魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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注意:本日二回更新となります。2/2回目。


0050:青空魔術教室。

 行軍中だというのに、今から魔術師団副団長さまによる青空魔術教室が始まるらしい。

 

 学べることは良いことなので構わないけれど、知らないうちに副団長さまに魔改造を施されているとかないよね……。いや、ソフィーアさまとセレスティアさまが教え子みたいだし、あの二人が魔術馬鹿になっている様子もない。だから大丈夫心配要らない、と自分に言い聞かせる。

 

 「と、その前に。――お三方、どうぞこちらへ」

 

 いつの間に私たちの後ろに居たのか。ソフィーアさまとセレスティアさま、そしてマルクスさまが副団長さまに呼ばれ、こちらへとやって来た。

 

 「邪魔をして済まないな。先生の授業は貴重だから無理を言って参加させて貰った」

 

 「ええ。――お師匠さまは基本生徒を取りませんからね」

 

 「?」

 

 それだとどうして二人は教え子なのだろうか。

 

 「僕も以前はお金に困った時代がありまして。学院の特別授業にも参加すると言いましたし、この際一緒に学んでいきましょう」

 

 いやあお恥ずかしいと言いながら頭を掻く副団長さま。そんなイメージはないけれど、魔術具や魔石の購入でお金は入用だからそういうもので困っていたのだろうか。

 

 「マルクスさまとジークフリードくんとジークリンデさんもですよ。体内に流れる魔力をうまく意識出来るようになれば、肉体強化を更に強固なものにできますから」

 

 私以外にも三人も参加決定のようだ。魔力を外に放出できない人は肉体強化へと魔力を使っているそうだから、体内に流れる魔力を操作できるようになれば任意に強化できるのだろう。

 生存率が上がるなら悪い事ではないし、騎士を生業として生きていくなら副団長さまの教えを受けておいて損はなさそう。ジークとリンの顔を見ると、二人も同意見なのか頷いていたので、副団長さまの授業を受けることに問題はないようだ。

 

 「えっと……よろしくお願いします、先生」

 

 流石に副団長さまと呼ぶわけにはいかないよなあと、改めて頭を下げて呼称を変える。流石にお師匠さま呼びは恥ずかしいので、先生一択。

 

 「おや、少々むず痒いですが……よろしくお願いしますね、ナイさん」

 

 この呼び方は、個人的な時間だけ呼ぶ方が良いだろうと頭の中でメモしておく。副団長さまも私の呼び方を変えたので、この時間だけは先生と生徒という間柄だという主張なのだろう。

 

 「では、始めましょうか。全員一度に教えられるほど器用ではないので、まずは魔術師としてお三方からですね。あ、ナイさんは特別講義ですよ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまは攻撃系の魔術が得意みたいだし、私は防御系に治癒とバフ・デバフ系統を専門としているから分かれても仕方ない。

 

 「十日前にお渡しした腕輪は寝る前に使用していますか?」

 

 「はい。先生に言われた通りに就寝前に一度付けて魔力を空にする疑似体験をしておりますが……」

 

 いまいちアレをやる理由を見つけられられないまま、この十日ほど使っていたのだけれど。一体何の意味があるのやら。

 副団長さまなら無駄なことはしなさそうだし、寝る前に着脱するだけなので手間は掛からないので続けていたのだけれど。私の言葉にこくりと頷いて、不敵な笑みを浮かべる。

 

 「では指輪の方を外していただいても」

 

 そう言われて魔力を制御している指輪を外すと、魔力が外に溢れたのかふわりと私の髪が揺れた。

 

 「あれ?」

 

 「ああ、やはり効果がありましたね」

 

 多分だけれど、以前より魔力の総量が上がっている。でも私の魔力量は規格外だからあまりよろしくない的なことを言われていたような。うーん、いいのかなあと首を捻る。

 

 「魔力量が上がることに問題はありませんよ。扱い方や知識不足が危険というだけです。――とはいえナイさん程の魔力持ちは今まで存在していなかったので、気を付けるに越したことはありませんが」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが『凄いな』『ええ、とんでもない量ですわね』と二人で話し込んでいる。 騎士組はあまり実感がないのか、黙ったまま。やはり魔術師の適性がある人の方が魔力に対して敏感なのだろう。 

 

 「少し実験です。ソフィーアさまとセレスティアさまの手を握って頂けますか?」

 

 「……いえ、それは」

 

 平民が高貴な人の身に触れることはありえないのだけれども。

 

 「構わない、今は先生の講義中だしな」

 

 「ええ。お師匠さまなりの何か考えがあるのでしょうし、構いませんわよ」

 

