魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0527:薄い。

 私は女神さまの圧からみんなを守るために六節の魔術を詠唱したが、流石に無傷とはいかなかったようで鼻血が垂れた。リンが貸してくれたハンカチを鼻に当てて止血をしている所で、血の量は随分と収まっている。口の中に鉄の臭いが広がって少々不快感があるが、みんなが無事で本当に良かった。他の方々は私を心配しているけれど、神さまたちと話しているところに割って入ることができないらしい。

 

 女神さまの圧はかなり凄かったので生身だと問題が起きていた気がする。副団長さまと猫背さんは凄いと感心している――西の女神さまなのか私なのか、どちらだろう――し、亜人連合国の皆さまも目を丸くして固まっている。グイーさまも妙な顔を浮かべて西の女神さまを見ているし、三女神さまは長姉には逆らえないという顔をしていた。

 

 鼻血が出た私に気付いた西の女神さまは儚い雰囲気のまま、私の下へとやってくる。肩の上にいるクロが申し訳なさそうにしながら、視線を西の女神さまと私の間を行き来させている。

 

 「大丈夫? 私は感情が薄いって母さんに言われていたけれど、彼のことになると心が荒れるみたい。どうしてだろう……」

 

 やはり身長差が酷いといつもの感想を抱きながら西の女神さまの顔を見上げると、鼻血が口の中に流れ込みそうになる。私の視線を彼女の胸の辺りへ変えると、立派なメロンもしくは西瓜があった。

 世の中は不条理だと嘆いていると、西の女神さまが不思議そうに小さく首を傾げた。いかん、余計なことを考えていると私の心の内を皆さまに聞かれる羽目になる。私が私のナイムネを嘆いていることを知っているのはリンだけで良い。

 

 「平気です。もう直ぐ鼻血も止まるかと」

 

 私の後ろでリンが西の女神さまに抗議の視線を向けている。どうにも私に無茶をさせたことが気に入らないようだ。ジークも私の後ろで気を張っているようだし、本当にそっくり兄妹は私に対して甘いというか。甘いけれど、有難いことである。だからこそ自分になにがあっても彼らを守ると誓えるのだから。

 

 「でも私の圧に抗う術を持っている人間がいるなんて……驚いた」

 

 西の女神さまの言葉にグイーさまと三女神さまもうんうんと頷いている。いや、女神さまの圧は本当に尋常ではなかったので、死んでしまうと感じれば真剣になるというものだ。周りの皆さまも守らなければならなかったし、生きていて本当に良かったと安堵している。

 

 「数千年の間に魔術が進化したのかもしれませんね」

 

 私は苦笑いを浮かべると、副団長さまと猫背さんが『もっと魔術について突っ込んだ話をしてください!』『大昔の魔術形態、知りたい!』と西の女神さまと私の話を聞き逃さないようにと気を張っている。

 

 本当に魔術に関して愚直だなと感心していれば、毛玉ちゃんたちがこちらにきたそうに鼻を鳴らしている。いつもであれば私は『おいで』と毛玉ちゃんたちを誘うのだが、西の女神さまは毛むくじゃらの生き物は平気だろうか。どうしようか迷っていると、西の女神さまがしゃがみ込んで毛玉ちゃんたちに視線を向けた。毛玉ちゃんたちは知らない人が自分たちに興味を持っていると分かるのだが、いつも私が呼んでいるのに今回は呼ばれないので少々混乱しているようだった。ぴーと鼻を鳴らしてヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの間を行ったり来たりしている。

 

 「彼らをこちらに呼んでも良いですか?」

 

 ピーピー鼻を鳴らしている毛玉ちゃんたちを放っておくわけにもいかず、西の女神さまに許可を得るのだが大丈夫だろうか。

 

 「もちろん。初めて見る仔たちだね」

 

 西の女神さまは表情を変えないけれど、ほんの少しだけ口元が伸びている。私は毛玉ちゃんたちにこちらにおいでと手招きすれば、桜ちゃんが一番最初に気付いてぴゅーと走ってくる。

 桜ちゃんは西の女神さまの前で急ブレーキを掛け、そのまま地面に伏せて寝転がりお腹をパッカーンさせるのだった。そうして遅れてきた椿ちゃんと楓ちゃんもお腹を見せ、松風と早風までお腹を披露した。

