魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~   作:行雲流水

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0569:偶然。

 ――貴女は私の世界の人間じゃない?

 

 私が転生者ということを隠すつもりはないけれど、まさかなにも言っていないのに気づかれるとは驚きである。地球を司る女神さまだし難なく見抜けるのかもしれないが、本当に何故露見したと言いたくなるのをぐっと堪えた。さて、転生者だと暴露をするには良いタイミングかどうかは分からないが、神さまに嘘を吐くなんてできないなと私はテラさまの質問に頷いた。さて、彼女たち女神さま方はどうでるのだろうか。

 

 「あら、まあ」

 

 テラさまがきょとんとした顔で呑気な声を上げる。なにを言われるのかと身構えていた私は彼女の反応の薄さに肩透かしを食らった。いや、怒られたり悲観されるのも勘弁だから、今の反応が一番良いのかもしれないけれど。

 

 ジークとリンは私の過去の話に静かに耳を傾けている。クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんも私の話を聞いていた。ロゼさんは床を転がってヴァナルの頭の上に乗って、じっとしている。毛玉ちゃんたち三頭は雪さんたちに今は静かにと言われて床に伏せて丸くなっていた。どうやら遊べないのがつまらなくて、じっと耐えるしかないようである。早く話を終わらせた方が良いかなと私は前を向いた。

 

 「ナイは母さんの星にいた人間ってこと?」

 

 「そんなこともあるんだな」

 

 西の女神さまと南の女神さまがじっと私の顔を見ていた。私の顔に食べ残しなんてついていないはず。大丈夫と自分を納得させて私はテラさまを見る。

 

 「どうして分かったのですか?」

 

 「そりゃ自分が管理している星のことは手に取るように分かる……って言えれば良かったんだけれどねーまあ、八〇億とか人間がいる世界を全て管理しろなんて言われても無理な話だわ」

 

 私の疑問にテラさまが肩を竦めながら答えてくれた。確かに地球は人間の数が凄く多いので、全てを把握すればたとえ神さまでも頭がパンクしそうである。肩を竦めたテラさまは何故私のことを地球出身だと分かったか理由を語り始めてくれる。西の女神さまのように世界各国をふらふらしながら毎日気ままに過ごしているらしい。

 

 宗教は自分の下に別の神さまを産み出して信仰を集めているから、街中にテラさまがいても誰も気づかないとのこと。もちろん力を抑えていることが前提なのだとか。

 

 そうして最近は日本に滞在しているようだ。日本独特の文化にも慣れて快適に暮らしているらしい。ゴミが街中に落ちていなくて割と綺麗で、テラさまが困っていると不器用な英語で手助けしましょうかと問い掛けてくれる。

 公共交通機関は時間通りに動いているので予定が立てやすいし、タクシーの運転手は無暗にクラクションを鳴らさない。そして食べ物が美味しく、調理方法が様々ある所も気に入っている理由の一つで、フグを食べる文化はクレイジーだと仰った。私からすれば知識を習得して免許を持っている方がフグを捌いているので食べることを躊躇わないけれど、テラさま的には怖いようである。戻ってバイト代が貯まれば、評判の良いお店に行ってみたいらしい。

 

 そんな日々を送る中、とある日の夕方に自転車に乗ってコンビニを目指していたテラさまはとある事故に遭遇したとのこと。仕事帰りや学校帰りの人たちでごった返していた路線バスに、超高級クロスカントリー車が対向車線を逸脱して正面衝突したところを見たそうだ。ノーブレーキで突っ込んだクロスカントリー車はバスとぶつかった反動で歩道へと吹っ飛んで行き、偶々歩いていた女性を巻き込んでしまった。

 

 「バスに乗っていた男女二名が亡くなって、クロスカントリー車に乗っていた男女も死んでる。歩道を歩いていた女の子も死んだけれど、朝のニュースで身元が分からないって報道してた」

 

