魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――ミナーヴァ子爵邸、サンルーム。
時刻はお昼過ぎ、ご飯を食べて眠たくなる時間だけれど今日はやるべきこと、決めるべきことがある。毛玉ちゃんたちのお試し宿泊が五日後となっているので少し予定を詰め込んでいるかもしれないが、女神さまに突っ込まれた以上、そしてグイーさまに文句を言えない状態は解消しておきたい。
そんなことなので、今日はグリフォンさんとグリ坊さん四頭とポポカさん五羽の名前を決めようとなった。先延ばしにしていたこともあるし、今日でみんなの名前を決めるとも伝えてある。
「えっと、どうして私はナイさまのお屋敷に招待を受けたのでしょうか……?」
フィーネさまが凄く不思議そうな顔で困っているが、私は彼女も巻き込むと決めたのだから当然だ。彼女の前には侍女の方が用意してくれたティーカップから湯気が仄かに立っていた。鼻をくすぐる微かな匂いは私のお気に入りの茶葉のものである。ミズガルズ神聖大帝国の第一皇女殿下が贈ってくれた茶葉であり、最近好んで飲んでいるから侍女の方が気を使ってくれたようだ。
「いえ。理由は知っていますが、ナイさまにはグリフォンさんたちの名前の候補を書いた紙をお渡ししたのに、どうしてこんなことになっているのでしょう?」
彼女は片眉を上げ隣に腰掛けている、アリサさまとウルスラさまに視線を向けた。タイミング的に丁度良いから、私はアリサさまとウルスラさまもご招待したのだ。無理強いはしないとお二人には招待状に記しておいたので、アリサさまとウルスラさまはご自身の意思でミナーヴァ子爵邸を訪れている。
ちなみに彼女たちには『最近の聖王国の状況を教えてください』と記したので、グリフォンさんたちの件については寝耳に水だっただろう。聖王国の状況はアストライアー侯爵家が差し向けた密偵の方がいるので、情報は手に入れているし、アルバトロス上層部からも逐一連絡が入っている。
大体は把握してあるため、聖王国の近況を知るためにというのは方便であり、本命はグリフォンさんたちの名前である。巻き込んでしまったアリサさまとウルスラさまには申し訳ないが、私と私的な関わりがあると知ったならば普通の方は彼女たちに手を出さないだろうという目論見もあるけれど。
「直接名付けて貰った方が良いかな、と」
ちなみにお三方の隣にはアリアさまとロザリンデさまも同席している。アリアさまは喜んで参加してくれているけれど、ロザリンデさまは自身が考えた名が選ばれたらどうしましょうと悩んでいるようである。彼女の胃が痛くなりそうならポポカさんたちの名前候補かなと頭の片隅に置く。そしてお二人の更に隣には、ソフィーアさまとセレスティアさまも参加していた。
ソフィーアさまは私も一緒に考えても良いのかと軽く問われて、私が問題ないですと伝えればあっさりと参加を決めてくれている。セレスティアさまは言わずもがな、私の手を握り込んで無言で勢い良く首を縦に何度も振って参加を決めてくれたのだ。
私の後ろにはジークとリンが控え、それぞれの皆さまの後ろにも護衛の方が立っている。サンルームの窓から顔を出しているグリフォンさんに驚き、サンルームの中で日向ぼっこをしているポポカさんとグリ坊さんたちにも驚きの視線を向けていた。
ジークとリンと私の肩の上にいる、アズとネルとクロにもチラチラを視線を向け、足元で寝転がっているヴァナルと雪さんと夜さんと華さんにも目を向けている。サンルームの中で動き回っている毛玉ちゃんたちにも視線を向けているが、彼らは西の女神さまにだけは視線を向けない。
