魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0504:更に増えた。

 大聖女ウルスラの就任の儀が終わって一週間と少しの時間が経っている。その間にも何度かフィーネさまから連絡の手紙が届いているのだが、本日届いた手紙にはとんでもないことが記されていた。

 

 フィーネさまが所属している派閥の方々は黒衣の枢機卿さまを追い落とすのに私の力を借りようとしたらしい。フィーネさまは聖王国国内の問題は自分たちで解決しなければならないと伝えたのに、返ってきた彼らの言葉は『どうすれば良い?』というものだった。

 

 解決するために話し合っているのに、私を頼れないとなるとフィーネさまに案を出させようとする派閥の皆さまの行動に呆れたようで、フィーネさまは暫くの間自室に籠ることを決定したそうだ。支援者は先々代の教皇さま――正しくは三代前――とアリサさまがいるので食事の心配は必要ないし、お風呂とトイレは部屋に併設されているらしい。扉の前には家具を置き、物理的に部屋に閉じ籠ると記されていた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんたちもフィーネさまの籠城作戦に協力するそうで、用意された食事をベランダから持ち込んだり暇潰しの本を持って行ったり、フィーネさまの話し相手を務めるそうだ。

 

 夜。私は子爵邸の自室で手紙を読み終えて、机の上に便箋を少し雑に置き背凭れに背を預けた。

 

 「あー……大丈夫かな、聖王国」

 

 天井を見上げると口から勝手に出ていた私の声に反応する人たちがいた。一部竜だけれども。

 

 『ナイ?』

 

 クロの声に私は視線を戻した。机の上でクロはこてんと首を傾げて長い尻尾をゆらゆらと左右に揺らしているクロと、ジークとリンとアズとネルも右側に同じ角度で首を傾げる。

 

 「どうした?」

 

 「聖王国でなにかあったの?」

 

 「フィーネさまが所属している派閥の方たちに奮起して貰うようにって、部屋に閉じ籠っているんだって」

 

 私の言葉にクロが更に首を傾げて不思議そうな顔を浮かべている。

 

 「どこがどうなって、そうなったんだ?」

 

 「向こうの事情だから詳しくは分からないけれど、私とフィーネさまを頼って自分たちで解決しようとしないから、会議の時に『大聖女を降りる!』と言って途中退席して出て行ったって。で、信頼できる方と相談して、派閥の方が自分たちで動いて貰えるように願って引き籠るって決めたみたい」

 

 ジークの問いに答えると、いまいち要領を得られていないので更に追加で説明をしておいた。誰かの力を頼るばかりで自分たちで解決しようとしないから、フィーネさまは怒って部屋に閉じ籠ったと。

 

 「西の女神さまみたいだね」

 

 私の解説を聞いたリンが真顔でフィーネさまの現状を例える。確かに西の女神さまと同じ状態になっているけれど、女神さまがみんなに頼られ過ぎて自立を促せないから閉じ籠ってしまったとかあり得なさそうだし。とりあえず今は聖王国の現状を解決する方が先決だろう。

 

 「確かにね。でもまあ、流石に同じって訳じゃないし、フィーネさまもずっと部屋に閉じ籠っているわけにはいかないよね」

 

 最悪の場合はこっそりと彼女をアルバトロス王国、というよりもアストライアー侯爵家で身を預かるのも手の一つとして考えておこう。フィーネさまに事情を話しておけば、ロゼさんに転移で聖王国に向かって貰い、フィーネさまと一緒に戻ってくることもできる。

 ロゼさん単騎だと壁をすり抜けることもできるので、聖王国の皆さまにロゼさんの行動がバレることはない。気付いた時にはフィーネさまの部屋はもぬけの殻となっており、私が連れ去ったといの一番に思いつくだろうが別の国へと渡ってしまえば抗議するくらいしかできない。

 

