魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0531:子爵邸ご案内。

 西の女神さまを直接拝んだクレイグとサフィールは驚いているものの、南の女神さまで耐性がついていたのか食事中は普通であった。女神さまがご飯が美味しいと零せば、私が良かったですと伝えてあとで料理人の方たちにも伝えようと食事を続けていた。

 

 時折、西の女神さまは食堂の中を物珍しそうに見渡して、彼女に分らないものがあれば『これはなに?』と問われて私が答えるを繰り返していた。もしかして引き籠っていた数千年の間は本当に西大陸に干渉していなくて、人間の世界では技術が発展していることを知らなかったようだ。

 そういえば東大陸は古代文明があったようだけれど、東の女神さまからはなにも聞いていない。気が向いたら聞いてみようと頭の隅っこに置いて、食事を終えた西の女神さまへ声を掛ける。

 

 「女神さま、これからどうなさるのですか? 大まかなことは聞きましたが、細かな予定を聞かせて頂けるといろいろと助かります」

 

 私の疑問に小さく首を傾げた西の女神さまが口を開いた。

 

 「クロから聞いたけれど、ナイは暫くはゆっくり過ごすって聞いたから私も屋敷でゆっくりさせて欲しい。屋敷には図書室もあるって聞いたから、どんな本があるのか興味がある」

 

 西の女神さまは私の事情を知っているのでもう一度謝罪を口にして、一週間はミナーヴァ子爵邸でゆっくり過ごすと決めているようだ。クロとどんな会話を交わしたのかは知らないけれど、私がいない間に情報がクロから女神さまに渡っていたようである。

 一週間が過ぎれば、いろいろな国を見回りたいとか。とりあえず、西の女神さまに一番で解決しなければならない問題は彼女の力が駄々洩れであることだろう。クレイグとサフィールは普通を装っているが、顔が引き攣り始めている。長時間、女神さまと同席するのはキツイようなので解決方法を見つけないと。

 

 「西の女神さまのお力は偉大なので、グイーさまに制御する方法を聞いてみたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

 といっても私が解決するわけではなく、グイーさまに頼る方法だけれど。私が身に着けている魔力制御の魔道具で収まれば良いのだが、西の女神さまに『身に着けて』とお願いするのは失礼だ。副団長さまと猫背さんにお願いできるけれど時間が掛かってしまう可能性が高い。ならばグイーさま一択となる。

 

 「ナイは父さんと繋がれるの?」

 

 「教会でグイーさま、グイーさまと祈れば答えてくれます」

 

 少し目を見開いた西の女神さまは私を見ている。教会で祈れば答えてくれるし、なんなら東と北と南の女神さまも答えてくれるのだが。不思議そうな顔をした西の女神さまは直ぐに表情をいつもの無表情へと変えた。

 

 「ナイは父さんに気に入られているね。さっき君が父さんに力を抑える方法を聞いてみると言っていた理由がやっと理解できた。多分、珍しいことじゃないかな……というか初めて? まあ私が引き籠っていた間は分からないけど」

 

 西の女神さまが言い終えると肩を竦める。初めて彼女と顔合わせした時は感情が薄そうだと失礼なことを考えていたが、表情が乏しいだけでグイーさまと同様に割と喋ってくださる。

 有難いけれど、どうして私のお屋敷に居着いてしまいますかねえと愚痴を零したくなるが、他の方の所にいかないだけマシなのだろうか。他の方の屋敷に西の女神さまが御降臨されれば、大騒ぎになるだろうし失神者が続出しそうである。そう考えるとミナーヴァ子爵邸に降りてきてくださって良かった。面倒になる割合で考えると私の所にきてくださる方が厄介な事態に発展し辛いはずである。

 

 「では明日、教会に赴いて聞いてみますね」

 

 「私も行っても良い?」

 

