魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
夜。ぼけーっと子爵邸の自室でここ数日で起こったことを考えていた。
グリフォンさんの卵さんが孵って数日が経っている。まだ予断は許さないけれど、グリフォンさんの幼体さんたちの毛並みや目付きは確りとしている。グリフォンさんも大丈夫そうだと太鼓判――少し不安であるが――を押してくれたし、外にはポポカさんとエル一家も一緒にいるので、なにかあれば直ぐに声が掛かる。
幼体さんたちはまだまだ小さいけれど、身体の大きさはポポカさんたちとほぼ変わらない。三十センチほどの大きさで、卵から孵ってからはポポカさんたちと一緒に日向ぼっこをしている。
ポポカさんたちがポエポエ鳴けば、それに答えるかのように幼体さんたちがピョエピョエ鳴いている姿は可愛いものである。鳴き方のお手本とばかりにグリフォンさんが『ピョエーーー!』と咆哮を上げると、彼らはビビり散らしていた。脅すつもりなどなかったグリフォンさんはしゅんとして暫く落ち込んでいたのだが、今日の朝、ようやく機嫌が元に戻ったようでいつも通りの雰囲気であった。
グリフォンさんの幼体のご飯はお店から買い付けたワームを美味しそうに食べている。ちなみにポポカさんが一度食べてからグリフォンさんの幼体に口移しという、鳥の習性そのものの行動を見せていた。
グリフォンさんはその姿を見てやりたそうにしていたが、鳴き方のお手本で学んだのかぐっと堪えていた。母性本能が強くなっているなら自身で育てても良い気がするが、幼体さんたちはポポカさんを親と認識しているようでグリフォンさんが近づくと警戒している。せっかく自分で子育てできる環境にいるのに、それができないのは今まで托卵をしてきた定めであろうか。
しかし、まあ。
グリフォンさんの卵さんが孵ったから、次はポポカさんたちが卵を産んでくれれば良いのだが。あと一週間後にはヤーバン王国の国王陛下がミナーヴァ子爵邸にやってくる。
もちろん、孵ったばかりのグリフォンさんの幼体を愛でるためなのだそうだ。私宛の手紙にグリフォンさんの幼体を愛でたいと力強い綺麗な字で書かれており、断ると絶対に凹むよなと私はアルバトロス上層部に相談をして国家間の転移陣を借りることにしたのだ。話が随分とスムーズだったのでヤーバン王国側からアルバトロス王国にも打診をしていたのだろう。ヤーバン王はちゃっかりしているが、子爵邸の使用人の皆さまは大忙しである。
アストライアー侯爵家が雇った隠密の方々は無事に聖王国へと辿り着いており、情報収集に励んで頂いている。随時連絡が届くようになっているので、聖王国内の様子は私の耳に届いていた。
――フィーネさまは部屋に引き籠っているままだそうだ。
聖王国のフィーネさま派閥の方はリーダーがいなくなったことにより右往左往しており、大聖堂の信者の皆さまにフィーネさまがこなくなったことを訝しがられているのだとか。長期休暇の際はフィーネさまが信者の皆さまに直接『お休みに入ります』と伝えていたので問題にならなかったが、告知なしの突然の出来事に信者の皆さまの不安が広がっているらしい。
とはいえ新たな大聖女さま誕生に沸いている聖王国である。大聖女は二人も必要ない論に、二人とも女神さまから聖痕を受けたのだから必要だ論にそもそも大聖女さま不要論まで飛び交っているそうだ。大聖女ウルスラさまも大聖堂に頻繁に赴いて、精力的に活動しているらしい。彼女の側には黒衣の枢機卿さまが頻繁に侍っており、聖王国の国民の皆さまの間で彼の顔がどんどんと売れているとか。
彼は三年前までうだつの上がらない聖職者だったというのに、フィーネさまの奮起に乗る形で成り上がった人である。
「欲が出たんだろうなあ……」
私はベッドの上で声を上げる。天蓋付きのベッドの天井を見上げていたのだが、私の声に反応したクロが近寄ってきて顔を覗き込む。
『ナイ。いきなりどうしたの?』