視線を向けられないご本人は優雅に紅茶をシバきながら、目の前のお茶菓子に手を伸ばしてひょいと口の中に放り込んでいる。彼女のその仕草は南の女神さまに似ているような気がした。ちなみに西の女神さまはお茶菓子が食べれることと、グリフォンさんたちの名前が気になるとのことで同席している。好き嫌いはないようだし、子爵邸では出されたものに対して文句を一度も告げたことはない。
綺麗に平らげているので、料理長さんを始めとした料理人の皆さまは胸を撫で下ろしているとか。ご本人も『美味しい』と短く告げて、満足そうな顔をしている。女神さまの子爵邸滞在が長くなっているので、屋敷で働く方たちとも声を交わしている姿を見ている。問題なく馴染んでいるようでなによりだ。
フィーネさまが一口紅茶を含んで、ティーカップをソーサーの上に置き私と視線を合わせた。彼女の視線は困惑から真面目なものに変わっていた。
「聖王国の近況報告かと思えば、こちらが本命だったのですね……でも、良いです。凄く素敵な名前をみんなで考えてグリフォンさんたちに贈りましょう!」
彼女はぐっと手を握り込んで、隣にいるアリサさまとウルスラさまに顔を向けて『頑張りましょう!』と告げている。アリサさまとウルスラさまも驚いてはいるものの、グリフォンさんたちの名前を考えることはやぶさかではないようだ。
けれどお二人はなにか迷っているような表情を浮かべて私と視線を合わせた。聞き辛いことのようで、言葉を躊躇っているようである。
「アリサさま、ウルスラさま、どうなさいましたか?」
「あの、ナイさまの隣にいらっしゃる方をご紹介頂けると嬉しいのですが」
私の声にアリサさまがおずおずと声を上げ、フィーネさまが困ったような顔になり、ウルスラさまは若干オロオロしている。そういえばお二人は西の女神さまとお会いするのは初めてか。
ウルスラさまはグイーさまと北と東と南の女神さまと顔合わせをしているので、西の女神さまを紹介しても驚きはしないだろう。アリサさまはタイミングが悪く、神さま方と面会したことがない。まあ、大丈夫だろうと私は西の女神さまに視線を向けて許可を取る。
「西の女神さまです」
私が軽く女神さまだと紹介すれば、アリサさまとウルスラさまが椅子を後ろに倒しそうな勢いで立ち上がる。周りの皆さまは『普通はそうなるよな』という表情で、驚きまくっているお二人に同情の視線を向けていた。そうしてアリサさまとウルスラさまが名乗りを上げて礼を執れば、西の女神さまが椅子から立ち上がる。
「よろしくね。ナイのお屋敷でお世話になっているから、普通の人として扱ってくれると嬉しい」
頭を下げることはないけれど、お二人を見つめながら座ろうと女神さまが促す。アリサさまとウルスラさまが力なく椅子にお尻を落とせば、西の女神さまも椅子に腰を下ろしてまた紅茶をシバいている。
お菓子を食べる手が止まらないなと彼女の手元を見つつ、私は子爵邸の図書室から持ち出していた本を手に取った。アルバトロス王国における命名事典であり、名前の意味も記されているので意外と重宝している。
名前について詳しくはないので、こういうものは便利である。纏めてくれた方には感謝しなければならないが、子爵邸の図書室には魔獣と幻獣関係の本が増えていたし、魔術関連の本も異様に増えていた。持ち出し自由だし、本を棚に入れるのも自由だから犯人を問い詰める気はないけれど、なんとなく分かってしまうのは何故だろう。
サンルームの窓からグリフォンさんがタイミングを見計らい、翼をばさりと広げた。
『私と仔たちとポポカたちの名前が決まるのですね』
