魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
グイーさまがウルスラさまの頭をひとしきり撫でて満足して、ウルスラさまが解放された。流石に神さまに頭を撫でられると考えていなかったウルスラさまは、グイーさまと少し距離を取るためにふらふらと移動していた。
大丈夫か心配になるのが、彼女以外にも他の方々が凄い形相で直立不動になっている。どうにも文化の発展していない世界では神さまの立ち位置が高いようで、緊張しているご様子だ。フィーネさまも目を白黒させながら無言を貫きつつ、エーリヒさまの服の袖を握ったままである。北大陸の更に北にある神さまの島に赴いた面子は少しだけマシだった。
「…………」
「……………」
教会の聖堂に沈黙が降りる。三女神さまは苦笑いを浮かべながら『仕方ねえのか』『わたくしたちの存在は特別ですからね』『人間ですもの』としたり顔になっていた。グイーさまは人間に興味があるので困った顔をしながら私に顔を向ける。
「ナイ、ナイ。どうして皆は黙っているんだ?」
「それは神さまが目の前にいらっしゃれば緊張してしまうかと」
グイーさまが私の聖女の衣装の服の端を大きな手でちょこんと掴んで疑問を投げる。その様子に私は彼に子供かいと突っ込みをいれたくなるが、お笑い芸人ではないのだからグイーさまの頭をスパンと叩けない。真面目に答えた方が良いと考えて私は無難な答えを用意すると、グイーさまが面白くないという顔をアリアリと浮かべる。
「この儂は分身体で島の本体より神の威光は落ちているんだが……ん? 儂の分身体を維持できる魔力を備えているナイの方が凄くないか?」
「疑問を投げかけられましても。私は魔力を放出しただけで、分身体を創っているのはグイーさまですよ」
グイーさまが私の魔力を利用して顕現している方が凄いはずだ。私は魔力を使ってもう一人の分身体を創るとか無理だ……猫背さんに頼めば術式開発してくれるだろうか。そして私が術式を扱えなくても副団長さまが面白おかしくご自身の分身を生み出すのではなかろうか。
そして私は魔力提供役である。凄く良い顔をした副団長さまと猫背さんが私に迫る姿が脳裏に浮かぶ。いやいや、神さましかできないことを人間ができるはずもないと決めつけてグイーさまの顔を見上げた。首痛い。
「それはそうだがなあ。お前さんの魔力量、一体どれだけ備わっているのやら。しかしナイ、気絶している男はどうするんだ?」
むーと唸っているグイーさまがはっと気絶している黒衣の枢機卿さまに視線を向けた。彼の視線は黒衣の枢機卿さまから直ぐ私に移り、期待の眼差しを向けてくる。
「聖王国に預けます。彼には確りと己の行為が他国を侮辱していたか自覚を持って反省して頂かないと」
ぶっちゃけアストライアー侯爵家としてもアルバトロス王国も黒衣の枢機卿さまの身柄なんていらないし、いてもらっても邪魔なだけである。
フィーネさまには申し訳ないけれど引き取って貰わなければならない。あとは聖王国で彼を煮るなり焼くなりして、やべー方と風見鶏な方たちの一掃に役立てて欲しいなと考えてはいる。本当にフィーネさまは貧乏くじを引いているけれど……。
「反省、できるのか?」
「できないなら、できないなりにやり方というものがあるでしょうから」
聖王国もアルバトロス王国同様に拷問官とか魔術師を擁しているので、あくどい手口を持っているはず。彼はもうアルバトロス王国と私に手を出せないし、出したら出したで今度こそ命がない。とりあえず捕縛縄を頂いて黒衣の枢機卿さまはグルグル巻きにしておいた。罪状はいくらでもあるので問題はない。
「大聖女フィーネさま、あとはよろしくお願い致します」
捕縛縄の先を握って黒衣の枢機卿さまをフィーネさまの下へと届けるために引き摺ろうとすれば、私の力では全然動かなかった。肩の上に乗っているクロが『ナイには重すぎるみたいだねえ』と苦笑している。どうしようと考えているとヴァナルが移動してきて私の横にちょこんと座る。
「は、はいっ!」
『主、ヴァナルが引く』
フィーネさまの気合の入った声と共にヴァナルも声を上げた。
「良いの?」
『うん』
