魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――ヤーバン王国へと辿り着きました。
ふと、感じたことですが以前より空を翔ける速度が速くなっているような。もしかすればナイさんのお屋敷に住まわせて貰っていることで影響を受けているのかもしれません。敷地内は魔素で満たされております。何故と考えたのですが、特殊な障壁が張られているので魔素の逃げ道がなくなっているのかもしれません。ナイさんは気付いていないようですが、おそらく障壁を解けば魔素の濃度は薄くなるはず。
おそらくユキさんとヨルさんとハナさんにエルさんとジョセさん、お猫さん辺りは気付いているのではないでしょうか。ナイさんは知らない方が幸せなのかもしれないので黙っておきましょう。解除されてお屋敷の魔素が薄くなっても困ります。
ヤーバン王国の王都の空を旋回しているのですが、地上の皆さまが私の姿に気付いたようです。そして城の中庭から一頭のグリフォンが私の方へと飛んできました。
雄同士の喧嘩の末に隻眼となったグリフォンで、ヤーバン城で暮らしている個体です。そういえば私の旦那さまとなるので、卵から孵った仔を見せるべきでしょうか。少し考えながら飛んでいると、雄グリフォンが私の隣に並びます。
発情期を迎えていないので、彼も私に詰め寄ることはありません。なにやらピョピョエ私に語り掛けておりますが、とりあえずバルコニーに出ているヤーバン王を見つけたので、そちらへ向かいましょう。まだピョエピョエ鳴いている雄グリフォンを放って、私は下降していきます。
『ピョエェェェエエエエエエエ!』
はいはい。無視はしますが、最低限の扱いは致しますよと私は後ろを飛ぶ雄グリフォンに視線を向けます。私の背中に乗っているイルとイヴは父親のことを良く分かっていないようで、首を傾げておりました。
イルとイヴが父親である雄グリフォンと戦えば、どちらが勝つでしょうか。今は成長中の彼女たちなので難しいかもしれませんが、一年程時間が経てば勝てそうです。その頃にはイルとイヴもアシュとアスターも成獣として誇らしい姿となっているはず。楽しみですねと目を細めれば、ヤーバン王の顔が随分とはっきり見える位置になっています。
「おーい! おーーーい!!」
バルコニーで私と雄グリフォンを見上げるヤーバン王が大声を上げて、私と雄グリフォンを呼び止めています。しかしバルコニーにグリフォンが二頭も降りれば狭くなるのは必至です。
一先ず彼女に挨拶をして庭に出ましょうと誘うのが一番良いでしょうと、バルコニーのヤーバン王の前で私は滞空飛行をしています。キラキラと目を輝かせているヤーバン王の側に護衛が何名か就いているのですが、上半身裸の人間の男性を見るのはなんだか気恥しいです。
以前はなんとも感じていませんでしたが、ナイさんのお屋敷で生活を送るようになり人間の男性は服を纏って身形をきちんとしております。女性も肌をなるべく肌を隠す格好をしているのですが、ヤーバン王国は肌の露出が多いと小さく息を吐きました。
『お久しぶりです、ヤーバン王。アレクサンドラさんと呼んだ方が良いでしょうか?』
私から口を開けば、ヤーバン王が顔を赤く染めます。雌同士なので顔を赤らめる理由が分りませんが、なにか意味があるのでしょう。相変わらず目の前の子はグリフォンに物凄い憧れを持ったままのようです。他の者も私を見て驚いているのですが、少し視線の質が違いました。ナイさんたちは最初こそ驚いていたものの、対等に接してくれるようになりました。ヤーバンの者たちが普通の態度になってくれるのはいつの日になるのか。
「名で呼んで頂けるのであれば、この上なき幸せです!」
彼女が凄く嬉しそうに願い出ました。これは次に彼女をヤーバン王と呼んでしまえば、目の前の子は凄く落ち込みそうです。私の隣を飛んでいた雄グリフォンは一回り小柄故、バルコニーに降りてアレクサンドラさんの隣に並びます。どうやら真正面から彼の姿を私に見て欲しいようです。器用なことをしておりますねと目を細めて嘴を開きました。
