魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0545:卵を産み落とした。

 コロコロと小さな卵が三つテーブルの上に転がっていく。卵を産み落とした三羽はきょとんとした顔で卵さんを見ている。小さいグリ坊さんのアシュとアスターが卵さんを嘴で器用に三つ纏めて、脚を折って卵さんを二頭で温め始めた。

 

 ポポカさんたちはなにが起こっているのか理解していないようで、未だにきょとんとしたままだ。南の島のポポカさんたちの生息数が減っているから、卵さんが産まれるのは嬉しいことだけれど、アシュとアスターが卵を温め始めた現状に私は頭を抱えそうになる。でも幻獣組の皆さまは特に問題にしていないようで、アシュとアスターに微笑ましい視線を向けていた。

 

 『いつの間にポポカたちは卵を成していたのでしょうか……しかし、新たな命の誕生は喜ばしいことです』

 

 母グリフォンのジャドさんが私の頭の上に嘴を置いてぐりぐりし始めた。ぐわんぐわん揺れる頭のせいで、クロが私の肩から飛び立って女神さまの肩に避難する。

 

 『だねえ』

 

 「うん」

 

 クロと西の女神さまが視線を合わせて嬉しそうな顔をしていた。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが立ち上がり、卵を抱えるアシュとアスターを見つめる。

 

 『増えると良いね』

 

 『ええ、本当に』

 

 『順調に育って、無事に孵ってくれると良いのですが』

 

 『また、お屋敷が騒がしくなりそうですね』

 

 ヴァナルと雪さんたちもお互いに視線を合わせて、微笑ましい空気を醸し出している。サンルームの外ではエルとジョセとルカとジアが興味深そうにこちらを見ていた。どうやら彼らは卵が産まれたことを祝っているようで、鼻を鳴らしてみたり、尻尾を大きく振ってみたりして我々も嬉しいですよとアピールしている。

 

 「無事に孵ると良いですね」

 

 「本当に」

 

 「鳥が卵を産むところを初めて見ました」

 

 驚きながらもふふふと微笑ましい視線をアシュとアスターに向けているフィーネさまとアリサさまに、若干状況についていけないウルスラさまがぎょっとしていた。

 

 「まさかグリ坊さんたちが卵を抱えるなんて」

 

 「雄の方が母性本能が強いのでしょうか……?」

 

 アリアさまとロザリンデさまは子爵邸の騒ぎに慣れてきているのか、落ち着いた雰囲気で状況を見守っている。

 

 「念のために城に報告しておこう」

 

 「お師匠さまが飛んできそうですわねえ」

 

 ソフィーアさまは小さく息を吐いて後ろに控えている護衛の方にアルバトロス上層部に知らせるようにとお願いし、セレスティアさまはポポカさんの卵をグリフォンの幼体が温めている特殊な状況に目を細めていた。

 ポポカさんの卵はどれくらいの期間で孵るのか、餌や寝床はどうしようかとみんなと相談して本日は解散となる。聖王国は教皇猊下と残り少ないマトモな方が頑張っているので、どうにか国として体面を守っていた。フィーネさまとウルスラさまは全然政治面に参加していないので当初の予定通りであるが、少し気になることがあるそうだ。

 

 「ヴァンディリアの元第四王子殿下が政治に参加していることですね。教皇猊下が彼を参加させると決めたようなので、私は特になにも伝えていませんが」

 

 「あと元七大聖家のお一方が修道院から戻ってこられておられます」

 

 フィーネさまとアリサさまが微妙な顔をして告げる。確かに元王子さまと元良い所の家の方であれば、政を担えるようにと教育は受けているはず。先程述べられた彼らが聖王国に役立っているのかどうかは分からないが、呼び戻されたということはそれなりに期待できるのだろう。

 

 ヴァンディリア王国の元第四王子殿下は以前、聖王国でフィーネさまにちょっかいを掛けた過去がある。今も思いは変わらず、時々、彼が凄く遠くからフィーネさまへ熱視線を向けているので、護衛の方々が確りと見張っているとか。

