魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
アガレス帝都に辿り着く。飛空艇から降りればお迎えの馬車が待ってくれており、案内役の方に従って馬車に乗り込む。どうして私は四女神さまと同席することになっているのか不思議だが、一応監督者みたいな立場なので致し方ないのだろう。
アストライアー侯爵家一行のソフィーアさまとセレスティアさまは他の馬車に乗り込み、ジークとリンは外で警護に就いている。亜人連合国の皆さまも馬車に乗り込んで移動している。
四女神さまとも外が面白いのか、窓に視線を向けて流れる景色を楽しんでいる。超豪華な馬車が帝都の街を走るのは珍しいのか、少し遠巻きにアガレス帝国民の皆さまがこちらに視線を寄越していた。
一応、皇族の方が使う馬車のようで正面にはアガレス帝国の国章があしらわれており、金細工がこれでもかというほど施されていたのだった。窓に視線を向けていた北と東の女神さまが意識をこちらへと戻した。
「馬車に初めて乗りましたわ」
「わたくしも」
ふふふと笑いながら馬車には初乗りだと教えてくれる。私は楽しんでいるようならなによりと笑みを返すのだが、彼女たちの声で南と西の女神さまも馬車の中へと視線を戻した。
「あたしはナイの所で乗ったな」
「私も。窓から見る景色、楽しい」
ふふんと良い顔になるお二人に、北と東の女神さまがマウントを取られたことに気付いてむっと頬を膨らませる。西の女神さまがお姉さん気質があるものの、何気に四姉妹は仲が良いように見える。私の腕の中にいるクマのぬいぐるみは、女性ばかりの馬車内に気押されているのか無言を貫いていた。クロも私の肩の上で大人しくしているので、女神さま方の会話に加わる気はないようだ。
えっと、これは私が諫めるというか間に入っていかないといけないのかと迷っていると、帝都にある中央広場を通りかかった。その場所は初代アガレス帝の巨像があった場所である。昼日中故に広場は多くの屋台が軒を連ねていた。呼び込みをする声や威勢良く値引きを迫る声と応じるお店の方の声、そして元気に走り回っている子供たちの声も響いている。
私が巨大アガレス像を粉微塵にしたことで広場の面積が広がり、出店できるお店が多くなっているようだ。まあ、前の状態を知らないから想像だけれど。ふいに惹かれた景色を目を細めながら見ていると、西の女神さまが私の視線を向けている窓へと身体を寄せてきた。むに、と当たる彼女の胸に思うことは多々あるのだが一体どうしたのだろうか。
「ナイは人の営みを見るのが好き?」
西の女神さまの息を感じる距離で私に問いかける。実際どうなのだろうか。私は爵位を得ているから領地を発展させる義務がある。治めている領地の参考にならないかと出掛けた先ではいろいろと見ているつもりだ。
「どうでしょう。暗い顔をして歩いている姿より、活気がある街を見た方が好きですが」
私が西の女神さまに返事をすれば、彼女は良い顔になる。西の女神さまは人間が日常を送っている姿を愛おしく感じているようだ。そういえば人間の諍いを見るのが嫌で引き籠もっていたのだから、ありきたりな日常や幸せを大切にしている女神さまなのかもしれない。
時折過激だけれど、それはグイーさまとテラさまの性分を彼女が引いているのかもと笑えば、南の女神さまが腕を組んで口を開いた。
「ま、シケた面して歩いていたら、ぶん殴りたくなるよなあ」
うんうんと納得している顔で頷いている南の女神さまだが、もしかして彼女が恐れられている原因の一部はソレではなかろうか。でも急に理不尽に殴られるのはとても意味が分からないだろうし、殴られた方も気の毒である。
「南の女神さま、過激です。せめて理由を聞いてから殴ってください。そして治めている領主が原因の時は領主を殴ってください」
