魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
――アルバトロス王は羨ましい。
時々西大陸の各国の王が集まる会が開催される――王が集まる国の担当になれば警備などの手配が凄く大変――のだが、先日その場でぽつぽつと私に投げられた言葉だった。少し遠回しな言い様であったが、私は直ぐに西の女神さまがアルバトロス王国に滞在なされていることを言っていると分かった。
私は私でアルバトロス王として堂々と『貴国に女神さまが降臨なされた際はご満足いただける対応ができるのですな。それは良いことだ。女神さまは諸国を巡ることを希望しているのだから』と口にすると微妙な顔になる王が殆どだった。
アルバトロス王国のアストライアー侯爵の下に西の女神さまが滞在しているのは羨ましいが、実際に接待をする時はどう対応すれば良いのか分からないのだろう。彼らの頭の中では凄く資金が飛んでいくというイメージがあるようだった。
だが実際の西の女神さまはアストライアー侯爵が所持するミナーヴァ子爵邸で静かに過ごしている。
魔術師団の者たちから西の女神さまが彼らに魔術講義を行ったと報告で上がっていたが、我が国の戦力や技術が上がるのであれば問題ない。ヴァレンシュタイン副団長を筆頭にした魔術好きな者たちが暴走しないか心配なだけだ。
アストライアー侯爵の伝手を使ってフソウ国と亜人連合国へと見学に行って、少々忙しそうであるが今の所平和そのものである。西の女神さまがアストライアー侯爵家に訪れた際、また幻獣や魔獣が増え、他の女神さま方も滞在するのではという心配を多大にしていたのだが気配はないので一安心している所だった。
今回の各国の王が集まっていた内容を軽く説明しようと、私はアルバトロス上層部の者たちを会議室に集めていた。訪れているのは内務卿、外務卿、宰相と宰相補佐に、近衛騎士団団長、騎士団団長、軍を統括している叔父上であるハイゼンベルグ公爵にアルバトロス王国の要衝を護る家の者たち、そして辺境の護りを担うヴァイセンベルク辺境伯だ。
残りの者は彼らの補佐役である。私は会議室に最後に入り、上座に座ればさっそく声が上がる。付き合いも長く、謁見場のような形式は必要なく特に問題はなかった。
「陛下、各国の反応は如何でしたかな?」
不敵な顔で叔父上が私に問い掛けた。おそらく分かっていて彼は聞いているのだろう。周りの者たちも気になるようで、叔父上から私へと視線を移している。
「やはり女神さまの話題を多く振られたな。女神さまは諸国巡りをしたいようだと伝えれば黙り込んだ」
「それは、それは。しかし、アストライアー侯爵が四女神さまと創造神さまと一緒にアガレスに出掛けていると知れば彼らはどんな顔をするのやら」
叔父上の声に会議に集まった者たちが乾いた声を上げる。今、アストライアー侯爵は四女神さまと創造神さま一緒にアガレス帝国に赴いている。一応、アガレス帝国のウーノ皇帝陛下には女神さまの好物とアストライアー侯爵の好物を伝えておいたのだが、食事事情の違う国に教えても意味は薄かったかもしれない。
ただ、皇宮に勤める料理人の腕は確かなものだ。アルバトロス王国の料理本を大量に送っているので、直ぐに再現できるはず。アストライアー侯爵曰く、アガレス料理は辛いと聞いている。辛い料理が女神さまの口に合うのかが問題だなと私が天井を見上げると、ふっと叔父上が息を吐いた音が聞こえた。
「聖王国は?」
「なにも言ってこなかった。おそらく教皇から止められていたのだろう」
聖王国の教皇もやってきていたし、お付きの者たちも一緒だった。教皇が我々に無礼な態度を取ることはないのだが、周りの者たちがどんな態度になるのか想像は容易かった。しかし私を見ながらなにか言いたそうな顔をしていたので、女神さまについて聞き出したかったのだろう。
