魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0052:道中。

 ――完全に陽が沈んだ、夜。

 

 ダウジングで大きく反応した地点に辿り着くまでにはあと二日ほど掛かる。そのため野営は森の中。

 警備面も考えて聖女さまは野営地の最奥となっている。後ろは断崖絶壁で、敵襲の心配もいらないということだろう。この周辺には空を飛ぶ魔物は生息確認されていないので、安全という訳である。

 

 「……何か御用で?」

 

 まあ聖女さまが集められれば、侯爵家の聖女さまとも一緒になるわけで。ぶすくれた顔でアリアさまと私を見て、口を開いた彼女のご機嫌はかなり斜めだった。

 学院を卒業しているから年上なのだけれど、泣きはらして化粧が取れているしばっちりと纏められていた髪も無残な状況になっている。確か、お付きの侍女を連れていたはずなのだけれど、どこに行ったのだろうか。

 

 「ご飯です。食べないと持ちませんよ」

 

 あと二回は野営が決定しているし。急ぐと告げられているけれど、徒歩での移動だしそう変わらないだろう。

 

 彼女を下がらせるか、このまま同行させるかは指揮官さまたちの間で問題になったそう。使えない人間を連れていても足手纏いだし、また錯乱されて被害が大きくなると困ってしまう。

 ただ治癒の使い手ということであれば機能するだろうと、最前から最後方へと回されることになったのだった。 

 

 むすっとしているけれど、言葉を発するくらいの余裕はあるみたいだった。精神的ショックで喋ることすらできない人を見たことがあるので、その部分に関しては心配ないだろう。私が差し出した携帯用のご飯を乱暴に奪い取って口へと詰め込んでいた。

 

 「どうして笑わないのです……!?」

 

 「え?」

 

 「私は貴女に嫌味を言いました。ですから、アレをみてわたくしを馬鹿にすることもできるでしょう!」

 

 いや、無理だし。彼女は侯爵家の人間で私は平民である。聖女で同格といえど笑い飛ばしたら、私の首が飛んじゃう。

 そもそも遠征が初めてで、状況について行けず錯乱する人は居るし、自分も通った道なので馬鹿になんて出来ない。根本的な所で間違っているようなので首を傾げると、更に彼女は口にする。

 

 「聖女として恰好を付けていたのに、笑い種でしょう。わたくし自ら前に出ると宣言してこのザマですもの……笑いなさいよ……笑えばいいじゃない!」

 

 あれ、この人案外真面目なのかな。自分が取った行動が間違っていたって認めている。ちゃんと慣れて動くことが出来るようになれば化ける人だと思うのだけれど、どうなのだろう。

 

 「あら。――お望みならば、わたくしが罵ってさしあげましょうか?」

 

 そう言って私の横に立ったのは、ばさりと鉄扇を広げて口元を隠すセレスティアさま。その後ろにはソフィーアさまの姿が。今回、警護の関係もあるのかも知れないが、よく一緒に居る気がする。

 

 「な……」

 

 貴族としてなら侯爵令嬢と辺境伯令嬢なので家格の差はそうないはずだ。侯爵家の聖女さまの家柄情報は持ち得ていないので、ちゃんとした勢力関係が分からないけど。

 

 「軍や騎士、そして我が辺境伯領軍の命を危機に晒した失態、どう責任を取るおつもりです? 聖女さまとはいえ、貴女は無理矢理に先頭部隊に入ると言い張り彼女からその座を奪った」

 

 ん、そんな話は聞いていない……。

 

 まさか部隊編成の時、知らない間にそんな話があったのか。知らない方が幸せだったなあと、侯爵家の聖女さまから視線を逸らす。どうやらセレスティアさまは自領民を危機に晒したことに痛くご立腹らしい。

 気持ちは理解できるけれど、言い過ぎると立場が危うくなるような気がする。黙って状況を見守っているソフィーアさまに視線を向けると、顔を左右に振った。とりあえずは静観するようだ。なら私も見守るしかないなと、口を噤む。すごく止めたいけれど。

 

 「あげく魔物に遭遇し自身の安全だけを確保しようと無駄に魔術を発動させ、現場を乱した。聖女ナイならばそのような失態を犯しませんでしょうね」

 

