魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0548:成長してる。

 テオと久し振りに顔を合わせた。やはり身長が凄く伸びていたし、骨格も大きくなっている。羨ましいなと彼を見上げながら、私のことを『ご当主さま』と呼んだことに精神的にも成長していると痛感できた。

 テオは爵位持ちとなったジークとリンにも敬語を使って話しており、その姿を私は傍から見ていろいろと考えることがある。立場とか地位が上がるにつれて背負うものも多くなっているけれど、私が手を差し伸べた人くらいは幸せになって欲しい。西の女神さまをみて腰を抜かしそうになるテオを揶揄い、風魔と服部のご老体には諜報を担う方たちへの教育をお願いして私たちは屋敷の中へと戻るのだった。

 

 「元気そうで良かったよ。テオの背が凄く伸びてて羨ましかった」

 

 子爵邸のお屋敷の廊下で私は後ろを振り向いてジークとリンに顔を向ける。

 

 「成長期だろうからな。まだ伸びるんじゃないか」

 

 「レナも凄く大きくなってるよ」

 

 二人は小さく笑いながら彼らの将来を思い描いているようだ。レナがお針子さんとして働いている所は簡単に想像できるけれど、テオが侯爵家の騎士として護衛に就いている姿は中々想像できないなと私が笑えば、ジークとリンはその時はその時だと告げる。

 割とそっくり兄妹の手厳しい評価に西の女神さまが首を傾げているけれど、私の護衛として就いた時にテオが実力不足だった場合、責任を取らなければならない彼自身だ。それを踏まえると厳しくならざるを得ないのだろうなと私は前を向き、今度は西の女神さまと顔を合わせる。

 

 「西の女神さま、これからのご予定は?」

 

 彼女を追い出そうという気はないが、ある程度の目途というか予定は知っておきたい。一食分多くご飯を用意しなければならない料理長さんたちも大変だし、女神さま付きになった侍女さんも気が気ではないはず。

 西の女神さまは基本屋敷で過ごすため警備面はあまり心配していないけれど、外に一人で出るとなれば護衛も就けなきゃいけないだろう。やはり彼女の予定は知っておいた方が良いと、真面目な顔を私は作る。

 

 「特に考えていないよ。クロとまだまだお話したいし、西大陸をもっと見て回りたいから、その時はお屋敷から出て行くかもしれない」

 

 西の女神さまは少し考える素振りを見せながら答えてくれた。他の大陸も見てみたいし、ご意見番さまの最期を邪魔した銀髪くんにも会いたいとか。

 

 「承知致しました。しかし東大陸に西の女神さまだけで渡れるのですか?」

 

 私は素直な疑問を彼女に向ける。南の女神さまがアルバトロス王国に降臨できたのは、南大陸の王族の方が目印となっていたから西大陸に降臨できたとご本人が言っていた。

 であれば西の女神さまが東大陸に降臨したいならば、なにか標のようなものが必要になるはずだ。あれ、でも銀髪くんは西大陸の人間か。銀髪くんの気配を辿れば可能だったと私が顔を顰めれば、西の女神さまがふっと小さく笑う。

 

 「多分、無理。銀髪の人間は西大陸に沢山いるし、東大陸にも沢山いるよね?」

 

 「はい。金色の髪の方々の次に多い色合いかと」

 

 元いた世界では銀髪の方なんて、染髪した方くらいしかいなかったように記憶しているが、今の世界では普通に地毛の方が多くいる。副団長さまもだし、フィーネさまもだし、他にも名前を上げればキリがない。

 しかし銀髪くんの話を聞いて、西の女神さまは怒らないのは本当に不思議だ。クロが怒らないでとお願いした可能性もあるけれど、ご意見番さまとの記憶を思い出して部屋から出てきた彼女なのに。まあ西の女神さまが本気で怒ると星が変動しそうだし、その点だけは良かった。

 