『ではアレクサンドラさんと呼ばせて頂きますね。あとナイさんに名前を頂いて、今はジャドと名乗っております』
私が名乗ると彼女が一瞬残念そうな顔をしました。もしかして名前を私に付けたかったのでしょうか。
「良い名です。私も貴女のことを名前で呼んでも宜しいでしょうか?」
彼女はすぐさま鳴りを潜めて小さく笑います。また卵を産めば次の仔には彼女に名前を付けて頂きましょう。ナイさんの下で付けて貰えば魔力を仔に譲渡できるでしょうから特に問題が見当たりません。
『はい。せっかく頂いたものですし、名前で呼んでくれる方が嬉しいので』
私は未来を考えながら、ふふふと笑うと彼女ももう一度笑ってくれました。
「アストライアー侯爵から話を聞き及んでおりましたが、仔の方までご一緒なのですか?」
『ナイさんは仔たちが向かうことまでは記していなかったのですね。まあ急な話でしたので許してください』
私がヤーバン王国へ挨拶に赴くことをナイさんはアレクサンドラさんに伝えてくれたのですが、仔たちまで赴く可能性があったことは記していなかったようです。最初は私がヤーバンに行く予定だったので、報告漏れは致し方ありません。でもナイさんであれば可能性として記しそうなものですが忘れていたようですね。
「いえ、驚いただけで全く問題ありません」
『お話をしたいので庭に出て頂いても良いですか? 流石にこのままの状態は辛いので』
仔たちも私の背から降ろしてあげたいですし広い地面が恋しいのですと冗談めかして伝えれば、アレクサンドラさんは急いで庭に出るようにと皆に伝えるのでした。私は指定された場所に降り立つと、隻眼の雄グリフォンも一緒に並び立ちます。
何故、私についてくるのか分からないので一睨みすれば、ピョエと短く情けない声を出して地面に伏せをします。この姿は敵意はないという印なのですが、もう少し堂々と振舞っても良いのではないでしょうか。しかし雌の方が強いグリフォンの世界です。雄が小さくなるのは仕方ないのでしょう。
「すみません、お待たせをしてしまいました」
少し息を切らせながらアレクサンドラさんたちが庭に姿を現しました。彼女たちの姿を見るなり、隻眼の雄グリフォンが地面から立ち上がりました。どうやらヤーバンの者には情けない姿を見せたくないようです。
『仔が産まれ、名も頂いたのでヤーバン王国の皆さまにご挨拶をしようと思い立ちまして。ヤーバンが雄のグリフォンを守ってくれなければ、仔が増えることはなかったでしょう』
私が続けてありがとうございますと伝えれば、アレクサンドラさんが片足を地面に叩きつけてぴしりと背筋を伸ばしました。おそらくヤーバン式の敬礼とやらでしょう。
ナイさんのお屋敷でも護衛の方が彼女に用があるときに敬礼を執って確認をしたり、どこかへ行ったり、今回のように礼を執っています。人間社会で暮らしていなければ、知らないままでいたのでしょうねえと感慨深くなりました。
「光栄の極み!」
『仔たちも卵から孵ったので、雄の二頭はヤーバン王国でお世話になるかと。その時がきたらよろしくお願い致します。あと背中の二頭が雌になりイルとイヴです。ご挨拶を』
私の背中からイルとイヴが顔を覗かせると、アレクサンドラさんとヤーバン王国の者たちが『おお!』と声を上げ顔を緩ませました。彼らが顔を緩くするのは仕方ありません。
仔たちは凄く可愛らしくピョエピョエと鳴き、少したどたどしい脚取りですもの。ナイさんも可愛いと仰ってくれましたが直ぐに興味を失ってしまったようです。ずっと可愛いと私と一緒に仰ってくれるのはセレスティアさんでした。よちよちと歩くイルとイヴの姿を見てそれはもう蕩けた顔をしているので、私は彼女の隣に並んで『可愛いでしょう』と言うのが癖になってしまいました。
「まだ幼いですね。ヤーバンにくるグリフォンは成獣なので、お目見えできて本当に嬉しいです!」
