魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
プンプン怒っているロゼさんを嗜めていると、皆さまが『大変だな』みたいな顔をしていた。ダリア姉さんとアイリス姉さんの案内でエルフの街にある一番大きいお屋敷に案内された。エルフの街の建物はツリーハウスが基本のはずなのに、地面にお屋敷が鎮座している。私は記憶を掘り返して、目の前の建屋があったかなと考える。
「以前、訪れた時はなかったような?」
私がダリア姉さんとアイリス姉さんを見上げると、お二人はにこりと笑う。
「お客人を迎えるために、新しく建てたのよ」
「頑張ったよ~でもまあ、私たちが認めた者だけだね~」
どうやら足が遠のいていたこの一年の間にエルフの皆さま総出で新たな屋敷を建てたようだ。お客人を迎えるために新築したそうで、妖精さんと竜の皆さまも手伝ってくれたらしい。ドワーフさんも家具や建具を造ってくれて、外はシンプルだけれど中は豪華仕様となっているそうである。
お二人以外の亜人連合国の皆さまが、うんうん頷いているのでどうやら本当に亜人連合国の皆さまが認めた方しか屋敷に入れないようである。今の亜人連合国の代表はディアンさまだけれど、次の方はエルフの誰かが担うようになるのだろうか。ディアンさまからどなたに交代されるのか分からないけれど、話を通しやすい方なら良いなと願うばかりだ。
他国のことに口を出してはいけないと私は玄関先に視線を向けていれば、ダリア姉さんとアイリス姉さんが行きましょうと声を掛けてくれた。
「気に入らない連中はドワーフの村の手前で相手を務めているわ」
「取引して欲しいって商人が多くきているから、羽振りの良い人だけ選んでるよー」
どうやら認めて貰えない方は亜人連合国の入り口となるドワーフの村の手前で対応しているようだった。そもそも最近まで亜人連合国の皆さまも引き籠もっていたのだから、外へ出るようになって良かった。
お姉さんズの怖い策に嵌って、少々不味い状況に陥っている所があるけれど……亜人嫌いを発症している大陸南東の国――確かフレイズン――だから致し方ない。恨むならば自国のお偉いさんを恨んで欲しい。
「そういえば、辺境伯領やアルバトロス王国にドワーフの職人さん方が鍛えた品は納入されているのでしょうか?」
三年前、私がやべえことになりそうと王国に丸投げした件はどうなっているのだろう。近衛騎士団の方も騎士団の方も軍の方も装備が変わった様子がない。亜人連合国の皆さまが約束を違えることはないし、アルバトロス王国も一度公式に言い出したことを撤回することはないだろう。今更だけれど、どうなっているのだろうか。
「ええ、もちろん。アルバトロス王国からは鞘と柄は同じにして欲しいとお願いされたから、ナイちゃんだと分かり辛かったのね」
「王さまもやり手だよねえ。多分、他国の人に知られたくなかったんじゃないかなあ?」
どうやら、いつの間にか搬入が開始されていたようである。近衛騎士団と騎士団には階級の高い方から支給しているようだ。軍の方は鉄製の槍を造って頂いて、まとめて全員に支給したとか。
ドワーフさんたちの擬態技術は凄いなと感心しつつ、ジークとリンへ私は視線を向ける。そっくり兄妹は小さく頷いているので、アルバトロス王国の軍事力に変化があったことを知っていたようだ。教えてくれても良かったのにとジークとリンに言いたくなるが、おそらく些末なことと判定されたのだろう。だって、私も今思い出したのだから。
「入って」
「どうぞ、どうぞ~。客室と食堂を用意したんだよ~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんに導かれて玄関に足を踏み入れると、目の前には大きな竜の角が飾られていた。象牙を壁に飾っているように、サイズと色が違う大きな角だった。色は白と黒で、妖精さんが角の上に座って手を振っている。