 「お二人の許可も出たので、大丈夫ですよ」

 

 本当に副団長さまは魔術に対しての欲望が忠実だよ。そしてソフィーアさまとセレスティアさまの彼に対しての信頼度が高い。行軍中なので私の右側にソフィーアさま、左側にセレスティアさまが並び手を差し出した。

 

 「失礼します」

 

 一応断りを入れてから、二人の手を握る。

 

 「小さいな」

 

 「細いですわねえ」

 

 うっさいよ、お二人共。体格が違うのだから私の手が小さく感じるのは仕方ないけれど、口に出さないで欲しい。微妙に傷つくから。

 

 「お二人にはさきほど魔石に魔力を込めて頂いたので、七割ほど魔力を消費している状態です」

 

 副団長さま、自分の魔力を消費する選択には至らなかったのか。そして高位貴族のご令嬢で実験してる。いいのかなあと冷や汗を掻きつつ、問題があるのなら実験道具にされてる二人がさっさと抗議しているなと、一人で納得。

 

 「ナイさん、少しだけ魔力を活性化させて下さい」

 

 先生の指示には従うべきだよね、と基礎の基礎の基礎と言われる自身の魔力を活性化させる。

 

 例えるならば車のエンジンを掛けアイドリング状態とでも言えばいいか。

 

 アクセルを踏み前へと進ませ、そこからブレーキやハンドルにシフトレバーを操作して自分の思い通りに動かすけれど、魔術も起動詠唱がアクセル。

 一節、二節、三節と唱えて思い通りの効果を得る。まあ他にも意味合いとか操作するためにいろいろと制約や条件があるけれど、簡単に説明するならばこうなる。

 

 「ん?」

 

 「あら?」

 

 「……やはり僕が見立てた通りでしたねえ」

 

 不思議そうな顔をするソフィーアさまとセレスティアさまに、嬉しそうな顔をする副団長さま。一体なんのことだと私は首を傾げるのだった。

 

 ◇

 

 ――やはり僕が見立てた通りでしたねえ。

 

 そう言われてもなんのことやら。私は自身の体内に巡っている魔力を活性化させただけである。

 

 「魔力が戻っているな」

 

 「ええ。不思議なこともありますのね」

 

 私から手を放して、にぎにぎと自身の手を見つめながらなにやら確認しているソフィーアさまとセレスティアさま。

 

 「ナイさんの魔力は他人への親和性が高いのでしょうねえ。他人の魔力なんて異物でしかないのですが……貴女が施す治癒の効果が高いと言われるのも、その辺りが原因でしょう」

 

 「……あまり実感はありませんが」

 

 本当に。というか無意識にやっているならば、迷惑極まりない行為では。手を繋ぐというアクションを挟んでいるので、周囲の人たちに勝手に魔力をバラまいていることはないと思うけれど。これ結構大変な問題のような気がしてくる。

 

 「他人への魔力提供は副産物のようなものですね。無理に行えば相手は体調を崩してしまう可能性があります。お二人は魔力の総量が比較的に高く平気な顔をしておりますが……」

 

 魔力量の少ない人に簡単には施すな、と副団長さまは言いたいのだろう。

 

 「ですので、僕が渡した魔術具を安易に外さないで下さいね」 

 

 素直に頷いて魔術具の指輪を再び身に着ける。

 

 なんとなくだけれど外に出ようとしていた私の魔力が引っ込んでいくような感覚。魔力量が多いのも考え物だよなあ。流石に人様に迷惑を掛けるのはよろしくないし。

 

 「お師匠さま、彼女が身に着けたものは一体なんですの?」

 

 譲り受けてからずっと身に着けていたし、魔術師は魔術具を身に着け魔力をそちらへと溜め込み、利用することもあるから違和感はなかった様子。

 

 「魔力制御と余剰した魔力を外へと排出させる機構が付与されている魔術具ですよ。魔力量と生成量が異様に高いですから、彼女の身を守るためでもありますね」

 

 副団長さまの言葉から判断すると、王城の魔術陣に魔力提供してきたのって私の身を守っていたのかも。教会はこのことに気付いていたのだろうか……。真実は分からないけれど、運良く正しい行動を取っていたのだから気にするのは止めよう。

 

 「……本当に規格外ですのね、ナイは」

 

 それで教会や王家に目を付けられているのだから、良いのか悪いのか。生活には困らないし、自由は認めてくれているのだから文句は言えないか。

 

 「ええ。規格外ですし常識外ですし、本当に僕と同じ時代に生きてくれて本当に良かったです」

 

 副団長さまは私を玩具感覚でみてるよねえ。まあ彼が私を利用するように、私も自分の身を守るために副団長さまを利用しているのだからお互い様だけれど。

 

