魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0554:魔力を放出しよう。

 魔術師団の隊舎近くにある訓練場へと移動した。なにもない広いグラウンドなのだが、四隅に柱が立つ場所には魔術陣が描かれているので障壁を張れるようである。多少の無茶は利くようだけれど、障壁はどれくらいの威力まで耐えられるのだろう。

 興味本位で魔術をブッパすれば賠償を要求されそうなので、私は大人しくしておこうと女神さまと副団長さまと猫背さんと数名の魔術師さんを見る。副団長さまと猫背さんはいつも通りの様子だが、魔術師さん数名はド緊張していた。

 

 「とりあえず、みんなの魔力量がどれくらいあるのか知りたいから魔力を放出して欲しいかな。できない人は大丈夫」

 

 西の女神さまが一番最初に声を出した。どうやら講師役を担うということで、一番最初に口を開くのは女神さまだと自覚があるようだ。話が早く進むだろうし、副団長さまと猫背さんと魔術師さん数名は特に問題にしておらず、誰から放出するかと相談している。

 

 「みんな一緒で良いよ。個々で魔力の感じが違うから、一人一人やらなくても平気」

 

 彼女の声に副団長さまたちが『凄い』と声を上げる。主に魔術師の数名の方だけれど、副団長さまと猫背さんも感心はしていた。私は幾人も同時に魔力放出をしても、感知できることはないだろう。そもそも複数名が同時に魔力を放出する機会なんてないから、もしかすると感じることができるのかもしれないが。

 

 「では」

 

 「ん」

 

 「……」

 

 「…………」

 

 「………………」

 

 副団長さまと猫背さんの用意は整ったようだが、魔術師さん数名は凄く緊張した様子である。魔力放出は魔術を使うための基礎中の基礎だから、アルバトロス王国の魔術師団に所属している方が失敗したとなれば笑い者にされそうである。

 きっと大丈夫だし、いつも通りにやれば問題ないと私は彼らに視線を向けた。すると何故か彼らは肩をびくりと跳ねさせたのだが、私が怖いのだろうか……。もしそうであればショックだなあと目を細め、身内に嫌われなければ良いかと短く息を吐く。

 

 「ナイは彼らとは別で放出してみようね。あとソフィーアとセレスティアもかな。魔術使えるんだよね?」

 

 女神さまの声に私は素直に頷き、ソフィーアさまとセレスティアさまは彼女の言葉の意味を咀嚼するのに時間が掛かっていた。

 

 「よろしいのですか?」

 

 「ええ。わたくしたちは女神さまから手解きを受けられるなら光栄ですけれど」

 

 意味を理解できたお二人が女神さまに問い直す。彼女たちに女神さまはほんの少し片眉を上げて笑った。

 

 「構わないよ。さっきナイが他の人も話を聞いても良いかと問うていたでしょ? 私は構わないって言ったし、聞いているだけより実地で試した方がきっと面白い……かな?」

 

 女神さまにソフィーアさまとセレスティアさまはカーテシーをして礼を執り、よろしくお願い致しますと伝えた。恐らく貴族令嬢の最上礼なので敬意を表したのだろう。

 お二人は高位貴族のご令嬢さまだから身を守る術を既に身に着けているが、さらに強くなっても問題はない……あ、マルクスさま、大丈夫かな。セレスティアさまは夫婦漫才で頻繁に彼の背を叩いていたが、そのうち成層圏まで飛んで行くのではなかろうか。まあ、マルクスさまなら死にはしないし、セレスティアさまも加減はするだろうと、お二人が女神さまから魔術を習うことに納得する。

 

 「ジークフリードとジークリンデはあとでね。魔術を使える人と使えない人だと教え方が違うから」

 

 「感謝致します」

 

 「ありがとうございます」

 

 女神さまにジークとリンも礼を執る。女神さまの教えを騎士団と軍の方たちに広めれば肉体強化をもっと強くできるのだろうか。とはいえ知識は女神さまのものだから、勝手に広めることはできない。それにジークとリンが先だなと私は二人の顔を見上げる。

 

 「良かったね、ジーク、リン」

 

 「ああ。ナイを守る術が増えると良いんだが」

 

 「うん。強くなってナイとナイの大切なものを守らなきゃ」

 

 ふっと笑ったジークとリンに私も笑みを返せば、側にいたヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭がちょんちょんと私をつつく。どうしたのかと一先ず私はヴァナルに顔を向けた。

