魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
グイーさまたちを見て驚いていたお婆さまは、何故か私の背の後ろに隠れてチラチラと彼らの方を見ている。亜人連合国の皆さまもお婆さまの珍しい姿を不思議に感じているようで首を傾げていた。
お婆さまをグイーさまたちの前に差し出したいけれど、背中側にいるのでなにもできず見守るだけである。私はバーベキューの準備をしなければいけないし、そのうちお婆さまも島の空気に慣れるだろう。
「どうしたのお婆は」
「本当にね~?」
ダリア姉さんとアイリス姉さんはお婆さまの態度に首を傾げながら声に出しているが、当の本人は答える気はなく私の背中に隠れている。グイーさまは『照れ臭いだけではないか?』とにやりと笑ってなにもしない。
東と北の女神さまも『あらあらまあまあ』と言った感じで、お婆さまに強く関わる気はない様子である。そして南の女神さまと何故か視線が合えば、彼女が私の下へと歩いてくる。
「なにか手伝うことはあるか?」
あれ、女神さまは調理できるのかと疑問に感じつつ、手伝ってくれる方がいるなら助かるなと彼女を視線を合わせる。お野菜カット部隊はアリアさまとエーリヒさまとフィーネさまと私の役目となっていた。他の方はお貴族さまなので無理だろうと最初から声を掛けていない。アリアさまは男爵家のご令嬢だが、大規模討伐遠征で料理ができると知っていた。
「あとはお野菜の準備くらいですね」
「野菜を切れば良いんだな」
南の女神さまに伝えると、なるほどと頷いてくれた。女神さまが料理をしている所を想像し辛いが、どうやら調理の経験はあるようである。
「はい。じゃあ行きましょうか」
「おう」
私の言葉に反応して南の女神さまは後ろを着いてくるのだが、お婆さまが急な展開に追い付けず固まっていた。どうしようと悩んでいるとダリア姉さんとアイリス姉さんがお婆さまを回収してくれた。
なんだろう、昔、女神さまに悪戯でもして怒られたのだろうか。それなら今のお婆さまの状態が理解できると苦笑いになる。
バーベキューの準備は順調のようで、粗方の荷物は出し終えていた。バーベキューは男性陣の作業であるが、副団長さまと猫背さんは神さまの島が気になるようで仕事になっていない。周りの方は魔術師の性だと理解し、彼らを放置している。力仕事はジークがいるし、ディアンさまとベリルさまも参加してくれているので問題なく進んだようである。
「ジーク、エーリヒさま、ジータスさま準備お疲れさまです。ディアンさまとベリルさまもありがとうございます。野菜の仕込みに入りますね」
男性陣に声を掛ければ『頼む』『お疲れさまです』『アストライアー閣下が切るのですか』と声が上がり、ディアンさまとベリルさまは大きい仕事は終えたので、さっそくグイーさまと飲み比べをするようだ。ディアンさまとベリルさまにほどほどにと声を掛ければ、南の女神さまが『親父殿は酔わねえぞ』とお二人に言葉を投げていた。大丈夫かなと心配になるけれど、竜であるお二人が酔うことはなさそうである。
私の肩の上に乗っているクロに竜の方って酔うのと質問を飛ばせば『大量に飲まなければ大丈夫』と返ってきた。お二人が酔っ払って酷い状態となれば、アルコールを抜く魔術もあるので私が施せば良いか。酔いを醒ます魔術が存在しているのも不思議である。まあ私が面白半分でシスターと先任の聖女さまからなんでも習っていたことも原因だし、緊急依頼で良いお小遣い稼ぎになっていたのだから。
そうしてまな板と包丁に各種道具が準備された場所で、役目を負った方たちがお野菜を切り始めている。