「二人に抜けてしまった竜の爪か角はないかと言われてな」
「若かりし頃に抜けた角を渡した次第です。爪ならばどこにでも落ちているので、貴重性が下がってしまいますからね」
どうやら客人を迎えるのだからと竜の中でも格が高い、ディアンさまとベリルさまが若かりし頃に抜け落ちた角を提供したようである。今のお二人の角の大きさと比べれば全然小さいのだが、壁に飾ると大きく見える。
しかしまあ、ダリア姉さんとアイリス姉さんも遠慮がないし、ディアンさまとベリルさまもエルフのお姉さんズの無茶を聞き届けている。仲が良いよなあと感心していると、ふと疑問が湧き起こった。
「竜のお方の角って落ちるものなのですか?」
私がディアンさまとベリルさまと視線を合わせるため、顔をぐっと引き上げる。お二人は苦笑いを浮かべて、少しだけ背を屈めてくれた。クロの角はまだ一度も抜け落ちたことはない。卵から孵って三年しか経っていないためなのか、脱皮した所しか見たことがないのである。
そのうちクロも額の角が抜け落ちることがあるのかなと視線を合わせると『どうだろう?』と曖昧な答えをくれる。
「落ちる個体もいれば、落ちない個体もいるな」
「体内の魔素が余っていると、抜け落ちることがありますよ」
お二人からの答えになるほどと納得する。個体によってマチマチのようで、ディアンさまとベリルさまも若かりし頃に一度抜けただけで、それからは生え続けているままだそうだ。乳歯と永久歯みたいと考えていれば、私の視界にダリア姉さんとアイリス姉さんがひょっこりと映り込む。
「ささ、料理上手な連中がご飯を作って待っているわ」
「早くみんなで食べよう~」
お二人は私の背中を押して食堂へと歩を進める。食堂も広いけれど、お城やお屋敷の食堂のような長い机が鎮座していない。丸テーブルが所々に置かれていて、その上にはお料理が既に並んでいた。
お野菜がメインだけれど、豪快に焼いたお肉もあった。お肉はエルフの方が用意したものではなく、ドワーフの方が作ってくれたのかもしれない。どれも美味しそうで目移りしていると、ダリア姉さんとアイリス姉さんに他の皆さまも私を見て笑っている。
アストライアー侯爵家一行も笑っているし、女神さまもうっすら笑っていた。そうして待機していたエルフの方から飲み物を受け取った。中身はオレンジジュースである。ちなみに一〇〇パーセントだ。
女神さまはなにを飲むのか迷った末に、オレンジジュースを受け取って私を見る。なんだろうと首を傾げていると、ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまたちにも飲み物が差し出されていた。ちなみに受け取らなければエルフの方に強制的に渡されるらしい。ディアンさまとベリルさま、そして人化した赤竜さんと青竜さんと緑竜さんも食堂に姿を現して飲み物を受け取る。
「飲み物は行き渡った?」
「お酒が駄目な人は教えてね。無理強いしないよー。あ、竜たちは知らない~」
ダリア姉さんとアイリス姉さんは果実酒を受け取って胸の前で掲げている。エルフのお姉さんズの声に頷けば、ダリア姉さんがグラスを胸の位置から顔の位置へ上げた。
「女神さま、亜人連合国へようこそ! そしてナイちゃん、久しぶり! ということで、かんぱーい!」
ダリア姉さんが口上を上げる。ディアンさまではないのが不思議だが、おそらく食事会を取り仕切ったのはダリア姉さんとアイリス姉さんなのだろう。だからディアンさまはお二人の側で控えているだけに留めているようだ。
「乾杯~!」
乾杯と声を上げたダリア姉さんに続いて、みんなが声を上げる。晩餐会のような形式ばった食事もアリだけれど、こうした立食形式の気軽なものも良いなとグラスを掲げた。