私と教皇の会話を遮ってしまえば、各国の王に良い印象を与えられないどころか、また締め付けが強くなると理解していたようだ。あと会合の場でいつもと違うことは……。
「あと、ヤーバン王が初参加していてな。周りから浮いていたから、会議の心得を伝えておいたが彼女には必要なかったかもしれぬ」
そう。最近、代替わりしたヤーバン王が初参加していたのだ。各国の王はどうしてあのような野蛮な者がという視線を彼女に向けていた。確かに恰好は蛮族――それでもマシになったそうだ――そのものかもしれないが、先代ヤーバン王から玉座を奪った傑物である。
他国の王の懐疑な視線を全く気にしないまま、彼女は私を見つけて良い顔で声を掛けてきた。問われたことは良い土壌を作ることに腐心しているとか、民が飢えないようにするにはどう立ち回れば良いのかという己の国を憂う事柄だった。
「若いが、若い故に前だけを向いている者です。彼女であれば問題なくヤーバンを統治しましょう」
叔父上が生やした髭を撫でている。彼であればヤーバンが牙を向けば、面白い受けて立つと言って勝利をもぎ取ってくるだろうが。だがヤーバン王国がアルバトロス王国に攻めてくることはない。いくつか国を経由しなければ辿り着けないこと、アストライアー侯爵の下にはグリフォンが居候しているのでヤーバンは我々を狙わない。それならばと私は口を開いた。
「ああ。農業関係で問い合わせを受けることもあるだろう。公開して良い情報は伝えてやってくれ。ヤーバンが落ちれば周りの国も困るしな」
ヤーバン王国が滅びて棄民や流民で溢れれば周辺国は困るだろうし、流れに流れ着いてアルバトロス王国へ辿り着く者がいるかもしれない。
「承知致しました。妙な王はいらっしゃいませんでしたか?」
「見た感じでは。とはいえ老獪な者もいるから、いつなにが起こるかは分からぬ。障壁も破られる可能性もあれば、聖女や魔力を注げる者がいなくなることもあろう。軍と騎士団は常に有事に備えよ」
武力を持っていれば他国へ侵略するのは簡単だが、戦争を始めれば終わらせることが難しいとも言われているし、事後処理もかなり手間が掛かるものである。どこかに争いの種火を残しているかもしれないのだから、戦争は外交努力によってなるべく避けたいものである。
「承知致しました」
「もちろんでございます」
「行けと言われれば、いつでも出征できますぞ、陛下」
近衛騎士団長と騎士団長と軍を司っている叔父上が私に返事をくれるのだが、叔父上だけ威勢が良いのはどうしてだろうか。頼もしい限りだが、無茶をしないで欲しいと私はアルバトロス王として願い、逞しい胃を取り戻したいと切に願うのだった。
◇
アガレス帝国の天然石を取り扱っているお店から私たちが馬車へと戻ると、座席に鎮座していたクマのぬいぐるみから圧が漏れていた。馬車に入って座席に座るなり、クマのぬいぐるみがカタカタと揺れている。
『どうして起こしてくれなかったんだ! 儂、ぷんぷんじゃぞ!!』
クマのぬいぐるみから発する声に怒気が含まれているものの、言葉使いが面白おかしいことになっていて本気でグイーさまが怒っているのか微妙な所だ。
「親父殿、ぐっすり寝てただろ。西の姉御が揺さぶっても起きなかったじゃねえか」
「うん。父さん、完全に寝てた」
南の女神さまと西の女神さまが薄目でクマのぬいぐるみに視線を向けているのだが、グイーさまが寝ていたことが悪いと一蹴している。グイーさまの威厳がゼロだけれど、家族だしこれで良いのだろうか。
神さま一家の内情を知ってしまい微妙な心境に陥りそうなので、私はクロに視線を向けるとクロがふるふると首を振って手出しできないと言っている。
『ナイ! ナイ、娘が儂を蔑ろにする! どうにかしてくれ!』
「文化が熟成すると男性の立場が弱くなる傾向があるので、神さまの島は文化的なのかと」
女性の社会進出が進めば男性の立場が同じになることもある。もちろん適材適所だろうし、いろいろと見定めなければならないこともあるが。
