魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0555:孵ったぁ。

 私たちが駆け付けた時はテーブルの上の卵さんには皹が入り小さな穴ができていた。時間が経って小さな穴が大きくなって、卵さんの中にいるポポカさんの嘴が顔を覗かせている。大人のポポカさんたちより淡い色の嘴は一生懸命に硬い殻を割ろうと必死になっていた。

 ジャドさんは頭を左右に揺らしながらソワソワしている。アシュとアスターも卵さんを固唾を飲んで見守っているのに、ポポカさんたちは『ポエ~』『ポエー』といつも通りの鳴き声を出していた。もしかすると卵さんを応援している声なのかもしれないが、間抜けな身体と顔が卵さんを心配しているように見えないのだ。

 

 「頑張れ」

 

 西の女神さまは立ったまま卵さんを見下ろして言葉を紡いでいる。卵さんに空いた穴から嘴の先が出くると、誰かが『おお』と声を上げた。無事に産まれますようにと願っていると、卵の中の雛が『ピョエ』と短く鳴いたような気がする。

 そうして殻の穴が大きくなって、中の雛が卵さんから出ようと藻掻いている。まだ毛が生え揃えていないので地肌が見えているけれど、まさしくポポカさんたちの仔だと分かる姿をしている。退化した小さい翼に真ん丸ボディーはまさしくポポカさんのシルエットだった。

 

 暫く見ていると、卵さんがころんとテーブルを転がった。アシュとアスターが卵さんが落ちないようにと身体を動かすのだが、テーブルから落下することはなかった。ただ空いた穴が下になって卵さんの中の雛が出易い状況になっている。ずるずると身体を捩らせて雛が卵の中から出てくる。『ピョエ、ピョエ』と短く鳴いて、なにかを求めていた。

 

 『孵りました! ポポカの仔たちが孵りましたよ、ナイさん!』

 

 ジャドさんが目を細めながら私の頭の上に顔を置いてぐりぐりしている。ジャドさんの体高的に丁度良い位置に私の頭があるようである。ジャドさんのぐりぐり攻撃によって私の身体がゆらゆらと左右に揺れるけれど、不思議と気分が悪くなったりはしない。

 

 「孵りましたね。餌を用意しようと思うのですが、数日は与えなくても大丈夫でしたっけ?」

 

 確か孵ったばかりの雛は数日間はご飯を食べなくても良かったような記憶がある。私の質問にジャドさんが肩を落とし、答えられないことにショックを受けている。ジャドさんは子育てをしたことがないのに、どうしてこうポポカさんたちの卵さんをとても気にしてくれるのか。

 まあ、優しいグリフォンさんなのだろうと自分を納得させて、脚がまだ弱くて立てない雛に視線を細めた。弱弱しい雛が大きくなるとポポカさんたちの姿になるのが不思議だが、自然は凄いことを引き起こすので、これもまた自然の偉大さなのだろう。

 

 一つの卵さんから一羽が孵ったことに私は安堵して、二個目、三個目の卵さんの中の雛が孵るのを眺める。

 

 「確か、鳥類は親鳥が乳のような液を与えると聞いたことがあるな。だがポポカに当てはまるのかは分からん」

 

 「種類で随分と世話の仕方が違いますからね。食べたがらない時は無理に給餌をしなくても良いとなにかの本で読んだことがありますわ。それにしてもまた増えましたわね、ナイ」

 

 ソフィーアさまとセレスティアさまが困っているジャドさんと私に助言をくれる。なにかの本に記されていたようで、きっちりと彼女たちは覚えていたようだ。他にもインコの雛の餌やり方法なども教えて貰う。針のついていない注射器、シリンジがあると便利そうだけれどソレに相当する品はアルバトロス王国の商店で扱っているのか。少し探してみようと私は雛たちの餌やら、過ごす場所やらを頭の片隅で考え始めた。

 

 しかしまあ本当に子爵邸で過ごしている幻獣や魔獣に鳥さんたちが増えたものである。どうしてこうなったのか……いや、私がホイホイ彼らの言うまま受け入れているのが悪いのか。