フィーネさまとエーリヒさまは二人で妙な空気を流しながら切っている。アリアさまは彼らを羨ましそうに見ているので、カップルを傍目にぼっちでいると寂しくなるだろうとこちらに呼んでみた。アリアさまは子爵邸で南の女神さまと挨拶を済ませているし、南の女神さまも普通に対応してくれる。アリアさまは頑張りましょうと声を上げ大量の野菜を切り始める。
「切れ味が凄いです! 一本欲しいかも……」
「ドワーフさんたちが鍛えた包丁ですからね。なら今使っている包丁はアリアさまに贈ります。子爵邸の調理場で眠っていたので。使わなければ勿体ないですからね」
私の言葉にアリアさまが目を真ん丸に見開いて驚く。どうやらドワーフさんが鍛えた品だと考えていなかったようだ。子爵邸の調理場にはドワーフさんが鍛えた品が沢山ある。包丁に鍋にボールやお玉に、まあいろいろと。
私が沢山発注した結果なのだが、子爵邸の料理人さんたちは鉄製のドワーフさん作の道具を使い、竜のお方の鱗で鍛えた道具類は眠らせていたのである。今回、丁度良い機会だと眠っていた道具を取り出して持ってきたのだ。アリアさまは『え、え?』と驚いているが、今更のような気がするのでなにを彼女に渡そうか。
とりあえずお野菜を切らねばと私もまな板を前にして材料であるお野菜さんを手に取れば、子爵邸の裏庭にある家庭菜園で育ったさつま芋さんだった。アガレス帝国から譲り受け子爵邸で育て始めてから代を経て、甘さがかなり増していた。子爵邸の一部の方から野菜ではなく果物ではと言われているが、果物は木に生るものと定義されているので、子爵邸の裏庭で育ったさつま芋さんが果物に分類されることは一生ない。
「さて、さつま芋さんは固いので切る時に気を付けてくださいね」
「ん。包丁、貸してくれ」
南の女神さまが左手を差し出した。もしかして南の女神さまは左利きなのだろうか。とりあえず南の女神さまの手に合うであろう、小さめの包丁を私は手に取って彼女に渡す。
失礼のないように上手く持ち替えながら刃の部分を持ち彼女に柄を向けると、ありがとなと軽い言葉が返ってきた。南の女神さまは徐にまな板の上にさつま芋さんを乗せる。そうして彼女は左手で包丁の柄を持って振り上げ、まな板とさつま芋さんを目掛けて『スパン!』と包丁を振り下ろす。そしてさつま芋さんが綺麗に半分に切れている。でも、うん。
「待ってください! 左利きですよね? 右手を野菜に添えて猫の手ですよ!! 怖っ!」
私は料理の『り』の字も知らないような南の女神さまの包丁の扱い方に突っ込みを入れざるを得なかった。エーリヒさまとフィーネさまが私たちのやり取りに気付いて目をぱちくりさせているし、私の後ろで控えているジークとリンも危なっかしいと言いたげだった。
「なんだよ、切れてるなら良いじゃねえか!」
南の女神さまが抗議の声を上げる。私たちの側で見ていた北と東の女神さまが面白そうな顔を浮かべているのだが、見ていないで危なっかしい妹さんを止めて欲しい。
「見ているだけで怖いです。手を切りますよ!」
本当に危ないので気を付けて欲しい。指が飛んだらどうするのだろうか。いや、魔術で治せるけれど、そもそも切らないように気を付ければ良いだけである。私の突っ込みに面白いからもっとやれと言いたげに、北と東の女神さまが視線を向けている。だから南の女神さまを御してくださいと言いたいが、きっと聞いてくれないので私は諦めた。
「そうなりゃ親父殿か北と東の姉たちに治して貰えば良いだけの話だぞ?」
「それはそうですが、痛い思いをするのは嫌でしょう? ……あ、私の右腕!」
包丁で手を切れば超痛いだろうに。女神さまたちは長く生きているためなのか、その辺りの感覚が鈍いようである。はあと息を吐きたくなって、ふと頭の片隅から私の右腕のことが過った。
「……忙しい奴だなあ」
南の女神さまが目を細め、呆れ顔で私を見ている。グイーさまはお酒を楽しんでいるので、南の女神さまにとりあえず私の右腕のことを聞いてみよう。