 テラさまは目を細めながら状況を教えてくれる。私の死に際は、仕事帰りに歩道を歩いていたらなにか衝撃を受けたことだけは覚えている。痛みもなにもなかったような気もすれば、凄く痛かったような気もして記憶が曖昧だけれども。

 テラさまは不運にもクロスカントリー車に潰されてしまった私の姿を見てしまったとか。事故を受けて他の車から運転手が降り、救助活動を始めた所を見届けてコンビニに向かったようである。食欲が湧かなくてチューハイ三本とおつまみを買ってアパートに戻ったそうだ。

 

 「ペチャンコになってた貴女を見て、バス事故で死んだ人間をグイーの世界に魂だけ送ったのよ。翌日、また現場を通れば四つの魂もフラフラしていたから、次の人生を楽しめるようにってね。なんとなくだけれど覚えているし、魂の形もなんとなく覚えていたみたい」

 

 どんな感情か分かり辛い表情のテラさまが私に視線を向けて目を細める。なんだか事故を直接見てしまったことにより、テラさまはなにか思うことがあるようだった。でも世界には交通事故より悲惨なことは沢山起こっている。

 特に気に病む要素が見つからないのだが、彼女の話を鑑みるに事故で亡くなった方が転生していることになる。もしかしてエーリヒさまとフィーネさまも同じ事故に巻き込まれて、こちらの世界へと魂のお引越しをしてしまったのだろうか。そうなればヒロインちゃんと銀髪くんも同じになるが今は知る術がない。

 

 なんだかお通夜状態の空気になっていることに気付いたテラさまが、後ろ手でぼりぼりと頭を掻いた。

 

 「いやー……日本のカルチャーが楽しいから、アパートを借りてバイトしながらゲーム三昧しているわ。今の日本は外国人が随分と増えて、私の容姿を気にしない人間が多くなっているから」

 

 どうやらテラさまは相当に日本が気に入っているようである。世界に手を出している様子はなく、ただ単純に日本文化を体験することが楽しいようだ。神さまがアルバイトをしているなんて信じられないけれど、生活をしなきゃいけないからお金は必要だ。

 そうなると在留資格とか必要になりそうだが、偽装とか凄く簡単にできてしまいそうだった。正規の手順を踏んでいないことに複雑な心境に陥ってしまうが、相手は神さまである。なんでもできるだろうし、病気にはならないから医療保険は必要ない。

 ただ日々の生活を楽しむお金だけは必要だし、グイーさまのように金塊を創造するわけでもなく、アルバイトで日銭を稼いでいるなら文句は言えないかと私はテラさまの顔を見上げる。

 

 「えっと、私が死んだタイミングとこちらの世界の時間の進み方は同じなのですか?」

 

 私が死んでから地球の方は何年が経っているのか興味が湧いてきた。何百年も時間が進んでいると聞いてしまえば、郷愁が吹っ飛んでしまいそうだ。私が地球の話を持ち出したためなのかジークとリンが微妙な顔になっている。

 そっくり兄妹のことを考えないまま、好奇心が勝って聞いてしまったことに少し苦いものが心の中に広がった。私が向こうに未練はないと言っても二人にとっては未知のものである。不安になるのは仕方ないのかもしれない。

 

 「そんなに変わらないわね。ほぼ同じと考えて貰って差し支えないけれど、どうしたの?」

 

 「いえ、今の日本や世界はどうなっているのかなと、少し気になっただけです」

 

 もう向こうの話は止めようと笑みを作ってテラさまに向ける。クロもこてんと首を傾げて私の顔を覗き込んでいるし、ヴァナルと雪さんたちも私に真面目な視線を向けていた。ロゼさんはヴァナルの頭の上でうねうねと揺れている。

 どこもいかないよと口にしないまま私が彼らに視線を向ければ、クロが顔を寄せ、ヴァナルが前片脚を私の膝の上に乗せて、ロゼさんはヴァナルの頭から軽く跳ねて私の膝の上に乗った。毛玉ちゃんたち三頭はなにかあったのかと、顔を上げてこちらを見始める。