 それは大騒ぎになるのではないだろうか。グイーさまと北と東と南の女神さまが現れたことでも教会の中は凄く騒ぎになっていたのに、西大陸を作り給うた、それも信仰のご本尊である西の女神さまが顔を出したとあれば……どうなるのか想像がつかない。

 前世で神さまの人生を取り扱った映画が上映されて失神者が出たと聞いたことがあるけれど、それどころの騒ぎではないはずだ。現に騎士爵家の侍女の方は卒倒したのだから。とはいえ断る理由はない。教会は誰でも受け入れる方針を取っているのだから、女神さまが赴いたって問題はない。問題はないが皆さまさぞ驚くだろうし、信仰心の高いカルヴァインさま辺りは気絶するのではなかろうか。

 

 「私が明日教会に赴く旨を伝えるのですが、西の女神さまと一緒に向かうと教会に伝えても宜しいですか?」

 

 教会に前以て知らせておけば被害は少ないはずだ。大勢の教会関係者が参加しそうであるが致し方ない。その辺りも西の女神さまには説明しておいた方が良いだろう。

 どうにも大昔は西の女神さまが西大陸を普通に闊歩しており、当時の方々には彼女の存在が身近であったようである。文献として残っていないのは、言い伝えが途切れたか紙や竹や粘土版の情報は時間の流れで消え去ったと推測できる。古代人と西の女神さまの関係も気になるし、いつかは聞いてみたいものである。

 

 「それは構わないよ」

 

 「ありがとうございます」

 

 私が女神さまに頭を下げれば、彼女はゆるゆると頭を振った。そして、クレイグとサフィールが女神さまの圧にそろそろ耐えられないようで、顔が青くなっている。解散した方が彼らのためだと判断して、西の女神さまに私の部屋に戻るか図書室に行ってみましょうと声を掛けた。

 

 「図書室、行ってみたい」

 

 「良いですよ。案内しますね」

 

 私が席から立ち上がれば、西の女神さまも席から立ち上がり私の後ろを着いてくる。クロが私の肩に乗り、ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんがよっこいせと立ち上がり、毛玉ちゃんたちが私の前を走り去って戻ってきて後ろを着いてくる。

 

 私と少し離れた後ろにはジークとリンが当然の様に歩き、クレイグとサフィールは椅子の上でほっと胸を撫で下ろしていた。私は彼らに『ごめん』と無言で視線を送れば、二人は苦笑いを浮かべながら意味ありげな視線が返ってくる。おそらく『気にするな』『ナイだからね』とでも言いたかったのだろう。

 

 呆れてはいるけれど怒っていないクレイグとサフィールに感謝しながら食堂を出る。子爵邸の長い廊下は普段より静かで、少し不思議な感じが漂っている。妖精さんがふらふらと飛んでいないし、使用人の方も見かけない。西の女神さまと邂逅しないように努めてくれているようだ。私はふうと息を吐いて後ろを歩いている彼女に顔だけを向ける。

 

 「女神さまはどんな本が好みですか?」

 

 私は話のネタにと女神さまに話を振ってみる。凄くどうでも良いことかもしれないが、なにか情報が得られるかもしれない。クロは私が女神さまに問うたことが不思議だったのか、こてんと首を傾げながら視線を私と女神さまの間で彷徨わせていた。ヴァナルと雪さんたちはいつも通り、落ち着いた雰囲気で廊下を歩いているし、毛玉ちゃんたちは構って欲しいのか時折鼻タッチを求めている。

 

 「ん? なんでも読むけれど……農業がどう進化したのか気になるかな。私が父さんから西大陸を任されて暫く経った頃に人間が生まれて、弱過ぎて知恵を与えていたけれど――」

 

 どうやら西の女神さまは古代人と呼ばれていた方々に知恵を授けていたようだ。魔力が豊富と聞いていたので今の時代よりも優れていたのかと思いきや、割と原始的な暮らしをしていたそうだ。彼らに魔力が多いことを知っていた女神さまは魔術』という便利なものを授けたそうだ。

