魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0553:ご対面。

 女神さまから副団長さまたちに魔術を教えるのは陛下方との面会を終えてから、となった。アルバトロス王国のお偉いさんを待たす訳にはいかないし、なにも女神さまが彼らに魔術を教えるのは今回だけではない。

 

 子爵邸に赴いて女神さまが暇であれば教えるよと言ってくれているのだから、大の大人二人がすごーく残念そうな顔をしないで欲しい。魔術師団団長さまは女神さまが副団長さまたちに魔術を教えることに対して不安そうな表情だったけれど、今住んでいる星が滅亡するような事態にはなるまい。

 受け取った魔術具の説明を副団長さまと猫背さんから聞くのだが、他の方には絶対に身に着けさせないようにと強くお願いされている。どうやら魔力吸収量が凄く高いために、並の方が魔術具を着ければ生命力まで吸い取られてしまうとのこと。私が持っている錫杖と同じ性質じゃないかなと思わなくもないが、深く突っ込まないことにした。女神さまは魔術具があれば西大陸をフラフラできると考えているようで、少し嬉しそうだった。

 

 一度、人間が争いばかりしてどうしようもないからと手を引いたのに、引き籠もりが解消されば地上に興味を持っている。西の女神さまの考え方や捉え方が良く分からないけれど、引き籠もられるよりマシだろうと私は前を向いた。

 

 「申し訳ありませんが一度席を外します。またあとでお会いしましょう」

 

 副団長さまと猫背さんと魔術師団団長さまに断りを入れた。そろそろ陛下方との約束の時間になるので遅れる訳にはいかないだろう。女神さまに確認を取れば『分かった』と仰ってくれたし、特に問題はないようだ。私の言葉に副団長さまと猫背さんが若干ショックを受けている顔になり、団長さまは短く息を吐いている。

 

 「必ずお戻りくださいね?」

 

 「ハインツの言う通り。早く戻ってきて」

 

 彼らの言葉に私は苦笑いを浮かべていると、女神さまが不思議そうに顔を傾げていた。魔術を教えて貰えることを目の前のお二方は凄く楽しみにしているようですと、西の女神さまに伝えれば『大したものじゃないよ』と少しだけ困った様子を醸し出している。まあ、なににせよ早く戻らなければ彼らが王城の来賓室に吶喊しそうである。

 

 「直ぐ終わるとのことだったので、そのように心配しなくても大丈夫かと」

 

 陛下からは長々話をするつもりはないし、女神さまに王城へきて貰う方が申し訳ないと書状に記されていた。でも陛下方を子爵邸に招き入れるわけにはいかないし、女神さまに相談すると魔術具のついでだから構わないと仰ってくれたのだ。

 魔術具のついでに登城することも伝えたのだが、陛下方は果たして今回のことをどう考えているのだろう。女神さまにご足労して頂いて申し訳なく考えているのか、当然だと思っているのか。前者だろうなと小さく笑っているとロゼさんが机の上で、うねうねと身体を動かして私を見ている。目の位置は分からないけれど。

 

 『ねえ、マスター。ロゼも教えて貰って良い?』

 

 「それは、魔術を教えてくれる女神さまに聞いてみてね」

 

 ぽよんと身体を動かしたロゼさんはどうやら女神さまが教えてくれる魔術が気になって仕方ないようだ。ロゼさんは副団長さま以外から魔術を教えて貰う気によくなったなと感心してしまう。

 ロゼさんは交友を広く持とうとしないし、この際女神さまでも良いから仲良くなって欲しいけれど、肝心の女神さまはどうだろうか。普通の女性のようにスライムさんを見て『キャー!』と悲鳴を上げる口ではないのは分かっているけれど。ロゼさんはどうするのか見守っていると、うねうねと身体を動かして女神さまの前まで移動する。

 

 『女神さま、ロゼにも魔術を教えてください』

 

 ロゼさんの丁寧語は凄く珍しいし、身体の一部を凹ませてまるでお辞儀をしているようだった。

 

 「スライムなのに、君は魔術を使えるの?」

 