 「うん。向こうに転移したり、島から直接乗り込むのも無理だね。だからナイが東大陸に赴く時は私も一緒に連れて行って欲しい」

 

 西の女神さまのアガレス行きが決定したようだから、銀髪くんの命は大丈夫だろうか。それより東の女神さまとどう連絡を取れば良いのだろう。

 

 「東の女神さまとの連絡手段がありませんよ?」

 

 「教会で祈れば済む。父さんと連絡を取るより簡単じゃないかな、多分」

 

 西の女神さまがなにを言っているのみたいな顔になった。空気が読めなくてすみませんと私は言いそうになるけれど、グイーさまと連絡を取るのに苦労したことはないような。

 

 「あ、そうだ。ナイが管轄している領地も見てみたいし、他の領地がどんなものかも見てみたい」

 

 「それは構いませんが、そろそろフソウに毛玉ちゃんたちをお迎えに行かなければなりませんし、少し先の話になりそうです……他の領地ならハイゼンベルグ公爵家かヴァイセンベルク辺境伯家に問い合わせれば良いかなと。規模が小さい領地が良いのであれば……」

 

 他に誰かいたかなあ、知り合いで女神さまの希望を叶えられそうな領主さまは……あ。

 

 「フライハイト男爵領かカルヴァイン男爵領なら紹介可能ですね。そうなると、リヒター侯爵家も可能でしょうか」

 

 ご当主さま方の胃の調子が心配になってくるけれど女神さまが訪れたなら箔が付くだろうし、領地のために耐えてくださいと心の中で手を合わせる。

 

 「ありがとう。時間は十分にあるから。ナイのことを優先させて」

 

 ふっと笑う女神さまが歩を進め図書室に籠ると言い残し、クロが女神さまと一緒に付いて行く。私は私で一人で捌ける執務をしようと、ジークとリンと一緒に二階へと向かうのだった。

 

 ◇

 

 ――聖王国上層部は大変なのだろう。

 

 今回の件で各国との連絡に国内の情勢を掴むのに右往左往している。アルバトロス王国から外交員として派遣されている俺とユルゲンは、右へ左へと忙しなく動く方々の後ろ姿を眺めながら無事に聖王国が立ち直るようにと願うばかりだ。

 聖王国の上層部に俺が関われば内政干渉となるため、俺たちは怪しい者がいないか、俺たちに妙な視線を向けている者がいないかと時折官邸の中を時折闊歩している。都合の悪そうな人はあからさまに俺たちから目を逸らし、問題ない人は礼を執りながらすれ違い自分たちの職場を目指して歩いている。

 

 「分かり易いですねえ」

 

 「だな。もう少し取り繕ってくれれば良いんだけれど……俺たち監視員からすれば楽で良いかも」

 

 ユルゲンは緑色の長い髪を揺らしながら、掛けている眼鏡を右手中指でくいっと上げる。俺は気まずそうにすれ違った聖王国の男性の名前はなんだったかと考えながら、顔を忘れないようにと頭の中に刻み付けた。

 聖王国での滞在が随分と長くなっているので、そろそろアルバトロス王国に一時帰国をしたい所である。ジークフリードと以前交わした栞を作る約束をそろそろ果たしたいし、彼とナイさまの間に進展があるのか気になる所である。人の恋路に邪魔をする気はないので馬には蹴られないはず。いや……ジークフリードとナイさまの仲を邪魔すれば、竜のお方たちに蹴られてしまいそうだ。その時は確実に命はないので十分に気を付けなければ。

 

 「難しい注文ですねえ。僕たちアルバトロス王国の外交員は彼らにとって目障りでしょうから」

 

 「まあ、それなら役目を十分に果たしていると言えるのか」

 

 俺たちの存在は聖王国の彼らにとって目の上のたんこぶだから邪魔だろう。牽制になっていると良いけれどと考えながらユルゲンと廊下を歩いていると、見知った顔の人が俺たちとすれ違おうとしていた。