こてんと首を傾げたクロは私が突然声を上げたことが気になったようだ。絨毯の上で寝ている毛玉ちゃんたちも気になるのか、起き上がってベッドの縁に顎を乗せて私を見始めた。
「ごめん、驚かせたね。聖王国の聖職者で真っ黒な服に赤の差し色を施している人がいたでしょ?」
私は右手を伸ばして毛玉ちゃんたちの頭を順番に撫でる。その間にクロが移動して私のお腹の上に乗り胸を通って、私の顔をまた覗き込む。
『うん。禁書部屋でナイにいきなり話しかけた人だよね』
クロの彼に対する認識は無粋な人となっているようだ。私にアポも取らずいきなり彼が現れて大聖女ウルスラさまに会って欲しいと懇願された。私はフィーネさまの立場もあろうと彼の言うまま、聖女ウルスラの紹介を受けた訳だけれども。アルバトロス王国から聖王国を経由して抗議が届いているはずだが、彼は新たな大聖女誕生によって屁とも思っていないのかもしれない。
「彼は三年前にフィーネさまに協力して枢機卿の座を得たでしょ。そして今や新しい大聖女さまの後ろ盾っていう美味しい位置にいる。上昇志向の人なら上を目指すよねえ』
『えっと、枢機卿より上って教皇だっけ。うーん……聖王国を破滅に導きたいのかなってボクは考えちゃうけれど』
クロが首を捻って彼の思惑を不思議がっている。クロは平和志向だし、地位や名誉に興味がないから仕方ないか。でもクロの言う通り、聖王国をまた破滅の道へと進ませる気なのだろうか。
フィーネさまの扱いが不遇であれば私はキレる気がする。たとえフィーネさまが納得していたとしても。そりゃ公爵さまや陛下が止めるのであれば我慢をするけれど、止められない限りは単身で聖王国に突っ込む覚悟である。
「私と繋がれば他大陸とも縁ができる可能性があるから、それで私に話しかけたのかなあ……まあ、内容が薄くて殆ど忘れかけてるけれど……」
うん。私は黒衣の枢機卿さまとなにを話していたのかはっきりと覚えていない。というか内容が薄くて記憶の彼方に吹っ飛んでしまったようだ。毛玉ちゃんたちは興味を失ったのか、ベッドに乗せていた顎を戻してまた絨毯の上で団子になって寝息を立て始める。
『それは、少しでも覚えていてあげよう? ボク、ちょっと可哀そうになってきたかも』
「名前も知らない気がする」
黒衣の枢機卿さまの名前と出身と経歴はソフィーアさまとセレスティアさまに聞けば答えが返ってくるだろう。私がちゃらんぽらんな当主なので、その分お二人が確りしてくれている。
『ボクたちは名乗らない習慣だから違和感を覚えなかったけれど、そういえば人間は名乗るのは普通だっけ?』
「そうだね。単純に自己紹介っていう意味もあるんだけれど、爵位や立場に役職を持っている人は身分を明かして相手との関係を明確にするためでもあるからね」
私はクロに苦笑いを向けると、長い尻尾で私のお腹をてしてし叩く。
「まあ、なるようになるかな。最悪の場合はエーリヒさまがフィーネさまを迎えに行くだろうから大丈夫なはずだよ」
私はクロの顔を見て笑うと、クロは不思議そうな表情で首を傾げた。
『エーリヒが? ナイが行かないの?』
「私が聖王国に赴くと大聖堂を消し炭にしかねないからね。フィーネさまもお迎えはエーリヒさまの方が嬉しいんじゃないのかな?」
エーリヒさまの後ろ盾は私と同じハイゼンベルグ公爵さまである。彼がなにも手を打っていないとは思えないし、面白いからと言ってエーリヒさまを使者として出すのではなかろうか。外務卿さまもエーリヒさまと仲が良いみたいだし、エーリヒさまは世渡りが上手なので羨ましい限りだ。
『うーん、良く分かんないや……』
「そっか。そろそろ寝よう。明日も執務があるし、侍女さんや下働きの人たちに迷惑を掛けるわけにはいけないから、お昼からは庭でポポカさんとグリフォンさんとエルたちで日向ぼっこしようか」
渋い顔をしたクロに私はあくびをしながら、そのまま目を瞑る。
『たまにはまったりするのも良いねえ』
「そうだね。おやすみ、クロ」
私の言葉に『おやすみ』と返してくれたクロの声が聞こえて暫くすれば、深い眠りに落ちていた。
◇
――どうしよう。どうすれば良い?
