魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0534:教会から戻る。

 教会から子爵邸へと戻り、屋敷の皆さまに女神さまの雰囲気はどうかと聞いた所、また圧が弱くなったと教えて頂いた。しかしながら私から魔力が駄々洩れているような気がする。クロがいつもより尻尾フリフリしているし、アズとネルの機嫌が良い。ロゼさんも影の中から出てきて私の足元にくっついている。

 

 ヴァナルと雪さんと夜さんと華と毛玉ちゃんたちもお屋敷に戻ると即行で影の外に出てきた。エル一家とグリフォンさんも庭から顔を覗かせて、首を傾げていたから私の魔力が漏れていることに気付いただろう。副団長さまに個人的に魔術具の作成依頼を出してみるか、もっと魔力制御を上手くなれるように努力してみる良い機会なのか……むぅと唸りながら、玄関に辿り着くとソフィーアさまとセレスティアさまが出迎えにきてくれていた。お二人は女神さまと私が無事に戻ったことを確認して、あとはゆっくり過ごそうと言って一緒にお屋敷の中へと戻る。

 

 「女神さまはこの先一週間はどうなさいますか?」

 

 今日、教会に赴いたことはイレギュラーである。このあと一週間はお屋敷でゆっくり過ごす予定であるが、暇を楽しめる口だろうか。玄関ホールで女神さまにこれからどうするか問えば、彼女が答えようと口を開く。

 

 「お屋敷でゆっくりさせて貰うよ。庭に天馬とグリフォンたちがいるから沢山お話したいし、裏庭に妖精の気配を感じるから」

 

 女神さまは特に不満はないようで、自分なりの楽しみ方を見つけているようだ。それなら良かったと胸を撫で下ろすが、屋敷をウロウロする際は前以て連絡を入れて欲しいとお願いする。しかし裏庭に行きたいと申しつけられた場合はどうしようか。妖精さんを社畜扱いするなと怒られそうだが、それが彼ら畑の妖精さんの習性である。一先ず問題は先送りにしておこうと違うことを考える。

 

 騎士爵家の侍女の方のように倒れる人がいたら問題だし、女神さまの圧に慣れない方への配慮をお願いしたいのだ。女神さまは私の不躾なお願いを素直に聞き届けてくれ、どうすれば良いのか確認を取る。女神さまの側仕えは彼女と相対しても平気な方を世話役として付けるので、なにかある際は世話役に伝えて欲しいとお願いした。世話役の方には臨時手当でも付けておけば、仕事のモチベは失われまい。子爵邸について説明を終えれば、女神さまが首を傾げる。

 

 「ナイ、ナイと話すのは駄目?」

 

 「午前中は執務を執り行わないといけないので、午後からで良ければ問題ないですよ」

 

 「じゃあ、お昼ご飯を食べたあとナイが暇そうにしていたら私の相手をしてくれるんだね?」

 

 女神さまの声を聞いて、私の後ろに控えていたリンが微妙な空気を醸し出している。私が一週間はお屋敷でゆっくりすると言っていたので、私の部屋で一緒に過ごすつもりだったのだろう。女神さまが一緒になればどうしても護衛として務めなければならず、一緒にいるにはいるが、一緒にいるの意味合いが変わってくる。リンにフォロー入れておかなければと苦笑いを浮かべて、女神さまの言葉に頷いた。

 一先ず、私は執務に戻り、女神さまは庭をウロウロしてくると言い残してもう一度玄関から出て行く。女神さまに護衛は付けていない。おそらく西大陸で彼女に敵う人間や魔獣はいないから、敷地外に出なければ問題はないはずだ。

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまと、ジークとリンと私は女神さまを見送って執務室へと赴き、いつも通りに仕事を終え、その日は平穏に時間が過ぎていくのだった。

 

 翌日、己の未熟さを淡々と記した長文の手紙が屋敷に届いた。差出人は誰でもない、カルヴァインさまである。女神さまに失礼な態度を取ってしまったこと、最後まで客人をもてなせなかった後悔が凄い量で綴られて子爵邸に届いたのである。

 手紙を受け取り執務室まで届けてくれた方や、執務室で仕事をしていた家宰さまとソフィーアさまとセレスティアさまに、壁際に控えていたジークとリンは少々引いていたものの、信仰心がカンストしているカルヴァインさまらしいものだなと皆で頷いたのだ。

