魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ハイゼンベルグ公爵領から王都のミナーヴァ子爵邸へと戻ってきた。
ロゼさんの転移で一気に戻ることも考えていたが、流石に護衛の皆さまや馬車と一緒に戻ることは難しく、もう一度五日間掛けて同じ道を戻ったのだ。道中、盗賊に襲われることもなく変なお貴族さまの家と関わることもなかったので、本当に運が良かった。
もしかして西の女神さまのお陰かなと視線を向ければ、ご本人……ご本神さまは不思議そうな顔を浮かべながらとある領地で買った屋台の串を食べている。平和なのは良いことだと私が笑えば、更に不思議そうな顔になっていたけれど。
特に問題なく視察も終えて一安心である。
子爵邸に戻っておかえりなさいと口を揃える働き手の皆さまと挨拶を交わして、十日間以上会っていないユーリの部屋へと訪れる。乳母さんと挨拶を交わせば、どうやらお昼寝タイムだったご様子だ。ベビーベッドの中で眠るユーリに公爵領で買ってきたお土産を渡して、目が覚めたら教えて欲しいと乳母さんに言い残し部屋を出るのだった。
「タイミングが合わなかった」
『残念だねえ。でも、直ぐ会えるから』
私はユーリの部屋を出て直ぐ小さく息を吐きながら声を上げると、クロが落ち込む必要はないと顔をすりすりする。
「そのうち起きるさ」
「だね、兄さん」
ジークとリンも私を励ましてくれるのだが、ユーリが寝ていたのは仕方ないことだからあっさりしたものだ。ま、ジークの言う通りユーリはそのうち起きるだろうと廊下を進み執務室へ入る。
ソフィーアさまとセレスティアさまは王都のタウンハウスにそれぞれ戻っているので不在だが、家宰さまはいらっしゃるので溜まっている書類仕事を捌こうと相談していた。部屋に入るなり、それなりに山積みになった紙の束に視線が行き私は自分の席へと腰を下ろした。
「ご当主さましか決裁できない書類から捌いて欲しいのですが、よろしいでしょうか?」
家宰さまがにこりと笑って告げた。長い期間、当主である私が留守になれば、どうしても家宰さまで決裁できない書類が溜まってしまう。とはいえ、全ての書類は家宰さまが目を通してくれており、本当に可否を判断してサインを入れる状態になっている。
家宰さまがいなければ私はお貴族さま業を満足に行えないし、領地の発展に、邸の運営も難儀していたことだろう。溜まった書類に嫌な顔をしないで素直に頷こうと私は口を開く。
「承知しました」
「感謝致します。では、こちらから」
言葉を言い終えるなり家宰さまは書類の束を私の前へと差し出す。一番上の紙を手に取って目を通していくのだが、内容は子爵領で新規店舗を開きたいというお伺い状だった。
家宰さまの話では事業計画もマトモなもので、店舗の目星も付いているそうだ。開店資金も十分あるし私に納める税金も十分あること。ならば反対する理由はないと、開店許可証に私のサインを入れ、経営が上手く行きますようにと願いを込めながらミナーヴァ子爵領領主の蝋印をぎゅっと押し込んだ。
子爵領はとうもろこしさんの生産地ということもあって、生活に根付いた店舗が多く昔ながらの老舗がほとんどである。無理のない範囲で価格競争が起きれば、領民の方たちも喜んでくれるだろうと、次の書類に手を伸ばす。
「む」
「ご当主さまには悩ましいことかもしれませんが、これも領主の仕事ですから」
私が二枚目の書類に目を通すとどうすれば良いのか返答に困るものだった。家宰さまも理解しているのか苦笑いを浮かべながら、私の仕事であると諭してくれる。子爵領には領都以外にも村が数ヶ所ある。
そのうちの一つである、名主の方から村の若者の嫁を紹介して欲しいというお願いだった。かなり大袈裟だが人口減少で限界集落となり廃村となれば子爵領の税収入が減る。あと名主の方の紹介先では同じ血が入りやすいため、今回は違う所から女性を村に迎え入れたいとのこと。頼れる先もなくなり最終手段である私に女性の紹介をお願いしたとのことだ。
「無理矢理、どこそこの家に嫁げとか嫁を取れとか言えませんよね」
私が家宰さまへと疑問を飛ばせば、彼はなにを言っているのですかというような顔になる。
「いえ、ご当主さまが命じれば問題はありませんよ。名主が嘆願していることですからね」
家宰さまがきっぱりと言い切るのだが、むりやりカップル成立させるのはなんだか心苦しい。問題の村の年頃の男性陣が女性を数名求めているので、全員くっつけないと文句が出てきそうだし難しい問題だと頭を捻る。王都に赴いて未来の奥さんを探せとなれば、そのまま王都に住み着きそうだし人口流出は避けたい。そもそも名主の方も望んではいないだろう。
