魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0562:久方ぶりの再会。

 ヴァンディリア王国とアルバトロス王国の国境付近からアルバトロス王都へと向かっている。

 

 何故か、Sランクパーティーの彼らも私と一緒なのが凄く不思議だが、一人で旅をするよりも誰かと語りながら幌馬車に揺られている方が気楽だ。国境から王都までは二週間の道のりを要すので、馬車の護衛を務めて路銀を浮かせてみたり、安宿に泊まり酷い目にあったりと王子として生きていれば体験できないことをできた。アルバトロス王国は小麦の一大産地ということもあり麦畑を多く抱えている。目の前で広がる麦畑は先が見えないほどに続き、馬車はその中にある一本道を進んでおり幻想的な光景を作り上げていた。

 

 「もう直ぐ王都だね。シルヴェストル」

 

 「ああ。やっとアルバトロス王都だ」

 

 Sランクパーティーリーダーが片眉を上げながら私の顔を見て笑っていた。そんなにおかしなことを私はしていたのだろうかと疑問を持つが、ずっと広がる小麦畑を飽きもせず見つめていれば変な男と思われても仕方ない。

 私は前を向いて彼と視線を合わせ、一つ頷いてからアルバトロス王都へ入れることを喜べば、他のメンバーも私を見て『良かった』と笑てくれる。彼らが私に良くしてくれる理由は定かではないが、この数週間彼らと一緒に旅をして距離が縮まった気がする。

 

 そうして数時間馬車に揺られていれば、アルバトロス王都を囲む壁が見えてくる。やっと着いたという安心感と、アルバトロス王都の教会は私がアストライアー侯爵閣下に向ける手紙を受け取ってくれるのだろうかと不安が入り混じる。王都の外と中を繋ぐ門の前で馬車が停まる。門の前には行商人や旅の者が多くごった返していた。門兵も眼光鋭く我々に視線を向け、妙な輩は通さないという強い意志が表れている。

 

 「検問だ。降りよう」

 

 リーダーの声に倣って馬車から降り、自分たちの番がくるのを待つ。アルバトロス王国は冒険者を頼りにしていないので、門兵からの質問が厳しいものになるかもしれない。やましいことは一つも犯してはいないが、私はアルバトロス城内で不敬を働いた身だ。

 もし門兵に私の過去を責められるのであれば、一緒に旅をした者たちに迷惑が掛からぬように動かねば。彼らもアルバトロス王と既知らしいので、問題を起こした私よりすんなりと抜けられる可能性がある。順番待ちをしていれば、Sランクパーティーメンバーの治癒師の女性がひょっこりと私の視界に現れた。

 

 「そんなに緊張しなくても」

 

 苦笑いを浮かべる彼女は私のことを気にしてくれているようだ。黙って待ちながら己の過去を振り返るより、彼女と他愛のない話をした方が気が休まると小さく息を吐いた。

 

 「む。私は緊張などしていない……と言いたいが、前のことを考えると……」

 

 肩の力が抜けていくのを感じて、私は相当に緊張していたようだと悟る。

 

 「でも今は冒険者のシルヴェストルでしょ? 大丈夫って簡単には言えないけれど、問題があったならアルバトロス王国入りはできないよ。それか途中で捕まって追い出されてるかな」

 

 へらりと笑って私を諭す彼女の隣に大柄なパーティーメンバーの男が立った。男はにやりと笑って右手を少し後ろに引いた。

 

 「ここまできたんだ。腹を決めろ!」

 

 彼の言葉と共に右手が私の腰に勢い良く当たりバチンと良い音が鳴った。

 

 「っ!」

 

 痛いという声を私は我慢して耐える。流石Sランクパーティーメンバーの一角を担う男の腕力は凄まじい。私が同じ威力を出せるかと問われれば、難しいと言わざるを得ないくらいに痛かった。

 

 「暴力反対ー!」

 

 「乱暴者は嫌われるわよ」

 

 私が痛みに耐えていると治癒師と魔術師の女性二人が大柄な男を見上げて抗議の声を上げる。これはいつものことなので、仲間同士のじゃれ合いなのだろう。その証拠にリーダーは笑って見ているだけで、彼らの行動を諫めない。

