魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ポポカさんたちが産んだ卵も順調に雛が孵り数を増やしている。アガレス帝国に寄った帰りに南の島へ報告に上がるのもアリかななんて考えている。あと、アガレス帝国のウーノさまに鉱山にいる銀髪くんに会いたいと申し出た所、あのような失礼な者に会うのですかと心配されたものの手配はしてくれるとのこと。
その際、西の女神さまも同行します……というか、願い出たのは西の女神さまですと告げるとウーノさまからの返事は『どういうことでしょうか? 事態が呑み込めません』と問われた。女神さまと出会ったことを伝えて、今はウーノさまからの返事待ち状態だ。
――そういえば女神さまに聞きたいことが沢山ある。
西大陸についての疑問を聞いては駄目かなと今まで敢えて口にしなかったけれど、聞いてしまっても良いのではないかと最近考え始めていた。お婆さまが大昔は気弱な可愛い妖精さんだったことも露見したのだし、他にも知って良いことがあるのではなかろうか。
ご意見番さまも優しいだけではなく堅物な部分があったようだ――話題が上った時のクロは気まずそうにしていた――で、掟破りが嫌いな竜の方たちに多大な影響を与えている。女神さまの偉業を成し遂げた聖典を読むよりも、他にも面白い話が聞けるのではないか。
誰かが編纂した話よりも生の声の方が貴重だろうと、子爵邸の図書室で本を読んでいる女神さまの下へと向かっている最中である。ちなみにクロはとばっちりが嫌なのか、珍しくお留守番をしていると私の部屋にある籠の中でお猫さまと一緒に丸くなっている。
「家宰殿とハイゼンベルグ嬢が頭を抱えそうだな」
昼下がりの午後。私が後ろを振り向くと、ジークが歩きながら少し苦笑いを浮かべて声を上げる。女神さまから聞いた話は報告に上げる――駄目と言われた事柄は秘密にしておく。もちろん支障のない範囲で――から、過去の出来事を聞いて真面目な方たち筆頭な家宰さまとソフィーアさまは頭を抱えるかもしれない。
逆に肝の据わっている方や面白いと感じる方には女神さまの話に興味を持つのだろう。セレスティアさまは身に危険が及ばない限りは泰然としているか、魔獣か幻獣を見て幸せそうにしている。家や国に迷惑が掛からなければ特に気にしないだろう。
「ナイは女神さまになにを聞くの?」
「一番聞きたいことは、聖王国の大聖女さまの聖痕についてかな」
リンの疑問に私が答えると、ジークが明らかに不安そうな顔になる。女神さまの口から大聖女さまの地位が地の底に落ちる言葉が出れば大問題である。彼はその辺りを気にしているのだろう。そしてフィーネさまに向けたものではなく、彼の友人であるエーリヒさまを気にしてのもののはずだ。
女の友情よりも男性が同性に向ける友情の方が硬くて厚い気がしている。この辺りも性差がでる部分だなと私も笑って前を向く。
「あとは西大陸にエルフの方がいないのかなって。他の大陸にもいるのか気になるかなあ」
竜のお方は増えているのに、エルフの方は増えたという話は聞かない。先日遊びに行った亜人連合国のエルフの街でも大人しか見なかったから、人口ピラミッドが歪だと感じていた。
なにかエルフの方々にも新しい風が吹き込まないかなと考えている次第だ。ダリア姉さんとアイリス姉さんにはお世話になっているので、なんらかの形でお返しをしたい。仮に違う土地のエルフの方を見つけても、見つけた先の彼らが友好的であるとは限らないけれど……。
「森の奥深くで少数が住んでいるだけなら、分かり辛いか」
「確かに、どこかにいてもおかしくはない?」