 きょとんとした女神さまがロゼさんに問うた。とりあえず女神さまはロゼさんと話すことを拒否していないし、驚きはしているけれど普通に会話をしてくれる。

 

 『うん。ハインツに教えて貰った』

 

 ロゼさんの一言に副団長さまがもっと僕のことをアピールしてくださいとソワソワしている。猫背さんは良いなあと羨ましそうな視線を副団長さまに向けていた。本当に魔術に関すると遠慮のない方々であるが、いろいろと助かっているので私からはなにも言えない。

 

 「凄いね。ついでだし構わないよ」

 

 ロゼさんの敬語は一瞬で消えており、どうやら嬉しさのあまりに気が回らなかったようである。女神さまはロゼさんボディーをツンツンしてスライムの感触を確かめていた。

 

 「良かったね、ロゼさん」

 

 『うん。ロゼ、もっと強くなれる!』

 

 よほど嬉しかったのかロゼさんのスライムボディーがぱんと勢い良く膨らんだ。女神さまが驚いて目を丸くして、ツンツンしていた指を引っ込めた。そろそろ移動をしようとなって私たちは席から立ち上がる。

 お見送りをしてくれる副団長さまと猫背さんと魔術師団団長さまに軽く頭を下げて、魔術師団の隊舎を後にする。そうして隊舎前で待機していた近衛騎士の方と再び合流して元来た道を歩いて城内に戻る。

 

 そうして近衛騎士の方の後ろ姿を眺めながら歩いていると、来賓室に辿り着いたようである。いつもより廊下や部屋の周りが綺麗なのは気の所為だろうか。近衛騎士の方が中の方に取次ぎをしてくれると、勢い良く扉が開かれて緊張した面持ちの別の近衛騎士さまが『お待ちしておりました! 西の女神さま、アストライアー侯爵閣下っ!』と大きな声を上げた。

 普段城内で聞いていた近衛騎士の方が上げる声よりもかなり大きな音量だし、くるりと回れ右をする姿もぎこちない。私は女神さまが気分を害していないだろうかと彼女を見上げれば、そんなに緊張しなくて良いのにと言いたげな顔をしている。まあ、出会う方、出会う方、緊張しているから女神さまも仕方ないと諦めているようである。一部例外の方がいるけれど、女神さまに驚かない方は限りなく少ない。

 

 部屋の中に入るなり、既に参加すると聞いていた方々が立ったまま女神さまを待っていた。そうして彼らはゆっくりと頭を下げる。

 私は女神さまのオマケなので彼女の半歩後ろを歩こうとすると、何故か女神さまの手が伸びてきて前を歩けと押し出された。頭を上げて女神さまへと視線を向けていたアルバトロス王国の面々、陛下と妃殿下と王太子殿下と王太子妃殿下と第三王子もとい第二王子殿下に第一王女殿下と宰相閣下と外務卿様と内務卿さまとヴァイセンベルク辺境伯さまが驚いていた。

 唯一、公爵さまだけが私に視線を向けて今にも笑い出しそうな顔をしているが、場を弁えているから誰も気付いていなかった。

 

 陛下が並んでいる皆さまの前から一歩進んで、また礼を深く執る。陛下が礼を執る姿なんて初めて見るけれど、陛下に倣って集まっていた皆さまも頭を下げた。私たちアストライアー侯爵家の面々はアルバトロス王国の重鎮の皆さまが頭を下げている姿に驚くものの、相手は西の女神さまである。私たち一行が女神さまに対してフランク過ぎているのかもしれないから、今度から気を付けよう。

 

 「西の女神さま、本来は我々が出向かねばならぬ所をご足労頂き、申し訳ありませんでした」

 

 「気にしなくて良いよ。魔術具を受け取るついでだし、ナイのお願いだったから」

 

 陛下が顔を上げると、他の皆さまも顔を上げた。女神さまは皆さまが頭を上げたことを確認してから言葉を紡いだのだが、私を巻き込まないでください。私の名前を出されると、女神さまに用事ができた場合私を経由することになるんです。

