魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0558:ご意見番さまのねぐら。

 ディアンさまの背中に乗って空を飛んでいる。三年前に同じ所を通ったのだが、随分と懐かしい気がする。女神さまも興味深そうに下の景色を眺めているのだけれど、落ちそうで危なっかしい。

 彼女曰く落ちても死なないらしいのだが、人の形をしているので落ちるとぺちゃんこになっている姿をどうしても想像してしまうのだ。死なないことを証明するため飛び降りても良いよと彼女は言っていたけれど、怖いので止めて下さいと私がお願いした所である。

 

 「三年前と変わらないね」

 

 私の視界に流れる景色は三年前と変わらない。変わったことと言えば、一緒に過ごす方が増えたこと、背負っている物が増えたことだろうか。忙しいけれど充実しているので問題ないし、お腹一杯食べることができて温かい寝床があるのだから十分だ。

 少し贅沢を言って良いのであれば、もう少し日本食をきっちりと再現したい。チキン南蛮とか牛丼とかかつ丼とかジャンクな品を食べたいし、ファストフードのハンバーガーも再現してみたいと考えている。

 

 『そうみたいだねえ。ボクの記憶にある景色と同じだ』

 

 クロが私の肩の上で呟いて、女神さまの下へと飛んで行った。おそらく落ちてしまわないように注意してくれるのだろう。ふと近くに気配を感じたのでそちらに視線を向けると、ダリア姉さんとアイリス姉さんがいた。

 

 「ドワーフの村とエルフの街は変わっているけれど、竜は自然の中で生きるから環境は変わらないというか、彼らにとって変わらない方が良いのでしょうね」

 

 「過酷な環境を好む仔もいるし、いろいろだよねえ~」

 

 苦笑いを浮かべるダリア姉さんと、アイリス姉さんがいつもの緩い表情で緩いことを呟く。他の皆さまはお二人の言葉になるほどなと頷いていた。竜の皆さまは魔素が多い場所と自然が豊かな場所を好むそうだ。アイリス姉さんが仰った通り、凄い環境を好む竜のお方もいるようだけれど。

 

 『少し手狭になってしまったことだけが悔やまれるか』

 

 『南の島やフソウに移住できたので、まだマシでしょう』

 

 ディアンさまとベリルさまの声が届いた。私たちの会話が良く聞こえているなあと感心していると、数が増えたのは嬉しいけれど土地が狭いことがお二人の最近の悩みらしい。ご意見番さまのテリトリーだったので離れる決心を付けてくれる竜の方たちの数は少なく、人気の移住先は辺境伯領の大木なのだとか。ディアンさまとベリルさまは竜の未来についていろいろと悩んでいるようだった。

 

 「辺境伯領の方たちは元気ですか?」

 

 人気の移住先を聞き、ふと気になって私は声を上げる。セレスティアさまから状況を聞いているものの、最近は忙しくて余り気を掛ける余裕はなかった。

 

 『彼女に聞いた方が早いな』

 

 『ええ。頻繁に様子を見にきてくださいますから。有難いものです』

 

 ディアンさまとベリルさまに不意を突かれた形で声を掛けられたセレスティアさまはぎょっと驚いたものの、直ぐに鉄扇をばっと広げて口元に当てる。どうやら説明ならば任せておけと言いたいようだ。ならば彼女の話を聞こうと、セレスティアさまを見る。

 

 「以前は中型の竜のお方が卵を産み仔竜の世話をしておりましたが、ここ最近、小型の竜の方が多くいらっしゃっておりますわ。それはもう愛らしいのですが……休日にしか様子を伺えないのが最近の悩みです」

 

 セレスティアさまは辺境伯さまにお願いして、休みの日に辺境伯領の大木の下へと足繁く出掛けているようだ。一応、軽くは聞いていたものの休みの度に赴いているのは初耳だった。

 

 私に告げれば魔術師の方に払う転移費用とか気にし始めるので、詳しく伝えるのは止めていたと。確かにセレスティアさまから話を聞けば、私は真っ先に魔術師の方に払う転移代を気にするだろう。