ジークとリンが首を傾げた。人間でも森の奥に住んでいれば見つけ辛いし、相手も外を知らずに敵と判断して攻撃してくる場合もある。問答無用で攻撃する部族もいるようなので、その辺りは十分気を付けなければならない。難しいけれど、しり込みしていれば問題は解決できないから手を入れるしかないのだろう。後は野となれ山となれである。
「失礼します」
図書室の扉の前に立って、軽く二度ノックをする。ドアノブに手を掛けて中へ入ると、窓際に椅子を置いて読書をしている女神さまがいらっしゃった。彼女の側には妖精さんが飛んでおり、なんだか楽しそうにしている。
「ナイ。どうしたの……クロは?」
女神さまが私を見るなりクロはと問う。クロと私はいつも一緒にいるので純粋な心配なのだろう。昔話は恥ずかしいと照れ臭そうに告げたクロのことは伏せておいた方が良いだろうと判断する。
「クロは部屋でお留守番をしていると言って籠の中で寝ています。女神さまに聞きたいことがあって、きてみたのですが読書の邪魔でしょうか?」
「構わないよ。誰かと話をする方が楽しいしね」
女神さまが呼んでいた本をパタンと閉じれば、妖精さんが回収してどこかへ消えた。どこかから持ち出した本のようで、元の場所へ戻しに行ったようである。それなら女神さまが読む本がなくなったと告げることはないのだが、妖精さんは妙な本を持ち込まないか心配だ。
既にアルバトロス城の保管庫から黒革の手帳を持ち出して、聖王国の神職者が起こした事件を知っている。どうこうならなかったけれど、私が止めていなければ聖王国は女神さまの怒りを買っていたのではなかろうか。若干、聞きたいことが聖王国に関することなので気が引けてきたけれど、ここまできたのだから引き下がるのは勿体ない。
「こっちに座って。ジークフリードとジークリンデもゆっくりしてて。誰にも邪魔はさせない」
女神さまが窓際に座って陽に当たりながら話そうと、椅子を動かしてくれる。ジークとリンにも席を用意してくれる。丁度、侍女の方にお願いしていたお茶とお茶請けが届いて、女神さまが少し嬉しそうな顔になった。テーブルに用意されたお茶を手に取って、私は何度か息を吹きかける。相変わらず紅茶の淹れ立ては熱いと渋い顔をすれば、女神さまは私を見て笑った。
「それで、どうしたのナイ?」
持っていたティーカップをソーサーの上に戻して、女神さまと視線を合わせる。彼女の口からどんな答えが返ってくるのかと私は息を呑み口を開いた。
「聞きたいことがありまして。聖王国の大聖女さまにある聖痕は女神さまが与えたものと教えられておりますが、事実なのですか?」
「聖王国の大聖女に聖痕があるのは知らないけれど……随分と前に私の力のほんの少しだけ現れるようにって願って、身体のどこかに紋様が出る子はいるよ」
私の疑問に女神さまが答えてくれるのだが、聖王国の件は知らないらしい。しまったなあ。フィーネさまとウルスラさまが同席している時に聞いておけば、話の進みは早かったかもと後悔する。
「あと力の引継ぎ具合で模様が変わるんだ。結構良い感じの模様だよ。ナイも受けてみる?」
やはり聖王国の大聖女さまに現れる聖痕のことではないだろうか。フィーネさまとウルスラさまとでは階位が違い、ウルスラさまの方が高いとか。ウルスラさまの聖痕を見たことがないので、なんとも言えないけれど嘘を吐けば聖王国の神職者の方々の信用がガタ落ちする。――既に落ちているけれど。
「大丈夫です。特に困っていませんし、女神さまに力を与えられたとなれば凄く大変なことになりそうなので」
女神さまから直接受けた聖痕となれば凄く騒ぎになりそうだし、聖王国の大聖女さま相当の仕事をしなきゃならないとなれば割と面倒だ。仕事としての聖女は務められるが、象徴としての聖女は私の柄ではない。
「む。残念」
女神さまが口をへの字にさせつつも、やはりなみたいな顔を浮かべて紅茶を一口飲んでいた。
「女神さまの力を引き受ける方は決まっているのですか?」
