魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0551:野郎の休日。

 リンと一緒に子爵邸内をウロウロしている。毛玉ちゃんたちも一緒なのでわちゃわちゃしていて割と楽しい。

 

 お昼前に裏庭に向かったので、今度は邸の正面にある庭へ足を向けようとなり庭を目指している。廊下を歩いて玄関から庭へ移るとルカが激走しており、エルとジョセは微笑ましそうに見守っているのだが、ジアは我が兄はなにをやっているのだという視線を向けていた。エルとジョセという凄く温和で賢い夫婦からルカという個体が産まれたのも不思議だよねとリンと言葉を交わしていると、エルとジョセとジアが私たちに近づいてくる。

 そして毛玉ちゃんたち楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんはぴゅーと走り出してルカと合流し、競争を始めたようで更に速度が加速していた。放っておいても庭を駄目にすることはないだろうと私は前を向く。

 

 「こんにちは、エル、ジョセ、ジア」

 

 私たちの二、三歩手前で彼らは止まり首を上下に軽く動かす。そうして顔を近づけて撫でて欲しいと無言で訴えてきた。リンにはジアが顔を近づけており、私の腕が二本しかないことを理解しているようだった。

 

 『こんにちは、聖女さま』

 

 『聖女さま、良いお天気ですね』

 

 エルとジョセを右腕と左腕を駆使して撫でていると、私の横でジアがリンの手から顔を離して顔を軽く捻っていた。どうしたのかと見ていればエルとジョセが『ああ』と頷いて、エルがぐりぐりと私の肩に顔を置く。

 

 『ジアがジークフリードさんはいらっしゃらないのかと不思議がっております』

 

 エルの言葉にジアは私たちがいつも三人で行動していることが当たり前になっていて、ジークが不在だからなにかあったのではと心配してくれているようだ。本当に賢い仔だなと感心してジアに視線を向ければ、私も撫でて欲しいと控えめに訴えてくる。

 

 「ジークは友達と遊びに出掛けたよ。夜には戻ってくるから大丈夫」

 

 私はジアの顔を撫でながらジークは遊びに出掛けたと伝えるとジアは良かったと安心しているようだった。ジアは人間の言葉をきっちりと理解しているから、彼女と一緒にお喋りできる日は近いだろうか。ぷっくりと膨れているジアの頬を指で搔いていると、今度はクロが顔を擦り付けてきた。忙しいなと苦笑いを浮かべながら、私はエルとジョセに顔を向ける。

 

 「エルたちは子爵邸で暮らすことに不便はない? グリフォンさんたちが大きくなっているから手狭になったからね」

 

 まあ一個の卵から四頭産まれるという奇跡が起こってしまったことが原因だけれど。エル一家とグリフォンさんのジャドさんは体躯が大きいので外で暮らして貰っている。どうしてもお屋敷の中で暮らしているヴァナルと雪さんたちと毛玉ちゃんたちとお猫さまより目が行き届いていない。

 困ったことがあれば声を掛けてくれるようになっているけれど、エル一家もジャドさんたちも声を上げたことはなかった。本当に不便はないのだろうかと聞いてみると

 

 『大丈夫です。聖女さまの側にいれば力が湧いてきますし、ルカとジアも元気一杯に育っております』

 

 『ええ、不便などありません。頂いているお野菜も新鮮ですし、魔素も豊富ですから』

 

 エルとジョセが目を細めながら穏やかな声色で教えてくれた。

 

 「そっか。狭くないのかなっていう疑問はずっと残っているから、侯爵邸に移り住めば少しはマシになると良いな」

 

 満足してくれているなら深くは聞くまいと話題を変える。そういえば子爵邸には妖精さんの家庭菜園があるけれど、侯爵邸には妖精さんの畑はないからエルたちのご飯をどうしようかと別の悩みができた。それに私が子爵邸から侯爵邸に移れば、必然的に子爵邸内に満ちている魔素は減っていくはず。時間が経てば妖精さんの家庭菜園は消えてしまうのではという疑問も生まれた。