 しかしこの長文の手紙の返事を書かなければならないのは私である。私は手紙を書くのがあまり得意ではないし、信仰心マックスという訳ではないのでカルヴァインさまにどう返事を記したものかと、休憩を兼ねて屋敷から出た東屋で悩み始める。

 

 「どうしようか?」

 

 私は同じ分量の返事を書くことはできないし、多分そっけない内容になってしまいそうだ。カルヴァインさまが気にしない方なら良いが、根が真面目な分、あとから正気に戻って猛省している姿が余裕で想像できる。

 

 「普通に返せば良いんじゃないか?」

 

 私の正面に座って紅茶を一口飲んだジークがくれた答えである。確かに普通に返せば問題になることはないけれど。

 

 「この文字量に対して、気にしてませんよ大丈夫ですってだけ記した返事って凄く失礼じゃない?」

 

 私はジークを見たあとにカルヴァインさまの手紙へと視線を寄せる。私の横に座っているリンがティーカップをソーサーの上に置いて短く息を吐いた。

 

 「相手がナイのことを考えないまま自分の気持ちを押し付けただけだよ。ナイは気にしなくて良い」

 

 彼女の言い分も理解できる。手紙という名の反省文なのだから。とはいえ手紙の主の気持ちを私は少しは理解できる。凄く憧れている芸能人やアーティストの前で失態を犯してしまった後悔は一生記憶に残るものだし、どうしてあの時の私は気絶なんてしてしまったのだろうと自責の念に駆られるのだ。

 うーん、と口をへの字にしながら考えていると、ジークとリンが東屋の外へと視線を向けて目を細める。暫くすると、私は東屋に近づく気配を感じた。ひょっこりと姿を現したのはルカとジアを引き連れた、西の女神さまである。

 

 「ナイ、お茶とお菓子の匂いがした。私も交じって良い?」

 

 女神さまが用件を告げ、ルカとジアに声を掛けていた。女神さまの声掛けを理解したのか、黒天馬と赤天馬は元来た道を戻って行く。私はまだ返事をしていないけれど、断る理由もなく女神さまに笑みを浮かべた。

 

 「構いませんよ。少しお待ちくださいね、お茶を淹れて頂きますので」

 

 私は側に控えていた侍女の方にお茶を淹れて貰うようにお願いすると、女神さまが東屋の中に足を踏み入れ空いている席に腰を下ろした。

 

 「うん。――ナイ、これは?」

 

 「昨日、白目を剥いて気絶した男性を覚えていますか?」

 

 テーブルの上に置かれたカルヴァインさまの手紙に目を向けて、女神さまは不思議そうに首を傾げた。私の肩の上に乗っているクロが尻尾を揺らしながら、妙な方向に話が進まないかなあと無言で心配している。

 

 「もちろん。悪いことをしてしまった」

 

 「えーっと、その彼からの後悔が綴られた手紙となります」

 

 女神さまはカルヴァインさまのことを覚えていたし、申し訳ないことをしたと考えているようだ。不可抗力のようなものだから仕方ないけれど、思うことはあるようだった。

 

 「後悔って、どうして?」

 

 「西の女神さまを崇拝なされていますから。女神さまの前で失態を犯してしまったことを悩んでいるようです。それで、返事を書こうとしているのですが――」

 

 私は女神さまに話を聞いて貰うことにした。熱量のある方に対して淡泊な返事を送れば失礼になるかもしれないこと、私はグイーさまや他の女神さまにお会いしたことで彼より女神さま方を身近に感じていることなどを伝えてみる。

 

 「ナイはあまり気を張っていないよね。楽だから構わないし、ナイが私たちに普通の態度でいてくれるからお屋敷にいられる訳だけれど」

 

 女神さまの言葉にふと思い至ったことがある。私がカルヴァインさまのように女神さま方に対する崇拝度がマックスであれば、お屋敷に滞在していなかった可能性があるのか……と。

 しかし『もし』を考えても仕方ないので、今ある問題を解決するのが先である。女神さまにお願いして、カルヴァインさま向けに一筆したためて頂ければ彼の気が晴れるだろうか。百年後くらいには聖遺物として女神さまの手紙が残っていそうだし……カルヴァインさまがまた白目を剥く可能性があるけれど、私の手紙より効果的なのは確実である。

 

 「女神さま、ひとつお願いをしても良いでしょうか?」

 

 「ん? 無理でないことなら良いよ」

 

