魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0537:奉納相撲。

 とりあえず、ドエ城の端っこにある土俵に移動した。帝さまも相撲を見にきたようで、挨拶を済ませたところである。西の女神さまを見た帝さまは驚きつつも態度に出さなかった。

 帝様は西の女神さまに、貴きお方に出会えて光栄でございますと一言で済ませ、女神さまも丁重な扱いは必要はなくフソウを見学させ欲しいと願い出ただけである。帝さまは女神さまの言葉に目を細めていたので、なにか心の内で考えていることがあるようだった。

 

 まあ、黒衣の枢機卿さまであればろくでもないことを考えているなと察するが、帝さまなら神さまに失礼なことは考えないだろう。それに女神さまであれば人間の考えていることなど、お見通しかもしれないのだから。

 

 「ナイ、雪と夜と華の仔たちの移住話、早々に取り決めて貰ったこと感謝します」

 

 帝さまが女神さまとの話を終えて、私の方へと顔を向けた。相変わらず元気そうで良かったと私は笑みを浮かべる。

 

 「いえ。雪さんたちもヴァナルも毛玉ちゃんたちと別れて暮らしても大丈夫と許可を頂けたので。それに最初から雪さんたちをお預かりする条件でしたから」

 

 「とはいえ、貴女が渡さないと言えば、フソウは手も足も出せませんからねえ。本当に貴女は欲がない」

 

 確かに毛玉ちゃんたちを渡さないようにすることもできるけれど、約束を交わしているのだからきちんと守らなければ。吐いて良い嘘と悪い嘘があるけれど、フソウ国と交わした約束は破ってはならぬものだから。

 しかしまあ、頻繁に私に欲がないと誰彼に言われているが、私は欲塗れである。特に食に関することになると、目の色を変えている気がする。私の心の中を読んでいるのか、肩の上に乗っているクロが尻尾で私の背中をぺしんと叩いた。

 

 「賞品、目の色を変えて狙っていますよ?」

 

 「それくらいのことで欲深いとは言わないでしょう。貴方の護衛が飛び入り参加するとナガノブから聞き及んでおります。優勝、できると良いですね」

 

 ふふ、と短く笑う帝さまに、私は優勝狙っていますと伝える。フソウの外からきた人間が優勝を掻っ攫っていけば興覚めも良い所だろう。とはいえナガノブさまと帝さまの許可は得ているのだ。

 ジークには堂々と力を振るって頂いて貰わねば。あ、優勝賞金はジークに、お米さまは私が頂くことにしている。褌も力士の方をジークに見て貰って、どんな物か知って貰った。

 彼の顔が若干引き攣っていたので、私はナガノブさまと帝さまにインナー着用の許可を得た。ジークはマワシを締めて貰うために、力士さんの所へ一人で行っている。無事に巻けると良いのだが、どんな格好になるのやら。

 

 「はい。彼には頑張って貰わないと」

 

 私も短く笑って帝さまを見る。彼女が行きましょうかと手を土俵の方へと向けている。既にナガノブさまは席に腰を下ろしており、私たちにこっちだと手を振っていた。

 

 「子供ですねえ、ナガノブは」

 

 帝さまが目を細めながら困ったような声を上げた。帝さまの方が偉い立場であるが、特に気にしていない。仲が良いのだろうなと感心しながら帝さまの案内で座席へと移動した。ふかふかの座布団の上に腰を下ろして正座で座る。私の左隣には女神さま、右隣には帝さまとナガノブさまが腰を下ろしている。後ろはアストライアー侯爵家一行と外務部の皆さまだ。

 

 目の前には飲み物や食べ物が用意されており、ナガノブさまと帝さまにはお酒が私には緑茶が鎮座している。お二方にはツマミ系の小皿が沢山並べられ、私の前には色とりどりの和菓子が並んでいる。

 飲み食いしながら観戦して良いようで、他の方たちにも提供されていた。一応、お仕事なのでアルバトロス王国側はアルコールはナシである。女神さまは例外でお酒が用意されていた。ちなみに彼女はいくら飲んでも全く酔わない上戸である。