ふふふと嬉しそうにしているのだが、もしかしてずっと待っていたのだろうか。決して彼女の名前を付けるのが面倒で引き延ばしにしていたわけではないのだが、少々罪悪感が湧いてくる。よし、前にフィーネさまから頂いた名前の候補と命名事典から見つけた名前から、彼女に似合いそうなものを選ぼうとなる。
「あ……」
「どうしました、ナイさま?」
私が漏らした声にフィーネさまが気付いて顔を上げる。他の方も『どうしたんだ?』というような表情で私を見ている。唯一、西の女神さまだけがお茶菓子を美味しそうに食べていた。
「いえ、ヤーバン王もこの場に呼んだ方が良かったかなと」
開きかけていた命名事典を一度閉じ、私は苦笑いを浮かべた。ヤーバン王を招待していれば、きっと気合を入れて名前を考えてくれたはず。いや、逆もあり得そうだから、名前を不服として抗議される可能性もあるだろうか。竹を割ったような性格のヤーバン王なので大丈夫だと信じたいが、彼女を招待しなかったことを今更後悔しても遅い。
「確かグリフォンを国獣と定めている国ですよね。グリ坊さんたちを見にきていたと聞きましたけれど」
フィーネさまがヤーバン国の事情を軽く説明すると、ウルスラさまが真面目な顔で聞き耳を立てていた。どうやらヤーバンという国の名を耳にするのは初めてのようで、なにか考え込んでいるようである。彼女は真面目だなあと感心していると、グリフォンさんが嘴を開いた。
『では、名前が決まれば私が直接彼女に伝えに行きましょう。きっと喜んでくれます』
それなら何故呼んでくれなかったと悲壮な手紙が届くことはないだろう。どうにも魔獣好きな方や魔術が大好きな方々は己の欲望に忠実で、手紙にも欲望が駄々洩れだから返事に困ることがある。グリフォンさんの機転に私が助かると伝えれば『いえいえ、お安い御用です』とドヤ顔を披露している。
「さて、なにか良い案があればどんどん出してください。候補に入れて、決まらなければ多数決でも良いかなと」
一先ず私が指揮を取らなければ先に進まないと声を上げる。護衛の皆さまとお付きの侍女の方たちにも遠慮なく、名前の候補をくださいと申し出ておく。命名事典をペラペラと捲っていれば、良さげな名前の候補がいくつか目に付くので、紙に書きだして忘れないようにメモを取った。
ぽつぽつと書き出していると、良さげな名前が増えていく。他の方もメモを取っているし、お隣の方と相談しながら名前を書きだしてくれている。強制的に皆さまをお誘いしたけれど、協力してくれるので本当に助かった。私だけでグリフォンさんとグリ坊さん四頭とポポカさん五羽の名前を決めるとなれば、逃げていたに違いない。
「えっと、良さげな名前から決めようと考えていましたが、皆さまが上げてくれた名前を先ずはグリフォンさんに見て貰って選んで貰おうかな、と」
「問題ないです!」
「はい」
「私も大丈夫です」
「私も構わない」
「わたくしもですわ」
「一番良い方法かと!」
「気に入ってくださる名前があると良いのですが」
私が声を上げれば、フィーネさまアリサさま、ウルスラさまに、ソフィーアさまとセレスティアさまとアリアさまとロザリンデさまと声が続いた。グリフォンさんにサンルームの中に入るようにお願いすれば、大きな身体を扉に通してこちらにやってきてくれる。
丁度エルたちも顔を出して、グリフォンさんの名前が決まる瞬間に立ち会ってくれるようだ。机に並べた紙をグリフォンさんは見下ろして渋い顔になる。
『文字が読めません』
「あ、そっか。ごめんね。読み上げる」
しょぼんと項垂れたグリフォンさんに私は苦笑いを浮かべて紙を取る。そうして読み上げた二十個上がった中から、グリフォンさんが一つ気に入った名前を選んで貰う。
「ジャドさんか。翡翠を指す言葉だし、グリフォンさん……ジャドさんの瞳と同じ色だから似合ってるかな」