私が言葉を返すと南の女神さまがきょとんとした顔になる。民の皆さまが暗い顔をしている時は悪政を敷いて苦しんでいるか、天災に襲われてしまったか、飢饉に煽られているかくらいだろう。
娯楽の少ない今の時代、他愛のないことで大笑いできるのが今を生きている方々だ。小さなことでも生きる楽しさを見つけて、日々を不足なく過ごしている。確かに暗い顔をして歩いていればどうしたのか気になるので、南の女神さまなりの発破を掛けているのかもしれないがやり方が過激だ。例外は人様の容姿を馬鹿にする方だろうか。それなら遠慮なく殴っても良いだろう。だって女神さまだし。
「ナイも過激ではありませんか」
「ええ。でも各大陸の情勢を鑑みれば、ナイの言葉が正解なのでしょうねえ」
北の女神さまと東の女神さまが南の女神さまと私とのやり取りを見て笑っている。それでもまあなにか感じるところはあったようで、シケた顔をして歩いている人間を見つけたら、理由を聞いてから殴ってくれるようだ。
「そういえば北の女神さまと東の女神さまはご自身が管轄している大陸にご興味はないのですか?」
二柱の女神さまは大陸に降臨されたと聞かないのだが。どうして東大陸の皆さまは黒髪黒目を信仰しているのかという謎もあるので、話の切っ掛けとして丁度良い内容だろう。
「もう人間は繁栄を手に入れて成熟しているもの。あとは滅びの時を待つだけ、といった所かしらね」
「お嬢ちゃん、そんな顔をしないで頂戴。生き物はいずれは滅ぶもの。父さまが管理している星もそうだし、他の神々が管理している星も同じよ」
微妙な顔になった私に笑みを浮かべた二柱の女神さまは、だからやりたいことをやり切りなさいと仰った。ようするに悔いのないように生きろと言いたいらしい。
「姉御たちがマトモなこと言ってるぞ」
「珍しい」
南の女神さまが目を丸くして、西の女神さまが目を細めながら感心していた。彼女たちの言葉にぷうと頬を膨らませる北と東の女神さまの姿は本当に人間臭い。
「ちょっと、姉さま、おチビちゃん?」
「失礼ですわ」
引き続きぷうと頬を膨らませている二柱の女神さまを北大陸と東大陸の方が拝めば
そこから東大陸がどうして黒髪黒目を信奉しているのか聞き出そうとした時に、丁度アガレスの皇宮に辿り着く。馬車回りで止めた馬車から降りると、アガレスの帝室の皆さまが勢揃いしていた。女性人口が多いのは致し方ない。
「皆さま、おかえりなさいませ」
ウーノさまの声が響けば、他の皆さまの声もあとに続く。そうして私はウーノさまと視線を合わせる。
「お出迎え、ありがとうございます。陛下、我々の要望を受け入れて頂き感謝致します。時間がある時に、鉱山でのことをご相談したいのですが可能でしょうか」
「もちろんです。アストライアー侯爵」
ウーノさまが快く返事をくれるのだが、爵位で呼ばれるのはなんだかむず痒い。他の方々もいるから当然のことでも、慣れていないことには敏感だ。私は片眉を上げているとウーノさまも小さく笑って、移動しようを促される
そうしてウーノさまがチラチラと女神さま方の方へと視線を向ける。なにか言葉を交わしたいけれど、ご自身から話しかけても良いのか迷っているようだ。私も女神さま方へ視線を向けると、仕方ないと南の女神さまが後ろ手で頭を掻いて半歩前に出る。
「これから飯なんだよな?」
南の女神さまの対応にウーノさまが目を輝かせ、三女神さまは南の女神さまに対応を丸投げしていた。なんだか南の女神さまから苦労人臭が漂ってきている気がするし、私も今は彼女と同じ状況なので笑えない。
いつか南の女神さまと一緒に三女神さまの愚痴を零す日が訪れそうである。む、と唸りそうになりながら未来を思い描いていると、ウーノさまが口を開く。