 そして誰にも覚られないようにすれ違う彼から差し出された紙をこっそり受け取る。なにもなかったように俺とユルゲンは廊下を歩き続けて、人気のない場所で紙になにが書かれているのかと立ち止まった。二つに折った紙を開けば、乱雑に書かれた短い内容の文字が踊っていた。

 

 ――西の女神さまがミナーヴァ子爵邸で過ごされている。

 

 短い内容でもインパクトは莫大だった。俺は文字を認識した瞬間に肺から空気が漏れ出す。

 

 「ぶっ!」

 

 口の中で留めることができず、外へと噴き出してしまった。行儀が悪いけれど許して欲しい。だって、内容が内容なのだから。そうして俺は何度か咽込んでしまう。

 

 「大丈夫ですか、エーリヒ」

 

 「う、うん。驚いただけだから」

 

 困り顔のユルゲンが俺の背中側に回って背を撫でてくれ、紙になにが記されてあったのかと確認を取ってきた。俺は先ほど受け取った紙を彼に渡せば、徐に受け取ったユルゲンも目を開いた。

 

 「ぶ!」

 

 俺と同じリアクションを取ったユルゲンの背に回り彼の背を撫でる。ゲホゲホと口元を押さえ背を丸めているユルゲンに慈愛の視線を俺は向けてしまった。

 

 「大丈夫じゃないよな。驚くよな」

 

 ユルゲンの背を俺が軽く叩くと、咳が収まったのか背をきっちりと彼は伸ばす。

 

 「え、ええ。エーリヒが驚くのは仕方ありません。しかし、アストライアー侯爵ですから……という言葉で納得できてしまいます」

 

 困ったような、呆れたような表情のユルゲンだが、俺も彼と同じ表情になっているのだろう。文字を読んだ最初こそ驚いたものの、ナイさまだからな……と納得してしまった。今頃、ミナーヴァ子爵邸で働く皆さまは女神さまの圧に耐えながら働いているのかもしれない。しかし。

 

 「この話が西大陸に広まれば聖王国の立場がないな」

 

 「ええ。アストライアー侯爵家かアルバトロス王国にある王都の教会が聖王国として相応しいと評されそうです」

 

 俺の言葉の意味をユルゲンが直ぐに理解して、凄く困った顔になる。陛下はアルバトロス王国が宗教の本拠地になるように望んでおられないし、アルバトロス王国に連なる有力貴族も陛下と同じ考えでいる。おそらくナイさまも同じだろうし、俺も宗教の本拠地がアルバトロス王国に移動することを望んではいない。

 

 「不味い状況だな」

 

 「ええ、聖王国には好ましくない話でしょうね」

 

 俺とユルゲンはむうと唸るが、解決に至る良い方法なんて直ぐに思いつくはずはない。ナイさまであればアルバトロス王国に女神さまが子爵邸に滞在していることを報告済みだろう。

 

 「しかも大聖女の地位が教皇猊下より高くなってしまわないか?」

 

 「西の女神さまのお導きで聖痕が現れた、という定義ですから……確かに教皇猊下より大聖女さまの名声が高くなる可能性は十分にあります」

 

 ヤバいな、不味いですねとお互いに顔を合わせた。どうするも、こうするも下っ端である俺たちが考えるよりも、外務部やアルバトロス王国の判断を仰ごうと今いる廊下から足早に立ち去り、俺たちに与えられている執務室へと戻った。

 

 「彼女と会えない日が続きますね、エーリヒ」

 

 「仕方ないけど、アルバトロス王国にいるより直接彼女の様子を伺えるからな」

 

 フィーネさまと聖王国で直接話を交わしたことはない。手紙のやり取りは続いているけれど、聖王国で大っぴらに仲良さそうな雰囲気を醸し出せばフィーネさまの地位を落とすことになる。