 

 「行ってみるって言ってあげたいけれど、誰かを連れていくのは相当に頑張らなきゃいけないから」

 

 肩を竦めながら、直で魂を送った子に会うなんて全く考えていなかったとテラさまが零せば、西の女神さまと南の女神さまが溜息を吐いた。

 

 「母さん、そっちから何人くらい送っているの?」

 

 「問題はねえけど、気にはなるな」

 

 二柱さまは魂が送られてくることは良いけれど、大陸を管理監督をしているから転生者がいる状況を把握しておきたいようだった。私も何人くらい地球からの転生者がいるのか分からないので知りたい内容だった。

 銀髪くんとか共和国のあの人や勇者さまのような方ばかりではないだろうけれど、どうにも転生者の皆さまはヒャッハーしちゃう確率が高い気がする。私もトラブルばかり巻き起こしているので、他人から見ればヒャッハーしている側かもしれないけれど。

 

 「そんなに送っていないわよ。私が不憫な人生を送ったなと感じた人間しか手を出していないもの。一〇〇も届いていないんじゃない? あと魂を送って時間が経っている人間もいるでしょうし、人間に生まれ変われなかった可能性もあるんだもの」

 

 転生の条件はこちらの世界で魂が抜けてしまった赤子の中に入るというのが基本らしい。もし仮に条件の合う赤子がいなければ、人間ではない存在へと変わるようである。一応、生き抜きやすい生き物を選んでいるようなので、探せば竜のお方やエルフの方に転生している人間がいるかもしれないとのこと。

 

 とはいえ竜やエルフの方々は魂と肉体が強いから、凄く稀なケースだろうとテラさまが仮定していた。久しぶりの親子の再会のためなのか、テラさまと西の女神さまと南の女神さまが話し込み始めた。

 

 私は聞き専に徹しようと少し冷めた紅茶を啜る。そうしてチョコレートに手を伸ばせば、口の中に砂糖の味が広がっていく。もう少し甘さを抑えた品はないのか気になるので、共和国の研修生たちに聞いてみよう。

 彼女たちは女の子なので向こうの流行に敏感だし、食べ物関係の情報も割と持っている。彼女たちは年が明けて春になれば共和国に戻る。研修も問題なく進んでいるが、魔力量の差やセンスの差で実力が綺麗に分かれているそうだ。薬学も学んでいるので無駄にはならないはずと頭の中で考えていると、ふいに三女神さまの声が耳に届く。どうやらゲームに依って感性が変わったテラさまの話になっているようだ。

 

 「前はさ、グイーみたいなむきむきの男の人がカッコ良いって言っていたけれど……日本の文化に浸ると、ヒョロヒョロでも優しい男なら良いなーって考えるようになったわ。恐るべし日本文化……!」

 

 なんだかテラさまの性癖が凄く変わったようであるが、ムキムキマッチョのグイーさまから趣味嗜好が細身の男性でも受け付けるようになったようだ。確かに海外の男性は筋肉を鍛える風潮があるので、骨格も確りしているためがっちりとした大柄な男性が多い。

 細いヒョロヒョロの男性は所謂根暗とかオタクに分類されて、陽の気が強い方たちから蔑まれていると聞いたことがある。その点を踏まえるとグイーさまの肉体は勝ち組になるのに、テラさまの癖の変化でグイーさまに対しての気持ちが下がっている危険がありそうな。

 

 「母上殿、親父殿の前で言うなよ」

 

 「あら、どうして?」

 

 「親父殿が泣くぞ」

 

 「……彼の泣いている姿を見たくないから言わないでおくわ」

 

 南の女神さまが真面目な顔でテラさまに告げる。西の女神さまは特になにも仰るつもりはないようで、チョコレートを手に取って幸せそうに食べている。神さま一家は大丈夫かなと心配しつつ、私はテラさまにこれからどうするのかを聞いてみようと意を決するのだった。

