魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0516:超サイコ―。

 ――はあ……。

 

 俺は心の中で盛大な溜息を吐くしかなかった。

 

 何故か俺、エーリヒ・ベナンターは聖王国の動向を見守るための監視員になっていた。外交官がこんなことするものだったかと首を捻るものの、上からの命令だし聖王国の動向は気になるので逆に有難いといえば有難い。

 

 けれど……聖王国の人たちが少々ヘタレ過ぎて先が思いやられてしまう。俺と一緒に派遣されたユルゲンもアルバトロス王国に訪れていた聖王国の面々を微妙な顔で眺めている。彼らは一つ選択を間違えるだけでナイさまの攻撃魔術が飛んでくると、きちんと理解しているのだろうか。

 少し前に口喧嘩をしていた良い歳の大人二人のうちの片方は現実が見えていないようにみえた。その彼は片方に論破されて、大聖女ウルスラを教皇猊下に預けることを不服ながらも認めていたのだが、塵が積もって不満に変わらないか心配である。

 

 「頑張ろう、ユルゲン」

 

 とにかく、俺はアルバトロス王国の監視員として彼らを見守らなければ。一応、俺がナイさまの使いでやってきた仮面の男だと露見していないので、騒ぎにはなっていない。問題になったところで突っぱねる予定である。

 聖王国の現状を憂いている人物は多数いるものの、実力行使というか先頭に立ってみんなを引っ張るという存在がいない。大聖女ウルスラが候補の一人であろうが、彼女に政治面の知識は皆無であり、傀儡になるだけなので彼女に務めさせるわけにはいかないだろう。

 

 「エーリヒ、頑張りましょう。聖王国が更地になってしまわないように努めなければ。といっても僕たちができることなんて微々たるものですが」

 

 俺の隣に立っているユルゲンが小さく笑う。俺たちにできることは聖王国の皆さまを見守ることくらいである。精々できても助言くらいだろう。それに俺たち外交員が動き過ぎれば内政干渉――問題を起こしているのは聖王国なのに言われたくはないが――だと言われかねない。

 なかなか難しい立場だし、もどかしくもある。フィーネさまは聖王国が潰れないように願っているので、そうなる状況を作り出したい。でも聖王国の皆さまが日和見過ぎて難儀しそうであった。

 

 「…………っ」

 

 俺たちに向けられている視線は『厄介者』『邪魔者』という悪意のある視線と『暴走者を減らせるから有難い』という視線が向けられている。とりあえず黒衣の枢機卿と大聖女ウルスラを教皇猊下の下に預けようと移動することになった。

 聖王国の面々を前に俺たちアルバトロス外交官は彼らの後ろを歩いて行く。接待なんて求めていないし、監視役なのだから彼らに関わることはない。見聞きした情報をアルバトロス王国へ正しく報告して判断を仰ぐだけである。俺が派遣されたのはハイゼンベルグ公爵さまの意思なのだろう。アルバトロス王が俺なんかに目を付けるわけがないし、ナイさまも俺を国外に赴かせるとも思えない。

 

 ――教皇猊下の執務室前に辿り着く。

 

 聖王国の教皇猊下の立場は微妙であるそうだ。三年前のことでいろいろと揉めて選出された方らしく、二大派閥の方たちに強権を発せないとのこと。しかし命令する権利はあるのだから、そろそろ腹を決めて欲しい。

 聖王国の方々が先に入り後に続いて俺たちも部屋の中に進めば、立派な執務机に白い神職用の衣装を纏う男性が椅子に腰掛けて神妙な顔を浮かべている。

 

 「猊下、彼の枢機卿はアルバトロス王国にてアストライアー侯爵閣下と教会の者たちに無礼な態度を取りました。聖王国での振る舞いもあり直ぐに捕えられ、大聖女フィーネを迎えに行った我々にアルバトロス王は彼ら一行の身を任されました」

 