 

 「そこにいるフェンリルとケルベロスの仔供です。無事に五頭産まれ、大きく育ってくれました」

 

 私が西の女神さまに説明すると彼女はヴァナルと雪さんたちの方へと視線を向ける。視線を受けたヴァナルと雪さんたちはゆっくりと腰を上げて、こちらに近づいてきた。

 

 「どうして人間が世話をしているの? 気高い仔たちが人間の下にいるなんて信じられない」

 

 西の女神さまはヴァナルと雪さんたちに顔を向け、両手は毛玉ちゃんたちのお腹に置いてなでなでしている。器用だなあと感心していると、お腹を撫でられた桜ちゃんは気持ちよかったのか、長い舌をだらんと出しながら背中を捩っていた。

 もう片方の手で撫でられている椿ちゃんは楓ちゃんに場所を代われと追い出され、ぴーと鼻を鳴らしている。松風と早風は順番待ちをするようで、お腹を見せたままじっとしていた。女神さまの手が早風と松風を撫でるまで、私が代わりに撫でようとゆっくりと手を伸ばす。

 

 松風と早風のお腹を撫でているとエル一家とグリフォンさんにクロとロゼさんの視線が私に刺さっているのは気の所為だろうか。まあ、撫でて欲しいならそのうちくるだろうと、松風と早風のぽよぽよのお腹の柔らかさを堪能する。

 

 『主は群れの長だから』

 

 ヴァナルはドヤと女神さまに顔を向ければ、雪さんと夜さんと華さんがヴァナルのあとに続く。

 

 『番さまの長ですもの。従うのは当然かと』

 

 『仔たちもナイさんのお屋敷ですくすく育っていますから、問題ありません』

 

 『自由を許してくださっておりますものね』

 

 現状に不満はないと雪さんたちは西の女神さまに伝えてくれる。なるほどと頷いた西の女神さまは私の肩の上にいるクロへと視線を変えた。

 

 「君は小さいのに魔力の内包量がとんでもない気がする。前の君より多いんじゃない?」

 

 『ナイの側にいると魔力と魔素に困らないからねえ。確かに前のボクより強くなれるかなあ』

 

 今度はクロが女神さまの言葉にドヤと胸を張る。ご意見番さまの全盛期の姿を知らないのでクロの凄さがイマイチ分からないが、亜人連合国の皆さまがクロを敬っている時点で凄い存在なのだろう。

 ディアンさまもベリルさまもダリア姉さんもアイリス姉さんもかなり強い部類である。副団長さまが彼らに勝てるのかと問われれば、どうだろうと首を捻らなきゃいけない。人間で一番高火力であろう副団長さまに敵う方などほんの一握りである。

 

 そう考えれば亜人連合国とアルバトロス王国は凄い戦力を有している。ハイゼンベルグ公爵さまのような方が王位に就いていれば大陸全統治とか東と北と南の統一も視野に入れそうだ。今の陛下が温和な方で良かったし、次代である王太子殿下も平和路線を標榜しているからアルバトロス王国から争いを仕掛けることはない。私が頭の中でいろいろと考えていれば、ふいに視線が突き刺さる。

 

 「貴女は人間なの?」

 

 視線の正体は西の女神さまのものだった。人間かと問われるけれど、人間だとしか答えようがない。

 

 「人間です。人間の枠の外に収まりたくないです」

 

 魔力量はとんでもなく多いのかもしれないが、私は人間である。人間と認知しているならば人間以外の何者でもないはず。魔力が変質していつの間にか神さまになっていたとか、冗談は止めて欲しい。

 西の女神さまは『本当かな』と疑いの視線を私に向けていた。じーと見ても私は人間から宇宙人に変わることはないよと言いたいけれどぐっと言葉を堪える。ふいに影が差して顔を見上げるとグイーさまが私たちの側に立っていた。

 

 「おーい、娘よ。盛り上がっている所を悪いのだが、儂らとも話をしてくれい」

 

 「ええ……」

 