 

 「は? シルヴェストルが男の癖に気の小せぇこと言ってるから、気合を入れてやったんだろうが!」

 

 男が腕を組んで女性二人を威圧しているが彼女たちに効果は薄い。はあと男が盛大に息を吐けば、リーダーが苦笑いを浮かべながら、門の先を指差した。

 

 「そろそろ順番がくるよ」

 

 リーダーの声にそれぞれが頷いて、門兵からの質問や疑問に答えて彼らはあっさりと入場許可を得ていた。そうして私の番がやってきて、表情一つ変えない門兵は目線を合わせる。門兵の瞳に映る私の姿が映っているのが分かってしまう。

 

 「身分証の提示を」

 

 「こちらになります」

 

 やましいことはしていないが、どうしても過去の己がやってしまったことを考えてしまう。一応、ヤーバン王であった父の命に従っただけだとアルバトロス王国は判断してくれ、不敬を働いた処分を受けることにはならなかった。本当に今生きていることが不思議だと小さく笑っていると、門兵が冒険者証と私の顔を何度も視線を行き来させている。ヤーバンの元王子だと分かったのだろうか。

 

 「王都への入場を許可する」

 

 「ありがとう」

 

 暫しの沈黙が降りたものの、なにもなく入場許可が下りた。ふうと息を吐いた私にSランクパーティーメンバーが良かったと、私と同様に彼らも安堵の息を吐いていた。馬車と御者も入場許可が下りて、アルバトロス王都の中へと踏み入れた。

 壁の中に入れば王都民が忙しなく歩道を歩いている。馬車は石畳の道を目的の場所までまっすぐ進む。そうして商業地区で降りた私たち一行は、近くにいた者を捕まえてアルバトロス王都の教会がどこにあるのかを聞き出した。

 アルバトロス王都に住む者たちは冒険者が珍しいのか、私たちを見て少し立ち止まりまた通り過ぎて行く。石を投げられないだけマシだろうと笑い、教えられた道を歩いて進む。立ち並んでいる店の外観が少しばかり豪華になった頃、目の前に大きな教会が見えた。力こそ全てと唱えているヤーバン王国で教会を見たことはないが、外に出ると各国の至る場所に教会があった。

 

 教会は西大陸を司る女神を讃えていると教えて貰った。確かに凄い存在の方を祀っているが、己の力で全てを掴み取れと教えられてきた私からすれば女神に祈るという行為はイマイチ理解できぬまま今に至っている。

 ただ本気で女神に祈っている者の姿を見てしまえば、卑下してはならぬと分かる。妹はどうだろうか。豪快な性格をしているから信じたい者は信じれば良いとカラカラと笑い、父であれば軟弱なことをするなと怒り散らしそうである。

 

 教会の大扉を潜るため階段を上って行く。そうして閉じている扉を開こうと手を乗せた。私の後ろにはSランクパーティーの皆がおり、大丈夫かと心配そうに息を呑んでいた。

 

 「頼もう!」

 

 扉を開けば眼前に真っ直ぐ続く道があり、最奥に祭壇と呼ばれるものが見えた。後ろに控えていた皆が『道場破りじゃないんだから』『なんかズレてるな』『頼もうって……』『らしいと言えばらしいけれど』と各々が口にしているので、私の言葉の選択が少し不味かったようである。

 ただ吐いてしまった言葉は飲み込めないので、このまま行くしかないと教会の中へ足を一歩踏み入れる。左右に広がる信徒席の数の多さに驚きつつ、私が声を上げると掃除をしていた一人のシスターが顔を上げた。

 

 「あら、どう致しましたか?」

 

 まだ若そうなシスターが小さく首を傾げて私たちの下へと歩いてくる。もう一人目に布を掛けたシスターも我々に気付いて歩いてきているのだが大丈夫だろうか。

 目を布で覆っているシスターの手をもう一人のシスターが手に取って、一緒に歩いてくる。その姿にほっと息を吐いた私は彼女たちがくるまでこれ以上中に入るのは止めておこうと足を止めた。そして後ろに控えていた皆が私の横に並び、こちらに歩いてきているシスター二人に小さく頭を下げた。