 先ほど転移陣の部屋で揉めていたうちの一人が教皇猊下に言葉を投げる。彼らはフィーネさまが所属する派閥の方だから、黒衣の枢機卿を処断することにほとんどの者に異論はないようだ。

 ただフィーネさま不在の今、大聖女ウルスラを使い有利な立場に立とうと考えている者がいる。それが先ほど転移陣の部屋で揉めていたもう一人であるのだが、言葉を発した男性に忌々しい視線を向けていた。おそらく機会を狙って、なにかトンデモ発言をしそうだなと俺の勘が頭の中で警鐘を鳴らしている。

 

 「そうか……枢機卿の処断は厳しいものを下す。これは誰になにを言われようと変えるつもりはない」

 

 椅子に座したままの教皇猊下は険しい顔で黒衣の枢機卿の未来を言い放った。命を奪われるのか、一生幽閉か、はたまたどこかで重労働に従事するのか。厳しい処断となれば、その辺りが候補となりうる。

 

 アルバトロス王国と教会を蔑んだ発言をしたのだから一番厳しい処分を望むべきだろうが、そうなるとナイさまは微妙な顔を浮かべる。口に出すことはないのだが、思う所はあるのだろう。フィーネさまとイクスプロード嬢だってあまり良い気はしないはず。甘いと言われてしまいそうだが、彼女たちが悲しまない選択をと俺は願ってしまう。

 

 「大聖女ウルスラ」

 

 「はい」

 

 教皇猊下が大聖女ウルスラを真剣な眼差しで射抜く。殺気や怒気ではないのは明らかで、短く返事をした彼女も真剣に応じるため背筋を伸ばした。

 

 「君には重いものを背負わせてしまった。教皇として君の派閥の者を止められなかった無能を……許してくれとは言えぬか。済まなかった」

 

 立派な机に座している彼がゆっくりと立ち上がり、大聖女ウルスラに頭を下げた。聖王国の面々は教皇猊下が大聖女に頭を下げるのは想定外だったようで、かなり驚いた表情をしている。

 もしかして教皇猊下は力を持っていないだけでマトモな方なのだろう。ただ二大派閥のお陰で小さくならざるを得なかったのかもしれない。そして今派閥の力が失われつつあるので、教皇猊下という御旗の下に人材を集める良い機会ではないだろうか。

 

 「い、いえ! 大聖女の地位は私にとって理想でした。多くの方々に治癒を施すことができたのですから。でも、フィーネさまとアルバトロス王国で出会った女性の話を聞いて、私の考えを改めることが必要だと実感しました。大聖女の位を退くつもりはありません。ですが私には知識と広く周囲を見渡せる力が必要だと思います」

 

 大聖女ウルスラが慌てた様子で言葉を紡ぐ。どうやら教皇猊下に頭を下げられたことは彼女にとっても意外だったようだ。大聖女ウルスラも夢見がちな女の子かと思えば、現実を知ればきちんと立ち回れる子のようで俺は安堵する。

 彼女であればフィーネさまと共に聖王国の大聖女を務め上げることだろう。今はまだ力量が足りていないかもしれないが彼女には学ぶ意志がある。だからこそ教皇猊下に学べる環境を提供して欲しいと遠回しに伝えた。俺は隣に立つユルゲンをチラリと見れば、彼も小さく頷いて状況を見守っている。

 フィーネさまの派閥のまともな方と教皇猊下が組めば良い結果が得られそうだと安堵していると、むっとした表情をしたままの男性が口を大きく開けた。

 

 「猊下! 大聖女フィーネがアルバトロス王国に滞在しているままです! そちらはどうなさるのですか!?」

 

 男性は俺たちがいなければ『拉致』という言葉を使っていそうだ。教皇猊下に詰め寄る男性を同じ派閥の方が止めようとするが、猊下が制止した。

 

 「どうにもならないだろう。大聖女フィーネが聖王国に戻りたいと言わぬ限りはアルバトロス王国に彼女の身柄を預ける。その方が安全な可能性すらあるのだからな」

 