 子爵邸に保存していたフソウのお酒やアガレスにミズガルズから仕入れたお酒を興味深そうに飲んでいた。置いていても腐らせるだけなので問題ないけれど、顔色を変えないままひたすら飲んでいる女神さまの姿はちょっと怖かった。

 

 「?」

 

 首を傾げる女神さまに私はなんでもないですと首を振り、右隣にいるナガノブさまと帝さまの方を見る。

 

 「取り組み開始まで、まだ時間はありますか?」

 

 「手洗いに行く時間くらいはあるな。無論、途中で席を離れても問題ないぞ」

 

 私の疑問にナガノブさまが答えてくれた。離席ではなく、相撲を良く分からない方たちに一通りの説明をしておきたかった。ルールを知らないまま観戦するより、基礎知識があった方が面白い。

 盛り上がる取り組みもあるだろうし、マワシが重要になっていることも伝えておきたかった。まあ、私よりナガノブさまと帝さまの方が詳しいだろうし、分からないことはお二人に聞いてみるのが一番だけれど。私は座布団の上で方向転換して、アストライアー侯爵家一行の面々と顔を合わせた。私に倣って何故か西の女神さまも後ろを向く。

 

 「相撲は神さまに捧げるために行われていて、神事の時に奉納相撲と銘打って子供が参加することもありますね。職業力士の人がいて、強い方はドエの都で人気者のはずです」

 

 私の言葉にアストライアー侯爵家一行と西の女神さまと外務部の方が、ふむと意味を咀嚼している。確か昔も職業としてプロ力士の方がいたはずだ。有名な方は錦絵に残っていると聞いたような気がする。凄く簡単に説明をしているとナガノブさまが私に声を掛け、説明なら任せろと胸を張る。彼の横で苦笑いになっている帝さまに気にしないでくださいと無言で伝え、それならばと私は彼に説明をお願いした。

 やはりフソウでは人気のある催しであり、神さまに奉納する際は真面目に執り行われるとか。とある神社では一人角力(ひとりずもう)と呼ばれる神事が行われ、その年の稲の育成を占うために人間と精霊が取り組みをし、精霊が勝てばその年のお米は豊作なのだとか。アルバトロス王国にも面白い催しはあるし、神事も執り行われている。奇祭と呼ばれるものもあるけれど、自分の目で確かめたことはない。

 

 相撲のルールと決まり手を一通り説明し終えたナガノブさまがにかりと笑う。

 

 「まあ、そんなこんなで、楽しめば良い! 飲んで食べて、笑って、楽しく生きれたなら、我らを生んだ神も喜ばれよう! ……多分」

 

 ナガノブさま、本物の女神さまが同席しているから最後の最後で自信が無くなってしまったようである。女神さまはナガノブさまに文句を付けるでもなく、出されたお酒を静々と嗜んでいる。美味しいのかなと彼女を見れば、黙って杯を掲げた。私もお茶を手に取って湯呑を掲げる。それに倣ってナガノブさまと帝さまも持っていた杯を掲げれば、後ろに控えていた同席者の方々も杯を掲げた。

 弥栄と声を上げなかったのは、今日は神事だからだろうか。アストライアー侯爵家一行も杯を掲げていた。外務部の方はお仕事中と認識しているようで、ささやかなものだったけれど。

 

 「ほら、ナイ。力士が土俵の下に揃いましたよ。其方の護衛はもの凄く鍛えているのですね。しかしフソウの力士も鍛錬を怠っておりませんし、その道の玄人。申し訳ありませんが、勝たせて頂きますよ?」

 

 帝さまの声に私は土俵の下に並んだ方々へと視線を向ける。フソウの力士の方々は良い身体付きをしているし、フソウの成人男性よりも背が十センチほど高い。それでも一七〇センチくらいのため、ジークの一九〇センチを超える身長は頭一つ分近く高い。

 