 でもアルバトロス王国にいるよりも、聖王国で監視員を務めていれば遠目からではあるが元気そうに信者の方へ治癒を施している彼女の姿を見ることができた。俺の側ではにかみながら、無邪気に会話を弾ませる彼女も可愛いけれど、真面目な顔で治癒を施している姿も好きである。

 

 「一先ず、連絡だ。あとは野となれ山と成れ!」

 

 お願いだから聖王国が潰れませんようにと願いつつ、今後俺たちがどう動くべきかを考える。雇われの身だから上の意見を仰ごうとペンを握りしめる。フィーネさまと添い遂げる未来を目指して一歩一歩進んで行かなければ。でもその前に、お願いだから聖王国は潰れないでくれと必死に心の中で願うのだった。

 

 ◇

 

 大聖堂の外で行っているお務めを終え聖女の皆さまが集まっている部屋で、私とアリサとウルスラは世間話をしていた。

 

 一応、聖王国上層部は私を頼ることを止め、右往左往しながら各国との取引や連絡に聖王国内の政を執り行っている。諸外国から監視員の方がいらっしゃっているため、やり難しそうにしているけれど、気を抜けば直ぐに斜めに進む、どころか後退しかねないから監視の目は己に甘い方々には丁度良いのだろう。

 ヴァンディリア王国の元第四王子殿下もゲーム三期のヒーローも上層部が忙し過ぎて、私たちに関わってくることもない。

 私は私で西の女神さまとお目通りしたからなのか、魔力量が上がっており以前よりも多くの方に治癒を施せるようになっていた。アリサとウルスラもナイさまのお屋敷で西の女神さまと顔合わせをしたため、聖王国上層部での評価が上がっている。

 

 西の女神さまが現界していることは西大陸の各国上層部しか知らず、平民の皆さまには伏せられていた……でも、人の口に戸は立てられぬと諺があるように状況が少しづつ変化している。

 

 現在、聖王国内の平民の皆さまの間では、アルバトロス王国のアストライアー侯爵が現在住んでいるミナーヴァ子爵邸には西の女神さまが滞在しており、聖王国の立場が危ういのでは……という噂が流れ始めているようだ。

 そして流れている噂に尾ひれが付いて、アストライアー侯爵が西の女神さまからご神託を頂き、新たな宗教を設立するのではという不安の声もあると、私の目の前に座るアリサとウルスラが心配そうな顔で口にした。

 

 「ぶっ!」

 

 「だ、大丈夫ですか、フィーネお姉さま!?」

 

 「あ、え、えっと。ハンカチです。どうぞ」

 

 私は慌てて椅子から立ち上がったアリサに大丈夫と伝え、ウルスラから差し出されたハンカチを受け取って礼を伝える。ナイさまは宗教に興味はないので信仰心も凄く薄い。西の女神さまや創星神であるグイーさまを前にしても普通に接しているので、神さまとか人間とか亜人という枠組みにも興味が薄いようであった。

 彼女は相手を個として見ているのだろう。だからこそ偏見や恐れが少ないし、敵対した方には割と容赦ない対応を取っていた。だから噂で流れているような心配は必要ないけれど、聖王国上層部は肝を冷やしているかもしれない。

 

 「ごめんなさい、二人供、みっともない所を見せてしまったわ。ウルスラ、ハンカチは洗って返しますね」

 

 私がふうと息を吐けば、アリサとウルスラもふうと息を吐いて気を取り直した。

 

 「い、いえ! お姉さまが驚いても仕方ないかと」

 

 「あまりお気になさらないでください。でも、アストライアー侯爵さまは噂通り新しい信仰を謳われるようになるのでしょうか?」

 

 アリサが席に腰を下ろし、ウルスラが小さく首を傾げる。ナイさまとの付き合いが短いウルスラは、まだ彼女の性格を掴みかねているようだった。

 

 「それはないはずよ。ナイさまは宗教というものに興味を示していないし、組織のトップに立つ気もないはずだもの」

 