私はヴァナルと視線を合わせれば、彼は大きな口を開けて捕縛縄を差し出してと私を急かす。移動はヴァナルに任せれば良いかと私は捕縛縄の先をヴァナルの口の中に仕込めば、がっつりと捕縛縄を咥えたヴァナルが良い顔になる。そうしてヴァナルは立ち上がり教会の祭壇から信徒席を抜けて大扉の前まで移動した。
『フィーネ。外に出よう?』
「あ、うん! では少し席を外させて頂きます」
ヴァナルに呼ばれたフィーネさまは私たちに頭を下げて大扉の前まで小走りで行く。なにをするのか理解していない方は小さく首を傾げている。そのお方はグイーさま一行とウルスラさまであった。ウルスラさまは黒衣の枢機卿さまのことをどう考えているのだろうか。聖王国の方が少ないアルバトロス王国であれば言い易いかもと、私はウルスラさまに視線を向けた。
「ウルスラさま。彼の行動は聖王国にとって不利益しかないとお分かりですか?」
「…………フィーネさまと先ほどの女性と話をして少しずつですが自身の現状を理解することができました。そして彼の行動は私を利用するだけの行動だったと知ることができました」
ウルスラさまは真っ直ぐな性格故に歪である。彼女の置かれた状況が己の身を高めるものではなく、黒衣の枢機卿さまに良いように利用されるだけと少しでも理解できたなら状況は改善したとみなして良いだろうか。
まだ彼女が心に抱えている傷が消え去った訳ではないけれど、黒衣の枢機卿さまの手から逃れられたならば真っ直ぐな性格の彼女には明るい未来が待っているはず。黒衣の枢機卿さまのお陰で聖王国の評判がまた下がっただろうから、大聖女の位に就いて忙しい身になるかもしれないけれど……とにかく。
「ウルスラさまとご挨拶した頃より、お痩せになられております。おそらく魔術を行使し過ぎて体調がよろしくないのではありませんか?」
ウルスラさまは私と初めて顔合わせした時よりも痩せてしまっている。食べているのだろうけれど魔力の消費が激しいのか、大聖女の仕事が忙しいのか摂取カロリーが足りていないようだった。
そりゃ大きな怪我や病気の方に治癒を沢山施して無理と無茶を押し通してきたのだろう。黒衣の枢機卿さまと離れたならば少しは落ち着くはずだと、気まずそうな表情のウルスラさまに私は苦笑いをした。
「……」
「沈黙は肯定とみなしますよ。初めての他国で緊張なされているでしょう。即、聖王国に戻られますか?」
フィーネさまと一緒に戻れば安心だろう。とはいえ聖王国では少しばかりお掃除をしなければいけないけれど。
「あ……あの! 先ほどの女性とまた話をしようと約束を交わしました。聖王国に戻ってしまえばお互いの願いが叶わなくなってしまいます。帰国の途に就く前に短い時間でも構いません、彼女とお話の場を設けて頂きたく!」
どうやらウルスラさまにとって女性の話は受け入れやすいようだった。年齢も離れているし、歳の近いフィーネさまや私が諭すよりも効果があるのかもしれない。それならもう一度女性と話をするのは良いことだろうと私は頷いて、祭壇の端っこで直立不動になっているカルヴァインさまに視線を投げる。教会騎士の方がカルヴァインさまの肩を揺らしてはっとした彼は『承知しました』と頷いてくれた。
「さて、フィーネさまの様子を伺いに行きますか」
ヴァナルと一緒に大扉を出て行ったフィーネさまが気になる。彼女が取っている行動を知っているものの、どうなるかはアルバトロス王国の王都の方々次第なのだから。
「ナイ、ナイ。儂も行って良いか?」
またグイーさまが私の聖女の衣装の端を掴んで許可を得ようとしている。神さまに行動制限を掛けることなんてただの人間にできやしないのだが、聞いてくれるのは有難い。
「構いませんが、グイーさまと女神さまが登場すれば失神者が続出してしまいます」
「む。なら扉の陰から覗いていよう。ナイなら面白い事態にしてくれそうだ」
グイーさま私を面白発生装置みたいに見ないでください。トラブルが勝手に私の下に舞い込んで対処しているだけである。どうして豪快な方々は私の行動を面白がるのだろうか。
それにフィーネさまの様子を見に行くだけでなにもしないのに。ぷーと拗ねながら信徒席の間を私は進む。後ろにはジークとリンが控えてくれているし、雪さんと夜さんと華さんも一緒に移動している。ロゼさんは戻って早々、私の影の中に入っていた。大扉に手を掛けて重い扉を押せば陽の光が入りこむ。眩しさに目を眩ませていると、光量に慣れてきた目が教会前の光景を移しこむ。
