魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
今日も今日とて農家の方々と料理人さんに感謝しながら美味しい朝ご飯を終え、西の女神さまの力を抑える方法をグイーさまに聞きだすために教会へと向かう。ロゼさんの転移で赴こうかと考えていたのだが、女神さまから馬車が良いと請われたため馬車での移動である。
子爵位の時よりも豪奢になった侯爵家の馬車に乗り込んで貴族街を抜け、商業地区へと入り暫くすれば王都の教会に辿り着く。女神さまは王都の街並が珍しいのか馬車に乗っていた時も窓から外を眺めていた。クロが声を掛けても反応が薄かったので本当に集中していたようである。馬車が教会に着いて私が改めて声を掛けるとハッとした様子でごめんと謝罪をくれたのだ。
女神さまの姿が王都の方々に認知されれば騒ぎになるかもと、彼女にはフード付きの外套を纏って頂いている。女神さまの背が高いので男性用を着用しているのはご愛敬だし、似合っているのだから羨ましい限りだ。
「では、申し訳ありませんが……」
「ん」
私の声に馬車の中で女神さまがフードを被る。私が先に降りてジークのエスコートを受け、私が女神さまをエスコートするというヘンテコな役割が振られていた。ちなみに帰り道はリンが私のエスコートをし、私が女神さまのエスコートを担う。
取り決め通り、私はジークのエスコートを受け馬車のステップを降りた。ジークにお礼を伝えて少し周りを見渡してみれば、人がこちらへと視線を向けている。商業地区では朝市が開かれているのだが、服飾店や武器屋に家具屋等のお店が多く建ち並んでいる教会付近はまだ人通りが少ない。道行く方たちは豪華な馬車と護衛の方々の数に目を引かれて視線をこちらへと向けているものの、お貴族さまに不躾な視線を向けると騒ぎになる可能性があると知っているため、女神さまと私には視線を向けないようにしていた。
そうして女神さまが馬車の座席から腰を上げ扉の方へと寄ってきて、私は彼女に向けて手を伸ばした。差し出した私の手にそっと置かれた女神さまの手は、少し体温が低い気がする。ゆっくりと馬車のステップを降りる女神さまだが、危なげなく降りているのでエスコートは必要ないものだったのかもしれない。それでも女神さまは初めての体験に目を細めて私を見下ろした。
「ありがとう。変な感じだね」
「男性のエスコートの方が良かったですか?」
「ううん、大丈夫。ナイの手、小さくて可愛い」
女神さまは私のエスコートでも満足してくれたようだが、私の身長が低いと遠回しに伝えてくれる。事実なので仕方ないけれど……あ、グイーさまには身長を伸ばすのは無理と言われたけれど、西の女神さまの見解はどうなのだろうか。機会があれば聞いてみようと決めて、私は階段を昇った先にある教会の大扉に視線を向けてる。既に教会の方たちが大扉の前に立って出迎えをしてくれているのだが、結構な人数となっている。
聖王国の黒衣の枢機卿さまを出迎えた時より人数が多いし、顔が強張って緊張しているのも直に伝わってきた。私はこのままでは不味いと判断して、女神さまの顔を見上げる。彼女はどうしたのと小さく首を傾げて私の言葉を待つのだった。
「えっと、教会の皆さまは緊張しているので、また気絶される方が出るかもしれません。その時はご了承を……」
「迷惑を掛けてしまっているね……父さんに力を抑える術を聞いたらみんなと話ができると良いけれど」
女神さまの声を聞き届けて私は腹を決めて、彼女に参りましょうと伝える。私が先頭を歩き、右隣に女神さまが進み、後ろにはジークとリンが護衛を担ってくれている。