 こちらに視線を向けないで下さい。侯爵家に睨まれたくないから、うんともすんとも言えんのです。でもまあ、私が先頭集団に居ればあそこまでの被害にならなかったかも。

 私は平気だけれど、アリアさまは疲労困憊でご飯を済ませて既に床に就き爆睡してるからなあ。魔力消費は勿論だけれど、行軍も初めてだろうし混乱した現場で治癒を施すのも初めてだから精神的にも疲れたのだろう。

 

 ところでセレスティアさま。彼女に言い放っている台詞は罵りどころか正論だと思う。言葉のナイフがぐっさぐさに刺さっているんじゃあなかろうか。

 

 大丈夫かなあと、侯爵家の聖女さまを見ると瞳に涙を蓄え始めていた。これ以上はいじめっ子の所業になってしまうと、ソフィーアさまを見る。

 お貴族さま同士の喧嘩を止めるならお貴族さましか出来ない。格好よく私が止められればいいのだけれど、立場上できません。

 

 「そこまでにしておけ、セレスティア」

 

 私の意図をくみ取ってくれたのか、ソフィーアさまが一歩前に出た。

 

 「あら、ソフィーアさん。止めないで下さいます? わたくし腹が立っていますもの。ナイが前に出ていれば被害はここまで広がっていませんわ」

 

 「気持ちは理解できる。だが、彼女を前に出すと最終的に決めたのは指揮官たちだ。責めるべきではないし、ナイも困っているだろう」

 

 ああ、そうか。あまり彼女を責め立てると、前に出すと決めた指揮官の人たちの決定も否定することになるから、不味いのか。

 いくら侯爵家の聖女さまの発言とは言え、采配を決めたのは指揮官方なのだ。彼女の我儘を諭しもせず面倒だからとそのまま決めた人も悪くなるのか。そこまでは気が回らなかったなあ。流石、王子妃教育を受けていたこともある人、考えを巡らせるのが早い。

 

 しかし、困っているのは事実ですが何故ソコで私の名前が出てくるのです……。しかも私の名前を出すとセレスティアさまの威勢が少し収まっているし。

 

 「…………ふ」

 

 鼻を鳴らしてこの場を去っていくセレスティアさま。どうやら本当に腹が立っているようで、いつもより余裕がなさそうだ。その背を見送って、侯爵家の聖女さまへと向き直る。

 

 「詳しい状況は知らんが、盛大にやらかしたようだな。――貴族としては恥さらしも良い所だろう」

 

 お貴族さまとしてなら恥だろうなあ。家に泥を塗りたくったようなものだし。噂を広められると社交界で居場所の確保は出来るのだろうか。

 

 「ナイ」

 

 「はい?」

 

 何故私に声が掛かるんだと疑問に思いつつ、ソフィーアさまに返事をする。

 

 「貴族としてなら駄目かもしれんが、聖女としてならどうなんだ?」

 

 「今後の働き方次第……でしょうか」

 

 討伐遠征は初参加だと言っていたので、初っ端にテンパるのは仕方ない。ただ被害が出ているので、相当頑張らないと評価は上がらないはず。

 遠征が……血を見るのが無理だというなら、孤児院の慰問や炊き出しに治療院に参加して活動をすることもできる。派手さは全くないけれど、そういう聖女さまも居るから。

 

 「だそうだ。――ここで立ち止まるか、それとも踏ん張って先に進むかは貴女次第だ」

 

 ではな、と言い残してこの場を去るソフィーアさま。肩を落としている侯爵家の聖女さまにこれ以上声を掛けたところで、追い打ちにしかならないだろうと私も軽く頭を下げ、その場を後にした。

 

 ◇

 

 一夜明け、また陽が昇る。

 

 王都からここまで移動してきたツケがここにきて出てきたようで、周囲の人たちの士気が下がってた。

 妙な魔物も出現しているし不安なのだろう。通常運転なのはその妙な魔物の死体を嬉々として回収していた魔術師団副団長さまや指揮官として己を律しなければならない人たち。ソフィーアさまとセレスティアさまもさほど変わった様子は見せていないけれど、大丈夫なのだろうか。

 