 

 フィーネさまに被害がないのであれば、元第四王子殿下には聖王国で政を頑張ってくださいと願うだけだ。元七大聖家のお一方――フィーネさまから攻略対象だったと聞いている――も、修道院から呼び戻されたことで気合が入っているらしい。妙な方向へ目覚めなければ良いけれどと願いながら、フィーネさまとアリサさまとウルスラさまをお城の転移陣で見送りをして子爵邸に戻るのだった。

 

 夕食前、私はポポカさんが産んだ卵が気になるので、サンルームへジークとリンと一緒に足を向けた。相変わらず机の上ではグリ坊さんのアシュとアスターが卵を三つ温めている。 

 

 五羽のポポカさんも一応、彼らの周りでまったりと過ごしているのだが、イルとイブは机の下で翼を広げながらじゃれ合っている。嘴で突き合っているので怪我をしないのだろうかと私が気にしていると、母グリフォンさんのジャドさんが加わり『ピョエー!』と鳴きながら嘴でなにかしている。

 グリフォンさん流の喧嘩殺法でも教えているのかと目を細めれば、クロが私の肩の上で『元気だねえ』と呑気に声を上げた。私が机に近寄るとアシュとアスターが首を上げ『ピョエ!』と鳴く。クロ曰く彼らは、大事な卵さんに手を出すなと言っているらしい。あまり近づかない方が良さそうだなと、私が数歩下がってジークとリンの顔を見上げる。

 

 「卵さんは大丈夫そうかな?」

 

 「大丈夫。屋敷に魔素が満ちているから、温めなくても良いかもしれない」

 

 私が問いかけたジークとリンではなく、何故かそっくり兄妹の隣にいた西の女神さまが答えてくれる。彼女の顔が少しだけどやっとしているのは気の所為だろうか。まあ、女神さまが言っているならば間違いはないはずだ。

 お屋敷に魔素が満ちているという言葉は右から左に流してしまいたいが、魔獣や幻獣の皆さまには良い環境のようである。ジークは自分たちが答えるはずだったのにと苦笑いを浮かべて、リンは口をへの字に曲げていた。あとでリンとゆっくり話す時間を設けよう。西の女神さまが子爵邸で過ごしているから、幼馴染組との時間が少なくなっている。

 

 『良い仔ですねえ。アシュとアスターは雄なので、大きくなればヤーバン王国へ行ってしまうのでしょうか。はっ!? 妙な雌に捕まってしまったらどうしましょう、ナイさん!』

 

 ふいにイルとイブの相手を務めていたジャドさんが顔を上げて、妙なことを口走った。凄く慌てているけれど、彼女は心配し過ぎではないだろうか。

 

 「今から心配していると、心が消耗してしまいますよ。それにアシュとアスターを選んだ雌のグリフォンさんが悪い方だとは思えませんが……」

 

 私はジャドさんと視線を合わせて苦笑いを浮かべる。グリフォンさんは雌が雄を選ぶようだから、アシュとアスターを選んだのならば賢い選択だと思えるけれど。面倒見が良いようだから、もし雌から卵を預かったなら育ててくれるかもしれないし、ヤーバンの皆さまが凄く喜ぶだろう。

 

 『ナイさんは良い視点をお持ちですね。確かにアシュとアスターを選んだ雌は審美眼が優れているのでしょう』

 

 ふふふとジャドさんが良い顔で笑うと、足元でイルとイブが遊べと主張していた。ポポカさんたちはお眠なのかアシュとアスターの隣で五羽が固まって、こっくりこっくりと船を漕いでいる。急にポポカさんが卵を産み落として驚いたけれど、平和だなあと目を細めてジークとリンに部屋に戻ろうと告げ、ジャドさんたちとはお別れをしてサンルームを出る。

 