 ちなみに聖王国の現状はフィーネさま派閥が弱体化して、黒衣の枢機卿さまの派閥が力を強めているそうだ。教皇猊下は中立を宣言しているので、派閥間闘争に関わる気はないと宣言されたとか。

 だからこそフィーネさま派閥の方々は私を頼ろうとしたようだ。最悪、黒衣の枢機卿さまを灰にして欲しかったのかもしれないし、国外に問題が広がれば教皇猊下も見逃せまいと。てか、それ聖王国の地位がまた落ちてしまうのだが……マジで聖王国上層部の方々は大丈夫なのだろうか。

 

 「三年前のことで協力していたのに、三年経って情勢が落ち着けば権力争いに発展するんだねえ」

 

 私はまた天井を見上げる。

 

 「またナイに手を出すなら聖王国の大聖堂の一部を破壊しても良いんじゃないか? ナイの身内には話を通しておいた方が良いだろうが」

 

 「見せしめに丁度良いかも、兄さん」

 

 ジークの言葉にリンが良い顔になって返事をしていた。そっくり兄妹は過激だねえと私とクロは彼らを見ながら目を細める。

 

 「流石に宗教の総本山を攻撃するのは気が引けるかな……バチが当たりそうだし……って、アレ? 西の女神さまかグイーさまに許可を取ればいける……?」

 

 そっくり兄妹は過激だなあと感心しながら考え込んでいると、バチが当たらない方法が浮かんできた。そうだ私、神さまと交信できるから許可を頂けたなら大聖堂を落としてしまっても問題なくなる。

 しかし、聖王国の方々は私が神さまの許可を得たと言って信じてくれるだろうか。いや、でも今回はフィーネさまが引き籠もってまで聖王国の派閥の方々を煽っているのだから、暫くは静観が正解だろう。もちろん黒衣の枢機卿さまが私に手を出してくるなら直接私が捻じ伏せる。とはいえ力には頼れないのでジークとリン頼みだろうか。それとも彼の顔面で止まる魔術を猫背さんに依頼してみようか。

 

 「教会の祭壇でナイが祈れば気持ちが神さまたちに届いているからな。気後れするなら聞いてから実行することも可能だが……あまり無茶はするなよ」

 

 「ナイ、やっちゃおう!」

 

 微妙な表情のジークと良い顔でやってしまおうとリンが告げた。とはいえフィーネさまは派閥の方々に発破を掛けるために、大聖女の引退を宣言し部屋に引き籠ったのである。日和見主義の方や風見鶏の方に弱気な方々は右往左往している最中なのだろう。フィーネさまとアリサさまに危険が及ばない限り、面白おかしくならないかなーっと願ってしまう。

 

 「候補に入れておくね。フィーネさまの待遇次第かな」

 

 『ナイって魔力制御苦手でしょ。大聖堂の一部だけ魔術で壊すことができるの?』

 

 「錫杖を介せば制御できるはずだよ。多分ね、タブン……」

 

 錫杖を使うと私の気持ちを汲み取ってくれて全壊させそうである。そうなれば教会の信者さんたちは絶望し、公爵さまは大笑いをし、陛下は顔を青くして聖王国に詫びを入れる可能性がある。やはり自重しなければいけないかと眉を顰めるも、本当にフィーネさまの待遇と状況次第だと息を吐いた。

 

 「エーリヒさまが単身で聖王国に乗り込むなら、エルたちとグリフォンさんが一緒に付いて行ってくれるって」

 

 「いつの間にエルたちと話をしていたんだ……」

 

 「本当に。いつだろう?」

 

 私の言葉にジークとリンが首を傾げている。

 

 「ジークとリンが訓練している間に。面白いから話がそうなれば是非協力するよって言ってくれた。でもエルたちだけじゃ危ないし心配だからってグリフォンさんも一緒に聖王国に乗り込んでくれるみたい」

 

 まあ、二人に知られないように留守の際に中庭に出てエルたちと相談していたのだ。ルカとジアも乗り気らしくてエル一家がエーリヒさまを乗せてフィーネさまを迎えにいくことになる。