 「あと二日は踏ん張らなきゃいけないかあ」

 

 「どうだろうな。空振りに終わる可能性だってあるんだ、あまり気を張りすぎるのは良くないかもしれんぞ」

 

 「いつも通りにしていれば大丈夫だよ、兄さん。だってナイがいるんだもの、ね?」

 

 遠征に対する慣れもあるのか、私たちは相も変わらず三人で行動をしていた。相変わらずリンの持ち上げ方が凄いのだけれど、その無条件の信頼はいつ稼いだものなのか。

 

 「リンは私を信用し過ぎ」

 

 「そんなことないよ。ナイが居ればどんなことでも乗り越えていける」

 

 「無理なことは無理だからね」

 

 私は万能ではないし、超えられないものは世の中にいくらでもあるというのに。無理だと言い切ったので、それが不服なのかむーっと口を尖らせているリンに苦笑をして口を開く。

 

 「まあ、いいか。とりあえず、今日も一日頑張りましょう!」

 

 「ああ」

 

 「うん」

 

 ここ最近お決まりになってきたなあ、と感じながら三人の拳面を合わせるのだった。魔物の襲撃も考えられたので、野営は地面に雑魚寝という簡素な方法の為に片付けはすんなりと終了。火の後始末だけは入念にチェックされ、出発となる。

 

 昨日まで前・中・後の隊列が再編後は前と後の二グループになっていた。離脱組は辺境伯領領都へと帰還することになっている。

 

 「……前なのね、私」

 

 昨日までは最前列に配置されないなら、楽が出来ると考えていたというのに。侯爵家の聖女さまがやっちゃった所為で前に押し出されてしまった。

 かといって経験不足なアリアさまには荷が重いだろうし、当然の判断だろう。で、件の聖女さまはしおらしくなっているそうで、アリアさまと一緒に行軍を続けるそうだ。一緒に組まされた彼女は微妙な顔をしていたけれど。

 

 いつものように私の両隣にはジークとリン。その後ろににっこにこの副団長さまとソフィーアさまとセレスティアさま。少し離れた所には騎士として揉まれて来いと言われ、今回の遠征に参加しているマルクスさまの姿も見えたのだった。

 

 「当然だろう」

 

 「ね」

 

 また道なき道を進み始めるのだけれど、本当に大変なのは一番前を行く人たちだ。魔物や蛇等が居ないか確かめながら、草をかき分け道を作りつつ前へと進んでいるのだから。彼らが均した道を歩いているので体力の消耗は最小限だ。一定の時間が経つと交代しているようだけれど、大変だろうなあ。騎士の人たちは鎧を着込んでいるから、重いだろうし。

 

 あれ、なんだろうこの空気が重くなった感覚。気の所為か?

 

 「出たぞっ!」

 

 声が上がる。どうやら気の所為ではなかったらしい。

 

 「数は少ないが狂暴化している可能性があるっ! 十分に気を付けて対処しろ、一人になるなよっ!!」  

 先頭集団の騎士が声を上げ魔物が出現したことを告げる。数は十匹程度のゴブリンの集団だから、この人数で相手をすれば確実に勝利を収めることが出来る。

 ただいつもと違うのは魔物には黒い痣が全身にあり、かなりの興奮状態なので気持ち悪さに拍車が掛かってた。

 

 「抜刀っ!」

 

 昨日の経験から退治することは可能と判断し、二人一組で魔物一匹を倒すという臨時ルールが設けられていた。魔物が出現したのならば私も出て行かない訳にはいかず、最前列で相対している彼らの後ろに立つ。

 

 「――"折れず""鈍らず"」

 

 軍の人や騎士が佩いている剣へ強化魔術を掛ける。これで魔物を倒しきれないなら、剣の切れ味を良くする魔術か身体強化魔術を施す腹積もりだ。

 バフ系の魔術は便利だけれど使い手がいつも配備されている訳ではないので、常時バフが掛かった状態に慣れない方が良い。デバフ系も同じだ。便利なものに慣れると、人間はすぐそれに頼りたくなる。

 

 「感謝いたします、聖女殿っ!」

 

 「どうか、お気をつけて」

 