 割と高い金額なのでおいそれとは使えない。庶民感覚が残り過ぎている私なので、辺境伯家やセレスティアさまにとっては少額なのかもしれないが。私が渋い顔をしていると、セレスティアさまがやはりという顔を浮かべる。

 

 「……大樹の妖精さんは?」

 

 私はとある方が気になって彼女に様子を聞いてみる。少し迷ったけれど、聞いておいた方が良い気がしたのだ。

 

 「お元気ですわ。ただ毎回、ナイに会いたいと仰られていますので会いに行ってあげてくださいまし。わたくしもナイが赴けば一緒に向かうことができるので嬉しいですわ!」

 

 セレスティアさまが大樹の妖精さんがなにをしているのか教えてくれた。竜の方たちと触れ合いながら、私がこないかなとぼやいているらしい。竜の方たちも私に会いたいらしいが、王都の空を頻繁に飛べば騒ぎになるし、卵さん爆撃をディアンさまから止められていたので我慢していたとか。

 足が遠ざかっていたので、申し訳ないことをしてしまったなと反省する。そして反省するだけなら簡単なので、辺境伯領の大木の下へ出掛ける提案をソフィーアさまとセレスティアさまに伝えておく。ソフィーアさまは片眉を上げながら『分かった』と仰ってくれ、セレスティアさまはドリル髪をぶわりと広げて良い顔になる。予定がいつになるのか分からないけれど、近いうちに赴けると良いのだが。

 

 『危ないよ。落ちるよー!』

 

 もうすぐご意見番さまのねぐらに着く頃に、クロの声が辺りに響く。珍しくクロは大きな声を出していたので、何事かとクロと女神さまの方を向く。下を覗いている女神さまが更に下を覗こうとして、ディアンさまの背中から落ちそうになっていた。

 クロは一生懸命に女神さまのお召し物を食んで落ちないようにと、飛びながら引っ張っているのだが効果が薄い。落ちても死なないとはいえ、落下すれば痛いだろうと私は彼女の下へと歩いて行く。

 

 「女神さま、そろそろご意見番さまのねぐらに着きますよ」

 

 「……う、ん」

 

 私が女神さまに声を掛けても反応が薄かった。クロはまだ一生懸命に女神さまの服を食んで引っ張っており、私はこりゃ駄目だと小さく息を吐いて女神さまの腕に触れる。

 

 「あれ、ナイ。どうしたの?」

 

 女神さまは私が腕に触れて、ようやく周りに人がいることに気付いたようだ。ダリア姉さんとアイリス姉さんは苦笑しているし、他の方は見てはならないものを見てしまったというような雰囲気を醸し出している。

 

 『ボクの声、聞こえていなかったの? 酷いよー』

 

 クロが女神さまの服から口を話して私の肩の上に乗る。何気に女神さまに気付いて貰えなかったことがクロはショックを受けていた。

 

 「そろそろご意見番さまのねぐらに着きます。あと代表さまの背中から落ちそうなので、見ているとヒヤヒヤします」

 

 「ごめん」

 

 私の声で女神さまは立ち上がり、端から真ん中の方へと移動した。これで女神さまが落ちる心配がなくなると安堵していると、高度が下がり始める。なにもない岩肌が露出した山の斜面に辿り着けば、小型の竜のお方がわらわらと寄ってきて『早く降りてきて』と私たちを急かしていた。

 女神さまはディアンさまの身体の出っ張りを利用して、ひょいひょいと軽い足取りで地面に降りた。続いてダリア姉さんとアイリス姉さんもひらひらと地面に降りる。そうしてソフィーアさまとセレスティアさまも『先に降りるぞ』『先に行きますわね』と言い残して地面に降りていた。

 

 「運動神経も良いのか……」

 

 私は女神さまが難なく高い位置から降りれた事実を知って衝撃を受けていた。女神さまと言えど完璧ではないはずなのに、運動神経が良いとは羨ましい限りである。私はディアンさまの背中から一人で降りることはできない。