さて、なにを頂こうかなとテーブルの上に視線を向けると、女神さまがすすすと先にテーブルへと吸い寄せられる。そうして取り分け用のトングを手に取って、事前に持っていた白いお皿の上に大量のお料理がどんどん盛り付けられている。
おそらく料理を作ったであろう方が緊張した面持ちで、女神さまの行動を眺めていた。作った方の喉仏が動いたのが見えたので、今の光景で相当に固まっているようだ。そうして取り終えた女神さまがまた、すすすとこちらへ戻ってきた。
「亜人連合国のご飯、どんなものか楽しみ」
へらりと薄く笑う女神さまにダリア姉さんとアイリス姉さんが口を開いた。
「お口に合うと良いのですが」
「ね~」
エルフのお姉さんズも少しばかり緊張しているようで、いつもより顔が硬い気がする。多分、西の女神さまならなんでも美味しいと言いそうだ。子爵邸のお料理も食べず嫌いは全くせず、なんでも美味しい美味しいと食べていた。
フィーネさまに送っている納豆を女神さまが目敏く見つけて、試食をして頂いたのだが『糸が引いて不思議だけれど美味しい』とお言葉を頂いている。私は納豆の美味しさが理解できないのでマジか……となったのだが、フィーネさまに手紙で告げると納豆料理のレシピが届いた。
どうやら納豆仲間が増えたことが嬉しくて、女神さまに納豆には無限の可能性があると教えたかったようである。
「美味しい。野菜の味を生かしているんだね」
女神さまはフォークでお野菜を刺して、口の中にひょいひょいと運び入れていた。よく噛んで食べて下さいと言いたいけれど、女神さまはお腹を壊したことがないらしい。羨ましいけれど、人間の場合の腹痛は身体から発信される警告なので無茶をしない方が得策だ。
女神さまの声にダリア姉さんとアイリス姉さんが笑って、エルフの料理人の方がお腹に手を当てて大きく安堵の息を吐いている。良かったですねと無言で料理人さんに視線を向けると、私も食べろという視線が返ってくる。それでは遠慮なくと丸くて白いお皿を手に取って、テーブルに並ぶお料理の数々に目移りしながら特に食べたいと思えるものをトングで取り分けていく。
「さつまいもさんだ」
ふと目に着いたお料理にはさつまいもさんが使われていた。そういえばさつまいもさんはフソウの名前だけれど、どうして東大陸でさつまいもと名前が付いていたのだろう。
もしかすればフソウからアガレス帝国へ渡って、家畜の飼料となったのかもしれない。家畜の飼料でも美味しいことに変わりはなく、私はさつまいもさんを掴んでお皿の上に乗せた。味付けがされているので、どんな味がするのか楽しみである。
「ナイちゃんに貰ったヤツをこっちで育てているんだけれど、美味しいわね」
ダリア姉さんがお通じが良くなるから、エルフとドワーフの女性陣に人気があると教えてくれる。そして需要に追いつくために畑の妖精さんがせっせと育ててくれているとか。
「気持ち、甘みが減ってきた気がするかなあ~」
アイリス姉さんがむむむと少し困った顔をした。確かめるために私はさつまいもさんを一つ口の中に放り込む。ゆっくり咀嚼していると甘くて優しい味が口の中に広がる。少しスパイシーな味もするからハーブだろうか。
もう何度か咀嚼して、ごっくんとさつまいもさんを嚥下する。確かにアイリス姉さんが言ったとおり、子爵邸で育てているさつまいもさんより甘みが薄い気がしなくもない。私が間違っていると大変だから、私の後ろにいるリンにも食べてみて貰った。
「ほんの少し、甘みが足りない気がする」
リンが口に含んださつまいもさんを嚥下してから答えてくれる。ジークは甘いのは苦手――お野菜さんならまだマシ――なのでリンに頼んだ。アイリス姉さんもダリア姉さんも私も、やはりかと顔を見合わせる。
「だよねえ」
「不思議よねえ。やっぱりナイちゃんの魔力の影響下ではないからかも……」
お姉さんズがむーと唸っている。どうやら味の質が悪くなったと、苦情ではないけれどお二人の耳に届いているらしい。ダリア姉さんとアイリス姉さんの立場が悪くなるようなことにはなって欲しくないと、私は頭を捻る。