 私の言葉に『はい!』と威勢よく返事をくれた指揮官さま。社交辞令やリップサービスとかその場のノリなので、そう喜ばれると気が引ける。

 

 「聖女殿に無様な姿を晒すなよ、我々の力を証明しろっ!」

 

 彼の言葉に『応っ!』と力強く返事をする部下の人たちに、呆れた視線を向ける。

 

 「……無理はしないで欲しいんだけれど」

 

 「ナイ、自分の知名度を考えろ」

 

 私の横に立って抜刀したジークが声を零す。私の知名度なんて王都だけだろう。辺境伯領まで轟いていることはあるまいて。

 

 「いや、普通に強化の魔術施しただけだよ……しかも基礎みたいなヤツで、強化系の魔術は他にも種類あるのに」

 

 「前任がアレだったから余計だろう。しかもお前は二つ名持ちだ」

 

 侯爵家の聖女さまは話を聞く限り、戦闘に貢献したという話は一切聞かなかったけれど、あれは彼女の勇み足だ。

 しかも普通の魔物ではなく、妙に強化されてた魔物で現場が混乱したようだし、本来の力が発揮できなかった可能性だってある。命が掛かっている現場だから、経験不足を理由に許されることはないだろうが、挽回する機会くらいはあってもいい筈。

 

 「二つ名は、私の名前が知られていないのと聖女さまは他にも居るから便宜上付けられただけだし」

 

 あと黒髪の聖女って珍しいから、安易に付けられただけだろう。

 

 「はあ……」

 

 盛大にため息を吐いたジークは、この会話を切り上げて前を向く。

 

 「ナイ、ナイの力は凄いんだから自信を持とう!」

 

 「そうかなあ?」

 

 会話を諦めたジークに代わってリンが話を続ける。やるべきことをやっているだけ、なのだけれど。そもそもお給金が発生しているから、頂いたお金の分は働かなきゃ給料泥棒である。

 

 「うん!」

 

 嬉しそうに頷いたリンの後ろで尻尾がぶんぶんに振られている幻影が見える。緊張感、全くないね……この現場。後ろには副団長さまが居るから、安定の安心感。

 だからこそ彼の傍には公爵令嬢さまと辺境伯令嬢さまが預けられているのだろう。本当なら彼女らは最後方に配置されるべき存在だ。

 

 で、緊張が全く感じられないまま、魔物との遭遇は全員怪我もなく無事に戦闘を終えたのだった。

 

 ◇

 

 襲ってきた魔物の検分をするからと、休憩を兼ねて進軍は止まっていた。指揮官の人たちがいろいろと議論を交わしているようだけれど、結論はいつになるのやら。

 

 「魔物ではなく魔獣でも出てくれれば僕の出番があるのですが」

 

 「不謹慎ですよ、先生」

 

 「ですわね、お師匠さま」

 

 「手厳しいですねえ、お二人は。――しかし、一体何が起こっているというのか……」

 

 二人の言葉を気にした素振りを見せず、副団長さまは魔物の死骸を魔術具に収めていた。

 

 「ですね。見た感じは呪いにでも掛かっているようですが」

 

 副団長さまの言葉に同意しつつ、疑問を口にする私。

 

 「呪いであれば呪術師ですが、一人で行える規模を超えています。呪術師が複数人集まったとしても無理がありますし、彼らは陰気ですので徒党を組むとは考え辛い」

 

 本当に魔術師と呪術師って相容れないのか、副団長さまの言い方がかなりキツくなってる。呪いの類は卑怯者や臆病者がとる行動と言われている。

 魔術師は魔術で正々堂々と勝負することが根付いているので、陰でコソコソするやり方が気に入らない模様。

 

 ――ならば一体……?