「私は紹介できる女性なんて知りませんよ。できることとなれば領都に未婚の年若い方を集めて夜会擬きのパーティーを開くくらいしか……思いつきません」
知り合いとなればお貴族さまの女性となるので、村の男性とは釣り合わない。高い確率で生活が破綻するだけである。それなら生活レベルが同じ女性を紹介しなくてはいけないのだが、私には孤児院で過ごしている年齢が高い女の子くらいしか伝手がないのである。
女の子の気持ちに問題がないなら男性の所に嫁いでも良いけれど……社会を知らない孤児院の女の子を紹介するのは忍びない。やはり子爵領と各村から未婚の男女を集めて、婚活パーティーを開くくらいしか良い考えが浮かばなかった。
「悪くはないのかもしれません。各村との交流は最低限で、婚姻は村内で済ませることが多いですからね」
家宰さまの声にそれは不味いのではと私は考えてしまう。やはり血が濃くなるのを防ぐために婚活パーティーを開いた方が良さそうだ。アストライアー侯爵領からも人を寄越すことができるので、移動の手配ができるなら男女に別れて各領地へと向かうのもアリだ。移動手段が徒歩の方が多いので致し方ないことなのだろう。馬や馬車を用意できるのは本当に余裕のある方だけである。
「アストライアー侯爵領の未婚の方を誘っても良さそうですね」
「爵位を複数持っている強みですね。ここで考えていても仕方ないですし、予算を組んで実行してみますか?」
うーんと唸りながら絵空事を呟いていると、家宰さまが真面目な顔で問いかけてくれる。面倒なことだろうに、こうして助言をくれるのだから有難い。ソフィーアさまとセレスティアさまには申し訳ないが、暫くの間雑務が増えそうであった。できれば辺境伯領の視察が終われば、婚活パーティーを開いてみたいなと家宰さまと相談を続ける。
「お願い致します。先ずは名主の方が希望している村と他の村と領都の異性を呼んでみましょう。人が集まれば良いのですが……」
一先ずは規模の小さいお試し開催となる。家宰さまは名主の方も大きな話となって驚くだろうと笑っていた。名主の方は私が手配した女性と村の男性と引き合わせて、そのまま婚姻と考えているそうだ。
文化が熟成していないし当然のことかもしれないが、冷え切った家庭で生まれた子供は悲惨である。だから、お相手の人となりを知っていれば、多少は避けられるかなと考えた。
「希望者は必ずいますよ。子が欲しいと願っている者もいるでしょうしね。悩むくらいなら、やってみましょう。村の人間を集めるだけなので、予算的にも領地運営を傾けるものではありませんし、時期も冬なので農作業は閑散期ですからね」
なるほど。暖かい時期のミナーヴァ子爵領の皆さまは農作業に従事しているので忙しい。冬の間は作業が少なくなって時間が取れるようである。村の名主の方も時期も考えて手紙を寄越したのだろう。良い方が見つかって婚姻まで漕ぎ付けられれば嬉しい。
「隣の領地にも声掛けできると良いのですが、上手く事が運ぶか分かりませんし、何度か子爵家で開催して良い結果が出るまで我慢ですね」
「ナイ」
私が肩を竦めると、壁際に控えていたジークが珍しく声を上げた。
「どうしたの、ジーク?」
特に問題はないので私も家宰さまも彼に視線を向け首を傾げる。真面目な顔をしたままのジークは半歩前に出て口を開いた。
「近隣領地の一つはラウ男爵家です。私から男爵殿に話を持ち掛けても良いでしょうか?」
ジークに畏まられるのは変な感じだけれど、家宰さまも一緒にいるので丁寧な態度に変えたのだろう。最初に私の名を呼んでしまったのは、いつもの癖が出てしまったのかもしれない。
「有難いけれど、失敗に終わるかもしれないよ」
近親を避けたいなら、ジークの発言は凄く有難い提案である。領地と領地を挟むと移動の手続きが必要となるので、村の方たちが滅多に移動をしない原因がコレだった。けれど、成功するか失敗するか分からない催しにラウ男爵さまを巻き込んでしまっても良いのだろうか。
「珍しい試みなので、催しの正否を出すには時間が掛かること実験的な側面があることは必ず伝えます。その上でラウ男爵には参加の是非を問おうかと」
「なら、大丈夫かな。ジークフリードとラウ男爵の判断にお任せしましょう」
ジークが珍しく領地運営の話に加わったことに違和感を覚えるも、彼なりに考えてくれてのことだろう。ラウ男爵領とミナーヴァ子爵領の交流は当主同士の顔合わせだけだったし、領民の方たちとの交流が始まるなら良いことである。