 

 『ヴァナルも強くなりたい。群れのみんな守る。それに次の仔たちも守らないと。女神さまにお願いして良い?』

 

 どうやらヴァナルも強くなりたいようで、自分でお願いに行きたいようだ。私は問題ないので女神さまの答え次第だと告げる。

 

 『ナイさんの側であれば安心ですけれど』

 

 『ナイさんがいないこともありましょう』

 

 『強いことに越したことはありません』

 

 雪さんと夜さんと華さんたちも強くなりたいようだ。今以上に強くなってどうするのかと聞きたいけれど、単独行動することもあるだろうし強い方が良いのだろう。もしかすればクロとヴァナルと雪さんたち以上に強い魔物や魔獣がいるかもしれない。悪いことではないと雪さんたちにも問題ないと伝えると、毛玉ちゃんたち三頭も一鳴きする。女神さまの許可があれば構わないよと伝えれば、彼ら一家は女神さまの下へと歩いていった。

 

 『女神さま』

 

 「ヴァナル、どうしたの?」

 

 ヴァナルたちは女神さまの下へ行き地面に伏せをした。どうやらみんなが礼を執っていた所を確りと彼らは見ていたようで、私たちの真似をしているようだった。女神さまはヴァナルたちを見下ろしてこてんと小さく首を傾げる。

 

 『ヴァナルたちにも強くなる方法を教えて?』

 

 「強くなれるかは分からないかな。それに人に教えるのと魔獣の君たちに教えるのとは勝手が違う気がする……でも、そうだね」

 

 女神さまはヴァナルたちにお屋敷で特別授業となるらしい。それならばと私はお屋敷で過ごしている他の魔獣の皆さまが興味を持ったら、彼らにも教えて欲しいとお願いしてみた。

 女神さま的には問題ないようで、私の屋敷で寝泊りしている恩だと仰ってくれる。割と律儀な所があるのだなと感心していると、女神さまがヴァナルたちを撫でながら『失礼だよ、ナイ』と小さく声を零している。

 どうして西の女神さままで私の心の中を読んでしまうのでしょうかと渋い顔を浮かべれば、なんとなく分かり易いと彼女から返事がきた。解せないと一人で唸っていれば、副団長さまが待ち切れなくなったようだ。

 

 「そろそろ始めませんか? 女神さまから魔術の手解きを受けられると聞いて昨日はほとんど眠れなかったのです!」

 

 「僕もなかなか寝れなかった」

 

 副団長さまと猫背さんが遠足前の子供のようなことを告げると、西の女神さまがふっと笑う。彼らに対して面白おかしい感情を抱いているのか、誰かに物事を教えるのが楽しいのかは分からないけれど。

 

 「じゃあ始めよう。魔術師組とロゼは魔力を放出して」

 

 西の女神さまの言葉に副団長さまを始めとした皆さまが魔力を外へ放出する。魔術を行使していないので、なにか現象が形になるということはない。放たれた魔力は時間が経てば魔素になって大地に還るか空気に溶け込む。

 不思議だよなあと考えていると、私の足元でロゼさんがぷうーと膨らんでいた。ロゼさん、魔力を放出すると身体が大きくなるようだ。副団長さまと猫背さんと魔術師の方数名も気合を入れて魔力放出を行っている。

 やはり副団長さまの魔力量が一番多くて、勢いが良い気がする。そうして魔術師の方数名も多い部類に入るのではなかろうか。猫背さんは魔術師団の方たちより勢いがないのだが、それでも平民と比べると多い方だろう。まあ猫背さんは術式開発の方に力を入れているので、魔力量の多い少ないは気にしていないかもしれない。

 

 「ん。そろそろ良いよ」

 

 女神さまが一声上げると皆さまは魔力放出を止める。

 

 「体の中で魔力が作られる場所があるんだけれど知っている?」

 

 「魔力生成器官があると言われていますが、場所の特定までは至っておりません」

 

 女神さまの声に副団長さまが答えた。人間の身体を解剖しても見つからないらしい。検体は魔力生成器官を探して欲しいと遺書で残した方がいるそうで、魔術師の方たちが解剖を行ったが見つからなかったとのことだ。

 私は魔力を練る時に鳩尾辺りを意識する。他の方は心臓の辺りを意識すると聞いたことがあるし、臍辺りを意識すると聞いたこともあるから個人で器官の位置が凄く違いそうだ。

 