夜。アルバトロス城内にある官僚用宿舎の自室の椅子で俺は唸っていた。聖王国は今、新たな大聖女の誕生で沸き立っている。風の噂で大聖女フィーネ不要論が出ているそうで、彼女の立場が追いやられているとか。
女神さまから与えられた聖痕持ちと言って大聖女という地位に就かせたはずなのに、上位の聖痕を持つ者より格下だと決めつけて彼女を大聖女の座から降ろそうと画策するのは如何なものだろうか。それにフィーネさまは聖王国崩壊の危機を救った立役者なのに、三年前のことすら忘れて盛り上がっている聖王国上層部や聖王国の人に不信感を持ってしまいそうである。
フィーネさまは派閥のアレコレに悩まされて、自室に引き籠ってしまった。俺宛ての手紙にも記されているし、ナイさま宛ての手紙にも書かれているし、アルバトロス王国にもフィーネさまの個人名でご迷惑を掛けるかもしれませんが……と事情報告のみ入れている。
フィーネさまの下にはナイさまのヴァナルたちが控えており、身の安全は確保されているので俺はこうして部屋で悠長に悩めるわけだ……。
「いっそ攫ってしまおうか……いや、駄目か。俺、魔術の才能なんてないのに一人で乗り込んだところで捕まるのがオチだ」
俺は頭の中でフィーネさま救出作戦を立ててみる。一番手っ取り早いのが彼女を聖王国から連れ出して、アルバトロス王国へと逃げることだ。
城勤めを続けられるなら、給料と準男爵位の年金で二人慎ましく生活できるくらいのお金はある。仮に彼女を攫った責任を取って爵位や職を失ったとしても、王都で必死に働けばなんとかなるはずだ。贅沢はできないし、させられないけれど……彼女が俺と一緒の気持ちであれば嬉しい。って、待て待て。対策は一つとは限らない。
「ジークフリードに力を借りるか……それも駄目だ。ジークフリードを俺の我が儘に付き合わせるわけにはいかない……」
ジークフリードはナイさまの護衛騎士だ。なのに俺が彼を借り受けて聖王国に乗り込むには無茶がある。何気に優しいジークフリードだから俺が願い出ればきっと迷って、ナイさまと相談したあと俺を手助けしてくれるだろう。そんな優しい奴を俺の勝手で巻き込むわけにはいかないと首を横にぶんぶんと振った。
「政治的に解決できる力を持っていればなあ」
これに尽きる。俺がナイさまのように侯爵位でも持っていれば個人の権限で聖王国に乗り込んで、フィーネさまを救っていたのに。できないことを考えても仕方ないと、俺はハイゼンベルグ公爵閣下に相談してみようと筆と紙を取る。公爵閣下と俺の相談が聖王国騒動解決の糸口になれば良いのだがと、願わずにはいられなかった。
◇
大聖女フィーネさまが大聖堂に姿を見せなくなって一週間が過ぎていた。
聖王国の大聖堂で末端神職を務めている私に、今悩ましいことが降り注いでいる。三年ほど前、腐敗していた聖王国を立て直したと囁かれている大聖女フィーネさまが体調不良によって、今部屋に引き籠られている。
新しく大聖女の地位に就いたウルスラが疎ましいのではとか、本当に体調を崩しているだけとか、妊娠されたとか噂が噂を呼んでいた。大聖女フィーネさまが顔を出さないのは、黒い衣装に赤色を施した、おおよそ神職とは思えない恰好の枢機卿がなにか企んで、彼の手から逃れるために隠れているのではと私は考えている。
彼は三年前まで大聖堂の祭壇で女神さまに熱心に祈りを捧げていたというのに、今のあの場所で彼が手を合わせる姿を見なくなっている。しかし大聖女ウルスラが位に就く少し前から大聖堂へと頻繁に顔を出すようになり、彼女と一緒に信者の皆さまからの崇拝を集めている。現に今だって……。