 

 「お騒がせをして申し訳ありません。少し僕たちの話を聞いて欲しくて」

 

 私より先にSランクパーティーリーダーが声を上げた。先を越されてしまったが私が喋るよりも、彼が取り次いだ方が話が順当に進むはず。どうにも私は厳つい顔をしているようで、ヤーバン以外の女性に怖がられる節がある。

 それを踏まえると、もしかしてアストライアー侯爵閣下も怖がらせていたのだろうか。むむむと顔が歪んでいくのが分かるが、今は深く考えるのは止めておこう。認めた手紙をどうにかアストライアー侯爵に届けたいと、アルバトロス王国にまでやってきたのだから。

 

 「構いませんよ。ただ一つだけお願いがございます」

 

 「武器の持ち込みは禁止させて頂いております。お預かりさせて頂いても宜しいでしょうか」

 

 シスター二人がにこりと笑い、私たちが携帯している武器を預かりたいと願い出た。確かに武器を持つ相手と話し合いなど落ち着いてできやしない。武器を持ったままであれば、脅しを掛けられたと主張されてもおかしくはないだろう。

 我々はアルバトロス王国に属する騎士と軍人ではないのだから。素直に腰に佩いている長剣と短剣を預けると他の皆も武器を差し出す。盗まれないように係の者が監視をしてくれるとのこと。

 

 そうして我々は祭壇前へと案内されれば、神父を呼んでくると言い残し二人は奥へ消えていく。皆と一緒にアルバトロス教会の祭壇を眺めていた。興味本位で天井を見上げれば、建築職人たちが精を込めて造ったであろう飾りがいたる所に散りばめられている。

 治癒師の女性がいろいろと私の側で説明をしてくれた。キラキラと目を輝かせて無知な私に教えを説く彼女は、女神に対する信仰心が高いようである。説明を聞いていれば、神父と呼ばれる者がこちらにやってきた。

 

 「ようこそ、アルバトロス教会へ。話があるとシスター二人から聞き及びましたが、一体どうなされたのか」

 

 立派な髭を生やした好々爺という雰囲気の者は信徒席を指し私たちに着席を促した。そうして私は懐からアストライアー侯爵閣下に認めた手紙を取り出す。あまり綺麗な字ではないが丁寧に書いたものだから、誰が見ても読めるはず。

 

 「率直に伺うが、アストライアー侯爵閣下に手紙を渡したいのだが、教会を経由して渡して貰えないだろうか?」

 

 「それは……できないことはありませんが、一つ受け取れば、次も受け取らなければなりません」

 

 私が開口一番に言葉を紡げば、老神父は一瞬で微妙な顔になった。彼の言い分は理解できる。一つ前例を作ればアストライアー侯爵閣下と接触したい者たちが、こぞって教会に訪れるだろう。彼らに迷惑を掛けるつもりはないので、引き下がるべきかと取り出した手紙をもう一度懐に仕舞いながら声を上げる。

 

 「しかし、人が多いですね」

 

 教会というものは誰にでも開かれているそうだ。しかし朝のまだ早い時間に訪れるのは意外である。皆、仕事をしている時間ではないだろうかと老神父に声を掛けた。

 

 「今日は治癒院が開かれますから」

 

 「王都に住まう方はもちろんですが、遠方からもいらっしゃいますので」

 

 老神父の後ろの控えていたシスター二人がニコニコと笑いながら状況を教えてくれる。治癒院とはなんぞと私が首を傾げていると、苦笑いを浮かべながら治癒師の女性が小声で教えてくれる。

 どうやら知っておくべき世の中の基本知識だったらしい。一度も世話になったことはないし、ヤーバン王国では病気や怪我は呪術師を頼る。治癒魔術を使える聖女に安い値段で治癒を施して貰うため、人が多く集まるとのこと。なるほどと納得していると、三つ編みに白い衣装を纏った女性が姿を現す。彼女はたまたまこの場所を通ったようだが、Sランクパーティーメンバーの顔を見て、目を見開いた。

 

 「皆さんは……!」

 

 「あの時の!」

 