大陸を司る神さまは女性の方が都合が良かったから四姉妹になったのではないかと推測している。これを聞いたグイーさまが新たな大陸をと男神さまを誕生させれば、凄いことになりそうだ。私としては大陸が増えるなら、竜のお方が移動できるだろうし良いこと尽くめだけれども。四女神さまは新大陸が誕生するとなれば、どう考えるのだろう。
『話題、逸らされてない?』
クマのぬいぐるみから抜けているグイーさまの声が聞こえた。少し私が誤魔化そうとしたのがグイーさまにバレている。グイーさまの雰囲気が小さくなるような気がしていると、南の女神さまが私を見た。
「そういうものなのか?」
「おそらくは。ヤーバン王国は女性が玉座に就いていますし、変革が早くなるのではないでしょうか。あ、グイーさまどこか見たいお店はありますか? 高級店なら行けるかと」
前世の地球の歴史を知っている身とすれば、近代化すれば女性の地位は必ず上がるだろう。魔術や魔法がある世界なので、女性も冒険者になったり治癒師を務めている方もいるので社会進出はある程度しているものの、全体的に見れば女性の立場はまだまだ弱い。いつになったら改善されるのかと考えながら、グイーさまに問いかけると納まっていた彼の圧がぐっと増えた。
『酒!』
クマのぬいぐるみから嬉しそうな声が上がれば、西と南の女神さまが呆れた視線を向けている。
「……」
「…………」
二柱さまから割と圧が漏れ出しているような……と気にしていると馬車がガクンと揺れる。窓に視線を向けるとジークとリンが寄ってきて、急に馬車を引く馬が止まってしまったと教えてくれた。
もしかしたら女神さまが圧を発したので驚いたのかもと、そっくり兄妹に告げる。移動はゆっくりで良いから一先ず、お酒を取り扱っている店に赴きたいことを伝えれば分かったと声が返ってくるのだった。そうして私はクマのぬいぐるみに視線を向けて、小さく息を吐いた。ちなみに圧は収まったものの、二柱さまは黙ったままである
「買うのは良いですが、お酒が届いたあと飲み過ぎないようにしてくださいね」
『娘たちが儂に対して厳しくないか? ナイは優しいな』
クマのぬいぐるみからこちらを伺うような声が届く。グイーさまの声に西と南の女神さまが盛大な溜息を吐いた。しかしグイーさまはお酒に酔わないというのに、何故女神さま方は彼に呆れているのだろう。やはり家族だから父親であるグイーさまのことを気にしているのかもしれない。私は……部外者だ。
「私はグイーさまの家族ではないですから。他人だからこそ、気軽に言えるのかもしれません」
グイーさまの都合の良い言葉を伝えられるのは、コレに尽きるような気がする。もし私がグイーさまの家族であればお酒の飲み過ぎを心配するはず。厳しいのは家族だからだろうと、西と南の女神さまを見れば肩を竦めていた。結局、グイーさまがお酒を嗜むことに文句はあれど、女神さま方は止める気はないようだった。
『そうか?』
「きっとそうです。あと飲み過ぎないでくださいね。アガレス帝国からもお酒を頂くでしょう?」
『結局ナイも手厳しい!』
つぶらな瞳で言われても威厳とか全くないし、お酒の話題なのでなんだか締まらないなあと私は苦笑いになれば高級酒店に辿り着く。天然石でのお店の時のようにずらりと店員さんが並び、女神さまの存在に驚いている方や、私が何故クマのぬいぐるみを抱えているのか不思議そうな視線を向けている方もいた。
そうしてグイーさまが気になるお酒を購入すれば『代金は』と気になさるので、私は気にしないで欲しいと告げる。それでもグイーさまが気にしているので、それならばアルバトロス王国とアガレス帝国と亜人連合国の繁栄を願ってくださいと伝えておいた。御利益があるかどうかは分からないけれど、創星神たるグイーさまならば効果は高そうだ。本当はフソウやリームもお願いしたかったけれど、今回の件に関わっていないので口にしなかった。