いつもであれば毛玉ちゃんたちがわちゃわちゃしているけれど、騒ぎになるといけないから外では影の中に入っていて欲しいとお願いしておいた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんの説得を受けた彼らは、今日に限っては大人しく私の影の中という訳である。その時に女神さまが驚いていたのは謎であるが、問い質さないまま教会にまで赴いている。
「ひょ、ひょううこそ、アルバトロス王国教会ふぇ!」
教会の皆さまを代表してカルヴァインさまが声を上げるのだが、普段より三トーンほど声が高い上に言葉が変になっていた。大丈夫かなと私は彼の顔を見てみると、かなり引き攣った表情だし手は身体の横にピタリとついていた。
他の面々もカルヴァインさまと同じ様子だし、あのシスター・ジルとシスター・リズでさえも緊張しているようである。グイーさまの分身体と北と東と南の女神さまを見ているはずなのに、西大陸を創造なさった女神さまは神職の皆さまの間では更に特別なようだった。
「急な来訪、本当に申し訳ありません」
「いぇ! アズトライァー侯爵閣下には普段からひょ世話になっております故にぃ、ぎょ迷惑どころかかんぴゃする次第ですぅ!」
しゃ、喋り辛いと私が口の端を伸ばしていれば、聖女の衣装の肩口を誰かが引っ張っていた。正体は直ぐに分かるけれど、私は視線を向けてどうしたのかと無言で問うた。
「話の邪魔をするけれど……この状況だとみんな辛いから、ナイの祝福掛けてあげて」
少し困ったような苦笑いを浮かべているような西の女神さまに請われる。確かに今の状況ではマトモに話ができないし、私が祝福を施せば多少の効果はあると実証済みである。祝福の効果が出なかった方には申し訳ないけれど、状況の改善をしようと私は教会の皆さまに祝福を施した。
「た、大変失礼な喋り口調で申し訳ありませんでした。アストライアー侯爵閣下、そして西の女神さまようこそ教会へ。侯爵家のような歓待はできませんが、我々一同心を尽くして皆さまを歓迎いたします!」
少し時間が経てばカルヴァインさまの顔色が少し良くなり、ミリも動かなかった手足が動き始めてはっきりとした発声の言葉を紡いだ。とりあえずカルヴァインさまには祝福の効果が表れたと私は胸を撫で下ろす。
「そんなに気を張らなくても。父さんと連絡するには一番ここが繋がり易いってナイから聞いているから、お邪魔するね」
西の女神さまの言葉を聞いたカルヴァインさまが少し照れている。彼女は彼より背が高いけれど、声帯の造り故に女性らしい音階の声を出す。背の高さを考慮すればもう少し低くても良さそうだが、女神さまは心地よい音域の声だった。はっと我に戻ったカルヴァインさまが中へ入りましょうと手で示して、私と女神さまと選ばれた護衛の皆さまは聖堂の中へと足を向けた。他の教会のメンバーも一緒に足を進め、祭壇の前に立つ。
「ナイ、どうやって父さんと連絡を取るの?」
祭壇前に辿り着いた女神さまが私に問うた。特に難しいことではないし、西の女神さまも簡単にできるのではないだろうか。彼女に方法を伝えておけば神さまの島と簡単に連絡を取れ便利になるだろうと、私は口を開いた。
「少し魔力を放出しながら、グイーさまと心の中で唱えれば声が聞こえます。凄く不思議ですけれど」
グイーさまや北と東と南の女神さまがどうやって私の声を察知しているのか分からないけれど、届いて交信が可能なのだから神さまパワーは凄いものである。私の言葉に目を細めた女神さまが言葉を零した。
「……良くそんなことができるね。私だったら一度家に戻らなきゃ無理だけれど」
「では、試してみますか?」
「ううん、大丈夫。ナイが連絡を取れるなら不便はないよ」
あれ、軽くいなされてしまったと私は苦笑いを浮かべる。西の女神さまはご自身でご実家に連絡を取る気はないようだ。もしかしてなにかある度に連絡を入れる役目は私が担わなければならないのだろうか。む、と口をへの字にするも女神さまの圧に耐えなければならない方々がいるから私が適任となるなと小さく息を吐いた。
