魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0535:女神さまと……。

 ――フソウに辿り着いた。

 

 移動は飛竜便を使ったのだけれども、何故か赤竜さんが担ってくれていた。彼女曰く暇だったのでと照れ臭そうに言いながら、フソウに着けば人化して毛玉ちゃんたちと遊んでいた。

 その光景を西の女神さまとセレスティアさまが羨ましそうに見ていたのだが、交ざらなくて良かったのだろうか。毛玉ちゃんたちは誰とでもフレンドリーなのでフソウでも、仲の良い方たちが増えると良いのだけれど。

 

 赤竜さんは毛玉ちゃんたちをひとしきり遊べば、また竜化して戻って行く。その時にちゃっかりと私の魔力を強請られた。特に問題はないし、私は大きな竜の方だからと多めに魔力を練って受け渡した。

 赤竜さんが亜人連合国に戻るために空を飛ぶ姿を見送ったのだが、ちょっとクロが拗ねていた気もしなくもない。赤竜さんが側に居れば『いつも魔力や魔素を吸い放題なのですから、我々に少しくらい良いではないですか』と言いそうな状況だった。

 

 私たち一行はフソウのドエの都の外にいる。お迎えの方がきてくれるため、少し待っている所だ。

 

 同行メンバーはジークとリンにソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまのアストライアー侯爵家一行と西の女神さまと外務部の方である。今回はエーリヒさまは同行していない。どうやら聖王国にまた出張に繰り出したようで、緑髪くんも彼に同行しているそうだ。

 フソウで政治的混乱は起こらないだろうし、巻き込まれることはないからエーリヒさま不在でも大丈夫だろう。乙女ゲームでは一切出てこなかったらしいし、フソウの情勢は安定しているのだから。

 

 そしてクロとロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんにエルとジョセとルカとジアとグリフォンさんも一緒だ。グリ坊さんたちはお屋敷でポポカさんとお留守番である。随分とグリ坊さんも大きくなってきたけれど、ポポカさんたちに懐いているため大人しい。

 餌は裏庭の家庭菜園についている虫を食べたり、果物をあげれば喜んで食べている。彼らが大きくなれば一緒に行動を共にできるだろうか。そんな日がくるのを願いながら、フソウのお迎えを待っていた。

 

 予定していた時間より早く着いた――赤竜さんの飛ぶスピードが速かった――ために、フソウのお迎えの方は遅れているようである。予定は詰め込んでいないし、ゆっくりと組まれているため急いでいない。他の方々には申し訳ないが、ゆっくり待ちましょうと私が声を上げれば皆さま頷いてくれる。毛玉ちゃんたちは滅多にこないフソウの大地が珍しいようで、私たちから付かず離れずの距離で走り回っていた。

 幼い頃より随分と脚が速くなったし、途中で脚が縺れて滑って転ぶこともなくなっている。時折、こちらを振り返りながら五頭が仲良く畦道を行く。

 田んぼや畑で作業している方たちが毛玉ちゃんたちに驚いているから、神獣さまの仔と気付いているのだろうか。微妙な所だけれど、遠くから見守ってくれているのは有難い。毛玉ちゃんたちはお屋敷の狭い庭よりも、広い大地が似合っているのだから。

 

 だーっと走ったり、ぴょんぴょん跳ねながら畦道を行く毛玉ちゃんたちをみんなで眺めていた。ヴァナルと雪さんたちが私の横に並んで毛玉ちゃんたちを目を細めながら見ている。そして、きょろきょろと物珍しそうにフソウを見ている女神さまに私は苦笑を浮かべ、初めて訪れる外務部の方も女神さまと同様に首を忙しなく動かして周りの様子を眺めている。

 

 「ナガノブさまと帝さまは毛玉ちゃんたちをいつ受け入れてくれるかな?」

 

 私的には来年の春頃かなと考えているけれど、フソウの皆さまはどう考えているのやら。受け入れ準備をしなければならないし、まだ先の話だろうか。毛玉ちゃんたちがいなくなればユーリの遊び相手もいなくなってしまうし、寂しくなるなあと妙な気持ちが湧いてくる。