決まっているなら、女神さまから選ばれし人となり、大聖女さまの立場がもっと優位になるはずだ。
「ううん。適当……って言ったら駄目だね。運かな」
女神さまがティーカップをソーサーの上に戻した。いろいろと突っ込みたいことがあれど、聖痕の解除方法は誰が思いついたのだろうか。女神さまの性格上、愛し合っている方の接吻で解除されると思いつきそうにない。もしかしてグイーさまの入れ知恵だろうかと、彼女と視線を合わせて私は真面目な顔を浮かべる。
「紋様って消せますか?」
愚問だけれど、遠回しに聞いた方が無難だと私は聖痕の解除方法を知らない振りをした。
「一応、消せるようにはしているよ。一生背負いたくないって人もいるかなって」
どうやら聖痕をずっと背負い込む必要はないらしく、女神さまは逃げ道を用意してくれていたようである。有難いような、そもそも聖痕なんてなければ良かったと考えてしまいそうになるが聖王国では重宝されている。しかし想い人とのキスで消えるのは如何なものだろうか。難しい問題だなと唸っていると、女神さまがどうしたのと問うてきた。
「あ、いえ。聖王国の大聖女さまにある聖痕は女神さまが仰った紋様のことかと」
「そうなんだ。数千年経って大陸の状況も変わってきているし、紋様の在り方も変わっているんだね。じゃあ解除方法も変えた方が良いのかな……――母さんに助言を貰って決めたけれど、一定時間経てば消えるとかの方が良い?」
なんだか凄いことを聞いてしまった気がする。聖痕の解除方法は西の女神さまが編み出したものではなく、彼女の母親であるテラさまが考えたらしい。どうしてそんなロマンティックな解除方法をと問い質したくなるが、この世界って乙女ゲーが舞台だったなと思い出す。
もしかして世界の成り立ちはテラさまの影響を強く受けているのだろうか。テラさまが乙女ゲームを興味本位でプレイして気に入り、グイーさまに舞台を用意して貰ったという話なら、乙女ゲー世界だった理由に納得できてしまう。西の女神さまに助言をしたのも、乙女ゲ―の設定から逸脱しないようにだろうか。それならばテラさまの世界から私たちを送り込んだ理由が付かない気がする。
あ、私が考え込んでいる間に女神さまが眉間に皺を寄せて、聖痕を解除しようか悩んでいる。それは不味いと私は口を開く。
「そんな大事なことを私に聞かないでください」
解除方法を変えると、フィーネさまとエーリヒさまが困りそうなので阻止しておく。
「良いんじゃないかな。聖王国はナイのお金を盗ったなら、少しくらいなにかあっても良い気がする」
「盗られたお金は返ってきていますので。それに今代の大聖女さまはフィーネさまとウルスラさまなので」
一応、盗られたお金は戻ってきているし、今の大聖女さまは私の友人である。突然、大聖女という地位を失えば彼女たちは早々に日々の生活を送れなくなる。
「あの子たちだったんだ。気付かなかった……紋様の力が弱ってるのかも」
聖痕の力は昔より弱くなっているようだ。それは西の女神さまの力が弱くなっていると感じてしまうが、実際はどうなのだろうか。
「年月を経てしまったからですか?」
「多分、そうかな。私がもう一度紋様に手を加えれば力は戻るはずだけれど、昔みたいに困っている人間は少ないし現状維持が良いかもね」
一先ず、大聖女さまの地位が消失することは回避できた。でも力が弱ってきているなら、大聖女さまの価値は聖王国で下がって行くかもしれない。その辺りは聖王国の仕事だと割り切って、次に聞きたいことを聞いてみた。エルフの方は亜人連合国以外の場所にいるのだろうかと、私は女神さまに問うてみる。
「探せばどこかにいるはず。ただ見つかっていないだけ」
ふふふと女神さまが微笑んだ。これは自力で見つけて解決しろということだろう。まあダリア姉さんとアイリス姉さんには嬉しい報告ができると、頷いて図書室をあとにするのだった。