 既にその状況に陥っている気もするが、これからも引き続きアルバトロス王国と女神さまの間を取り持つ役を担わなければならなくなりそうなのだ。私が頭の中で考え事をしていると、公爵さまが女神さまから視線を逸らして私を見ていた。

 

 「少しの間、西大陸のことに感知していなかったけれど、気が向いたからまたいろいろ見て回ろうって考えている。でも私が知っていた頃とは随分と様変わりしているから、暫くはナイの所で厄介になるつもり」

 

 女神さまが割と長い台詞を言っているが、凄く機械的に聞こえるのは気の所為だろうか。彼女には目の前のお方が私よりも偉い方で、いろいろとご迷惑を掛けている方だと伝えている。なんとなく分かったと仰ってくれたけれど、女神さまが陛下方に向けている感情はどんなものなのだろう。気になるものの今は聞ける状態ではない。

 

 「承知致しました。アストライアー侯爵が用意できぬものや、足りぬ人材があるなら我々が手配します。侯爵も遠慮なく我々を頼ってくれ」

 

 陛下が女神さまの言葉に答えた。女神さまに在住権とか必要なのか分からないけれど、陛下の言葉を頂けたならばアルバトロス王国に滞在することは問題なくなる。

 

 「ん。過度に畏まらなくて良いよ。あまり好きじゃないから」

 

 「感謝致します、陛下」

 

 女神さまに続いて私も陛下にお礼を伝えると、一先ず席を勧められ着席する。陛下はどうしたものかと話題を選びかねており、女神さまも特に話すことはないようで黙ったままだった。

 なにか女神さまとアルバトロス王国に繋がる話と私も頭を捻るが、なにも話題が浮かばなかった。陛下が喋らないということは他の方も口出しはすまい。公爵さまが陛下に意味深な視線を向けているけれど、悩ましい表情を浮かべた陛下はなにも言わず仕舞である。そうして暫く、女神さまは私の服の袖を引っ張った。

 

 「どう致しました?」

 

 「もう大丈夫?」

 

 私が女神さまに視線を向ければ彼女は小さく首を傾げる。一応、挨拶は済ませたのでこれで問題はない。

 

 「はい、大丈夫かと」

 

 「なら、さっきの人の所に戻ろう?」

 

 女神さまが魔術師団の隊舎に戻ろうと言っているけれど、流石に陛下方と邂逅して二分ほどしか経っていないのは不味いのではなかろうか。おそらく超高級な茶葉とお菓子を用意してくれているはずだし。

 

 「え、あ、いや、女神さま、あの……――」

 

 流石に今直ぐ退場するのは不味いのだが、女神さまを引き留める手段も理由もない。私は困ったなと頭を抱えそうになっていると、助け船を出してくれた方がいた。

 

 「――アストライアー侯爵、我々のことは気にしなくて良い。女神さまのご随意に」

 

 陛下の声に公爵さま以外の方がうんうんと頷いていた。おかしい。女神さまの圧は副団長さまたちに作っていただいた魔術具で凄くマシになったはずなのに。これからお茶と美味しいお菓子を頂けると考えていたのが駄目だったのだろうか。

 

 「行こう、ナイ。それじゃあ。困ったことや用事があれば頼るね」

 

 「失礼致します」

 

 女神さまが私の手を取って部屋を出て行く。流石に無言のまま退出は不味いと、声を上げておいたのだが許されるだろうか。後で陛下に謝罪の手紙を認めるために、女神さまは何故部屋を直ぐ出て行ったのか聞いておかなければ。私は女神さまと並べば、彼女は手を離して私を見下ろしている。

 

 「女神さま、ご気分を害されましたか?」

 

 「ううん、違う。あそこに長居するよりも、紫色の外套を纏った人がいた所の方が楽しそうだから」

 

 女神さまは先程の空間が苦手だったようである。アルバトロス王国のお偉いさんばかり集まっていたので、部屋の中は独特の雰囲気がある。確かに慣れていないと変に疲れそう……って、私も三年前はド緊張していたなとはっとする。時間が経ち、並々ならぬ方々に囲まれることに慣れていたことに驚きを隠せないでいると、部屋の前で立ち番をしていた近衛騎士の方がぎょっとした顔をしつつ『魔術師団の隊舎にお戻りですか?』と問うてきた。