 でも毛玉ちゃんたちはいつまでも親元にいる訳にはいかない。いつか独り立ちして暮らしていかなきゃいけないのだ。だから寂しい気持ちは我慢して、彼らの門出を祝わないと。

 

 『今からでも』

 

 『と、張り切っていそうです』

 

 『いつでも構わないと言うのが最有力かと』

 

 雪さんたちの答えに私は苦笑いになる。確かにナガノブさまであれば言いそうなことであり、そんな彼を帝さまが窘めそうである。まあこれから話し合いを行うのだから、ここであれこれ考えていても仕方ない。

 毛玉ちゃんたちの今後について話していると『はあ』と盛大に溜息を吐く方がいらっしゃる。誰かとは言わないけれど、そんな誰かさんに気を使ったのかヴァナルがお尻を上げて誰かさんの隣に座る。誰かさんはなんとも言えない表情で、ヴァナルの頭を撫でながら寂しそうな顔を浮かべている。私も寂しいと感じているので人のことを言えないけれど、誰かさんのように凄く分かり易くはないはず。

 

 私が雪さんたちに視線を向ければ、彼女たちも誰かさんの様子を理解していたようで苦笑いをしていた。とはいえ誰かさんを責めることはない。毛玉ちゃんたちが子爵邸を卒業すれば静かになるなあと、雪さんたちを撫でていればクロがフソウの都の方へと顔を向けた。

 

 『あ、お迎えがきたみたいだよ~ナイ』

 

 「良く見えるね」

 

 相変わらずクロの目は良いなあと感心すれば、私の肩の上で首を反り上げてドヤとした雰囲気を醸し出す。

 

 『竜だからね~』

 

 竜だからとクロは言っているけれど、竜以外にも見えている方はいるはずと私の後ろで静かに控えている二人に顔を向ける。

 

 「ジークとリンは見えた?」

 

 「小さいが見えるな」

 

 「外門を抜けたね」

 

 ジークとリンもクロと同様にフソウの外門の方へと視線を向ければ、彼らもお迎えの方々を確認できたようである。竜以外にも見えているよと私がクロに顔を向ければ、ドヤっとした雰囲気を納めてクロは長い尻尾で私の背中を強めに叩く。

 

 『ジークとリンは例外だよ! ナイも分かってて言っているよね?』

 

 ぷんぷんしているクロにごめんと軽く謝れば、西の女神さまがこちらを見ていた。何故かぷーと頬を膨らましており、クロが私の肩から飛び立って彼女の肩へと移動すると元の表情に戻っていた。なんだろうと首を傾げれば、クロが直ぐに私の下へと戻ってくる。どうしたのと問うてみれば、なんでもないよと返事をくれる。まあ良いかと私は前を向いて、お迎えの方がこちらにくるのを待つ。

 

 お迎えの代表役は九条さまが務めたようで、彼と私は挨拶を交わして籠に乗り込みドエの都へと一行は進む。ヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちとエル一家とグリフォンさんは外を歩いているので驚いている方々が多数いるものの、神獣さまパワーで近づいてくる人はいない。

 

 ドエの都は前回きた時と変わっておらず、相変わらず活気のある街である。外では屋台が並んでおり、蕎麦にお寿司にといろいろとあった。店舗の軒先でお茶とお団子を楽しんでいる方もいる。良いなあと籠の簾の隙間から見える光景に目を細めていると、ドエ城に近づいているのか武家屋敷が多くなり人通りも少し少なくなっていた。そうしてまた篭に揺られること暫く。

 

 ドエ城に辿り着き、正面にある大門を潜り抜けた。篭が止まり中から降りれば、ナガノブさまらフソウの面々がズラリと並んで私たちを出迎えてくれる。帝さまとはあとで面会するため、こちらにはきていない。もちろん手紙で今回の行程を知っているので問題はなく、一先ずナガノブさまたちとのご挨拶をしなければ。一番豪華な衣装に身を包んでいる彼と対面して私は礼を執る。

 

 「ナイ! 久方ぶりじゃ! よくきてくれた、歓迎するぞ!」

 