 女神さまはお屋敷でお世話になっているからねと言葉を付け足した。そうして、カルヴァインさまに昨日のことを気にしないで欲しい旨の手紙を書いて欲しいとお願いすれば、すんなりと許可を頂けるのであった。

 

 ◇

 

 私がアルバトロス王国から聖王国へ戻って数日が過ぎている。

 

 官邸にあった私室を引き払って、大聖堂にある神職者用の部屋を借りて新しい生活が始まっていた。教皇猊下にお願いして、大聖女フィーネは政に関わることはないと声明を出して貰っている。

 ここ数日、私が所属していた元派閥の方が顔を出して何か言いたそうな視線を向けていたけれど、護衛の方に睨まれてさっくりと諦めていた。本当に三年前の努力はなんだったのだろうと後悔したくなるが、新たな道を模索している聖王国を捨てることはできない。というよりも立ち直れるまでは見守っていかなければ。

 

 大聖女ウルスラも官邸を引き払い大聖堂に私室を構えて聖女の活動を再開しているし、私が聖王国にいない間でアリサと仲良くなったようだ。ウルスラには友達と呼べる人が少ないみたいだし、今のアリサであれば十分にウルスラを導く力を持っているはず。

 

 「あとは聖王国の大人たちに踏ん張って貰わないとね」

 

 朝、部屋で一人誰にも聞こえないように呟いた。またエーリヒさまとは入れ違いになってしまったけれど、少し嬉しいことがあった。どうやらエーリヒさまが聖王国に滞在している間に、先々々代の教皇さまと顔合わせをしたようだ。

 アリサも同席していたようで、彼について特に言及することはなかったとのこと。一応、先々々代の教皇さまにエーリヒさまのことを直接知って頂けたことは、私たちの仲が少し進展したと考えても良いのだろう。私がアルバトロス王国に向かうか、彼が聖王国にくるのか未来は分からないけれど……。

 

 「って、そろそろ行かなきゃ」

 

 私は時間を確認して部屋を出る。アリサが考えた聖女さまお務めボイコットは、アリサが主導で開催されることはなかったけれど、アリサの代わりに私が引き継いで主導することになった。

 というのも、聖王国上層部が纏まるには凄く労力が必要である。聖王国上層部のお尻に更に火を付けるため、マトモに運営できないのであれば大聖堂に所属している聖女はお務めに出ませんと啖呵を切ったのだ。アリサが先に聖女さま方に提案してくれていたから、聖女さま方の説得は直ぐに済んだ。でも一つ問題が浮上する。困って大聖堂に訪れた方々はどうするのかと。

 

 ただ、困っている方々を無視すれば聖女と名乗れるはずもない。私は大聖堂の神職の方々と聖女さまを巻き込んで、大聖堂の外で治癒活動を行うことを提案したのである。あと治癒に訪れた方には懇切丁寧に、何故大聖堂の外で治癒を施すのか理由を説明するも忘れていないし、寄付代もきっちりと頂くことにしている。

 払えない方には物納も可能だと提案した。こちらはナイさまから聞いた話を参考にさせて頂き、聖王国の市場で売っている品物の値段と同じ価値となった。問題があれば都度、ルールを練り直すし改善していく予定である。

 

 大聖堂の聖堂に向かう長い廊下を歩いていれば、見知った人がひょっこりと現れた。私は目を細めて、ひょっこりと現れた嬉しそうな彼女の方を向く。

 

 「アリサ、おはよう」

 

 「フィーネお姉さま、おはようございます!」

 

 てれっと笑ったアリサが私の横に並んだ。ナイさまの下でお世話になっていた日々も楽しかったけれど、やはり私の日常は大聖堂で治癒活動を行うことである。日常が戻ってきたなと実感しつつ、暫くの間は少し大変かなと苦笑いを浮かべて大聖堂の外に出た。

 外にはウルスラの姿も確認でき、私は彼女の下へと向かい挨拶を交わす。元黒衣の枢機卿の側にいた頃の表情はなく、ウルスラの視線は訪れた方々へと向けられている。私もウルスラに倣って外で待機している信者の皆さまへと視線を向けた。

 

 「昨日より人が多いような?」

 

 「どうしてでしょうか?」

 

 「でも、みんなで頑張れば問題ないですよ!」

 

 私の言葉にウルスラが首を傾げ、アリサが頼もしい言葉を口にした。まだ聖王国がどうなるのか分からないけれど……――あれ?

