魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0526:久方ぶりの。

 グイーさまの情報によれば西の女神さまの自室の扉が開いたらしい。ご本人が部屋から出てきているかまでは分からないけれど、グイーさまには感じるものがあったようだ。グイーさまはご機嫌で、南と北と東の女神さまは『マジか……』みたいな感じで驚いている。

 私も踊っただけでずっと閉まっているはずの部屋の扉が開くとはこれっぽっちも考えていなかたので、あっけなくグイーさまからの依頼を達成したことに驚いている。周りの方々も驚いているし、何故扉が開いたのかと疑問が増えていく。

 

 「凄いぞ、ナイ! 数千年閉じ籠った娘の部屋の扉が開いた!」

 

 がははと笑うグイーさまが私の背中をべしべし叩く。少し痛いけれど、我慢できないほどではない。私とグイーさまの足元では桜ちゃんを筆頭にぐるぐると周りを走って、部屋の様子を見に行かないの~と誘っている。

 私がもう少しだけ待っていてと視線を飛ばせば、走る速度を落として五頭全員が地面にお尻を付けて『早く行こう~』と再度急かしていた。

 

 「いえ、私が凄いのではなく、西の女神さまが外に出ると決心してくれたことが凄いのかと」

 

 「謙遜するな。お前さんたちがいてくれなければ、我らは雁首揃えて見ているだけしかできなかった! よし、行こう。毛玉たちも娘を迎えてやってくれ!」

 

 グイーさまはべしべしと私の背を叩いていた右腕の動きを止め、お屋敷の玄関を指差す。部屋の扉が開いたことを感知できたのは、お屋敷はグイーさまの力によって創造したからと教えてくれたのだった。

 何故か私はグイーさまの隣を歩き、その後ろに護衛のジークとリンと三女神さまが歩いている。他の面々は少し距離を取って歩いていた。もう少し近くても良いのではと言いたくなるが、今は西の女神さまの生存確認が優先される。ミイラみたいに干からびていないよねと心配しながら、ふと疑問が勝手に口から出ていた。

 

 「引き籠もっていた間、西の女神さまはご飯をどうしていたのでしょうか?」

 

 私はグイーさまを見上げながら問うと、彼は私を見下ろしながら口を開いた。

 

 「我々は神だからな。不老不死に程近い存在だから、食べなくとも問題はない……そんな渋い顔をするな、ナイ」

 

 数千年間お腹が空いていることを想像したら、私の眉根に皺が寄る。お腹が空けば動く気力も湧かないし、バーベキューの匂いは西の女神さまにきつかたのではなかろうか。実行した私が考えることではないけれど。

 

 「食べられないことを想像すると、どうにも……」

 

 飢えるのはもう勘弁して欲しいし、できることなら飢えている人がいない世界であって欲しい。とはいえ、いろいろと難しいことは知っているので儚い願いであることも分かっていた。

 

 「あー……お前さん、飢えていた時期があったものな。すまん」

 

 「いえ。今はお腹一杯食べられるので幸せです」

 

 グイーさまが後ろ手で頭を掻きながら謝ってくれるが、単に疑問に思っただけで他意はない。気にしないで欲しいと私が首を横に振れば、グイーさまがほっとしたような顔になる。

 創星神さまなのに近所の小父さんレベルの対応で接してくれる。彼の腰が低いのは有難いけれど、大陸の皆さまに私とグイーさまの仲は良好であると知られたくないような。今後のことを考えているれば、いつの間にか女神さまの部屋の前に辿り着いていた。

 

 「おお、扉が開いているぞ、ナイ!」

 

 「本当ですね。開いて良かったです」

 

 グイーさまは顔を明るくしているから、西の女神さまを心配していたのだろう。親子愛だなと感心しながら、部屋を確かめるのはご家族の方にと私は願い出る。そうするとグイーさまは三女神さまに部屋の中の確認を頼んでいた。

 男性が女性の部屋に入ることが憚れるのは神さまの世界でも同じらしい。グイーさまに呼ばれた北と東の女神さまは南の女神さまの背を押して、少し扉が開いている部屋の前に立たせる。怪訝な顔を浮かべた女神さまは後ろ手で頭を掻きながら、小さく息を吐いた。

 

 「あ? あたしが先頭を切るのかよ。たく、しゃーねえな。西の姉御、生きていると良いんだが……」

 