 

 ◇

 

 私の前世がどんなものだったのか、そして今世はどう生きてきたのか詳しく教えて欲しいとテラさまと西の女神さまと南の女神さまに聞かれたため全てを語ることになる。前世も今世も親がいないことを語れば不憫そうな視線を向けられるが、前も今も特に不幸とは考えていない。

 

 もちろん親がいた方が未成年の間は恩恵を強く受けるが、恩恵どころか不幸な目にしか合っていない子も知っている。親ガチャとか言われていたけれど全く以てその通りで、レア度の低い親を引いたなら離れた方が正解である。言い方はアレだけど。

 少々荒んでいた前世と最底辺として生まれた今世の人生を語っていると、三女神さまの顔の変化が面白かった。貧民街時代の話をしていると神妙な顔をして聞いているし、貧民街から仲間と共に救われたことをほっとしていたし、聖女になって職を得て安定した生活を送っていることに安堵してくれている。

 

 王立学院に入ってから第二王子殿下の起こした婚約破棄事件を話せば『馬鹿なことをするものねえ』『良く分からない』『無謀な……』と普通の反応をくれる。長期休暇の話になれば『竜の浄化を成功させるなんて末恐ろしい子』『ナイには感謝』『人間なのにすげえよな』と感心していた。そして私が稼いだお金を盗られたことを語れば『どこの世界でも聖職者って汚れているのね。マトモな人間が可哀そう』『横取りは感心しない』『よく聖王国を破壊しなかったな』と零す。

 

 他にも細々とした話をしていると、一つのエピソードを語る度に三柱さまがそれぞれ感想をくれるのだが、次にアガレス帝国の話になる。

 

 「凄いわね。私の世界に干渉できる術があるなんて。まあ失敗しているから、ドンマイって感じだけれど」

 

 テラさまの声に西の女神さまが『ドンマイ』の言葉の意味を聞き始めた。日本であればスポーツの場面では、失敗を気にせず次に行こうというポジティブな意味合いだけれど、本場の国アメリカでは私は気にしないわという全く意味の違うものになる。

 どちらの意味合いが強いのか考えると、テラさまは後者を差しているのだろう。召喚儀式を取り仕切ったアガレスの元第一皇子殿下は失脚しているし、賛同した他の皇子さまもほとんど王族籍を失っている。召喚儀式が失敗したのはアガレス帝国の魔術師の質が低かったので、副団長さまと猫背さんが関わっていれば成功していたのではないだろうか。

 

 そうして北大陸のミズガルズの話に、共和国の話、南大陸の話になって黒い女魔術師の話になり、そこで出会った某王族さま方の話になれば南の女神さまはうっと気まずそうな顔になる。事の顛末を話し終えれば西の女神さまが南の女神さまをジーっと見つめて、暫くしてから口を開く。

 

 「そんな話は聞いていない」

 

 西の女神さまには南の女神さまから私が攻撃を受けたと教えていなかった。引き籠もりが解消されて彼女が部屋から出てきた時には、私の腕はもう治っていたのだから。

 

 「だって姉御は引き籠もってただろう。あとあたしの容姿を馬鹿にした連中がナイの側にいたから誤射しちまったんだ。あたしの力じゃ治せなかったから親父殿を頼ったし、姉御が部屋に閉じ籠っていたのが解消されたんだから良いじゃねえか。いや、痛い思いをさせたナイには悪いけどよ」

 

 南の女神さまの言葉に私がうんうんと頷いていると、テラさまが南の女神さまに『成長しないものねえ……』と小さく零している。どうやら南の女神さまが今以上に身長が伸びることがなさそうである。

 

 「……なにも言えない。でも私より南の妹の方がナイと仲が良さそう。なんで?」

 

 西の女神さまがこてんと首を傾げると、テラさまが困った子ねえみたいな顔になってなにも言わずに南の女神さまに視線を向けた。私は南の女神さまと特別に仲が良いとは思っていないし、西の女神さまにも南の女神さまにも普通に接しているのだが。確かに南の女神さまの方が調子が軽い方なので喋り易いけれど。