 「ナガノブさま、お久しぶりです。この度は人員の手配に神獣さまたちの仔について話し合いの場を設けてくださったこと、誠に感謝致します」

 

 良い顔で私たちを出迎えてくれたナガノブさまにここまで謙る必要もない気がするけれど、他のフソウの方もいるので硬い言葉を使った。謙っている私に違和感を受けたナガノブさまは微妙な顔を浮かべる。

 私は他の方々に向けたアピールですと目の前の彼に視線で伝えれば、ナガノブさまから感謝と短く無言で返事をくれた気がする。今日は毛玉ちゃんの件以外にも、アストライアー侯爵家で雇う人材の面接を行うのだ。なので人事を統括している家宰さまも同行していた訳である。

 

 「ここで話し込む訳にはいかぬからな! 中に入ろう……と言いたいのだが、あちらの方は?」

 

 にかっと笑みを携えたナガノブさまはグリフォンさんに視線を向けていた。そういえばグリフォンさんと出会ったことと、子爵邸で一緒に暮らすことになったのは伝えていたけれど、今回同行するとははっきりと書いていなかった。いつものアストライアー侯爵家の面々で行きますね、ということと西の女神さまもご一緒しますねと手紙に記しておいたのだ。まあ、返信には『は?』――意訳――と記されていたけれど。

 西の女神さまも一緒に過ごしていることを説明すれば、納得しているのか、していないのか良く分からない再返事が届いて今に至る。で、ナガノブさまはグリフォンさんに視線を向けているので、グリフォンさんを紹介しようと私は半歩前に出てグリフォンさんに手を向けた、その時。

 

 「そうではないわっ! 背の高い女子(おなご)の方は誰だと問うているのだ!」

 

 「あれ?」

 

 ナガノブさまはグリフォンさんへと視線を向けていると私は考えていたのだが、グリフォンさんの側に居た女神さまの方を指していたようだ。ナガノブさまはもの凄く呆れた視線を私に向けているものの、気絶しないので少し安心した。

 

 「お主、ワザとなのか、本心から言っているのか、どちらだ?」

 

 「すみません、てっきりグリフォンさんに気を取られているのかと……以前、ナガノブさまは天馬さまのエルとジョセとルカとジアに凄く興味を持たれていましたから」

 

 グリフォンも凄いのだがなあと呆れ顔のナガノブさまに私は鈍くて申し訳ないと心の中で謝っていると、目の前にいる彼がはっとした表情になった。

 

 「……いや、待てナイ。手紙に記されていたことはお主なりの冗談だと考えていたのに、まさか本当に女神殿をお連れしたのか?」

 

 目を見開いてナガノブさまは私に問うので、一つ頷けば西の女神さまの方へと視線を向ける。

 

 「………………本物?」

 

 むむむと唸りながらぽつりと言葉を零したナガノブさまに、西の女神さまが私と同様に一つ頷いた。女神さまを自称すれば南の女神さまが凄く怒りそうである。西と北と東の女神さまは『面白い』と言葉を零しそうだけれど。

 ナガノブさま以外のフソウの面々も信じられないという表情を浮かべていた。九条さまは口を半開きにして驚いている。一先ず、西の女神さまにはフソウの方々に挨拶をして欲しいので、私は彼女に視線を向けた。

 

 「西大陸以外にも興味があるからナイにお願いして連れてきて貰った。この場所は北の妹が管轄だから私は手を出さないから、ナイの同行者として扱って欲しい」

 

 「承知致しました。広い国とは言い難いですが、フソウをご堪能ください」

 

 西の女神さまが淡々と告げれば、ナガノブさまが皆さまを代表して頭を下げる。今までになく気を張った彼の声に、管轄外なのに西の女神さまの影響力は凄いのだなあと私は目を細めるのだった。

 

 ◇

 

 ナガノブさまが先頭を歩いて、ドエ城の長い廊下を進む。靴を履いていないことに新鮮味を感じてしまうのは、アルバトロス王国での生活に慣れてしまったからだろうか。足裏に伝わる板の冷たさを感じていると、西の女神さまが歩きながら私の横に並ぶ。