「グイーさまの治療を受けてから、私が魔術を使うと右腕に熱がこもるのですが、原因を知りませんか?」
「ナイの腕は親父殿が治したからな。親父殿も気付かないうちに、なにか力を付与した可能性もある」
私の質問に南の女神さまが真面目な顔になる。この辺りの切り替えは早いようで助かるし、北と東の女神さまも私の言葉に耳を澄ませながら、南の女神さまの言葉にうんうんと頷いていた。
どうやら三女神さまの見解は同じようだ。ということは私はグイーさまからなにか力を譲り受けたようである。魔術を使用する際に熱がこもって魔力の流れが良くなっているくらいだが、今後変化することはあるだろうか。しかしまあ、グイーさまも神さまなのに緩い方である。規律に厳しいよりは良いのかもしれないが、人間に神さまの力を簡単に与えても良いのだろうか謎だった。
「神さまなのにですか?」
「力を持て余している部分もあるからなあ。親父殿は豪快だが、逆を言えば適当だろう?」
南の女神さまが肩を竦めながら、お酒を嗜んでいるグイーさまを見た。彼はエル一家と話に興じているようで、楽しそうに笑っている。確かにグイーさまは豪快だ。でもまあその豪快さに助けられている部分もあるので、なにも言えない。
「……返す言葉に困ります」
「まあ、そういうことじゃねーか。魔術が使いやすくなった、とかだろ? 死人を生き返らせるとかじゃねえなら良いだろ」
南の女神さまが言い終えると、また包丁をスパン! とさつま芋さんへ振り下ろした。綺麗に輪切りになっているけれど、見ているこちらは危なっかしくて仕方ない。とりあえず手本を見せてみようと私は彼女を横目で見ながら、さつま芋さんをまな板の上に乗せる。料理が好きというわけではないが、自分で料理を作って食べていたので包丁を扱うくらいは簡単だ。
「南の女神さまも適当じゃないですか」
右手で包丁の柄を持ち、左手をさつま芋さんに添えて猫の手をとり包丁を入れる。すっとさつま芋さんに包丁の刃が入っていき、あまり力を入れることなく切れた。ドワーフさんが鍛えた包丁は凄いと感心しながら南の女神さまを見れば、彼女は私の真似をして右手をさつま芋さんに添えて、左手に包丁を持ち刃を入れた。
先程の振り下ろしよりも凄く安心できたし、慣れるのが早いのか南の女神さまはテンポ良くさつま芋さんを切っていた。私より包丁捌きが上手くないかなと疑問符を浮かべると、南の女神さまが一旦手を止めて前を見た。
「そうか? って、親父殿はなにやってんだ。というか黒天馬、親父殿は重いだろうにすげー速く走ってるな」
私も彼女に釣られて前を見れば、少し前に見た光景が目の前に広がっている。
「ルカ、凄い速い速度で走っていますね……グイーさまは鞍を付けていないのによく落ちないなあ」
南の女神さまが呆れた声を上げ、北と東の女神さまはくすくすとご自身の父親を見て笑っている。グイーさまはルカの背に跨って、神さまのお屋敷の庭を爆走していた。
つい先日、どこかの某辺境伯ご令嬢さまがルカに跨り、爆走していた光景と被っていた。グイーさまはルカに鞍も付けずに跨っているし、お酒を飲んでいるなら酔いが早まりそうだけれど……大丈夫か心配になってくる。
「あ、落ちたぞ」
「え」
女神さまたちはグイーさまが地面に落っこちたのに呑気なものだった。一応、彼は受け身は取っていたけれど、痛いことに変わりはないだろう。急に背中の上が軽くなったルカは脚を止めて、後ろを振り向き急いでグイーさまの下へと駆け寄った。
ルカは顔を彼に寄せて『大丈夫?』と言いたげである。グイーさまは心配しているルカににかっと笑って、顔を撫で地面から立ち上がる。懲りずにまたルカの背に乗って、今度は空を飛び始めた。
「ま、親父殿なら死にはしない。ほら、野菜切るぞー」