 死んだから扉が開いたような南の女神さまの言い分であった。そうして息を吸った女神さまは右手を上げて握り拳を作る。

 

 「おーい、西の姉御、入るぞー!」

 

 声を上げると共に部屋の扉を思いっきりノックする南の女神さま。割と声も大きいので、西の女神さまが部屋の奥にいると仮定しているのだろうか。

 

 「……返事がねえな。仕方ない、強制的に入るか」

 

 「入ってはいけないなら、入れないでしょうしね」

 

 「お姉さまの電撃を頂きたくはないですわね」

 

 深く息を吐いた南の女神さまと、あらあらまあまあと少し困った様子で北と東の女神さまが片手を頬に当てている。もしかして北と東の女神さまが南の女神さまを前に立たせたのは、部屋に入ることを拒否される可能性を考えてだろうか。姉に逆らえない末妹って損な立場だなと南の女神さまに悲哀の視線を向けてしまう。

 

 「親父殿、行ってくる」

 

 「頼む」

 

 南の女神さまの行ってくるが、逝ってくるに聞こえるのは気の所為だろうか。神さまなので死にはしないだろうが少し心配である。もう一度、南の女神さまは部屋の扉をノックして『入るぞー!』と大きな声を上げた。そうして南の女神さまが扉を開いて部屋の中へと入って行く。北と東の女神さまも彼女に遅れて入って行った。どうやら電撃を頂くことはなかったようで、私たち一行は胸を撫で下ろす。

 

 グイーさまは真剣な表情で開いた扉の先を真剣に見つめていた。扉が勝手に閉まるようなホラー展開ではなくて良かったと安堵しながら、暫く待っていると三女神さまが戻ってきた。西の女神さまの姿は見えないので、結局は部屋に閉じ籠ったままだろうか。

 

 「おーい、クロ。こっちにきてくれないか?」

 

 扉と少し離れた所で南の女神さまが軽い調子でクロを呼ぶ。呼ばれたクロは小さく首を傾げて疑問符を頭の上に浮かべていた。

 

 『ボク? 良いけれど、どうしたの?』

 

 クロはこてんこてんと顔を揺らしながら南の女神さまに問う。女神さまたちは扉の側まで移動して、私の前に立ち肩の上のクロを見つめている。

 

 「西の姉御がお前さんと話がしたいってよ」

 

 南の女神さまが軽く息を吐いてクロを見つめた。

 

 「どうやらなにかあるようですわ」

 

 「お願いできませんか?」

 

 北と東の女神さまもクロに視線を向けている。どうして西の女神さまがクロに興味を引かれているのか疑問だが、竜が珍しいのかもしれない。

 

 『お話くらいなら良いよ。でも閉じ込められたりしない?』

 

 「大丈夫だ。あたしたちも一緒に行く。心配するな」

 

 南の女神さまの声にグイーさまが『儂は? 儂は呼ばれていないの? ねえ、娘よ、無視しないでぇ!』とちょっぴり涙目になっている。

 

 『ナイも一緒に呼ばれていれば良かったけれど、ごめんね。ボク、行ってくる』

 

 クロがぐしぐしと私の顔に顔を擦り付けて、肩から飛び上る。そうしてくるりと身体を反転させて私と視線を合わせた。

 

 「うん。こっちは気にしなくて良いから、西の女神さまを部屋から連れ出してくる大役、お願いします」

 

 『できると良いけれどねえ』

 

 私とクロが笑い合えば、クロは南の女神さまの前に飛んで行った。女神さまは右腕を胸の前にクロに差し出して、乗って良いぞと無言で訴える。クロは少し遠慮しがちに南の女神さまの腕に乗り翼を閉じた。そうして部屋の奥へとクロと三女神さまが進み姿が見えなくなるのだった。

 

 ◇

 

 ――ボクに話ってなんだろう。

 

 西の女神さまとボクが関わったことはないはずだから、竜が珍しいのかなと首を傾げる。もしかして前のボクが彼女と関わっていたのかなと、受け継いだ膨大な記憶を探ってみるけれど良く分からない。