 

 「ナイ、変な顔をしてる。どうしたの?」

 

 「私たちは来年の春に子爵邸から侯爵邸に移るよね……」

 

 リンが私が悩み始めたことに気付いて声を掛けてくれた。相変わらず私のことを良く見ているなと苦笑いを浮かべながら悩みを打ち明ける。ふむと静かに私の悩みを聞いたリンが真面目な顔になった。

 

 「侯爵邸に魔素が溜まればできるんじゃないの? そもそも畑ができた頃よりナイの魔力量は増えているから、直ぐにできそうだけれど」

 

 彼女の言葉は尤もだ。私が口をへの字にしているとリンがくすくすと小さく笑っている。しかし侯爵邸にも妖精さんの畑ができるとは限らない。

 

 「畑を作って良いかが問題じゃない?」

 

 アストライアー侯爵家で働く方たちに反対されれば、侯爵邸で畑は作らない予定である。

 

 「ナイが当主だから好きにすれば良い。ナイのお屋敷だよ」

 

 「確かにそうだけれど……むぅ」

 

 子爵邸の妖精さんの畑で採れた品は、お屋敷で働いている方々にもお裾分けをしていた。子爵邸の賄いや私たちに提供されている料理にも出されているのだが、畑の妖精さんの力が凄くて次々にお野菜さんが収穫されて『タベロ』と差し出してくれ、お野菜を切らしたことがない。

 本当に不思議な環境なのだが、西の女神さまに子爵邸の裏庭を見せればふざけていると言われそうなので紹介していない。うわ、とドン引きされても困るし、白い目を向けられても妖精さんが誕生してしまったのだから仕方ない。

 

 「他の人の顔色を伺わなくても良いよ。ナイのやりたいことを邪魔する人がいるならぶっ飛ばしてあげる」

 

 「物騒だねえ」

 

 リンが頼もしい言葉を私に伝えてくれるけれど、本当に実行はすまいと彼女の顔を見上げる。そもそも竜殺しの英雄の一人と敵対しようと考える方なんていないだろうし、リンに辿り着く前に護衛の皆さまから排除されそうである。

 

 「物騒かな?」

 

 「まあ、私も物騒なことをしているからリンのことを悪く言えないね」

 

 こてんと首を傾げるリンにネルが彼女の肩の上に戻った。私は私で物騒なことを沢山やらかしているので、彼女のことは責められないと苦笑いを浮かべる。エル一家と少し話して、次はどこに行こうかと首を傾げながら、ポポカさんたちの卵を見に行こうとなった。

 サンルームに入ると、ポポカさんたちが産み落とした卵さんをアシュとアスターが抱いていた。ポポカさんたちは彼ら二頭の側でポエポエと寝言を口ずさみながらお昼寝をしている。彼らの側でジャドさんとイルとイヴが遊んでおり、サンルームは自由気ままな空間だった。

 

 ◇

 

 王都の高級商業区画に辿り着く。俺はエーリヒとユルゲンと以前の約束を果たすため、待ち合わせ場所に立っていた。貴族位を持ちながら護衛も付けずなにをやっているのかと言われそうだが、ナイの信用を勝ち得ているのか俺に護衛は付けられていない。自惚れなのかもしれないが、ナイは俺の実力を認めてくれエーリヒとユルゲンの護衛を務められると信じてくれているのだろう。

 

 「少し早かったか」

 

 待ち合わせ場所に二人の姿はなく周りを見渡しても、金髪のエーリヒと緑髪のユルゲンを確認できない。なら大人しく今いる場所で待機しておくのが賢明だろうと、道行く人を眺めることにした。

 今、俺がいる場所は商業地区の中でも金持ちの者しか立ち入らない区域である。時折、派手な馬車が通り大勢の護衛を引き連れているので、車の中には貴族が乗っているのだろう。余り好きになれなかった貴族位を自分が賜ることになったのは不思議なことだが、将来を考えると丁度良いのだろう。