 

 「聖王国の人間が驚くな」

 

 「ナイに失礼な態度を取った人をまだ野放しにしているから、驚けば良いんじゃないかな」

 

 片眉を上げるジークとちょっと怒っていますよという雰囲気のリンに私は苦笑いを浮かべる。まあ大聖堂の一部を破壊しようと計画しているのだから、エルたちが聖王国に乗り込んでも今更の話か。暫くは聖王国は様子見だなとそっくり兄妹の顔を私は見上げた。

 

 「なあ、ナイ」

 

 「ん?」

 

 ジークが何故か心配そうな顔で私の名を呼ぶ。

 

 「エーリヒに騎乗できるとは俺は思えないんだが……」

 

 「あ、大事なこと忘れてた……! でもエルかジョセの背中に乗るなら鞍に跨りさえすればいけるはず! 長時間の騎乗でお尻の皮がめくれてもフィーネさまが治癒を施せるし、最悪私が治療しても良いんだし」

 

 そうだ。エーリヒさまって運動神経はジークとリン並とは言えないし、そもそもお貴族さまだから運動なんてほとんどしないはず。今現在もアルバトロス城で官僚を務めているのだから尚更だろう。

 でもエルたちは優秀だし言葉も通じるから、しがみついてさえいれば大丈夫だ。ちょっと格好がつかないかもしれないが、フィーネさま救出のために頑張って欲しい。その時はロゼさんも聖王国に忍び込んでいるし、フィーネさまの側にはヴァナルと雪さんたちがいる。だから大丈夫と自分に言い聞かせていると、ジークが微妙な顔を浮かべていた。

 

 「付き合い始めの二人にそんなことをさせるなよ? あとナイが担当すればエーリヒの尻を見ることになるんだぞ?」

 

 「治癒だから私は気にしないけれど、エーリヒさまとフィーネさまが気にするかな……」

 

 私は誰かのお尻を見たとしてもなんとも思わない。でも友人が彼氏の尻を見たとなれば微妙な空気が流れそうである。そして逆もまた然りだろう。

 

 「せめてアルバトロス王国の他の聖女か治癒師を頼ろう」

 

 「そうする。教えてくれてありがとう、ジーク」

 

 エーリヒさまのお尻の皮が捲れたらカルヴァインさまに頼ろうと決めると、開放している扉の外の廊下が騒がしくなってきた。どうしたのだろうとジークとリンと私は三人で顔を見合わせた。

 クロとアズとネルと毛玉ちゃんたちにロゼさんが警戒していないので、敵襲ということはない。なら、他になにがあったのだろうと頭を捻るもののなにも出てこなかった。ジークとリンが私の前に立って一応の警戒態勢を取れば、ばたばたと足音を立てて私付きの侍女さんが部屋の扉の前に立つ。

 

 「ご、ご当主さま! 大変でございます!!」

 

 「落ち着いてください。どうされたのですか?」

 

 息を切らしている侍女さんを見て慌てないで欲しいと請うが、一体なにがあったのだろうか。

 

 「グ、グリフォンさまの卵さまに変化がみられました! そろそろ孵りそうだということです」

 

 「急いでサロンに行きますね!」

 

 侍女さんのお知らせは寝耳に水であるが喜ばしいことである。私はジークとリンの顔を見上げて一つ頷くと部屋を出る前に、写真の魔術具を手に取って廊下に進み出た。

 セレスティアさまから彼女がいない間に卵さんが孵るなら写真を撮って欲しいとお願いされている。緊急事態でない限り構いませんよと私は返事をしていたので、忘れないように魔術具を服のポケットに仕舞い込んだ次第である。

