魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
庭が騒がしくなったので子爵邸の自室の窓から外を見れば、西の女神さまの前に立つ女性と少し離れた場所で膝を突いて顔を引き攣らせている庭師の小父さまが見えた。女性が立っている場所は花壇の中であり足元にはクレーターができ、庭師の小父さまが膝から崩れ落ちる理由もわかる。
私とクロが誰だろうと首を捻っていると、ベッドから歩いてきた南の女神さまが窓の外を覗いて息を吐いた。
「……母上殿、きちまったのか」
彼女が後ろ手で頭を掻きながら、庭に突然現れた女性が誰なのか教えてくれた。本当にグイーさまの伴侶であり、女神さまたちのお母さまであるテラさまのようだ。遠いのでまだご尊顔ははっきりと見えないけれど、西の女神さまに負けず劣らずの覇気を醸し出している。
一先ず、屋敷の皆さまには庭に行かないようにお願いして、私が彼女に挨拶をするしかないのだろう。ジークとリンは訓練中だけれど、騒ぎを聞きつけて件の場所に赴くはず。急いだ方が良いけれど、南の女神さまから情報を引き出しておかないと。
「そういえば西の女神さまは通信すると言っていたのに……というかあの女性は本当にテラさまなのですか?」
私が念のためにもう一度聞いてみる。南の女神さまには失礼な問いになるかもしれないが、私は彼女がぼやいた台詞を耳にしただけだ。これで魔王さまが訪れたとかであれば、また違う対処をしなくてはいけない。
「ん。子爵邸に施している魔術を突破できる人間なんてほとんどいねえし。あと、あたしが言ってるんだぞ、間違いねえよ」
南の女神さまがつーか分かってて聞いたよなと言葉を続ける。私が申し訳ないと謝れば、彼女は良いけれどと言葉を返してくれた。確かに子爵邸に施している特殊障壁を抜けられる人はなかなかいないはず。
この三年間、鉄壁の守りだったのだから。まあ上空からの侵入には超絶弱くて、竜のお方が卵を投げ入れたり、妖精さんたちには全く関係のない代物だったが。妙なことを考えていると私の肩の上でクロが口を開いた。
『凄い魔力量だねえ。西の女神さまより多いんじゃないかなあ』
「怒れば親父殿より多いかもしれねえな」
クロの声に南の女神さまが答えてくれる。やはりグイーさまよりテラさまの方が力が強いようだ。時々聞く、テラさまの話題はグイーさまより尊重されていたのだから。しかしテラさまがどんなお方なのか知れない以上、西の女神さまとの会話を聞き逃す可能性がある。話を聞き逃すのは不味いと、私は南の女神さまに視線を向けた。
「悠長に話していると、変な方向に話がいきそうなので庭に出ます」
「西の姉御と母上殿だからな……ねえよって言えないのがなあ」
私の言葉に南の女神さまが溜息を吐いて一つ頷くと、部屋の片隅でまったりしていたヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭が私たちの前にちょこんと座った。緊急事態なのにちょっと可愛いと思ってしまったのは内緒である。
『ヴァナルたちも行って良い?』
「構わないけれど、なにが起こるか分からないから気を付けてね。危ないって思ったら私の後ろに隠れて」
私はヴァナルたちと視線を合わせると、こくりと確りと彼らは頷いてくれた。私の隣で心配し過ぎと苦笑いしている南の女神さまには申し訳ないが、なにかでテラさまの怒りを買うこともあるだろう。
気を付けようと腹を括って部屋の外へと出る。廊下を歩いていた侍女の方に私は庭に出ないでくださいという言葉とこれは命令ですという言葉も付け加えておく。侍女のお方は先程の大きな音を聞いているので、真面目な顔で承知致しましたと答えてくれた。