フィーネさまとヴァナルが大扉に続く十数段の階段の上に立ち、その下にはアルバトロス王国の王都民の方々が何事かと立ち止まっていた。護衛を連れ、聖王国の衣装に身を包んだフィーネさまは一瞬で高貴な人だと理解できる。立場の差を理解している王都民の方は安易に近寄ろうとはしていない。
「アルバトロス王国の皆さま! 此度は聖王国の枢機卿がまたご迷惑を掛けてしまいました! 魔獣フェンリルに抑えられている男の処分は聖王国できっちりと果たしましょう!」
フィーネさまの言葉にアルバトロス王国民の皆さまは『なんのこっちゃ!?』となっている。そりゃ聖王国で起こっていることを細かく知らないだろうし、知っていたとすれば新たに大聖女さまが誕生したというくらいである。
やはり黒衣の枢機卿さまは小物だよなあと納得する。強かな方であれば彼女の後ろ盾を務めながら一気に成り上がろうとはせず、ゆっくりと聖王国の実権を握り教皇の座を射止めたはずである。他国に攻め入るほどの武力を聖王国は持ち合わせていないので、他国を植民地化することは無理だが教義を広めて聖王国の影響力を強めることはできるのだ。
『この男、無礼者。聖王国、きちんと処分する。みんな、見てて』
ヴァナルが捕縛縄を咥えて黒衣の枢機卿さまを口から下げた。ぷらんぷらんと風に揺れる蓑虫のような男性の情けない姿に王国民の皆さまは指を指して笑っているのだった。娯楽の少ない世界で、地位のある方が自身の悪巧みによって立場を落とす様は楽しいかもしれないなとフィーネさまとヴァナルの背を見守りながら、大きな山場は終えただろうと私は小さく息を吐いた。
◇
教会の外にはエル一家とグリフォンさんとロゼさんが私たちがくるのを待ってくれていた。流石に教会の中に入るのは不味いと考えたのだろう。ただ天馬さま四頭とグリフォンさんとスライムの姿が王都の皆さまにとって、近くで見られることが珍しいようで少し距離を取りながら彼らを眺めている。
一番好奇心を抑えられていないのは小さな子供たちである。でも、親に危ないから行っちゃ駄目と手を掴まれていた。普通の馬やグリフォンさんなら蹴られたり突かれたりするかもしれないが、彼らには人間の言葉が通じる。取って喰われやしないから近くに寄って行けば良いのにと少し残念に思いつつ、彼らを労おうと私は教会の大扉前の階段を降りる。
「エル、ジョセ、ルカ、ジア、ロゼさん、グリフォンさん、おかえりなさい。あとお疲れ様でした」
私の姿を認識したエルが代表してこちらに顔を向けた。身体に傷もないし普段と変わりないので一安心である。エルが顔を下げて撫でて欲しいと無言で訴えるので、私は手を伸ばして要望通りに顔を撫でる。ぷっくりと膨れている頬の部分を撫でてみたり、鼻先を指の背で撫でてみたりといろいろと工夫をしているとエルは気持ち良いのか、目を細めて受け入れてくれている。
『いえいえ。楽しい空の旅でしたよ。エーリヒさんもフィーネさんも紳士淑女の振る舞いでしたから』
ゆっくりと目を開けたエルが答えてくれた。エーリヒさまとフィーネさまが横柄な態度を取るところなんて想像できないし、想像してみたら少し可笑しくなる。
『聖王国の皆さまの驚く顔は見物でした。しかしフィーネさんはこれから大変なことになるのでは……』
ジョセもいつの間にか近寄っており顔を下げていた。私はジョセにも手を伸ばして身体を撫でていると、今度はルカが私の背後に立って頭の上に顔を持ってきた。なんだろうと不思議に思っていると私のアホ毛を食んで遊んでいる。
エルはルカの行動を止めなさいと言い、ジョセはあらあらまあまあと苦笑いを浮かべている。ジアはグリフォンさんの隣で兄の幼い行動をじーと眺めているので呆れているのだろう。ルカは私のアホ毛をひとしきり食むと飽きたのか、口からぺっと離してくれた。ルカの涎が染みているようで、少し私の頭が重い気がする。放っておけば乾くだろうと今度はグリフォンさんの下へと足を進めた。
「グリフォンさん、護衛お疲れ様です。ジアもお疲れ様。あまり子爵邸から出ていないから、気分転換になっていたら良いんだけれどね」
グリフォンさんもエル一家も子爵邸で過ごすようになって外に出歩く機会が減っている。彼らは強くなれるので問題ないと言っているが、運動不足でおデブちゃんになれば目も当てられない。そういえば犬や猫の肥満は見たことがあるけれど、馬の肥満は見たことがないなと妙なことを考える。愛玩動物と経済動物は違うかとグリフォンさんの顔を見上げた。
