魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0056:持ち主は誰。

 ちょっと堅い寝床では眠りが浅かったようだ。寝たのは寝たのだが、あまりマトモな睡眠とはいい辛いもので。

 

 「う……眠い」

 

 眠いけれど起きなければと、愚痴を零しながら無理矢理に体を起こす。もぞもぞとしていると、簡易的に目隠しされていた布が払われリンが顔を覗かせた。

 

 「起きたんだね、ナイ。――まだ寝てても大丈夫だよ」

 

 「おはよう、リン。体がバキバキだから起きる。リンはちゃんと仮眠取った?」

 

 「うん。兄さんと交代して取ったよ」

 

 「そっか」

 

 彼女の言葉に短く答えて寝床から出ていくと、お天道さまは頭の真上。半日はこの場で休憩と聞いているので、もうすぐ出発するのだろう。その為なのか、忙しなく騎士や軍の人たちがいろんなものの片付けをしているのだから。

 

 「ナイ起きたのか」

 

 「うん、おはよう。ジークは少しでも寝た?」

 

 「ああ。随分とマシになったよ」

 

 「ん。じゃあそろそろ領都に帰る準備しなくちゃね」

 

 といっても荷物はそんなに無いし、直ぐに終わってしまうけれど。今回の遠征の目的である魔物が狂暴化している理由の調査は、竜の死骸が原因と判明した。原因が取り除かれたならば、他の地域で魔物の出現が多くなっているのも、そのうちに収まるだろう。

 

 「ナイ、それは?」

 

 腰に小さな巾着袋を提げていたのが見えたのかジークが首を傾げてる。その中身は例のアレ。

 

 「これ? 副団長さま曰く竜の卵だって」

 

 巾着袋から石を取り出してジークに見せる。

 

 「は?」

 

 「浄化が終わったら落ちてたのが見えて拾ったんだけれど……本当に竜の卵なのかなあ?」

 

 ころころと私の手のひらの上で転がる石ころ。本当にこれが竜の卵だなんて、信じられないのだけれど。

 

 「さあな。ただの綺麗な石ころにしか見えんが……――っ!」

 

 指先で触れようとしたジークが反射的に手を引っ込めた。 

 

 「って、大丈夫?」

 

 「ああ、大したことはない。少し驚いただけだ」

 

 「兄さんも触れないんだ」

 

 「じゃあ、リンも触れなかったのか」

 

 双子の兄妹が顔を合わせて妙な顔をし、こちらへと視線を向ける。

 

 「面倒ごとにならんといいが……」

 

 「……あはは」

 

 しかめっ面のジークに乾いた声を出すリン。確かに私も嫌な予感しかしないから、現実から目をそらして何も言わなかったのに、二人は遠慮なく突き付けてくれた。いいけれど。

 

 「売ったらお金になるかなって考えていたけれど、教会に提出だねえ」

 

 まあ最初から報告書と共に提出するつもりだったけれど、冗談でも言わなきゃやってられない。

 

 本当に売ったら天文学的な金額になりそうなので怖い気もする。宝くじが当たった長者が、身を破滅させたなんて話を前世では耳にしたことがある。身の丈以上の大金は持て余すだけだから、普通の生活が送れるのならばそれでいい。

 

 「だな」

 

 「そういえば、所有権って誰が持つの?」

 

 辺境伯領内で起きたことだから辺境伯さまに権利があるような気がすれば、浄化を行った私にあるような気もしなくもない。もっと大きく言えば、王国内で起こり軍や騎士も派遣されたのだから国が所持すると言われても、納得は出来るけれど。

 

 なんにせよ相談案件であるのは確実だ。

 

 「誰になるんだろうね。私じゃないのは確実かなあ」

 

 竜は希少種だと言っていたし、王国が管理するのが一番のような。仮に卵が孵って世話をするようになれば、食べる餌の用意や飼育小屋。糞尿の処分とかも大変そう。

 ご近所さまに迷惑を掛けないように注意を払って、散歩とかもどうするのだろう……あ、勝手に空を飛んでくれるか。

 

 そんなことを考えつつ、浄化を終えた場所へと向かうと見張り兼警備を行っている騎士や軍の人たちが十名近くおり、なにやら調べている様子で。半日この場所に留まったのは現場検証の為かと、一人で納得しつつ騎士さまの下へと歩く。

 

 「聖女さまっ! お疲れさまです!」

 

 ざ、と開いていた足を閉じ私に敬礼をしてくれた騎士の方に聖女としての礼を執る。

 

 「申し訳ありません。少し気になることがあったので、こちらへと参ったのですがお邪魔でしょうか?」

 

 勝手に彼らの仕事の場に入っても不味いので、一声かけてからの方が良いだろう。

 

 「いえっ! 我々の調べは殆ど終えております。残すところはあの大剣のみなのですが……」

 

 含みを持たせるように騎士の人は後ろを向いて大剣が落ちている場所へと視線を向けた後、私の方へと向き直る。

 

 「何かあったのですか?」

 

 「触れても良いものなのか判断が付かず困っておりまして。おそらく竜を殺した原因です。呪いの類が残っていると困りますので」

 