 ただ横幅はジークが一番細かった。恰幅のある力士の方で一番大きいのはジークを四人並べたくらいである。筋肉は力士の方々でそれぞれ特徴が出ている。脂肪の塊の方もいれば、脂肪と筋肉が半分半分の方に、筋肉が凄く発達している方もいた。ジークは細マッチョなのである意味異質だ。背が高ければ腰の重心も高くなるので、相撲はジークに取って不利な競技かもしれない。

 

 ジークには勝っても負けても大丈夫とは伝えてあるけれど、私が美味しいお米さま欲しさに勢いで彼に頼んでしまった。少し申し訳ないことをしてしまったけれど、お米さまは食べたい。ドエ城と朝廷で出される銀シャリさまはとても美味しい。きっと同じ品種で同じ産地だと踏んでいる。

 

 「本当に無差別級ですねえ」

 

 「?」

 

 私の言葉は帝さまに通じ辛い内容のようである。ナガノブさまも会話が聞こえているようで片眉を上げていた。

 

 「力の差があり過ぎる競技は体重別で分けられることもあるので、珍しいなと」

 

 そういえば日本ってあまり体格差を考慮しない気がする。柔道も本来は無差別階級だったはずだし、剣道も身長差で分けられていない。常在戦場の意識が強いからかもしれないなと、大勢並んでいる力士の方を見る。

 

 「なるほど。子供同士だと有効そうですねえ。成長の差が如実ですから」

 

 帝さまがふむとなにか別のことを頭の中で考えているようだ。私は他所事を考えているであろう彼女を問題と捉えていない。

 

 「男の子は顕著かもしれませんね。血筋も関係するでしょうけれど、日々の食べ物でも成長の差が出るはずです」

 

 日本人も戦後から高度経済成長期を経て随分と平均身長が伸びている。アルバトロス王国は大地の魔素量が多いので成長促進されていそうではあるが、食べ物も関係しているはずだ。フソウはお肉よりもお魚とお米が好まれている。最近、お肉も食べるようになったと聞くけれど、おそらく摂取量は少ないはず。

 

 「おや。ではアルバトロス王国の食事を子供の頃から食べればフソウの子供たちの身長は伸びる可能性が?」

 

 「伸びると思いますが、逆に力や持久力が落ちてしまうこともあるでしょうね」

 

 帝さまの言葉に補足をしておく。確か、文明開化して西洋の方が日本を訪れて、飛脚の方に実験を施していた。日本食から肉の多い食事を続けて貰い長距離移動を試していた。結果は日本食を摂っていた時より、一日に走れる距離が短くなってしまったとか。面白い実験だなと私はなにかの本かテレビかで見た気がする。

 

 「やはり簡単に成せるものではありませんね」

 

 「ですね。ですが時間が経てば、自ずと人間は進化していくものかと」

 

 ふう、と息を吐き力を抜いた帝さまに私は肩を竦める。まあ、国の方々の身体能力や健康について考えるのも国のトップの務めなのだろう。今すぐには難しいことかもしれないけれど、時間が経てば自ずと変化しているだろう。

 それがどのくらいの時間を必要とするのか分からないけれど……そういえばフソウは鎖国状態で私がフソウと関係を持ったことによりアルバトロス王国と国交を結ぶことになっている。あれ、しれっと開国していると頭の上に疑問符を浮かべ、もしかして私はフソウにとってのペリーさんかとまた疑問符を浮かべた。

 

 このままいくと幕府解体となってしまうのだろうか。いやいや朝廷と幕府を維持したまま近代化する未来もありえるし、丁髷を結った月代(さかやき)を叩くこともあるだろうと一人納得する。

 

 「さあ、始まりますよ」

 

 「お主の護衛には負けんぞ!」

 

 そうして始まった相撲大会に視線を向け、ジークの勝利を願うのだった。

 

 ◇

 

 相撲大会が始まった。四十名ほどの力士の方が参加して、トーナメント形式で優勝を目指す形となる。団体戦とかあっても面白かったはずだが、流石に出来なかったようである。

 その場合は各藩で分けられて、熾烈な争いが繰り広げられそうだ。戦国時代に織田家が国家統一を成し、そのまま安定期に突入して約三百年の時間が経っているので、各家の確執や勢力争いは前世と全く違っていそうである。