『空の旅は竜に気を払うくらいなのですが、亜人連合国の代表殿が彼らを束ねていますからねえ。気ままな空の旅でしたよ。次は仔たちと飛びたいものです』
グリフォンさんも首を下げて嘴を私の頬に当てる。少し冷たくて気持ち良いのだが、この間に私は手を動かさないと彼女は拗ねる。ぐりぐりと嘴を寄せるグリフォンさんの首元に手を伸ばして、手で確りと撫でると『ふふ』と嬉しそうな声を漏らしているので気持ち良いらしい。
ジアも私の横に移動して首を伸ばしてくる。グリフォンさんの首元に伸ばしている逆の腕をジアに伸ばして撫でていると『ふん!』とジアが鼻を鳴らす。どうやら雑な撫で方だったようでお気に召さなかったようだ。
「エーリヒさまもお疲れ様でした」
「……いえ。しかし私が仮面を被ってもあまり意味はなかった気がします。エルたちと一緒に行動すればアルバトロス王国関係者と必然的にそうなりますしね」
エーリヒさまは苦笑いを浮かべながらエルの首を撫でる。彼に用意した仮面はいろいろとあった。妖精さんがいつの間にか用意したどこかの部族のものや仮面舞踏会で被る――セレスティアさまチョイス――派手なやつとか、ヘルメット型の口元だけが出ているものとかで彼がどれを選んだのか少し興味がある。
ご本人に問い質すのは恥ずかしいかもしれないし、手紙でフィーネさまに聞いてみるのもアリだろう。アルバトロス王国の外務部に所属している者だとバレれば面倒になるから、アストライアー侯爵家の使いとなったのだ。
「顔バレするより良いかなと。侯爵家の使いという設定でしたからエルたちと行動を共にするのは自然です」
なににせよアルバトロス王国ではなくアストライアー侯爵家、ようするに私の命令によるものだと聖王国の方々には意識付けしたかった。だからこそエル一家とグリフォンさんという大所帯で移動をお願いしたし、護衛の方はなるべくいないようにロゼさんにお願いしたわけである。
ジークかリンにお願いしても良かったけれど、彼らは聖女である私の専属護衛騎士である。そろそろ個人的にそっくり兄妹を雇って、新たに教会から専属護衛騎士を募っても良いだろうか。
「聖王国が持ち直すと良いのですが……大変でしょうね」
エーリヒさまが困ったように肩を竦める。結局、聖王国のまともな方々は少なくて今回きっちりと動いてくれた主な面子はフィーネさまと教皇猊下と先々々代の教皇さまである。
現役ぃ……と言いたくなるが、ウルスラさまが新たに大聖女に就任しているし、アリサさまも聖女として真面目に働いている。こりゃ無能な男性陣を追い払って確りとした女性が聖王国の実権を握っても良いのではと考えてしまう。で、肝心な聖王国のリーダーはグイーさまたちの姿を視認してテンパっていた。
「あ、あの……ナ、ナナナナ、ナイさま? 大扉の下にいる方々を放っておいても宜しいのでしょうか? 凄い気配を発しているのですが……というかウルスラは?」
「許可を得ているので大丈夫です。ウルスラさまも大丈夫なはずです?」
驚きまくっているフィーネさまに創星神さまと大陸を築いた女神さまたちだとは言えず、ウルスラさまの話を際立たせる。ウルスラさまは女性とシスターたちと一緒なので大丈夫だが、黒衣の枢機卿さまが自身を利用していたと知っただろうし精神面が心配である。おそらくシスターズと女性のフォローが入っているはず。でなければ聖堂に顔を出していないはずだ。
「疑問形ではないですか! 荒療治を頼んだのは私なので偉そうに言えませんが、こうなるとウルスラにも大聖女を確りと務めて貰って聖王国を立て直さないといけません」
フィーネさまは弱音を吐くのかと思いきや、既に吹っ切れて聖王国の立て直しを考えているようだ。そうなるとエーリヒさまへ嫁入りが遠のくけれど良いのだろうか。
「アルバトロス王国に向かう中、エーリヒさま……ベナンター卿と話をしました。聖王国はどうしようもなく駄目な国かもしれませんが、それでも私にとって母国です。お世話になっている方やアリサに後輩にあたる聖女さまたちがいます。彼ら彼女らを路頭に迷わせるわけにはいきません。そして聖王国に住まう方々や女神さまを信仰している方々も裏切れません」