 ジークとリンの手を借りながらようやく降りることができるのである。エル一家の誰かがいたならば、背中に乗せて貰って降りることができるけれど、それでも危なっかしいと言われてリンが後ろに控えるのだから。

 

 「女神さまだからな」

 

 「欠点、ない?」

 

 ジークとリンが私の声に反応して答えてくれる。リンの疑問に私は答えるべきか迷ったが、女神さまは真面目故に悩んでしまうこともあるようだ。だからこそ引き籠もりを敢行していたのだろう。

 部屋から出てきてくれたので、ノーカウントと言われてしまいそうだが。

 

 「行こう。他の方たちを待たせるのは不味い」

 

 ジークが腕を伸ばして私の前に差し出す。私も彼の言葉に納得できるので素直に手を重ねた。ふいに触れたジークの右手指にある剣ダコに触れる。ジークと同じ位置にリンの手にも剣ダコがあるのを私は知っていた。

 以前、私がそっくり兄妹に痛くないのかと聞いたことがあるのだが、痛みを気にしている暇はなかったし、気付いた時には慣れていたと答えてくれた。私が微妙な顔で彼らの言葉を聞いていたら『気にし過ぎ』とも言われてしまった。

 そっくり兄妹は私も無茶をしているからお互いさまだろうとのこと。私の魔力が底を突いて倒れそうになっていると、かなり二人に心配をさせていたから、何度も口にするのは野暮だろうと彼の手にある剣ダコに気付かないフリをする。

 

 「兄さん、次、私」

 

 リンが口をへの字にしてジークを見ていた。

 

 「分かった」

 

 ジークはジークで片眉を上げて仕方ないと小さく息を吐いている。そうしてディアンさまの身体の出っ張りを伝って地面に降りた。硬い土を踏みしめて三年前と変わらない光景に目を細めれば、ディアンさまとベリルさまが空へと飛び立つ。

 おそらく人化するために一旦この場所から離れたようだ。その証拠にジークがダリア姉さんとアイリス姉さんに呼び止められて、ディアンさまとベリルさまの服を彼が受け取っている。ジークは私に断りを入れてディアンさまとベリルさまが飛んで行った方向へ走って行った。男性が少ないからジークが選ばれるのは仕方ない。

 

 女神さまは目を細めて、ご意見番さまのねぐらから見える亜人連合国の森をじっと眺めている。彼女は懐かしい記憶に思いを馳せているのだろうか。それならば、と私はクロと視線を合わせる。

 

 「ねえ、クロはこの景色を見て懐かしいってなる?」

 

 『景色は知っているけれど、懐かしいって気持ちはあまりないかも。でも良い場所だねえ』

 

 クロはご意見番さまの記憶を持っているだけで、ご意見番さまの気持ちを持っている訳ではないから懐かしさという部分は薄いようだ。私は三年前にお邪魔したので少し懐かしい気分になっている。

 ご意見番さまのねぐらは以前はもっと殺風景だったきもするが、所々にご意見番さまがお気に入りだった白い花が咲いていたり、大きな石ころが転がっている。他にも大きな木の幹が転がっていて、三年前にはなかった代物だ。

 

 「そうだね。でも本当に今までディアンさまとベリルさまは掃除していたみたいだね」

 

 『みたいだねえ。端っこに木が転がっているから、若い仔たちが爪研ぎにでも使っていたのかも』

 

 私とクロはお二人がこの場所を掃除している姿を想像して少し笑ってしまった。おそらく散らかした本人、ならぬ本竜さんたちもお掃除をしていただろうけれど、即戦力はお二人のはず。おかしくてクロと一緒に笑っていると、小型の竜の方たちが顔を出しこちらに走ってきた。

 

 『聖女さま! 聖女さま! 女神さまがいる!!』

 

 「うん。西の女神さまだから、みんな失礼のないようにね?」

 

 わらわらと集まった小型の竜の方たちに囲まれていると、中型の竜の方に大型竜の方も姿を現した。赤竜さんと青竜さんと緑竜さんはどこにいるのだろうか。

 