 

 それに功績を上げて貴族位を賜ったから、代々続く純粋な貴族とは少し立ち位置が違うので身軽なものだ。でもナイのことを考えれば、領地運営について知っている方が良いとラウ男爵を頼っているが、果たして俺はきちんと知識は身に付いているのだろうか。

 俺の知識が満足に身に付いているのか疑問を感じてラウ男爵に問えば、学んだ部分をきっちりと覚えているし急ぐ必要はないと言われてしまった。他にも彼らからは、夜会での礼儀作法に踊り方に妙な輩から逃れるための話術も習っている。

 

 「まだ早いか」

 

 ナイは婚姻に対して急ぐ素振りを見せていない。貴族令嬢であれば十八歳を迎えて婚約者がいないのは致命的な状況だ。ナイの置かれた環境が特殊過ぎて貴族令嬢の常識や普通が適用されるのか怪しい状況だが、アルバトロス王国はナイに直系の次代を産んで欲しいのが本音だろう。

 ただアルバトロス王も公爵閣下も急いでいないのは、彼女の前世では三十歳近くで結婚する者もいるという事実を知っているからかもしれない。ナイの前世がどんなものだったのか気になるが俺が問うても仕方ないことだし、今を生きているのだから、真っ当に生き抜かなければ。

 でなければ貧民街時代で失った仲間たちに顔向けできないと前を向けば、俺の前でアルバトロス王国の官僚用に使用される馬車が停まった。御者の手で扉が開かれると、エーリヒとユルゲンがゆっくりと降りてくる。

 

 「久しぶり、ジークフリード」

 

 「お久しぶりです。ジークフリード」

 

 エーリヒとユルゲンが馬車から降り、御者と一言二言会話を交わして馬車が去って行く。

 

 「エーリヒ、ユルゲン、久しぶりだ。体調は大丈夫か? 帰国したばかりだから、無理はするなよ?」

 

 二人は聖王国から一昨日に戻ったばかりだ。一日の休息を挟み今日となっているのだが、慣れない他国で活動しなければならないのは凄く大変だと知っている。無理や無茶はして欲しくないとユルゲンとエーリヒに聞いてみたのだが、愚問と言わんばかりに彼らは良い表情を浮かべた。

 

 「もちろん、無理はしていない」

 

 「ええ。久しぶりの母国ですから、遊び倒したいですね」

 

 くつくつと笑いながら二人は肩を竦める。俺を心配させないためだろうなと片眉を上げれば、目的の店に行こうとなった。今日は以前エーリヒとユルゲンと交わした約束を果たす日だ。俺のために付き合ってくれるのだから気のいい奴らである。店に入りユルゲンが店員と挨拶を済ませて、店の中を見て回ることになる。いろいろと材料があって、どれを買えば良いのかときょろきょろと周りを見渡しているとユルゲンが俺の隣に立つ。

 

 「彼女の好みはどのようなものでしょうか。例えば好みの色や好きな花とか分かると有難いですね」

 

 ユルゲンはナイと店の者に分からないようにと配慮してくれていた。エーリヒも興味深そうに目の前に並ぶ多くの材料を見渡しながら、ふむと顎に手を当ててなにか考えている。

 

 「貴族の令嬢が好みそうな色はあまり。落ち着いた色や暗色系が好みか」

 

 ナイはピンクや赤や黄色は好んでいないようだ。身の回りにある品も服装も落ち着いた色合いの物が多い。その割には俺とリンに、似合うと言って派手な色を勧めてくるのは何故だろうか。

 

 「では、この辺りから選ぶのが無難かと」

 

 いろいろと取り揃えられている型紙に目を向けた。今日はユルゲンに栞の作り方を学ぼうとなり、材料を取り扱っている店を紹介して貰ったのだ。材料を買い付ければユルゲンの屋敷に足を運ぶ予定である。