 

 「今の魔術と昔の魔術は違いが大きいのでしょうか?」

 

 副団長さまと猫背さんが歓喜しそうな話題だが、昔と今の魔術は違うのだろうか。もし昔の魔術の方が優れているのであれば、治癒系の術を教えてくれないだろうかという目的があった。女神さまは私の下心など知らず不思議そうに顔を傾げる。

 

 「どうだろう? 今の魔術がどんなものか知らないからナイの疑問に答えられない。ごめん」

 

 「あ、いえ。興味本位で聞いただけなので大丈夫です。答えられないことや知って欲しくないこと、言いたくないこともあるでしょうから」

 

 女神さまの言葉に残念な気持ちが湧いてくるけれど、行くところがなければ魔術師団の隊舎に案内するのも手だなと思いつく。魔術師の方々であれば女神さまでも気にしないかもしれないので、一番行きやすい場所となりそうだ。

 お城の皆さまは驚くかもしれないが、隊舎に入れば問題は少なくなる。ワイバーンさんたちが暮らしている小屋や訓練場にも興味を持ってくれるだろうか。ワイバーンさんたちのおっとりした感じはとても癒される。もちろん、クロもロゼさんもヴァナルも雪さんたちも毛玉ちゃんたちにエル一家とグリフォンさんとグリ坊にお猫さまたちも癒し枠であるが、ワイバーンさんは言葉が幼いから可愛いのだ。

 

 「ナイ、どうして笑っているの?」

 

 「あ、すみません。女神さまにご紹介できる場所がいくつかあるなと考えていただけで、他意はありません」

 

 女神さまが不思議そうな顔をして私を見下ろしていた。何故、私の顔は感情が丸だしになるのだろうか。いかんいかんと気を引き締めるのだが、周りの方には私の感情や気持ちは案外バレバレであった。

 

 「嬉しいけれど、何故?」

 

 「退屈なのは嫌ですからね」

 

 数千年振りに部屋の外に出たのなら、日常が楽しくないとまた引き籠もってしまいそうだ。引き籠もりを続けると神力を失って、女神さまと大陸が滅ぶと聞いた。

 私たちの世代は問題ないかもしれないが、やはりクロやヴァナルたちみんなのことを考えると女神さまにはエンジョイして貰わなければならない。どうか女神さまにとって楽しい日々が続きますようにと願うばかりだ。

 

 「あ、着きました。ここが図書室です。子爵位規模の屋敷なので小さいですが、雑多に揃っているはずですよ」

 

 私は図書室の扉を開けて中へと入る。続いて女神さまが入り、ジークとリンも入ってきた。西の女神さまはきょろきょろと図書室を無言で見渡している。本に惹かれているのか私のことは意に介さず、中へとどんどん足を進めていた。

 女神様の興味を引ける本があるのならば御の字だが、彼女はどんな本を手に取るのだろうか。先を行く女神さまの背をゆっくりと追いかけると、とある一冊の本を取り出した。

 

 ――それは。

 

 どうして妖精さんが勝手に屋敷へ持ち込んでいた魔道書をピンポイントで手に取るのでしょうかと、私は口の端を引き攣らせるのだった。

 

 ◇

 

 子爵邸の図書室には雑多な種類の本が蔵書されている。おそらく私が屋敷の方向けに、なにか欲しい本があれば申請して、家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまの許可が下りれば侯爵家のお金で買って図書室に置きますというシステムを構築しているからだ。

 爵位を得てから三年という時間が経っているので本のジャンルは雑多となっているし、本好きの方が自宅からお薦めの本を持ち出して図書室に置いてくれる。持ち出し管理をしているので、誰がどの本を手に取ったのか、全てではないけれど分かるようになっている。本の趣味嗜好が同じ方を見つける手助けになっており、休み時間に本の話で盛り上がることもあるそうだ。

 

 で。

 