そして侍女長さまや家宰さまに伝えるようにとお願いして、屋敷から庭へ辿り着く。ジークとリンはいるかなとキョロキョロと視線を彷徨わせていると、いつもよりラフな格好をしているそっくり兄妹がこちらへ走ってきた。
「ジーク、リン」
声を上げた私を見るなり、ジークとリンは安堵の表情へと変わる。二人は私の前に立って南の女神さまに礼を執れば、気にしなくて良いと首を振る。
「ナイ、怪我はしていないな?」
「大丈夫?」
ジークとリンが私に視線を向けて問い掛ける。怪我はしていないし、なにも問題はないので素直に答えた。クロとヴァナルたちは早く目的の場所に行かなくて良いのかなと、気を揉んでいるようだった。
「うん」
「南の女神さまは?」
私の答えを聞いたジークが南の女神さまへと視線を変える。私と彼女が一緒にいるので、聞かなければ失礼だとジークは考えたようである。
「あたしは平気だが、庭師のおやっさんがな……」
「……先程の音ですか」
南の女神さまとジークのやり取りに耳を傾ける。庭師の小父さまは膝から崩れていたけれど大丈夫だろうか。あまりにも庭師の小父さまが不憫なので、子爵邸は畑の妖精さんより花壇の妖精さんが必要なのかもしれない。
「ああ。悪いな、また迷惑を掛けちまいそうだ」
「……」
「……」
南の女神さまの言葉に一同なにも言えずにいた。とりあえず。
「行こう。庭師の小父さまも気になるから」
私が声を上げるとみんなが頷き音の鳴った場所を目指す。暫く歩いていると目的の場所が見えてきた。近くには噴水があるため水の音が耳に届いている。西の女神さまが私たちに気付いて、テラさまから視線を変えた。
西の女神さまに釣られてテラさまも私たちに視線を向けた。ふふふと笑みを浮かべているように見えるのだが、気の所為だろうか。西の女神さま同様に彼女の圧は凄いけれど、怖いと感じることはない。なんだか不思議な感覚だけれど、挨拶をしなければと私は前に出る。南の女神さまは私を止めるでもなく、様子を見守ることに徹するようである。そして気になっていた庭師の小父さまは少し離れた場所でぼーっと膝を突いている。大丈夫か気になるけれど、先ず挨拶だ。
「あら、変な子がきたわ」
「母さん、ナイって呼んであげて。確かに変な子だけれど」
テラさまが目をぱちくりさせながら私を見て、何故か西の女神さまが突っ込みを入れている。しかし変な子と呼ばれるようなことはしていないのに、私は彼女たちからそう呼称されているのだろうか。謎である。
「……ぶっ!」
そして隣に立っている南の女神さまが勢い良く咽込むが、私は彼女の命に別状はないとスルーを決め込んだ。
「お初にお目に掛かります。ナイ・アストライアーと申します。アルバトロス王国にて侯爵位を賜っております」
一先ず私はテラさまへと名乗りを上げた。
「本当に貴族がいるのねえ。でも、末娘ちゃんくらいの子だから、ナイはまだ十代でしょう? 当主になるのが早過ぎない?」
私の挨拶を華麗にスルーしたテラさまが西の女神さまに問い掛けた。確かに私はまだ十代で侯爵位を賜っているのは異例の事態といえよう。普通は歳を取って、ようやく親から代を譲り受ける形が殆どである。アルバトロス王国の歴史を調べたところ、一代で成り上がって侯爵位を得た方はいなかった。一代で功績を叩きだしても子爵位程度の方が、数百年の間に数名いただけである。
「ナイはいろいろとやらかしているから」
「なにを?」
西の女神さまが少しドヤ顔になると、テラさまが首を傾げた。あれ、私のやらかしを西の女神さまに語った覚えはないのだけれど……情報源はどこだと顔を動かせば、クロが私と目が合った途端に顔を明後日の方向へと向けた。
個人情報が駄々洩れではないかなと目を細めるのだが、調べればわかることである。おそらくアルバトロス城の書庫には私が上げた報告書が保管されているので、閲覧許可さえ出れば読めるだろうし。