「はい。アガレス帝国にいる最上級の料理人が腕を振舞います。是非、お楽しみくだされば嬉しく存じます」
ウーノさまが微笑みながら南の女神さまに告げた。彼女は随分と嬉しそうな顔をしているのは、南の女神さまが黒髪黒目だからだろうか。もし仮に街へと繰り出す時は黒髪を隠して貰った方が良いのかもしれない。私もアガレスの皇宮から外に出るときは、騒ぎになると困るのでフードを着用している。
「すまねえな。押しかけちまって」
「いえ。大陸を司る女神さまをもてなす機会はそうありませんので、お気になさらないでください」
南の女神さまが軽く謝罪を入れるとウーノさまがぶんぶんと顔を振る。まあ四女神さまが揃って帝室を訪れたとなれば、ウーノさまに凄く箔が付くはずだ。銀髪くんの件で要らぬ手間を要したし、女神さまの訪問でチャラになると良いのだが。
「楽しみ」
西の女神さまがウーノさまと南の女神さまの会話に加わって、ご飯が楽しみだと伝えた。私も美味しい料理を食べるのは楽しみだけれど、東大陸のアガレス料理は少々辛い。
共和国だと甘い料理が多かったと記憶しているので、共和国に寄ってお砂糖やチョコレートを確保したいけれど騒ぎになるだろう。我慢をするか、アルバトロス王国教会で研修を受けているプリエールさんを介して共和国政府を頼ろう。プリエールさんを介していれば、彼女と私の関係が薄れることはないし、共和国政府も彼女を見捨てることはない。
「姉さまとおチビちゃんらしいですわねえ」
「食い気が先に出ていますもの」
北と東の女神さまが口を揃えた。どうやら二柱の女神さまは食に拘りはないようである。せっかく美味しい料理を食べられるのに興味がないのは残念だ。腕の中のクマのぬいぐるみは『美味い酒があるなら羨ましい』とぼやいていた。
酔っ払いになってアガレスの空にオーロラを出現させれば大騒ぎとなるので、お腹を壊しそうな原因を作るのは止めて頂きたい。グイーさまの本体は神さまの島にあるけれど、クマのぬいぐるみを介して見ているのでなにか起こってしまう可能性もある。
「女神さま方のご要望通り、参加者は最低限とさせて頂いております。では会場までわたくしがご案内致しますね」
ウーノさまは公務もあるだろうに笑って私たちを案内してくれる。有難いと頷いて私はアストライアー侯爵家一行と女神さま方と亜人連合国の皆さまに行きましょうと促した。そうして凄く豪華な部屋へと入れば、各自椅子へと導かれるのだが女神さまと私が上座になっているのは気の所為だろうか。
そして対面にはウーノさまと妹殿下四人が席に腰を下ろしている。私が持っているクマのぬいぐるみは机の上に置かせて頂いた。
給仕の方が凄く緊張した表情で私たちの後ろに立っているのだが大丈夫だろうか。気になるけれど余計なプレッシャーを与えるのは申し訳ないので、放置を決め込むしかない。彼らが失敗してしまえば庇えるようにだけ気を張っておこうと、運ばれてくる料理を見ながら心に誓う。そうして並べられたカトラリーを手に取って前菜を一口、口の中へ放り込み嚥下する。
「辛さがマシになってる……」
以前食べたアガレス料理より辛味が控えられていた。それでも辛いけれど火を噴くほどではない。肩の上に乗っているクロが『良かったねえ』としみじみと告げ、女神さまたちは慣れた手つきでカトラリーを使い、前菜を口の中へと運んでいる。
辛さは気にならないようで平然としているが、南の女神さまだけは少し顔を歪めている。彼女はグラスを手に取って一気に水を飲み干した。そうして他の三女神さまがあらあらと
「ナイさまは辛いお料理は苦手と把握しておりますから、料理人に頼んで辛さを控えて貰いました」
ふふふと笑みを携えているウーノさまに私は南の女神さまも辛味が苦手だと伝える。ウーノさまは失礼しましたと慌てて謝れば、南の女神さまは気にするなと仰るがやはり辛さは控えて欲しいそうだ。そうして次のお料理から南の女神さまも辛さを控えた品となり、私がほっと息を吐いているとクマのぬいぐるみがたまらず声を上げた。