 

 「なんでって言われても……なあ、ナイ」

 

 「南の女神さまと西の女神さまとの扱いを変えてはいないはずですが」

 

 こればかりは西の女神さまの感情によるものだから、彼女自身がどうにかするしかない。私も西の女神さまとお話する機会を増やしてみようと考えていると、ナイは甘いなと南の女神さまから無言の視線が飛んでくる。

 

 「クロもナイと仲良しだし……ナイもクロと仲良しだ。羨ましい」

 

 西の女神さまの言葉にぴくりと耳を動かした毛玉ちゃんたち三頭が床から立ち上がって彼女の下へ歩いて行く。椅子の側にちょこんとお尻を付けて座り、脚を動かして西の女神さまに触れる。

 その様子を見たテラさまは賢い仔ねえと感心して、毛玉ちゃんたちにちょいちょいと指を動かしておいでと誘う。テラさまのお誘いに気付いた毛玉ちゃんたち三頭はこてんと顔を傾げて、暫く考えたあとまた立ち上がってテラさまの下へと歩いて行った。

 構ってくれるのかと毛玉ちゃんたち三頭が首を傾げると、テラさまがにこりと笑ってそれぞれをもしゃり始める。テラさまの手はまさしくゴッドハンドのようで、毛玉ちゃんたち三頭はとろんと顔をだらしなくして、こてんと床に寝そべった。

 

 「羨ましいって思うだけじゃ駄目よ。仲良くなりたいって言うなら、積極的に動かないと。恋愛ゲームでもなにもしなければ、友情エンドで終わるでしょう?」

 

 テラさまが毛玉ちゃんたちを撫でながら西の女神さまに『こうやるのよ!』と言いたげだった。しかし恋愛ゲームなんてないこの世界の女神さまに今のアドバイスは二柱さまに理解できるのか。

 

 「母上殿、訳の分からねえモノで説明しないでくれ」

 

 「母さんはチキュウの文化に馴染み過ぎ」

 

 南の女神さまと西の女神さまから抗議の声が上がる。やはり恋愛ゲームのような感情値を稼いで相手の気を引き留めろ、というゲームの意味は分かり辛い。もう少し咀嚼した例えをとテラさまに私が視線を向ければ説明面倒という顔になっていた。

 

 「ま、ようするに相手と距離を詰めたいなら自分で行かなきゃねってことよ」

 

 テラさまが軽い調子で仰るが、今の説明だと物理で距離を詰めると勘違いする可能性もあるのでは。そんなこんなしていると、西の女神さまが私の場所の隣にきて、肩が引っ付くくらいの位置に座り直した。西の女神さまはなんだか満足そうな顔をしている。クロも一緒だから余計に嬉しいようだった。

 

 「ぶっ!」

 

 「姉御、母上殿が言いたいのは相手と距離を詰めるんじゃなくて、会話や行動で姉御の気持ちを相手に示せってことだろ……」

 

 テラさまが息を吹きだし、南の女神さまが呆れた声を上げてアドバイスに補足をした。西の女神さまはテラさまと南の女神さまを見てむっとした顔になっている。

 

 「人間と仲良くなるのは難しい」

 

 「頑張りなさいな。思考することは悪くないことよ。あ、でもナイの迷惑になるかもしれないから、自分の考えはきちんと伝えなさいね」

 

 あとナイも娘には遠慮はいらないからとテラさまが言い放つのだが、流石に女神さまに偉そうに物を言えない。とはいえ許可をくれたことは有難いし、女神さま方と話をし易くなった気もしなくはない。そうしてテラさまが私に続きを話してとお願いされるのだが、南大陸の件と神さまの島に向かって西の女神さまの引き籠もり解消を手伝ったことを言えば話すネタがなくなった。

 