 ただユルゲンはいきなり手作りの品を渡されても困惑するから、仲を深めてからの方が良いだろうとアドバイスをくれている。確かに俺もいきなりナイから手作りの品を渡されれば、嬉しい反面なにがあったと悩みそうだ。だから今日は作り方を学んで自力で作れるようにしておくだけ。

 

 「な、なんだよ、二人とも」

 

 俺より先にエーリヒがいくつかの型紙を手に取っていた。彼は赤や黄色の明るい色を選んでいる。少し顔が赤くなっているエーリヒに俺とユルゲンは目を細めた。

 

 「いや、順調そうでなによりだ」

 

 「ええ。本当に」

 

 どうか友二人にも、そして幼馴染のクレイグとサフィールにも良い縁があるようにと願わずにはいられなかった。

 

 ◇

 

 ユルゲンの実家、ジータス侯爵家にお邪魔して男三人で作業をしていた。そうして出来上がった栞に目を向ける。教えて貰ったユルゲンほど上手い出来ではないが、慣れれば仕上がりはもっとマシになるだろう。エーリヒが作った栞も俺と同じ程度の仕上がりだから、俺が特段不器用だということはあるまいと小さく息を吐く。

 

 「これなら一人でも作業できそうだ。ありがとう、ユルゲン。あと付き合って貰って済まない、エーリヒ」

 

 あとは試行錯誤しながら慣れていくしかないのだろう。専門的な道具は必要ないが、上級者は押し花で栞を作ったりしてアレンジを楽しむとユルゲンから聞いた。奥深い世界ですよと小さく笑いながら告げた彼は細かい作業が得意な様子だった。

 

 「いえいえ。こんな趣味があると知られれば女々しいと言われてしまいますが、ジークフリードとエーリヒなら大丈夫と判断しました。それに趣味仲間が増えた気がして嬉しいです」

 

 ユルゲンが苦笑いを浮かべる。彼の瞳の奥には安堵の色が灯っているような気がした。確かに他の貴族男性に栞作りが趣味だと伝えれば、男らしくないと断言されてしまう。

 俺は他人の趣味を笑い飛ばすなんてできないし、そもそも趣味と言えるものがない気がするから、こうして自分の趣味を誰かに教えていることは羨ましい。

 

 「確かに意外だけれど人の趣味に文句を言えないし、俺だって料理を作るのが趣味だから貴族としては異端だな。そういえばジークフリードの趣味はなんだ?」

 

 確かにエーリヒも変わった趣味を持っていると言えよう。前世では男が料理をするのはなんらおかしくないことだそうだが、今の世界、アルバトロス王国では女性と料理人以外が食事作りを担うことは殆どない。

 作っても肉を焼くくらいで、野性味が強いことしかしないのだ。ナイ曰く、焼くだけが料理と言えるのかと首を傾げていたけれど……まあ、アルバトロス王国では普通のことなのだ。しかし誰かに胸を張れるような俺の趣味はなんだろうと頭を捻る。特に出てこないが、日々続けているものが趣味と置き換えても良いのではないかと口を開いた。

 

 「……む。鍛錬か?」

 

 正直、誰かに誇るものでも自慢できるものでもないと口元が硬くなるのが自分で分かった。俺の趣味を聞いたエーリヒとユルゲンが少しだけ目を見開いている。

 

 「仕事の範疇じゃない?」

 

 「ですねえ。ジークフリードらしいですけれど」

 

 肩を竦めるエーリヒと苦笑いを浮かべているユルゲンに俺は反論することもなく、ただ彼らの言葉を受け入れるだけだ。やはりなにか趣味と言えるものを見つけた方が良いのだろうかと首を捻るものの、今の環境に満足しているし暇な時間も少ない。ナイと幼馴染の側で過ごす時間が俺にとって一番大切なものであり、彼らと過ごす中で会話がなくとも静かに流れる時間が好きだと改める。

