魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
予定よりも儀式は一日早く終わった為、その場に半日ほど留まることになり休憩を代わる代わる取っていた。着替えを終えてみんなの下へと行くと、その中には周りより少し背の高い赤髪の少年を見つけ、声を掛ける。
「ジーク、お疲れさま」
私の声に振り返るジークもリンと同じく少し疲れた様子で、寝ていないことと遠征の疲れが出たのだろう、隈が出来ていた。
「疲れたのはお前の方だろうに……」
「大丈夫だよ。魔力を魔術陣に注いでただけで、あとは大したことしていないから。時間感覚もなくなってたし、体感時間はみんなより短いよ」
「はあ……まあ、いい。飯を食って仮眠を取れ。半日なんて直ぐに終わるからな」
正直、お腹は空いているし凄く眠いから助かるけれど。自分だけ良い思いをするのは気が引けるので、遠征部隊の人たちやジークたちにも食事と仮眠を取って欲しいところ。
「ん。ジークもちゃんとご飯と睡眠取ってね。まだ王都に帰らなきゃいけないんだし」
場所が場所なのできちんとしたものは出ないだろうし、睡眠も良質なものは取れないだろう。
でも、疲れたまま今すぐ辺境伯領都へ戻るよりも、こうして休憩時間を得られたのは大きい。
「分かっているさ。無事に終わったんだ、ナイは少しくらい気を抜いても構わないから、さっさと休んで来い。リン、ナイのこと頼む」
目を離すと寝ないからな、と小さく声に出されて何故かジト目を向けられる。
「はーい」
私の横に居たリンが返事をして、食事を受け取るためにジークとは別れた。そうして彼女に案内されて、別の場所へ。
「あ、お姉さ……ナイ! 簡単なものですが、ご飯です! 給仕の方たちが作ったものではないので、あまり味は期待できませんが、どうぞ!」
にっこりと元気そうに笑って、アリアさまが木の器を私に渡してくれた。中身は粥だけれど、携帯食料が数日続いていたので、作り立ての温かいものが食べられるのは有難い。
「ありがとうございます。もしかしてアリアさまが作られたのですか?」
「恥ずかしいですが、そうなります。ウチは貴族家といっても困窮していたので、身の回りのことは自分で出来るようにと母に仕込まれていたので……」
恥ずかしいことではないだろうに。まあお貴族さまにはお貴族さまの矜持やルールがあるので彼女とは根本的な価値観の違いがあるのかも知れないけれど。
領民と共に田畑を耕していたと聞く。本来ならばおめかしをしてお茶会に出て、社交界デビューする為に準備をしている筈だ。彼女には苦い思い出のようなので、あまり突っ込むのも無遠慮か。
「そうでしたか。――ご飯、ありがとうございます。頂きますね」
「はいっ! ナイ、ちゃんと休んでくださいね」
何故アリアさまにまで、ジークと同じようなことを言われてしまうのか。納得いかないけれど、後ろに並んでいる人も居るのでさっさと立ち去るべきだろう。
「では」
その場を後にし、どこで食べるべきかと周りをきょろきょろと見渡す。切り株でもあればいいけれど、ここは森の中。地面に座り込むしかないかと諦めた時だった。
「こっちだ、ナイ」
「ええ、こちらへいらっしゃいな」
ソフィーアさまとセレスティアさまに声を掛けらる。今日は良く名前を呼ばれる気がするのはいいけれど、副団長さままでいるので何か用事でもあるのだろうか。そうして手招きされてると携帯用の小さな椅子が用意されていた。どうやらそこへ座れということらしい。
公爵令嬢さまと辺境伯令嬢さまの間に挟まれて座らなきゃならないのかと一瞬考えるけれど、やんわりと断っても遠慮するなと言われるのがオチ。副団長さまには聞きたいことがあるし、丁度良いかと粥の入った器を持ったまま、彼女たちの下へと歩いて行くのだった。
「失礼します」
「そう堅苦しくする必要はないさ」
「ええ、そう堅くならずもよろしくてよ」