 「特定はできないかもね。目で見える物じゃないから。でも、意識はしている? なんとなく温かい場所があるというか……」

 

 女神さまの言葉は少し曖昧だけれど、仰っている意味は理解できる。私の場合は鳩尾辺りに魔力生成器官があるようだった。副団長さまは心臓の辺りを手で押さえ、猫背さんは両脇腹を手で触れている。もしかして腎臓の位置かなと考えるが、本人に聞いてみないと分からない。

 魔術師の方数名も魔力を練った時に温かくなる場所に手を触れていた。同じ場所を指している方もいれば、全然別の場所を指している方もいた。面白いと眺めているれば、また女神さまが口を開く。

 

 「今度は、自分の温かくなる場所を意識しながら、その中で円を描くように魔力をグルグル回して、身体の先へと魔力を放出してみて」

 

 女神さまの声を聞きながらなるほどなーと考えていた。

 

 『ナイ。真似しない方が良いんじゃない?』

 

 ふいに私の肩に乗っているクロが声を上げる。

 

 「え?」

 

 『無意識かなあ。魔力がちょっと上がってた』

 

 あれと私が短い声を上げると、クロは苦笑いをしながら状況を教えてくれた。どうやら無意識下で魔力を練ってしまったようである。確かに鳩尾の辺りが少しだけ温かくなっていた。

 

 「クロ、教えてくれてありがとう。話を聞いているとどうしても興味が湧いちゃうから……」

 

 『仕方ないなあ、ナイは』

 

 私がクロに謝ると、すりすりと顔を撫で付ける。ヴァナルと雪さんたちは苦笑いをしているし、ソフィーアさまとセレスティアさまはやれやれと肩を竦めていた。ジークとリンも少し落ち着こうと言いたげなので、私が魔力を練っていたことに気付いていたようである。唯一、毛玉ちゃんたち三頭がイマイチ状況を理解していないようで、首をこてんと傾げながら私を見上げていた。恥ずかしい所を見せて申し訳ないと心の中で謝っていると、女神さまが私に顔を向けた。

 

 「ナイ。ちゃんとあとで教えてあげるから。もう少し待ってて」

 

 女神さまから待て(ステイ)と言われた気がするのだが勘違いだろうか。副団長さまたちは女神さまの指示通りに魔力生成器官を意識しながら魔力を練っているようだ。そうして外に放出されるタイミングになる。

 

 「さっきより放出量が上がってる?」

 

 「確かに多くなっているな」

 

 「意識を変えるだけで魔力量が増えるとは、驚きですわ」

 

 私と近くで様子を見ていたソフィーアさまとセレスティアさまが感嘆の声を上げた。確かに一度のアドバイスで目に見える変化があるのは凄いことだ。ロゼさんはさっきよりぷーっと身体を膨らませて、いつもより身体が赤いような……嫌な予感。

 

 「ロゼさん、魔力を練るのを止めて! ストップ!!」

 

 私はロゼさんを止めるべく声を上げた。私が声を荒げるのが珍しいのか副団長さまたちも魔力を練ることを中断している。ロゼさんにも私の声がちゃんと届いているようで、ふっと魔力を練るのを止めた。

 

 『ん? どうしたのマスター?』

 

 ロゼさんがいつものサイズ、いつもの色で身体の一部を凹ませた。私がふうと息を吐くと、女神さまがロゼさんについて教えてくれる。

 

 「ナイの魔力を共有しているから自分の限界が分かっていないのかな? なににせよ、大きくなると危ないみたいだから、みんな気を付けてあげて」

 

 ロゼさんはアストライアー侯爵家の一員なのだから失うわけにはいかない。私はロゼさんの下にしゃがみ込んで『ロゼさんがいなくなると悲しいから、無茶をしないで』と伝える。ロゼさんは『マスターを悲しませたりなんてしない』と言っているけれど、私が危ない目に合えば身体を張って守ってくれそうである。ロゼさんボディーを撫でながら、無茶をしてしまうことをどうにかならないかなと悩み始めるのだった。

 

 ◇

 

 ロゼさんボディーを撫でて私が無茶な魔力放出はナシねと伝えれば、ロゼさんは副団長さまの下へとぴょーんと跳んで行った。西の女神さまとロゼさんと副団長さまと猫背さんと魔術師の方数名のやり取りを見ているのだが、先程女神さまから習ったことを意識して副団長さまが上空へ魔術をブッパするそうである。