◇
聖痕について女神さまに聞きだしてから数日が経っている。聖王国のフィーネさまとウルスラさまに告げるべきか迷ったが、フィーネさまはまだしもウルスラさまは西の女神さまを信仰している。
聖痕はランダムに付与され、女神さまが側にいたのに気付いていなかった事実を知れば彼女は落ち込んでしまいそうだ。だからまだ、なにも言えていない状態である。もう少しウルスラさまが世間慣れしてからでも良いかと勝手に考えていた。
エルフの件はダリア姉さんとアイリス姉さんに伝えている。一先ず竜の皆さまにお願いして、森が広大にある場所を飛んで貰って小さな集落がないか探してもらうそうだ。気の遠くなりそうな作業だけれど、時間は十分に余っているので構わないとのこと。どうにか亜人連合国以外の地域に住むエルフの方が見つかると良いなと願うばかりである。
午前中に執務を捌き午後は自由時間となっている日々が続いている。時折、お城の魔術陣に魔力の補填依頼がくるのだが、私は細心の注意を払いながら魔力を放出していた。一度、魔術陣を破壊した身だから二度目があってはたまらない。
ぶっちゃけ、アルバトロス王国全体に直接障壁を張る方が楽で良い気がするのだが、以前試してから、また試してはいないので分からないままだ。一度、陛下に願い出て実行するのもアリかもしれない。自分の実力が今、どれくらいなのか知るのは大事なことだから。
ポポカさんたちが産んだ卵は計六個となり、全ての卵から雛が孵っている。
子爵邸のサンルームで過ごしている彼らはポポカさんとアシュとアスターから餌を貰いながら、すくすくと成長していた。時折、お猫さまが高い位置で眼光鋭く見据えているので、野生の本能が疼くらしい。
本人、本猫曰く、野生の本能を我慢してこそ三叉よ、と言っていたけれど目が真剣だった。大丈夫か心配になるけれど、その時はジャドさんがお猫さまを止めてくれるとのこと。頼もしい限りだけれど、ヤーバン王国にグリ坊さんたちが孵ったことを報告しに行く予定が、アシュとアスターがポポカさんの雛の世話を始めたので延期になっている。
『ピョエ』
『ピョエー』
『ピョ』
『ピョ』
アシュとアスターが子爵邸の家庭菜園で捕まえてきた虫を雛たちに与えていた。与え終えるとせっせとサンルームを飛び出して、子爵邸の裏庭へと駆けて行く。ポポカさんたちもアシュとアスターに引っ付いているけれど、足の速さはグリフォンさんに敵わないようである。
微笑ましい光景だけれど凄くヘンテコというか、弱肉強食を無視した光景に笑いそうになる。アシュとアスターとポポとカカとココとロロとララから餌を貰えなかった仔は『ピョ!!』と絶叫している。暫く待っていれば、またアシュとアスターが戻ってきて、雛に餌を与えた。遅れてポポカさんたちも戻ってきて、雛に餌を与えていた。さっき餌を貰えなかった仔も食べることができて、満足そうに咀嚼している。卵から孵ったばかりで食べるのが下手糞だけれど。
「グリフォンさんたちは心配いらないかな。ポポカさんたちがもう少し大きくなったら、島に戻ってみるのもアリかもね」
私はジークとリンの顔を見上げて、ポポカさんたちの将来を語る。もう少し卵を産んで貰って数を増やしてからでも良いかもしれないが、子爵邸の環境に慣れきってしまえば手遅れだろう。慣れる前に島に戻って頂き、島の環境に順応すべきだ。ジークとリンはポポカさんとグリフォンさんたちの姿を見ながら口を開く。
「元は島に住んでいるからな。子爵邸の環境より島の環境に慣れて貰わないとな」
「アシュとアスターも付いて行きそう」
ジークとリンの言葉に頷いた私は苦笑いを浮かべてしまう。
「そうなるとヤーバンの女王陛下が泣きながら訴えてきそうだね……」
