なのかは分からないけれど、まあみんなお年頃である悩みの一つや二つ抱えているものだろう。
校門の桜もどきは桜だったのだなあと妙な感じになりつつ、さっぱり分からない学院の校歌を披露されて、無事入学式も終え。教室へと戻り、自己紹介へと相成るのだった。
◇
今度は空いている席に適当に座るのではなく、キチンと個人に割り当てられている席へと座るように担任から促された。
「あー。そんじゃあ、まずは自己紹介からな」
本来は必要ないものではあるが、と付け加えられてピンクブロンドちゃんと私へと視線が向けられた。
あー貴族ばかりなら勝手に名前は知っているのだ。高位の子女の皆さまであれば名前が売れているから必要ないものだしなあ。平民が特進科へと入るのは初の事だから、目の前の教諭は先ほどから面倒くさそうな顔をしているのだろう。
「特進科担任のトーマス・リーデルだ。二年や三年、他の学科の教諭の名前は追々覚えていけばいいだろう。これから一年間よろしく頼む」
問題は起こさないでくれよ、という幻聴が聞こえたような気もする。
「殿下、よろしくお願いいたします」
自己紹介なんて必要ない方のような気もするけれど、形式は必要なのだろう。
「みなも知っていると思うが、ヘルベルト・アルバトロスだ。三年間よろしく頼む」
新入生挨拶での柔和そうな雰囲気は何処へやら。語気を強めながら端的に自己紹介を終えた、こちらが素のようだった。サラサラの金色の髪、スカイブルーの瞳に高い鼻筋、きりりと整った眉に切れ長の目。
イケメン美女率が高いこの国だけれど、この教室を見渡すと街の人たちよりさらに一段顔面偏差値が上がってる。顔面偏差値が普通か少々下になる私の立つ瀬がないというか、なんというか。微妙な気持ちになりながら、次の人が席を立つ。
「ソフィーア・ハイゼンベルグです。みなさま、これからどうぞよろしくお願いいたします」
校舎前でみだしなみを整えろと注意してくれた本人だ。その時とは言葉遣いを使い分けているのか、物腰が柔らかくなっている。外交用なのだろうなと、この年齢で使い分けをしていることに感心しながら、次へと移った。
第二王子殿下の将来の側近候補、侯爵家三男『ユルゲン・ジータス』
近衛騎士団団長の息子であり伯爵家嫡男『マルクス・クルーガー』
魔術師団団長の息子であり子爵家嫡次男『ルディ・ヘルフルト』
教会の枢機卿の一人を務める子爵家三男『ヨアヒム・リーフェンシュタール』
随分と国の政や重要機関の関係者の子息たちの名前が並んでいた。ついでに第二王子殿下の取り巻きのようで移動の際は、よく一緒に行動していた。
殿下の金髪、側近の緑髪、騎士団長子息の赤髪に魔術師団長子息の青髪そして枢機卿子息の紫髪。
日曜朝に放映されている戦隊モノか博士に違法改造されるバイク乗りの番組に出演すれば、子供と一緒に観ている奥さま方から黄色い歓声を上げそうなほど完成されているイケメン軍団を形成してる。現に爵位の低いご令嬢たちは滅多に見られない光景に、目を輝かせているものなあ。うん、売れるのが確実だよ、俳優として出演すれば。演技力なんて後からついてくるだろうし。
一塊の男子が終わると次へと移る。カタリと椅子の音を立てて、口を開いた瞬間。
「セレスティア・ヴァイセンベルクですわっ! 殿下方をはじめ、みなさまよろしくお願いいたしますわっ!!!」
圧巻の声量だった……。確か、辺境伯のご令嬢だった気がする。派手なドリル髪――正しくは巻髪か――が特徴的だけれど、出ている所は出ているし奇麗な人だった。
持っていた扇を開いて高笑いを始めそうな雰囲気だけれど、流石にそんなことにはならないようだ。
――ゴトリ。
彼女の落とした扇が木の床へ刺さった。え、刺さった。リアルに。一体どういうことなのだと目を丸くしながら、彼女は扇を拾い上げそのまま開いて口元を隠す。
「あら、失礼。――教諭、修繕費は家へ請求いたしてくださいませ。わたくしの不覚ですもの、学院に修繕をせよとは言えませんわっ!」
開いた瞬間に金属が擦れるような音がしたので、まさかの鉄扇なのだろうか。私を含めたぎょっとした人数名を他所に、にこやかに流れるように教師へと言葉を投げかけていた。辺境を護る家の出身だから、鍛えることを家訓にでもしているのだろうと無理矢理に納得させ。