「とりあえず、祈りを捧げてみますね。前回、偶々グイーさまと連絡が取れただけかもしれませんし」
「ん、お願い」
失敗なんてするのかという周りの皆さまの疑問と期待が私に向けられていた。女神さまは涼しい顔で私と数歩距離を取り、物珍しそうな視線を向けている。
「クロも念のために離れていてね」
『分かった~』
肩の上に乗っていたクロに声を掛ければ素直に飛び立って、ジークの肩の上に乗る。アズと並んだクロは可愛いなと心の中で惚気て、私は教会にいる皆さまの顔を見渡しグイーさまと繋がることの確認を取った。
教会の皆さまはグイーさまと三女神さまを見ているので、声だけであれば慣れたようである。よし、と私は気合を入れて、錫杖を構え祭壇の前に立ち膝を突き魔力を練った。鳩尾の辺りが温かくなり、魔力を練った証拠として私の髪がゆらゆらと揺れる。
「ああ、懐かしいね。私が大陸で人間たちに教えていた頃の空気に似ている」
西の女神さまが声を発した気がするけれど、集中を乱せば失敗しそうだ。地面に私の魔力を通して、魔力の細い糸を神さまの島へと伸ばすような幻想が目の前に広がった。そろそろ大丈夫かなと判断して目的の人物の姿を私の頭の中に思い描く。そして。
――グイーさま!
星を創り給うた神さまの名前を呼べば、何故か東屋で爆睡しているグイーさまの姿が頭の中に勝手に浮かんでいた。
『どわっ! 吃驚した。なんだ、ナイか。驚かせるな。で、どうしたんだ? 娘が迷惑を掛けとるのか?』
私の声にはっと目を覚ましたグイーさまがきょろきょろと周りを見渡した所で頭の中の映像が消える。なんだったのかと不思議に感じつつも、無事にグイーさまと繋がったことに安堵を覚えた。
とりあえず西の女神さまが私の下へと向かった経緯を聞き、暫くの間娘を頼むとグイーさまにもお願いされた。神さまの暫くって凄く長い期間なのではと首を傾げたくなる。そして一番聞きたかったこと、神力の力の抑え方をグイーさまに聞いてみれば『なんとなく抑えるのだ。こう、力を抜くというか? 気を抜くというか?』と微妙な回答を得るのだった。
『親父殿、方法くらいきちんと教えてやれよ』
『ケチ臭いですわ。お父さま』
『ですわね。父上』
グイーさまの微妙な回答に私が困っていると北と東と南の女神さまが助け船を出してくれた。三女神さまは割と父神であるグイーさまに手厳しいなと苦笑いを浮かべる。
『ぐ……娘が儂に厳しいぞい』
グイーさまが渋面を浮かべている姿を容易に思い浮かべることができる。三人のお嬢さまに立つ瀬のないグイーさまはぐぬぬと頭を捻っているようだ。
『あ……ナイ、お主が付けている指輪は魔力を抑えるものだったな?』
ぽんと手を叩く音が聞こえて、グイーさまの明るい声が届いた。確かに私の指には副団長さまから頂いた魔術具が三つほど身に着けている。魔力制御が下手糞なのは相変わらず――以前よりは全然マシーーなので、着けざるを得ない代物と言えば良いだろうか。錫杖のお陰でスムーズに魔力を練ることができるけれど、体内に有り余っている魔力を魔素に変えて放出してくれているのだ。
『それを一つ娘に付けさせてみては?』
私はグイーさまに言われるまま魔術具の一つを外して西の女神さまに渡してみる。左の中指に嵌めていた魔術具を西の女神さまは左手の小指に嵌めてぴったりだった。
一瞬、微妙な顔になった西の女神さまだが、魔術具を身に着けた彼女から発する圧が少し弱まった気がする。そして教会の皆さまも少し安堵している様子だった。その代わり私の魔力が体内を暴れているのだが、放出しても良いだろうかと目を細める。
「凄いね、ナイの指輪」
左手を祭壇のステンドグラスに掲げた女神さまは興味深そうに魔術具を眺めていた。
「ヴァレンシュタイン副団長のお陰です」