 むむむと唸っても仕方ないので、西の女神さまとお話すれば分かる筈と南の女神さまの顔を見上げる。ナイに少し似ているのは、女神さまと彼女が黒髪黒目だからだろうか。それならばユーリも南の女神さまに似ていることになるけれど、少し雰囲気が違うんだよねえ。本当にナイは面白い子だし、ボクに腕を差し出してくれた南の女神さまも気さくな人物である。

 

 『お話ってなんだろう?』

 

 「さあな。クロは西の姉御と話すのは緊張しないのか?」

 

 ボクが首を傾げると、南の女神さまが苦笑いを浮かべている。北と東の女神さまは彼女の後ろを静かについてきているだけで、お話の邪魔をする気はないみたい。

 

 『女神さまだから緊張するけれど、結局は相手によるものかなあ……』

 

 ボクは誰かとお話するのが大好きだけれど、相手もお話し好きとは限らない。前のボクが興味を持って誰かに話しかけてみても、逃げられたり敵意を向けられたりすることが多かった。ゆっくりとお話できた機会は数えるほどしかなかったなあ。もちろん竜族とはほとんど仲良くお喋りしていたけれど、それは前のボクが大地から産まれ出た力のある存在だったからだ。

 

 「ナイもクロも肝が太いな。地上の連中はあたしたちに恐れ戦くけど、ナイとナイの回りの者たちはあんまビビんねえ」

 

 『恐れられたいの?』

 

 「うんにゃ。ナイたちの側にいると、女神の力を頼られることはないから一緒にいて楽だ」

 

 もしかして南の女神さまが地上に頻繁に現れていたのはお友達が欲しかったのかな。まるで前のボクみたいだと苦笑いを浮かべそうになるけれど我慢をする。

 同族や保護したみんなはボクを敬ってくれていたから、少しだけ、ほんの少しだけ距離があった。今のボクとナイとの関係は心地良い。前のボクの生まれ変わりと認識しているけれど、ナイは対等にボクと接してくれる。偶に馬鹿を言い合ったり、冗談を飛ばすのは楽しいものだから。

 

 『女神さまも大変だねえ~』

 

 「それで済ませられるクロがすげえよ」

 

 南の女神さまが少し肩を竦めるけれど、ボクが平常心を保っていられるのはナイの回りではトラブル塗れだから。そしてナイはトラブルを解決する力を持っているから、こうして安心していられる。

 さて、西の女神さまはどこにいるのかなと首を傾げると、大きなベッドのある部屋へと三女神さまが入って行く。部屋に入ると背の高い儚い雰囲気の女の子が窓際に立って、ボクに視線を向けていた。

 

 「……ああ、君は。やはり――なんだね」

 

 背の高い女の子が前のボクの名前をぽつりと呟けば、一筋の涙を流して一歩二歩と足を進めてボクたちの方へとくる。そうして彼女は両手合わせて手の平をボクの方へと向けた。

 こちらにと誘われているので、ボクは南の女神さまの顔を見る。南の女神さまは一つ頷いてくれたので、向こうに行っても問題はないようだ。ボクは自慢の翼を広げて儚い雰囲気の女の子の手の平に乗れば、前のボクの記憶の奥底にある光景がぱっと浮かんだ。

 

 『――あ』

 

 「思い出してくれたの?」

 

 儚い雰囲気の女の子は少し嬉しそうに笑う。でも前のボクと今のボクは違う存在だと伝えなければと、ボクは小さく首を傾げながら前のボクの一生がどんなものか彼女に語る。彼女は静かにボクの話を聞いてくれて、最後に残念そうな顔をしていた。

 

 『ごめんね、前のボクは貴女が西の女神さまだったって気付いていなかったみたい』

 

 「気にしないで良い。私は彼と対等な時間を過ごせたことが嬉しかった。そっか……長い時間の間にいろいろなことが起こっていたんだね。彼の最期を見届けられなかったのは残念だけれど……君という希望を残してくれたのか」

 

 儚い雰囲気の女の子は残念そうな顔から綺麗な笑みを携える。前のボクの死を悲しむ者が多いけれど、新たに得た命を喜んでくれるのは有難いことだろう。

 

 「うん。ナイのお陰だよ~」

 

 「ナイ? ナイって誰?」

 

 こてんと儚い雰囲気の女の子が首を傾げている。――ごめんね、ナイ。彼女の感情がイマイチ掴めないけれど、またトラブルが起きそうだと心の中で謝る。でも、多分きっと大丈夫だろうと西の女神さまの顔を見るのだった。