 『シツレイ?』

 

 『噛んだり、蹴ったりしちゃ駄目だよって。あと沢山女神さまとお話してあげて~』

 

 私の代わりにクロが答えると、小型の竜の方たちが一斉に女神さまの下へと走り出す。

 

 『わかったー!』

 

 最後に残った竜の方が返事をくれたあと走り去って行った。そうして赤竜さんと青竜さんと緑竜さんも姿を現して、女神さまとご意見番さまの話をしようとなるのだった。

 

 ◇

 

 やはり、ご意見番さまは亜人連合国の皆さまの中で特別な存在である。昔の話を嬉しそうに語るディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんに突然現れたお婆さまも話に加わって、彼の偉大さを知ることができた。

 普通の竜であれば自分の縄張りを明け渡すようなことはしないのに、ご意見番さまは困っている亜人の方や竜の方を受け入れて面倒を見ていたとのこと。彼が保護したみんなに授けた知恵は、女神さまから頂いたものであることが分かった。

 

 ご意見番さまに知恵を授けた女神さまはドヤ顔を披露して、いつもの表情より感情が灯っていた。

 

 クロは過去語りの間、私の肩からピューっと飛び去って小型の竜の方と一緒に遊んでいた。どうやらご意見番さまの記憶のみだけれど、自分の過去を他の方から聞くのは恥ずかしかったようである。

 みんなで適当に座ってご意見番さまの話をしていたのだが、数時間経っても話が尽きることはない。小型の竜の方たちは遊び飽きたのかそれぞれの方の後ろに付いて丸くなって寝息を立てている。凭れて良いよと言ってくれたので私は小型の竜の方の背に凭れているけれど、そろそろお尻が悲鳴を上げそうだ。体勢を少し変えようと身動ぎすれば、女神さまが私に気付いて小さく笑った。

 

 「彼が幸せに生きていたなら良かった。寂しかったこの場所もみんなで楽しそうだしね」

 

 女神さま曰く、ご意見番さまと時間を忘れて喋っていた頃のこの辺りは、ご意見番さましかいない場所だったそうだ。彼と過ごす時間は楽しかったから女神さま的には問題なかったけれど、ご意見番さまが一頭だけで過ごすには寂しいから、亜人連合国の方たちがいて良かったと良い顔で笑う。

 確かに一頭で過ごすのは寂しいし、喋り相手も欲しいだろう。女神さまの言葉を聞いた亜人連合国の皆さまは誇らしそうに笑った。そうしてまた女神さまが口を開く。

 

 「でも……彼の最期を奪った人はやっぱり許せない。ナイ、無理のない範囲でアガレスに連れて行って」

 

 女神さまから圧が漏れ出している。初対面の時よりマシだけれど、寝ていた小型の竜の方が飛び起きてガタガタ震え始めた。震えている仔に気付いた女神さまははっとして、脅すつもりはなかったと謝っている。震えていた小型の竜の方は『驚いた~』『凄いー』『流石女神さまだねえ』と直ぐに気を取り直していたので、私は安堵の息を吐く。小型の竜の方たちが『女神さま怖い』なんて言い出せば、女神さまはしょぼくれてまた引き籠もりそうだ。

 一応、銀髪くんのことは軽く触れておいたのだが、改めてご意見番さまの話を聞いた女神さまは更なる怒りを覚えたようだ。しかし女神さまが懲罰として放り込まれる鉱山に赴いても良いものか疑問である。

 

 「一応、亜人連合国からの罰は受けてアガレス帝国の鉱山で無料奉仕しているのですが……鉱山に赴くのですか?」

 

 おそらく男性ばかりの環境だろうし、行ったら行ったで騒ぎになるのは確定している。アガレス帝国のウーノさまにお願いすれば二つ返事で私たち一行を迎え入れてくれるだろうけれど、そういえば東大陸の信仰ってどうなっているのやら。

 黒髪黒目を信仰しているのは知っているのだが、女神さまの扱いってどうなっているのか。まさか女神さまより黒髪黒目が上ということはあるまいてと、西の女神さまと視線を合わせた。