 

 「あ、そうでした」

 

 ユルゲンが唐突に声を上げて席から立ち上がり、書棚の前に立ち右手人差し指を本棚に向かって指していた。なにかを探しているようだとエーリヒと視線を合わせて、黙って彼が戻ってくるのを待つ。

 

 「こちらは僕が以前読んでいたものですが必要のないものなのでお二人に。読まないまま書棚に置いておくよりも、必要な方に目を通して貰える方が本も幸せでしょう」

 

 ユルゲンが遠慮なく受け取ってくださればと続けた。俺とエーリヒはありがとうと目の前の男に告げると、嬉しそうに笑っている。本の表紙に目を向ければ、初心者用に栞作りを手引きしたものだった。有難いと素直に受け取る。ふふと笑っている彼にいつか礼をできると良いのだが。

 

 「仕事の話で申し訳ないが、聖王国はどうなっている?」

 

 俺はユルゲンから受け取った本を膝の上に置いて話を切り替えた。休日に仕事の話を持ち出すのは無礼かもしれないが、現地にいた二人の情報は重要度が高いだろうと判断して口にしたのだ。ユルゲンとエーリヒは俺の言葉を聞いて、背を真っ直ぐに伸ばす。嫌な顔をひとつも浮かべず真面目な態度になってくれるのは彼らの性格なのだろう。

 

 「ああ。まあ……西の女神さまがアストライアー侯爵家で過ごしていると噂が流れているな」

 

 エーリヒが言い辛そうに教えてくれた。これは想定の範囲内だし、ナイも知っていることである。緘口令を敷いているものの、誰かが噂を流すだろうと予想はできていたのだ。ただ緘口令のお陰で爆発的な速度で噂が広まっていない。今現在ミナーヴァ子爵邸に人が押しかけていない理由がそこにあった。あとはアルバトロス王国やナイを敵に回したくない者が大半なのだろう。

 

 「会いたいと躍起になっている方もいますが、どうにか教皇猊下と諸外国の監視員が抑えてくれておりますね。あと大聖女フィーネさまと、大聖女ウルスラさまに聖女アリサさまがミナーヴァ子爵邸に訪れたことも噂で流れ始めております」

 

 どうやらナイと三人が仲が良いことを知っている者たちは、西の女神さまと出会ったのではと勘繰っているようだ。確かに三人は西の女神さまと顔合わせをしているが、グリフォンとポポカたちの名前を付けるために子爵邸に訪れただけである。事情を知らない者たちが想像を掻きたててあることないことを言い始めるのは、何処でも一緒なのだろう。

 

 「妙な連中が三人に絡まなければ良いが……」

 

 「三人の警備は強化しているから大丈夫と信じたい」

 

 俺が声色をいつもより落すと、エーリヒも神妙な顔を浮かべている。もちろんユルゲンも聖王国の聖女三人に対して心配をしていた。これから先、聖王国はどうなるのだろうかと息を吐けば、俺の側にいた二人が苦笑いを浮かべるのだった。

 

 ◇

 

 ――ヴァンディリア王国・とある領地の冒険者ギルドにて。

 

 西大陸に点在している冒険者ギルド支部の内装はどこも似たような趣だ。扉を入ってすぐに受付があり隣には依頼が掲示され、更に隣には併設されている食堂で冒険者たちが一仕事を終えてエールを美味そうに飲んでいる。

 依頼で相手をした魔物は凄く強かったが、パーティーメンバーと協力をしながら苦労して倒したと大声で話をし、他の冒険者が話をしている本人に野次を入れたり揶揄ったりと騒がしかった。喧騒響く建屋内を好きになれないという者もいるが、俺は自慢気に話している冒険者たちの顔を見るのは好きだし、また面白おかしく囃し立てている者の表情を見るのも楽しかった。ヤーバン王国で第一王子の座に就いている時よりも、放逐されて冒険者となった今の方が一日一日が充実していた。