 西の女神さまは夕食の時間まで図書室に引き籠ると言い残して私たちと別れた。そうしてジークとリンと私は子爵邸の廊下を歩く。

 お屋敷で働いている方とすれ違えば『お疲れさまです』と声を掛ける。以前は凄く恐縮されていたが、廊下の端に寄った方からも『お疲れさまです、ご当主さま』と声が返ってくるようになった。私は前世のホワイト企業の社会人生活で身に付いた習慣だから苦にしていないし、風を肩で切ながら無言で通り過ぎるより全然良いだろう。ふいに後ろを歩いているジークが、私との距離を詰めた。

 

 「ナイ、少し良いか?」

 

 「どうしたの、ジーク。歩きながらでも大丈夫?」

 

 ジークが私の左隣に並んだ。珍しいけれど、お屋敷の中なので問題はない。

 

 「フソウ国に行ったあと、少し長めの休暇が欲しいんだ。リンには伝えているんだが、エーリヒとユルゲンが聖王国から休暇で戻ってくるから王都の街に出掛けようと手紙が届いてな」

 

 ジークとエーリヒさまとジータスさまの関係はまだ続いているようだ。友人が増えるのは良いことだし、仲を深めるのも良いことである。幼馴染組以外にジークが信頼を寄せあえる友人になっていれば良いのだけれど。そしてエーリヒさまとジータスさまにもジークの存在が大きいものでありますようにと願いながら、私は笑みを浮かべた。

 

 「リンが大丈夫なら、私は構わないよ。フソウから戻れば、暫く外に出る予定はないし大きな行事もないからね」

 

 お休みを申請するのは自由だし、許可が出たなら存分に楽しんでくればいい。教会の専属騎士であるジークとリンのどちらか片方が付いていてくれれば、私の行動に教会が口を出すことはないのだから。まあ、侯爵位を持っているので教会は私に口を早々出せないけれど。

 

 「すまない、助かる」

 

 ふっと短くジークが息を吐く。遊びに行くなら同性同士の方が気が楽だろうし、存分に楽しんできて欲しい。

 

 「お屋敷だけじゃあつまらないからね。あ、偶にはクレイグとサフィールも外に連れて行って貰えると助かるかな?」

 

 ただジークにはクレイグとサフィールのこともお願いしたい。どうにも幼馴染組は屋敷の外に足を向けるという行動が重い上に、クレイグとサフィールは仕事人間である。私も人のことは言えないが、リンも中々外へ出かけないなと彼女の顔を見た。

 

 「リンも遊びに行きたければ、いつでも言ってね」

 

 一番足が重いのはリンである。私といつも一緒なので私に引っ張られていると言っても良いけれど。ジークの様に幼馴染以外と付き合いがないことも理由にあるのだろうけれど。

 

 「うん。その時はナイも一緒だと嬉しい」

 

 リンはそう言って私の右隣りに並び歩を進める。

 

 「私が外に出ると凄く大勢の護衛を引き連れなきゃいけないよ?」

 

 ぶっちゃけ私が王都をウロウロする際には非常に大勢の方が護衛に就く。メインはジークとリンだけれど、ソフィーアさまとセレスティアさまも私が外に出るとなれば気を張っているし、侯爵家で人を賄えない時はハイゼンベルグ公爵家かヴァイセンベルク辺境伯家か王家から護衛の方を借りてくる。凄く大仰だけれど慣れてしまったというのが私の本音だろうか。

 

 「それでも嬉しい」

 

 「じゃあ、今度どこかに出掛けてみようか。侯爵領でピクニックでも楽しそう……あ、ピクニックは春がきてからかな。今は時期的に寒いからね」

 

 リンと私で王都のどこかのお店を見て回ろうと約束を交わし、ジークには来年の春、幼馴染組を集めて侯爵領のどこかに出掛けようと約束するのだった。来年の話をすれば鬼が出るというけれど。

 

 ◇

 