 「そういうことでしたか。――私が魔術で調べても問題はないでしょうか?」

 

 「はいっ! 勿論でございます!」

 

 寧ろ助かりますと言いたげな騎士の人に苦笑をして、まだ周りにいる人たちへ私が立ち入ることを知らせてもらう。何故か十名近くの人たちが一斉に敬礼をして迎え入れられた。恥ずかしいけれど、前へと歩き大剣が落ちている場所へと着いたのだった。

 

 ゆっくりと視線を下ろして、大剣を見つめる。

 

 随分と無骨な剣だった。装飾もなにも施されていない、ただ獲物を屠る為だけに鍛え上げられたような鉄の塊。何百、何千とただひたすらに斬ってきたのだろうと思わせるような力強さ。

 

 「この大剣は誰のものだろうな。竜に致命傷を与えたのだろうが、何故持ち帰らなかった……?」

 

 「ね。自分の得物を大事にしないなんて」

 

 ジークとリンの会話を背にして聞きながら、大きな剣の傍へとしゃがみ込み感知系の魔術を発動させる。騎士の人が言ったように瘴気や呪いが残っていないか心配だったけれど、感知系の魔術に反応はみられないので一安心。

 

 「本当、よくこんなに大きいもの扱えるよねえ」

 

 剣士か騎士か、はたまた冒険者なのかは分からないけれど、私の身の丈程ある長さの大剣をよく振り回せるものだと、剣の柄に手を伸ばす。

 

 「俺のモノに勝手に触ろうとするんじゃねーよ、餓鬼」

 

 私たちが居る場所よりも一段高い場所に、知らない全身黒づくめで銀髪オッドアイの青年と凄く耳の長さが特徴的な美しい女性が二人、立っていたのだった。

 

 ◇

 

 ――餓鬼、餓鬼って言われた!

 

 確かに同年代の女の人と比べるとちっこいし、童顔だけれども!

 

 銀髪オッドアイに黒づくめ衣装の青年をよくよく見てみると、年の頃は二十代前半といったところ。なんだろう……中学二年生の心をまだ忘れていないようだから、彼の口から『餓鬼』と言われたくないなあという気持ちが溢れ出てくる。

 ジークとリンが素早く私の前に出てると、それを見ていた青年が鼻で笑った。周囲の騎士たちも最大限の警戒をしており、空気がガラッと変わったのが肌でわかる。

 

 「見たところ騎士団と軍の連中みてえだが、なんで餓鬼がこんなところに居やがるんだ?」

 

 「この国で聖女を務めさせていただいている者でございます。貴方は……?」

 

 一体誰だろうかと訝しみつつ、青年の疑問に少しだけ答えた後、疑問で返す。とりあえず情報が少しでも引き出せれば有難いのだけれど。

 騒ぎを聞きつけたのか、ソフィーアさまとセレスティアさまに副団長さま、そしてマルクスさまたち騎士数名がこちらへとやって来る。ただ随分と離れた場所で立ち止まっていた。

 

 「こんな餓鬼が聖女!? まあいい。俺は冒険者だよ。Aランクチーム『黒剣』のパーティーリーダーだ! 知らねーのかよっ!?」

 

 大げさに頭を後ろ手で掻いて、驚いた顔を見せる青年。冒険者がいることは知っている。実力者は国を超えてやって来ることが出来るとも。随分と自身があるようだからAランクが最高位なのだろうか。たった三人で竜の相手をしたのならば凄いし、倒せたのは奇跡と言ってもいいのだろう。

 

 「浅学で申し訳ありません。何分、国から出たことのない身故、世界をまたに掛ける冒険者さまの知識は疎く……」

 

 「はっ! 確かにこの国は障壁の所為で魔物の脅威が少ないからなあ……仕方ねえと言いたいところだが……」

 

 「トーマさまを知らないだなんて……」

 

 「あり得ません!」

 

 彼と半歩下がって立っていた女性二人が信じられないというような顔をして、言葉を口にしていた。

 

 「でだ、何故俺の剣を触ろうとしていた? そろそろ腐って抜けているだろうと様子を見にくりゃあ、この騒ぎだ」

 

 「申し訳ございません、興味本位でつい」

 

 持ち上げられるのか試したかっただけだし、触れても問題ないのは魔術で調べがついていたから。

 

 「ふーん。まあ餓鬼だししゃーねえのか。とりあえずそいつを返してもらう、ぜっ!」

 

 一段高くなっている場所から、足で踏み切って一足飛びする彼に驚く。そうして大剣の下へ行くのかと思いきや、私を目指して一直線。

 

 「っ!」

 

 不味い。休憩を取ったとはいえ昨日の浄化儀式で随分と魔力を消耗してしまっている。ほぼ空の状態で、いつものように魔力量に任せた、強引な魔術の展開が出来なくなっていた。

 こんな時に無詠唱なんて使ってしまえば、ただの無駄撃ち。こうなれば目の前に迫る彼の一撃をノーガードで受け止めるしかないのだろう。

 

 「お?」

 

 「……」

 