アレクサンドラさんがぱっと顔を輝かせながらイルとイヴに視線を向けています。私が挨拶をと二頭にお願いしたためか、イルとイヴはヤーバンの者たちに頭を下げておりました。
二頭は賢いですねえと感心していると、アレクサンドラさんも『まだ幼いのに、このようなことを。きっと賢い仔に育ちます!』と良い顔をしてくれます。そうでしょう、そうでしょうと彼女と一緒に頷いていると、イルとイヴがアレクサンドラさんの顔を見上げました。
『ピョエ!』
『ピョエ?』
嘴を大きく開けてアレクサンドラさんに訴えています。内容は……これは伝えても良いのか悩みます。どうしようかと私が首を傾げると、アレクサンドラさんが私に通訳してくれという必死の視線が飛んできました。致し方ないですね。私の言葉ではなく仔の言葉なので大丈夫でしょう。時に幼い仔の言葉は鋭い牙や爪と同じになりますが。
『どうして裸なのかと言っておりますねえ』
「…………も、申し訳ない! ヤーバンの男は上半身裸が正装なのです! 女も他国の者と比べると肌の露出が多いのやもしれません……!!」
アレクサンドラさんがイルとイヴの下にしゃがみ込んで語り掛けました。一応、子爵邸で人間の言葉を覚えているのでイルとイヴには伝わったでしょう。
『ピョエー……』
『ピョエ~~』
イルとイヴはもの凄く恐縮しているアレクサンドラさんにまた語りかけました。
『どうやら雌として恥ずかしいようです』
「な、なんと! まさかグリフォンの雌があまり寄り付いてくれないのは我々の衣装っ!!?」
ガンとなにかで叩かれたように衝撃を受けているアレクサンドラさんの姿は年齢相応のものでした。彼女についている護衛の方々はどうしたものかと頭を抱えているようです。そしてイルとイヴが器用に翼を動かして目元を覆ってしまいました。
ヤーバンに雌が寄り付いてくれないのは、単純に雌が産まれ辛く生息数が少ないからではないでしょうか。アレクサンドラさんは周りの方々の顔を見て、右腕を前に突き出し、ご自身が纏っていた外套を逆の手で掴みます。
「っ! 皆、仮で良い。外套で身体を隠せ! グリフォン殿に失礼な姿は見せられん!」
そうしてアレクサンドラさんも外套で肌を隠してくれました。やはり肌が出過ぎているのは目のやり場に困るので今の状態の方が良いです。イルとイヴも目元を覆っていた翼を元に戻して一鳴きしていました。
「ぬう。これは我々の失態……衣装の改善を試みねば」
アレクサンドラさんと護衛の方たちが唸りながら、今後どうしようかと悩んでおります。流石に上半身裸で他国をウロウロするのは不味いですし、服を着てくれるならば協力致しますよと彼女に伝えます。
『おや。イルとイヴも手伝ってくれるそうです。まあ、なにができるのか全く分かりませんが』
「ジャドさまが私の隣で服を着て欲しいと言ってくれれば、皆は納得してくれます! そうしてくださるなら、凄く助かります!!」
私の声にアレクサンドラさんが身体を前のめりにしながら声を上げました。どうやらヤーバン王国ではグリフォンの言葉は凄く意味を持つようです。彼女が悩まずに済むなら良いかと私は快諾して、ふと思い出したことがありました。
『ああ、そうそう。貴女の兄君にお会いしましたよ。冒険者として頑張っているようです』
「ジャドさまはあの者にお会いしたのですか。しかし、どうして?」
アレクサンドラさんはお兄さんのことを兄とは言えないようでした。いろいろとあったと聞いているので、突っ込まない方が良いだろうと話を続けます。
『偶然ですね。こちらへ参る途中にアルバトロス王都の教会で姿をお見かけしました。ナイさんにお礼を伝えたいと言っていましたねえ』
「アストライアー侯爵に? しかし冒険者でしかないあの者が会えるわけが……」
『会うのは難しいかもしれませんが、彼は運を持っているようですねえ』
なにせアリアさんと一緒にいらしたのです。彼女であればきっとナイさんに事の次第を伝えてくれるでしょう。アルバトロス王国の教会で話したことをアレクサンドラさんに伝えて、私はグリフォンを祀っている霊廟へと赴き祈りを捧げ、ヤーバン王国をあとにするのでした。