 どうして西の女神さまは雑多に本が蔵書されている図書室で、妖精さんが持ち込んだ魔導書を初手で選んでしまうのでしょうか。むーと私が口をへの字にしているのを他所に女神さまは魔導書を開いて目を通していた。

 というか女神さまは凄い勢いで頁を捲っているので、速読ができる方のようである。ソフィーアさまとセレスティアさまの本を読む速さは凄いが、西の女神さまはお二人を超えている。私は速読なんてできないので羨ましい。西の女神さまが魔導書に目を通して暫く経てばぱたんと閉じた。

 

 「内容は普通だね」

 

 西の女神さまがむーと口をへの字にして魔導書に目を通した感想を端的に述べた。肩の上のクロはこてんと首を傾げ、毛玉ちゃんたちも足元でお座りをして女神さまを見上げながらこてんと首を傾げた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは図書室の隅で身体を丸くして寝ているのだが、女神さまの淡泊な感想に勝手に口から声が漏れる。

 

 「え?」

 

 「ん?」

 

 私が少し驚く声を上げれば、女神さまが少し遅れて『どうしたの』と問いたそうな顔をしている。大賢者が記したという魔導書の中身を『普通』と評せる方はかなり限られるはずである。

 魔術馬鹿な副団長さまでさえ魔導書の中身に目を通せば『ヒャッハー!』と踊り出しそうな勢いで、私の隣で本の文字を読んでいたのに。なにかまた西の女神さまと私の間で齟齬があるようだと、彼女と視線を合わせる。

 

 「えっと、その本は魔導書と今現在は呼ばれていて、大昔に大賢者さまが記した貴重な魔術書です。中に記されている魔術を使える魔術師はかなり限られているそうです」

 

 私は続けて詳しい方からの受け売りですがと付け加えておく。私の言葉に女神さまは『ふむ』となにか考える様子を見せて少しの間黙り込んだ。目の前のお方がなにを考えているのか分からないけれど、私の言葉を聞いて答えをだそうとしてくれているのは明らかである。黙って待っているのが正解だろうと、クロに手を伸ばして顎の下をなぞれば気持ち良さそうに顔を上げて小さく声を漏らしていた。

 

 「普通のことしか書いていないよ。というかコレ、私が教えた魔術だ。著者が改良している魔術もあるけれど……甘いと言わざるを得ないかな」

 

 女神さまが私に視線を向けて、過去のことを教えてくれた。古代人の中でも魔力量が優れた方に女神さまはいろいろと魔術を教えたようだ。教えを受けた方が優秀だったので凄く短い期間だったらしい。

 

 「人間にしては要領が良かったけれど……どうして改良したのかな」

 

 女神さま的に改良なんてしなくて良い魔術を著者の方に教えたそうだ。それにしたって魔導書の中に記されている魔術は多岐に渡るので、著者の方はかなり優秀な人物だったのだろう。

 

 「女神さまから教えを受けた魔術を更に良くしようという探求心ではないでしょうか」

 

 人間だもの。不便と思えば改善を試みるのは当然である。女神さま的には不服のようだけれど、著者の方には必要だったのだろう。

 

 「そういうものなの?」

 

 「著者の方の考えは分からないので、何故と考えて真っ先に出た答えですね」

 

 私の言葉に『そうなのか』と短い声を上げ、西の女神さまは魔導書を元の位置に戻して違う本へと興味を向けていた。彼女が次に興味を持ったのは、私が買った農業関係のものだった。各野菜の育て方や農薬の作り方に、灌漑設備の設け方や農機具についてやらを凄い勢いで目を通している。情報をきちんと頭にインプットできているのか不思議だけれど、彼女は西の女神さまである。

 

 一度読んだことは忘れないとか特殊能力を持っていてもおかしくはない。私は一度目を通しても、興味のあったところ以外は忘れることが多いので、記憶できるなら羨ましい限りである。私の脳味噌の皺の少なさに嘆くけれど、本をもう一度読めば新しい発見をすることもあるので人に寄りけりだろうか。