 ジークが青年が打ち放った右拳をしっかりと受け止めていた。遠目でみると分かり辛かった目の色がはっきりと見える。赤と金色というかなり派手な瞳の色だった。リンが無言で私の目の前に立ち、後ろへと数歩下がり青年と距離を取った。

 

 「へ~え、それなりに強いのな。いいぜ、俺と命のやり取りをしようじゃねーか!」

 

 ざり、と地面を踏みしめる音がしてこの場に誰かがやって来たことを告げる。その音に気付いた青年が静止して、顔の向きを変える。

 

 「お待ちくださいませ。――ご高名な冒険者の方のようですが、この場でドラゴンを倒したのは貴方さまでお間違えはございませんこと?」

 

 ジークとの命のやり取りは一旦お預けのようで、声を掛けたセレスティアさまをまじまじと見ている。ソフィーアさまもこちらへとやって来ているし、随分と人が集まってきていた。

 

 「美人なねーちゃんだな。髪はいただけねーが……ああ、そうだよ、犬っころを仕留め損ねたから、丁度良い腕試しを見つけて俺が倒した」

 

 髪の部分でぴくりとセレスティアさまの片眉が上がるけれど、堪えたようだ。

 

 「それはそれは。――わたくし、セレスティア・ヴァイセンベルクと申します。以後、お見知りおきを」

 

 綺麗なカーテシーをして、頭を下げるセレスティアさま。

 

 「はっ、貴族か! で、俺に何が言いたい?」

 

 名乗り返した方が良いような気がするけれど、彼にその気はないようで面倒くさそうな様子をありありと見せながら話を続けるようだった。

 

 「確認したいことがございまして……死骸の処理や報告もせずに貴方は立ち去ったと理解してよろしくて?」

 

 「ああ。俺の剣がドラゴンから抜けなくなって仕方なく戻ったし、腕試しなんだからギルドに報告の義務なんざねえだろう」

 

 「なるほど、そうでしたか。――犬、というのはもしかするとフェンリルではありませんか?」

 

 「そうだよ、それがどうした」

 

 「いえ、少し前に手負いのフェンリルが王都付近で暴れまして。魔術師団副団長さまが、手負いでなければ倒すことは危うかったとおっしゃっておりましたわ」

 

 ものすごく誤った情報を渡しているような。というか、合同遠征で倒したフェンリルが暴れたのは目の前の彼が原因……なのだろうか。

  

 「へえ、そりゃ良かったよ。あんたらでも倒すことが出来たようで」

 

 「ええ、本当に」

 

 いつの間にかソフィーアさまが私の横にまでやって来ており耳打ちをされた。どうやらまだ情報を得たいようで、セレスティアさまに任せるそうだ。

 辺境伯領で被害を被っているのだから、目の前の青年の行いを問い詰めるつもりなのだろうか。捕らえて、事情聴取をした方が早そうだけれども。

 

 「王都近郊の森で軍や騎士団が受けた被害、そして今回の件で辺境伯領や周辺領へ及ぼした被害。――一体どれほどになるのでしょうか?」

 

 「どういう意味だよ。遠回しに言われるのは嫌いなんだ、はっきり言えっ!」

 

 「では、遠慮なく。今回受けた被害の賠償を貴方さまへと請求いたしますわ」

 

 彼女の傍にマルクスさまと騎士の人たちが、青年に気付かれないように移動してきた。最初から彼女の護衛に就いていた騎士とやってきた彼らは目の前の青年から視線を外さない。

 

 「はあっ? 意味が分からねえ、なんでそうなるんだよっ!!」

 

 「やるべきことを怠たり、そして被害が発生した。――道理ではございませんか」

 

 セレスティアさまの様子は伺えないが、これ相当怒っているのでは。自領地に被害が出ているし、周辺の領地にも被害をもたらしている。寄り子の学院生たちも困っていたようで、どうにかしたかったのだろう。

 

 「いやいやいや、意味が分かんねーし! そもそもフェンリルやドラゴンなんて害獣だろうっ! それを処分して何が悪いんだ!」

 

 慌てた様子でどんどん語気が荒くなっていく青年に対して、冷めた目で見ているセレスティアさま。確かにファンタジー作品に出てくるドラゴンなどは悪く書かかれていることもあるけれど。

 

 「確かに。ですが冒険者ギルドを確認した所、フェンリルやドラゴンの討伐依頼は一つも発生しておりませんわ」

 

 「それがどうしたってんだ!」

 

 「魔獣の類に分類されるフェンリルと希少なドラゴンを勝手に倒してもらっては困りましょう。我々人間に益をもたらす可能性もあるのですから」

 

 個体によっては人間に協力的だったりするそうだ。なかなかレアなケースらしいけれど。彼らから齎される益は大きい。周囲の安全だったり、長く生きるが故の知恵だったりと様々。だから、共存しているのだとセレスティアさま。それなら、なんで亜人は迫害したのだろうという疑問は残るけれど。

 

 「いちいちうるせえ女だなあ…………」

 

 青年が片腕を上げた、その瞬間。

 

 「セレスティア、避けろっ!!!」

 

 一体何が起こったのか、理解がまだ追いつかない私だった。

 

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