◇
ジャドさんがヤーバン王国から戻ってきた。道すがら、というか王都の教会でヤーバンの元第一王子殿下とSランクパーティーの皆さまとも出会ったそうで少し話していたようだ。その場に偶然居合わせたアリアさまからも話を聞いており、元第一王子殿下とSランクパーティーの皆さまは私にお礼を伝えたかったようである。
手紙を渡そうとしたらしいけれど、教会が受け取ったと知れば他の方々からも渡される可能性が高くなるので、神父さまたちは受け取らなかったようである。その代わり、偶然出会ったアリアさまとジャドさんが私に伝えると約束をしたそうだ。
昼下がりの午後、子爵邸の東屋でジークとリンと私はアリアさまとロザリンデさまとジャドさんから元第一王子殿下とSランクパーティーの皆さまの話を聞いている所だ。
ソフィーアさまがお薦めしてくれた、王都で人気のお店からクッキーを買い付けてお茶請けとして出している。流石、公爵令嬢さまのお薦めの品は上品な味だと感心しているのだが、アリアさまとロザリンデさまも茶請けに伸ばしている手が止まらないようである。二人とも細いのだからもっと食べなさいと言いたくなるが、彼女たちは胸部装甲へ栄養が回りやすいようなので決して口には出さなかった。
クロとアズとネルはお茶請けと一緒に出された果物に集中している。ヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは私たちの側で陽向ぼっこをしてくつろいでいた。
ロゼさんは図書室で本を読んでいる。どうにも女神さまのためにと妖精さんが本を持ち込んでくれるので、彼女と一緒に読書に勤しんでいる。
毛玉ちゃんたち三頭はアリアさまとロザリンデさまと私のふとももに脚を置いて構えと訴えていた。私があとでねと伝えると、鼻を鳴らした三頭が拗ねてヴァナルと雪さんたちの身体の間に挟まった。ヴァナルと雪さんたちはやれやれと毛玉ちゃんたち三頭を迎え入れ、こちらは気にしなくて良いと視線で訴えてくれる。
ヤーバンの元第一王子殿下はアルバトロス王国での用事を済ませたので、次はリーム王国へと渡るそうだ。何故かSランク冒険者パーティーの皆さまも彼にくっついていくそうである。なんだか面白そうな道中が繰り広げられていそうだなと笑いながら私は口を開いた。
「元気そうでなによりです」
元第一王子殿下はBランク冒険者となっているそうだ。Bランクがどこまで凄いのか分からないけれど、聞いた話によれば良い位置に属しているらしい。Sランク冒険者パーティーのリーダーさんもなに不自由なく冒険者として勤しんでいるそうだ。前より動きが良くなったらしいのだがきっと気の所為である。
「はい! リーダーさんも問題なく冒険者業を担っていると教えてくださいました」
「重度の怪我を負ったのに後遺症もなく過ごせているのは奇跡ですわ」
アリアさまとロザリンデさまが私の声を聞いて答えてくれた。アリアさまはパーティーリーダーの傷をきちんと治せたことが嬉しいようである。ロザリンデさまもアリアさまの治癒の腕前に感心しているので嫉妬は抱いていないようだ。
昨日も一緒に治癒院に参加していたそうなので、相変わらず二人は仲が良い。私も治癒院に参加したいけれど騒ぎになるのは確定だし、妙な方が手紙を渡してくるかもしれないので我慢である。侯爵領の教会で治癒院に参加したらどうなるのだろう。迷惑が掛かってしまうかなと頭の中で考えていると、アリアさまがへにゃりと笑って私を見る。
「ナイさまのお陰です! 私一人だと魔力が足りなかったですから」
「繰り返しになりますが、アリアさまがいなければリーダーは命を落としていたでしょう」
私もアリアさまを見て片眉を上げた。背後に控えているジークとリンが『またその話題か』と言いたげな雰囲気を醸し出しているが、リーダーの怪我の話になると繰り返される事柄だった。とはいえ、いい加減にしつこいとお互いに気付いているので肩を竦めて笑い合う。まあ助けた方の運が凄く良かったのだろう。高度な治癒を施せる人と魔力を譲渡できる者が一緒に居合わせたのだから。