 今の聖王国の状況であればフィーネさまはアルバトロス王国で過ごした方が安全だ。男性のようにフィーネさまをもう一度御旗として担ぎ上げようとする輩はいるだろうし、敵対派閥の方たちは排除を狙う。

 

 「なっ! 彼女は聖王国にとってなくてはならぬ存在だ! どうして貴方がその価値を見誤る!!」

 

 「価値、か……君も見誤っているではないか。本来、大聖女は大聖堂の象徴でしかなく政治に携わることはない。三年前、聖王国の危機に立ち上がっただけの彼女にまだ重責と重荷を背負わせるというのかね」

 

 激高する男性に教皇猊下は落ち着いた口調で彼と納得できていない者たちを諭す。大聖女ウルスラがハラハラした様子で場を眺めているが口を出す気はないらしい。

 

 「ぐっ! もう良いです! 貴方を頼ろうとした私が馬鹿でした! 解決できぬのであれば解決できる者を頼るのみ!!」

 

 売り言葉に買い言葉なのか、捨て台詞を吐いて男性は部屋を出て行った。彼が出て行くなり教皇猊下の執務室にいた皆さまは小さく息を吐いている。どうやら部屋を出て行った彼が無茶しか言っていないと、皆さま思っていた様子。

 

 「情けない所を見せて申し訳ない。これが今の聖王国の現状だ。アルバトロス王国にはありのままを報告してくれて構わない」

 

 教皇猊下が少し疲れた様子で俺たちアルバトロス外交員に告げた。確かに情けないのだが、求心力を失えば烏合の衆となってしまうのはどこの国でも同じだ。ただ頻度や規模が違うだけで、どこにでもあり得ることだと俺は考えている。猊下が俺たちに告げた言葉は必ず守る。嘘を吐いたところでアルバトロス王国と聖王国になにもメリットがないのだから。

 

 「はい、猊下。しかし、これから聖王国はどうなさるのですか?」

 

 俺の報告よりも聖王国がどう立ち回るかの方が重要である。聖王国のトップである彼が日和見な判断を下すのであれば、フィーネさまをアルバトロス王国から聖王国には戻せない。

 

 「大聖女フィーネが不在の今、彼女の派閥は弱体化する一方だ。そして彼の枢機卿の派閥も頭を失ったことで弱る。私は今まで立場上派閥に属すことはなかったが……立つべき日がきたと言わざるを得ない」

 

 教皇猊下が神妙な顔で今後どう動くかを呟いた。彼に求心力があるのならば、一気に最大派閥になれるのではないだろうか。しかしフィーネさま一派と彼の枢機卿一派の残党――少々過激な表現だが――の動き方が見えてこない。

 彼らが歯噛みしながら黙っていてくれるのが一番良い状況だが、おそらく部屋から出て行った男性が人を集めてなにかを企みそうである。その辺りを猊下はどうするのだろうか。だが今の彼に力がないのであれば協力者を募るしかない。

 

 俺が深く考えてもしかたないし、別の所で教皇猊下の援護射撃ができれば良いか。俺たちは俺たちの仕事をしようと教皇猊下の執務室を後にして、バタバタと騒々しい聖王国の廊下をユルゲンと護衛の人たちと共に歩いて行く。

 俺たちの前を通り過ぎる人が視線を合わせ歩みを止める。あれ、この顔は確か……。

 

 「魔獣たちは――」

 

 どことなく見覚えのある顔はアストライアー侯爵家の影とナイさまが教えてくださった方だった。今の言葉の続きにはアレを返せとナイさまから言い含められていた。

 

 「――超サイコー」

 

 俺は男性に声を返した。ナイさまからアストライアー侯爵家の諜報員を聖王国に忍ばせているから、俺たち外務部員と接触させると話があった。今の合言葉を考えたのは某ご令嬢であろう。

 凄く分かり易い合言葉であるが他の人が耳にしたところで、魔獣馬鹿な奴で少々危ない連中だと判断されるだけである。ナイさまなら地球の挨拶と現地で有名な食べ物を組み合わせて『ブエナス・タルデス』『パエリア!』とかにしそうだと苦笑が漏れた。