 白い衣装を纏った女性を見た皆は席から勢い良く立ち上がった。私だけ腰を掛けているのは失礼かと、彼らと一緒に腰を上げる。

 

 「良かったぁ。元の生活に戻れたのですね!」

 

 てててと小走りでこちらにやってきた女性は胸の前で手を組んで、Sランクパーティーリーダーの前に立ちにこりと笑った。

 

 「はい。大きな怪我を負いながら、聖女アリアさまとアストライアー侯爵閣下のお陰でなにも問題なく冒険者として立ち回れています。あの時は本当にありがとうございました!」

 

 リーダーと他の皆が彼女に頭を下げるのだが、状況が掴めないと私は首を傾げるだけだった。

 

 ◇

 

 どうやらSランクパーティーリーダーは過去に聖女アリアとアストライアー侯爵閣下から治癒を受けたそうだ。かなりの重傷を負い命の危険があったものの、二人のお陰で命拾いしたとか。他にも怪我を負った彼を運んだ竜にもお礼を言いたいようだが、流石に探すのは無理があるようだった。他のメンバーも聖女アリアに頭を下げているのだが、本人は恐縮しっぱなしでアストライアー侯爵閣下がいなければ助けることは無理だったと謙遜していた。

 

 「侯爵閣下も聖女アリアさまがいなければリーダーの命は助からなかったと仰っていました」

 

 「本当に大怪我だったもの。並の魔力量での治癒は無理だったでしょう」

 

 魔術に詳しい治癒師の女性と魔術師の女性が聖女アリアを褒め称えると、言われた本人はぼっと顔を染めて照れている。

 

 「皆さんはどうしてアルバトロス王国の教会に?」

 

 「彼がアストライアー侯爵閣下に手紙を渡したいと願っていたんです。僕たちも侯爵閣下といろいろな方にお礼を伝えたかったので一緒にアルバトロス王国入りしました」

 

 聖女アリアがSランクパーティーリーダーに訪問した目的を問うた。特に隠していないし、やましいことなど一つもないので正直に彼は彼女に答える。彼女はアストライアー侯爵閣下と同じ聖女のようだから、せめて私たちがアルバトロス入りしたことだけでも閣下に伝わると良いのだが。リーダーが私に視線を向けたので、流石に名乗らないわけにはいかないと礼を執った。

 

 「初めまして。冒険者のシルヴェストルと申します」

 

 「……? 初めまして。聖女アリアと申します」

 

 彼女は私の名前を聞いて少し首を傾げたのだが、直ぐに気を取り直して名乗ってくれた。人懐っこそうな女性で、ヤーバン王国の女性たちと比べると随分と柔らかい雰囲気を持っている。初対面の女性となにを話せば良いのか分からず、私は押し黙ってしまう。気の利いた者であれば、彼女と何度か会話を交わすのだろう。どうにも私は世間と人付き合いというものが分かっていない。

 

 「閣下に伝えたいことがあるなら、私がお伝えしましょうか?」

 

 聖女アリアが唐突に放った言葉は私にとって有難いものだった。しかし良いのだろうかと首を傾げる。

 

 「それはとてもありがたいが、貴女に迷惑が掛かるのは望んでいない」

 

 「確かに、聖女アリアさまに迷惑を掛けたくはないね」

 

 私とSランクパーティーリーダーが聖女アリアに気持ちを伝える。彼女の言葉は本当に有難いものだが、私には彼女がどのような立場の者か分からない。位の低い者がアストライアー侯爵閣下に会えるとは考え辛いし、無理して彼女が会おうとすれば問題となってしまう。

 

 「聖女として、閣下と顔を合わせることがありますから。それに皆さまは閣下とお話がしたくて教会を訪ねたのですよね?」

 

 私たちの心配を他所に目の前の彼女はなんの疑いも持たず、私たちのことを気に掛けてくれる。私は嘘を吐くわけにもいかず、先程神父に話したことを彼女に伝えると更に笑みを深めた。

 

 「それなら大丈夫かと。皆さまが訪れたことは教会を経てアルバトロス王国と侯爵閣下の耳に入ります。私が閣下とお会いした時にお礼を伝えるくらいなら問題ないです!」

 