 でもきっぱりと断れば、彼らはショボンと肩を落として情けない顔をしながら私の下を去るだろう。そんな姿を見た日には気になって眠れなくなりそうだ。いろいろと手間は増えてしまうけれど、彼らの悲しい顔は見たくない。でも、気を付けなければならぬことがある。

 

 「悪いことではないのですが、多頭飼育崩壊にならないように気を付けないと」

 

 流石にこれ以上増えると子爵邸は手狭に――今も別館と託児所が併設されている護衛の方々の宿舎で手狭と言われている――なってしまう。来春に侯爵邸に移動するのだが、侯爵邸でも増えたらどうしようかという悩みは尽きないし、また数が増えたら問題だなとも考えている。

 

 「そうならないようにヴァイセンベルク辺境伯家が支援いたしますわ。父からも許可を得ております」

 

 「ハイゼンベルグ公爵家もだ。なにか手伝えることがあれば教えてくれ。可能な限り対処すると祖父から言いつけられている」

 

 お二人のお言葉は有難いけれど迷惑を掛ける訳にはいかない……既にいろいろ迷惑を掛けているので今更か。くつくつと苦笑いを浮かべる二人を見上げると、アシュとアスターが『ピョエー!』『ピョエ~!』と鳴き始めた。

 どうやら産まれた卵さんから全ての仔が孵り、喜びの雄叫びを上げたようである。私はアシュとアスターとジャドさんに良かったねと告げると、彼らは嬉しそうにしていた。当事者であるポポカさんたちは相変わらず間抜けな顔をしながら、アシュとアスターの側で卵さんから孵った雛を不思議そうに見ている。

 

 『ピョエ』

 

 『ピョエ』

 

 『ピョエ』

 

 孵った雛たちは元気に鳴いているのだが、ポポカさんの鳴き方というよりはジャドさんたちグリフォンさんの鳴き方に近い声を上げている。でも最初に雛たちが認識したのはポポカさんたちのようで、ポポとココとララの側に寄って行き大きく口を開けた。

 微動だにせず口だけを開けている姿は細身のポポカさんと言った具合である。彼らが大きくなれば真ん丸鳥さんとなるので、美味しそうと誰かに狙われなければ良いけれど。妙なことを考えていると屋敷側の出入り口からジルヴァラさんがお猫さまを抱えてこちらにくる。産まれてくるタイミングを見計らっていたのか、凄いドンピシャな登場だ。

 

 「お猫さま、ジルヴァラさん。ポポカさんたちの卵が孵りましたよ」

 

 『美味そうだが、今の妾は飯を貰えておるからな』

 

 私はポポカさんの最大の敵はお猫さまかなと一瞬身構える。でも流石お猫さま。一瞬にして野生はどこかに去っていた。ジルヴァラさんの腕の中でドヤ顔を披露して、猫の矜持というものは全くないらしい。

 

 「念のために言っておきますが、食べちゃ駄目ですよ?」

 

 お猫さまならポポカさんたちの雛を食べることはないだろうが、念のために伝えておく。

 

 『無論じゃ。腹が極限に減らぬ限り食べはせん。餌を貰えておるしな。それよりお主、少し前にフソウに赴いていただろう? カツオブシはないのか?』

 

 ジルヴァラさんの腕の中でお猫さまは目を細めた。しかし本当にお猫さまは目敏い。少し前にフソウに赴いた時、子爵邸で足りなくなっているフソウの調味料を買い足しておいたのだ。

 もちろんその中にはお猫さまが言った鰹節も含まれている。料理人の方々がフソウの出汁文化の良さに気付いて、調理場でいろいろと試しているから消費量が上がっていた。

 

 「買っていますが、お猫さまは限度を知らないじゃないですか。大量に食べるのは控えてください。いろいろな品を適度な回数と量を食すのが一番です」

 

 お猫さま、優しそうな方の足元で身体を擦り付けて『鰹節~』『魚~』『鶏肉~』と言い始めることがあるようだ。お猫さまの策に陥落した方はおやつとしてあげてしまっていたようである。

 現在、お猫さまに間食をあげては駄目だと注意喚起しているので、ぽっちゃりとしているお猫さまのお腹がこれ以上弛むことはないはず。流石にずっと間食禁止は辛いので、解禁日があるけれど。

 

 『最近、皆からいろいろ貰えないのはお主の所為か!?』

 