そう言われてもなかなか難しいのがお貴族さまと平民との差だろうに。多分理解してて言っているのだろうから、今の時間だけは構わないと伝えたいのだろう。
「簡単なものだが寝床は用意した。食べ終えた後はそこを使え」
「本来ならばきちんとした場所で寝るべきですが……我慢して下さいませ」
多分、荷駄部隊の人たちも居たのでそこに荷物を預けていたのだろう。公爵家や辺境伯家出身のお嬢さま方が、地面に雑魚寝は流石に許されないようだ。
「ありがとうございます。寝床があるだけで充分です」
「そう言ってくれると助かるよ」
「ええ。――さあ、わたくしたちは食事を終えていますから、気にせずお食べなさいな」
見られながら食べるのは苦手だけれど仕方ない。彼女たちに悪気はないのだろうし。手を合わせて心の中で『いただきます』と唱えて、粥をスプーンで掬い取り口へと運ぶ。
以前私が作った麦粥よりも美味しいので、作ってくれた彼女の腕前が良いのだろう。空腹だったので、口から胃にご飯が通って行く感じが凄く身に染みる。そうして何度か口に運んで人心地がついた頃。
「この度は我がヴァイセンベルク辺境伯領の為、尽力なさって下さり感謝致しますわ」
「いえ。聖女としての仕事を果たしたまで、お気になさらないで下さい」
「それでは我が家の面子がたちませんわ、ナイ。後日父からも挨拶がありましょう。その時に教会とは別に報酬のお話を」
あれ、そんな話を聖女個人で受けても良いものだっけか。
「分かりました。私では判断ができませんので、教会の統括者に話を通しておきます」
受けて良いものなのか悪いものなのか判断が付かないので、教会に丸投げである。私がこの言葉をセレスティアさまに伝えた直後、微妙な顔をしたのは何故なのか。
ソフィーアさまも呆れた顔をしているし、副団長さまはいつものようににこにこと笑みを浮かべているだけ。何だこの状況と首を傾げつつも、聞きたいことがあったのを思い出した。
「副団長さま」
「はい、どうされましたか?」
「これを見て頂いても」
落とさないようにと小さな巾着袋へ竜の死骸の跡から見つけた、透明で形の歪な石を彼へと見せる。
「おや、これは……僕は初めて見ましたが、おそらく竜の卵ですよ」
「え」
「は」
「あら」
副団長さまの言葉の直後に私、ソフィーアさまにセレスティアさまとそれぞれ短く口にする。リンは私の後ろに立って騎士として警護してくれているので、口にはださなかった。
――卵って……ただの透明な石だよ?
あり得ないHAHAHA! と心の中で笑いながら、私の手の中できらりと光る石を見るのだった。
◇
副団長さまの言葉を聞いて唖然とする。指先サイズの石ころが竜の卵だなんてあり得ない。人気の狩猟ゲームでは大きな卵を抱えてよたよたと歩いているというのに。
「いえ、ただの石ころ……」
こんな指先サイズの石ころが竜の卵なわけないのである。
「いいえ。ただの石ころなんてものではありませんよ。竜の卵です」
「先生、本当なのですか?」
「ええ。もし本当だとすれば、これは大変なことでありましょう!」
え、一体どういうことだろう。ソフィーアさまとセレスティアさまの様子が若干変わったのだけれども。話が面倒な方向になっているような気がするのは、気のせいかな。話の続きを聞きたくないなあ……嗚呼、とても眠い。
「聖女さまは、今の状況を理解していないようですよ、お二人共」
うわ、美人な二人がジト目で私を見下ろしている。なんでコイツこんな基礎的なことも知らないの、と言いたげな感じだ。竜に関わることなんてなかったし、ゲームやファンタジーの世界でしかありえないと思っていたのだけれど。
亜人の連合国家が大陸の北西にあるとは聞いているけれど、王国で亜人なんて見たことないし、国交も殆どないと聞いている。学院の教科書も深く触れずにいたし、そう重要ではないのだろうと考えていたのだけれど。
「教会から聞いていないのか?」
「何を、でしょうか」
「亜人国の成り立ちだ」
