魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0053:死骸。

 嫌な空気は結界でどうにかできても、臭いまでは防ぐことは出来なかった。

 

 「鼻、曲がりそう」

 

 結界を解けばもっと酷くなりそうだと苦笑い。目的地に近づくにつれて魔物との接触も増えているし、動物の亡骸が転がっていたり。

 野生の動物ならば死に際は隠れて死ぬものだけれど、そこらに転がっているので森の中だというのに妙。目下の問題は森の奥から感じる、禍々しい気配と物凄い臭気に心が折れそうになっていた。

 

 「俺は慣れた」

 

 「もう麻痺してる」

 

 しかめっ面をしているジークとリン。イケメンと美人が台無しなのだけれど、本人たちは気付いていない。

 

 「凄いね、この臭い……」

 

 硫黄臭やアンモニア臭に腐臭、不快なにおいを寄せて集めて混ぜたような、滅茶苦茶に嫌な臭いである。

 周囲の人たちは口元に布を当てたり、鼻を腕で覆ったりして、どうにか凌いでいた。私たち三人が配置された部隊は原因究明の為に編成されたから、引き下がらずこのまま先を目指すそうだ。

 

 士気がダダ下がりなのが痛い所だけれど、それでも職業軍人や騎士の人たちからなる編成なので、また魔物が襲って来れば剣を抜くだろう。

 早く終わらせて、温かい食事にお風呂を済ませて、ベッドにダイブしたい気持ちが強くなってきていた。

 

 「おい、あれを見ろ!」

 

 私たちより少し先を行く騎士が叫んで指を指す。誰もがその指した指の先を目を細め、何があったのかを捉えようとしていた。

 

 「お、おい……」

 

 「なんだ、あれは」

 

 「……随分と大きいな」

 

 ゆっくりと伝播していく動揺。彼らの視線の先にあるものは、大きな黒い何からしい……。周りの人が大きくて、身長が足りない私は先の光景を見ることが出来ず、周りの声を拾って情報を集めるしかない。

 前に行って確認したいけれど、ジークとリンに止められるのがオチだから大人しくしていよう。

 

 「あれは……ドラゴンの死骸……でしょうか? しかし……何かがおかしいですねえ」

 

 私たちの少し後ろを歩いていた副団長さまが確認のため、こちらにやって来たようだった。ようやく視界が開けて、私も確認できた。確かに巨大な黒い物体が地面に転がっている。

 副団長さまが言ったとおり、羽や尻尾があるように見えるし、長い首の先には顔に、立派な角がある。――あるのだけれど。

 

 「ドラゴンの存在は書物で見たことはあるが……」

 

 遅れてソフィーアさまとセレスティアさまが、二人並んでやって来た。彼女たちも口元をハンカチで抑えて、どうにか臭いに耐えている。

 

 「黒い巨大な塊、としか言いようがありませんが……嫌な雰囲気や腐臭の原因は目の前の塊でしょうね」 

 

 不自然に腐っている気がするし、黒い瘴気が死骸から出ている気もするのだけれど、一体なんだというのだろう。死ねば土に還るのが基本で、誰かの意思や何かが介在しなければ、こうはならないと聞いている。

 

 「――聖女さま。浄化の魔術は習っておりますか?」

 

 「!」

 

 やはりそうなるのか。――受けてはいるけれど、今まで機会がなかったので一度も使ったことはない。

 

 「では貴女さまの出番ですねえ。僕も知識として身につけてはおりますが、攻撃系以外の魔術はからっきしですので」

 

 その言葉を聞いて、渋い顔になっていくのが分かる。というか口にしていないのに勝手に思考を読み取って話を進めないで欲しい。

 

 「ナイ?」

 

 「どうした?」

 

 リンとジークが私の様子がいつもと違うのが分かったのか、声を掛けてくれた。浄化の魔術は唱えて終わりという訳ではない。儀式に近いものなので、一人作業になるし唱えることを唱えれば、その後はやることがなくて暇なのだ。展開させた魔術陣の上に突っ立っているだけで、ただひたすら魔力を魔術に送り込むだけだもの。

 

 「……………………やりたくない」

 

 この規模だと……しかもドラゴン。目算だけれど、一昼夜くらいの時間は掛かるだろう。 

 

 「まあ、そうでしょうねえ。ですが魔力量や経験からすると適任は聖女さま一人ですよ」

 