 お猫さまがジルヴァラさんの腕の中で三本の尻尾を器用に立てた。お猫さまが怒っても怖くないと口にすると、更にお猫さまが怒りそうなので黙っておく。

 

 「はい、そうです」

 

 『なんじゃ、酷いではないか!!』

 

 酷くはない。だってきちんとしたお猫さまのご飯はあるのだから。間食が駄目だと主張しているだけなのだが、お猫さまは元野生の猫である。食べられる時に胃に詰め込んでおく癖があるようだ。でも子爵邸で暮らし始めて二年以上経っているし、そろそろ慣れて貰わなければ。お猫さまの健康にも良くない。

 

 「お猫さま、そのダルダルのお腹を見てから文句を言いましょう。もしくは運動してください! 聖女として言わせて頂きますが、お猫さまの間食は間食ではありませんよ?」

 

 お猫さまの一番の問題は運動しないことである。猫は夜行性と言われているので日中は寝ていても問題ないけれど、お猫さまは夜も確実に寝息を立てている。寒い冬には私のベッドに潜り込んで一緒に寝ているのだから、本当に妖怪食っちゃ寝になりそうな勢いだった。

 

 『うぬぅ……しかしここより上手い飯が食べれるところなど妾は知らぬし……』

 

 お猫さまの声がトーンダウンする。どうやら私から運動という台詞がでてきたことで、これ以上の抗議は悪手になると考えたらしい。そうしてお猫さまはジルヴァラさんの腕の中で顔を埋めて丸くなった。立っていた三本の尻尾はだらんと下がり、時々ぴくりと動いているだけ。本当にお猫さまは調子が良いなと苦笑いを浮かべると、ポポカさんが嘴を開けて雛のお世話を始めていた。

 

 「良かった。これで人間が雛の世話をしなくて済む」

 

 『ポポカたちが雛を育ててくれないと困るよねえ』

 

 私の声に肩の上でクロが返事をくれる。ポポカさんたちがお世話をしなければアシュとアスターが困りながらお世話をしていた可能性もあるし、ジャドさんも参加しそうだった。流石にポポカさんをグリフォンさんが育てるのは間違っているような気がするので、ポポカさんが自分たちの仔を世話する姿は微笑ましい。

 

 「もう目を離しても大丈夫かな?」

 

 『ポポカたちが仔にあらぬことをすれば、直ぐに私が止めましょう。そしてナイさんをお呼びしますのでご心配なく』

 

 どうやらジャドさんがポポカさんたちと雛に目を向けてくれるようだ。ポポカさんは初めて卵を産んだだろうし、この先育児放棄をしてもおかしくはない。念のために雛の餌やらを取り揃えているので、無駄になることを願うばかりだ。

 

 「ジャドさん、助かるよ」

 

 『ナイさんにはお世話になっていますし、ポポカもポポカの仔たちも我が仔も可愛いですからね。なにも問題なく大きく育って欲しいですね』

 

 ジャドさんがまた私の頭に顎を置いてぐりぐりを敢行する。少し前から始まったジャドさんの行為だけれど、彼女はこのぐりぐりを甚く気に入っている様子だった。ぐりぐりされながら私はジャドさんの首を撫でる。

 

 「うん。大蛇のガンドさまにも孵ったよって伝えないと」

 

 『はい。彼も喜びましょう』

 

 ジャドさんは頭を離して、今度は私の頬に顔を擦り付ける。今日は夜ご飯を食べたら亜人連合国経由で大蛇さまに連絡をお願いすることと、ヤーバンの女王陛下にグリフォンさんたちの近況報告を送って、フィーネさまとアガレスのウーノさまにも手紙を送ろうと決めるのだった。

 

 ◇

 

 ポポカさんの卵さんたちが孵った翌日。

 

 雛たちは特に問題なさそうなので報告を兼ねてお隣さん、亜人連合国の領事館にお邪魔しようとしている所だ。お隣さんにはジークとリン以外の護衛の方を付けていないので気持ち的に楽だし、ディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんとお喋りするのも案外気楽だ。

 このことを伝えるとソフィーアさまとセレスティアさまは『マジか……』と言いたげな顔をして少し固まっていた。私とクロは『そんなに気を張らなくても良いのにね』と言いたいけれど、口を開くことはなかった。