 

 「丁寧に扱わなくて良いのに……北の妹呼んだら、少しはマシになるかな」

 

 むうと今にも唸り出しそうな顔で西の女神さまが愚痴を零す。西の女神さまの言葉で推測すれば、フソウは北の女神さまの管轄領域らしい。おそらく北の女神さまが姿を現せば、フソウは天地をひっくり返すほどの大騒ぎとなるのではないだろうか。それに北の女神さまを呼べば、軽いノリでグイーさまと東と南の女神さまも一緒に御降臨しそうなのだ。グイーさまなんて『我、参上!』とノリノリで口にしそうである。まあ彼は島から出られないけれど。

 

 「余計に大騒ぎになりませんか。というかフソウって女神さま信仰しているんだ」

 

 私の言葉を聞いていた雪さんと夜さんと華さんがてってってと軽い足取りで私と西の女神さまの横に並んだ。

 

 『最上位に据えられておりますね』

 

 『私たちが導いた初代は北の女神さまの天啓を受けましたから』

 

 『北の女神さまがフソウに御降臨なされば、ナガノブも帝も卒倒しましょう』

 

 ちょっとドヤ顔でフソウのことを教えてくれる雪さんたちに私は目を細める。ばふばふと左右に尻尾を振っているので機嫌は良さそうだ。毛玉ちゃんたちはヴァナルの隣で、フソウのドエ城の雰囲気を楽しんでいる。暴れたり走ったりするのは駄目だとなんとなく分かっている様子だった。

 

 「二千年前は北の女神さまは地上に降臨してたってことかあ」

 

 北の女神さまは南の女神さまより大人しいという印象だったから、地上に干渉しているのは意外である。偶々気が向いて手を出した可能性もあるが、真意は北の女神さまのみが知ることだ。ファンタジーな世界なので神さまがいてもおかしくはない。でも、目の前に現れて大昔の話を直接聞ける状況は、歴史家泣かせな状況だ。女神さまの一言で今までの通説が覆ることもあるのだから。

 

 「どうかな。私はもう引き籠もっていたし……妹たちの大陸に干渉することはなかったから」

 

 西の女神さまが何故か肩を落とす。長女だからなんでも知っているお姉ちゃんでいたかったのだろうか。それなら何故引き籠もったのかと突っ込みを入れたくなるが、まあ西の女神さまは発作を起こしたようなものか。あまり深い意味はないまま部屋に閉じ籠ってしまう人もいるのだから、神さまも突然引き籠もりたくなることもあるだろう。

 

 『せっかく部屋からでてきたんだから、楽しめば良いよ~』

 

 「うん、そうするつもり。人間はもう私の力は必要ないみたいだし、見守るだけにする」

 

 クロの言葉に女神さまが微笑んだ。西の女神さま的には人間に助け舟を出す必要はもうないと判断しているようである。あとはどこまで人の手で文化が熟成するのかが問題になるのだろうか。

 人間が増え過ぎて魔物や魔獣に幻想種たちが追いやられれば、西の女神さまは怒るかもしれない。そうならないように努めなければと考えていれば、ナガノブさまの足が止まり、私たちも歩みを止める。

 

 「中に入れ。正座が苦手な者は崩して良いからな。良いんだぞ!」

 

 ナガノブさまは何故念を押したのだろう。もしかして西の女神さまが足を痺れる姿を見たくなかったのだろうか。確かに西の女神さまの足が痺れて、転倒すれば大問題となりそうである。

 ご本人はへらりと笑って受け流しそうだけれど、西大陸の方が知ればフソウに抗議の書状が届きそうだ。ナガノブさまは一手も二手も先のことを考えているのだなと、私は足を進めて中へと入った。中は畳の部屋なのでイグサの良い匂いが部屋に漂っている。ナガノブさまが恐る恐ると言った様子で、女神さまの前に立ち上座を右腕で指した。

 

 「女神さまは上座へ」

 

 「大丈夫だよ。城の主は君だから、君が座すべき場所だ。私はナイの隣に座る」

 