 副団長さまと私のやり取りを見ていたソフィーアさまとセレスティアさまが『珍しいな』『珍しいですわね、ナイならば直ぐに行動に移しそうですのに』と小声で話していた。早く帰りたいし、これを終わらせなければ問題解決しないことは理解している。

 

 「これも国の為です。我慢してください、ね?」

 

 副団長さまの諭し方が子供を相手にするように、何故だか優しくなってる。そりゃそうだ実行できる人間が私しか居ないのだし。

 

 「やらなきゃ駄目ですか……?」

 

 「はい。――残念ながら」

 

 やりたくないなあ、と黒い塊を見つめる。

 

 「防御魔法を張りますので、副団長さまが消し炭にすれば……」

 

 「それで解決ができるならば良いのですが、霧散させたところで残った瘴気で周囲に影響を与え、魔物の狂化は収まらないでしょう。――やはり貴女の出番です」

 

 副団長さまと私のやり取りに気が付いた周囲が、ザワ付き始めた。

 

 「聖女さま」

 

 「お願いします、聖女さま!」

 

 「この事態を納められるのは貴女さましかおられません!」

 

 聖女さま、聖女さま、聖女さま、聖女さま。周囲から期待の視線を受け、逃げられなくなる私だった。

 

 ◇

 

 ――マジでやるの?

 

 というのが心の底からの本音だった。

 

 「ナイ、大丈夫なの?」

 

 リンが私に声を掛ける。

 

 「……ナイ?」

 

 意識が上の空になっている私の方に手を置いて軽く体を揺らすリン。彼女が心配そうにのぞき込んでいるので無理矢理に笑った。

 

 「え、ああ、うん。……平気」

 

 まあ、羞恥心だけ捨てれば良い話なのだけれど。それでもまあ、事ここまでに来ても、嫌なものは嫌なのである。

 ちなみに副団長さまによって事態の説明が実施されており、騎士や軍の人たちから物凄い期待の眼差しを向けられている。そりゃそうだ。王都から辺境伯領領都から十日。さらに移動で二日掛かってるのだから、早く家に帰りたいだろうし。

 

 「黒髪の聖女さま以外の女性はこちらに集まって頂いても?」

 

 その声にすごすごとソフィーアさまセレスティアさまにアリアさまと侯爵家の聖女さま、そして数名の女性騎士が彼の下に集まった。

 

 「えっと、行ってくるね。……兄さん、ナイのことお願い」

 

 「ああ」

 

 そう言い残して他の女性たちから遅れて走りながら副団長さまの下へ行くリンの背を見送った私は、適当な木の幹を背もたれにして体育座りになって息を吐く。

 

 「なあ、ナイ。――お前を置いて話が進んでいるが……いいのか?」

 

 ジークもしゃがみ込んで、心配なのか私に声を掛けてくれるけれど、心配ならこの場から連れ去って欲しいのだけれど。

 ほら、騎士と聖女の逃走劇みたく……あ、バフ系の魔術を掛けまくれば、可能な気がしてきた。いや、でも副団長さまが居るから連れ戻されそう。

 

 「よくない。よくないけれど私しかできる人間が居ないから、仕方ない……――泣いていい?」

 

 経験と魔力量を考えると適任者が私しかいないのだ。

 

 「どうした? 余程だな……浄化の魔術はそんなにやりたくないものなのか?」

 

 「最初に考えて術式を組んだ人は変態だと思う……儀式だってのは分かるけど……」

 

 あ、魔術師は総じて変態だったわ。

 

 「分かるが……?」

 

 「なんで全裸になる必要あるのっ!!!!」

 

 考えた人絶対露出狂でしょ! 

 

 合法的に脱ぐ理由をでっちあげているだけじゃないか!! 

 

 そりゃ露出狂ならば喜んで脱衣するさ!!!!

 

 けれど、私は露出狂でも全裸マンでもなんでもない、ただの普通の、平民だっての!

 

 公序良俗の犯罪者でもなく、変態じゃないっての!!