「皆さま、大聖女ウルスラは大聖堂にとって必要な存在です! そのためには皆さまの力が必要となりましょう! 治癒の際には大聖女ウルスラを呼んで頂ければ幸いです。大聖女ウルスラはある者の失くした腕を生やし、赤子の途絶えた息を吹き返させた実力者だ! 女神さまから与えられた奇跡の御業だと言えましょう! 皆さま大聖女ウルスラを頼ってください!」
黒衣の枢機卿は大聖堂の信徒席の真ん中を歩きながら、集まった信者の皆さまの顔を見ながら高らかに声を上げる。確かに大聖女ウルスラさまは凄い力を有している。私も赤子が目の前で息を吹き返すところを見ていたのだから。
しかし、それは本当に良いことなのであろうか。女神さまの下へ旅立っていたはずの赤子を、無理矢理に引き戻した形になってはいないのだろうか。失くした腕を生やしたと噂を聞きつけて、四肢を失った方が多く大聖堂に訪れるようになっている。大聖女ウルスラは使命を果たすためと力を行使して失くした腕や足の再生を行っているが、魔力を多く消費するため一日の間に一人か二人が限界であった。
腕や足が戻ったと大喜びしている者の側で、暗い瞳のまま治癒の番を待っている者がいる。治癒を待たされている者の中には路銀がないと諦めて国へ帰った者もいると聞く。喜んでいる者の陰で悲嘆に暮れている者がいるという現実を彼は知らないのだろうか。
「女神さまにより力を与えて頂いた私は、私にできることを精一杯致します。どうか皆さまも病気や怪我が治らないと諦めないでください!」
大聖女ウルスラも祭壇に立ち、胸の前で手を組んで声を上げた。彼女は真面目な聖女であり、女神さまにも熱心に祈りを捧げている。毎日、朝拝を欠かさないし大聖女となった今でも慎ましい食事で構わないそうだ。惜しむべきことは彼女の後ろ盾が黒衣の枢機卿という所か。せめて教皇猊下が彼女の後ろ盾を務めていてくれれば、過度な力を行使するのは控えなさいと大聖女ウルスラを諭してくれていただろう。
「大聖女フィーネは理由があって皆さまに姿を見せられない! その分を大聖女ウルスラが務めを果たしてくれるでしょう。皆、安心して欲しい!」
黒衣の枢機卿が大聖堂の大扉に向けていた身体をくるりと返して祭壇へと向け、大きく両手を天井に掲げて目を閉じる。
「大聖堂は女神さまの意思を唯一聞ける場所だと私は確信しております! その証拠にウルスラは最高位の聖痕を女神さまから賜ったのですから!」
彼の声に信者の皆さまが歓声を上げる。確かに大聖女ウルスラさまの聖痕は本物であると教皇猊下と聖王国上層部の皆さまがお認めになった。だから私は疑っていないが、こうして女神さまのご意思であると吹聴するのは如何なものだろうか。
大聖女ウルスラは聖痕と特別な力を頂いただけで、女神さまの意思を聞いたわけではない。女神さまを信仰している者が勝手に女神さまの意思だと決めるのは危険ではないだろうか。
大聖女フィーネさまがこの場にいらしていれば、彼の行動を止めていたくれたかもしれない。しかし彼女はいない。うーん……不味い気がする。とりあえず私はこれ以上大聖堂が騒ぎになれば警備面にも問題が出てしまうと、機嫌が良さそうな黒衣の枢機卿に話しかけるのだった。
◇
私が部屋に閉じ籠って一週間が過ぎている。
私を心配してくれているのかエーリヒさまとナイさまからの手紙がほぼ毎日送られてくるようになった。部屋に閉じ籠っているから暇で仕方ないから有難いし、お二人が私のことを凄く心配してくれているのが伝わって嬉しかった。
もちろん先々々代の教皇さまもアリサも私のことを気遣ってくれて、教皇さまは私が所属している派閥の様子を伝えてくれ、アリサは窓から食事を運んでくれている。彼女は貴族令嬢だというのに『木の実を実家で取っていたので、木登りは得意です』と言って私の部屋の側に生えている大木をするすると登って食事を届けてくれるのだ。野生児ぃ……と言いたくなるが、ゲームの中でも彼女がやんちゃをしている話があったなと懐かしいことを思い出した。