 

 ヤーバン王国を去り、俺は隣国のギルドで冒険者登録を済ませたが、ヤーバンの衣装は諸外国の者にとって奇抜な物だったようである。服を着るということに慣れた今は、以前の自分の姿を恥じるばかりだ。ヤーバン王国は諸外国と関係を持たず閉じ籠り、文化と技術の発展が遅れていたこと。魔術に関してもヤーバン王国内にいる魔術師よりも、外の方が優れた魔術師が多い。

 

 世間を知らない俺は冒険者として雑用から始め、他の冒険者が嫌がる仕事を積極的に受けていれば昇進の機会は多く訪れた。力と強さが全てのヤーバン王国で育ってきたためか、身体を鍛えて剣技に優れていたから手強いと言われている魔物を倒せたし、俺の噂を聞きつけてパーティーを組まないかと誘ってくれる奇特な者がいたのだ。

 

 今日の一仕事を終えて、冒険者ギルドに併設されている食堂で肉料理を食べていた。牛肉は高価だから豚肉を焼いたものを食している。一度、茹でてから焼いているため脂の量が抑えられている。

 茹でてから焼くことを勿体ないと愚痴を呟く者がいるものの、脂が多いのは苦手なので俺には丁度良い焼き方だ。塩胡椒ブロック肉をナイフで豪快に切り分けて、フォークで突き刺して口へと運ぶ。胡椒を使用しているので値段が少々張ってしまうが、今日の依頼報酬は数日贅沢しても問題ない金額を貰っている。偶には贅沢しても良いだろうと豚肉を頬張っていれば、顔見知りが俺の目の前に立つ。

 

 「シルヴェストルさん、Bランク冒険者への昇進おめでとうございます。冒険者として少しは慣れてきましたか?」

 

 立派な武具に身を包んたSランク冒険者パーティーのリーダーが俺に声を掛けてくれた。今すぐ返事をしたいのだが、流石に口の中に物を入れている状態で喋るのは好ましくない。口元を押さえて少し待って欲しいという身振り手振りで伝えると、彼は笑い、そして同じ冒険者パーティメンバーも『ゆっくりで良いですよ!』『リーダーが声を掛けるタイミングが悪い』『ええ、そうね』と自分たちの長を揶揄っていた。

 

 「……んぐ、失礼」

 

 口の中の物を飲み込んで、俺は席から立ち上がる。彼らは気にしなくて良いのにと言うが、冒険者として先達になる者に失礼な態度は取れない。それに目の前に立つ冒険者リーダーは美丈夫で細身でありながらも、実力はかなり凄いものだと俺は知っている。

 ここに辿り着く前に受けた依頼で運悪く強い魔物と相対し自分の実力では倒せないと、諦めて逃げようとしていた所に彼らが加勢してくれたのだ。あっさりと強い魔物を倒したリーダーの実力に目を奪われてしまったことは一生の秘密である。

 

 「ありがとうございます。無事にBランク冒険者と名乗ることができるようになりました。貴方方から受けたアドバイスのお陰です!」

 

 俺は彼らに向かって頭を深く下げる。魔物を倒して貰ったこともあるが、彼らは物を知らない俺にいろいろと冒険者として役立つ話を沢山聞かせてくれた。俺の実力は十分備わっているから早くAランク冒険者となって、彼らのパーティーの一員になって欲しいという誘いも受けている。

 

 「そのように謙遜する必要はないかと」

 

 苦笑いを浮かべるパーティーリーダーの少し後ろで仲間たちが俺に視線を向けて苦笑いを浮かべた。

 

 「相変わらず声がデケえな……」

 

 「あはは。元気だねえ」

 

 「本当に元王子さまなのかしら」

 

 どうにもヤーバンの者は諸外国の者より声が大きいようである。遠くの仲間に連絡を取る方法が大声を出すという基本的なものだったし、呼吸をコントロールして肺に吸い込む空気の量を増やしていたからなのかもしれない。