『ナイが言った国なら自力でどうにでもなりそうだがなあ……まあ、良いか』
と私の腕の中にいるクマのぬいぐるみがぽつりと呟く。グイーさまが願ってくれるのかは分からないが、今の言葉だけでも十分だと笑みを浮かべて馬車の中へ戻り皇宮を目指すのだった。
◇
――アガレス帝国からアルバトロス王国へ無事に戻ってきた。
グイーさまにアルバトロス王国とアガレス帝国と亜人連合国の繁栄を私が願ったと、アルバトロス上層部に報告すると創星神さまに対してなにやってんの――本当はもの凄く遠回しな言い方――とお返事が戻ってきた。そして私が持っている領地を案じなさいとも記されていたのだ。
確かに創星神さまに願うことではないかもしれないが、グイーさまが願ってくれるかどうかなんて分からないのでプラシーボ効果くらいしか御利益はなさそうである。そもそも私に欲しい物がないかと聞かれてもほぼ手に入れているし、お金となればグイーさまは金のインゴットを創造して渡してくれる。
創星神さまが作ったインゴットなんて物を貰った日には、聖王国が血涙を流しながら私を見ていそうなので嫌だ。そんな理由もあって、凄く抽象的な願いをグイーさまにお願いしたわけである。でも、確かにアストライアー侯爵家とミナーヴァ子爵家の領地繁栄を願っておけば良かったと後悔しなくもない。
西の女神さまは捕らえた銀髪くんをテラさまに処断をお願いするようで、子爵邸に戻ってきた日から外に出て空を見上げることが多くなっている。宇宙人と交信しているみたいで、少し面白いなと思ったのは私だけの秘密だ。
お昼過ぎ、私は自室で窓際に立って空を見上げている女神さまを見下ろしている。彼女の周りにはエルとジョセとルカとジアにジャドさんが興味深そうに眺めているし、妖精さんたちも女神さまの周りでわちゃわちゃと騒がしそうにしている。
前触れもなく現れた女神さまに驚いた庭師の小父さまが、トレードマークの麦わら帽子を落としてしまった所を見てしまった。ジアが麦わら帽子を食んで庭師の小父さまに渡し、エルとジョセがなにやら心配そうに声を掛け、ルカは唇を器用に動かして変顔を披露していた。ジャドさんは愉快な彼らを微笑ましそうに見て、女神さまに視線を戻していた。
私は三日ほど前に買い付けた天然石を首からぶら下げている西の女神さまの胸元に視線を向ける。ちなみにアリアさまとロザリンデさまに頼まれていた天然石は私が用意したお土産――お菓子――と一緒に渡しておいた。
「女神さまが身に着けた天然石……魔石化してない? しかも一回り大きくなっていない?」
『うん。魔石になってるねえ。流石、女神さまだねえ。ナイより早かった』
私の声にクロが答えてくれるのだが、比較対象がおかしい気がする。せめて副団長さま辺りと比べてくださいと言いたくなるが、彼も彼で妙な領域にいる方である。副団長さまと比べられるのも微妙だなと私は目を細めた。
「姉御だからなあ。無意識に力が漏れてんだよ」
南の女神さまが私のベッドでゴロゴロ転がり本を読みながらクロの言葉を補足する。どうやら買い付けた天然石は無事に西の女神さまの影響を受け、魔石になったようである。ずっと首からぶら下げていればアガレス帝国の巨大魔石のように大きくなるのだろうか。
「そういえば南の女神さま」
「ん?」
本から視線を外した南の女神さまが私に視線を向ける。ちなみにいつも一緒にいるジークとリンは訓練に行くと言って、子爵邸の隅にある訓練場に赴いていた。私の肩の上に乗っているクロも南の女神さまに不思議そうな視線を送っているので、聞くなら今だろうと私は口を開く。
「普通に滞在なされていますけれど、どういう風の吹き回しですか?」
「姉御がいるからあたしがいても、この家の連中は驚かないしな。すげえ楽だし飯が上手い」