 

 ◇

 

 ――クロと三女神さまが西の女神さまの部屋へと足を踏み入れて、十分ほど経っている。

 

 私たち一行は西の女神さまの部屋の前で待っているのだが、中にいる方々が出てくる気配はない。西の女神さまとクロの話し合いが妙な方向にでも進んでいるのだろうか。クロであれば女神さま相手でも問題なさそうであるものの、出てくるのが遅ければ心配になる。

 大丈夫かなあとジークとリンの顔を見上げると『待つしかないな』『クロなら大丈夫だよ』と言いたげな顔をしていた。あまりにも長ければ強行突破するために許可を取ろうとグイーさまの方へ顔を向ければ、彼は微妙な顔で西の女神さまの部屋を見つめている。神さまでも家族愛があるのだろう。地球の神話のようにドロドロな関係ではなくて良かったと私は小さく息を吐いた。それにしても。

 

 「長いね。大丈夫かな」

 

 私はたまらず声を上げるとそっくり兄妹が苦笑いを浮かべる。私がソワソワしているならば、どこぞの辺境伯令嬢さまの方が気が気ではないようで、ご令嬢らしくない妙な表情を作っていた。流石に某ご令嬢さまのような心配はしていないし、最悪はグイーさまと一緒に西の女神さまの部屋に強行突破を試みる腹積もりだが……むーっと渋い顔を浮かべると、部屋の奥から人影が見えた。

 

 そうして一頭の小さな白銀の竜がぴゅーと私の方へと飛んきて、私の近くで何度か翼を羽ばたいてそのまま私の肩の上に乗った。

 

 『ナイ~ただいま。あのね、西の女神さまがナイに話があるって』

 

 クロが私の肩の上で用件を伝え終える。いつもであればクロの顔が私の顔にぐりぐりと擦り付けられるのだが、今日はそれがない。珍しいなと不思議に感じつつ、こんな時もあるのかと意識を切り替えて私は口を開く。

 

 「おかえり、クロ。お疲れさま。西の女神さまが私に話があるって一体どういうこと?」

 

 西の女神さまに私は一度も会ったことはないのに、どうして初手で話がしたいと言い出したのだろう。長い間自室に引き籠っていて、久しぶりに部屋を出るのならばご家族の方と一番初めに話すのがセオリーではないだろうか。

 全く無関係な私にどうしてと考えていれば、ふと頭の中に一つの可能性を思いつく。西の女神さまは西大陸で起きたことを全て把握しているのだろうか。それならば、私が聖王国に喧嘩を売って潰そうとしていたことや、リームの聖樹を枯らしたことを怒っていても仕方ない。

 私が私のために動いたことも仕方のないことのように思うが、立場や視点によって出来事の正否は違ってくる。やばい怒られると背中に冷や汗が流れるものの、諦めるしかないようだ。だってもう、西の女神さまと彼女の部屋へと入って行った三女神さまの姿が見えているのだから。

 

 『…………なにか思うことがあるみたい』

 

 クロが少しだけ声のトーンを落として答えてくれるけれど、凄く曖昧な答えだった。西の女神さまの姿は見えているので、腹を括って女神さまと対面するしかないのだろう。

 私はふうと息を吐いてから、大きく息を吸って背筋を伸ばす。そういえば聖女の舞からそのままなので私の格好は聖女の衣装である。あれ、女神さまに仕える巫女とかって勘違いされないよねと心配になってくるけれど、南の女神さまとの初対面の時は雷撃のようなものをブッパされたので関係ないか。

 

 ゆっくりと西の女神さまは私の下へと進み、五歩ほど距離を保ち立ち止まった。南の女神さまは活発な雰囲気を持ち、北と東の女神さまは大人しそうな雰囲気なのだが、西の女神さまを一言で表すならば存在が儚い方である。凄く薄いというか、なんというか。

 それでも女神さまなのか背が高く、手足は長いし、顔立ちも凄く良い。身長が高いのは羨ましいなと私は西の女神さまの顔を見上げ、失礼のないように礼を深く執る。

 

 「貴女が竜の仔が言っていた、ナイ?」

 