 

 「では、こちらへ」

 

 彼の案内で廊下を進み部屋に入れば、先々代の教皇さま――正しくは先々々代――とアリサ・イクスプロード嬢が俺たちを迎え入れてくれた。

 

 「え?」

 

 意外な展開に俺の口から間の抜けた声が漏れた。ユルゲンも今の状況に驚いているようで目を丸く見開いている。

 

 「意外だったかな? エーリヒ・ベナンター準男爵卿、そしてユルゲン・ジータス殿」

 

 片眉を上げながら先々代の教皇さまは俺たちに笑みを向けた。そしてイクスプロード嬢は小さく頭を下げている。とにもかくにも返事をしなければと俺たちは口を開いた。

 

 「失礼な態度を取り申し訳ありません。お初にお目に掛かります、エーリヒ・ベナンターと申します」

 

 「初めまして、ユルゲン・ジータスと申します」

 

 相手は俺たちの名前を知っているが初対面なので、俺とユルゲンは名乗りを上げた。

 

 「そう畏まらないで欲しい。私はもう引退した身であり、君たちを部屋に招いたのはフィーネのことが心配だったから、アストライアー侯爵殿の影に頼み接触を図って貰った」

 

 笑みを浮かべる先々代の教皇殿に聖王国が生き残る道を模索できるかと、ユルゲンと視線を合わせて導かれた席に腰を下ろすのだった。

 

 ◇

 

 まさか、先々々代の教皇さまにお会いするとは。俺とユルゲンは顔を見合わせるものの、先々々代の教皇さまがどうして俺たちに接触を求めたのかと気になり始める。

 

 フィーネさま曰く、彼は彼女の親代わりのような方と聞いている。三年前、フィーネさまの実家は頼りにならず最も頼れた方が彼なのだそうだ。今はもう第一線から退いて大聖堂で細々と聖職者の活動を行っていると聞いていた。

 そんな方がどうして聖王国の官邸にいるのか不思議であるが、それを踏まえると彼の影響力は聖王国上層部の中ではまだまだ強いのかもしれない。しかしナイさまが雇った影は優秀だ。短期間で聖王国上層部関係者が出入りしている官邸に入り込み、先々代の教皇さまと接触しているのだから。

 

 「お久しぶりです。ベナンターさま」

 

 「イクスプロード嬢、お久しぶりです。お元気でしたか?」

 

 フィーネさまから頂く手紙に貴女の話題がよく書かれているとは言えないまま簡単に挨拶を終えた。そうして先々々代の教皇さまが俺たちに視線を向けた。

 

 「フィーネはアルバトロス王国でどう過ごしているのかな?」

 

 「大聖女フィーネさまはアストライアー侯爵閣下の屋敷で過ごしておられます。閣下と懇意になされているので、アルバトロス城で賓客待遇を受けるよりも気楽だろうと。学院で一緒に学んだフライハイト嬢もいらっしゃいますし、南の島で顔を合わせたリヒター嬢もいらっしゃいます」

 

 先々代の教皇さまは笑みを浮かべながら俺に問い掛けた。ユルゲンにも視線を向けても良さそうだが、彼は俺とフィーネさまが恋仲だと知っているから俺の方が気になるのだろうか。

 とすると、フィーネさまにとって親代わりのような彼である。娘さんを僕にくださいとお決まりの台詞を伝えるべきかと考えるものの、今は仕事で聖王国入りしている。余計なことはしない方が良いだろうと、俺はぴっと背筋を伸ばした。

 

 「そうか。問題を起こした聖王国にいれば彼女は周りの大人に頼られてしまう。三年前に例を作ってしまったことで、皆にフィーネを頼れば良いという意識が根付いてしまった。今回のことは良い機会だが、アルバトロス王国には迷惑を掛けてしまい申し訳ない」

 