確かに屋敷で働く皆さまは西の女神さまより南の女神さまに驚いている姿を見る機会は少ない気がする。出身大陸の女神さまの圧を強く感じるようで、南大陸を司る南の女神さまの方が子爵邸の皆さまにはとっつき易いらしいのだ。
南の女神さまを恐れていない子爵邸の面々を見て、西の女神さまが少しショックを受けていた。どうやら西の女神さまは子爵邸の皆さまともいろいろと話をしたいようで、南の女神さまが子爵邸内で打ち解けていることを気になさっている。西の女神さまは副団長さまと猫背さんが作ってくれた魔術具を外して、圧を抑える練習をしている。いつか普通に話せる日がくると良いのだが、どれくらいの時間が掛かるやら。
しかしまあ、西の女神さまが滞在しているだけでも大騒ぎだというのに、南の女神さままでミナーヴァ子爵邸に滞在するとは。北と東の女神さまはお酒をグイーさまに届けると神さまの島に戻られた。グイーさまが介していたクマのぬいぐるみもユーリの部屋に戻ったし、いつも通りの日々を送るだろうと考えていた私の見通しが甘かったようである。
「神さまの島で料理の上手い方に作って貰えば良いじゃないですか」
私の声を聞いた南の女神さまが寝ていたベッドから勢いよく身体を起こして、胡坐を掻きながらこちらに視線を向けた。スカートの中身が見えなかったのは神技なのだろうか。
「あっちは毎日同じ内容の飯だし、それが普通だ。ナイの屋敷みたいに日替わりで変わるなんて、すげえ贅沢だぞ」
片腕を膝に乗せた南の女神さまが顎を乗せ、むーと神妙な顔になる。
『ボクは竜だから気に入った果物が毎日出されると嬉しいけれど、神さまは違うんだね』
「クロはそれで良いかもしれねえが、あたしはつまんねえな」
クロは南の女神さまの格好に苦笑いを浮かべつつ、クロの考えを提示した。確かにクロは同じ果物が連続で出されても文句を言わず、黙々と美味しそうに食べていた。私も同じ果物を出されるので美味しいのは知っているけれど、毎日続くと飽きてしまう。
『そうなんだ。ナイは?』
「食べれるだけ幸せだけれど、今の状況なら毎日同じメニューが続くとちょっと飽きちゃうかな」
私は貧民街時代を思い浮かべて苦笑いになる。本当に生活が貧民街時代から教会宿舎、そしてお貴族さま生活となって変わったから、貧民街時代に戻れと言われてしまえば渋面になるはずだ。
仲間がいればどんなことでも乗り越えられると言い切るが、今は今でクロにロゼさんにヴァナルに雪さんと夜さんと華さんに、毛玉ちゃんたち三頭とエルとジョセとルカとジアにジャドさんにグリ坊さんたちとポポカたちに、お猫さまもジルヴァラさんもいる。
ユーリにアンファンに子爵邸の皆さまにと……上げればキリがないほど私が踏ん張って守らなければならない人が増えている。なので頑張って毎日いろいろなご飯のメニューを食べれるようにしなければ。私の声を聞いた南の女神さまが肩を竦めて、にっと笑った。
「ま、一週間くらい世話になる。あと島の飯が飽きたらこっちにきても良いか?」
「事前に連絡をくださるなら構いません。流石に急だと屋敷の者が困るので」
私は良いけれど、子爵邸の皆さまが困るから事前に連絡をくれる方が助かる。南の女神さまならばキチンと連絡を寄越してから子爵邸にきてくれるはず。
「分かった。そうする……と言いたいが、今の状態だとナイが教会に行かなけりゃならねえからな」
そう言って南の女神さまは首から下げている天然石――多分魔石化している――をひょいと空に放つ。私は弧を描く天然石を両手でキャッチすると南の女神さまがふふんと笑った。
「丁度良かった。姉御ほどじゃねえが、あたしが貰った分も魔石になったからな。繋がり易いようにって願っておいたから、用事がある時はその魔石からあたしの声が聞こえるはずだ」
南の女神さまにもアガレス帝国で買い付けた天然石を渡しておいた。興味深そうに見ていたから、どれが良いですかと私が聞けば彼女が指を指して選んだわけだけれど。