「えっと……竜を大地に還らせた。庭から妖精が出てきて畑のお世話をしているし、スライムも懐いている。あとは……魔力量が尋常じゃないし、今は珍しい黒髪黒目の子だし……あと、私と普通にお話してくれる人間だ」
西の女神さまが指を折りながら私のやらかしを口にすると、ロゼさんが私の影からひゅばっと出てきて、ぷーと自慢げに膨れた。確かにやらかしているけれど、まだまだ語っていないような。でもまあ詳しい話をされると、恥ずかしい過去を開陳しなければならないので突っ込むのは止めておこう。
西の女神さまの話を聞いたテラさまが腰を折って、私の顔を覗き込む。四人の娘さんがいるというのに随分と若い方だった。西の女神さま同様、高身長で顔が凄く整った胸の大きい方である。そりゃグイーさまが惚れ込んでも仕方ないと、神さまの島の方角へと視線を向ける。
「変わり者の貴女と普通に話ができるって凄いわね」
「うん。でも最近、いろいろな人間と話をしているかも。ナイのお陰かな?」
テラさまと西の女神さまが話し込んでいるので、なかなか状況を掴めない。西の女神さまはテラさまと通信をすると言っていたのに、どうしてテラさまはグイーさまの星に降臨なされたのか聞きたいのに。
どうしようかとクロに視線を向ければ、ふるふると顔を横に振り、ジークとリンを見上げてもクロと同じ反応で返される。ヴァナルは困った顔で私を見て、雪さんたちもふるふると顔を横に振り、毛玉ちゃんたち三頭はいつになったら女神さまと遊べるかなと尻尾をばふばふ振っている。困ったなあと私が目を細めると、救世主がいた。
「母上殿、姉御、ここはナイの屋敷だ。ナイと話をしてやってくれ」
南の女神さまが二柱さまを見上げて声を上げてくれた。彼女の声にあらあらとテラさまが私を見て、西の女神さまがごめんと言いたそうな顔になる。
「ごめんなさいね。久方ぶりに娘と会ったものだから話に盛り上がっちゃった。とある星で神さまを務めているテラよ。よろしくね」
ぱちんと片目を瞑ってウインクをするテラさまに私はよろしくお願い致しますと言って頭を下げる。
「うん? さっきも娘と話していた時に感じたけれど……ナイからは妙な感じを受けるのよねえ。なにかしら……?」
テラさまが眉間に皺を寄せながら目を細めて私に顔を寄せた。彼女が言いたいことは私が地球という星からの転生者だからだろう。確信には至っていないが、なにか感じるものがあるらしい。私が転生者であることを伝えても問題はないが、果たして彼女は私の言葉を信じてくれるか分からない。
「テラさまが私からなにを感じているのかは存じかねますが、屋敷の中に入って話をしませんか?」
流石にこの場所で話し込むのは不味いだろうと私は部屋で話そうと誘ってみる。私の声を聞いたテラさまはおっと表情を変えて、私と視線を合わせるために腰を折った。
「美味しいお茶とお菓子はあるかしら?」
テラさまは私と視線を合わせながらこてんと首を傾げる。彼女が好むものがどんな品なのか分からないが、基本子爵邸で出されるお茶菓子は美味しい物ばかりである。
「女神さまの口に合うかは分かりませんが、精一杯もてなしをさせて頂きます」
「あ、母さん。後で私の話も聞いて」
私と西の女神さまの声にオッケーと軽い調子でテラさまが答えてくれると、南の女神さまがやれやれと肩を竦めていた。とりあえず、話が通じそうな神さまで良かったと私は安堵するのだった。
◇
御降臨なされたテラさまを引き連れて屋敷の中へと入る。廊下には誰もいないので、家宰さまと侍女頭さまから屋敷で働く皆さまに部屋の中にいろと命が行き渡ったのだろう。倒れる人が出なさそうで良かったと一安心しているのだが、ジークとリンは微妙な雰囲気で歩いている。
クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんは特に気にした様子はないし、毛玉ちゃんたち三頭は早く女神さまたちと遊べないかなという雰囲気である。彼らを見たテラさまは目を細めていたけれど、なにも言わなかった。
あまり好きではないのかもしれないと私は深堀しなかったので、もし嫌いなら少し遠ざかって貰えば良いだろうか。しかし彼らが苦手となればロゼさんはどうなるのだろう。ぎゃーっと悲鳴を上げたらロゼさんはしょげてしまうだろうか。
「グイーの屋敷も広いけれど、ここも中々広いわねえ」
廊下を歩いているテラさまがきょろきょろと周りを見ながら声を上げた。彼女の声に西の女神さまは小さく首を傾げ、南の女神さまが息を吐き口を開く。
「どこと比べてんだ」
呆れているような声を出した南の女神さまにテラさまは視線を合わせるために腰を折る。本当に身長差が凄いけれど、私とテラさまの場合も似たり寄ったりなのだろう。南の女神さまの方が私より身長が低いけれど、あまり変わらないのだから。
「あたしの家。人間の世界が面白いから、今は借家借りて住んでるの」
テラさまはどうやら人間の世界で暮らしているようだ。しかし神さまが家を借りているとはこれ如何に。もしかして人間の中に紛れて生活しており、お金を払って家を借りているのかもしれない。妙に生臭い神さまだと目を細めていると、応接室の前に辿り着いていた。部屋の扉を開けてどうぞと私が声を上げると、テラさまが面白そうな顔をして一番先に中へと入って行く。
「面白い! 凄い部屋! 私が借りている部屋がすっぽり入るわ!」
テラさまが天井や壁に視線を向けながら声を上げる。応接室にすっぽり入る家って狭小住宅ではと考えてしまうが、部屋と言っているのでアパートかマンションを借りているようである。本当に生活臭が凄い神さまだと苦笑いを浮かべていると、応接椅子に座って良いかとテラさまが私に問うた。
「どうぞお掛けください」
私が彼女に示した席は上座であるが、テラさまは三人掛けの椅子へと腰を下ろす。
「うわ! 凄くお尻が沈む! 面白い!」
ばふんばふんと椅子にお尻を付けたり上げたりしながら、テラさまは座り心地を確かめていた。本当に四柱のお母さまなのかと疑っていると、私の隣に呆れた顔をしている南の女神さまが並ぶ。
「悪いな、ナイ。母上殿に悪気はねえんだ。暫くすりゃ、満足して会話が成り立つようになる」
南の女神さまが深い溜息を吐きながら後ろ手で頭を掻いている。まあテラさまに他意はないようなので問題はないけれど、ご自身の母親が子供じみた行動をしていれば子供として恥ずかしいのかもしれない。西の女神さまは特になにも感じていないようで、テラさまだからみたいな雰囲気である。ジークとリンは本当に神さまなのだろうかと疑い始めているようだ。クロたちも忙しない方だと言いたげである。
「いえ。一先ず、お茶を用意して貰います」
とりあえず落ち着いて話ができるように、誰かにお茶を用意して貰おう。しかし誰を呼ぶのが適切だろうか。部屋の外でお茶を淹れて貰って私が運び入れるのが一番良さそうだった。
「頼む」
「ナイ、お茶菓子は出る?」
南の女神さまが神妙な顔で返事をくれ、西の女神さまは私の服の袖を引っ張った。どうやらお菓子が食べたいようで、子供のような仕草に私は苦笑いが零れてしまう。
「出して貰うつもりですが、なにか希望はありますか?」
最初からなにかお茶請けに用意して頂くつもりなので問題はないし、なにか望みの品はあるのだろうか。一応、いろいろと取り揃えているので、西の女神さまが好きな品があると良いけれど。
「ちょこれーとが良いな」