 

 「…………」

 

 「……」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまはフソウの方々のマワシ姿に驚いて、無言で彼らを眺めている。あまり裸になる文化はなく、貴族男性は貴族女性の前で無暗に裸を晒したりしない。

 騎士団の訓練場に女性が赴いて、上半身裸の男性を見てしまい『きゃっ!』と短く声を上げる方もいる。その場合は上半身裸の男性がいることを想定できなかった女性が悪くなる。もちろんお咎めなんてないけれど、男社会の中に足を踏み入れたのだから驚くなという暗黙のルールがあるようだった。

 

 ただ流石に下着姿で騎士団の訓練場をウロウロする男性はいない。マワシ姿はマワシの着用のみで、男性のプリケツが丸見えである。前は隠れているものの、貴族女性的に目のやり場に困るのだろう。

 私は前世のテレビ中継を観ていたし、聖女のお仕事で偶に見るから問題ない。帝さまや彼女の側仕えの女性陣は普通の様子なので、やはり文化の差があるようだった。文化の差と言えば、女神さまは大丈夫だろうかと私は左横を見る。どうやら問題はないようで、これから始まる取り組みに期待している雰囲気である。

 

 「始まるね。スモウがどんな感じなのか楽しみ」

 

 「私も楽しみです。ジークには頑張って貰わないと」

 

 『ナイはそればかりだねえ』

 

 西の女神さまが私に顔を向けて小さく笑う。私が彼女と視線を合わせると、クロも会話に交ざってきた。楽しみならなによりと笑って、私は反対側に顔を向ける。

 

 「皆さん、気合が入っていますねえ」

 

 力士の方は土俵下で胡坐を組んで取り組みの時間を待っているのだが、頬を両手で『ぱん!』と叩いたり、太腿や二の腕を勢い良く叩いていた。痛そうだと苦笑いになりそうなほどの音が耳に届いているのに、周りの方々はお気に入りの力士に檄を飛ばしていた。

 応援の言葉を贈っているけれど、時折それは野次ではないかというモノも混ざっている。興行として行われて、収益を得ているから力士の方はプロ選手だ。お客さんを楽しませてナンボの世界なのかもしれない。今回は神事なので野次は酷いものではないようである。

 

 「幕府と朝廷が賞品を出しているからな。もちろん参加賞もあるぞ!」

 

 どうやら賞品に釣られて参加者が多くなったようである。賞品に目が眩みアストライアー侯爵家からジークを力士として送り出したため、賞品を欲しがっている方々に文句は言えない。優勝賞品と各賞が飾られている場所にナガノブさまが腕を組みながら視線を向けて、良い顔になっていた。帝さまもナガノブさまの言葉に笑みを携える。

 

 「勝ち進むごとに価値あるものになっていきますから、気合が入るのは当然でしょう」

 

 「私もなにか賞品を提供すれば良かったですね……今からでも遅くないですか?」

 

 帝さまに私も賞品提供しても良いですかと問う。ソフィーアさまとセレスティアさまがほどほどの品にしておけよと言いたげだった。ロゼさんに預けている、子爵領で作ったのとうもろこしさんや果物さんがあるので、それで良いかなと考えている。消えものだから、転売されても食べなきゃいけないし、売り払われても問題はない品だろう。お野菜さんと果物さんが無難だなと考えていると、ナガノブさまが手で太腿をぱんと叩いた。

 

 「なんと! それならばワシも参加すれば良かった!!」

 

 おそらく大樹公の座に就いている方にはそんなに魅力的な品ではない気がするけれど。一応彼には友好の証として片手長剣とか贈っているし、お野菜や小麦にお酒も贈っているのだが、他にも気になる品があるようだ。

 

 「賞品提供しても良いですか?」

 

 「構いませんよ。ナイが賞品を提供してくれるならば、盛り上がり始める三回戦あたりで皆に伝えましょうか。国外の品は珍しいので取り組みは白熱するでしょう」

 