 毛玉ちゃんたちのお試し移住と侯爵家の諜報員育成のための人員の方のアルバトロス王国への移動のため、アストライアー侯爵家一行はフソウに赴いている。ポポカさんたちが卵を産んだため、エル一家とグリフォンさんのジャドさんに卵を温めているアシュとアスタにイルとイブは子爵邸でお留守番だ。

 まだ卵が孵るには時間がある――鶏で三週間かかる――らしいので、卵さんのお世話は彼らに任せておけば良い。ポポカさんが卵を産んだよというお知らせを亜人連合国の飛竜便を使い南の島に連絡を入れているので、南の島の主である大蛇のガンドさんに嬉しい報告ができると良いのだけれど。

 

 今日で暫くお別れとなる毛玉ちゃんたち――一週間ほどフソウに滞在する――は、いつも通り元気一杯で歩いている時に鼻タッチを求めてきたり、先に走って後ろを振り返り私たちを見て、戻ってを繰り返しながら朝廷の長い廊下を歩いている。

 少し寂しいけれど毛玉ちゃんたちが成長した証だろうと、暫しのお別れだと私は彼らを目を細めながら見て廊下を歩き、案内役のナガノブさまが私の数歩前を歩いていた。そして私の後ろにはいつも通り、ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさま、その隣にヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが歩いている。肩の上にはクロがいて、影の中にはロゼさんがいる。

 

 「ナガノブさま、狐の男の仔はどうなりました?」

 

 ふいに気になったことがあるので、私はナガノブさまに問うてみた。彼は私にチラリと視線を向けたあと前を向いた。

 

 「元気にしておるよ。壊された祠も元より立派なものになるようにと手配したから、嬉しいようでな。時折、朝廷とドエ城に顔を出して油揚げをくすねておる」

 

 ナガノブさまが軽い調子で答えてくれる。どうやら祠も無事に建設中のようで、狐の男の仔はご機嫌のようである。彼のお母さまを祀っている場所だし、彼にとっても大事な場所だったようだから、問題なく物事が進んでいるようでなによりである。しかしまあ、朝廷とドエ城で悪戯をしているのは相変わらずのようだ。

 

 「くすねているのにバレバレなのですね」

 

 力のある狐の仔であれば人間にバレずに盗みを働けそうなのに、バレバレとはこれ一体と私は首を傾げた。

 

 「おそらく、寂しいのではないか? 妖狐の仔だ、本気になれば我々人間に気配を悟れぬように振舞うはずだ」

 

 ナガノブさまが短く笑う。男の仔は人化できる力を持っているのだから、弱いということはあるまい。であれば、ナガノブさまが仰った通り、男の仔は一人で寂しいから誰かに相手をして欲しいのかもしれない。そうであれば可愛いなと笑っていると、帝さまが待つ部屋の前に辿り着く。ナガノブさまが係の方に申し出て暫く待っていると、障子がすすすと開いて中に入るようにと促される。

 

 上座の一段上がった場所にある座布団の上には誰もいないけれど、意外な方がちょこんと座ってこちらに視線を向けていた。ナガノブさまはなにも言わずに、上座の直ぐ近くに腰を下ろす。私たちも係の方の案内で、上座の近くに腰を下ろした。

 

 「どうして君が?」

 

 まだ帝さまは部屋にきていないし、引継ぎ式も始まっていないので私は男の仔に向けて問えば、毛玉ちゃんたちが凄く嬉しそうに彼の下へと駆けて行く。ヴァナルと雪さんたちはなにも言わないし、彼らを止めもしない。となれば男の仔がどうなるかなんて、火を見るよりも明らかである。

 

 『お前は……って、なんや、毛玉っ! あっ、コラ、オイラをベロベロ舐めんでええ!』

 

 毛玉ちゃんたち――主に桜ちゃんと楓ちゃんと椿ちゃん――に押された男の仔は畳の上に転がった。ばたばたと脚を動かして抵抗しているけれど、三頭掛かりなので毛玉ちゃんたちには敵わないようだ。