 

 訓練場に設置されている障壁が展開され四方を取り囲んだから、外へと被害が広がることはないはずだ。どうやら副団長さまは上空に向かって、攻撃魔術を放つようである。空を飛んでいる鳥が焼き鳥になってしまわないか心配だが、副団長さまはにっこにこの顔で魔術を詠唱し始めた。一節目を唱えると彼の足元に魔術陣が浮かんで光り始め、二節目で魔術陣から発する光量が多くなっていく。三節目で魔力風が吹き始め、副団長さまから離れた場所にいる私たちの髪を揺らした。

 

 「相変わらず、先生は楽しそうな顔で魔術を行使するな」

 

 「お師匠さまですもの、楽しくて仕方ないのでしょう。それに西の女神さまが講師を務めて下さっておりますから」

 

 私の近くに立っているソフィーアさまとセレスティアさまが声を上げた。お二人は彼らのあとで女神さまの魔術を直接習うそうだ。一応、先程の魔力放出で魔力の流れが良くなったらしい。

 女神さまの教え方が上手いのか、聞いている生徒の皆さまの吸収力が良いのか、どちらか分からないけれど効果があったようでなによりである。お二人の会話を盗み聞きしている間に副団長さまが四節目の詠唱を終える。すると彼が突き出していた左腕の先から眩いばかりの魔力光が溢れ、轟という音と共に魔力の奔流が上空へと走っていく。

 

 「凄いな」

 

 「ええ。規格外と呼んで良いのでしょうねえ」

 

 またソフィーアさまとセレスティアさまの声が聞こえると、少し離れた場所で猫背さんが嬉しそうな顔で『ハインツ、凄い凄い!』と手を叩いて褒めて、魔術師の方数名が『流石です、副団長!』と憧れの視線を向けていた。

 どうして副団長さまが信頼を得ているのだろうかと不思議になるが、割と面倒見の良い所があるし、困っていたら声を掛けてくれる方である。時々、暴走しているようだから周りの方は引き留めるのに大変そうだ。当の副団長さまは一発撃ったため、長い息を吐いてスッキリとした顔になっていた。撃ち終わった彼の下へ女神さまがゆっくりと歩いて行く。

 

 「君、凄いね」

 

 女神さまは表情を変えないまま副団長さまを褒めると、副団長さまがゆっくりと礼を執る。

 

 「女神さまにお褒めの言葉を頂けるとは、恐悦至極」

 

 「あ、そんなに畏まらないで。術の発動が早いし、魔力変換効率も高いよね。ちょっとナイに見習って貰いたいかも」

 

 女神さまの言葉に副団長さまが頷いたので、あまり謙った喋り方は止めるようだ。しかし何故副団長さまを褒めていたのに、私のことに言及しているのだろうか。私をチラリと女神さまは視線を寄越すだけでなにも言わない。そもそも女神さまは私が魔術を発動したところを見たことがないはず。あ。もしかして初対面の時に六節詠唱した障壁を張った時のことを言っているのかもと、私は目を細めた。

 

 「アストライアー侯爵さまは人間の域を超えている魔力量ですからねえ」

 

 「ナイの魔力は多いね。昔いた人間と比べても負けないかもしれない」

 

 副団長さまが女神さまの言葉を聞いて目を光らせた。私になにかやらせるつもりだろうかと震えていれば、今度は猫背さんの番になる。副団長さまと同じように四節の攻撃魔術を行使するのだが、威力は副団長さまが放った魔術の四分の一程度だった。

 そうして次に魔術師団の方数名の番となる。猫背さんの魔術より威力は高いけれど、副団長さまの半分程度だろうか。魔術を放った彼らはふうと息を吐いているので、高威力の魔術を放っても涼しい顔のままの副団長さまが凄いようである。

 

 「少しは威力が上がったり、魔術の発動が早くなったかな?」

 

 女神さまの問いに副団長さまたちが確りと頷いている。効果があったならなによりだし、副団長さまたちはちゃっかり女神さまと次回の約束を取り付けていた。場所は何故か女神さまが指定して、ミナーヴァ子爵邸となっている。