 確かに私たちがアストライアー侯爵閣下を訪れたことを黙っていれば、教会の皆はアルバトロス上層部から良いように思われないだろう。教会も私たちが訪ねてきたと報告するのが真っ当な道筋である。

 

 「その……申し訳ないのだが、閣下のお陰でシルヴェストルは世界を広げることができ、感謝していると伝えて貰えないだろうか」

 

 「もちろんです! 必ずお伝えしますね!」

 

 にこりと笑う彼女に私は安堵の息を吐く。一応、アルバトロス王国に足を踏み入れた価値はあったのだろう。そうしてリーダーも彼女に対面した。

 

 「僕も、助けて頂いてありがとうございますと伝えて貰えないでしょうか」

 

 「はい! 承知致しました!」

 

 彼女の言葉に続いてパーティーメンバーもそれぞれお願いしますと彼女に伝えている。骨折り損かとおもいきや、唐突に現れた聖女アリアのお陰で私の気持ちを閣下に伝えることができそうだと安堵の息を吐くのだった。

 

 ◇

 

 少々ナイさんの下から離れるのは口惜しいですが、ヤーバン王国の女王に仔が無事に孵ったことを伝えに行かねばなりません。

 

 アシュとアスターはポポカたちのお世話をしているので、ヤーバン行きに興味はないようです。イルとイヴは私から話を聞いて『行きたい!』とノリノリで私とヤーバンへ向かうことになりました。

 まだイルとイヴは小さく繁殖期を迎えてもいないので、ヤーバンで過ごしている雄が反応することはないでしょう。仔を見たヤーバンの女王が驚く姿が楽しみだと笑っていると、ナイさんとジークフリードさんとジークリンデさんとソフィーアさんとセレスティアさんが見送りに庭に出てきてくださいました。 

 

 有難いことですと目を細めれば、ヴァナルさんとユキさんとヨルさんとハナさんと彼らの仔である三頭も一緒にきています。スライムのロゼはナイさんの影の中にいるのでしょう。スライムは気まぐれなのでいないのは理解できますが、何故、女神さまがナイさんたちと一緒におられるのでしょうか。しかし、こんなに嬉しいことはないと彼女たちがこちらにくるのを待ちます。

 

 途中でエルさんとジョセさんとルカとジアも合流して、とても賑やかな雰囲気です。朝陽が差す子爵邸の庭で少々騒がしいことになっておりますが、ナイさんのお屋敷ですから仕方ありません。

 ナイさんは私を見上げて可愛らしいお顔を見せてくれています。私が顔を寄せると、彼女が手を伸ばして顔を撫でてくれました。気持ちが良いので、もう少し堪能したいのですが行ってきますの挨拶をしなければ。

 

 「ジャドさん気を付けてくださいね」

 

 ナイさんに先を越されてしまいました。なんだか言い知れぬものを感じますが、まあ良いでしょう。へなっと笑っている彼女の顔は嫌いではありません。ナイさんは私が強いことを知っているので、単独でのヤーバン行きに特に反対はしておりません。ただ仔であるイルとイヴが私の背中から落ちてしまわないかと凄く心配をしておりました。我が仔がそんな間抜けなことをする訳がないのですが彼女らしい心配です。

 

 『はい。イルとイヴを落とさないように飛んで行きます』

 

 もう一度ナイさんに顔を寄せて撫でて貰っていると、クロさんが『気を付けてね~』と声を掛けてくださいました。クロさんはとても強い竜のお方であるのに、私たちに強く出ることはありません。

 いつもナイさんの肩の上でご機嫌に過ごしていらっしゃいます。クロさんほどの力を持っているならば、子爵邸の広さでは足りないほど大きくなっていてもよさそうですが人間の肩の上で収まるサイズでいらっしゃるのは皆さまと一緒にいたいのでしょう。

 

 私の足下で元気に走り回っている毛玉三頭も『いってらっしゃい』と言っているようです。そうして私が地面に屈めば、娘のイルとイヴがひょいと私の背に乗りました。私が立ち上がればイルとイヴが『高い』『高い!』と言いたげにきょろきょろと顔を動かしながら一鳴きします。そして、行ってきますと皆に知らせるように。特徴的な髪型をしている方は私の方を心配そうに見ておりました。