 

 その手の知識が薄い私が考えても答えは出る訳もなく。

 

 「まあ、聖女さま方が示したあの場所へ辿り着けば答えはでるのではないでしょうか」

 

 「むう」

 

 またその話題か。聖女がダウジングで示した場所へ人員を派遣するのは良いけれど、外れた時は本当にどうするつもりなのだろうか。

 

 「まだ気にしていらっしゃるのですか。聖女さまに責任はないと言ったでしょうに」

 

 オカルト的なものを信じ込んでいるのが、個人的に信じられないだけだ。確証もないのに、ダウジングが反応を示した場所へと部隊を派遣するって随分と賭けに出てる。まあ、私だけが反応を示した訳ではないらしいので、まだ気が紛れるけれど。

 

 「何かあるのは確実でしょう。こうして魔物が異常な状態に陥っているのです」

 

 全ての事象には因果がある、なんて言われることがあるものねえ。面倒ごとにさえ発展しなきゃいいかと副団長さまから視線を逸らすと『そんな訳はない』『何かはあると思う』とジークとリンから視線が飛んでくる。

 

 「出発するみたいだぞ」

 

 「参りましょうか」

 

 与太話を切り上げ、進軍開始。目的地までは、あと一日掛かる距離。何度か魔物と遭遇し小競り合いをしながら、確実に距離を縮めていく。

 

 「なんだろう、嫌な感じが強くなってる」

 

 空気が重いというか、なんというか。とりあえず妙な感じ。魔物と遭遇するとその感覚が強くなり倒し終えると霧散するのだけれど、目的地に近づくと空気の重さが増してきている。

 

 「そうか?」

 

 「私には分からないけれど……」

 

 ジークとリンはあまり感じることはないようで、不思議そうな顔をしている。

 

 「確かになにか空気が違いますね。聖女さまが仰る嫌な感じというのは分かりませんが」

 

 「どう表現すればいいか分からないが、空気の色が変わったな」

 

 「ええ。――それに森の雰囲気も異様な感じがしますわね」

 

 妙な感覚を抱えながら陽が沈み夜が来る。安全な場所などないと仮眠を順番に取りつつ夜が明けるのを待ち、ようやく陽が昇る。食事も携帯食料で済ませて、行軍がまた始まって暫く。

 

 「さすがに俺達でも分かるな……これは……」

 

 「ちょっと気持ち悪い、ね……」  

 

 口元を押さえ顔色が優れないジークとリン。魔術師組は昨日から感じていた違和感なので、慣れていた為か騎士や軍の人たちよりもマシという状況。直接感じ取れるレベルとなってしまったので、体調不良者が続出しているようだ。

 

 「部隊を密集させられますか?」

 

 固まって行動するのは危険だけれど、バラけているよりは手間がないだろうと指揮官さまに声を掛ける。

 

 「しかし……いえ、了解いたしました。直ぐに行動に移りましょう。――おい!」

 

 蹲り立ち止まったりしている人が続出しているので、これ以上進んで魔物と対峙しても被害が大きくなるだけと判断したのだろう。何をするのか伝えていないのに、行動に移してくれた指揮官さんに感謝を告げる。

 

 伝達を終えて暫くするとようやく部隊の人たちがこちらへと集まってきた。体調不良を起こしている人が多いので、普段よりも時間はかかったけれど仕方ない。 

 

 「――"母の腕の中で眠れ"」

 

 魔術の詠唱って適当なもので、同じ詠唱でも効果が違うこともある。ようするに術者の気分次第で百八十度効果が違う時もあるのだ。

 詠唱で効果をバレるのを防ぐ目的もあるのだろう。魔物相手ならば人間の言葉を理解していないので気にする必要はないが、人間同士だとバレると対処させるから。

 

 今回はこの嫌な感じを吹き飛ばすか、軽くする方法。防御系の魔術の応用で出来る、結界が一番簡単そうなので、人を集めてもらった訳で。

 

 「あ……」

 

 「少しはマシになった? ごめん、もっと早くやってれば良かったんだけれど」

 

 昨日今日で慣れていたので、周囲に目を配っていなかった。

 

 「ううん、ありがとう。――スッキリしてきた。でも、ここから動けなくなる?」

 

 「結界維持しながら私も動けば一緒に動くって代物だから、大丈夫」

 

 本当に便利だよねえ、魔術って。

 

 どうにか周りの騎士や軍、そして領軍の人たちもマシになってきたのか、立ち上がったり体を動かせるか確認している人が増えてきた。

 ここまで来れば、引き下がるという選択肢は取らないだろうと森の奥深く……ダウジングで反応があった場所を見つめるのだった。

 

 ――目的地まであと少し。

 

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