 だから私は心配していない。していないけれど、西の女神さまがミナーヴァ子爵邸に滞在しているのは事実で、西大陸のいろいろな所を見て回りたいと仰っていたから、なにかトラブルが起きそうな予感がしている。

 そしてナイさまが西の女神さまに同行していたならば、トラブルが倍に増えたり、更に大事に発展するのではという心配はしているけれど。でもまあ……ナイさまであればトラブルを上手く収めてくれるはず、という根拠のない安心感も抱いているけれど。

 

 「けれど、アルバトロス王国の国王陛下にお願いされれば、アストライアー侯爵さまは引き受けてしまうのではないでしょうか?」

 

 ウルスラが心配そうに声を上げる。彼女は頑張って沢山のことを学び、スポンジのように学んだことを吸収していた。頭の回転が速い子で知識が身に付き、一つのことから、二つ、三つとパターンを考えているようだった。

 褒めてあげたいけれど、話題が話題だけに話を逸らす行為は止めておこう。あと、ウルスラの心配は無用で終わるはず。今、ナイさまに命を下せる人物は凄く限られているし、ナイさまが嫌がることをアルバトロス王が命じるはずがないのだから。

 

 「あ、確かに」

 

 アリサはウルスラの心配を聞いて、ぽんと手を叩いた。どうやらアリサはそこまで考えていなかった様で、ウルスラに感心の視線を向けていた。彼女に取ってウルスラは後輩だろうに、ライバル心のようなものは抱いていない。少しアリサは抜けているけれど、そこがまた彼女の良い所なのだろうなと私は小さく笑みを浮かべて目の前の二人と視線を合わせる。

 

 「ナイさまが新しい宗教や宗派を立てるよりも、西の女神さまから聖王国は不要だと言われる方が心配かしら」

 

 私の言葉にアリサとウルスラがぎょっとして、部屋の周りを見渡した。他の聖女さまは自宅や自室に戻っているので問題ないのだが、二人は女神さまから一番頂きたくない言葉を考えていなかったようである。ナイさまが新しく宗教を起こすより、女神さまから聖王国を失くせと言われる可能性の方が高そうだった。

 

 「そ、そんな! それならどうして女神さまはお姉さまとウルスラに聖痕をお与えになったのですか!? そんな身勝手なことを言われても……聖王国に住まう方々が困ってしまいます!!」

 

 またアリサが椅子から立ち上がった。聖王国は不要と言われる可能性は十分にある。今後、また聖王国が失敗すれば凄く高い確率で言われてしまいそうだ。それまでは猶予はあるだろうと私は踏んでいる。

 

 「アリサ、落ち着いて。可能性の話というだけだから。でも貴女の言った通り、女神さまはどうして私たちに聖痕を与えたのかしら?」

 

 私が首を傾げると、立ち上がったままのアリサがウルスラと視線を合わせて少し呆れた表情を浮かべながら椅子へと腰を下ろした。ウルスラもほんの少しだけ呆れた表情を見せている。

 だって仕方ないではないか。西の女神さまと邂逅できるなんて全く全然考えていなかったし、二度目があったなんて未だに信じられないのだから。アリサとウルスラだって、ナイさまのお屋敷で呆けた顔を披露していたのに。

 そんなことだったから女神さまから聖痕を贈られたことなんて、綺麗さっぱり頭の外に追いやられていたのだ。今、言われて気付いたからもう少し早く思い出しても良いのではと問われれば、全くその通りでございますと頭を下げなきゃいけないけれど。

 

 「わ、分かりません。アストライアー侯爵さまのお屋敷で女神さまとお会いした時は、グリフォンのジャドさまとジャドさまの仔たちの名前を決めるためでしたから」

 

 ウルスラはナイさまのお屋敷に赴いた理由がグリフォンさんたちの名付けのためだったから、西の女神さまに聞きたくても我慢していたようである。謎を謎のままで置いておくべきか、西の女神さまにきちんと話を聞くべきか迷ってしまう。西の女神さまが私とウルスラに付与されたというならば、聖痕を消すことも可能ではないだろうか。