『翡翠と聞き、好きな色でしたので素敵だなと』
へらりと嬉しそうにしているグリフォンさんの名前が決まり、次はグリ坊さんとポポカさんたちかと小さく息を吐くのだった。
◇
グリフォンさんの名前が決まり、次はグリ坊さんとポポカさんたちの名前を付けようとなった。自分の仔に名前が付くと期待に胸を膨らませているジャドさんには申し訳ないが、早々素敵な名前を贈れるとも限らない。
これから名前が付くであろうグリ坊さんとポポカさんたちは塊になって日向ぼっこに勤しんでいた。彼らの安眠を邪魔しようと試みている桜ちゃんと椿ちゃんと楓ちゃんに、松風と早風が止めておきなよと心配そうな顔をしている。
ヴァナルが桜ちゃんたちがなにをするのか気付いて、のっそりと立ち上がり彼女たちを止め、松風と早風が良かったと安堵している。性格が出ているなあと私は彼らを横目で見ていると、グリフォンさん、もといジャドさんがぬっと顔を出して名前の候補を書いている紙を覗き込んだ。
「ジャドさんは、グリ坊さんにはどんな名前が付けば嬉しいですか?」
『皆さまが一生懸命考えてくれた名ですので、なにが付いても嬉しいですし有難いことですよ』
ジャドさんが機嫌良く嘴を私の頭の上に置いてぐりぐりしている。ジャドさんがぐりぐりしていると私の肩が揺れるため、クロが飛んで女神さまの膝の上に逃げた。嬉しそうな顔を浮かべて逃げたクロの背中を撫でている西の女神さまに、若干嫉妬の視線を向けているセレスティアさまをソフィーアさまが肘鉄を入れて注意を促す。
公爵令嬢さまによる渾身の肘鉄は辺境伯令嬢さまには全く効いていないようで、嫉妬の視線を女神さまに向けたままである。西の女神さまは某辺境伯令嬢さまの視線に気づかぬままクロの背を撫でていた。
今の状況に『凄いなセレスティアさま』と感心している方が数名、引いているか驚いている方が数名いて、顔色を見るのが面白い。私はジャドさんからのぐりぐり攻撃を未だに受けており、そろそろ止めて頂かないと髪の毛が抜け落ちそうだった。ジャドさんにジークとリンがそろそろ止めて欲しいと伝えれば、彼女は『おや、失礼を』と言って嘴ぐりぐり攻撃を止めてくれた。
「名前、沢山あるから逆に迷いますね」
机の上にある名前をメモしている紙は、びっしりと文字が書き込まれている。私の言葉にフィーネさまが苦笑いを零した。寝息を立てていたグリ坊さんとポポカさんたちがぱちんと目を開けると、凄く近くにいた桜ちゃんと楓ちゃんと椿ちゃんのドアップの顔に『ピョエ!』『ポエ!』と驚いていた。
「前に考えていたのもありますし、今回の話を聞いて考えていましたからね」
フィーネさまが肩を竦めるとアリサさまとウルスラさまが少し困った顔になる。
「事前に伝えて頂ければ、もっと考えていましたけれど……」
「急なお話でしたから」
連絡不足については申し訳ない限りだ。フィーネさまを誘うならば、お二人も子爵邸にフィーネさまと一緒にくれば気晴らしにでもなるかなと考えただけだから。アリサさまとウルスラさまが苦笑いを浮かべていると、アリアさまが小さく手を挙げる。
「あ、でも、アリサさまと久し振りに会えましたし、ウルスラさんともお話できたので、私は凄く嬉しいです!」
ナイスなタイミングでのフォローだった。アリアさまは優しいなあと私が感心しているとロザリンデさまも続けて口を開く。
「そうですわね。同じ聖女としていろいろとご相談できれば喜ばしいことでございましょう」
小さく笑みを浮かべたロザリンデさまには年長者の威厳というものが芽生えているような。やはり三年の歳の差は大きいようで、ここ最近ロザリンデさまに抱いている気持ちだった。