 

 西の女神さまは農業関係の本を読み終えると、次は魔獣関係の本へと手を伸ばしていた。その本を置いたのはお屋敷で『魔獣・幻獣を見守り隊』の方々である。筆頭は誰が務めているかは言わずもがな。魔獣や幻獣関連の本を一番多く持ち込んでいるのも、某辺境伯令嬢さまであった。

 

 そうしてまた別の本へと食指を延ばす。今度はアルバトロス王国の成り立ちや西大陸各国の成り立ちと情勢に、お貴族さまについてや政治関係の本であった。ちなみにその本を持ち込んだのは某公爵家のご令嬢さまである。

 彼女曰く、知らないこともあるだろうし気が向けば目を通しておけと私に伝えていた。確かにアルバトロス王国の成り立ちなんて知らなかったし、各国が今までどう版図を広げたかも興味はなかった。真面目な彼女が選んだ本なので素人でも分かり易いし、上級者向けの本まで置いてあったのだから、本当に先を読むのが上手いというか。

 

 ぱらぱらと目を通して、次は武術や護身術に騎士道について説かれた本に興味を向けていた。それはジークとリンが置いたり、子爵邸の護衛を務めている方々が置いていった本である。恋愛系は侍女の方や下働きの女性が多く読んでいるし、井戸端会議の盛り上がりに一役買っているそうだ。他にも園芸や手芸について、娯楽小説なんかも置いてあるし本当に雑多だ。

 

 奥の隠れた所には元バーコーツ公爵邸で見つけた、売れない貴重なエロ本も置いてある。もちろん誰彼が目を通す訳にはいかないのできっちりと管理されていた。どうにも売れない貴重なエロ本は有名な小説家が書いた原本なのだとか。売り払えばお金が沢山懐に入るけれど、貴重性を考えて子爵邸で保管して後世に残すべきと家宰さまが判断した。

 家宰さまも年下の、しかも女である私に言い出すのは恥ずかしかっただろう。言葉を考えながら口にする彼の姿は凄く珍しかったと記憶している。

 

 西の女神さまが半分くらいの本を読み終えると、ふうと息を軽く吐いた。

 

 「今気付いたんだけれど、ナイ以外の黒髪黒目の子たちを見ないね」

 

 女神さま、本の内容から随分とぶっ飛びましたねとは突っ込まない。一先ず、不思議そうにこちらを見ている彼女の疑問に答えなければと私は手に取っていた本から視線を上げた。

 

 「黒髪黒目は古代人、大昔に生きていた方々の特徴なんだそうです。ね、クロ」

 

 私が全て答えるよりも、この手の質問はクロに任せておいた方が良いだろうとクロにお願いする。クロはなにも言わずに私の答えを引き継いでくれるようだ。

 

 『うん。ボクの前の記憶になるけれど、昔は黒髪黒目の子たちが多かったねえ。東の大陸から人が流入してきて黒髪黒目の子たちは減っちゃったけれど……』

 

 そういえば東大陸から西大陸へ人が渡ってきて、西大陸にもともと住んでいた黒髪黒目の方たちは混血化により数を減らしていったと聞いている。女神さまはそれぞれの大陸に干渉しないというルールがあるようだが、地上の動植物は含まれるのだろうか。どうなのかと西の女神さまを見れば、少し意地の悪い顔になっていた。

 

 「……へえ。よく人間が東大陸から西大陸に渡れたね。でも妹には一言くらい文句を言っても良いかな」

 

 なにか殺意のようなものが感情に混じっていませんか。東の女神さまは生きていられるのでしょうか。とりあえず姉妹喧嘩が勃発しそうなので彼女の興味をこちらに移そうと、私は口を開いた。

 

 「えっと大陸間を渡るのは問題がありますか?」

 