 「さて、試したいことも終えましたし本題に――……何かあったようですね。魔術を誰かが発動させたようです」

 

 そう告げて副団長さまが細い目を更に細めて前を見る。暫くすると負傷した人を背負って後退してきた人たちの姿。一体どうしたのだろうと、声を掛けようとすると先に副団長さまが、反応したのだった。

 

 「どういたしましたか?」

 

 「ま、魔物が出現したのですが、通常の種よりも手強く……対処に隙が生まれ被害が多くなっております……」

 

 怪我をしているのか喋り辛そうに言葉を紡ぐ騎士に駆け寄って、治癒の魔術を発動させる。

 

 「治します。――重傷者を優先させます! 治癒を使える方は軽傷者をお願いいたします」

 

 治癒の魔術は聖女さまの専売特許というわけではない。適性があれば勿論使えるので、軍や騎士の中にも使い手は存在する。

 ただ効果に期待が出来ないし、彼らは戦闘訓練を受けているプロだから、自ずと戦闘面の魔術を優先させることが多い。

 

 「ジークとリンも手当をお願いっ! どなたか後方の聖女さまにこちらへ参るように連絡を!」

 

 提げていた鞄をジークに雑に放り投げて、指示を出す。中には包帯や止血用の布に薬草等を入れてある。

 ジークとリンは教会から怪我人の手当の仕方を受講しているので、軽症者ならば十分に対応可能。私は魔術でしか治せない人たちを片っ端から施術をしていく、いつものパターンだった。

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 私の言葉に『了解です』と年若い軍の人が後ろの隊列へと走っていくのを横目で拾った。

 

 「ジークフリード、ジークリンデ。私も手伝おう。知識はないが指示に従うことくらいは出来る」

 

 「わたくしもそういたしましょう。見ているだけなのは性分ではありませんし」

 

 「俺もやる。指示をくれ!」

 

 三人とも見ているだけでは気が済まないらしい。名乗り出てくれるのは有難いので二人に任せ、私は重症者の下へと行く。

 

 「では僕は前線へ行きます。みなさん、くれぐれも無茶をしないように」

 

 副団長さまの声と同時に真ん中の隊列の人たちが次々に前線部隊へ合流する為に駆けて行く。戦力の逐次投入は悪手と言われているけれど、そうこう言っていられない状況らしい。

 ただ副団長さまが居れば、大抵のことはなんとかなるだろうという安心感は有難い。フェンリルを霧散させるほどの実力を持つ人だ。大抵のことは対処できる。

 

 深手を負った怪我人を数名治した頃、後方で行軍していたアリアさまが護衛騎士と共に走ってこちらへとやって来た。

 

 「ナイ! 大丈夫ですか!?」

 

 胸を上下させ息を切らせて私に声を掛ける彼女。どうやら一生懸命走ってくれたようだ。状況を認識して、少し顔色が悪くなるアリアさま。申し訳ないのだけれど彼女を気遣う暇はない。

 

 「私の心配より怪我人の手当を! 酷い方は粗方終えましたが、まだ怪我を負った人はいますので」

 

 「は、はい! ――大丈夫ですか? 今から治癒を施しますので、じっとしてて下さいね」

 

 命に別状はないが怪我が酷い人を見つけ、声を掛けながら治癒を施している。初めての遠征と聞いていたので少し心配だったけれど、杞憂だったことに安堵して私も次の人へと声を掛けた。

 

 「怪我の確認の為に申し訳ありませんが服を裂きますね」

 

 「あ、ああ。申し訳ない、お願いします」

 

 以前の学院の合同訓練で買った小さなナイフが役に立つ時がきた。こういうこともあろうかと提げておいたのだ。

 意識ははっきりしているようで、受け応えも出来る。喋るネタに丁度いいと、情報収集も兼ねて聞きたいことを聞こうと口を開いた。

 

 「お気になさらず。――前で一体何があったのですか?」 

 

 足を怪我した場所の服を軽くつまんで良く見えるように裂く。

 

 「わかりません。簡単に対処出来るはずの魔物だというのに、何故か全く歯が立たず……前線が瓦解するまでには至っておりませんが、あまりよろしくはない状況です」

 

 前線の状況は余り良くはなさそうだ。怪我人の治療を終え次第、前線に上がるべきかと悩むけれど副団長さまが居る。

 それならば怪我人の治療に徹して戦線復帰させ、部隊編成の人数を確保した方が良さそう。というか前線配備されているはずの侯爵家の聖女さまは一体なにをしているのだろうか。

 

 やはり前へ行くべきかと判断を迷い始める私だった。

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