私が副団長さまの名前を告げれば、女神さまは興味を持ったのか会ってみたいと請われる。おそらく副団長さまは嬉々として女神さまと面会してくれるだろうけれど、アルバトロス上層部は頭を抱えそうだなあと私は遠い目になるのだった。
◇
――グイーさま、ありがとうございました。北の女神さまと東の女神さまと南の女神さまもありがとうございます。
いろいろと話を終えて、グイーさまと三女神さまとの通信を終わらせようと、心の中で言葉を紡ぐ。
『気にするな。用があればまた祈れば良い。娘を頼んだ』
グイーさまが西の女神さまを私のお屋敷で暫くの間過ごすことに感謝の言葉を頂き、ふっと空気が軽くなった。教会の皆さまもふうと息を深く吐いて胸を撫で下ろし、子爵邸のメンバーも一息ついていた。大丈夫かなと私が首を傾げると、ジークの肩の上にいたクロが戻ってきてゆっくりと私の肩の上に乗る。
西の女神さまは渡された魔術具をしげしげと見つめており、興味は尽きない様子であった。副団長さまが小躍りしながら西の女神さまと会話をする光景が頭の中に浮かび、妙なことにならなければ良いがと浮かんだ光景を打ち払うために私は顔を左右に振った。
肩の上にいるクロが『うわっ』と声を上げるけれど、偶にあることなのでクロは驚いたものの特に気にしていない。さて、用件は終わったし子爵邸に帰ろうとすれば、教会の皆さまが床に膝を突いて手を組んで祈りを捧げていた――西の女神さまに。
位置取り的に私にも捧げているように見えなくもないが、私は女神さまではないので彼らの祈る対象になっていないのは一瞬で理解できる。なんだこれとジークとリンに視線を向ければ、そっくり兄妹はゆるゆると顔を横に振った。予定になかったことだが、教会のご本尊さまである西の女神さまがいらっしゃっているのであれば教会の皆さまの反応は当然なのだろう。
女神さまから発せられている圧が下がったので、行動がとり易くなったのも原因の一つかもしれない。当の西の女神さまは少し困った様子で教会の皆さまを見下ろしている。私は邪魔をしては悪いと女神さまから距離を取ろうとすれば、西の女神さまが私の服の裾を引っ張って移動しないようにと無言で請われるのだった。
「えっと……私に祈ってもなにも出ないし、なにも起こらないよ?」
少し片眉を上げながら西の女神さまは膝を突いている皆さまに伝える。
「西の女神さまは我々の心の拠り所です。幼い頃より貴女さまに仕えておりました……一目と会えたこの奇跡、祈らずにはいられません」
膝を突き手を組んでいるカルヴァインさまが震えた声を上げる。カルヴァインさまのご両親は熱心な教徒の方と聞いている。ご両親の影響を受けて、彼は幼い頃から女神さまに仕えてきたのだろう。
気持ちは理解できるけれど、女神さまが引いているのでこのままでは嫌われてしまう、なんて言えようはずもない。とはいえ状況を改善しないと女神さまは困った状態を維持したままである。肩の上に乗っているクロは『仕方ないけれどねえ』と目を細めていた。亜人連合国でご意見番さまが大切にされていた時の記憶を掘り返したのだろうか。
「カルヴァインさま、皆さま。祈りを捧げることも大事ですが、女神さまに直接会えたのですから、お話をしませんか?」
時間は限られているけれど、今の状態のままでいるよりも建設的だろう。教会には西の女神さまが起こしたという奇跡の伝承があり、本当に目の前の彼女が起こしたものなのか確認を取れるのだから。
ある意味凄いことだよねと苦笑いを浮かべながら私が西の女神さまに確認を取ると、小さく頷いてくれた。みんなで話をすることに問題はなく、女神さま自身も祈られるより目の前にいる方々と話をした方が楽しいだろう。女神さまの言葉数は少ないけれど、話すことが苦手という方ではないはずだから。
「へぁ?」