 「人間が渡る分にはなにも言わないし、私が引き籠もっていた間は関知していなかったから文句は言えない。でも妹に文句を付けるくらいは許される、はず」

 

 どうやら西の女神さまは西大陸の人間を優遇したい気持ちがあるようだった。頭で理解はできても、心が納得できていないというところか。

 なんだろうね。砂浜で作った砂の城を壊されたとでも言えば良いだろうか。いずれは波によって消え去る砂の城であるが、消えるものだからと言って他人に自分が作ったものを壊されれば腹が立つのは当然だ。姉妹喧嘩が始まって力の差で東の女神さまが屈している姿しか思い浮かばない。東の女神さまにはご愁傷さまと手を合わせるしかないようだ。

 

 ――勝手に殺さないで欲しいわ、お嬢ちゃん。

 

 なにか声が聞こえた気がするけれど気のせいだろう。私は西の女神さまに本を読み続けるのか問えば、暫く図書室で過ごしたいそうだ。それならお昼ご飯の時間になれば声を掛けますと言い残し、私は図書室からでた。

 毛玉ちゃんたちは西の女神さまと一緒にいると部屋に残っている。時折毛玉ちゃんたちに『構って!』と訴えられるかもしれないが、毛玉ちゃんたちはきちんと空気を読める仔たちだ。西の女神さまが本に没頭している間に私は執務室へ向かい、家宰さまとソフィーアさまとセレスティさまにこれからの予定を練り直そうと足を向ける。

 

 私が執務室へ足を向けると、既に家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまが揃っており、書類仕事を捌いていた。

 

 「遅れて申し訳ありません」

 

 私が軽く頭を下げると、仕事を捌いていたお三方が顔を上げる。ジークとリンは壁際に控え、ヴァナルと雪さんもジークとリンの隣に腰を下ろして体を丸めていた。彼らの耳はピコピコ動いているので私たちの会話は聞いているのだろう。

 

 「ご当主さま、気になさらなくて良いかと」

 

 「家宰殿の仰る通りだな。私たちのことは気にしなくて大丈夫だ」

 

 「ですわね。しかしこんなに早く女神さまが子爵邸にいらっしゃるとは予想外ですわ」

 

 三人が苦笑を浮かべて私を見る。どうやら女神さまがお屋敷にやってくるのは想定の内であり、予想から外れてしまったのは時期だけのようである。まあグイーさまのフットワークの軽さを、女神さまたちも引き継いでいたのなら納得できるけれど。しかし急に部屋に現れるのは勘弁して欲しい。

 

 「えっと、とりあえず、組んでいた予定を立て直すか、このまま予定通りに進めるかを決めたくて。それにアルバトロス王国にも連絡を入れて、明日は教会に赴きたいのですが」

 

 「もう手筈は整えてある。あとはナイに確認を取って貰うだけだ」

 

 「こんなこともあろうかと、島から戻って直ぐに準備してきましたもの」

 

 どうやら家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまはミナーヴァ子爵邸に南の女神さまがいらっしゃっていたことと、グイーさまによって神さまの島にお呼ばれしたことを鑑みて、グイーさまか他の女神さまが子爵邸にそのうちくるだろうと予想を立てていたようだ。

 家宰さまもある程度考えていたようで、準備だけ整えていてくれたようである。有難いことだけれど、予想があたっても嬉しくないのではなかろうか。またアストライアー侯爵がやらかしたと凄い目で見られそうだし、各国からも注目を浴びそうである。とはいえ、今までもやらかしていたので今更だと腹を括るしかない。

 

 先ずは関係各所への連絡と明日、私が教会に赴くことと西の女神さまも一緒に赴くことを伝えて欲しいとお願いする。

 

 「騒ぎになるだろうな」

 

 「教会は明日、立ち入り制限を設けた方が良さそうですわね」

 

 とご令嬢さま二名と家宰さまがふうと息を吐くのだった。

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