『美味そうだなあ……食べているお前さんたちが羨ましいぞ』
「へ? ぬいぐるみが喋った!?」
声を上げたぬいぐるみに驚いた表情でウーノさまがたまらず声を上げる。他の妹殿下方も驚いて目を真ん丸に見開いてフリーズしていた。南の女神さまは『我慢できなかったか、親父殿は』と呆れて息を吐き、北と東の女神さまは『あらあら』と笑っている。
西の女神さまは我関せずとお料理をただひたすら口に運んでいた。最後まで黙っているつもりだったグイーさまの説明をしなければと、驚いたままのウーノさまに私は視線を向けるのだった。
◇
――妙な状況に陥っている。
クマのぬいぐるみが喋ってアガレス帝国の皆さまが凄く驚いているのだが、説明を求める視線が私に注がれていた。グイーさまも西と北と東は助け船も出してくれず状況を伝えれば良いじゃないという雰囲気で、南の女神さまだけが『悪りぃなあ』という顔をしている。悪いなという雰囲気であるが彼女が説明する気はゼロのようで、南の女神さまも結局説明は私に任せるようである。
一先ず、グイーさまについて説明しようと私は持っていたカトラリーをお皿の上に置こうとする。嗚呼、高級そうなお皿を傷付けそうで怖い、カチャとカトラリーの金属と陶磁器のお皿同士が当たる音が鳴れば、アガレスの皆さまがごくりと息を呑んだ。
「星を創造なされた神さまが状況を知るためにぬいぐるみを介して視界を共有しております」
私は説明の言葉を皆さまに伝えるのだが、自分でもなにを言っているのかイマイチ掴み辛い。私がこんな状況だからアガレスの皆さまにも状況が理解し辛いのではと彼らの顔を見てみる。あんぐりと口を開けている方々が殆どで、唯一ウーノさまだけがなにかを考えているような表情をしていた。大丈夫かなと心配しつつ、グイーさまにも一言貰った方が無難だろう。
「グイーさま、皆さまに一言あると嬉しいのですが……」
アストライアー侯爵家一行は事情を知っているし、クマのぬいぐるみを介してグイーさまと一言二言よろしくお願いしますと言葉を交わしている。だから私たちの側は驚いている方はいないし、アガレス帝国の皆さまには驚くのが普通だという視線を向けていた。
『やっと堂々と喋れるな! いやはや、驚かせてすまん!』
ふうと息を吐いたグイーさまが明るい声――割と音量が大きい――で言葉を発する。クマのぬいぐるみを介しているので、少し声が離れているような気もするが会話に支障はない。またアガレスの皆さまが目を真ん丸に見開いている中、ウーノさまが席から立ち上がり礼を執る。
「ア、アガレス帝国皇帝ウーノと申します。この度は星を創造なされたお方とお会いできたこと、誠に恐悦至極にございます」
ウーノさまが喋り終えると着席していたアガレスの妹殿下方も席から立ち上がり深く頭を下げた。
『そう畏まらなくて良いのだが……西の娘が件の男に興味を示した。地上の掟を詳しく知らんからナイを頼って其方の国にこさせて貰ったからな。美味い飯を食っているのが羨ましいわい』
今の状況はとんでもないものに見える。クマのぬいぐるみに頭を下げる帝国の皇帝陛下がこの世に存在するなんてと少し頭を抱えそうだった。でもグイーさまがクマのぬいぐるみを介して状況を見守っているのは嘘偽りのない事実だ。
これで『嘘だ!』と野暮な茶々を入れる方はいないよねと私はアガレス帝国側の方々を見回す。流石に四女神さまがいらっしゃることで、クマのぬいぐるみを介して話をしている方が創造神であると信じる他ないようである。彼らは嘘なら女神さま方が怒るだろうという認識らしい。
『男が西の娘を煽ってしまってなあ。今は別の所にいるのだが問題はないかね?』