 廊下を歩いて階下へ続く階段を降り、サロンへと向かう。まさかグリフォンさんの卵さんが夜に孵るなんて誰が思うだろうか。そういえば某お嬢さま以外にも悔しがりそうな人がいそうだなと、サロンの扉を開いた。サロンの中にはポポカさんたちが卵さんの周りに佇み、興味深そうに皹が入った卵さんを見下ろしている。

 

 『ポエー』

 

 『ポエ~』

 

 ポポカさんたちは卵さんにエールを送っているのか、いつもであれば寝ている時間帯なのに確りと目を開いて鳴いている。グリフォンさんとエル一家も夜だというのに、サロンの外から卵さんを見守っていた。私はクロにお願いしてポポカさんたちに外に出て、みんなで卵さんが孵るのを見守りたいと伝えて貰う。クロはさっそく私の肩から飛び上がり、ポポカさんたちの隣に降りた。

 

 『ナイ~構わないけれど、卵を割らないように気を付けてって~』

 

 「ありがとう、クロ。そっちに行くね」

 

 『うん。ナイ、早くきて~』

 

 クロの言葉に導かれた私はテーブルの側へと歩いて行く。木でできたトレイの中に置かれた二つの卵さんには皹が入っている。中はまだ見えないけれど、急いだ方が良さそうだ。

 私はトレイを慎重に持ち上げて外へと続く扉を目指す。明かりは持っていないので、魔力を練って右の手元に集中させると煌々と青白い私の魔力が光り始めた。どえらい明るさに驚きつつも、卵さんを優先させなければならないので私の驚きは頭の隅へと追いやった。

 

 『ジーク、リン。ポポカたちを抱えてあげて。歩く速度が追いつかないでしょって説得したから触っても怒らないよ』

 

 クロがジークとリンにお願いを告げた。抱卵中のポポカさんたちは卵さんを守るために気性が荒くなっており、人を近づけさせない雰囲気だった。クロが説得してくれたなら大丈夫と私は扉のノブを捻って外へ出る。

 

 「分かった」

 

 「ん」

 

 私の背中で聞こえる声は直ぐに追いついてくるだろう。外に出ればエル一家とグリフォンさんが目を輝かせながら、卵さんを覗いている。

 

 「無事に孵ると良いけれど。心配は尽きないね」

 

 『大丈夫です。魔力が豊富な場所に長くいることができたのですから。その証拠に卵が一つから二つになったのですよ』

 

 グリフォンさんが目を細めながら私の背に翼を伸ばして移動を急かす。

 

 「う……不可抗力だと」

 

 『まあまあ、良いではありませんか。ささ、早く移動しましょう。しかしどこが良いでしょうか』

 

 「東屋で良いかな。あそこなら長時間掛かっても座って見守ることができるよ」

 

 グリフォンさんと私の会話にエルたちは邪魔をする気はないようだ。クロとジークとリンが追いついてきたので、東屋へと場所を移す。卵さんたちを机の上に静かに置いて、ジークとリンが抱えていたポポカさんたちも机の上に放した。ポポカさんたちは期待の眼差しを向けて卵さんを凝視している。

 

 そうして暫く。卵さんの皹が大きくなって中からグリフォンさんの幼体が見えてくる。おお、と驚く声をみんなで上げて頑張れと心の中で願っていると、時間が随分と流れて朝陽が昇り始めていた。卵さんから必死に出てきて『ピュエ』と甲高い声でなくグリフォンさんの仔たちに私は目を細めた。ポポカさんたちは自分たちとは違う姿形の仔に驚いて目を丸くしている。

 

 『やっと……やっと我が子が孵りました! しかも四頭も!! ああ……わたしではなくポポカに懐いております……悔しいですが致し方ないのでしょうね』

 

 グリフォンさんは托卵だからねと私は小声で呟き、二個の卵さんから四頭孵った事実に目を背けるのだった。

 

 

 ◇

 

 グリフォンさんの卵さんが孵った翌日。

 