 帝さまがにっこりと笑った。特別な対応になっているので、お野菜さんセットでは不味いなと私の背中に汗が流れる。どうしようと悩んでロゼさんを影の中から呼べば、一つ目の取り組みが始まったようである。土俵にお塩を撒く姿や手に着いたお塩を取るために、マワシを叩いて払う姿に懐かしいと目を細めながら、ロゼさんに賞品提供できそうなお野菜さん以外ないかなと問うてみる。

 ロゼさんは私の期待に応えようと、いろいろと品を身体からぽいぽいと吐き出した。誰かにぶつからないように出しているので器用なものだと感心する。そしてロゼさんの姿に驚いている方もいれば、面白いと興味深い視線を向けている方もいる。

 

 第一試合が終わり、わっと盛り上がる会場の片隅で異様な光景を広げているかもしれない。

 

 ロゼさんが収納から出してくれた多くを占めてたのは魔術関連の本である。ふいに毛色の違う装丁の本があったので私は手を伸ばして中身を確認しようとした。

 

 『マスター、それ見ちゃ駄目!』

 

 「どうして、ロゼさん?」

 

 ロゼさんが私の行動を止めたので、延ばしていた手を途中で止めてまんまるボディーのスライムさんに何故と問うてみた。

 

 『駄目、駄目!』

 

 珍しくロゼさんが私にNOと叫んでいる。駄目と伝えているのだから見ない方が良いのだけれど、中身が危険でないのかだけは確認しないといけない。もし魔導書とかであれば問題がある気がする。

 

 「私が見て良い?」

 

 「女神さま?」

 

 やり取りを見かねた女神さまがこちらに視線を向けて、こてんと首を傾げていた。ロゼさんに確認を取れば、女神さまであれば問題ないらしい。それならばと私は女神さまに中身の確認をお願いすれば、彼女は問題の本へと手を伸ばして中を開く。女神さまは速読できる方のようで、頁の進み具合が半端なく早い。羨ましいなと私が女神さまを見ていると、読み終わったようでパタンと本を閉じる。

 

 「ナイは見ない方が良いかも? どうだろう、問題ない気もする」

 

 女神さまはむーと考えながら言葉を紡いだ。私が読んでも問題ないのならば、ロゼさんは何故駄目だと主張したのだろうか。西の女神さまは手に持った本を家宰さまに渡して、私が中身を見ても問題ないのか確認して貰うようだ。

 

 「あー……ご当主さまは読まない方が賢明でしょう。女性であれば特に」

 

 困り顔の家宰さまの言葉に私は素直に頷くが、中身はなにか家宰さまに問うた。彼曰く本の中身はエロ本で、内容が随分と過激で特殊なものだとか。そりゃ読まない方が良いかもしれないと判断を下すけれど、一つ不思議なことがあった。

 

 「ロゼさん、どうしてそんなものを持っていたの…………?」

 

 『マスターに変なものを見せられない! だからロゼが管理してた!!』

 

 どうやらロゼさんは王都の元バーコーツ公爵邸の隠し部屋にあったエロ本の中でも、特に刺激が強いものを抜き出していたようである。いつの間にと不思議になるが、ロゼさんなのでするりと先に隠し部屋に侵入した可能性もある。

 えっちいことが駄目と判断できたロゼさんもある意味凄いが、私に見せられない本を先に隠してくれたのは有難い。ロゼさんを私の膝の上に乗せてぷよぷよボディーを撫でると、ロゼさんはでれんと身体を伸ばして脱力している。そのまま千切れてしまわないかと不安になるけれど、大丈夫だったようでまた真ん丸ボディーに戻っていた。

 

 私たちのやり取りが不思議だったのか帝さまとナガノブさまが中身はと私に向けて首を傾げる。

 

 「艶本です」

 

 私はフソウの方にはエロ本と伝えても通じない気がするので、少し古風な言い回しで伝えてみた。

 

 「ぶふっ!」

 

 「まあ」

 