まさか数日前に渡した品が私の手元に戻ってくるとは思わなかったし、天然石が通信機の役割を果たすようになった。本当に女神さまは規格外であるが、いろいろと困ることもあるようなと私は口を開く。
「それだと私が身に着けていない場合の時は?」
預かった天然石を身に着けることはないから、部屋に飾っておくしかないのだ。もし仮に私が出掛けていた際に南の女神さまが連絡を寄越してきたらどうするのだろう。留守にしていたら怒られないかと気になって聞いてみたのだ。
「ん? 大丈夫だろ。なんとなくナイが魔石の側にいるって分かる」
南の女神さまの声に私とクロが適当だなあと呆れてしまう。しかしなんとなく私が天然石の側にいるかいないかが分かるって凄いことではなかろうか。
「ナイは魔力が漏れているからな。分かり易いんだよ。だから屋敷に幻獣や魔獣が住み着いてんだろうし」
ふふんとまた笑っている南の女神さまは、ごろりとベッドに寝転がって話は終わりと言わんばかりだった。私も私で話すことがないならば良いかとクロへと顔を向ければ、顔をすりすりと擦り付けてなにやら楽しそうにしている。
しかしまあ、西の女神さまが子爵邸にいらっしゃってからというもの、いろいろな所に飛び回っている。時間ができればハイゼンベルグ公爵領とヴァイセンベルク辺境伯領の視察に赴くし、アストライアー侯爵領とミナーヴァ子爵領にも西の女神さまは興味があるそうだ。
他にもアリアさまとロザリンデさまのご実家も行ってみたいと仰っていたので、そちらの案内は彼女たちに任せようかと考えている。無理そうなら、私も行くので予定を合わせますと伝えているのでお二人からそのうちなにかアクションがあるはずだ。
窓際に置いている椅子から立ち上がり、私はソファーに移動をして本を読もうとした時だった。――大きな音が一度鳴り、窓のガラスが響いて揺れる。
「どわっ! なんだ!?」
南の女神さまがベッドから身体を勢いよく起こしてきょろきょろと周りを見ながら声を上げた。
「一体何が!?」
私もなにが起こったとキョロキョロと顔を動かして、窓の外を見ようとする。
――私の庭がぁああああああ!!
と、麦わら帽子がトレードマークの庭師の小父さまの声が屋敷の中にまで届く。同じ台詞を前にも聞いた気がするという気持ちは無視をして、私は窓の側に立つのだった。
◇
どうやら母さんに私の声が届いたようだ。彼の最後を邪魔した男をどんな目に合わせれば後悔と反省をするだろうかと、母さんに話を聞くためにナイの家の庭で母さんが管理している星との波長を合わせていた。
父さんならもう少し楽に行えたかもしれないが、まあ母さんに届いたようだから良いだろう。私の目の前に佇む、凄く覇気のある圧を出している母さんに私が視線を向ければ、にっと彼女は歯を見せながら笑った。
「なんだか可愛い娘に呼ばれた気がするからきてみたんだけれど……ここはどこ? 島じゃないわね」
「ナイの家」
「相変わらず貴女は端的に答えすぎよ。ないって誰?」
私が母さんの疑問に答えると肩を竦めて疑問を疑問で返した。
「あそこの窓から顔を出してる子」
私が屋敷の二階から顔を覗かせているナイに視線を向けると、母さんも二階の窓を見上げた。
「あら、可愛い子ねえ。けれど……ん? んー? なんだか変な感じがする子ね」
「ナイは変な子だけれど、本当に変じゃないよ、母さん」
首を傾げる母さんに私は変な子だけれど、そんなに変な子ではないと伝えておく。ナイは時々妙な行動に出たり言ったりしたりするけれど基本は普通の子だ。ただちょっと他の人間より言動がズレている時があるだけで。
「はいはい。で、どうして珍しく私を呼んだの? というか少し痩せていない? グイーは貴女にちゃんとご飯を食べさせているの? 力が弱くなっていない?」
「質問が多いよ」
「仕方ないじゃない。可愛い娘に久しぶりに会ったんだもの」
むっと膨れる母さんの顔を見ていれば、南の妹とナイと家の人間がこちらへと駆けてくるのだった。