カルヴァインさまの間の抜けた声が聞こえるが、教会の他の方々も間の抜けた顔になっていた。少しマシなのはシスター・ジルとシスター・リズである。貴女方も幼い頃に女神さまの使いになっていたのではと言いたくなるが、クレイジーシスターと盲目のシスターだから今の反応も理解できる。
「え、あ、あの、アストライアー侯爵閣下?」
「嫌ですか?」
飛び出そうなほどに目を見開いているカルヴァインさまに私は苦笑いを浮かべる。気持ちは分からなくもないけれど、祈るだけじゃあ願いは届かないし、課金――お布施――をしても女神さまは現界してくれないのだから、今が絶好の機会であると知って欲しい。
「め、滅相もございません! しかしながら私のような者が西の女神さまと言葉を交わすなど…………」
「私は気にしないよ?」
カルヴァインさまは遠慮しているが、当の女神さまは割とフランクである。気にせずお茶でもシバけば良いのではなかろうか。でもって気になることを聞いておけば、信仰心に対してスッキリすることもあるだろう。私は信仰心なんて一ミリも持ち合わせていないし、八百万の精神が身に付いている者として一神教は苦手だ。しかしグイーさまもいるし、他の女神さまも存在するのだから一神教とはこれいかに。
前世の一大宗教もご本尊とお母上が祀り上げられているので、割となんのこっちゃと頭の中で疑問を抱えていたが。まあ、アレは歴史の変遷の中で凄く面倒になった宗教だろう。今現在でも火種を残して時折燃え上っていたのだから。前世のことは置いておいて、今大事なことは女神さまとお話しようという試みである。
女神さまは昨日と今日で話し合いをする時にはお茶とお菓子が付いてくると認識したようだ。割と幸せそうに飲み食いしているので、食べることを苦手としていない。そんなことなので、話し合いをするのは彼女に取ってお茶とお菓子が出る嬉しい時間ということらしい。教会でもお客人がくればお茶とお菓子は出るので女神さまの希望は叶うはず。信仰心マックスな方々が多いし、お互いに得になる時間になれば良いなとカルヴァインさまの顔を見る。あ、やべ。
「ぴょえ」
「カルヴァインさま!?」
カルヴァインさまが白目を向いて後ろに倒れそうになっている。私が大きな声を上げればヴァナルが影の中からひゅばっと飛び出て、カルヴァインさまを支えられる大きさになった。ヴァナルは彼の背に回り横腹で受け止める。床に倒れなくて良かったと安堵の息を吐けば、他の方々が目を引ん剝いて驚いていた。女神さまではなくカルヴァインさまが気絶してしまったことに対してだけれど。
「カルヴァイン枢機卿!?」
「き、気絶した!」
周りにいた教会の皆さまが慌てふためき、女神さまは大丈夫かと心配そうな顔で状況を見守っている。
『大丈夫?』
カルヴァインさまを受け止めてくれたヴァナルも心配そうに彼の顔を覗き込んでいた。今彼が目覚めれば、もう一度意識が落ちそうな状況となっているのがなんとも言えない。
「どうしましょうか。カルヴァインさまをベッドに運ぶのが正解か、無理矢理覚醒させるべきなのか……」
「無理はしない方が良いんじゃないかな、ナイ」
私が頭を悩ませていると女神さまが無理に起こさなくても構わないと仰ってくれた。それならばベッドを借りてカルヴァインさまを寝かせようと私はジークとリンを見る。
リンにカルヴァインさまの移動をお願いすれば、彼女は彼の襟首を掴んで引き摺って行く姿を想像してしまった。多分間違いではないので、ジークの方を向く。ジークであれば苦もなくカルヴァインさまを抱えて移動できるだろう。ただしお姫さまだっこになるか、普通に抱えるのか微妙な所だけれど。
「ジーク、カルヴァインさまを運んで貰っても良いかな? 申し訳ないのですが仮眠室のベッドをお借りできますか?」
私がジークと皆さまに顔を向けると、女神さまの圧に屈していない方が忙しなく動き始める。未だに動けない方もいるようなので、その辺りは魔力量の差であろう。