 西の女神さまが嫌そうな顔になる。なんだか思春期の女の子に嫌われている父親の図を垣間見た気がするが、女神さまに思春期はあるのだろうか。疾うの昔に過ぎている気がするし、グイーさまも父親というよりはお爺さんという年齢では。いや精神的に若ければ良いのかと、くるくると頭の中で考えてみるものの何万年も生きている方の人生を量るには、私の知識が足りなさ過ぎた。

 

 「嫌そうな顔をするでない。儂らを心配させておったのだ。言い訳の一つでも聞かせろ」

 

 グイーさまが西の女神さまの首根っこを掴んでずるずると引き摺って玄関の方へと歩いて行く。お腹を撫でられていた毛玉ちゃんたちは驚いて、ひゅばっと地面から立ち上がった。私たちはどうして良いのか分からず、グイーさまの背を見るだけである。南の女神さまと東と北の女神さまはなにも言わずに、グイーさまの後ろを着いて行くだけだ。

 どうしましょうと周りの皆さまの顔を見れば『ここで待っているしかない』というのが答えのようで、私も彼らと同じ意見であった。

 

 「ナイも皆もこっちへこい。皆に心配を掛けさせたのだ。引き籠もっていた理由を知っておくべきだろう」

 

 ふいにグイーさまが立ち止まり、後ろを振り返って私たちに声を掛けた。彼は家庭内の問題を外に持ち出したことを気にしてくれているようで、西の女神さまが引き籠もっていた理由を聞いても良いようだ。

 当の本人は歩く気はないらしくグイーさまに首根っこを掴まれたまま地面を引き摺られている。シュールな絵面に驚きたくなるものの、きっちりとしているよりは気は楽だ。最初こそ西の女神さまに敵意を向けられたけれど、悪気はなかったようなので抗議する気はない。

 

 「えっと、呼ばれているので……皆さま、行きましょうか」

 

 私は後ろに控えていた皆さまへと身体を向けて、グイーさまたちの方へと歩いて行く。私の直ぐ後ろにジークとリンがいて、その少し後ろに亜人連合国の皆さまが、その後ろにソフィーアさまとセレスティアさまが歩き、更に後ろにフィーネさまとアリアさまとロザリンデさまが。

 更にその後を副団長さまと猫背さんにエーリヒさまと緑髪くんに外務部の方や護衛の皆さまがゾロゾロと歩いてくる。毛玉ちゃんたちとヴァナルと雪さんたちにエル一家とグリフォンさんも着いてくるが、ヴァナル一家以外は外で待機がベストだろう。

 天馬さまたちとグリフォンさんたちは身体が大きいので、広いお屋敷と言えど中に入るのは無理がある。エル一家とグリフォンさんには待っててねと言い残し、私たちは神さまのお屋敷の中へと入り、案内された部屋へと通された。

 

 おそらく客室なのだろう。広い部屋には一緒に神の島に訪れたメンバーが余裕で入れた。そうしてグイーさまが上座に腰を下ろして、西の女神さまが彼の席に一番近い場所に座る。続いて南の女神さまと北と東の女神さまも応接用の椅子に腰を下ろし、何故か私だけ北の女神さまと東の女神さまに手招きされるので、グイーさまに視線を向けると一つ頷き問題ないと教えてくれた。

 仕方なく北と東の女神さまの間にちょこんと私は腰を下ろして、当事者でもないのに……いや、当事者か。一応、引き籠もり解消に手を出したのだから。家族でもないのにと首を傾げながら、神さまたちの緊急会議に加わることになる。

 

 「さて、数千年引き籠っていた理由を教えて貰おうか?」

 

 グイーさまが腕を組んで真剣な眼差しで西の女神さまに問う。西の女神さまは静々と西大陸の人間はもう自身の手を離れたこと、それによって管理がつまらなくなったことを上げ引き籠もりになったと教えてくれた。外に興味を持って出てきたのはご意見番さまの生まれ変わりを見つけたからだとも教えてくれる。私はクロに視線を向けると、こてんと首を傾げるだけだ。

 とりあえず西の女神さまの引き籠もりは解消されたようだから、あとは元通りに過ごして頂ければ西大陸消滅はなくなるのだろうと私は安堵の息を吐くのだった。

 

 ◇

 