「はい」
南の女神さまの軽い調子にそれもそうかと納得して、私たちは大量のお野菜さんの処理を進めるのだった。
◇
グイーさまがルカの背から何度か落ちそうになるのを目撃しつつ、野菜のカットが完了した。鞍を付けないまま騎乗したのが悪かったのか、単にグイーさまの運動神経が良くなかったのか。真相は闇の中であるがご本人は凄く楽しそうにしているから問題は少ないはずである。
土で汚れたグイーさまがルカと一緒に私の下にやってきた。彼は白い歯を見せながら笑っているのだが、ルカも唇を捲り上げて歯を見せている。二人してなにをしていると南の女神さまが呆れ顔をアリアリと浮かべ、北と東の女神さまが『楽しそうでなにより』『お父上は島から出られない身ですから』と小さく息を吐いていた。
「黒天馬のルカは凄いな! 儂を乗せても速く走れるとは。エルとルカの話ではナイのお陰と言っていた。お前さん、魔獣や幻獣に縁があるなあ」
グイーさまが私の足元にいた毛玉ちゃんたち視線をやってしゃがみ込む。毛玉ちゃんたちもグイーさまに気が付いて、彼にわらわらと寄って行った。わしゃわしゃと太い腕で毛玉ちゃんたちを撫でるグイーさまの姿は、面白おかしい光景だった。
桜ちゃんは早々にお腹を見せてご機嫌だし、楓ちゃんも椿ちゃんも楽しそうである。松風と早風が少し離れて地面にお尻を付けて座り込んだのは、女の子たちを優先させたいからだろうか。ヴァナルのように紳士に育ってくれているようでなによりだ。
グイーさまは桜ちゃんのお腹をひとしきり撫でで、楓ちゃんと椿ちゃんの顔を両手で挟み込みわしゃわしゃしている。彼の行動が気に入らなければ毛玉ちゃんたちは抵抗するので、嫌ではない様子。私はふうと息を軽く吐いて、グイーさまの下へと行く。準備は整っているので、グイーさまにバーベキューの開始の音頭を取って頂きたい。
「悪酔いしていませんか?」
私はグイーさまの下へと辿り着けば、松風と早風が私に気付いて足元へ寄ってくる。彼らの頭を撫でながら、桜ちゃんと椿ちゃんと楓ちゃんを相手にしているグイーさまに視線を向ける。
「大丈夫だ。儂は酒で酔わん!」
グイーさまが自信満々に言い切った。お酒で酔うことはないらしいが顔が少し赤い。やはりルカの背に乗って運動すればアルコールの周りは早くなるのではなかろうか。とはいえグイーさまは神さまであり、人の身とは一線を画す存在である。人間の常識は通用しないのかと納得して話題を変えた。
「話が逸れてしまいますが、グイーさまに治して頂いた私の右腕が魔術を使うと熱がこもるのですが、なにか原因を知っていますか?」
私は自身の右腕の調子をグイーさまに伝える。魔術の発動が早いし、治癒院で治癒を施したり遠征に出てバフデバフを掛ける際には便利だけれど、人間以上の存在になっていないか心配になる。私の問いにグイーさまが首を傾げながら、毛玉ちゃんたちから腕を離して口を開いた。
「ちょっぴり儂の力が入ったからではないかな、問題はなかろう?」
にかっと笑いながらグイーさまが立ち上がる。ジークより背が高いと感心するが、彼の答えは適当過ぎた。
「……グイーさまのちょっぴりは、私にとって凄く多い気がしますが」
神さまのちょっぴりは人間にとって凄く多量な気もする。確かに今は問題ないけれど、今後なにかに発展しそうだ。それがなにかは答えられないけれど。
「細かいことを気にしていたら禿げるぞ、ナイ」
「細かいことも気にしないと、大事に発展することがあるので」
今更だが、私はトラブル体質だ。影響範囲が自分だけなら良いけれど、ジークとリンにクレイグとサフィールに影響があるなら問題だし、アストライアー侯爵家に関わる人たちにも波及したら面倒なことにもなる。