 

 「どんな人か見てみたいし、いろいろ問い質したいことがある。大丈夫。命を奪っちゃ駄目なら、いろいろとできることがあるから、ナイとみんなは心配しないで」

 

 フンス、と鼻息荒い女神さまが東大陸の方へと顔を向けた。これは早急にウーノさまと連絡を取って段取りをつけるべきだろう。我慢できなくなった西の女神さまが東大陸に乗り込むと言い出せば、大騒ぎになるし止める術がない。

 

 「分かりました。アガレス帝国の皇帝陛下に話を通してみます」

 

 「ナイ、ありがとう。でも凄いね。東大陸とも縁があるなんて」

 

 西の女神さまは私を見下ろしているのだが、子供のような無垢な視線で感動しないでください。女神さまの中にあるイメージでは大陸間の移動は難しいと考えているそうだ。でも竜のお方がいるのだから、空を飛んで大陸間移動をしてもおかしくないのでは。

 でもディアンさまとベリルさまの話では私がアガレスに拉致された時より前は、他の大陸へ渡ることはなかったと教えてくれている。なにか切っ掛けのようなものがなければ、大陸間移動は難しいのかもしれない。

 

 「巻き込まれてしまっただけで……」

 

 私は苦し紛れの言い訳を告げるのだが、本当に不可抗力というか、何故かトラブルに巻き込まれるのが常なのだ。そうして巻き込まれて問題を解決できるようにと奔走――時々暴走しているけれど――して、何故か成り上がっていくのだから。アルバトロス王国の聖女でしかなかった頃の私が懐かしいと、涙がちょちょ切れそうになる。

 

 「確かにナイにはいつもなにか問題が降り掛かっているね。フソウに赴いた時もクロが酔っちゃって大騒ぎになっていたし。その後も大変そうだった」

 

 女神さまが目を細めて少し前に起きたフソウでのことを思い出している。フソウで権太くんの悪戯でクロが酔っぱらったことは、亜人連合国の皆さまに知らせてあるので話を聞かれても問題ない。

 確かにクロが酔って、雪さんと夜さんと華さんが権太くんを捕まえて、それから九尾の狐の祠が壊されていたことが発覚した。フソウの忍びの方の高い諜報力のお陰で大事には至らなかったけれど、時間が経てば大事になっていたかもしれない。権太くんが壊れた祠に取り込まれてしまい、なにか嫌な事態に発展した可能性もある。それを踏まえれば権太くんが笑って過ごせているのは、本当に奇跡なのだろう。

 

 「まあ、狐の仔が可愛かったから良いか」

 

 女神さまが私が黙ってしまったことになにかを感じ取ったのか話を自ら終わらせている。私の少し後ろで激しく同意をしている方がおり、隣にいる方は若干引いていた。

 そろそろ陽が沈む時間となっているし、ご意見番さまのねぐらには灯りは灯らないので早く戻らなければ暗くなってしまう。ふいに、お婆さまが私の顔の横に現れて肩の上に乗った。

 

 『お腹が空いたわ! みんなエルフの街に戻らないの?』

 

 「お婆さま、お婆さまはお腹が減るんでしたっけ。魔素がご飯だったような?」

 

 お婆さまの仰る通りであるが、ふと気になることがある。お婆さまのご飯は魔素が基本だったはず。私が魔力を漏らしているとお婆さまが吸い取って『お腹が一杯ね』と言って、お腹を擦っている姿を見たことがあるのだが。

 

 『妖精でも減る時は減るわよ。ささ、早く戻りましょう!』

 

 私の言葉にお婆さまが肩から頭の上に移動して、私のアホ毛を掴んでエルフの街がある方角を指す。私は乗り物ではないから移動できないですよとぼやこうとすると、女神さまがお婆さまを目を細めて見ている。

 どうしたのだろうと私が首を捻ると、お婆さまが頭の上で固まっていた。そういえばお婆さまは女神さまの姿を見ると驚くことが多い。お婆さまは誰にでも泰然とした姿で接するのに、女神さまだけは一歩引いて接しているというか、なんというか。ディアンさまとベリルさまにダリア姉さんとアイリス姉さん、そして集まっている竜の方たちもお婆さまに視線を向けている。