 初手で黒衣の枢機卿を止められていれば、ここまで問題は大きくならなかった。ナイさまもフィーネさまのために穏便に動こうとしていた節がある。アルバトロス王国も陛下もアストライアー侯爵の意思を理解して、後手に回っていたから強く聖王国を責められない。

 まあ、その代わり天馬さまのエルに乗って無許可で聖王国入り――裏で手を回していた――して、フィーネさまを奪ってきたけれど。とりあえず先々々代の教皇さまと話をしなければと、俺は正面を向く。

 

 「謝罪は教皇猊下からも受け取っております。アルバトロス王もアストライアー侯爵も大聖女フィーネさまが大切にしている場所を失くす意思はありません」

 

 ナイさまも陛下も聖王国を潰す気はないそうだ。一国が潰れてしまうと面倒なことになる。アルバトロス王国と聖王国の間にはいくつも国を挟んでいるため影響は少ないが、聖王国の周辺は確実に被害を受ける。それらとフィーネさまの意思を踏まえているので、聖王国は首の皮一枚繋がっている状態だ。

 

 「はは。フィーネが大切にしていないならば国の価値はないのだね……」

 

 先々々代の教皇さまは俺の言葉の意図に気付き力なく笑うものの、数秒後には彼の眼は確りしたものになっている。あ、流石フィーネさまが頼りになさっている方で、歳を取っていると言えど頼れる方なのだと思えた。

 

 「返事は控えますが、先ずは黒衣を纏った枢機卿の処断をお願い致したく。アルバトロス王国が聖王国に厳しく詰め寄らないのは彼の者の振る舞いが一番の問題であり、次に彼を止められない方々が多くいる状況を危惧しているのです」

 

 今の俺の言葉は教皇猊下にも伝えてあると目の前の彼に告げる。さて、彼はどのような返事をくれるのか。

 

 「聖王国の正念場と言ったところかな。承知した。私の力は微々たるものだが、良い結果を齎せるように動いてみよう」

 

 そして先々代の教皇さまが割と問題のある発言をして俺に託し、俺も彼に問題のある発言を伝えてお互いに悪い顔になる。話を聞いていたユルゲンとイクスプロード嬢は少し引きながらも、なるほどと納得してくれた。ならば問題なく互いに出した案が発動されるだろうと、先々代の教皇さまと話を終えた。

 

 「さて、アリサ。彼らに頼みがあるのではないかな?」

 

 「あ、はい!」

 

 話を終えると先々代の教皇さまの雰囲気は好々爺そのものだった。イクスプロード嬢に声を掛ければ遠慮がちに一歩前に出て、彼女は俺とユルゲンに視線を寄越した。

 

 「可能であれば、フィーネさまに私が認めた手紙を届けて欲しいのです。厚かましいお願いだと思いますが、フィーネさまからの手紙を受け取ることはできますが、状況的に私から送れば派閥の方々も目を付けそうで……」

 

 「私たちもアルバトロス王国へ届ける手紙や資料があります。それらと一緒に送って良いなら、大聖女フィーネさまに届けることは可能かと」

 

 イクスプロード嬢はフィーネさまと懇意にしている。そしてフィーネさまも彼女のことを気に掛けている。お姉さまと呼ばないで欲しいと愚痴を聞くことが多いが、何気にきちんと良い関係を築いていた。

 二人の姿を見ているのは微笑ましいし、彼女たちが歳を取っても関係が続いて欲しいと俺は願っている。イクスプロード嬢のお願いは無理難題ではないし、彼女が俺たちに手紙を託すことが嫌でなければ直ぐにでも実行可能だ。

 

 「お願いしても宜しいでしょうか!?」

 

 「もちろんです」

 

 俺が返事をすれば彼女はぱっと顔を輝かせた。二人はいつも一緒に行動しているようだから、離れるのは考え辛いのか。確かゲームでも良く一緒に行動していたし、一部のプレイヤーは百合展開を期待していると配信者が零していた。乙女ゲーだから無理だろと俺は突っ込んだのだが二次創作界隈で盛り上がっていた可能性もある……って、俺も妙なことを考えるのは止めよう。俺の考えが実現すれば気持ちが凹んでしまう。