 

 視界の端に教皇猊下の姿が映る。私たちがいる大聖堂の外から随分離れた場所だけれど、教皇猊下を見間違えることはない。そこまでは良い。それより彼の後ろを歩く人物に焦点を当てたくて目を細めた。

 あの人たちは……どうしてヴァンディリア王国の元第四王子殿下とファーストIP三期のヒーローの一人が教皇猊下の後ろを静々と歩いているのだろうか。元王子は修道院に送られたし、ヒーローは私たちに関わることすらなかったのに。

 

 ――え、今頃なんで……?

 

 ◇

 

 ――嗚呼、僕の美しいフィーネさま。

 

 僻地の修道院へ送られて三年弱の日々が過ぎていた。つい先日修道院の院長から呼び出しが掛かり、聖王国の大聖堂に戻り国政を担ってみないかと打診された。

 どうしてそのような話が僕の下へ舞い込むのか不思議だったが、話を聞いて納得した。どうやら聖王国の大聖堂は随分と腐敗していたようで好き勝手をやっていたようである。

 

 僕の母によく似た美しき大聖女フィーネさまを御旗に掲げ、彼女に苦労を押し付けて政を司る男たちは甘い汁を吸っていたようだ。もちろんマトモな者が多くなければ国は運営できないので、極一部であったのだろう。その極一部が大きく暴れてしまったのか、版図を広げてしまったのかは分からないが。

 

 院長が僕を抜擢した理由は、己の過去を知っていたからだ。確かにヴァンディリア王国の第四王子として兄の補佐を務められるようにと教育を施された。あまり真面目に受けた記憶はないが、教わった内容は今でも覚えている。

 地頭の良さはヴァンディリア王家の血筋が僕にも強く出たのだろう。フィーネさまに一目会えるのならばと、院長の頼みを快諾した次第だ。もちろん、フィーネさまに接触はしないと念書を強制されたが、三年間会えない日々を考えれば遠くから一目見るだけでも僕は幸せだ。

 

 もっと欲を掻いて良いならば、美しいフィーネさまの表情を歪ませ、罵声を僕に浴びせながら平手打ちをして欲しいが……この胸の奥で荒ぶる気持ちは誰にも知られてはならない。

 

 そして今日、聖王国の大聖堂に辿り着き、教皇猊下と面会することになっていた。僕と似た理由でもう一人召喚された者がいて、彼も僕と一緒に教皇猊下と面会をするそうだ。彼とは官邸にある待機部屋で一緒になり、人懐っこい顔で過去を語る彼に僕は少し警戒をしながら話を聞いていた。どうやらご両親が失脚して彼も巻き込まれる形で、僻地に送られたらしい。

 

 元七大聖家出身とのことであるが、僕が聖王国にきたときには七大聖家は影も形もなくなっていた。美しい大聖女フィーネさまの手により解体されたと聞いている。

 もしかして彼は僕のフィーネさまに敵意を抱いているのではという疑念が湧く。でも顔に出してはいけない。もし本当に彼がフィーネさまを害するならば、僕は身を挺してでも彼女を守る。愛しい母を失い、僕の愛するフィーネさままで失う訳にはいかないのだから――決意を改めていると待機部屋にノックの音が響く。

 

 「お二方、お時間となりました。私についてきてください」

 

 「はい」

 

 「承知しました」

 

 護衛の者の声に従い、僕と彼は官邸の長い廊下を歩く。そうして案内された先は教皇猊下の執務室であった。案内役の護衛の者が扉の前で立ち番をしている者に繋げば、扉が開きどうぞと導かれた。

 扉を入った正面には大きな執務机が鎮座しており、大量の書類が山のように積み重なっている。その間から教皇猊下のご尊顔が見え、僕たちに前にくるようにと静かに、けれど重い声で猊下が口にしたのだった。

 

 「体よく僻地に送ったというのに、此度の要請に応えてくれたこと感謝する。聖王国は二度目の崩壊の危機を迎えている状態だ」

 

 教皇猊下から聖王国の現状を知らされた。どうやら聖王国は二度も失敗を繰り返したようである。そして二度目もナイ・ミナーヴァ子爵、今は侯爵位を頂き家名も変わっているらしい。詳しく聞きたいところだが、余計なことを言うべきではないし、聖王国の国政に関わっていればいずれは耳にするだろう。