 少し情けない所を見せていたグイーさまであるが、やはり世界を造ったという創星神さまというだけはあって締めるところは締められるようだった。グイーさまの質問に西の女神さまも素直に答えていたし、北と東と南の女神さまも静かに耳を傾けていた。

 私は家族会議の席に何故か同席し、北と東の女神さまの間でサンドイッチの具の如く腰を下ろしていたのだが特になにもないまま終わった。平穏無事に家族会議が終わったことに私が胸を撫で下ろしていると、席から立ち上がった西の女神さまがクロに視線を向けている。クロは首を傾げて『どうしたの?』と声を上げれば、嬉しそうに西の女神さまが笑みを携える。

 

 「もっと君と話をしたい」

 

 『でもボク、ナイと一緒に帰らなきゃ……』

 

 クロが珍しく困った様子で西の女神さまに告げる。時刻は夜で、このあと島から出る予定である。近くの岩礁まで転移して、更にもう一度転移を行い漁村から一番近くの宿泊施設へ移動するのである。遅くなると告げているし先払いしているため宿泊を無断キャンセルしても構わないのだが、流石に一言くらいは宿泊施設に申し入れるべきではなかろうか。

 

 クロの言葉に西の女神さまがしょぼんと肩を落とし、毛玉ちゃんたちがどうしたのと西の女神さまを取り囲んだ。彼女は毛玉ちゃんたちの下へとしゃがみ込んで、絨毯に文字を書きながら片方の腕は足を抱えている。

 

 どうやらクロと話したいけれど、クロの意思を無下にするつもりはないようだ。でも寂しい気持ちが彼女の心にあるようで、言葉で伝えられず行動で気持ちを伝えているようだった。子供かい! と突っ込みをいれたくなるけれど数千年引き籠っていた不器用さんである。せっかく部屋から出てきてくれたのに、もう一度引き籠もっても困ると私は口を開いた。

 

 「クロは島に泊って、私が明日お迎えにこようか? 転移はロゼさん任せだし、そうすれば一晩一緒に過ごせるよ」

 

 私の言葉を聞いた西の女神さまの顔がぱっと明るくなった。やはりクロと話がしたいようで、彼女の毛玉ちゃんたちを撫でる手が力強いものとなっている。そのうち摩擦で毛玉ちゃんたちの毛が燃えそうだった。

 

 『ボクのこと置いて行かない?』

 

 「行かないよ。それにクロなら神さまの島からアルバトロス王国まで飛んで戻れるんじゃないの?」

 

 クロなら大きくなって自力で神さまの島からアルバトロス王国の子爵邸まで飛べそうだ。実際、アルバトロス王国からアガレス帝国まで飛行しているから問題はなさそうだけれど。

 難点があるとすれば、神さまの島から岩礁までだろうか。今回も岩礁から神さまの島までは南の女神さまが出迎えてくれた訳だし。うーんと私が考え込んでいるとクロがもう一度口を開く。

 

 『そうなると溜め込んだ魔力をまた消費しちゃうから……あまりやりたくないよ。ナイは冗談でボクを置いて行くことがあるから心配』

 

 「……ぐう。あの時はごめんなさい。クロならどこにも行かないって特に理由のない自信があったから……」

 

 私がクロを置いて行ったことがあったっけと記憶を掘り返せば、冗談で一度実行したことがあった。学院での一コマだったけれど、クロは覚えていたらしい。

 後ろで私たちのやり取りを聞いていたソフィーさまとセレスティアさまが『あれはナイが悪いな』『クロさまは賢いので大丈夫でしょうが、置いて行く理由がありませんもの』と三年前のことを持ち出されてクロに突っ込まれた私へ少々厳しめの視線が向けられている。あの時は真にごめんなさいと謝りながら、クロに今日はどうするのか聞いてみる。

 

 『泊っても良いの?』

 

 「もちろん。父さん、良いよね?」

 

 クロがこてんと首を傾げれば西の女神さまが嬉しそうな顔でグイーさまを見た。

 

 「ん、構わんぞ。なんなら皆、泊っていけ」

 

 グイーさまは問題ないとあっけらかんと答えをくれて、ついでに私たちまで泊る許可をくれる。とはいえ、皆さま神さまの島では緊張しっぱなしであろう。一度戻って、休息したいのではなかろうか。以前訪れた時、北大陸へと戻った途端に腰を抜かす方が多数いたから、今回もきっと緊張しているはずだ。