 

 「ありがとうございます! フィーネお姉さまと私から連絡を取れる手段が乏しくて困っていたのです。お手数をお掛けして申し訳ないのですが、お願い致します!」

 

 がばりと頭を下げるイクスプロード嬢に俺は笑みを浮かべて退室の許可を取り部屋を出る。そうして廊下を歩いていると、先ほど俺たちを先々代の教皇さまの部屋に案内した男性が廊下を歩いていた。

 すれ違いざまにこっそりと紙を手渡されて、俺も受け取った紙を静かにスラックスのポケットの中へと仕舞い込む。一体、何事だろうとユルゲンと視線を合わせて俺たちに宛がわれた部屋に入った。

 

 「ふう。やっぱり他国での活動は緊張するな」

 

 俺的にはアルバトロス王国の王城にある外務部の執務部屋が一番落ち着くし、集中して書類仕事を捌くことができる。今いる部屋もユルゲンと俺しかいない――扉の前には警備の人がいる――から、まだ良いけれど、外をウロウロしていると周りの人たちは部外者として俺たちを扱う。

 当然の態度だが、訝しむ視線や敵意があると精神的にくるものがある。肝が太くなれば受け流せるのかもしれないが俺には一生無理だろう。

 

 「そうですね。ですが僕にはエーリヒが緊張しているようには見えませんでしたよ」

 

 「どうにか取り繕っていただけだよ。そういうユルゲンもいつもと同じ顔だったぞ」

 

 ふふふと笑うユルゲンに俺は肩を竦めて、さっそく事務仕事に取り掛かるのだった。

 

 ◇

 

 私、アリサはベナンターさまにフィーネお姉さまに向けたお手紙を預けることができた。

 

 彼と学院で一緒に学んだり、南の島で休暇を楽しんでいなければできなかっただろうから、アルバトロス王国とナイさまには感謝しないと。

 今、聖王国で巻き起こっていることでフィーネさまはアルバトロス王国に保護されている。聖王国上層部の皆さま、特にフィーネお姉さまが所属している派閥の方々はお姉さまの力に頼ろうとして、自分たちで問題を解決しようとしない。大聖女と聖女は本来政治活動を担わないのだから、安易にお姉さまを頼るのは止めて欲しい。だけれど……。

 

 ――部屋で願うだけじゃ駄目だ。

 

 ベナンターさまにフィーネお姉さまに託した手紙には私の決意を認めている。聖王国上層部の大人たち同様に私もお姉さまの威光の傘の下にいる身である。そろそろお姉さまに頼るだけの私でいるのは止めなければならないだろう。

 成人を迎えているし、自分で考えて正しい道を選び取り行動に起こさなきゃいけない。私は私にできることを聖王国とフィーネお姉さまのために動く。うん、そう考えれば、これから私が起こす行動にやる気がでるというものだ。

 

 私が考えた計画は先々々代の教皇さまも知っているし、彼を通じて教皇猊下にも許可を得ているし、先ほどベナンターさまにも私のやりたいことを伝えた。私の行動が大事になって聖王国が多大な傷を負う可能性もあるけれど、現状を憂いているだけではなにも変わらない。

 

 「頑張らなきゃ! でも、あと数日は動けないなあ……あ、でも」

 

 アルバトロス王国の許可待ちなので数日は動くことができない。ただ、急に事が動けば周りの方々に怪しまれる。以前から計画を立てていたように仕向けなければ、フィーネお姉さまとアルバトロス王国とナイさまにご迷惑を掛けてしまう。

 私の行動が突飛すぎると誰かが思い至れば、アルバトロス王国の命令かと勘繰られるはずだ。アルバトロス王国はそんな些末な事は気にしないかもしれないが、私は彼の国に迷惑を掛けるつもりはない。

 