 

 『セレスティアさん、必ず戻ってきますので心配なさらず。では』

 

 凄く心配そうな顔をしている彼女に声を掛けてから、ナイさんたちへ別れを告げます。ヤーバン王国へ向かうのは久しぶりですが、グリフォンの雄たちは元気にしているのでしょうか。

 

 「いってらっしゃい」

 

 ナイさんの声を聞き女神さまが手を振っていることを確認して、私は自慢の翼を広げて空へと旅立ちました。竜のお方の背に乗って王都の街並を眺めておりますが、やはり自分の翼で空を飛ぶのは良いです。イルとイヴも興味津々に眺めているので、良い刺激になりましょう。ふと、王都のとある場所に見知った顔を発見しました。グリフォンの目はとても良いので、遠く離れていたとしても人間の顔の識別は簡単です。

 

 『おや、あれは……』

 

 ヤーバン王国の元王子ではありませんか。ヤーバン王国を追放されて冒険者になると聞いていたのですが、その後はさっぱりと彼の行方を知りません。一応、冒険者になって活躍しているとは耳にしておりましたけれど。

 興味が湧いたので高度を下げてみましょう。確か教会と呼ばれる建物の前、ヤーバンの元王子と数名の人間が立ち、もう一人はアリアさんではありませんか。妙なことに巻き込まれているのかと、私は少し降りる速度を速めました。

 

 『アリアさん』

 

 「ジャドさん? どうしてこちらに?」

 

 彼女とは私がヤーバン王国へ赴くことを告げているので、教会の前に現れたことを驚いているようです。イルとイヴも私の背の上でアリアさんの姿を納めようと、きょろきょろと顔を動かしておりました。

 

 『アリアさんの姿が見えましたので。妙な輩に絡まれているのかと心配になって降りてきました』

 

 私の姿にアリアさん以外がとても驚いております。そんなに目を見開かなくても良いですし、近くに寄ればアリアさんの側にいる方たちは変な方ではありませんでした。ヤーバンの元王子以外はどなたか知りませんが、ただ者ではありません。人間にしては強く、全員で私を襲えば負けてしまいそうな気がします。

 

 「ありがとうございます。大丈夫です! 皆さんは知り合いなので」

 

 アリアさんが皆へと視線を向ければ、うんうんと彼らは頷いています。

 

『おや、私の早とちりでしたか……これは失礼を。貴方はヤーバンの元王子ですよね?』

 

 「は! 貴きグリフォン殿に声を掛けて頂けるとは光栄であります!!」

 

 ガチガチになりながら返事をくれる彼に苦笑いを浮かべてしまいそうになりますが、もう少し普通にお喋りしたいものですが無理なお願いなのでしょうか。まあ良いかと私は頭を切り替えて、ヤーバンの元王子にもう一度問います。

 

 『お元気でしたか?』

 

 「ヤーバンの民故に頑丈だけが取り柄です。問題ありません!」

 

 びしっと姿勢を正した元王子に側にいる者たちが苦笑いを浮かべていました。少し面白い状況ですが、そろそろヤーバンに赴かなくては。

 

 『そうですか。私は今からヤーバン王国へ向かいますが貴方も一緒に行きますか?』

 

 「私は国を追われた身です。国に戻れば迷惑を掛けましょう。グリフォン殿のお気持ちだけ頂きます」

 

 一瞬彼の顔に影が差すものの、直ぐに良い顔になりました。以前より彼は男前になっているような気がします。

 

 『おや、残念ですが仕方ありません。なにか伝えたいことは?』

 

 「妹に兄は外の世界を知れて幸せだと伝えて頂けますか?」

 

 妹とはヤーバン王のことですねと確認を取り、私は彼らに別れを告げて空へと飛び立ちました。少し前は頼りなさそうな男でしたが、少しの時間会わないだけで随分と成長するものですね。人間とはかくも面白い生き物だと笑い、アルバトロスの空へと再び舞い上がるのでした。

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