あれ。グイーさまはこの手の説明をすっ飛ばしそうなのに、ウーノさまに確認を取っている。後で私も銀髪くんを鉱山労働から外しても良いか許可を得るつもりだったのだが手間が省けて有難い。
「はい。鉱山の労働者が一人減っても全く問題ございません。どうぞ神さま方のお好きなようになさってくださいませ」
ウーノさまはしれっと言い切ったのだが、本音はアガレスの元第一皇子殿下も連れて行って欲しいのではなかろうか。彼に苦労を掛けられていたようだし、姉弟仲も良いとは言えなさそうだった。ぶっちゃけ私も元第一皇子殿下は苦手である。初手でフルプレートの鎧を着て権威を振りかざしていたことが最大の原因のような気がする。
「あの、食事を摂ることはできませんか? 創星神さまにご用意致しますが……」
『この姿だから食べれんのだよ。ワシの身体は別の所にあるしなあ。気遣いを断ってすまんな。あ、そうだ。美味い酒があるなら娘たちに持たせてくれんか? 持って帰って貰う!』
グイーさまが要求すれば、本当にウーノさまたちが秘蔵しているお酒を提供しそうである。大丈夫かなと私がウーノさまに視線を向けると、彼女は綺麗に笑っていた。
「承知致しました。アガレス帝国が誇る美酒をご用意致しましょう」
特に問題はないようだ。あとでウーノさまに美味しいお酒が買い付けできそうなら、いろいろと聞いてみよう。公爵さまと辺境伯さまへのお土産に丁度良い。
『おお、本当か!? 嬉しいぞ!』
クマのぬいぐるみから凄く嬉しそうなオーラが漏れているような。そんなにお酒は美味しいものなのか。私は缶チューハイ一缶でフラフラするので前世では飲まずに、飲んだ方の面倒を見る方に回っていた。喜んでいるクマのぬいぐるみに南の女神さまがジト目を向けて盛大に息を吐いた。
「親父殿。酒がある分だけ飲んでいるんだから少しは自重しろ」
どうやらグイーさまはお酒があれば、ある分だけ飲み干してしまうようだ。悪酔いはしないようだから、美味しい美味しいと飲んでしまうのだろう。病気とも無縁そうだし羨ましい限りである。
「ええ。毎度酔ったお父さまの小言に付き合わされるわたくしたちの身にもなってくださいませ」
「酔うと本当にお喋りが止まらない悪癖は治して欲しいものです」
北と東の女神さまもグイーさまに突っ込みを入れていた。家庭内の愚痴を外で吐き出しているようにしか見えないが、きっとグイーさまを思いやってのことに違いない。
『……むぅ。すまん』
先程まで後光を背負っていたクマのぬいぐるみがぺしょっと小さくなった気がする。世のお父さま方は女系家族になると肩身が狭そうだなと私は目を細めていると、アガレス帝国の皆さまがグイーさまへ苦言を申し出た女神さまが珍しかったようで驚いている。
まあ、いきなり家庭の事情を見せられれば誰だって引く。彼らの反応は仕方ないと納得しているのだが、西の女神さまは次のお料理はまだだろうかと首を傾げている。そんなこんなで食事会は終わり、お泊りのために案内された部屋でくつろいでいた。私にと用意された部屋の中には何故か四女神さまが揃っているし、クマのぬいぐるみもテーブルの上に鎮座している。
「どうして女神さまがここに集まっているのですか?」
一先ず、皆さまに突っ込んでおかなければ。就寝まで一緒に過ごす予定のジークとリンも部屋にいるのだが、女神さまがやってきたことで護衛として壁際に立ってしまった。ソフィーアさまとセレスティアさまがいらっしゃった場合も同じだが、女神さま方の方が緊張が増すだろう。まあ、女神さまに詰め寄る人はいないのである意味超安全地帯ではあるけれど。
「暇」
西の女神さまは端的に言い切った。うん。確かに一人で過ごすのは暇だろうけれど、女神さまであればウーノさまに図書室の閲覧許可でも頂けば良かったのではなかろうか。