 

 「うん」

 

 「ご案内致します!」

 

 女神さまの声に近衛騎士の方がぴしっと敬礼を執った。そうして女神さまが相対する近衛騎士の方に口を開いた。

 

 「お城の中を勝手にウロウロするのは駄目だったよね。お願いします」

 

 「は、はぃ!」

 

 声を上ずらせながらも近衛騎士の方は回れ右をして、また魔術師団の隊舎へと歩き始めるのだった。

 

 ◇

 

 西の女神さまとアストライアー侯爵が来賓室から先程去って行った。この場にいる私の叔父であるハイゼンベルグ公爵以外が、長い長い息を吐いて緊張を解いている。私も短く息を吐いて、心の臓の煩さを落ち着かせようと試みた。

 

 アストライアー侯爵が神の島に赴いて、引き籠もっていた西の女神さまを部屋から出したと聞いた時は驚いたが、まさか女神さまが彼女の屋敷を訪れるとは。本当にアストライアー侯爵は規格外の人物であり、私の胃に負担を掛けてくれる。

 もちろん彼女に悪気はないし、アルバトロス王国が発展し他国より優位に立てる状況だから文句などない。ないのだが驚かされるペースが早過ぎるため、もう少し頻度を落として欲しいと願わずにはいられなかった。

 

 今日のことは私の長い人生の中で一番緊張し、一番驚いた出来事だなと、もう一度短く息を吐き、部屋にいる皆の顔を見た。王妃であるベアトリクスも、王太子である息子のゲルハルトも彼の妃であるツェツィーリアも、現第二王子であるライナルトも第一王女であるエルネスティーネも放心状態だ。

 私の最側近である宰相も外務卿も内務卿も一様に魂が抜けた顔になっている。彼らの気持ちは理解できるから責める気はない。唯一面白そうに笑っている叔父上、ハイゼンベルグ公爵の肝が据わり過ぎなのだ。

 

 もしかしてアストライアー侯爵が叔父上に助け出されていなければ、今現在起きていることはなかったのかもしれないと妙な考えが浮かぶ。しかし今のアルバトロス王国は歴代で一番、西大陸で名を馳せているし、元から友好的だったヴァンディリア王国、リーム王国と、アストライアー侯爵が切っ掛けを作り外交が始まった亜人連合国とアガレス帝国と共和国と神聖ミズガルズ大帝国との縁が強くなっている。妙なことを考えるのは止めようと、気分を変えるためにもう一度皆の顔を見た。

 

 「どうしてアストライアー侯爵は普通に女神さまと話せるのだ……」

 

 これが私の心からの本心である。西の女神さまはアストライアー侯爵の依頼により、ヴァレンシュタイン魔術師団副団長と魔術師ファウストが作った魔術具を身に着け『神力』を下げている状態だと聞いている。

 それだというのに女神さまの神々しさや特別感は我々人間と一線を画すものであった。本来は私から口を開くべき所を、女神さまの威光に気圧されて喋ることができずにいた。私も叔父上のように割り切ってしまった方が良いのだろうかと彼に視線を向ける。

 

 「ナイだからなあ」

 

 叔父上は私に良い顔を向けて笑っている。そして他の面々が叔父上の態度に少し引いていた。

 

 「公爵、それで済ませようとしていないか?」

 

 叔父上は全てアストライアー侯爵だから、と笑い飛ばすつもりでいるらしい。仮にアストライアー侯爵がアルバトロス王国に不利益を齎すならば、叔父上は彼女を諫めるなり止めろと命を下すだろう。

 彼女も叔父上の命には逆らわない。個人の実力ではアストライアー侯爵が勝っているのだが、叔父上には恩があるようで彼の命を忠実に守る。彼女は私の命令も守るのだが、おそらく叔父上の言葉より弱いだろう。まあ、アストライアー侯爵は叔父上にしか御せないので、彼には確りと彼女を監督して貰わねば。