 女神さまは上座――一段上がった畳の上――に座る気はないようだ。どうしたものかと悩んでいるナガノブさまに私は、上座に腰を下ろさず対面で話をしませんかと提案する。例外中の例外だけれど女神さまが同席しているため、気が気ではない様子だ。

 部屋は丁度奥に向かって縦長い構造になっているから、縦に二列並べばナガノブさまも気にならないはずである。まあ女神さまが同席していることは諦めて欲しい。手紙で知らせて受け入れて貰っているのだから。

 

 そうしてフソウとアストライアー侯爵家の面々が相対する。私の左隣には西の女神さまが座しヴァナルは右隣に腰を下ろす。雪さんたちは今日はフソウ側に回るようで、ナガノブさまの隣に腰を下ろした。

 神獣さまがナガノブさまの隣に座ったためか、彼の顔が緩くなっている。フソウの面々も良いなあと彼に視線を向けていた。ナガノブさまの左右には武士の方が多く腰を下ろしており、一番端には武士の方とは少し雰囲気の違う方たちが座している。

 

 もしかして彼らが忍者の方たちかなと首を傾げるが、最初は毛玉ちゃんたちのことである。毛玉ちゃんたちは今から行う議題が自分たちに関係あるのか分かっていないようで、アストライアー侯爵家の側の端っこで五頭はじゃれ合っている。その姿を見ているというのに某ご令嬢さまは真剣な顔を浮かべていた。明日は雨ではなく、血の雨が降るのではなかろうかと心配になってきた。私が物凄く失礼なことを考えれば、ナガノブさまが座布団の座り心地を確かめて一つ頷く。

 

 「ふむ。これはこれで面白いか」

 

 「提案を汲んで頂き感謝致します」

 

 ナガノブさまは構わん構わんと口にして、本題に入ろうと真面目な雰囲気を携える。私の背筋を伸ばしてこれから大事なことを伝えるぞという雰囲気を演出した。毛玉ちゃんたちは相変わらず隅っこでワンプロをしている。

 雪さんたちは自分の仔へと視線を向けて『あらあらまあまあ』と言いたげだった。ヴァナルは『話が上手く進むと良いね』と言いながら、私の膝に大きな前脚を片方置いた。西の女神さまが羨ましそうに私を見ていることにヴァナルが気付いて、畳から立ち上がり女神さまの隣に座り直して身体を預ける。

 私はヴァナルの身体に凭れる機会が多いので、少し新鮮な光景である。今度、ヴァナルに同じことをして貰おうと頭の隅に置いて前を向く。

 

 「椿も楓も桜も松風も早風も、皆本当に大きくなった。神獣の仔が産まれたのはナイのお陰。感謝する。そして移住の話をフソウに持ち掛けてくれたことも、重ねて感謝である」

 

 ナガノブさまのねぎらいの言葉で毛玉ちゃんたち移住計画の話し合いがスタートした。毛玉ちゃんたちは既に乳離れも済ませているから、今からフソウに住むことになっても問題はない。でも、今の今までヴァナルと雪さんたちと一緒に過ごしていたのだから、急にいなくなって寂しく感じたり環境の変化に戸惑うこともあるだろう。

 短い期間フソウで過ごして、またアルバトロス王国に戻るを繰り返し、間隔を長くして慣れてもらおうという案や、お試し移住で寂しくなったら戻るなどいろいろと声が上がる。他にも毛玉ちゃんたちのご飯のことや、寝床のことを聞かれたりしてフソウの方たちの熱意が伝わってきた。

 

 「アルバトロス王国より魔素が薄くなってしまうので、少し心配ですね。魔素が少なくなると食事量が上がったりするそうです」

 

 私が合っているよねとヴァナルと雪さんたちに視線を向けると、彼らは一つ頷いてくれる。

 

 「む。確かにアルバトロス王国の者は巫力を多く持った者が多いと聞くからな。魔素が多いのも自然のことだ」

 

 ナガノブさまがむうと唸れば、雪さんたちがばっふばっふと尻尾を振り始めてドヤと顔を上げた。

 

 『そちらの心配は必要ないかと』

 

 『ナイさんが贈って下さった天然石が魔石となって魔素を貯め込んでおりますもの』

 