 西の女神さまが私を見下ろしながら問う。背が低くて申し訳ないけれど、十八歳を超えても一向に伸びる気配はない。どうにかならないかなと考えているので、グイーさまにでもお願いしてみようか。でもグイーさまにまで希望はないと言われてしまえば、私は絶望の淵に立たされてしまう。せめて前世の身長があればと嘆いてしまうのは、前世の記憶持ち故の弊害である。

 

 「お初に御目に掛かります。アルバトロス王国所属、ナイ・アストライアーと申します」

 

 私は名乗りを上げれば西の女神さまは目を細めた。私は彼女の機嫌を損ねたのだろうかと心配しつつ、グイーさまと三女神さまになにかあれば助けて下さいと視線を向けた。

 グイーさまは『助けられる状況ならな』と言いたそうな顔をし、南の女神さまは『努力する』と渋い顔になり、北と東の女神さまは『さて、どうかしら』『姉さまが一番強いですからねえ』ととんでもないことを言いたげだった。私に明日はあるのだろうかと頭を抱えたくなるものの、まだ私の命が消えるわけではないと西の女神さまと顔を合わせる。

 

 「名前は竜の仔から聞いたよ。君が大きな白銀の竜の最期を看取ったって」

 

 西の女神さまが私を静かに見下ろしながら告げる。少々圧を感じるのは気の所為だろうか。というか、クロ……話を脚色して西の女神さまに伝えている。あれは死期を迎えたご意見番さまが永遠に眠る場所を求めていたのに、銀髪くんが手を出してアルバトロス王国と辺境伯家が動く羽目になったのだ。若干の違和感を受けるので、訂正しておいた方が良かろうと私は口を開く。

 

 「看取ったのは違うかと。力尽きた竜が瘴気を発し、浄化儀式を執り行っただけです」

 

 ご意見番さまが卵を残したのは彼の意思だろうし、なにかやり残したことでもあるのだろう。それを叶えるためにクロが産まれたのかどうかまでは分からないけれど。クロは私の肩の上でこてんこてんと首を傾げながら、西の女神さまと私に視線を行ったり来たりさせていた。

 

 「……はあ」

 

 西の女神さまが大きく溜息を吐いた。私は何故西の女神さまから呆れが含まれた視線を受けなければならないのだろうか。

 

 『あまりピンときていないみたいだよ。ナイだから仕方ないのかなあ……』

 

 クロが目を細めながら西の女神さまに語りかけた。私は物事に対してそんなに鈍いつもりはない。単にあの場に居合わせた人の中で私が一番魔力量を持ち、浄化儀式の適任者だっただけである。

 西の女神さまが何故、その話を持ち出したのかイマイチ理解できていないので話が平行線になるのか。改めると、西の女神さまの話の意図を聞いていない。この際、ご意見番さまの最期を看取ったとかは別として、女神さまの真意を聞いておいた方が良いのだろうと私は口を開く。

 

 「しかし、何故、わたくしに疑問を投げられたのですか?」

 

 「部屋の窓から竜の姿が見えて、何万年か前のことを久しぶりに思い出した。白銀の竜と過ごした時間は楽しかったなって」

 

 女神さまは私の問いに答えてくれた。時間感覚がおかしいけれど、外にいたクロたちを見て昔を思い出してくれたようである。それが切っ掛けで部屋の外に出る決心を付けてくれたようだけれど、クロと一体なにを話したのやら。まあ、それは女神さまとクロとの間で知っておけば良い事柄である。それより私には気になった言葉があった。

 

 「クロ……西の女神さまはご意見番さまと話したことがあるのですね。しかし今はつまらないと?」

 

 私はもう一度、西の女神さまの顔を見上げる。先程の言葉から推測すれば、今はつまらないと主張しているように聞こえた。だから引き籠もっていたのかなと改めて聞いてみる。遠回しに。

 

 「うん。でも白銀の竜の生まれ変わりを見つけたから。また話がしたいなって」

 

 西の女神さまは一つ頷いて言葉を続けた。最初は弱かった存在の人間が成長して文明を手に入れ、西の女神さまの力を必要としなくなり西大陸から神の島へと戻ったそうだ。

 それから暫く西大陸を神の島から見守っていたものの、人間は醜い存在に成り下がってしまったと。人間の意識改革を促すために地上に降臨しようかと考えてみたが、南の女神さまの行動を見て意味は薄いと悟ったそうだ。

 