「なんだ……その、頑張れ? まあ、儂が娘の引き籠もりを解消して欲しいと願ったこともあるが、人間が我らの島に訪れている時点で大きな出来事だなあ」
グイーさまは腕を組んで笑い、バーベキューの準備は整ったのかと私に問うた。
「あ、準備は終えたので、そろそろ始めましょう。開始の音頭を取って頂けると助かります」
私は本来の目的を彼に告げる。
「ナイではなく、儂で良いのか?」
「はい。言い出しっぺはグイーさまなので」
西の女神さまの引き籠もりを解消して欲しいと言い出したのはグイーさまである。引き籠もりの件がなければ、神さまの島に二度も訪れることはなかっただろう。やはりグイーさまが開始の音頭を取った方が良さそうである。しかし私の言葉を聞いた彼は、腕を組んだままむむむと片眉を上げなにやら考えていた。
「バーベキューを提案したのはナイだぞ。む……よし。儂とナイで皆に挨拶しよう!」
そう告げたグイーさまは私の後ろに回って、大きな手で私の背中を押す。私の後ろで護衛を務めてくれているジークとリンはなにも言わないまま、静かに歩いているだけだ。グイーさまの行動を止めてくれても良いのに、そっくり兄妹は問題ないと判断しているようである。
仕方ないかと諦めて私はグイーさまの横に立ち、さらに私の横には三女神さまが並んだ。そして正面には今回一緒に神さまの島に訪れた方たちと、神さまの島で生活している他の神さまも集まってくれていた。いつの間にと驚くが、転移ですっと現れていた。おそらくグイーさまが前もって話を通していたようだ。飲み物はお酒とジュースと水を用意していた。今回、お貴族さま式ではないので、それぞれ飲みたい物を各自自分で入れるスタイルである。とはいえ慣れていない方もいるので、慣れている人が手早く注ぎ入れていた。協力的な方が多くて良かったと私はグラスを手に持つ。
「皆にグラスは行き届いたか? 護衛の者も交代で楽しめ。食材の提供はナイが用意してくれた。島で見慣れぬ食べ物があるから興味深い。娘が出てきてくれるよう、皆、楽しんでくれ!」
言い終えたグイーさまが私に視線を向ける。
「この度は島にお邪魔させて頂き感謝致します。皆さま方に出会えたこと、そして西の女神さまが部屋から出てくることを願って」
私も言い終えてグイーさまと視線を合わせて、手に持っているグラスを前に掲げる。
「乾杯」
「乾杯」
グイーさまと私の声が重なった数秒後に『乾杯』と声が上がるのだった。そうして熾した炭の上に網を張り、お肉やお野菜が置かれていく。南の島から海鮮も持ってきているし、ウインナーや腸詰系のお肉ももちろんある。子爵邸の料理人さんが邸で日持ちのする料理を作ってくれており、結構豪華なバーベキューとなっていた。
「これはなんだ?」
グイーさまは下界の野菜が珍しいのか、網の上で焼いている野菜を指差してエーリヒさまに問うていた。何故かエーリヒさまはトングを持って、焼き肉奉行を務めている。エーリヒさまが焼き肉奉行を務めているため、緑髪くんも巻き込まれていた。炭から出る煙に目を細めて涙目になっており、慣れない作業に苦戦しているようだ。
「マンドラゴラもどき、という野菜らしいです。私も初めて見たのですが、アストライアー侯爵閣下の屋敷の庭で採れるとか」
私はエーリヒさまの言葉に驚いた。マンドラゴラもどきは持参したお野菜さんの中に含まれていなかったはず。子爵邸で育ったマンドラゴラもどきは亜人連合国のエルフの皆さまに横流ししているのである。
流石に悲鳴を上げながらまな板の上に乗るマンドラゴラもどきを調理する気にはなれないが、捨てるのも勿体ないということでダリア姉さんとアイリス姉さんに相談して亜人連合国に流す形を取っていたのに。なんでと首を傾げているとお婆さまが私の横にぱっと現れた。
『妖精が紛れ込ませたんじゃないの?』