 『魔石もどんどん質が良くなっていますからねえ』

 

 本当に驚いております、と雪さんたち三頭の声が重なる。いつの間にアガレス帝国の帝都で買ったお土産の天然石が魔石に進化していたのだろう。毛玉ちゃんたちがずっと首から下げて身に着けていただけで、特別なことはなにもしていないのに。

 私が視線を細めながら毛玉ちゃんたちを見ていると、桜ちゃんが私に気付いて『どうしたの~?』とこちらに近づいてくる。椿ちゃんと楓ちゃんも桜ちゃんに倣って、私の下にやってきてすんすん鼻を鳴らしてた。

 松風と早風はじゃれ合っていたのに突然三頭が居なくなって、疑問符を頭の上に浮かべてじゃれ合っていた場所でお座りをしている。桜ちゃんと椿ちゃんと楓ちゃんに私がなんでもないよと伝えれば、なーんだと言いたげに元居た場所に戻ってまたワンプロを始めていた。

 

 「それだとヴァナルと雪さんたちが持ってる物も?」

 

 質が良くなっているのとヴァナルに視線を向ければ、彼は西の女神さまに預けていた身体を起こして私に胸元の天然石を見せてくれる。

 

 『魔力、溜まってる。結構、多い』

 

 ヴァナルはまた女神さまの下に戻れば、女神さまが天然石を見せてとヴァナルに求めた。ヴァナルは良いよと気軽に応じて、西の女神さまがしげしげと天然石に視線を向けた。

 

 「以前の状態を知らないけれど、ナイの魔力が詰まっているね。子爵邸にもナイの魔力が魔素化して満ちているから、魔石が魔素を取り込むのも理解できるよ」

 

 『カッコ良い?』

 

 「うん。ヴァナルに良く似合ってる」

 

 天然石が魔石に進化したと知らないままであれば微笑ましい光景だけれど、私の心境は複雑だった。何故か私の身の回りで不可思議なことが起こり過ぎではないだろうか。天然石が魔石に進化して質が上がったなんて話は何千年もの時間を掛けなければ無理なことである。

 どうしてそうなったのか副団長さまに聞いてみようと頭の中でメモを取れば、ナガノブさまが胸元から天然石を一個取り出した。それは私がアガレス帝国で天然石を買い付けて、余った品は仲の良い方や交友を続けたいと考えている方に贈った品でだった。

 

 帝さまにもナガノブさまに贈った天然石より、少しだけ質の良いものを届けている。天然石の効果は健康だったはず。金運はあるだろうし、人脈やらはご自身で解決しなければならないことなので、一番無難な健康を祈る石を送った。身に着けてくれていたことを嬉しく思いながら、微妙な顔を浮かべたナガノブさまの顔を見る。

 

 「ナイが贈ってくれた天然石を持っているが、変化はなかったからなあ……少し羨ましい」

 

 私がナガノブさまに興味本位で魔力を込めれば変化があるかも、と告げ、割れてしまう可能性もあるけれどと付け加えれば、せっかく贈って貰った品を粗雑に扱えないと言われてしまった。今度、またアガレス帝国から天然石を買い付けて魔力を込めてみますと提案し、成功すれば毛玉ちゃんたちの御守りとして持たせるということになった。

 

 「やはり短い期間、フソウで過ごし、アルバトロス王国に戻るを繰り返すのが椿と楓と桜と松風と早風のためかのう」

 

 「ですね。いきなり移住では驚くでしょうし」

 

 ナガノブさまに私は同意して、毛玉ちゃんたちに視線を向ける。

 

 「とりあえず、年明けくらいに一度彼らを迎え入れる手筈を整えよう。と言ってもすることはなにもないだろうがなあ」

 

 私は彼の提案に頷いた。物事が順調に進み過ぎて少し怖くなるものの、今の状況が普通でトラブルが起きまくっていることが異常なのである。

 

 「さて、次は例の人事か」

 

 ナガノブさまが上げた声で私はフソウ側の雰囲気の違う方々に、不躾にならない程度の視線を向けるのだった。

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