 「え……あたしかよ!」

 

 南の女神さまが突然話題に上がったことに驚いて肩をびくりと揺らした。やはり長姉には敵わないのか、南の女神さまは西の女神さまを敬っているように見える。北と東の女神さまに対しては普通の態度なのに……面白い関係性だった。

 

 「貴女が悪いわけじゃない。単に人間の愚かさに愛想が尽きたとでも言えば良いかな。西大陸に干渉しても面白くなくなった。もう役目を終えて良いかなって考えていたけれど、クロがいるから」

 

 西の女神さまは言い終えるとクロに視線を向けて、嬉しそうな表情を浮かべている。あれ、これ暫くクロは神さまの島で過ごすことになりそうだなと、私はクロに視線を向ける。

 

 『ボクは彼の記憶を持っているけれど、彼の感情までは分からないよ?』

 

 「分かってる。でも君は彼だよ。だから部屋から出てきた」

 

 クロがこてんと思いっきり首を回しながら西の女神さまを見ている。クロはご意見番さまの記憶を継承していると聞いているが、感情や考え方までは分からないらしい。それでも構わないと伝える西の女神さまはクロのことが本当に気に入っているようだ。

 

 「クロ、モテるね」

 

 クロは誰とでも話せる性質だし、西の女神さまとも問題なく会話できるだろう。特に心配することはないなと私はクロを見る。

 

 『モテてるの、ボク?」

 

 「うん。だって女神さまに気に入られているんだよ」

 

 物語では竜と人間が結ばれる話があるんだし、神さまと竜が結ばれることがあっても良いのではなかろうか。もちろんクロと西の女神さまの気持ち次第だけれど。

 クロが望むならディアンさまたちは反対しないだろうから、問題なく嫁入りだか婿入りができるはずである。まあ、西の女神さまが抱いているクロに対する親近感が恋心とは限らないので、私の早合点かもしれないが。

 

 「彼と私は対等だった。だから君も私を女神としてじゃなくて、対等に……友達として付き合って欲しい」

 

 西の女神さまが目を細めてクロに求めたものは凄く地味なものだ。でも女神さまにとっては大事なことなのだろう。儚い外見なのに、真剣な姿が私の目に映っているのだから。

 

 『それは構わないよ』

 

 「本当?」

 

 『うん。ナイと一緒に沢山話そうね~』

 

 「………………」

 

 クロの声を聞いた西の女神さまからぶわっと凄い圧が放たれる。グイーさまと南の女神さまが驚いた顔をしながら『あ、やばい』『西の姉御がキレた!』『不味いですわ!』『不味いですわね。逃げましょう』と何故か慌てている。

 私も西の女神さまの異変に気付いて、右手に持ったままの錫杖を前に掲げて防御壁を私とアルバトロス王国一行の面々に張る。急な展開だったので詠唱を口ずさむことができなかった。

 無詠唱で防御壁を張ったからなのか、それとも初めて六節の魔術を使ったからなのか、割と魔力を底まで使い切っている。長時間耐えられないなと苦虫を噛み潰していると、西の女神さまがはっとした顔をして圧を納めてくれた。

 

 「あ、ごめん。どうしてかな。私、怒ってた?」

 

 西の女神さまの言葉に南の女神さまがツッコミを入れたそうにしているが無言を貫き通していた。北と東の女神さまもだし、グイーさまも黙っている。家庭内ヒエラルキーが凄いことになっているようなと私は首を傾げながら、西の女神さまとクロのやり取りを見る。

 

 『お、怒っていたね。ボクが君以外と話すのは駄目?』

 

 「どうだろう、良く分からない」

 

 西の女神さまとクロのやり取りを聞いていると、私の鼻から血が垂れていた。まあ無詠唱で六節の魔術を使用するなんて自殺行為に程近い。それでも意識はあるので本当に私の魔力は多いなあと一人で感心していた。

 

 「ナイ?」

 

 「ナイ!」

 

 「あ、ごめん。無詠唱だったから、鼻血でちゃった」

 

 私の変化にいち早く気付いたジークとリンが慌てて声を掛けてくれる。リンがハンカチを取り出して私の鼻を押さえてくれた。暫くすれば鼻血は止まるだろうけれど、いつ西の女神さまの地雷を踏むのか分からないと私は彼女に視線を向けるのだった。

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