「連作は駄目と言われ易いですが、畑の妖精さんたちの手に掛かれば全く関係ないですからね」
さつまいもさんの栽培方法をきちんと学んだわけではないが、基本、お野菜は連作をしないものである。味が落ちると言われているし、収穫量も下がるのだ。でも畑の妖精さんたちの手に掛かれば、そんなの関係ねぇ! と言わんばかりに収穫できる……。
「ナイに魔力をドバーして貰えば良い。それで解決」
無言でお料理をずっと食べていた女神さまが手を止めて、良いこと言ったみたいな表情になる。解決はするかもしれないが、それって一時凌ぎではなかろうかと私は首を傾げるのだった。
◇
エルフの街にある迎賓館で夕食を終えて夜になった。季節柄、陽が沈めば随分と気温が下がっている。アルバトロス王国よりも冷えるのは、亜人連合国の方が緯度が高い位置にあるためだろう。亜人連合国の近隣諸国は小麦が育ち辛い環境だから、気候が人間にとって優しくない。
部屋は少し寒いけれど、頂いた晩御飯が美味しかったので大満足である。クロも好物の果物を頂いて機嫌が良いし、アズとネルも嬉しそうだった。ジークとリンとソフィーアさまとセレスティアさまも、合間でちょこちょこと食べ物を摘まんで楽しんでいたし、亜人連合国の方たちと会話を交わしていた。どんな内容を話していたのかは分からないけれど、悪いことではあるまい。今は客室に案内されて私的な時間となっている。
女神さまは一番豪華な客室に案内され、私が次に豪華な部屋へと導かれた。エルフのお姉さんズ曰く、まさか女神さまを歓待するなんて全く予想外だったそうで、本来は私が泊る部屋だったらしい。私は寝床と風雨を凌げる屋根と壁があれば問題ないし、今いる部屋もベッドの質は十分に足りているので文句などない。女神さまが一緒なら、そりゃ私より女神さまの方が優先されるべきなのだから。
少し眠いけれど、このあとはシャワーを借りたあと就寝予定である。
今は客室にジークとリンと私とクロとアズとネルにロゼさんとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんに毛玉ちゃんたち三頭がまったりしている所だった。私は椅子に座ってお腹を擦っている。
提供されていたお料理は珍しい品が多く、どれを食べようかと目移りしていた。立食形式なので食べたい品を食べたいだけ取って良いと教えてくれたので全種類制覇した。女神さまも気に入っていたようで、私と負けず劣らずな量を食べていた気がする。
西の女神さまは細いのに凄い食欲だなと感心していると、エルフの料理人さんが私に凄い視線を向けていた。ダリア姉さんとアイリス姉さん曰く、小柄な私の身体の中に納まる量ではないと料理人さんは驚いていたらしい。確かにいつも食べている量より多かったけれど、美味しかったのでノーカウントだろう。
「お腹一杯食べた」
ふうと息を吐くと、私の側にいたジークとリンが小さく笑う。何故笑うと言いたい所だけれど、いつものことなので問題ないのだろう。二人も大して気にしていないだろうから。
「遠慮がなかったな。まあ、ナイが良いなら構わないが」
「ナイが幸せそうに食べてる所を見るのは楽しいよ」
ジークとリンが私を見下ろしていると、彼らの下へ点検から戻ってきたレダとカストルがくすくすと笑っている。
『マスターの健啖振りを見ているのは気持ち良いです』
『本当にお嬢ちゃんは良く食うよなあ。なんで……いや、なんでもねえ……!』
レダはいつもの調子だけれど、カストルはなにを言おうとしたのか。気になるけれど突っ込んじゃ駄目な気がして私は黙っておいた。そして西の女神さまに『泣き虫』と言われたお婆さまは、何故か私の部屋の隅っこで小さくなっていた。