 そういえば妹も凄く声が大きいなと今更ながらに実感する。妹はヤーバンで父を玉座から引きずり下ろして女王陛下となり、ヤーバンの治世を行うことになった。どうやら国外に出る機会を増やしているようで、アルバトロス王国のミナーヴァ子爵邸によく顔を出しているとか。

 妹のことだからグリフォンに会いたいという気持ちが強いのだろう。彼女はグリフォンのことになると周りが見えなくなる性質のため、ミナーヴァ子爵、もといアストライアー侯爵に迷惑を掛けていなければ良いのだが。

 

 筋肉隆々な男が俺に呆れの声を上げ、治癒師の女性がフォローを入れて、魔術師の女性が不思議そうな顔になっていた。

 

 「俺が元王子というのは本当です。妹の方が優秀でしたので国を追われました」

 

 元王子だという事実を特に隠す必要はない。俺の名誉などないし、ヤーバン王国の評判が落ちなければそれで良い。最近、ヤーバン王国より聖王国の方が不味い状況だと聞くが、あまり宗教に詳しくないため聖王国がどんな立ち位置なのかイマイチ理解できていない。

 

 「ああ、そうだ。前に君に伝えた話は覚えているかな?」

 

 彼が問うたのは以前に誘われたパーティーを組もうという話のことだろう。

 

 「誘いは有難いです。しかし俺はパーティーで行動する前にミナーヴァ子爵……アストライアー侯爵に礼を伝えたい」

 

 パーティーで行動するようになれば、今の様に自分の意思で考えて国を渡ることは難しくなるだろう。その前に侯爵閣下にはいろいろと世話になったことと不躾な態度を取ってしまったことを謝りたかった。

 これは俺の自己満足で門前払いを受ける可能性が高いが、アルバトロス王国の王都に向かえば少しくらいの機会に恵まれるだろう。一番良い方法は彼女が住まう邸まで赴いて、門兵に手紙を渡すことだと考えている。

 

 「え? 侯爵閣下と面会したいの?」

 

 目の前の彼がぎょっとして、他のメンバーもぎょっとした顔になる。

 

 「面会というよりは、お礼を伝えたいだけなので手紙でもと」

 

 「侯爵閣下と以前なにか縁があったのなら可能かもしれないけれど……かなり難しいと思う」

 

 俺の言葉にパーティーリーダーが真剣な面持ちとなった。俺が得ている情報はミナーヴァ子爵からアストライアー侯爵へと陞爵したことである。Sランクパーティーリーダーともなれば、耳に入る情報は俺よりも多いようで、ヤーバン王国の一件からあとに彼女はいろいろと功績を上げたようである。

 そして最新の噂だとミナーヴァ子爵邸に西の女神さまが滞在しているとか。本当になにをやっているのかと言ってしまいたくなるが、グリフォンを従える彼女であれば当然のことかもしれないと俺は笑みを浮かべる。

 

 「ははは、凄いお方だ。しかし、やっとヴァンディリア王国まで赴くことができたので、アルバトロス王国の王都に向かってみようかと」

 

 もしかすればなにか情報を得られるかもしれないし、聖女を務める彼女だから教会の方に手紙を預けるのもアリかもしれない。

 

 「でもアルバトロス王国の王都に冒険者ギルド支部はないよ。だから路銀は多めに用意しておいて。君のやりたいことが叶えば、また誘ってみるよ」

 

 パーティーリーダーがまた俺にアドバイスをくれた。どうしてアルバトロス王国の王都に冒険者ギルド支部が存在していないのだろうか。彼を質問攻めにするわけにはいかないし、他のメンバーも渋い顔を浮かべている。聞かない方が良いだろうと判断すれば『食事中に邪魔をしてごめんね』とパーティーリーダーが俺に謝って、この場を去って行った。――さて、アルバトロス王国までもう少し。

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