どうやら甘い物が食べたかったのか共和国の激甘チョコレートを所望される。チョコレート自体が日持ちするため結構な量をストックをしている。一応、ジークの名義を借りて購入しているのだが、どうも共和国政府には私が彼の後ろにいるとバレているようで最高級の品を紛れ込ませてくれるのだ。
凄く甘いけれどたまに食べたくなるのが凄く不思議で、私が偶に食べているとジークとリンとクレイグとサフィールが良く食べれるなという視線を向けてくる。大量の砂糖が入っていても、慣れると美味しいのだ。とはいえ健康上宜しくないので偶に食す程度にしている。私が西の女神さまに分かりましたと伝えれば、嬉しいと微笑んだ。それは良かったと私が小さく笑えば、南の女神さまがまた息を吐く。
「ナイは姉御に甘くねえか?」
「そうでしょうか?」
「多分な。まあ姉御が楽しそうだから良いけどよ」
肩を竦める南の女神さまに私はなにか食べたい茶請けがあるのか聞いてみる。特に誰かを贔屓している――幼馴染組と小さい子は別――つもりはないのだが、南の女神さまには私が西の女神さまを優遇しているように見えるようだ。私たちのやり取りを見ていたテラさまが『仲が良いわねえ』と呟いた。すると南の女神さまが『そんなんじゃねえよ、母上殿……』と目を細めつつ私の疑問に答えるべく視線を合わせる。
「あたしはヨウカンだったか。あれ美味い」
南の女神さまは羊羹がお気に入りのようである。私が西の女神さまへの対応が甘いかどうかは別として、それぞれ用意して頂こうと呼び鈴を鳴らして、ジークに外で侍女の方に伝えて欲しいとお願いした。ジークは分かったと頷いてくれ、応接室の外に出る。暫く待てば侍女の方がお茶を淹れてくれるだろう。そしてテラさまが御降臨されたことも彼からみんなに伝わるはずである。
本当に何故、神さまがこんなに集まるのかと問い質したいが、今回は西の女神さまが呼び出したので問題は少ないはずだ。あとは報告書を読んだアルバトロス上層部の皆さまがどう考えるのだろう。そして周辺国の動向も気になる。
暫く待っていると扉の向こうからノックの音が二度鳴る。この音はジークが鳴らした音だと私が入室を促せば、彼が扉を開けて一歩部屋の中へと踏み入れた。
「ナイ。用意ができたそうだ」
「ありがとう、ジーク」
私たちのやり取りを見ていた西の女神さまが首を傾げる。
「どうして部屋にこないの?」
「申し訳ないのですが、また倒れる方が出るのは避けたいので」
西の女神さまの疑問に正直に答えると、彼女はあれという顔になった。口を開こうとした西の女神さまにテラさまが先を切る。
「西の娘は圧の制御が下手だから。仕方ないわ」
「ナイは私じゃなくて母さんのことを差している」
テラさまに向かって西の女神さまはドヤという顔になった。おそらく魔術具で圧を抑えられていることと、屋敷で働く皆さまが西の女神さまの滞在日数が長くなるにつれ慣れてきているからだろう。
「へ?」
目をぱちくりさせているテラさまに私はどう説明したものかと考えている。
「そういえば駄々洩れだった貴女の圧をあまり感じない……前に会った時も駄々洩れで下手糞ねって笑っていたのに……!」
テラさまが続けて、南の娘は前から圧を制御できているのは知っているから今更だけれど本当に驚きだわと声を零した。どうやら西の女神さまはご自身の力の制御が下手糞なようである。確かに南の女神さまより圧は凄かったし、侍女の方も驚いて気絶していた。魔術具を身に着けたことにより随分とマシになったのだが、テラさまは凄く驚いている。
「魔術具のお陰」
「いや、そんな自慢げな顔をされても。自分で制御できなきゃ駄目じゃない」
「…………」
キリっとした顔で言い切った西の女神さまにテラさまから鋭い突っ込みが入る。私が南の女神さまに視線を向けると、いつものことだから放っておいて茶を用意しようとなった。