有り得そうで少し心配だ。グリフォンの雄はヤーバン王国に集まって生活して、雌に気に入られた雄が繁殖期のお相手となるらしい。雄たちの間で熾烈な戦いが繰り広げられるのだが、ジャドさん曰く雄が勝手にやっていることであり強さは関係ないとか。事実を知ったヤーバン王国で生活する雄の方たちが総崩れになりそうだから、世の中知らない方が幸せなこともあるのだろうと乾いた笑いを出すしかなかった。
「ナイはヤーバン王国にくるように誘われているんだよな?」
ジークが私を見下ろしながら小さく右に顔を傾げる。
「うん。無理強いはしないし、気が向いた時で良いからきて欲しいって女王陛下から言われてる」
ヤーバンの女王陛下は私が向かえばジャドさんたちも一緒だと確信しているのだろう。彼女たちが一緒でなければ凄く落ち込みそうである。
「行くの?」
「どうだろう。治世が安定していないなら行かない方が良いかなって。元々、外の人間を寄せ付けていないから、女王陛下に反感が高まることもあるだろうし」
ヤーバン国内の話は女王陛下から聞いているのだが、他の方からどのような状況なのか全く情報が入ってこないのだ。一応、鎖国状態は解かれたので近隣諸国と小規模な取引をしているらしいが、国内の状況が全く分からない。
女王陛下の入国許可があるといえど、危なそうなので遊びに行くのを躊躇っている状態だ。ジークとリンも、ソフィーアさまとセレスティアさまと家宰さまも私を危ない状況に放り込む気はないようで、ヤーバン王国行きの話をあまり口にしない。
「ヤーバン王国の国是を考えると強ければ問題なさそうだが……」
「ナイがヤーバン王を倒したら、ナイが王さまになりそうだね」
確かに強ければ全てを捻じ伏せられそうだが、リンが口にした通り面倒な展開になる予感しかしない。まだ様子見かなと笑って、ポポカさんとグリ坊さんたちの微笑ましい姿を眺めるのだった。
◇
ヴァンディリア王国とアルバトロス王国を分断している山を越え、正規の入国手続きをする。冒険者は冒険者登録証があれば身分証となるため他国への入国が安易だ。しかし入国した国で狼藉を働けば冒険者ギルドに迷惑を掛けることになるため、マトモな者ほど己の身を律する。
私もまたアルバトロス王国で問題を起こさぬようにと気を引き締め、山を越えた先にある検問所でアルバトロス王国の騎士が私の冒険者登録証を見ながら入国可と判断を下してくれた。
不審者扱いを受けなくて良かったと安堵しつつ、検問所の近くにある宿屋へと辿り着く。宿屋に併設されている飯処では見知った顔が私に向かって手を振っている。本当に何故彼らは私に構うのか。しかし悪いことではないし、むしろ冒険者として打ち解けているようで嬉しい気持ちもある。
ヤーバン王国という閉じた国から出てきた田舎者の元王子を煙たがらないのは、彼らがSランク冒険者という最高位に就いているからだろうか。
「気を張り過ぎじゃないかい、シルヴェストル」
手招きをしていた男が私に席を進めた。断る理由はなく素直に腰を下ろして、私はにこりと笑う優男の顔を見た。彼は私とは正反対の見目である。自分で言うのもアレだが、本当にSランクパーティーリーダなのかと問い質したくなるくらい彼は細身で冒険者には見えない。
どこかの高位貴族のご落胤だと言われれば信じてしまいそうなほど、見目は整っており穏やかな顔をしている。戦闘になれば一変して戦士の顔になるのだが、日常では本当に不思議なほどに冒険者と感じさせない。私は私で、元王子には見えず野性味が強いらしい。この言葉は目の前の彼の仲間である治癒師の女性の言であった。
「そう見えるだろうか?」
Sランクパーティーのリーダーを務める目の前の彼に私は返事をする。身を律しているだけで緊張などはしていないのだが、ずっとアストライアー侯爵に礼を伝えたいと願っていたから仕方ないのかもしれない。