 「なるほどねえ。それにしたってナイは随分と派手な人生を送っているのね。変な子というより面白い子だわ。それに、よくグイーが造った星の文化レベルに慣れたわねえ。合わない人間はとことん駄目でしょ」

 

 テラさまが面白そうな顔をしているのだが、私は変な奴で面白い人間でもあるようだ。確かに三年間でやらかしたことと、貧民街時代や見習い聖女時代は沢山の方に迷惑を掛けてきた。まあ、今思えば随分と懐かしい記憶となっている。終わってしまえば、凄く難しくて苦労したことも笑って受け入れられている。この星の文化レベルに馴染めたのは偏にこれに尽きるだろうと私は口を開く。

 

 「最初が生きるか死ぬかの環境だったので、汚いなんて気にしている暇はなかったですね。お貴族さまの家に生まれていれば、もしかしたら王都の街に出るのが苦手だったかもしれません」

 

 エーリヒさまとフィーネさまはお貴族さまの家に生まれたから、最初に環境に馴染むのは難しかったのではないだろうか。人間同士の関係性も結構面倒だし、顔見世として挨拶回りをしなければならなかったはずである。しかも伯爵位と七大聖家出身だから多くの方と関わってきただろう。本人たちから直接聞いていないので私の想像に過ぎないが、私たちには私たちの、彼らには彼らの苦労があったはず。

 

 「十八歳で侯爵位を持っていることも凄いよねえ」

 

 テラさまが私を見ながらしみじみと言い、南の女神さまを見た。どうやら背が低いのにと言いたいらしい。

 

 「魔力量がモノをいう世界ですから。他の方より成り上がる機会を多く頂いているだけです」

 

 私は魔力量が多かったことと運が良かっただけだと伝える。事件に巻き込まれていなければ成り上がっていなかっただろうし、副団長さまに魔力制御や増やし方を教わっていなければご意見番さまの浄化儀式は成功しなかった可能性もある。

 もしくは成功したとしても力尽きていたかもしれないのだ。改めて振り返れば、本当に奇跡のような歩だと実感できる。そして今尚、テラさまという地球の最高神さまと話をしているのだから。

 

 「そうかしら?」

 

 ふふふとテラさまが笑えば南の女神さまが溜息を吐いて、西の女神さまは彼女たちが何故そんな態度なのか分からなかったようである。

 

 「ま、良いでしょう。ナイ、お茶ありがとね。流石、お貴族さまのお屋敷だ。味は良く分からなかったけれど、高級だなってのは分かったわ。今まで体験できなかったし有難いことね」

 

 テラさまが膝を叩いて椅子から立ち上がる。私も彼女に倣えば、西と南の女神さまも立ちあがった。

 

 「いえ、あまりお構いできず申し訳ありませんでした」

 

 「貴女以外にも転生者がいるのは知っているから、ナイの知人だったら紹介して頂戴な。まあ、西大陸に固まって転生しているなんてないでしょうから難しいか」

 

 テラさまの声にいますよ、とは言えなかった。テラさまに話すのであればエーリヒさまとフィーネさまに許可を取ってからである。銀髪君とヒロインちゃんもいるけれど、二人のことは言わない方が良さそうだ。

 また彼女と会う機会があって、話の流れに乗れば銀髪くんとヒロインちゃんのことは伝えれば良いだろう。それに勇者さまと共和国の彼のこともある。なににせよ、テラさまと出会ったことで次がありそうだとなんとなく感じる。

 

 「さて。二人の娘と久し振りに会えたことだし、西の娘の希望は聞き届けた。ちょっとグイーの島に行って話をしてから帰るわね」

 

 ぱちんとウインクをしたテラさまが一瞬で消えた。えっと私が驚いていると南の女神さまは母上殿はフットワークが軽いと呆れ、西の女神さまはいつもの母さんだと小さく笑っている。仲が良くて羨ましいなと私が目を細めていると、お茶のお代わりが欲しいと西の女神さまに要求されるのだった。

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