 

 それよりも、美しい大聖女フィーネさまが政務から降り大聖女として聖女を統括し大聖堂での活動のみに限ると宣言した。おそらく一部の者たちは彼女が政に復帰することを望むだろうから、僕の役目は美しい大聖女フィーネさまのご意思を尊重できるように動くことである。一番の近道が美しい大聖女フィーネさまを頼らず、聖王国を運営していくことだろう。そのためならば。

 

 「猊下、聖王国のため、身を粉にして働かせて頂きます」

 

 僕の身が擦り減って、いつか命を落とすことになっても構わない。ただ美しい大聖女フィーネさまの吐息が感じられる場所にいられるだけで十分なのだから。

 

 「私も過去の過ちを認め、身を正し女神さまに認められる行動を取ります」

 

 感傷に浸っていると野太い男の声が聞こえた。存在を忘れてしまっていたが、もう一人いたのだった。僕は彼と共に教皇猊下に頭を下げて、案内役の護衛に聖王国上層部の者たちが集まる部屋へと案内されたのだった。

 

 ◇

 

 フィーネさまから凄い内容の手紙が届いた。ヴァンディリア王国の元第四王子殿下と聖王国が舞台の乙女ゲームの攻略対象が姿を現したというのだ。まだフィーネさまと彼らは接触していない。フィーネさまが大聖女として聖王国へと戻ったものの、政治には関わらないと宣言したことが大きな要因だろう。

 

 流石に攻略対象については聞けないけれど、元第四王子殿下については関わりがあったので何故彼が大聖堂に戻ってきたのかと教皇猊下にフィーネさまは問い合わせたそうだ。

 政治的手腕を振るえる人物がかなり減ってしまったことで、どうやら元第四王子殿下に白羽の矢が立ったらしい。一応、フィーネさまに接触不可の念書を認めたそうで、彼からフィーネさまに接触すれば修道院に逆戻りとなるそうだ。ちなみに教皇猊下の元第四王子殿下の評価は、母親至上主義を除けば『良』だとか。他国では『凡』評価になりそうだとは口にすまい。

 

 そしてもう一人、聖王国が舞台でありアリサさまが主人公のゲームに登場する攻略対象が現れた。三年前の粛清事件でご両親と僻地に追いやられていたはずなのに、今回の件で舞い戻ってきたそうだ。

 フィーネさま曰く顔は良いけれど、顔が良いだけで特に評価すべき所がないと手紙には記されていた。一応、彼の人となりを知らないのでゲームで感じた彼の評価らしいけれど。フィーネさまはアリサさまへ攻略対象の方が妙な気を起こさないかと心配しているそうだ。あと私へ下心を持っていないかと凄く心配していた。

 

 まだ彼ら二人は行動に起こしていないので、フィーネさまとアリサさまにトラブルは舞い込んでいないようだが気を付けなければならないことが増えた気がする。

 

 西の女神さまと教会に赴いて一週間が過ぎていた。私は子爵邸の自室の机にフィーネさまから届いた手紙をそっと置き、クロとジークとリンの方へと顔を向けた。

 

 「聖王国、本当に大丈夫かな?」

 

 私が渋い表情を浮かべれば、ジークとリンが右の眉を少し上げた。彼らより先に反応したのはリンの肩の上でネルと並んでいるクロだった。

 

 『最近、ナイの口から良く聞く言葉だねえ』

 

 確かに頻繁に口にしている気がする。ぶっとばすぞー! と私は聖王国を脅しているのに何故か心配している妙な状況だが、こればかりは仕方ない。聖王国にはフィーネさまとアリサさまがいるし、脆そうなウルスラさまもいるのだから。

 彼女たちの生活が保障できれば構わないけれど、彼女たち三人にはどうしようもない国でも母国である。潰せないよねえと今度は苦笑いを浮かべれば、そっくり兄妹が肩を竦めた。その勢いでリンの肩からクロが私の肩へと移動する。

 

 「大丈夫じゃないと困るし、エーリヒも困るだろう」

 

 「潰れても問題ないけれど、あの二人と信徒の人たちがいるからね」

 

 ジークの心配はフィーネさまというよりエーリヒさまの方に重きを置いていた。エーリヒさまは誰とでも仲良くなれるタイプのようで、ジークには良くして頂いている。確かに彼の思いを成就して頂くためにも聖王国は存続して頂かなければならないだろう。