どうやら以前のお婆さまの様子がバレたので、エルフの皆さまの中に交じるのは恥ずかしいらしく私の部屋に避難しているらしい。都合が悪いなら、いつものようにどこかへ飛んで行くのも手だけれど、外に遊びに行く気は湧かないようだ。お婆さまは放っておけば、勝手に機嫌が良くなるか回復しているだろうと特に声を掛けてはいない。
「明日はアルバトロス王国に戻るから、お土産沢山貰ったね」
部屋には大量の竜のお方の鱗と牙に爪があるし、エルフの方々から頂いたお野菜さんもある。クロとアズとネルにと沢山果物も頂いたし有難い限りだった。
「凄いな」
「ね」
ジークとリンも私と同様に大量のお土産に視線を向けて苦笑いを浮かべている。他にも反物やドワーフさんたちから刀剣類に装飾品まで貰っているのだが、試作品なので使った感想を聞かせて欲しいとお願いされている。
割と量があるのでどうしようかと悩んでいるのだが、近しい方たちにも渡して良いので使用感を教えて欲しいらしい。それならとソフィーアさまとセレスティアさまに視線を向けると快諾してくれたし、お屋敷にはアリアさまとロザリンデさまに侍女の方たちがいる。彼らにもお願いしても良いかと聞いてみると、構わないと声が返ってきた。やることが増えたけれど、レポート提出は楽しそうである。
しかしまあ……贈られた品は大量である。使い道を見つけるのは大変だけれど、資産として寝かしておくのもアリだろうか。でも侯爵位を持っているのだから経済を回さなきゃいけないし、匙加減が難しい所だった。
『竜の仔たちがナイにあげるからって集めてたんだって。なにかに使って貰えれば、みんな喜ぶよ』
クロが私の肩の上で嬉しそうに呟いた。三年前に頂いた品も使い切れていないのに、更に増えてしまった。
「加工技術がないから、またドワーフの職人さんたちにお願いかな。エルフの方たちが作ったお野菜も嬉しい。料理長さんになにかレシピを考えて貰わないと」
ドワーフの職人さん方に依頼を出すのは良いけれど、長剣を鍛えて頂いても使い手がいない。テオにドワーフの職人さん製の長剣を渡すのはまだ早い気がするし、テオの面倒を見ているのはジークだから彼から許可を得てになる。
質を落として侯爵家の護衛の方々に渡すのもアリだろうか。なににせよ家宰さまと相談だろう。
あと竜の方たち以外にも、エルフの皆さまからお野菜さんを沢山頂いている。子爵邸で消費する分と、アルバトロス王家と公爵家と辺境伯家におすそ分けする分は十分にある。あとはギド殿下にお渡しするくらいだろうか。
ギド殿下はソフィーアさまと会うために、転移で時折アルバトロス王国にきているそうだ。何気にマメだなと感心するのだが、ソフィーアさまの婚約者である。彼女がないがしろにされているなら、お野菜さんは渡せない。
『また考えて貰うの?』
クロがこんてんと首を傾げる。料理長さんには私がどこかへ出かけて帰ると、その地域の料理レシピを良く渡している。西大陸内であれば、調理方法が似通っているので問題は少ないし、東と南のレシピも特徴があるものの作り方は似ているらしい。
北も真似できないことはないけれど、フソウのお料理だけは少し趣が違うので料理人さんたちの頭を悩ませているようだ。そしてほとほと困り果てた時はエーリヒさまに助言を頂いているとのこと。何気にエーリヒさまにはお世話になりっぱなしなので、なにかしらの形でお礼をできると良いのだが。
「うん。美味しいから、ダリア姉さんとアイリス姉さんにお願いしてレシピを頂いたんだ。アルバトロス風になると嬉しいな」
そして今日はエルフの方たちのレシピを頂けた。お野菜中心だからダイエット食品となりそうである。まあきちんと痩せるならば、食事の栄養管理と運動が必要となるので、動かないお貴族さまは大変だろう。
『ナイは食べ物のことになると、抜け目がないなあ』
「ほどほどにな」
「食べ過ぎは良くないけれど……ナイだから」