 

 お昼過ぎに訪れた領事館の庭には、妖精さんが時々光を発している。どうやら草花が好きなようで、花の匂いを嗅いでいたり、葉っぱの上で踊っていたりと忙しない。

 妖精さんがいることに慣れ過ぎて驚くことがなくなったのは、三年前との変化だろうと領事館の玄関に辿り着く。ジークとリンは私の後ろに控え、何故か私の横には西の女神さまがいた。足元には毛玉ちゃんたち三頭が綺麗に並び、彼女たちの後ろにはヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが脚を揃えてお座りをしている。

 

 女神さまは他の貴族のお屋敷がどんなものなのか興味があったようである。一応、領事館は元は男爵家のお屋敷なのだが領事館なので少々趣が違うと伝えているので問題はないはずだ。気になるならハイゼンベルグ公爵家やヴァイセンベルク辺境伯家の方がお貴族さまらしいお屋敷だと私は女神さまに教えておいたけれど。

 

 玄関のドアについている呼び鈴――で良いのかどうかは分からない――を鳴らして、私は大きく息を吸った。

 

 「こんにちは」

 

 待つこと十秒ほどの時間が過ぎると玄関の扉の留め具が解除される音が鳴り、ゆっくりと玄関の扉が開いた。開いた先にはダリア姉さんとアイリス姉さんがいて少し緊張した面持ちだった。お姉さんズの後ろにいるディアンさまとベリルさまも珍しく緊張しているようである。

 彼らが緊張している原因は私の横にいる女神さまだと分かっているので、少し苦笑いを浮かべてしまった。昨日の晩御飯の席で亜人連合国の領事館にポポカさんの卵が孵ったことを知らせに行こうと、ジークとリンに相談していたら女神さまが興味を持った。一応、女神さまも同席すると亜人連合国の皆さまには伝えておいたのだが、緊張は免れないものだったらしい。

 

 「ナイちゃん、いらっしゃい」

 

 「女神さまもようこそおいでくださいました~」

 

 ダリア姉さんは私を歓迎してくれ、アイリス姉さんは女神さまに向けて言葉を紡いだ。アイリス姉さんの敬語は珍しいけれど、独特の間延びしている言葉使いまでは直らないようである。彼女たちの後ろにいるディアンさまとベリルさまもゆっくりと頭を下げていた。

 クロが私の肩から女神さまの肩の上に飛び乗って『そんなに畏まらなくて良いのにねえ』と零し、女神さまもうんうんとクロの言葉に同意している。若干、困っている様子なのでどう助け船を出そうかと考えていれば、私より先に女神さまが口を開く。

 

 「ナイにお願いしてきただけだから、私を特別扱いしなくて良いよ。ナイのオマケだ」

 

 女神さまはそう仰るが歓待しなければならないのだろう。ダリア姉さんとアイリス姉さんが『承知致しました』と声が同時に上がり、お屋敷の中へと案内される。

 先頭をダリア姉さんとアイリス姉さんが歩き、続いて私と女神さまが、ジークとリンが後ろに付いて、毛玉ちゃんたち三頭は忙しなく前を走ったり後ろに戻ったりしてヴァナルと雪さんたちに『落ち着きなさい』と一言受けてしゅんとなっていた。最後尾はディアンさまとベリルさまが歩いており、怒られた毛玉ちゃんたち三頭がピーと鼻を鳴らして彼らの前を並んで歩き始める。

 

 久しぶりに赴いた領事館の中は花瓶やプランターが増えており、少し寂しかった廊下が賑やかになっている。きょろきょろと廊下に植えられている植物はなにかと見ていると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが軽く教えてくれるのだ。

 女神さまも興味があるようで、ダリア姉さんとアイリス姉さんの服の袖を引っ張って興味を向けた植物の名を聞き出している。エルフのお姉さんズは驚きつつも、私の時より少し丁寧に語っていた。でも亜人連合国特有、というかエルフの方々が育てている草花なので薬草系が多い。時折、突飛な効果があるとお二人は声を出して、女神さまは『面白いね』と感心していた。

 