 

 「確かにナイさまからみんなでグリフォンさんたちの名前を付けようとお誘いを受けたから、西の女神さまから聞き出すのは控えた方が良かったでしょうね」

 

 私の言葉にウルスラが少し照れ臭そうに笑った。何故、彼女がそんな反応をするのかイマイチ分からないが、アリサが彼女の横でむっと口を伸ばしていた。これまたアリサが妙な表情になる理由が分らないけれど、まあ今は聖痕についてである。

 

 「西の女神さまが来年の南の島に遊びにきてくださるなら、その時に聞いてみれば良いかしらと考えているけれど……きて下さるかは未知数だものね」

 

 私はアリサとウルスラと視線を合わせる。西の女神さまよりもグイーさまの方がウキウキで南の島を訪れそうである。でもグイーさまは神さまの島から出られないと聞いているから、以前の様に分身体でこられるでしょうけれど。

 

 「はい。どうして私に聖痕を与えてくださったのか気になりますし、もしお役目があるならば女神さまの期待に応えなければいけません」

 

 ウルスラがはっきりと言い切った。でも私とアリサはウルスラほどの信仰心は持ち合わせていないので、彼女は真面目過ぎるという気持ちが真っ先に立つ。

 

 「ウルスラ。覚悟は良いけれど、思いつめると倒れてしまうわ」

 

 「そうですよ。ウルスラは真面目だから、自分を追い込み過ぎる気があります」

 

 私とアリサがウルスラに言葉を贈れば、彼女は良く分かっていないのか小さく首を傾げていた。まあ私も聖痕を頂いている身だ。もし聖痕持ちとして役割があるならば、お務めを果たしたいとは考えている。無茶さえ言われなければだけれども。

 

 「ナイさまの様に女神さまと接しろなんて言いませんが、ウルスラはもう少し肩の力を抜きましょう」

 

 彼女に肩の力を抜こうと伝えるのは何度目だろう。根っこが真面目な性格だからなかなか抜けないのは仕方ない。まあ、ウルスラは黒衣の男の下にいた時よりも、今の方が笑う回数が増えたし顔色も良い。それに以前よりも信徒の皆さまからの評判も上がっている。奇跡を起こしていたけれど、奇跡を起こせば魔力をかなり消費してしまうため、治癒を施せる人数はかなり限られていた。

 

 ウルスラには教えていないけれど、彼女の下に重病者や重症者をなるべく回さないようにと手配している。前の彼女は随分と危うい存在だったが、今も困っている人がいれば己の身を省みず治癒を施そうとするはずだ。

 毎日、一度の術で大量に魔力を消費すればウルスラの身が危なくなる。その点は女神さまに少しばかり文句を言いたい点だった。真面目な子に力を与えれば、本人が自滅する可能性があると分からなかったのだろうか。伝えても詮無いことかもしれないが、いつかは西の女神さまに問うてみたいことである。

 

 「とにかく、西の女神さまに聖王国は不要と言われてしまわないように、上層部だけではなく私たち聖女も地道な活動で頑張って行きましょう!」

 

 私はアリサとウルスラの顔を見る。聖王国上層部が潰れてしまっても、大聖堂というシンボルがあれば信仰は失われないはずだ。そのためには聖女や神職者の信頼を市民の皆さまから勝ち取らなければならない。凄く地味だし時間の掛かるものだけれど、大聖女という聖痕があるので私とウルスラの声を市民の皆さまに届けやすい。

 

 「また明日も頑張りましょう。お姉さま、ウルスラ」

 

 「はい。いつか女神さまから聖痕が贈られた意味が分かると良いのですが……それまでは、いえ、それからも信徒の皆さまが笑顔になれるように頑張ります!」

 

 アリサもウルスラも前向きで可愛いなあと自然と笑みが零れ、また明日と約束を交わしてそれぞれの部屋へと戻るのだった。

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