先々々代の教皇さまによれば、私が所属している派閥は空中分解寸前なのだとか。もちろん私が不在になったことで奮起しなければと頑張る姿を見せる方もいるのだが、なにをどうすれば良いのか分からないようだ。
ナイさま、アストライアー侯爵閣下に頼ろうと手紙を出したとしても門前払いだろう。侯爵閣下とは私が私的な縁で繋がっていただけだと、どうして気付けないのだろう。やはりナイさまの小柄な容姿が軽く御せてしまうと勘違いさせるのだろうか。
肩の上に竜を乗せていたり、最強のスライムとフェンリルとフソウの神獣であるケルベロスを影の中に潜ませられる方はナイさましかいないはずなのに。本当に人間ってバイアスが掛かると、妙な方向へと思考が飛んでしまうようだ。
「フィーネさま! フィーネさま! どうか部屋から出てきてください!」
部屋の扉の外から男性の声が響く。ドアノブには触れず――部屋の中の扉の前にはバリケードを敷いているので外からの侵入は難しい――廊下で立ち尽くしているのだろう。お昼の少し前に必ず私が所属している派閥の誰かが部屋の前で出てきて欲しいと声を上げるようになっている。そして夕食の前にも誰かが現れて、私が外に出るようにと促される。
時折、私付きの侍女の方の声も聞こえてくるのは、少し胸が痛くなるけれど派閥の皆さまには自立を促さなければならない。せめて自力でナイさまに接触を図るか、黒衣の枢機卿に直接抗議を入れるかしてくれれば外に部屋から出ることを考えるのに。
「そういえば……まさか、ねえ?」
応接用のソファーでくつろいでいた私は心の中で描いた予想図に不安が走り、自然と口を開いていた。
『どうしたの、フィーネ』
私の足元で丸くなっていたヴァナルが首を上げて、私の名前を呼んだ。フソウの神獣さまである雪さんと華さんと夜さん――数日前、名前を呼んでも構わないとご許可を頂けた――も顔を上げて首を傾げている。
『どういたしましたか、フィーネさん』
『顔色が悪くなっておりますが……』
『蟄居生活のようなものですから、お疲れになっているのでは?』
雪さんと夜さんと華さんが順番に左側へと首を傾げた。ヴァナルも彼女たちに釣られて左側に首を傾げる姿は凄く可愛い。て、きちんと真面目に話さなければ。
「あ、うん。部屋は広いし、運動しているから身体は大丈夫、有難う。あの人がナイさまに直接接触を図ろうとしていないよねって。聖王国から他国の教会に訪問打診を受けたら断り辛いはずだから……ナイさまは侯爵さまであると同時に聖女だし……アルバトロスの枢機卿さまはまだお若いしなあ……」
私が不安になったことを告げると雪さんと夜さんと華さんは『ああ……例のお方であれば、やりそうですね』と頷いてくれ、ヴァナルはイマイチ想像できていないようだった。
アルバトロス王国の枢機卿さまはまだお若い。というか乙女ゲーム二期のヒーローの一人であるが、シナリオブレイクによって彼はかなり出世していた。乙女ゲームプレイ済みのみんなは、まさか彼がアルバトロス王国の枢機卿に座すとは誰も予想はできまい。アウグスト・カルヴァインという人物は真面目で実直、というのが乙女ゲームの設定だった。なのに成り上がっているとは誰も考えられないはずである。
「アルバトロス王国、というか教会に直接乗り込んだりしないよね……うわー! 嫌な予感がしてきた!! どうしよう、ヴァナル、雪さん夜さん華さん!?」