 「マンドラゴラもどきなんて植物、私がいた時はなかったけれど……面白い進化をしたんだね」

 

 女神さまは廊下にない植物があると聞いて、更に関心を深めているようだ。本当に『びょえぇぇえええええ』と叫び声を上げるマンドラゴラもどきは何故あのような進化を遂げたのだろう。叫べば場所を特定され、食べられる運命の下にある。それって植物や生物の根幹である『子孫を残す』という使命に逆らっている気がするのだ。もしかして種に絶滅願望でもあったのかと私は首を傾げた。

 

 「エルフの子供たちがよく追いかけて遊んでおります」

 

 「捕まえると少し運が上がると言われておりますから~なかなか生えないけれど、ナイちゃん()で生えていますよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんは女神さまと少し話すことができて緊張を少し解いている。女神さまに向ける崇高感を下げるには日常会話が有効的のようだ。でも、ダリア姉さんとアイリス姉さんは肝っ玉の大きい方だから、他の方には当て嵌めない方が良いかもしれない。

 

 「ナイちゃん、妙なことを考えていないかしら?」

 

 「なんだか空気の流れが変だったよ~」

 

 お二人が妙な顔をして私を見ている。私は全然これっぽっちもと大きく首を左右に振った。どうして頭の中で考えていることが漏れているのだろう。露見しても問題ない方たちにバレているから良いけれど、なるべく解決したい問題である。

 ダリア姉さんとアイリス姉さんに揶揄われながら応接室に辿り着いた。部屋はハーブの匂いに満たされて程よい香りに満たされている。良い匂いだなと目を細めていると女神さまも同じことを考えているようだった。そうして女神さまの肩の上に乗っていたままのクロが私の肩へ飛び移る。ちょっと残念そうな顔を浮かべる女神さまに私たち一行は苦笑いを浮かべた。クロに関することになると女神さまは少し幼く見える。

 

 ご意見番さまが偉大だったのだろうなと、案内された席へと腰を下ろす。さて、今日領事館にきた理由は私からお願いしたことなので、口火を切るべきは私だと目の前に座るダリア姉さんとアイリス姉さんに後ろに控えているディアンさまとベリルさまに顔を向けた。

 亜人連合国の代表さまが席を立っているのはこれ如何にと思わなくもないけれど、三人掛けの椅子だから女性を優先させたのだろう。

 

 「本日、お邪魔させて頂いたのはポポカさんが産んだ卵が孵ったことの報告を、ガンドさまにお伝えして欲しいとお願いに上がりました」

 

 「あら。ポポカたちが卵を産んだ報告は聞いていたけれど、無事に孵ったのね」

 

 「数が増えるのは良いことだよね~」

 

 私の声にダリア姉さんとアイリス姉さんが目を開く。ディアンさまとベリルさまも表情は変わらないけれど小さく息を吐いていた。

 

 「抱卵していたのはポポカさんたちではなく、グリフォンの仔たちのアシュとアスターでしたけれど……」

 

 卵さんを産んだポポカさんたちはアシュとアスターの横でじっとしていただけのような気もする。時折、餌を獲ってきて動けないアシュとアスターに給餌をしていたけれど。そしてグリフォンさんたちの親であるジャドさんはその姿を見て『可愛いです』とどこかの誰かさんのように蕩けていた。

 

 「あー……ポポカたちはグリフォンの仔に任せていれば大丈夫と判断したのでしょうね」

 

 「強い者に巻かれている訳だねえ。賢いじゃない~」

 

 ふふふと笑っているダリア姉さんとアイリス姉さんにディアンさまが少し私と話をさせて欲しいと願い出る。お姉さんズは了解と告げて、話の場を彼に譲った。

 

 「めでたいことだ。竜も増えて、南の島の者たちも順調に数が増えている。君のお陰だな」

 

 「ええ、本当に」

 

 ディアンさまとベリルさまが笑みを浮かべた。竜の数は三年前と比べて随分と増えた気がする。ヴァイセンベルク辺境伯領にあるご意見番さまの大木の下には番の竜の方が三組ほどいて、卵を産み、孵って子育てが済めば、別の番の竜の方が入れ替わるようにしているそうだ。