 一方でリンはフィーネさまとアリサさまと信徒さんたちを心配しているようである。ウルスラさまとは関わりが薄いので、まだ彼女の心の中では気に掛ける対象に入っていないようだった。来年の南の島で距離が近づけば良いけれど、リンとウルスラさまは波長が合うのか少々心配だ。

 

 「聖王国に私が赴けば気が気じゃない人が多いだろうしねえ。私が聖王国に赴く場合は女神さまもこられるのですか?」

 

 私室には幼馴染以外にも人がいた。人ではないけれど、まあ人の形をした凄い存在である西の女神さまだ。この一週間、屋敷の中をウロウロとしていたけれど、流石に飽きてきたようで私が執務を終えると私室に顔を出して、クロや毛玉ちゃんたちの相手や雑談に興じている。

 時々、過去の凄い話を聞かされるのだが、歴史家の方が悲鳴を上げそうなので心の中に仕舞っている。女神さまには聖王国が西大陸各国にある教会や神殿の総本山だと伝えている。西の女神さまを崇拝していると理解しているので、彼女は私の言葉に微妙な表情を浮かべた。

 

 「興味はあるけれど、私が行くと大騒ぎになりそうだ。また気絶する人がいたら悪い」

 

 西の女神さまは騎士爵家の侍女の方――今は打ち解けて偶に話をしている――とカルヴァインさまを気絶させたことを凄く気にしていた。侍女の方は魔力量に差があり過ぎたこと、カルヴァインさまは信仰心が天井に届いたことで身体に負担が掛かったようである。あれから二人の体調に問題はないし、西の女神さまも彼らも謝っているのだから終わった話だ。

 

 「大陸をウロウロするのは駄目かな……」

 

 女神さまは久しぶりに下界したことで西大陸各国を見て回りたいようだけれど、騒ぎになるのは確実だ。とはいえ女神さまが創った大陸を自由に移動できないというのも如何なものだろう。大昔の方たちに知恵を与えたなら、今の私たちが存在するのは女神さまのお陰である。

 

 「魔術具で力は抑えられていますし、多少であれば大丈夫かと。でも、西の女神さまだと名乗らない方が無難かもしれませんね」

 

 グイーさまから教わったことと魔術具のお陰でマシになったのだから、正体さえ隠しておけば問題ないはず。それに西大陸でなくとも北と東と南もウロウロしようと思えばできる。女神崇拝だから正体は隠しておきましょうと私が伝えれば、女神さまは素直に一つ頷いてくれた。

 

 「ねえ、聖樹信仰の国は私のことをどう考えているの?」

 

 「聖樹信仰の国は聖樹を女神さまが植えたと教えていますから、聖樹同様に崇められていますね」

 

 こてんと首を傾げた女神さまに私が答えると、彼女は逆の方向に首を傾げる。リーム王国の聖樹は暴れていた竜がご意見番さまの手によって負傷し、命からがらリームに辿り着き偶々落ちていた魔石に意識を憑依させ偶々近くにあった木が魔石の力を取り込んだ。だから女神さまが植えていないので、女神さまを謀っていないかと今更ながらに思う。リームの聖樹伝承は長く見積もっても千年前だから、誰かが捏造しているとバレバレなのだ。

 

 考えた人も、千年後に真実が分かるなんて考えていなかっただろうし不可抗力というか、神さまという存在が本当にいる世界だからこそ起こったことというか。リーム王国や聖樹を信仰している国には黙っておいた方が無難なのだろう。

 

 「そんな樹を植えた覚えはないけれど……まあ、部屋にいたから文句は言えないかな」

 

 女神さまもご自身が数千年間引き籠っていたことで管理をしていなかったから、特に咎める気はないようである。ギド殿下が知れば驚くだろうし、リームの国教が聖樹信仰から一気に女神信仰に傾きそうだ。私が苦笑いを浮かべると西の女神さまとクロとジークとリンが首を傾げる。まあ、今はとりあえず。

 

 「フソウに赴く準備をしようか。西の女神さまもなにか持って行く物があればお申し付けください」

 

 私が声を上げると、部屋にいるみんなが頷いた。明日からフソウに赴いて、毛玉ちゃんたちの移住時期を取り決めする。少し寂しいけれど大きくなった証だなあと、五頭が床で固まっている姿を見て私は目を細めるのだった。

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