「ナイさま、アガレス帝国に向かうと小耳に挟みましたが……」
ロザリンデさまが持っていたティーカップを下ろして私に問うた。お二人であれば私の予定を知っても問題ないので告げておく。私がいないとユーリの所にマメに顔を出してくれているから有難いことだ。でも、私のことをユーリが忘れてしまわないかと心配になるのが外泊のマイナス要素だった。
「あ、はい。明日から二泊三日ほど出掛けてきます。お土産はなにが良いでしょうか?」
私はロザリンデさまとアリアさまにお土産はなにが良いのか聞いてみる。贈る品がなにが良いのか考えるのが面倒、とかでは決してない。
「ナイさま、お願いがあります!」
アリアさまが元気に手を挙げる。
「どう致しました?」
「えっと代金はお支払いしますので、天然石を買ってきて頂けないでしょうか?」
「それは構いませんが」
どうして、と私が聞くとアリアさまが答えてくれる。どうやら私がエルたちに贈った天然石をアリアさまのご実家であるフライハイト男爵領に居着いた天馬さまも欲しいとお願いされたようだ。
エルとジョセはフライハイト男爵領へ時折顔を出しているので、天然石を身に着けた姿を向こうの天馬さまが見たのだろう。特に問題はないので了承しておくと、ロザリンデさまもご家族に贈りたいとのことで代金を預けたいと仰った。
お二人の予算もあるだろうし、買い付けする天然石の質や個数、色に希望している効果を聞き取ってメモを取る。金額の大小は男爵家のご令嬢さまと侯爵家のご令嬢さまでは違うので、なにも言わない。アリアさまとロザリンデさまも分かっているので喧嘩や対立することもないまま、話を終えて席を立つ。そうして子爵邸の廊下をジークとリンと私で歩いていると、ふと思い出したことがある。
「あれ、お土産の話が吹っ飛んでる」
アリアさまの勢いに押されてすっかり忘れていたと私が頭を抱えると、後ろを歩いていたそっくり兄妹が苦笑いを浮かべていた。
「悩まないとな」
「一緒に悩もう、ナイ」
くすくすと小さく笑っている二人に私は肩を落として、一緒に考えて欲しいと願い出た。何気に沢山の方に渡しているし、毎度同じ品だと飽きてしまうので時間を食う作業なのである。ソフィーアさまとセレスティアさまにも助言を貰おうと決めて、ユーリの部屋に顔を出し明日からお出掛けだからと告げアガレス行きの準備を整えるのだった。
――翌日。お昼過ぎ。
アガレス帝国の壁の外に辿り着けば盛大な歓迎を受ける。ウーノさまと妹殿下方も外へと出てきており、すごーく緊張した顔になっている。一応、西の女神さまと東の女神さまが赴くことはウーノさまに伝えてある。
伝えていたのだけれど、何故か北と南の女神さまとクマのぬいぐるみ――ユーリのを借りた――に意識を憑依させているグイーさまが私たち一行の中にいる。北と南の女神さまとクマのグイーさまは正体を明かさず、私のお供とすれば良いと仰っていたが流石に存在感があり過ぎるので直ぐにバレると告げていた。
なら、バレない内は黙っていて欲しいとお願いされたし、責任はグイーさまが背負ってくれるとのこと。ウーノさま方が腰を抜かしそうだなあと目を細めながら、ディアンさまの背に乗ってアガレス帝国に赴いた次第である。ちなみに銀髪くんに西の女神さまが会うということで、今回の飛竜便はディアンさまが担ってくれた。ベリルさまとダリア姉さんとアイリス姉さんも一緒なので、今回の顛末を見届けるようだ。
ある意味当事者であろうクロは渋い顔でどうしたものかと考えている。
クロは銀髪くんをどうこうしたい訳ではなく、罰を受けているならそれで良いじゃないと考えているようだ。西の女神さまもクロの意思を受け取って、銀髪くんへ手を出す気はないけれど弱っていたご意見番さまを何故殺めたのか問いたいそうだ。