 単体で卵を産める方もいるので、数は更に増えるかもしれない。今度は亜人連合国ではなく西大陸自体が狭くなりそうである。まあそうなれば大陸を飛び越えて各国のお偉いさんに竜のお方の移住をお願いするわけだけれど。

 フソウ国では既に中型の竜さんが何頭か移り住んでいる。西大陸より寒い場所だが竜のお方は気候の変化に強いから特に問題はないとのこと。確かにめでたいと私が頷くと、少しばかり微妙な顔をしているダリア姉さんとアイリス姉さんが口を開く。

 

 「竜ばかり増えて狡いと言いたいけれど、ナイちゃんのお陰でドワーフの職人連中も毎日楽しそうだものねえ」

 

 「依頼が多く入ってくるから有難い限りだよ~」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが楽しそうに笑う。どうやら各国からドワーフ職人さんの下へ鍛冶依頼が多く舞い込んでいるようである。鉄製の品でお金の出し惜しみをしない方で、エルフさんたちの面接を通れば受注しているらしい。割と多くの方が頼んでいるのか、亜人連合国の収入に大きく貢献しているようだ。エルフの皆さまが織った反物も輸出しているようだし、亜人連合国が潤うのであればなによりである。

 ただ国家と取引となれば軍事レベルが急激に隣国と差がついて、欲を出す国がでそうだ。その辺りはディアンさまとベリルさまがきっちり取り仕切っているだろうと考えていると、女神さまがこてんと首を傾げる。

 

 「竜がまだいるの?」

 

 「はい。亜人連合国にいた者たちが彼女のお陰で活気付いて数を増やしております。アズとネルもその証拠でしょう」

 

 「ヴァイセンベルク辺境伯領の大木の下にも子育てをしている竜がおります」

 

 女神さまの質問にディアンさまとベリルさまが答えた。強い竜の方々は数を減らしていくばかりだったので嬉しい限りである。穏やかで友好的だし、悪いことをすれば駄目だと諭してくれる。環境破壊を懸念しなければならないほど増えるのは困るが、そうでないなら数が増えるのはめでたいことだ。

 

 「見に行きたい……駄目かな?」

 

 西の女神さまがディアンさまとベリルさまに視線を向けた。どうやら話を通すべきは彼らと分かっているようだ。

 

 「もちろん、構いませんよ」

 

 「あまり豪華な歓迎はできませんが、我々一同、心を込めて女神さまをお迎えいたします」

 

 お二方は女神さまの提案をするりと受け入れる。

 

 「気を張らなくて良いよ。ナイを迎えるくらいで十分だ。あと彼が住んでいたねぐらはまだある?」

 

 女神さまは比較対象を私としているようだった。なんだか私を基準にしても参考にならない気がするけれど、女神さま的に派手なお迎えは必要ないと言いたいようである。

 

 「はい。小さな竜たちが遊び場にしております」

 

 「そう。お邪魔させて貰って良い?」

 

 女神さまの声にクロが微妙な顔をしていた。クロはご意見番さまの生まれ変わりで記憶を保持しているタイプなので、ご意見番さまの生まれ変わりであってご意見番さまではない。微妙な顔をしているのは女神さまの興味がクロからご意見番さまに移ったからだろうか。そんなに気にしなくても良いと思うのだが、こればかりは個々に感じる差なのだろうと私は苦笑いになる。

 

 「是非。案内致しましょう」

 

 ディアンさまの言葉に西の女神さまは嬉しそうな表情になっていた。ねぐらはご意見番さまが生きていた証だろうし、あの場所から見渡せる景色は私も好きだ。三年前が懐かしいという気持ちが湧き目を細めると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが私を見た。

 

 「ナイちゃんもきなさいな」

 

 「そうだよ~最近ナイちゃんの足が遠ざかっているから寂しいよ~?」

 

 ダリア姉さんとアイリス姉さんが私も誘ってくれる。私を誘うと大人数になりそうだが大丈夫だろうか。細かい打ち合わせはあとからだろうと、私は返事をしなければと口を開く。

 

 「女神さまの邪魔にならないのであれば」

 

 「? ナイも一緒でしょ?」

 

 こてんと顔を傾げる女神さまの言葉は、私もセットで赴くようになっている事実に何故ぇ……と言いたくなるのだった。

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