「……まったく初日から」
辺境伯令嬢の挨拶から数名の自己紹介を経て、最後に出番が回ってきた。
「――次、最後だな。転科となった二人、どっちが先でも構わんぞ」
「じゃあ私から! いいよね?」
教室の真ん中の席となったピンクブロンドの彼女が、教室の入り口後ろの一番隅の席となった私に声を掛けてきたので、どうぞと返すと同時にがたんと音を立てながら席をたつ。
「アリス・メッサリナです! 学院で沢山学んで、沢山お友達を作って、沢山思い出も作って卒業したいと思いますっ! よろしくねっ!!」
無邪気に笑いながらピンクブロンドの女の子は小さくお辞儀をして席へ着くと、まばらな拍手が教室に響く。家名があるのならば、商家出身の教育を満足に受けることが出来たお嬢さんなのだろう。さて今度は私かと、椅子を引き立って腹に力を入れた。
「ナイ、と申します。家名はありません。――世間知らずで、しきたりに詳しくはなくご迷惑をお掛けすることが多々あるかと思いますが、みなさまの寛大な優しさを望みます。これから卒業までよろしくお願いいたします」
腰を深く折って頭を下げるのだった。『何故、あんな奴が』『本当に十五歳か?』『黒髪黒目なんて初めてみたぞ』『珍しいな』とまあ口々に男性陣から小さく声が上がっているけれど、キチンと手続きを経て入学したのだから、文句があるのならば学院へお願いしたい。
年齢は多少前後するかもしれないが、公爵さまが後ろ盾になると宣言してくれた時にこの国の戸籍は得ている。もちろん孤児仲間も。その時に決めた年齢で年をとっているので、公式には十五歳なのだから問題はない。あと十五歳に見えないのは諦めて欲しい。幼少期の栄養不足と血筋的なものだろう。そろそろ成長が止まりそうな予感がある。
そして女性の皆さま。黙っていないで何か不満を口にして下さい。心の中で何を思っているのかが分からなくて、怖くて仕方がないのです。
「君たちは黄金世代と呼ばれている。他の者に後れを取らぬようにな~」
今年度の学院の一年生は、第二王子殿下を始めとした有名貴族が多く所属しているため『黄金世代』と教諭たちの間でまことしやかに囁かれているらしい。
貴族たちのベビーラッシュが始まるのが第二王子殿下の誕生から一年程度は遅れそうなものだけれど、どうやら本当に奇跡的にこうして高位貴族の令息とご令嬢が同じ年に固まって生まれたようだった。なんとも大変な世代の時に学院へと入学してしまったものだ。不審な動きとかしたら直ぐに疑われそうだし、自身の行動には注意を払わないと。
――あれ、これ乙女ゲーのキャラ配置じゃない?
まさか、ねえ。彼ら彼女らには貴族としての義務がある。恋愛にかまけている暇などないはずだ。幼い頃からそう教育されているはずだし、私なんかよりもよっぽど覚悟ガン決まりの人たちだろう。
だから何も起こらないさと、教諭の言葉を聞きながら学院初日が終わりを告げたのだった。
◇
学院の正門を目指して歩いているのだけれど、校舎からここまで結構歩いた気がするのにまだ辿り着かない。道のりが長いので歩く速度を上げるかと、気合を入れたその時だった。
「ナイ」
「……ナイ」
騎士科所属のジークとリンもどうやら一日目を終えたようで、私の方へと歩いてくる。
「ジーク、リン。お疲れ」
「ああ、ナイもお疲れ」
「うん」
左隣にジーク、右隣にリンがならび私が真ん中となるのだけれど、外から見ると捕らえられた宇宙人みたいに見える構図はどうにかしたいのだけれども。
私がどちらかの端が良いと伝えると、駄目だとすげなく断られる。小さい時からずっとこうだから、この先も続いて行くのだろうなあ。
今日の放課後は聖女として王城へと向かうことになっているので、そのまま歩いて王城へと向かった。制服のままで大丈夫なのだろうかと心配したけれど、王城に入る為の許可証と制服がある意味で身分証明となるらしい。着替えなくていいのは楽でいいし、このまま街中をウロウロすることもできる。聖女としての服はちょいと恥ずかしいんだよね。
簡素な真っ白な布である。染色代でもケチっているのだろうかと愚痴りたくなるけれど、聖女としてのイメージが白なんだろうなあ。在り来たりであるが、わかりやすい符号だから何年も変わらないままなのだろう。