 

 「流石に大勢泊ればご迷惑になるかと。クロを残して明日、迎えにきます。ご許可を頂けますか?」

 

 私が言い終えるとクロが肩の上から飛び立って西の女神さまの下へと飛んで行く。

 

 「分かった。引き籠もりを解決してくれた者たちに無理は言えないな」

 

 グイーさまは私の提案を飲んでくれ、クロを残して私たち一行は北大陸に戻ることになった。話が決まれば行動は早く、あれよあれよという間に撤収の準備が整っていた。お屋敷の外に出て私たち一行は一塊となっている。私たちの前にはグイーさまと四女神さまが揃い、西の女神さまの腕の中にはクロがつぶらな瞳でこちらを見ていた。

 

 『じゃあ、また明日』

 

 「うん。ちゃんと迎えにくるからね」

 

 クロがこてんと首を傾げれば私は苦笑いになる。置いて行くつもりはないし、きちんとお迎えに行くから心配しないで欲しい。これから西の女神さまとクロがどんな話をするのやらと気にはなるが、夜も遅いので眠たい気持ちがある。

 外に出ていたロゼさんに視線を向ければ、いつでも転移は可能なようだ。ロゼさんに私が一つ頷けば足元に魔術陣が浮かぶ。ロゼさんは無詠唱で割と多い人数を転移させるようである。どこまでロゼさんは進化を続けるのだろうと首を傾げていれば、南の女神さまが半歩前に出た。

 

 「出迎えはあたしが行くからな。ビビんなよ」

 

 「もちろんです。ありがとうございます」

 

 両の手を後ろに回しながらにっと笑う南の女神さまに私は礼を執り、明日のお迎えのお礼を先に告げると彼女は直ぐに真剣な顔になった。なんだろうと私が首を捻ると南の女神さまが両手を頭から離す。

 

 「おい……鼻血出てただろ、大丈夫なのか?」

 

 「はい。出血は止まったので一時的なものかと」

 

 どうやら南の女神さまは私が鼻血を出してしまったことが気掛かりだったようだ。有難い心配であると私は笑って彼女に告げれば、納得してくれたようで直ぐに引き下がる。そうしてグイーさまが『またな!』と声を上げれば、某岩礁へと辿り着き、もう一度ロゼさんが転移を発動させた。

 

 辿り着いた先は小さな漁村だった。一応、夜に転移で戻ることを伝えていたので問題はないけれど、突然姿を現したので驚いているようだ。初めて神さまの島へと足を踏み入れた面子がふらふらと地面に腰を下ろしていた。

 私は村長さんに挨拶してくると言い残してジークとリンを連れて村の中を歩く。そうして村長さんが住んでいるという家に辿り着くと、慌てた様子で私たちを出迎えてくれる。

 

 中にどうぞと案内されるが、漁村を騒がせたことを謝りにきただけなので玄関の対応で構わないと告げれば、彼はソワソワした様子で私の前に立つ。流石に家の中に入ってお茶を頂く時間はないので、申し訳なさが募るが致し方ない。

 

 「ご無事に戻られたようでなによりです」

 

 村長さんは神さまの島を目指した方々が戻ってこない確率の方が高いことを知っている。私たちが神さまの島から二度目の帰還を果たしたので、驚いているようだった。

 

 「夜分にお騒がせして申し訳ありませんでした。直ぐ宿の方へ移動しますので、今少しお待ちを。あと漁村で買い付けた品ですが、神さまたちはお召し上がりになり喜んでおられました」

 

 「ほ、本当に漁で採った魚を神々は食してくださったのですか……!?」

 

 私の言葉に村長さんが目を真ん丸に見開いて驚いている。行き掛けの駄賃ではないけれど、今いる漁村でお魚さんを買い付けた。新鮮だし塩を振って焼くだけでも美味しいだろうと考えたからだ。目論見通り、ぷりぷりに身の締まった焼き魚ができあがったし、グイーさまも酒の肴に良いと喜んでいた。良い報告ができて良かったと私は安堵していたのだが、当の村長さんは今にも心臓が止まりそうな勢いである。