どうやら聖王国からアルバトロス王国に向かう最中、エーリヒさまとフィーネさまは今後のことを話し合ったようだ。やはり聖王国に向かう方をエーリヒさまに指名して良かった。手紙でやり取りをするよりも直接話した方がお互いの意思を確かめ易いだろうし、手紙よりもダイレクトに気持ちが伝わる。
「ですので、ナイさま。あ、いえ。アストライアー侯爵閣下、申し訳ありませんが今少し助力をお願い致します!」
三年前の彼女とは大違いだなと私は過去を振り返る。私もフィーネさまのように変わった部分があると良いのだけれど、精神面に大きな変化はない気がする。
「私が助力できるのは力や武力の面になってしまいますよ?」
私の精神面よりも環境やら立場が凄く変わっていて、いろいろと舞い込むトラブルも多いけれど享受できるものも多くなったし背負っているものもある。フィーネさまの決意を無下にはできないから、出来る限りは協力する予定ではいる。
「それで充分です。その間に聖王国の膿を出し切れば、私がいなくとも大聖堂の運営が可能になるでしょうから」
「承知しました。私のできる範囲でご協力致します」
ふんすと鼻息を荒くするフィーネさまに私は苦笑いを浮かべた。フィーネさまは聖王国の正常化を終えれば引退を考えているようだ。その時はエーリヒさまの下に嫁ぐのかもしれない。
「ナイさまが私の後ろに控えているというだけで抑止になりますからね!」
「……否定できないのが辛いです」
うーん、私が暴力装置であることが否定できない。戦力過剰だと自覚はしているが、アストライアー侯爵家のために領軍やらも用意したいしやるべきことは沢山ある。その前に黒衣の枢機卿さまの処分と聖王国が今度こそ立ち直れるように助力することかとフィーネさまに視線を向けた。
「あはは……で、ナイさま。もう一度言いますが、あそこにいらっしゃる方々を放置して良いのですか?」
「再度になりますが許可を得ていますので。神さまは他にもいらっしゃるそうですが、彼らはこの星を創った方と南と東と北大陸を創造した女神さまです」
苦笑いを浮かべているフィーネさまに私は至極真面目な顔で答える。不真面目な態度で答えると信じてくれそうにない。西大陸の女神さまが引き籠もっていることを彼女は知っているけれど、流石にグイーさまと三姉妹が現界しているとは考えないだろう。
「ん? はい? ワ、ワンモア……?」
「引き籠もっている西大陸の女神さま以外の三柱に、その姉妹のお父上ですね」
ワンモアってフィーネさま。驚き過ぎて英語になっているのだけれども。まあ、身内ばかりになっているし、遠巻きにこちらを見ている方々には聞こえまい。一度顔を合わせたというのに場面が場面だった所為かフィーネさまの頭の中で状況が追いついていないようである。グイーさまたちは面白そうな顔を浮かべてこちらを見ている。
フィーネさまの言う通り神さまをあまり待たせる訳にもいかないかと、私はフィーネさまとエーリヒさまを誘って、教会の大扉へと戻る。エルたちは外にいると騒ぎになると言って、子爵邸に戻っていった。
「天馬に乗ってみたかったのに……戻ってしまった」
私がグイーさまの下へ戻れば、どうやら彼はエルたちの背に乗って見たかったようだ。グリフォンさんも珍しいようで触れ合ってみたいと私に申し出る。
「親父殿。ナイの屋敷に行けば良いだろ。竜にフェンリルにケルベロスに天馬とグリフォンはいるからな」
南の女神さまが残念そうにしているグイーさまに仰った。そういえば女神さまたちに名前は……待て、気にしたら負けだ。前も思った気がするけれど。
「珍獣屋敷みたいに言わないでください……」
「事実じゃねえか。あと、まだ増えそうだけれどな」
「お前さんたちはそうしてじゃれ合っていると姉妹だなあ」
グイーさまの言葉に東と北の女神さまも同意している。単に黒髪黒目だからじゃないかなと南の女神さまを見れば、彼女が『あ』と短く声を上げてグイーさまを見る。私も彼女に釣られてグイーさまを見ると、彼の身体が半透明になっていた。
「どうやら限界かのう。ばーべきゅー楽しみにしているからな! ナイ、天馬とグリフォンも一緒に連れてきてくれ! 儂、乗ってみたい!」
グイーさまの姿がどんどんと薄くなっていく。そんな言葉を残しながらグイーさまは霞のように消えていった。そして南と東と北の女神さまも戻ると言い残して、アルバトロス王国の教会から消えるのだった。