 松風と早風も『久しぶりー!』と言わんばかりに彼の顔を舐めている。バタバタと脚を動かす男の仔は褌を履いており、前回のように丸見えではない。帝さまが履いて欲しいとお願いして、男性陣に履き方を習ったのだろう。 

 目のやり場に困るので有難いと私が息を吐くと、障子がまたすすすと開いて帝さまが上座へと歩いて行く。そうして座布団の上に腰を下ろす前、彼女は笑みを浮かべた。

 

 「おや。騒がしいと思えば、楽しそうでなによりです」

 

 帝さまがふふふと笑いながら座布団に腰を下ろす。

 

 『婆ちゃん、止めてや! 毛玉、オイラの身体舐めまくるねん!』

 

 男の仔が毛玉ちゃんたちのベロベロ攻撃から逃げようと、桜ちゃんの顔を両手で掴んでも、両隣から楓ちゃんと椿ちゃんが攻めてくる。松風と早風は早々に飽きたのか、彼らの側で腰を下ろして尻尾をぶんぶん振っているだけだ。

 しかし帝さまと男の仔は随分と仲が良くなったみたいだ。以前の男の仔は帝さまのことを『婆ちゃん』と呼んでいなかった。私たちがアルバトロス王国で二週間生活をしていたならば、彼らもまた同じ時間を過ごしている。

 そりゃ顔を合わせているならば、仲を深めていてもおかしくはない。私の背後で羨ましそうな視線を向けている方がいるのを感じつつ、私は時間に追われているわけでもないので、暫くやり取りを見守ろうと口を閉じる。

 

 『止めーや! オイラの身体がべちょべちょになるやん!』

 

 男の仔が若干涙目になりながら毛玉ちゃんたちに必死に訴えている。彼の抗議は毛玉ちゃんたちには効果が薄いようで、部屋に虚しく男の仔の声が響くだけ。フソウの皆さまは微笑ましい表情をしているだけで誰も止めようとはしなかった。

 誰も止める方がいないと悟った雪さんたちがよっこいせと立ち上がり、男の仔と毛玉ちゃんたちの下へと歩いて行く。雪さんたちは桜ちゃんと楓ちゃんと椿ちゃんにぬっと顔を近づけた。

 

 『坊の言う通りに』

 

 『流石にやり過ぎですねえ』

 

 『そろそろ落ち着きというものを身に着けても良いのかもしれません』

 

 雪さんたちの言葉に桜ちゃんと楓ちゃんと椿ちゃんは『怒られた~』と男の仔から離れて、彼の回りをクルクル回っている。松風と早風は彼らの側にちょこんと座ったままだった。

 

 『毛玉は忙しないなあ』

 

 男の仔は毛玉ちゃんたちのおよだを袖口で拭い小さく息を吐いている。男の仔の顔の拭い方が猫が顔を洗うような仕草なのだが、狐ってイヌ科だったようなと私は首を捻る。まあ、些末な事かと前を向き上座にいる毛玉ちゃんと雪さんたちに視線を向けた。これから一週間は子爵邸に毛玉ちゃんたちがいなくなるので、寂しくなるなと目を細めた。

 

 「では、そろそろ始めましょうか」

 

 「はい、よろしくお願い致します」

 

 帝さまの声に私が答える。凄く簡単だけれども、帝さまは雪さんたちとヴァナルが番になって仔ができたことに感謝を述べられ、私はフソウ国とアルバトロス王国とアストライアー侯爵家の縁がずっと続きますようにと声を上げた。

 ナガノブさまを始め、フソウの皆さまはうんうんと頷きながら毛玉ちゃんたちを見ている。フソウ国内向けのパフォーマンスなので、引き渡し式は直ぐに終わりを告げた。

 

 「では、一週間、彼らをフソウでお預かりいたします」

 

 「はい。よろしくお願い致します」

 

 帝さまに私は頭を下げると毛玉ちゃんたちが静かにしてなくても良いと判断したようで、畳に付けていたお尻を上げてまた男の仔の側に寄って行く。

 