王城を護る門兵に許可証を見せるとあっさりと通された。私が入れるのは警備のレベルが最も低いエリアと障壁を張る為の魔法陣のある特別エリアだけだ。もちろん謁見場になんて入ったことはないし、王族の居住エリアにも行ったことはない。王家が貯蔵している図書部屋はかなりの蔵書があるらしいので、興味があるのだけれど、残念ながら許可が下りなかった経緯がある。
今日も今日とて敬意を払ってくれる人とそうじゃない人との差が大きいなあと感じながら長い廊下を歩いていく。
「お前は……何故ここに居る?」
不意に声を掛けられ顔をそちらへ向けると、制服からドレスに着替えている同じクラス編成となった公爵令嬢さまが護衛の騎士と侍女を数名引き連れて立っていた。
ドレスに隠れて見えないが、高いヒールを履いているのだろう。学園で視線を合わせた時よりも、見上げる形になっている。学園でも感じたけれど、彼女の姿勢は凄く奇麗である。筋力がないと維持するのは大変だから、ある程度は鍛えているのかも知れない。
とりあえず廊下の壁際へと寄り礼を取ると、ジークとリンもそれに倣う。彼女が王城に居るのは何の不思議でもない。高位貴族だから王族の人との付き合いがあったっておかしくないし。むしろ平民である私の方がこの場所に相応しくないのだろう。その視線はいろいろな人たちから向けられているのだから。
「本日は聖女としての務めを果たしにまいりました。若輩の身ではありますが、誠心誠意己の職務を全ういたします」
廊下の床を眺めながら、私の方が立場が下であると周囲にアピールしつつ、言葉を紡ぐと不機嫌な様子の公爵令嬢さまは、私の言葉を聞き息をひとつ吐いて力を抜いた。
「すまない、聖女だったのか。――知らなかったでは許されないかもしれないが、先程までの非礼を詫びよう」
「いえ、聖女の身でありながら学院へと通うことは異例ですから」
そう、知らなくても仕方ない。平民出身の聖女が学院へ通うことになったのは私が初めてだし、彼女がこのエリアを通って私と出会うことはなかったのだろう。だから、いままで私を知らなかったとしても何ら不思議ではない。
「そうか」
「では、仕事があるので失礼いたします」
少々失礼ではあるが先に辞する為に頭を下げると、彼女は少し考えているような表情を浮かべた。何事かと一瞬頭に浮かぶけれど、辞することを述べたのだからさっさと行かなければ訝しがられるので、一歩踏み出そうとした刹那。
「――おい」
彼女の声で足が止まる。
「はい?」
何事かと首を傾げると、数は少ないけれど今まで見た表情の中でも一番の柔らかさを見せていた。とはいえその表情はまだまだ硬いけれど。
「……名で呼ぶことを許そう」
かなり唐突ではあるが、伝える機会はここでしかないと彼女は考えたのかもしれない。
「いえ……しかし……」
平民が公爵令嬢さまの名を呼ぶって大分不敬になってしまのでは。現に彼女の護衛の人たちは口を挟めない為に黙ってはいるけれど、驚いた顔をしているのだし。
少し抵抗すると、彼女は一度だけ軽く鼻を鳴らす。
「場所と場合を考えていれば問題はない。それに私自身が願ったのだ、何の問題もなかろう」
ということは問題視された場合には彼女が私の味方に付いてくれるのだろう。もちろん時と場所を十分に弁えて発言しなければならないけれど。
「分かりました、ハイゼンベルグさま」
「……――何故、家名になるっ! 名で呼べと言ったのだから普通にソフィーアでいいだろうが、馬鹿者っ!」
持っていた扇子で顔を覆って表情を隠したから、あまり見せられないものだったのだろう。少し口は悪い彼女ではあるが、嫌悪感は感じなかった。本当に嫌な人ならば、私が平民という時点で人として扱ってくれないのが貴族という人たちで。
「ソフィーアさま?」
「ああ、それでかまわん。――ではな、ナイ」
そう言い残して護衛を引き連れて颯爽と去っていく背中を見守っていたのだった。
なろうに投げてる方が本命だったりするので、アカウントをお持ちの方は軽率にお気に入りや評価に感想を入れてくれると助かります。知名度皆無なので(汗
もちろんハーメルン様でもお待ちしております! 二次創作も頭を悩ませますが、一次創作は一から作っていかなければならないので難しいorz