「見えるからリーダーが言ってるんじゃねえか」
「まあ良いじゃない。シルヴェストルらしいよ」
「問題を起こすよりマシね」
大柄な前衛を担っている男と治癒師の女性と魔術師の女性がカラカラと笑うが、不快感は湧かなかった。
「僕はアストライアー侯爵閣下に助けられたからね」
「そうなのか?」
こと戦闘において物凄い実力を発揮する彼がアストライアー侯爵に助けられた所を全く想像できないが、嘘を吐くような男ではないと私は知っている。彼がそう言ったならば真実なのだろう。彼のパーティーメンバーも深く頷いているのだから。
「うん。詳しくは機密が関わるから言えないけれど、シルヴェストルと気持ちは一緒かな。お礼は伝えているけれど、一度だけじゃ足りないからね」
どうやら目の前の彼は私と同様にアストライアー侯爵閣下に恩義があるらしい。どこでどう関わったのかは分からぬままだが、侯爵閣下であれば各大陸を飛び回っていると聞くから、冒険者と関わることもあるのだろう。
それになにやら閣下の屋敷では西の女神さまが滞在していらしていると噂も流れ始めていた。信じる者もいれば、そんな馬鹿なと一笑する者もいる。噂は火元がなければ立たないものだと考えている私には、嘘ではないだろうと判断していた。
「本当に奇跡だったな、アレは」
「リーダーが強運だったってこともあるんじゃない?」
「言えてる」
リーダー以外の三人がなにかを思い出しているようで、うんうんと頷いていた。そうしてSランク冒険者パーティーリーダーが私の顔を覗き込む。
「近くに冒険者ギルドがあるんだ。そこでアストライアー侯爵に手紙を渡す方法を模索しよう。理由を話せば協力してくれるはずだよ」
王国内にある唯一のギルドなのだそうだ。アルバトロス王国は障壁を展開しているためか、冒険者を重宝しておらず自前の騎士団と軍で魔物や魔獣に対処している。西大陸では珍しいが、アルバトロス人は他の国より魔力量が多いから、自前で戦力を整えられるのは必然なのかもしれない。席から立ち上がり食堂から出て暫く歩けば、森に入る手前にポツンと一軒の建屋が見えた。少し寂しい感じがするのは、建屋が古いからだろうか。
「あそこだよ」
「普通は王都にあるものでは……?」
冒険者ギルドを前にしてパーティーリーダーが私に声を掛けた。彼は珍しく苦笑いを浮かべているが、そこにどんな感情が宿っているのだろう。深入りしない方が良いかと前を向けば、少しだけ事情を教えてくれた。
曰く、少し事情があって王都から移転したそうだ。アルバトロス王国の冒険者ギルドは暇だから、辺鄙な場所でも問題ないと冒険者ギルド本部に判断されたとか。冒険者を重宝していない国でも、普通は王都に冒険者ギルド支部を構えるものだが……なにか理由があるのだろう。私たちはギルドの扉を開けて、中へ足を踏み入れる。
「らっしゃい。珍しいな本業の冒険者が現れるなんて」
冒険者ギルドの受付に座っている眠そうな顔の男が私たちを見るなり声を上げた。本業というのは冒険者業を本職としている者を差す。副業として冒険者を担っている者もいるため、区別するためのものだった。
「こんにちは、支部長」
「おう。しかしこんな辺鄙な所にどうしたんだ。奥の森は関係者以外立ち入り禁止だぞ?」
どうやらリーダーとパーティーメンバーはギルド支部長と顔見知りのようである。軽く挨拶を交わせば、直ぐに雑談へと移行していた。そうしてリーダーは事の経緯を伝えると、ふむと頷いたギルド支部長が声を上げる。
「王都の教会にアストライアー侯爵に手紙を渡して欲しいと願い出るのが正攻法か。侯爵閣下と顔合わせを済ませているなら、屋敷の門兵に渡すのもアリだが」
私はなるほどと頷くのだが、どうしてギルド支部長という上の立場の者が受付を担っているのだろうかと首を傾げるのだった。