アルバトロス教会の内情を考えていると私の頭が痛くなってきた。ナイさま曰く、アルバトロス教会には枢機卿が三名いるが、二名はもう直ぐ引退すると宣言なさっているそうだ。流石に枢機卿一名では教会の体裁が悪くなるので、新たに枢機卿を任命するのだとか。筆頭聖女選定の儀を執り行っているし、割と忙しい日々を送って――カルヴァイン枢機卿談――いるらしい。
『主に教える。待ち伏せできる』
ヴァナルが大真面目な顔で私を見上げている。やはりナイさまを頼るしかないのだろうか。ご迷惑を掛けてしまい申し訳ない気持ちが心に溢れてしまうけれど、今は私情を挟むべき時ではないのだろう。
『そうですね。関係各所に連絡を入れておいた方が良いでしょう』
『本当に彼の男性がアルバトロス王国に現れれば、心象は良くないでしょうしね』
『先回り、というわけですね。仮に彼の男性がアルバトロス王国に赴かなくとも、フィーネさんがアルバトロス王国から抗議を受ける理由はないですもの』
雪さんと夜さんと華さんがナイさま以外にも連絡を入れた方が良いだろうとアドバイスをくれた。報告、連絡、相談は基本っていうし、今こうして私がアドバイスを受けているのは、ヴァナルと雪さんたちに相談したからである。
確かになにも知らないままアルバトロス王国教会へ黒衣の枢機卿からの訪問打診を受けるより、事前に知っておけばある程度対処できる。対処ができなくても、身構えることができるのは大事ではなかろうか。
「アルバトロス上層部じゃなくて教会に直接話を持ち込まれたら、いろいろと不味い気がするんだよね。よし、さっそく各方面に手紙を書くね! 有難う、ヴァナル、雪さん、夜さん、華さん!!」
私は応接用のソファーから机の椅子に座る。机の引き出しから最高級品質の便箋を取り出して、先ずはナイさま宛ての手紙を記す。次はアルバトロス王国と教会に送る手紙を書こう。
『大丈夫。気にしない。フィーネは仲間』
ヴァナルがゆっくりと応接用のソファーから私が座る椅子の横に移動した。雪さんたちも移動してヴァナルの横にちょこんとお尻を絨毯の上に付ける。
『ええ、ええ。番さまとナイさんがお認めになっている方ですからねえ』
『わたくしたちは貴女とあの青年の恋仲を応援しております』
『無事に添い遂げられると良いですねえ』
ふふふと良い顔で笑っている雪さんたちに、エーリヒさまとの仲を揶揄われていると直ぐに気付いた。
「うっ……! 雪さん、夜さん、華さん、揶揄わないでください!」
もう、と私が頬を膨らますと雪さんたちは余裕の表情で『お可愛らしいですねえ』『ええ、とても』『お若いです』と笑っている。私は小さく息を吐き肩の力を抜いて、手紙に文字を記し始めた。そうしてナイさまへ向けた手紙を書き終えた頃だった。ヴァナルの耳がぴくんと立って顔を扉の方へと向けた。なにかあったかなと私も扉へ視線を向ける。
「フィーネさま、お疲れの所申し訳ありません。ウルスラです……扉越しで良いので、少し私とお話をして頂けませんか?」
大聖女として超多忙を極めているウルスラが、何故か私の部屋の前に立っているようだった。
お待たせしました投稿再開です! もう一つ嬉しい発表です。魔力量歴代最強な~第三巻の発売が2024/09/05に決定しました! 三巻を出せたのは読んで下さった皆様のお陰です。誠に感謝いたします!┏○))ペコ 年明けからリアルが忙しいと嘆いていたのは書籍化作業をしておりました(笑
集英社さんのHPを張り付けておきます。各所通販サイトさんの直リンクがあるので、お好みの所でご予約していただければ嬉しいです。
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