 まさか夜に孵るとは考えておらず、連絡を入れて卵から孵る姿を見逃したと知った副団長さまが凄く悔しがっており『クロさまが孵る姿も他の竜の方々も天馬さまにグリフォンも僕は悉く見逃しております……凄く悲しいです』と並々ならぬ筆圧が掛かった手紙が私の下へと届いていた。

 

 そういえば副団長さまは興味を凄く持っているのに、出産の機会や卵から孵る姿を見ていない。次があって産まれる時期が分かるなら、暫く泊まり込みしますかと誘ってみよう。流石にこの筆圧が超強い手紙が毎度届くようになるのは勘弁願いたい。

 

 アルバトロス王国上層部にグリフォンさんの卵さんたちが孵りました、何故か卵が二個なのに四頭孵りましたと知らせる羽目になるとは。きっと上層部の皆さまは驚いているだろうし、ヤーバン王国の陛下にも先ほど手紙を届けた所だから直ぐに返事がくるはずだ。卵さんから孵ったグリフォンさんたちは元気一杯に子爵邸の中庭の片隅でポポカさんたちと団子になって固まっている。

 

 『ポエー』

 

 『ピョエー』

 

 『ポエ~』

 

 『ピョエ~』

 

 真ん丸ボディのポポカさんたちの横にグリフォンさんの幼体が一緒に鳴いている。ポポカさんが鳴くとグリフォンさんの幼体が真似をして声を出していた。孵って直ぐなのに声帯は既に確りとしているようである。

 本当の母親であるグリフォンさんがポポカさんとグリフォンさんの幼体を身体を屈めて覗き込むと、グリフォンさんの幼体がポポカさんを守るようにして『ピョエー!』と逆毛を立てて威嚇していた。グリフォンさんの幼体がぶわっと膨らむとポポカさんたちとあまり大きさが変わらない。

 

 威嚇を受けたグリフォンさんは『あらあらまあまあ』と目を細めて愛おしそうに見ているのだから、妙な関係が築き上げられている。グリフォンさんの隣にはエル一家と毛玉ちゃんたちがポポカさんたちとグリフォンさんの幼体を興味深そうに見ている。

 ただ邪魔をする気や近寄る気はないようで少し遠巻きだった。で、彼らの横には麦わら帽子を被っている子爵邸の庭師の小父さまが驚いた顔で佇んでいた。

 

 「なんだか混沌としている気がするけれど……」

 

 私が子爵邸の庭の様子を見て言葉を漏らすと、ジークとリンとクロが私の方を見る。

 

 「今の状況より、卵から二体孵ることの方が凄い気がするぞ、ナイ」

 

 「ナイの魔力の影響かな」

 

 『だろうねえ~』

 

 肩を竦めるジークとリンは面白いと笑い、クロは新しい命の誕生に喜んでいるのか私の背中を尻尾でべしべし叩いている。そして本日の業務開始前にグリフォンさんの卵が孵ったことを知ったソフィーアさまとセレスティアさまも庭に出ていた。

 

 「しかし彼らにはなにを与えれば良いんだ?」

 

 「流石にこのままだと不味いのでは?」

 

 お二人は私に顔を向けて首を傾げる。ポポカさんたちは地面を歩き回って昆虫を食べるのだが、子爵邸のサロンでは叶わないのでお貴族さま向けのペットショップから昆虫を買い付けている。

 お貴族さまにもいろいろな方がいて、犬や猫のみならず蛇や蜥蜴を飼う方もいるそうだ。そのためにペットショップでは餌となる昆虫を養殖しているので、割と良心的な値段だったのだ。あとは果物とかお野菜さんをポポカさんたちは食べているのだが……グリフォンさんの幼体はどうなのだろうか。

 

 「グリフォンさん、グリフォンさんの仔供はなにを食べるんですか?」

 

 私はグリフォンさんの幼体になにが一番適切な食べ物だろうと聞いてみた。私の言葉にグリフォンさんは首を大きく傾げながら嘴を開く。

 