 副団長さまはヴァナル一家とエル一家とグリフォンさんたちとポポカさんたちの健康診断もどきを行ってくれているので、その時にでも習うのだろう。他の方々はどうするのかと首を傾げると、副団長さまと一緒に赴くようだった。特に問題はないから、私は魔術師団とアルバトロス上層部に報告しておいてくださいねとお願いするだけである。

 

 ふいにソフィーアさまがセレスティアさまから離れて私に耳打ちをする。彼女が呟いたことは、そろそろ時間が迫ってきているというものだった。帰宅の時間だと西の女神さまと副団長さまたちを見れば楽しそうに魔術談義に話を咲かせている。

 

 中断させるのは申し訳ないけれど、お屋敷に戻ってユーリと顔を合わせたり、アンファンが頑張っているのかこっそり覗いたり、託児所のみんなとサフィールが仲良くしているのか気になる。

 それに当主の夕食の時間が遅くなれば、調理場の皆さまにもご迷惑が掛かってしまうのだ。ソフィーアさまとセレスティアさまも実家のお屋敷に帰らなければならないので、今日はもうこれで終わりかなと女神さまと副団長さまたちを見て、一歩足を踏み出す。

 

 「女神さま、そろそろ時間ですので屋敷に戻りましょう」

 

 私が女神さまを見上げれば、彼女がこちらへと顔を向けた。

 

 「ん、分かった。ロゼも帰ろうか。ヴァナルたちはお屋敷で教えてあげる……凄く不満そうだね?」

 

 女神さまが私に頷いて地面にぽよんと転がっているロゼさんへと視線を向け、ヴァナルたちにも視線を向けて、最後に副団長さまたちを見る。彼らは『えー!』と残念そうにしているのだが、副団長さまはにっこりと笑みを浮かべた。

 

 「それはもちろんです。せっかく女神さまと魔術談義をしていたのに、まさか時間に阻まれるとは」

 

 「女神さま、ミナーヴァ子爵邸で教えてくれるんだよね?」

 

 副団長さまと猫背さんは残念な気持ちはあれど、子爵邸でまた教わることができるので嬉しいらしい。女神さまも嫌がっていないようで、割と積極的に誘ってくれている。ずっと引き籠もっていたし、なにか嫌なことがあれば引き籠もると言い出すことを懸念していたけれど、今の所は大丈夫そうだ。

 

 「暇だったら、だけれどね。興味があるならジークフリードとジークリンデとソフィーアとセレスティアも声を掛けて。彼らだけで今日は終わってしまったから」

 

 女神さまは名前を呼んだ四人にも教える気満々だった。そういえば魔術師の方を優先させていたから、彼ら彼女らは後回しになって時間切れとなった。無茶や無謀なことをしなければ、屋敷が爆発四散することはないだろう。そもそも四人は節度が身に付いているので特に心配はしていない。女神さまに続きを教わることになっている副団長さまたちの方が心配が尽きないなと私は苦笑いを浮かべた。

 

 『じゃあ帰ろう~またね、ハインツ、ヴォルフガング、みんな』

 

 クロが私の肩の上で皆さまにさよならを告げる。クロが声を上げるなんて珍しいけれど、魔術だとクロは関われないから寂しかったのだろうか。

 

 「はい、本日は我々のためにありがとうございました。クロさまも、女神さまも閣下も皆さまも、またお会いしましょう」

 

 「じゃあね。また、今度」

 

 副団長さまと猫背さんが頭を下げると、魔術師の方数名も頭を下げる。私も挨拶をしようと彼らが頭を上げたことを確認してから口を開く。

 

 「副団長さま、皆さま、魔術具の作成ありがとうございました。では、本日はこれで失礼致します」

 

 そうして私たちアストライアー侯爵家一行と西の女神さまは魔術師団の訓練場を後にして、転移陣が敷かれている部屋へ入って子爵邸に転移をするのだった。ひゅっと内臓が浮く感覚に襲われると、子爵邸の地下室に転移をしていた。

 上階に行こうと一歩足を踏み出すと、誰かが地下室の扉を開けて凄い勢いで階段を降りてくる。賊ではないことは確定しているけれど、ジークとリンが私の前に立ち、ソフィーアさまとセレスティアさまは私と私の横にいる女神さまを挟む形を取った。彼らは職務に忠実だなと感心していると、騎士爵家出身の侍女の方と仲良くしている侍女の方が息を切らしながら、私たちの顔を見て頭を下げつつ直ぐに顔を上げて口を開く。