 お姉さまに厭味ったらしい態度を取る黒い服を纏った枢機卿はアルバトロス王国で失態を犯し捕縛されている。大聖女ウルスラさまも彼の行動がおかしいと感じてフィーネさまを頼り、アルバトロス王国で考えを改める切っ掛けがあったようだ。今の聖王国上層部にこの話を知っているのは限られた方のみだ。ならば私はどう動けば良いのか……――。

 

 「よし、大聖堂に行こう」

 

 部屋から出て大聖堂に赴く。大聖堂と官邸は繋がっているため聖女の移動は割と簡単である。護衛の方は手が空いている人が選出されるため、入れ替わりが激しい時もある。大聖女さまともなれば流石に実力が保証されている方しか就かないけれど。

 護衛の方は聖女の行動を阻害してはならないと暗黙の了解があるため、本当に私たちの身が危ない時だけ動いてくれるはずである。私は運よく危ない場面に陥らなかったので、護衛の皆さまの実力を知らない。私が大聖堂に辿り着くと、部屋にいた聖女さまたちの視線を一斉に浴びる。そして一人の聖女さまが立ち上がって私に顔を向け言葉を紡ぐ。

 

 「聖女アリサさま。大聖女フィーネさまがアルバトロス王国へ攫われてしまいましたが、大丈夫なのですか!? 大聖女ウルスラも時期を同じくしてアルバトロス王国の教会に赴かれてしまいました。聖王国上層部もアルバトロス王国もなにを考えているのでしょうか?」

 

 黒衣の枢機卿がナイさまに不敬な態度を取ったと聖王国の聖女さまたちは知らない。聖王国上層部の人間のみに留めているため知らないのは当然である。

 

 ――だから私は彼女たちに真実を打ち明けた。

 

 貴族というものを知っている方たちは顔を青くして、聖王国が超不味い事態に陥っているかもと不安に駆られ始めている。

 

 「ア、アストライアー侯爵といえばアルバトロス王国の教会に所属されていた『竜使いの聖女さま』ですよね? 詳しくなくて申し訳ないのですが、アリサさまはアルバトロス王国に留学されておりました。彼女はどのような方なのですか?」

 

 矢継ぎ早に飛ばされる質問に私は苦笑いを浮かべそうになるけれど、ぐっと堪えて彼女の疑問に答えた。情報制限を敷いているから知らなくても当然だ。

 聖王国でのナイさまの認識は『三年前にキレて、フィーネさまの機転で事を納めた』『竜を聖王国に襲わせると脅された』というものである。そんなナイさまの無茶を止めたのがフィーネさまという認識だから、ナイさまの評判が良いものであるはずがない。

 聖王国上層部ですら正しくナイさまを捉えていないのだから、その下に就いている聖女さま方も当然間違った認識を持つわけである。私もアルバトロス王国に留学したばかりの頃はナイさまに反感を抱いていたけれど、フィーネお姉さまの説得と彼女と接して誤りは解けた。

 

 「聖女アリサさまの言葉と聖王国で流れている噂、どちらを信じれば良いのでしょうか……?」

 

 「ご自身で確かめなければ正しい情報は掴めないかと。私もアルバトロス王国の学院に留学するまで、アストライアー侯爵閣下の人物像は魔王さまに近しいと考えておりました。ですが今は同い年の普通の女性であり、友人だと言えます。だからこそ大聖女フィーネさまは聖王国の現状に疑問を感じ、アルバトロス王国とアストライアー侯爵さまを頼ったのです」

 

 私の言葉で聖女さま方がどう解釈するのか分からないけれど、女だらけの集団の中での影響力は凄いだろう。情報が正しく伝わり黒衣の枢機卿さまの処分を厳しいものにしなければと声が上がれば、聖王国上層部はそうせざるを得ない。

 治癒は聖女の専売となっているので、私たちがお仕事を放棄すれば頭を抱えるのは聖王国上層部だ。きちんと動いて貰える仕込みが少しでもできたかなと、私はアルバトロス王国がある方向に視線を向けるのだった。

 

 お姉さま、アリサは頑張ります!

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