 死にはしないだろうけれど、寿命が短くなってしまったかもしれない。いや、神さまが漁村で採れた魚を食べたと知ったのだから、寿命はきっと延びたはず。話をそこそこで切り上げれば、村長さんにお見送りをさせて欲しいと請われたので分かりましたと伝える。

 

 残していたメンバーと私たち一行が合流すると、いそいそと宿に向かう準備が進んでいた。今回はトナカイさんがソリを引くのではなく、エル一家が担ってくれる。あとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんとグリフォンさんもである。その光景に村長さんがまた目を丸くしながらも、どうにか口を開いて私と別れの挨拶を交わすのだった。

 

 「では、本日はこれで」

 

 私は頭を下げてソリに乗り込めば、ゆっくりとエルたちが前へと進み始めた。一歩、二歩と進みだし、最初は力を入れていたのだが、ソリに勢いが付くと小さな力で十分のようである。目が慣れて視界に流れる闇夜の景色を眺めながら宿へと辿り着き、個々に宛がわれた部屋へと入る。エルたちは外で待機しているけれど、寒さには強いので問題ないとのこと。

 

 良かったと安堵していると宿の方からオーロラの話が皆さま――特に女性陣――に伝わったようだ。眠らないままオーロラを見に行かないかと提案された。それなら宿に泊まる日数を延長させてクロが戻ってきてから観に行こうと私が提案する。神さまの島に何日滞在するか分からなかったので、日程には余裕を持たせていた。

 ソフィーアさまとセレスティアさまに滞在延長を相談すれば問題ないとのことだし、エーリヒさまたち外務部の皆さまと護衛の方々も日程に余裕を持たせてある。副団長さまと猫背さんは言わずもがなだし、亜人連合国の皆さまも北大陸の雰囲気を楽しみ、時間が余れば竜化して魔人の村を訪ねてみたいとのこと。

 

 「それじゃあ、明日クロを迎えたあと、オーロラ鑑賞をしましょう。寒いので風邪を引かないように気を付けてください」

 

 オーロラの発生理由を知っている身としては複雑な気分であるが、みんなが観たいなら大したことはない。とりあえず夜も遅いし早く寝ましょうとなって、それぞれの寝床に就いて目を開けば朝陽が昇っていた。

 アルバトロス王国よりも陽の出の時間が遅いけれど、私とジークとリンとエーリヒさまはクロを迎えるために、もう一度神さまの島へとロゼさんの転移で向かう。約束の場所に辿り着けば、グイーさまと四女神さまが私たちを出迎えてくれた。そうしてクロが西の女神さまの腕の中からぴゅーとこちらへと飛んでくる。

 

 『ただいま~ナイ』

 

 「おかえり、クロ。女神さまとのお話は楽しかった?」

 

 私はクロと視線を合わせれば、いつも通りクロは私の肩の上にのりすりすりと機嫌良さそうに顔を擦り付ける。

 

 『うん。いろいろと話したよ。楽しかった』

 

 「それは良かった。じゃあ帰ろうか」

 

 私はクロからグイーさまたちへと視線を向けると、彼が半歩前に出た。

 

 「すまないな。娘の我が儘を聞いて貰って。もう引き籠もる気はないそうだから一安心だ! ナイのお陰だな」

 

 「いえ、私だけではなくいろいろな方が知恵を貸してくださいました」

 

 私の言葉にグイーさまが他の者にも礼を伝えなければなと口にする。私は騒ぎにならない程度でお願いしますと伝えれば、グイーさまはにかっと笑うだけだった。なにか企んでいないかなと頭に過るけれど、野暮なことは言うまい。グイーさまが他の方々にもお礼を言いたいそうだと報告しておけば問題ないだろう。

 

 「また遊びにこい!」

 

 「ありがとうございます。では、これで失礼致します」

 

 グイーさまのお誘いに苦笑いを浮かべながら、これ以上神さまの島に訪れることはないだろうと頭を下げる。そうしてロゼさんの転移が発動し、岩礁を経由して漁村から宿へと戻る。クロにはオーロラを観ることになったから一日延泊するよと伝えれば、分かったとご機嫌な様子で夜を待つのだった。

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