ソフィーアさまが私に問いかける。
「はい、聞いたことはありません。そもそも竜の卵とどうして話が繋がるのかが……」
「……まあ、そうなりますわねえ」
言葉を発した後に大きなため息を吐くセレスティアさま。
「ああ、確か亜人国家については学院の二年生になってからでしたか。これは失礼を」
いまだにこにことした様子で副団長さまがそんなことを言い放ったのだった。
では簡単にと副団長さまが咳払いして説明をするのかと思えば、面倒なのか教え子であるお二人に丸投げをした。良いのかな、と二人を見ると特段気にした様子もない。良いのかあ、と妙な師弟関係に首を捻りつつ、耳を傾けた。
「亜人はな、人間から迫害を受け逃れる為に大陸の北西へと逃げたんだ」
「あの辺りは山脈地帯で肥沃な土地もないですから、人が住むには不適切でしたからね」
もともと大陸の北西部に住み着いていた竜の亜人が逃げ込んできた亜人を保護したそうだ。そこから長い年月を経て亜人の連合国家になったそうな。各種族の長が四年ごとの持ち回りで、トップを担うらしい。王政よりも民主的と感じてしまうのは、前世の記憶の所為だろうか。
で、現在の任期を務めているのは竜の亜人さまらしい。
「そして竜はかなり数の少ない種だ。そして竜の亜人の祖先。それはそれは大切に保護している」
「で、今回の竜の死骸です。何故このようなことになったのか事態を説明せよ、と王国に抗議が入るでしょうね」
なんだかすごーく面倒なことになっているような。
「竜が暴れて止む無く討伐することになった、では通りませんか?」
「もちろん、狂暴化し人的被害を被っている竜には遠慮はいらんと公言されているがな」
「そのような竜は滅多におりませんし、仮に狂暴化していたならば被害報告があるはず……ですが、それがなかったのです」
なるほど狂暴化して暴れているならば各領地の主に報告が上がる。けれど竜による被害報告はなし。んーそもそも竜という存在がどのようなものか、きちんと認識できていないから話が拗れそう。
「では、誰かが意図的に殺めてしまった、と?」
「その可能性が高いな。どうしてそうなったのかは知らんし、あまりにも無茶をし過ぎているな」
「竜を倒せる実力者、ですか……」
なんだかどんよりした空気になっているけれど。国を背負わなきゃならない人たちは、亜人連合からの抗議の内容が気になるようだ。
「そう深く考えずともよいかと。聖女さまが拾った卵は、死にたくないと願う竜が次代を生み出したものでしょうし」
「あ」
「何か覚えがあるのでしょう?」
儀式の最中に頭の中に流れてきた『ワタシヲオネガイ』という感情。そういうことか。ただ、竜を卵から孵すなんて無理難題のような。
このまま孵化しない可能性だってあるし、それがバレたら亜人連合の人たちは激おこぷんぷん丸になるのでは……?
「儀式の最中に竜の感情が流れてきた……気がします。しかし、本当に孵るのでしょうか?」
ほう、と細い目を更に細める副団長さま。それは僥倖ですと頷き『大事に持っていて下さいね、聖女さま』と言い残してこの場を去っていく。
「本当に自由だな、先生は」
「お師匠さまですもの、仕方ありませんわ。なにか目的があるのかもしれませんし」
国と国の政は私が関わることはないし、副団長さまやソフィーアさまにセレスティアさまに任せておけばいいだろう。
竜の卵をどうするつもりなのかは分からないけれど、おそらく国か教会が没収するだろうし。面倒なことはお偉いさんたちに任せておけばいいと、欠伸が出るのを隠す為に手で口元を覆う。
「引き留めてすまなかったな」
「ええ。あまり長い時間は取れませんが、おやすみなさいませ、ナイ」
そう言われ椅子から立ち上がって頭を下げ用意されていた寝床へと就くと、眠気に抗えず直ぐに夢の中へと旅立つのだった。
竜とドラゴンで表記がブレていますねえ。手が空いたらどちらかに決めるか、何かルールを設けて修正しますね。とりあえず先に話を進ませることを優先します。