 「良かったですね、権太。遊び相手がいますよ」

 

 『こんな仔供と遊んでもなあ。楽しゅうないで?』

 

 帝さまが微笑みながら男の仔の名を呼ぶと、彼は尻尾をパタパタと振りながら腕を組んで帝さまから視線を逸らした。それも束の間。

 

 『まあ、ええわ。毛玉、オイラがこの屋敷を案内するで! 一緒にきーや!』

 

 男の仔が畳から立ち上がると毛玉ちゃんたちがぶんぶんと尻尾を振りながら彼と一緒に部屋の外へと出る。そうして廊下を走る軽快な足音がどんどんと遠くなっていった。

 

 「少し心配でしたが、狐の彼が一緒なら毛玉ちゃんたちは退屈しそうにないですね」

 

 私が前を見ながら小さく肩を竦めると、帝さまも肩を竦めた。

 

 「そのようですね。権太も母を失い寂しかったでしょうから、丁度良い遊び相手となってくれましょう」

 

 狐の男の仔の遊び相手ができるのに百年以上掛かったのは致し方ないのだろうか。でもまあ、毛玉ちゃんたちなら男の仔の寂しさを埋めてくれるだろう。私が考えごとをしていると帝さまがふいに真面目な、いや、凄く緊張した面持ちになっていた。

 

 「あの、ナイ?」

 

 「はい」

 

 緊張している雰囲気を醸し出す帝さまは珍しい。そういえばナガノブさまも若干緊張しているご様子。なんだと私が首を傾げると、おそるおそる帝さまが口を開いた。

 

 「西の女神さまは常に貴女とご一緒なされるのですか?」

 

 「えっと、フソウに行きますが、女神さまはどうしますかと問えばくるとおっしゃられたので」

 

 尤もな質問かもしれない。西の女神さまは特別な扱いは必要ないと仰るので、私の隣ではなくソフィーアさまとセレスティアさまの隣に座っている。女神さまが隣にいるお二方が若干緊張しているような気もするが、フソウの面々ほどではない。

 今回、お出掛けするから一緒にくるか屋敷で過ごすか西の女神さまに聞いてみると、一緒にお出掛けするとなったのである。私が後ろに振り返り、西の女神さまへ視線を向けると経緯を聞いていた彼女は仕方ないといった面持ちで言葉を紡ぐ。

 

 「いろいろな所を見て回りたいだけだから、私のことは気にしなくて良いよ。ナイの側にいると移動が楽だから」

 

 彼女の言葉に帝さまとナガノブさまとフソウの皆さまが本当に良いのだろうかと、心の中でセルフ突っ込みを入れているようだった。まあ、西の女神さまは西の大陸や他の大陸が今、どうなっているのか自分の目で直接確かめたいらしい。

 なので私と一緒にいれば、飛び回ることができるだろうと仰っていた。それって私がトラブルに巻き込まれる前提ではないですかと問えば、西の女神さまは私と合わせていた視線をすっと逸らしたし。

 

 「そういうことなので、私と一緒に西の女神さまは行動しております。特に問題はないはずなので、ご許可を頂けると嬉しいです」

 

 「駄目というわけではありません。ただ我々が驚いていただけですから。女神さまがフソウを気に入って頂けたとあれば栄誉なことですもの」

 

 オホホと笑っている帝さまであるが、珍しく彼女が引いている気がする。空気を察した西の女神さまが、更に言葉を紡いだ。

 

 「それなら北の妹を連れてきた方が良いかな。フソウはあの子の管轄だし」

 

 西の女神さまの言葉にフソウの皆さまは目を真ん丸にする。おそらく西の女神さまに他意はないのだろう。ただ地上に住まう人間にとって女神さまとの邂逅は奇跡に近いものだから、ポカンとしている彼らの驚きは当然だった。フソウがお祭り騒ぎ、どころか一世一代の大騒ぎになるのは一体いつになるのやらと、私は遠い目になるのだった。

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