 

 「はは! そんなことはありませんぞ、陛下」

 

 笑う余裕があるのならば、先程助けてくれても良かったのではと文句を言いたくなるが、あの場では私が主導すべきだったのだ。本当に私の力不足、いや、胆力不足だったなと痛感してしまう。

 

 「しかし、西の女神さまに困れば頼ると最後に言われたが……我々を頼ることなどあるのだろうか」

 

 私はまた短く息を吐く。アストライアー侯爵にできないことがあれば、我々を頼って欲しいと女神さまに願い出たものの、神という特別な存在が困ることがあるのだろうか。おそらくなんでもできる方だろうし、なんでも知っている方である。私の言葉は失礼だったかもしれない。

 

 「おそらくないでしょうね。女神さまなりの我々に対しての気遣いだったのでは?」

 

 宰相が苦笑いを浮かべながら答えてくれる。やはり女神さまが我々を頼ることはないだろうと一人納得する。

 

 「ですが、アストライアー侯爵から女神さまに頼まれたと連絡が入るやもしれません」

 

 「即応できるように、気を抜かない方が良いのかもしれませんね」

 

 内務卿と外務卿が真面目な顔で告げた。確かに女神さまからではなく、アストライアー侯爵からなにかしらお願いが奏上されるかもしれない。その時は我々は全力で女神さまに失礼のないように行動を起こさなければ。

 せめて西の女神さまの人となりがアストライアー侯爵から報告が上がれば良いのだが、今の所はこれと言ったものはなかった。南の女神さまは食べ物に興味を示して、美味しい品に目がないと報告で知っているのだが。女神さまがアストライアー侯爵の下で過ごす時間が長くなれば、性格を知ることになろう。本当に歴代の西大陸各国の王の中で神の対応を迫られた者は何人いるのだろうか。

 

 またしても短く息を吐くと、機を伺っていた王太子であるゲルハルトがおずおずと手を挙げる。私はどうしたと彼に頷いた。

 

 「へ、陛下。仮の話、仮の話です。陛下が退位されたあと跡を継げば、女神さまのお相手は私が務めることに?」

 

 口元を引き攣らせながら私の長子が問う。

 

 「もちろんだ。アルバトロス王として失礼のないようにな」

 

 息子よ、こんな言葉しか贈れない私を笑ってくれ。ゲルハルトであれば西の女神さまとも問題なく面会できるだろう。三年前、亜人連合国に赴いて修羅場を潜ってきたのだから。今回……いや、未来の息子は立派にアルバトロス王として務めを果たしてくれるはず。

 そしてアストライアー侯爵とも付き合いが続いていくはずだから、建国祭の時には彼女からの贈り物に気を付けろ。彼女は貴族位を得てから毎年私と王族へ献上品を贈ってくれるが、とんでもない代物であることが多い。初めての時は本当に焦った。亜人連合国のドワーフが本気を出して鍛えた剣だったのだ。次の年から少し抑えられた品になってはいるが、それでも市場価値は随分と高い物である。

 

 「ツェツィーリア……私と一緒に頑張ってくれるかい?」

 

 ゲルハルトが自身の妃であるツェツィーリアに声を掛けた。彼女は少し困惑しながら口を開く。

 

 「が、頑張りますわ、殿下」

 

 ツェツィーリアはアストライアー侯爵に願い出て妹の傷跡を治して貰った過去がある。侯爵は治すことはできなかったが、別の者、アリア・フライハイト男爵令嬢が治していた。

 侯爵が治すことはなかったものの、いろいろな条件が重なってミナーヴァ子爵邸へと赴いたのだからアストライアー侯爵とは顔見知りである。上手く縁を取り持つことができるなら、彼女にも、また彼女の母国にも益を齎してくれるはず。

 彼女の母国であるマグデレーベン王国は酪農が盛んで乳製品が有名だ。それを彼女から聞きつけた侯爵がチーズを取り寄せているとか。美味しいチーズを紹介したのが確か、ツェツィーリアだったはず。侯爵は割と小さなことでも覚えているから、悪いようにはしまい。私はこれからも世話になるであろう部屋の者たちに、よろしく頼むと伝えて部屋を後にするのだった。