お婆さまはクロがいる反対の肩の上に乗って首を傾げている。どうやらお婆さまが荷物の中に忍び込ませたのではないようで、他の妖精さんの悪戯だったようである。マンドラゴラもどきは悲鳴を上げるため、かなり調理し辛いのだが役目を担ってくれたのは誰だろうか。すると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私の前に立った。お二人はグラスを持っており、中身は果物酒のようである。
「マンドラゴラもどきが中に入っていたから、なんの疑問も持たずに捌いたわ」
「みんな驚いてマンドラゴラもどきを切ろうとしてくれなかったからね~」
どうやらマンドラゴラもどきを調理してくれたのは、ダリア姉さんとアイリス姉さんのようである。エルフの方々はマンドラゴラもどきの扱いになれているため、普通に料理をしてくれたようである。悲鳴さえ上がらなければ見た目は人参である。滋養強壮があるらしく、エルフの方々の間で人気のある野菜なのだとか。
「よく逃げ回らなかったですね」
マンドラゴラもどきは成長すると勝手に畑の地面から抜け出して、庭を走り回るのだ。力尽きるとぱたりと倒れ込んで、地面に転がっているのを見たことがある。子爵邸の庭を掃除してくれる下働きの方や庭師の小父さまが回収してくれ、亜人連合国行きの箱に入れてくれているとか。
「おそらく、妖精が魔法を使って眠らせて荷物に紛れ込ませたのね」
「妖精だからね~まあ、味は保証できるから。あと寝不足の人が食べると元気になるよ~」
食べ慣れているダリア姉さんとアイリス姉さんはマンドラゴラもどきに忌避感はないようである。野菜はカットされているので見た目に問題はないけれど、元の姿を知っている身としては少々食べ辛い品であった。まあ焼いてくれてお皿の上に置かれたなら食べるけれど。私は持っているグラスの中身――ジュース――を飲み干して、お肉を貰おうため待っている人の後ろに並ぶ。
「ジークとリンは食べたいのある?」
私は後ろを振り向いて、そっくり兄妹に声を掛けた。一応、二人にも自由時間があるのだが、食べたい品や豪華な品は先に提供されてしまうだろう。食べたい品があるなら早めに確保しておかないと食べられなくなる。
「俺たちは交代で食べることになっているから、ナイは気にするな」
「ナイの好きなもの取れば良いよ」
やはり私の考えていた言葉がそのまま返ってきた。仕方ないかと諦めてクロに顔を向けた。
「む。クロは?」
『ボクは果物を貰うから大丈夫。ありがとう、ナイ』
肉類が駄目な方用に果物と野菜は多めに持ってきている。クロとアズとネルは果物を食べるようで、テーブルの上に置かれている大量の品に視線を向けていた。取り分けて貰ったら果物の方へ行こうとみんなに告げて、反対側へと視線を向ける。
「お婆さまも?」
『わたしも肉類は苦手だし、果物や野菜が好みね~』
私の肩の上に腰掛けているお婆さまもクロたちと同様に果物と野菜が好みのようである。しかし妖精さんは小さいので、人間のサイズにカットされた野菜や果物で大丈夫だろうかと首を傾げた。
『魔法で切るから平気よ。それに貴女の側にいると魔素が多いから、そっちでお腹を満たせるわ!』
「……それはどうかと」
『まあ良いじゃない。楽しまなきゃ損ってものよ!』
お婆さまの言葉にそれもそうかと頷いて、網の上で踊っている素材を見渡した。お肉にお野菜に海老に烏賊に蟹もある。ヤシガニさんもいるので、おそらく南の島のダークエルフさんか魚人の方が用意してくれたのだろう。
腸詰にチーズとハム、パンも持ってきているからサンドイッチも作れる。そして生野菜もディップに付けてそのまま素材の味を楽しめるようにと、タレを料理人さんが沢山持たせてくれた。お腹いっぱい食べようと私は決意するのだった。
――あれ、副団長さまと猫背さんはどこ?