 

 「ご、ご当主さま! 女神さま、皆さま! グリフォンさまが抱えている卵が……あ、あれ? ポポカたちの卵が孵りそうです!」

 

 彼女が困惑して言い直した。ポポカさんが産んだ卵をグリフォンのジャドさんたちの仔であるアシュとアスターが抱卵しているので、訳が分からなくなったようだ。混乱は仕方ないけれど、めでたいことだと私は侍女の方へ報告してくれたことに感謝を告げる。

 私たちが遅く戻っていれば彼女はこの部屋で待ちぼうけをくらっていただろう。丁度良いタイミングで戻ってきて良かったと、サンルームにいこうとみんなの顔を見た。

 

 『そろそろ孵るかなって言っていたもんねえ』

 

 『元気な仔だと嬉しい』

 

 『ポポカたちは数を減らしておりますし』

 

 『無事に数が増えるように祈りましょう』

 

 『まだ孵っていないので気は抜けませんね』

 

 クロとヴァナルと雪さんたちがしみじみと声を上げたのだが、なんだかソワソワしているような。側にいる毛玉ちゃんたちも『大変、大変~!』と言いたげにくるくるとヴァナルと雪さんたちの回りを回っている。ロゼさんは呑気なもので私の足元でぐねぐねと身体を動かしている。女神さまはポポカさんたちの卵さんがどうなっているのか気になるようで、私の服の袖を掴んで軽く引っ張った。

 

 「早く行こう、ナイ」

 

 「ええ、急ぎましょうか」

 

 女神さまの言葉に私は頷き、ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまの方を見た。彼ら彼女たちも急いだ方が良いと判断してくれているようだ。そうして私たちは地下室の階段を勢い良く昇り、早歩きでサンルームを目指す。

 

 どうにもお貴族さま的に走るのは雅ではないらしく、走りたいけれど走れない状況なので致し方ない。一歩のストライドが大きい方たちが羨ましいと嘆きながらサンルームに辿り着く。扉を開けて中に入るとテーブルの上にいるアシュとアスターが卵さんを凝視して、彼ら二頭の側にいるジャドさんも興味深そうに卵さんをガン見していた。

 

 一方で机の上にいるポポカさんたちは呑気なもので『ポエ~』『ポエー』と寝息を立てている。大丈夫かと心配になるけれど卵さんが孵った時に、寝ている彼らを見た卵さんたちに刷り込みが発生するかもしれない。グリフォンさんも側にいるので、そちらにも刷り込みが発生する可能性もあるが、こればかりは運を天に任せるだけ。私たちはテーブルの側に寄ると、窓からエル一家も様子を伺っている。

 

 『ナイさん、ナイさん! ポポカの卵たちが孵ろうとしています!! ああ、私は産み落としていませんが、こんなにも愛おしいのはずっと側で見守っていたからでしょうか』

 

 テーブルの側に寄るとジャドさんが感嘆の声を上げた。ポポカさんが卵を産んでから三週間弱、アシュとアスターは飽きもせず卵をずっと抱えていた。動かない彼らにポポカさんは給餌をしているヘンテコな光景を作っていたけれど。

 イルとイブは卵さんたちを気にしながら、自分たちのペースで遊んでいたので今も地面でぴゅーと駆けてみたり、二頭で絡まり合ってワンプロならぬグリプロを繰り広げていた。ヴァナルと雪さんたちも興味深々で見守りながら、毛玉ちゃんたち三頭はグリプロしている二頭の輪の中に入り込む。

 

 『もう少しですよ、頑張って! お手伝いをしたいですが……自分で殻を破らねば……見守ることしかできないのがこんなに歯痒いなんて』

 

 グリフォンさんはいつにもまして饒舌である。卵さんが無事に孵るのか不安なのだろう。私たちも卵さんを見守っていると、殻の隙間が随分と広くなってきた。

 

 『頑張れ~!』

 

 クロの声に反応してアズとネルも一鳴きする。ヴァナルも鼻を鳴らしながら見守っているし、雪さんたちも三頭それぞれが顔を動かして、なんだか忙しない。ソフィーアさまとセレスティアさまも息を呑んで見守っているし、ジークとリンも卵さんから目を離さない。

 

 私はポポカさんたちの卵さんが無事に孵るようにと願うばかりだった。

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