 『私にもさっぱり分かりません。ただ我々は雑食なので仔たちはなんでも食べるような気がします』

 

 「そっか。食べても大丈夫そうなものをひたすら試していくしかないですね。生肉とかは大丈夫ですか?」

 

 『んー……どうでしょうか。まだ早いかと私は考えます』

 

 グリフォンさんがまた私の質問に答えてくれるのだが、今度は反対側に大きく首を捻っていた。首の可動範囲が広いなあと感心していると、エルとジョセが近寄ってくる。

 

 『天馬は母馬の乳で育ちますが、グリフォンの皆さまはもう普通の食事を取ることが可能なのですね。とはいえ駄目な品もあるでしょうから、気を付けておかなければ』

 

 エルとジョセはソフィーアさまとセレスティアさまの横に立ったため、セレスティアさまがここぞとばかりにエルの鬣を撫でている。その様子を見たルカは羨ましかったようで、彼もこちらに近寄ってセレスティアさまの服の袖を軽く口先で噛んで撫でてと訴える。

 

 それに気づいた彼女は蕩けた顔になってルカの顔を撫でながら位置をずらしていき、鬣を撫でり撫でりと優しく手を動かしていた。ソフィーアさまは彼女の様子を横目で見ながら『グリフォンの幼体のことは良いのか……』と呆れている。

 

 「あ、山羊のお乳とか駄目かな。いつも新鮮な物を仕入れて貰っているから、飲んでくれるか試して良いですか? 栄養価が高いはずですし」

 

 私はお乳で思い出したことを伝える。山羊のお乳は私が毎日飲んでいるので、料理長さんが紹介してくれたお店を介して仕入れていた。ユーリにも飲んで貰っているし、グリフォンさんの幼体にも大丈夫でそうである。

 食べ物というよりは飲み物であるが、内臓がまだ確りしていないだろうし丁度良いのかもしれない。それから虫や果物、更にお肉を試していくのが一番良い方法であろうか。私がグリフォンさんの顔を見上げると、彼女が私に顔を近づけて肩に嘴を置く。

 

 『ふむ。他の生き物の乳でも大丈夫でしょう。多分ですが』

 

 子育てをしたことがないグリフォンさんは勘で答えているようだ。ヤーバン王国に追加でグリフォンさんの幼体の育て方を聞いてみようと決めて、一度屋敷の中に戻る。グリフォンさんの幼体はポポカさんとグリフォンさんとエル一家が守ってくれるので問題はない。

 

 私とジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまが執務室に入って椅子に座る。やることは殆ど一緒だし家宰さまが一度目を通してくれているから、私は最終決定を下すだけである。執務机の前に立った家宰さまが書類の束を私の前に差し出して笑みを浮かべる。

 

 「ご当主さまが仰っていた隠密行動ができる人材を先ずは十名ほど雇い入れ、教師役の方も幾人か候補が上がっております」

 

 「もう雇って頂いたのですね。それに教師役の方まで候補を選べるとは思っていませんでした」

 

 私がお願いしていた隠密や密偵をできる方を既に確保してくれたようだ。そして人材育成のための教育係の方まで数名候補を選んでくれている。

 

 「アストライアー侯爵家からの要望ですからね。立候補者がかなり多くいましたが、私とアルバトロス上層部の皆さまと共に厳選に厳選を重ねておりますのでご安心ください。ご確認、お願い致します」

 

 また笑みを深めた家宰さまは私に、当主の命令があれば雇った人たちは各地へ散って貰うし、教育係も決めたならば手配を進めてくれるそうだ。私は家宰さまに感謝を伝えて書類の束に視線を落とす。

 

 先ずは雇い入れた十名のプロフィールを読み進める。若い方から中年の男性が多くを占め、二名は女性だった。男性では入れない場所や潜入し辛い所に行って貰うためなのだと家宰さまが教えてくださる。雇い入れた彼らの半数には聖王国に向かって貰い、フィーネさまと大聖女ウルスラと黒衣の枢機卿さまの噂と、聖王国上層部に忍び込めるのであれば内情を探って欲しいとお願いする。