クロが呆れて、ジークが片眉を上げて笑い、リンは小さく笑っている。床の上に寝転がっているヴァナルたちは話を聞いているだけで、会話に加わろうとしない。時々、毛玉ちゃんたち三頭が遊んで欲しそうにしているだけだ。
「ちょっと子爵邸に戻るのが楽しみ」
料理長さんと料理人の皆さまには迷惑かもしれないが、きちんと成果を出してくれるので毎度のご飯が楽しみだ。今度は餡子バターのパンを提案したら、度肝を抜かれるかもしれないし、ウインナーを挟んでいるパンでも驚かれそうだ。
『またナイが突拍子もないことを考えているね』
「みたいだな」
「美味しい時もあるし、美味しくない時もある……」
クロが小さく息を吐いて、ジークとリンを見上げている。私はどうしても食への探求心が収まらないのだが、何分知識がたりないのだ。その辺りは料理男子のエーリヒさまに聞けば殆ど解決するのだが、彼も知らないことはある。
そうなると料理長さんと料理人の方々と私は唸りながら試行錯誤するしかない。時々、明後日の方向へ飛んでしまって妙なレシピができ上ることもあるけれど、美味しければ採用するし、不味ければ闇に葬る。
ユーリとアンファンが成長すれば、美味しい美味しくないの判断を聞くことができるし、アリアさまとロザリンデさまに聞けば庶民とお貴族さまの感想を頂ける。
クレイグとサフィールは味を判断しつつ、出された料理の試作品が不味くても綺麗に食べてくれていた。どうやら、彼らは勿体ないが先行するらしい。
一番評価が厳しいのは、ソフィーアさまとセレスティアさまである。料理の見た目に飾り付け、そして味まで総合的に判断して駄目だしや良い所を教えてくれるのだ。お貴族さまって料理の評論までできるのかと感心してしまった。
ちなみにジークとリンは自分の口に合うか合わないかで可否を下してくれる。そっくり兄妹は私と同じタイプで、私も美味しいか美味しくないかが一番優先されるものであり、見た目や色合いは気にしない口だった。
「あ、そういえばレダとカストルの点検は問題なかった?」
戻ってきたことで安心していたけれど、レダとカストルに不調はなかっただろうか。レダとカストル自身もだが、彼ら二振りが調子が悪いとジークとリンが困ってしまう。
「ああ、ドワーフの職人方が念入りに診てくれたからな」
「問題ない。むしろ切れ味が増してるって」
ジークとリンが私の声に頷いて確りと答えてくれる。どうやらなにも問題はないようだ。
『マスター! わたくしはマスターのための剣! 鈍らになるような間抜けはいたしません!』
『まーた変な発言してやがる。でも、まあ、お嬢ちゃんの近くにいるお陰で、魔力には困らねえから切れ味が増すってもんよ! 竜の次は魔王でも斬ってみてえなあ!』
レダとカストルがそっくり兄妹の腰元で茶化すように声を出した。確かに鈍らになることはないだろう。彼らは超一級品の長剣なのだから。でもカストルが不穏なことを言ってのけた。
「カストル、嫌な事言わないで?」
私は一応カストルに釘を刺しておく。なんだか盛大にフラグが立ったような気もする。ゲームの魔王さまは魔王として覚醒することはなかったが、別の魔王さまがいてもおかしくはない。
『なにが……って魔王のくだり? ただの冗談だし、真に受けることはないだろ、お嬢ちゃん』
気にしすぎだと笑うカストルに毛玉ちゃんたち三頭が立ち上がって、何度か一振りに向かって咆えた。珍しいと目を見開いていると、吠えられたカストルも驚いたようだ。
『うわ! なんで毛玉が俺に吠えるんだ!?』
『余計なことを言うなって』
驚いたカストルにクロが毛玉ちゃんたちの通訳を買って出てくれた。どうやら毛玉ちゃんたちもフラグが立ったように聞こえたらしい。
『ぐう……毛玉に馬鹿にされるなんてよう……』
むむむと唸っているカストルにレダが『馬鹿が馬鹿なことを言うから……』と呆れ声を上げ、そろそろシャワーを浴びて寝ようとなるのだった。