「来年も南の島に遊びに行く計画を立てているので、ウルスラさまも良ければ参加してくださいね」
とりあえず私はウルスラさまに来年の夏に開催する南の島でみんなでバカンスを楽しもう計画のお誘いをしておく。急に手紙を送るより事前に伝えておいた方が良いだろうし、女の子だから入念な準備も必要だろう。
そういえばウルスラさまは以前より血色が良くなっているし、表情も明るくなっている。アリサさまが頑張って彼女の面倒を見ているそうなので頼もしい限りだ。
「え……部外者の私が参加しても良いのでしょうか。それに大聖女の務めが」
ウルスラさまが眉をハの字にして困り顔を浮かべた。黒衣の枢機卿さまはウルスラさまにお貴族さまや高貴な方たちの生活振りを教えていないようだ。ウルスラさまも聖王国で大聖女さまを担っているのだから、高貴な方に類される。夏休みはあるだろうし心配しなくても良いことのような気もするが、聖王国はどう考えているのだろうか。
「ウルスラ、夏の間は多くの方がお休みを取っていますので心配は要りませんよ。それにずっと根を詰めたままでは疲れてしまいます」
フィーネさまが先達としてウルスラさまの困惑を晴らそうとしていた。どうやら問題なく夏休みを頂けるようだ。一応、二週間と短めなので聖王国の大聖女さま二人が同時に留守になっても大丈夫だろう。
彼女たちが不在の間は他の聖女さまがフォローに入るだろうから。ウルスラさまに沁みついた常識を変えるのは今しばらく時間が掛かりそうだなと聖王国組を見ていれば、隣からちょんちょんと指で私の肩を叩く方がいた。
「ナイ、南の島って?」
「西大陸と東大陸の間にある無人島のことです。亜人連合国の皆さまが移住を始めて、私たちは夏のお休み期間中にお邪魔して遊んでいます」
西の女神さまが問うたので、私は答えておく。そういえば南の島は北と南の中間地点でもあるような。神さまの島に向かおうと試みていた方がいるから、なにか特別な島なのだろうか。
「南の島の管轄は西の女神さまになるのですか?」
「誰だろう?」
西の女神さまが首を捻っているので、南の島の管轄は彼女ではないようだ。となると北か東か南の女神さまらしい。流石に女神さまが管轄していれども、人間の入植を拒むことはないだろう。分からなければグイーさまに聞いてみようと決め、グリ坊さんとポポカさんたちの名前を決めようとなる。
「どれが良いかな?」
私は机の上の紙を見た。入れて頂いた紅茶は随分と冷えていて、飲みやすくなっている。お菓子に手を伸ばしたいけれど、食べるとカスを紙の上に落としてしまうと自重した。
クロが私がジャドさんのぐりぐり攻撃から逃れたと判断して、私の肩の上に戻る。西の女神さまが『あ』と小さく声を上げているので、クロには彼女の側にいてあげて欲しいのだが……こちらが良いようである。西の女神さまの視線が若干痛いけれど、グリ坊さんとポポカさんたちの名前を決めねばと知らない振りをしておいた。
「ジャドさまみたいに、ご自身で決めて頂けないですしねえ」
フィーネさまが苦笑いを浮かべながら紙を眺めている。
『流石に仔たちはまだ分からないでしょうから。ポポカたちも分からないでしょうし、皆さまで素敵な名前を贈って頂ければ』
ジャドさんがこてんこてんと左右に首を傾げながら答えてくれた。彼らの意思をジャドさんとクロに聞いてみるのもありだけれど、通訳して貰うのも味気ない気がする。
「ジャドさんはグリ坊さんたちがどんな仔に育って欲しいんですか?」
『健康であれば良いかなと。雌ならば強くて立派な仔に育てば良いなと。雄は……どうでしょうか。生きていればそれで良いかなと』