 

 「あれ、お婆ってみんなに呼ばれているから気付かなかったけれど、あの泣き虫な妖精の仔? 随分立派になっていたから、気付くのが遅くなった。ごめん」

 

 女神さまが笑みを浮かべてお婆さまに声を掛ける。お婆さまは昔、昔の大昔は泣き虫な妖精だったようである。確かにご意見番さまの次に亜人連合国の皆さまに頼られているお婆さまの過去が、泣き虫な妖精だったでは格好が付かない。女神さまの言葉にお婆さまは私のアホ毛をぎゅっと握り込んで、なにかに耐えている。あ、私のアホ毛が抜けそう……。

 

 『…………どうして女神さまは今の状況で思い出してしまうのかしら。うっ……!』

 

 お婆さまがアホ毛を離して私の背中に隠れる。女神さまの背は高いから、後ろに隠れても丸見えではなかろうか。お婆さまは隠れたつもりになっているから良いかと、私は女神さまへ顔を向ける。

 

 「だって仕方ないよ。昔と違って、君は力を付けて妖精の格が上がっているからね」

 

 『せめて誰もいない場所で言って欲しかったです』

 

 「ごめん。でも君に会えて嬉しいよ。ご意見番は地に還ったけれど、君は生きていたから」

 

 避けられると悲しいと女神さまはきっぱりと口にすれば、お婆さまがおずおずと私の背中から肩の上に移動する。微かに笑っている西の女神さまの顔をお婆さまは見上げて『仕方ないわねえ』と小さく呟いた。

 なるほど、お婆さまが女神さまと距離を取っていたのは、ディアンさまとベリルさまにダリア姉さんとアイリス姉さんが知らないお婆さまの姿を覚えている可能性があったから避けていたようである。

 確かに、親が幼い頃の自分の話を友達の前で語るのは凄く恥ずかしいと誰かが言っていた。私にその感覚はイマイチ分からないけれど、似ているものなのだろう。だって亜人連合国の皆さまはお婆さまに視線を向けて『意外』という顔をしているのだから。今のお婆さまを知っている身とすれば、泣き虫だったお婆さまを想像し辛い。

 

 「お腹、空いたんだよね?」

 

 女神さまは私の肩の上にいるお婆さまと視線を合わせるために腰を折った。

 

 『え、ええ』

 

 「戻ろうか。暗くなってしまうしね」

 

 折った腰を元に戻して女神さまは綺麗に笑って、みんなを見渡した。

 

 「偶には私が送っても良い? また竜の姿になるのも大変だ」

 

 どうやら女神さまは送って貰いっぱなしな状況がよろしくないと判断したようである。女神さまの神力を使って移動することになったみんなは驚いていた。私は南の女神さまに岩礁から神さまの島へと送り届けて貰ったのだから今更ではという気持ちが湧いてくる。

 やはり女神さまを崇める姿勢がみんなと私は違うなと感じていると、近くに集まって欲しいと彼女が声を上げる。そうしてディアンさまとベリルさまを含む大勢を女神さまは、ご意見番さまの寝床からエルフの街へと移動させた。

 ディアンさまとベリルさまは超大型竜である。人の形を成し力を抑えている状態だけれど、彼らは竜なのだ。そんな彼らを転移させるにはかなり膨大な魔力量が必要となる。そんなお二人とエルフのお姉さんズも含んで転移をして尚、女神さまは涼しい顔をしていた。凄いなあ、女神さまと感心していれば、ロゼさんが私の影からシュバっと出てきた。

 

 『ロゼもできる! できるの!!』

 

 ロゼさんはどうやら女神さまに対抗心を燃やしているらしい。ぷーといつもより二倍くらいに膨れて『できる』と主張している。私はディアンさまとベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんに、今度時間があればロゼさんの転移に付き合って欲しいとお願いをするのだった。

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