女神さまの足下で毛玉ちゃんたち三頭が構ってと強請っている姿を眺めるのは、凄く癒される光景だけれども。女神さまが暇だと分かった毛玉ちゃんたち三頭は首をこてんと傾げながら、片手前脚を女神さまの膝の上に置いて撫でてと要求している。
そうして西の女神さまは毛玉ちゃんたち三頭の下へと座り込んで、なでなで攻撃を開始した。最初に選ばれたのは楓ちゃんで、女神さまに選ばれなかった椿ちゃんと桜ちゃんはぴーと鼻を鳴らして少し拗ねている。
「他の所に行けば驚かれるしな。ナイの所なら問題が少ない」
南の女神さまが西の女神さまたちになにやってんだかというような視線を向けている。
「おチビちゃんに同意」
「同じくですわ」
北と東の女神さまは面白そうにくすくすと笑っていた。なんだか神さまの島にいる時より、皆さま楽しんでおられませんかと問いたくなるがぐっと我慢をする。面白いと言われてしまえば、なんだか私が彼らの接待をしなければならないような気がするのだ。
流石にお仕事があるのでずっと女神さま方の面倒を見る訳にもいかない。お貴族さまなので代官さまに領地管理を丸投げして、女神さま方のお相手を務めることもできる。でも私は領地運営は自分なりにやってみたいことがあるから、女神さまに付きっ切りという訳にはいかないのだ。
「明日は買い出しなので楽しめるのではないかと。帝都の皆さまはさぞ驚くことでしょうが……」
私は明日の予定を告げる。アガレス帝都の高級商店区だけれど、毎度の恒例行事と化した買い出しに行く予定だ。黒髪黒目を見るよりも、女神さま方を見る方が騒ぎになりそうだなあと目を細めると、私の肩の上に乗っているクロが小さく笑った。
『ボクを見ても凄く驚いていたからねえ。女神さまだったら腰を抜かす人が沢山いそうだねえ~』
呑気な声がクロから上がった。アガレス帝国で竜は西大陸よりも珍しいとされているから驚いている方が沢山いたけれど……女神さまの方が現実味が少ない。腰を抜かすどころか気絶する人が大勢出るのではなかろうか。でも、女神さまはアガレス帝国の街に興味があるのなら、ふらふらと出歩きそうである。
「だね。毎日女神さまに闊歩して貰えば、みんなが慣れて関心を寄せなくなるかもしれないけれど……アガレス帝国にずっと滞在するわけじゃないから」
「面白そうねえ。お嬢ちゃん」
私の言葉に東の女神さまが目を輝かせた。
「え?」
私の口から短い言葉が漏れる。面白い試みなのだろうか。確かに東の女神さまにとっては面白い状況になるかもしれないが帝都の皆さまが驚くはずである。せめて力を抑えて外出してくれれば良いけれど……東の女神さまは力を抑える術を知っているのだろうか。
「わたくしが管轄する大陸なら現界するための力の消費はかなり少ないし、毎日帝都を闊歩してみようかしら」
「せ、せめて皇帝陛下の許可をお取り頂けると……いろいろと助かります。あと力を抑えて頂けると」
私が微妙な顔をしていると、ジークとリンが今までアルバトロス上層部を困らせる立場だった私が、今は逆の立場になっていると渋い顔になっている。確かに私はアルバトロス上層部の皆さまにいろいろとぶん投げていたけれど、ここまでの無茶は言っていないような。
何故か私が外に出るとトラブルが起きて巻き込まれて、その結果の積み重ねで今がある訳でして。思えば三年間でいろいろなことがあったけれど、女神さま方と邂逅してからトラブルは減ったが、手配をする側に回っている。なるほど。今まで陛下方が私が起こすトラブルに対処してきた苦労なのかと納得していると、東の女神さまがぽんと手を叩いた。
「確か、お嬢ちゃんの正面に座っていた女の子よね?」
「はい」
私がひとつ頷けば東の女神さまが聞いてみるわと言い、西の女神さまが面白そうと目を輝かせているのだった。――申し訳ありません、ウーノさま。