グリフォンさんは本当に女尊男卑な価値観なのだなあと少し呆れた声が出そうになった。ヤーバン王国に雄の皆さまが集まっているのも、雌の強さに敵わないからという切ない理由だったはず。
そして集まった雄の皆さまの中で強い雄だけが、雌との交渉権を得られるという更に過酷な世界である。もうすこしグリフォンさんの雄の皆さまに、人権ならぬ鳥権もしくは獣権があっても良いのではなかろうか。グリフォンさんの世知辛い事情に席に座っている皆さまと護衛の方々が微妙な顔になっている。
「あ、大事なことが……雌雄は分かるのでしょうか?」
雌雄が分からなければ中性的な名前を選ばざるを得ないのだが、アルバトロス王国や西大陸は男性名と女性名がはっきりと分かれている。グリフォンさんにどうなのかという視線を向ければ、彼女は緑色の瞳を細めた。
『分かりますよ。小柄な二頭が雄ですねえ』
「そういえば卵から孵った時から二頭は小柄でしたね」
理不尽だなあと思わなくもないが、これがグリフォンさんたちの常識なのだろう。小柄な二頭が雄なら、体格が大きい方は雌になるのか。身体の大きさ以外では特に違う所は見当たらない。
副団長さまにグリフォンさんの雌雄の見分け方の話を伝えれば喜んでくれるのだろうか。単純すぎて面白味がないから微妙かなと苦笑いになっていると、グリ坊さんとポポカさんたちが机の上に飛び乗る。ポポカさんたちは跳んだが正解かもしれない。べちっと着地に失敗する仔に、とんっと軽く降りる仔もいたりで個性が出てる。ポポカさんたちは運動神経に期待できないため、何度か机の上を跳ねていた。
『おや?』
ジャドさんが目を丸くして彼らの行動に驚いていた。私も珍しい行動だなと目を見張っていると、一頭の小柄なグリフォンさんが嘴で紙を突っ突いている。そこには『アシュ』という名が記されていた。
「もしかして名前選んでるの?」
私がアシュという名を選んだ仔に問いかけるとぺこんと首を傾げた。まあ、彼らが名前を読めるわけはないけれど、感じるものがあるかもしれないと私は『アシュ』と彼が選んだ名を呼んでみる。
彼の横でもう一頭の小さな仔が『アスター』と書かれた部分に嘴をコツコツと当てたあと顔を上げ、こちらを見ながら目を細めた。そうして彼ら二頭より大きい女の子たちがそれぞれ『イル』と『イヴ』の名前を嘴で軽く叩いた。
『私の知らないところで、この仔たちは知恵を身に着けていたのですね』
ジャドさんがちょっとウルウルしながら、グリ坊さんたちが賢くなっていることを喜んでいた。
『良かったねえ。名前、自分で決められた方が良いだろうしねえ~』
クロがしみじみとしていると、ポポカさんたちにはグリ坊さんたちが名前を選んでくれるようで、また紙をじっと見つめて嘴を叩いて彼らの名前はこれだと主張している。『ポポ』『カカ』『ココ』『ロロ』『ララ』と、ポポカさん用にと考えていた紙の中にあった名前を選んでくれた。
「文字、読めているのかな?」
ジャドさん、人間の文字を読めないのだが、彼女の仔たちは認識しているようである。ちょっとしょぼくれているジャドさんにまあまあと彼女の顔を撫でていると、集まっていた皆さまがふうと息を吐いた。
「ナイさま、名前が決まった良かったですね!」
アリアさまが手を合わせながら喜んでくれているし、他の方々もうんうんと納得してくれている。
「本当に。皆さまご協力ありがとうございました。えっと、アシュ、アスター、イル、イヴたちに、ポポ、カカ、ココ、ロロ、ララたちも改めてよろしくね」
私がグリ坊さんたちとポポカさんたちの名前を呼ぶと、ココとロロとララが『ポエー!』と鳴いてお尻の下辺りから卵をポロリと産み落とすのだった。
――え?