 

 「……え」

 

 目を合わせて喋りかけてくれていたジークが途端に視線を逸らした。

 

 「その……なんだ、すまん。俺が触れていい話題じゃあない……」

 

 こっちこそごめんと言いたいけれど、今は余裕がないので返事もせずに不貞腐れてた私。教えてくれた神父さまとシスターは『儀式魔術は一生に一度使うか、使わないか』って言っていたのになあ。

 

 「はあ」

 

 儀式は実行しなきゃならないのだからと気持ちを切り替えて、その場から立ち上がると、副団長さまから説明を受けていた女性陣が全員こちらへとやって来た。ジークは空気を読んだのか随分と離れた位置で待機し、リンは私の真横に就いた。

 

 なんだか女性陣が微妙な顔をしているのだけれど、何かを言うと自分に降りかかりそうだから黙っているのだろうか。

  

 「――聖女ナイ。貴女の加護を賜りたく」

 

 身分的に一番高いであろうソフィーアさまが前に出て膝を突き、胸に片手を当て頭を下げてそう告げる。他の女性陣も彼女と同様に膝を突き頭を下げた。

 

 ああ、もう始まっているのだなと口を開く。

 

 「――"告げる""汝らに我が祝福を"」

 

 儀式系の魔術となるので準備する人たちに私の魔力を纏わせ、身支度を任せられるようにした。本当にこの儀式魔術考えた人は馬鹿だよなあと思うけれど、きちんと効果があるから語り継がれている訳で。

 

 ちなみに嫌な感じを受け流す為の結界魔術は張りっぱなし。面倒だから誰かに代わって欲しい所だけれど、誰も出来ないから一緒に継続するしかない。

 

 「では、参りましょう。準備はあちらで」

 

 ソフィーアさまは副団長さまから手渡された書物を速読して、手順を覚えたようだ。セレスティアさまも同様に速読して頭に叩き込んだ模様。アリアさまは騎士の人たちから引っぺがしたマントを数枚持っているので、着替えの時に使うようだ。

 

 「話は先生から聞いた。男連中は下がらせるから安心しろ」

 

 「というか、見たら死刑ものですわね。警護はわたくしたちが貴女の傍で交代で行い、殿方はさらにその周囲を担います」

 

 どうやら公爵家と辺境伯家、そして侯爵家の聖女さまの家名も持ち出して周囲に圧を掛けたようだ。ついでに副団長さまも家の名前を出してくれ、騎士団の指揮官さまも家の名を持ち出して下さったみたい。

 

 見てもしょぼい身体なので、見る価値はないのだけれど。一応女で羞恥心はあるから、有難いことではある。

 

 「――"身を清め""邪念を捨てよ"」

 

 突っ立ったまますべてを彼女らに任せる。服を脱がされ、頭から水をぶっかけられた後、清拭。髪も香油を塗り丁寧に後ろへと撫でつけられて、紅を注しまぶたにも同様に指で塗られた。

 

 というか、副団長さまはこの事態をある程度予想していのでは、と思えるくらいに準備が良い。まあ、情報は上がっていただろうから、備えていてもおかしくはないけれど、事情を教えて……くれていたら逃げてるか。討伐に参加しないわ、うん。

 

 くそう、嵌められた。

 

 そう思ってももう遅いし、儀式は始まっているので文句は言えない。補助をしてくれているみんなだって、こんなことやりたくはないだろう。このまま周囲で一昼夜、警備にあたることになっているから。

 私は私語厳禁なので詠唱しか口にすることができないから、おそらくは嫌がるのも想定内で逃げられないように周囲から取り込んだな、副団長さまは。

 

 「――"我は神の御使い"」

 

 左手を差し出して、副団長さまから譲り受けた魔術具を外してもらう。

 

 「――"魔を払う者也"」

 

 そうして死骸の下へ一歩踏み出すと、魔力がぶわりと溢れ出す。結構持っていかれたなあと少しだけ目を細めながら進んで、ようやくドラゴンの下へと辿り着く。両膝をつき、右腕を差し出して死骸に触れると、べしゃりと嫌な感覚が伝わってきた。

 

 「――"魂は空に""体躯は地へ還れ"」

 

 魔術陣が私がいる地面に展開された。あとはもう魔力を注ぎ込むだけで、ある意味で死骸となったドラゴンとの根競べだ。

 この世に恨み辛みが強ければ時間が掛るものらしい。あとドラゴンは巨体なので、その辺りも時間が掛かる理由になるだろうと、完全に目を閉じて集中するのだった。

 




 何かしらのオチを付けたい作者。そして奇麗な聖女なんて主人公にやらせませんw
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