銀髪くんは四女神さまとグイーさまの圧に耐えられるだろうかと心配になりながら、ウーノさまと久し振りに顔を合わせた。先に私から口を開けば彼女の面子に関わると視線を合わせるためだけに止めていたのだが、どうやら東西の女神さまがいらっしゃることで彼女はガチガチになっている。
「皇帝陛下。盛大な歓待、誠に感謝致します」
仕方ないと私から声を掛けると、ウーノさまがはっとした顔になる。他のアガレスの面々もはっと気を取り直しているようだった。ジークとリンの腰元でレダとカストルが『仕方ないのでしょうね』『女神さまがいるからなあ』と小さい声でやり取りしている。彼らは動けない分、口が自由だった。
「っ! ナイさま、いえ、アストライアー侯爵、アガレス帝国へようこそ。そして東の女神さま、西の女神さま、アガレス帝国にお越しいただき感謝の極みです。亜人連合国の皆さまもようこそいらっしゃいました」
ウーノさまが慌てた顔で礼を執る。女神さまズには深くお辞儀をしていた。
「お邪魔するね。私だけだと駄目かなと考えて、東の妹も連れてきた。好きにすると良い」
「姉さま、そのような言い方は止めて下さいませ。姉の命でアガレスの地に立つことになりました。久方振りですが、随分と大きな街になりましたね」
西の女神さまと東の女神さまは完全に上下関係が決まっており、妹は姉に逆らえないようである。ちょっと面白い関係だなと私がお二人に目を向けていると『西の姉御は相変わらずだな』『本当にマイペースなお姉さまです』と南と北の女神さまがぼやいている。グイーさまは動くことはできずぬいぐるみの視界共有と喋ることしかできないが、なにか面白いことが起こらないかなーという雰囲気を醸し出していた。
「お褒め頂きありがとうございます。アガレス帝国となってから随分と時間を経ています故に、帝都は見事な繁栄を遂げました」
ウーノさまの言葉に西の女神さまが一番大きな街だから見るのが楽しみと告げ、東の女神さまが興味があるのは良いですが急に消えないでくださいましと苦言を伝えている。
どうやら西の女神さまは興味が湧くと意識がそちらへ偏って、周りが見えなくなるようだ。そして東と北と南の女神さまが西の女神さまの行動を諫めていたのだろう。仲良し姉妹だなと感心していると、西の女神さまは一つ頷き三女神さまは微妙な顔になっている。まあ四姉妹の事情は、よそ様の家庭のことだから突っ込みを入れると巻き込まれる。黙っておいた方が良いと考えていると、竜の姿のままのディアンさまとベリルさまがぬっと顔を地面に近づけた。
『すまない、少し席を外させて貰えないだろうか?』
『人化して参りますので……』
ディアンさまとベリルさまが人化すると服は纏えないので全裸となるらしい。なので人の気配がない場所で人化を毎度行っているとか。護衛の男性にお二人の服を預けて追いかけて貰う。まだ少しこの場で待機していなければいけないなと考えていると、ダリア姉さんとアイリス姉さんが半歩前に出る。
「申し訳ないわね。少しだけ待って欲しいの」
「ごめんね~流石にみんなの前ですっぽんぽんになる訳にはいかないから~」
お二人が告げれば、ウーノさまはお気になさらずと口にした。ウーノさまとアガレス帝国の皆さまとアストライアー侯爵家一行と亜人連合国のダリア姉さんとアイリス姉さんで予定の確認をしていると、ディアンさまとベリルさまが戻ってくる。
竜の姿も大きくてカッコ良いけれど、人化した姿もカッコ良いよねえとヴァナルの方を見た。ヴァナルも人化すればカッコ良いだろうし、楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんも大きくなって人化すれば美人さんになるはず。雪さんたちはまあ、顔が三つ並んでいるのは怖いので考えないようにしている。
アガレス帝国の帝都の外で今回のメンバーが集まった。そうして開口一番に西の女神さまが雰囲気をがらりと変える。
「鉱山、どこ?」
短く告げた西の女神さまにウーノさまたちが背筋を伸ばして、一先ず帝都へと入るのだった。