 

 もちろん、お金をケチれば彼らのやる気や情報の質も下がるだろうから相場より気持ち上の値段を払っていた。残りの五名はアルバトロス王国内にアストライアー侯爵家を良く思っていない貴族家を探してきて欲しいとお願いした。ざっくりとしたオーダーだけれど、今後喧嘩を売ってきそうな貴族家を知っておけば、鉢合わせを避けることもできるし逆にこちらから仕掛けることもできる。

 

 私の考えに執務室にいる皆さまはなるほどと頷いてくれた。そして次は教師役の候補の書類に目を通す。

 

 「……どうしてフソウの方々が紹介されているのでしょうか」

 

 教師役の候補者さんはフソウの方が何名か入っていた。しかも『伊賀』『甲賀』に『風魔』と文字が躍っている。他の方はアルバトロス王国出身者で隠密活動がし辛くなった年配の方だった。

 

 「ご当主さまがフソウに連絡を入れた際に、ご一緒にお伺いの手紙を送らせて頂きました。その返事の内容がそちらとなりますね」

 

 「いつの間に……」

 

 「クジョウさまとご縁を頂いた関係で私にもフソウとの繋がりができました。ハイゼンベルグ嬢とヴァイセンベルク嬢もエチゴヤと取引をなさっておりますよ。ね?」

 

 家宰さまは私が知らない間に九条さまと仲良くなっていたようだ。彼と九条さまと介した時間はかなり短いのに距離を詰めることができたのは、年齢が近かったことと家族持ちだったからだろう。

 子供の話や奥方さまの話で盛り上がったのだろうなと目を細めた私は、ソフィーアさまとセレスティアさまに視線を向けた。

 

 「ええ。ナイと一緒にエチゴヤへと赴いた際に取引したい品があれば用意すると言われましたからね。有難く商品を買わせて頂いております」

 

 「商人ですから、抜け目がないのでしょうね。ナイとエチゴヤの主人が話している間に、わたくしたちにエチゴヤの者から声掛けされましたわ。スマートなやり取りでしたから慣れていらっしゃるのでしょうね」

 

 ソフィーアさまの言葉は家宰さまに向けられたものなので丁寧な口調になっている。彼女は当主の私にタメ口なので知らない方が聞けばぎょっとするだろうが、いつものことであるし他の方がいれば私に対してきちんと敬語を用いてくれる。

 セレスティアさまはいつも独特なお嬢言葉なので変化はなかった。でも彼女の目は『早く仕事を終わらせて、グリフォンの仔たちを見に行きたい』と訴えている。

 

 「問題がなければ構いませんし、越後屋さんも儲けているならなによりです。しかし国外から人材を雇っても良いのですか?」

 

 「アストライアー侯爵家との契約ですので、王家は手も口も出せませんね。王家への心象を良くしたいなら一報を入れておいた方が良いでしょう」

 

 私が家宰さまを見上げれば答えを提示してくれて、私はなるほどと頷く。フソウの帝さまとナガノブさまからの紹介なので断れない。それならば一名だけでも雇えば角が立たないだろうと、帝さまとナガノブさまに返事をするのだった。

 しかし家宰さまは何故、フソウに優れた隠密がいると知っていたのだろう。九条さまとの話の中で出てきたのかなと首を傾げながら残りの仕事に取り掛かる。お昼前に執務を終えた私たちは、グリフォンさんの幼体の様子を見にまた中庭へと出るのだった。




【お知らせ】次の更新から7/19日まで投稿をお休みさせてください。理由はリアルが切羽詰まっておりまして、更新がなかなか難しい状況となりそうです。7/20~戻って参りますので、その時はまたよろしくお願い致します!┏○))ペコ
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