 ナガノブさまが丁度口に含んでいたお酒を吐き出しそうになり、帝さまは目を開いて驚いている。ナガノブさまは口から垂れているお酒を袖口で拭い、家宰さまに手を差し出した。どうやら中身がどんなものか興味が湧いたらしい。日本、もといフソウはえっちいことに寛容だし、衆道も文化としてあるから家宰さまよりナガノブさまはその手のことに詳しそうである。

 

 「特殊な方にしか受け入れづらいかと。宜しいですか?」

 

 「構わんよ。女子には確認させられぬだろうしな」

 

 困り顔の家宰さまにナガノブさまが大丈夫と強気に出た。家宰さまは私に視線を向けるので、私は彼に構わないと一つ頷く。家宰さまは手に持っているエロ本をナガノブさまに渡す。ふむ、と短く声を零したナガノブさまはエロ本を開いて中身を確認していた。女性陣に見えないようにと気遣ってくれているけれど、気遣いの方向性が少々ズレている気がする。

 

 「確かに初心な者には敷居が高いか。玄人ならば受け入れられるかもしれんな。ナイ。この本、どうするのだ?」

 

 ナガノブさまがエロ本を閉じて右手でひらひらと掲げる。

 

 「問題ないのであれば処分したいですね。私が持っていても仕方ない品ですから」

 

 私が持っていても意味はないし、ロゼさんにも役に立たない品である。家宰さまに確認して頂き――一応、著者が高名な方や歴史的価値があれば残しておく――処分しても問題がないならば、売り払うか捨てるかしたい。

 ナガノブさまは受け取りに問題はないし、適正に処分をしてくれると確約してくれた。家宰さまも特に問題はありませんと告げたので、エロ本の処分をナガノブさまにお願いした。――って、確認しておくことがもう一つある。

 

 「女神さま、大丈夫ですか?」

 

 女神さまはえっちいことに耐性があるのだろうか。顔色一つ変えないままエロ本を読み進めていた気がする。

  

 「特に。ナイが気にすることじゃないよ。私が確認するって言い出したんだし。あ、ナイの護衛の子の取り組み始まるよ。勝てると良いね」

 

 女神さまは私が気を使えば、高確率で気にする必要はないと伝えてくれている。ご本人が大丈夫であれば問題ないかと私は土俵の上を見る。土俵にはジークがインナーを履きその上からマワシを回して立っていた。相手はかなりの巨漢で脂肪が多いけれど、筋肉も一定量備えている。体脂肪が一〇パーセントを切っていそうなジークと比べると、体型の違いに溜息が出そうになった。

 

 「彼の調子の良い頃はもっと筋肉質でしたが、勝てないので体重を増やしたそうです」

 

 帝さまがジークの相手がどんな方なのか教えてくれる。ナガノブさまも勝った負けたを繰り返している力士だと教えてくれた。調子の良かった頃の時期が定かではないけれど、痩せて筋肉を戻した方が機敏に動けそうだけれど……まあ、素人が口をだすことではない。とりあえず……――。

 

 「ジーク、頑張れ!」

 

 私が声を上げれば、ジークは視線だけをくれた。勝ってと願っていれば、行司の方が『待ったなし!』と大きい声を上げる。私の肩の上にいるクロがごくりと息を呑んだので、私とジークよりもクロの方が緊張していると苦笑いを浮かべると『はっけよい!』と聞こえた。

 

 「兄さんなら、秒で勝つ」

 

 私の後ろでぽつりと聞こえた声と同時に『のこった!』と行司の方の声が上がり、相手が一気にジークとの距離を詰めた瞬間だった。

 

 ――パシンっ!

 

 と土俵の上で快音が響けば、相手力士が土俵へと倒れ込む。どうやらジークの張り手一発が綺麗に決まり、相手の方が土俵に沈んだとリンが教えてくれる。どよめく会場の皆さまと、表情一つ変えないまま徳俵の所で礼を執ったジークが蹲踞をして、右手で三度空を切る。

 一先ず一勝を挙げることができたから、アルバトロス王国教会の騎士としての面子は保たれただろう。次のジークのお相手はどんな方だろうと、土俵を降りる逞しいジークの背中を見守るのだった。

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