「分かった」
「も、勿論です。騎士さま、申し訳ありませんがカルヴァイン枢機卿をお願い致します」
ジークと教会関係者の方が声を上げ、ジークはカルヴァインさまを片腕に抱え込み、数名は案内役としてジークについていくようだ。私たちは神父さまとシスター方に導かれ、談話室へと赴いた。少々手狭で質素な部屋ではあるものの、言葉を交わすだけならば十分なものである。女神さまを上座に誘い私は彼女の隣を指定された。対面に教会の面々が緊張した面持ちで椅子に腰を下ろしてお茶を待っている。
お茶が淹れられると同時にジークが談話室へきた。カルヴァインさまはまだ目が覚めないようで、ベッドの中でダウン中である。女神さまは暫く子爵邸に滞在するから、次の機会があるだろうと頭を切り替えた。
「みんなはどうして私を崇めているの?」
「は、はい。西の大陸を創り給うたお方を蔑ろにはできませんし、女神さまは我々を導いてくださりました。天災が訪れた時は偉大なる力で我々を助け、知を授けたと残されております」
西の女神さまの疑問に神父さまが恐る恐る答えた。どうやら大昔に取った女神さまの行動はある程度残っているようだ。残っていることも凄いけれど、今の今まで信仰として続いているのも凄い。
女神さまの伝承は何千年も前のことなので、引き籠もった時期と辻褄が合う。そういえば教会の孤児院で過ごしていた頃に、暇だからといって女神さまのことを記した聖典を読んだ記憶があった。内容についてはさっぱりと忘れおり、神父さまの話を聞いて思い出した次第である。
私が渋い顔をしていると、シスター・ジルとシスター・リズがくつくつと小さく笑っている。教会でお世話になっていた時にお二人には散々迷惑を掛けていたので、笑わないで欲しいとは言えない。
二人は昔のことを思い出しているのだろうと息を吐けば、西の女神さまが私の様子に気付いて『どうしたの?』と声を掛けてきた。私は今の状況を誤魔化そうとするものの、なにも言葉が出てこない。女神さまはしびれを切らしたのか、私からシスターズへと視線を向けた。
「ナイちゃんは教典に全く興味を示していなかったですからねえ」
「女神さまの伝承を記した聖典は読んでくださいましたが、教典も面白いですよとお伝えしても頑なに読もうとしてくれませんでした……」
くすくすと笑うシスター・ジルと困ったような顔を浮かべるシスター・リズに女神さまがなにかを察して私に視線をくれた。
「なんだか私は凄いみたい。ナイ、今度読み直して」
「……はい」
ドヤと良い顔をする女神さまに告げられれば私に断る術はない。まあ教えを記した教典を読むよりも、女神さまの偉業を記した聖典を読む方がマシだなと私は小さく息を吐く。短い時間だったけれど女神さまと教会の皆さまとの話を終え、廊下を歩いているとある場所に女神さまが視線を向けている。
「行っても良い? 多分、行かなきゃ後悔しそう」
女神さまが指を示した先は、最期を待つ人々がいる部屋である。女神さまは、女神さまなのだなと目を細めて、彼女の言葉に答えるべきは私ではないと神父さまとシスターに視線を向けた。
「女神さま、私たちからもお願いしたく。アストライアー侯爵閣下、時間を頂けぬだろうか?」
神父さまとシスターは教会の印を切りながら女神さまに請う。私も問題はないし、むしろこちらからお願いしたいことでもあった。
「もちろんです。わたくしも女神さまにお願い致したく」
私も丁寧に女神さまに頭を下げると、女神さまは私たちにこの場で待っていて欲しいと言い残して目的の場所へと消えていく。あの部屋でなにがあったかは女神さまと関係した方にしか分からない。でも、女神さまと顔を合わせた方々は凄く穏やかな雰囲気になっていたと、神父さまとシスターとカルヴァインさまからあとから話を聞くことになる。