私は良いのかなと気にしつつ、淹れて貰ったお茶が冷えると美味しくないので廊下に出てワゴンを応接室に引き込んだ。紅茶の良い匂いが立ち込めてくると、西の女神さまがへにゃりと笑う。彼女はチョコレートを見て美味しそうと呟き、テラさまがこっちの世界にもチョコレートがあるのねと感心していた。そうして親子のやり取りは一旦止まり、お茶タイムへと突入することになる。
「あの、失礼と承知でお聞きします」
「どうしたの。なんでも聞いて貰って良いわよ」
紅茶を嚥下したテラさまがティーカップをソーサーの上に置いて私を見た。聞きたいことはいろいろとあるけれど、私が一番聞きたいことは……。
「テラさまと西の女神さまは通信すると聞いていたのですが、どうしてこちらに?」
本当に何故子爵邸の庭にドンピシャで御降臨なされるのだろうか。そりゃ西の女神さまと通信していたのだから、こちらにきやすい状況になっていたのかもしれない。でも赴くならば神さまの島が正解ではなかろうか。庭師の小父さまにはまた庭の修繕費を臨時で出さないといけなくなったのだから。
「なんとなく。今回、凄く簡単にグイーの星にこれそうだったから。というか貴女は人間よね? どうして西の娘と南の娘が側にいるの?」
「人間です。いろいろとご縁があり、暫くの間一緒に生活することになりました」
テラさまは一度の質問が多いのは癖だろうか。答えられるから良いけれど、答えられない時は困りそうだった。
「あ、あたしは一週間だけな。この屋敷の飯が美味いんだ」
南の女神さまの声にテラさまが目を輝かせた。滞在するならおもてなしをしなくてはならないので、食事を提供するけれど地球の女神さまにこちらの世界の料理が口に合うのか謎である。
テラさまの見目は凄く綺麗な西洋人なので、日本食は食べ慣れていなさそうだし大丈夫だろうか。テラさまは紅茶からチョコレートへと興味を移して、お皿の上の黒い物体に手を伸ばしてひょいと一口食べた。
「確かにお茶請けは美味し……甘っ! このチョコレート甘過ぎない!?」
「美味しいよ?」
「貴方、少し味覚音痴な所も相変わらずなのね……まあ、良いわ。ナイには悪いけれど、少し娘と話をさせて頂戴。で、どうして私に話しかけてきたの?」
数千年もの間音沙汰がなかったのにとテラさまが西の女神さまに向かって顔を膨らませていた。どうやら親子仲は悪くなさそうだった。
「この人が竜の最後を邪魔したの。母さんなら無限の責め苦を与えられるかなって」
西の女神さまが右手を前に出して丸い珠を浮かべた。その中には小さくなった銀髪くんが出せと言わんばかりに、珠の膜を力一杯叩いている。
「貴女ねえ。一応、大陸を司る女神なのだから自分で考えなさいな……と言いたいけれど、竜の最期を奪ったの?」
テラさまが真面目な顔になって、西の女神さまが口を開く。
「ナイ、ヨウカン美味いぞ。口開けろ」
「? はい」
南の女神さまに名前を呼ばれた私は言葉通りに口を開くと、羊羹が勝手にお皿から浮かんで口の中へと入った。程よい歯応えと控えめな甘い小豆の味を堪能していると、南の女神さまがまた口を開く。テラさまと西の女神さまも会話を続けているようだが何故か内容が耳に届き辛い。
「ほれ、もう一口」
南の女神さまの声と同時に私の口の前に羊羹が浮かんでいる。二柱さまの話が気になるけれど、差し出されたものを断るのは失礼だと私は口を開ける。また口の中に広がる羊羹の味を堪能していると、テラさまと西の女神さまの話が終わったようで銀髪くんがどこかに消えていた。私が彼はどこに行ったのかときょろきょろと周囲を見回していると、テラさまが凄く良い顔になって視線を合わせた。
「ねえ、ナイ。ふと思ったんだけれど、貴女は私の世界の人間じゃない?」
急な話の展開に驚いて、呑み込もうとした羊羹が私の喉に詰まりそうになるのだった。