 

 ◇

 

 女神さまと一緒に元来た道を戻る。魔術師団の隊舎前には副団長さまと猫背さんに数人の魔術師さんが立っていた。私たちに気が付くと彼らは距離があるというのに丁寧な礼を執っている。そうして彼らの下に辿り着けば副団長さまと猫背さんが半歩前に出てもう一度礼を執った。

 

 「女神さま、アストライアー侯爵閣下、よくお戻りくださいました」

 

 副団長さまが頭を上げてから言葉を紡いだ。猫背さんは対応を副団長さまに任せて黙って見守るようである。

 

 「ん」

 

 「お待たせしました。魔術はどこで習いますか?」

 

 女神さまが凄く短い返事をしたので、私はこれからどこで魔術を女神さまから習うのだろうと聞いてみる。女神さまが教えてくれる魔術だから、凄い威力や効果がありそうだ。生半可な施設だと壊れてしまいそうだし、若干魔術師団が使用している訓練場でも怪しそうである。副団長さまは私の言葉に『よくぞ聞いてくださいました!』と言いたそうな顔をしながら口を開く。

 

 「その件を相談したくて、こちらで待っておりました。座学だけなら応接室で、実技があるならば訓練場で行った方が良いでしょう。どちらがよろしいでしょうか?」

 

 ふふふと笑みを深める副団長さまに私は楽しそうだなと普通の感想を抱いてしまうが、今は女神さまに話を聞かなければならないので私は彼女と視線を合わせた。

 

 「女神さま、今日はどのような形を取るのですか?」

 

 「君たちがどれだけ魔術を使いこなせるか、によるかな」

 

 「副団長さまは攻撃魔術であればアルバトロス王国随一の腕前かと。ファウストさまは術式開発に特化された魔術師ですね」

 

 どうして私が女神さまと話をしているのだろうか。本来は副団長さまと猫背さんが報酬の代わりに女神さまから魔術を教わるという話だったのに。私は女神さまの付き添いという形で登城したのに、通訳……ではないけれど通訳の方の真似事をしている。

 

 「ナイは?」

 

 「私は魔力量に任せた治癒と身体強化が基本です。身に危険が迫れば攻撃魔術を使いますが」

 

 私は治癒が基本の聖女だし、身を守るのは騎士と軍人の方々の仕事である。

 

 「みんな、魔術は使えそうだから実地かな」

 

 女神さまの声に副団長さまが良い顔になる。どうやら講義を聞くよりも実地で実践の方が彼の望みであったらしい。猫背さんも嬉しそうな顔をしているので、魔術を使うこと自体が楽しいようだ。そして副団長さまと猫背さんの後ろに控えている魔術師の方々が、自分たちも参加して良いのだろうかと迷った顔をしている。私は仕方ないかとまた顔を上げ女神さまと視線を合わせた。

 

 「あと他の方が女神さまの講義を聞くのは駄目ですか?」

 

 「問題ないよ。隠すようなものではないからね」

 

 女神さまからあっさりと了承を頂けた。ちょっと肩透かしのような気もするが、女神さま的には隠すことでもないらしい。そういえば魔導書も秘して欲しいとは言われなかったし、彼女にとって魔術は身近にあるものなのだろう。

 

 「もう一つ聞いても良いですか?」

 

 私の声に女神さまが頭の上に疑問符を浮かべた。

 

 「ジークとリン、魔力を身体強化に使っている方も女神さまの話を聞けば、今より強くなれるのでしょうか?」

 

 「あ、そっか。昔と違って魔力を身体に回している人が多くなっているんだった……効果はあるのか分からないけれど、助言ならできるかな?」

 

 私の疑問に女神さまは疑問形で返事をくれる。ジークとリンに効果があるのか分からないけれど、なにか新しいことを覚えられたら良いなと副団長さまと猫背さんと魔術師の方数名に女神さまとアストライアー侯爵家一行は訓練場に移動するのだった。

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