家宰さまも問題ないと判断してくれたようで、私はいくつかの注意点を彼に伝えておく。あまり片方の領地ばかりに人口が流れれば不平不満も出てくるだろう。なので領地を跨ぐ婚姻は数を制限させて貰うことを条件として提示する。一先ずのルールはこれくらいで、あとは回を重ねて問題点を聞き取って改善していこうという話に収まった。
「無理にラウ男爵に押し付けないでくださいね。迷惑になりましょうし」
「もちろんです、閣下」
なんとなく落ち着かないやりとりに私とジークは片眉を上げながら笑う。彼の隣で静かに控えているリンも微妙な表情を浮かべていた。おそらく私がジークをジークフリードと呼んだこと、ジークは私を閣下と呼んだことに違和感を抱いているのだろう。クロも私の肩の上でなにも言わないけれど、足踏みしながら感じた変化を訴えている。
「面白い試みですし、成功すると良いですね」
家宰さまがにこりと笑い、軽く婚活パーティー(仮)について纏めてくれた紙に視線を落としていた。嘆願書から凄い話に飛躍したけれど、名主の方にも相談を持ち掛けて成功すると良いなと願うばかりである。
◇
ラウ男爵は面白い試みだしミナーヴァ子爵領との交流は望むところであるという返事がジークを経て戻ってきた。失敗することもあるし、急にラウ男爵領の方たちが増えてもこまるし、逆にラウ男爵領でミナーヴァ子爵領の人たちが増えても問題だろうと数は絞るそうだ。
ミナーヴァ子爵領での婚活パーティーが成功したなら、ラウ男爵領でも行ってみようとなっている。それならば子爵領から人を向かわせることにしようとなり、話を聞きつけた領地の皆さまの間で話題になっているとか。
領民の方たちにとって他領に赴くということはちょっとした海外旅行のような感覚らしい。生まれた村から一歩も出ずに一生を終える方もいるので、盛り上がるのは仕方ないが、時間を経て失敗する可能性もあるのだから慎重に進めなければ。
「ナイ。久方ぶりにヴァイセンベルク辺境伯領へと向かいますが、領都の街にも出掛けてみてくださいませ」
セレスティアさまが子爵邸の執務室で自信満々に言い切った。数日後にはロゼさんの転移で辺境伯領に赴くのだが、彼女はどうして急にそんなことを言い出したのか。
セレスティアさまの隣に座しているソフィーアさまが『直球すぎる願望だな……』と少々呆れているが、口に出してまで突っ込む気はないらしい。家宰さまもいつものセレスティアさまであると判断して、対応は私に任せてくれるようである。
「よろしいのですか? 私たちが出歩くと路上封鎖されますし、領都の方たちがご迷惑を被る可能性が高くなりますよ?」
一先ず私は真っ当な理由を述べてみる。有難いことだが、辺境伯領の経済を停滞させていないだろうか。貴族として行動するなら、屋敷に商人を呼び寄せるのがセオリーである。確かにお出掛けするのは楽しいので、アガレス帝国ではウーノさまに無理を言ってお出掛けしているけれど。
「一時は損をしておりましょう。ですが長期的に見れば、女神さま方とナイが見学した場所となり価値が生まれましょう。悪くない話なのでございます」
ハイゼンベルグ公爵家は遠慮したが辺境伯閣下に任せておけば、言い出せぬままだからセレスティアさまが先に私と女神さまへ伝えておくとのことである。なかなか剛毅な発言であるが、西の女神さまは喜ぶだろう。
お店の方々は凄く緊張して気絶しそうだが、腕輪と西の女神さまの努力のお陰で神圧の抑制はできている。ならば返事は一択だと私はセレスティアさまときちんと視線を合わせる。
「ではよろしくお願いいたします。ただ急なことですし無理と判断されれば直ぐに撤収したり、取り止めになっても大丈夫ですから」
私は遠回しに無理はしないでくださいねと言い出しっぺの彼女に伝えておく。聡い方だから直ぐに気付いてくれるだろうと私が笑えば、セレスティアさまが確りと頷いてくれた。これで少しは西の女神さまの圧に耐えられない方が出ても問題はなくなるだろう。辺境伯領への視察も無事に終わると嬉しいのだが……と私が願っていれば、ソフィーアさまが口を開いた。
「しかし、またナイは突飛なことを思いついたものだな」
「婚活パーティーのことですか?」
ソフィーアさまが片眉を上げながら苦笑していた。突飛な提案を多々出したつもりはないのだが、ソフィーアさま的に今回のことは珍しい案件と認識しているようである。私が転生者であることは執務室の中にいる皆さまは知っているため『前』のことを話しても問題ないが、外ではあまり口にしない方が良さげだ。
「ああ。まさか平民に貴族のようなことをさせるとは考えもしなかったし、ラウ男爵を巻き込むとはな」
「強制的に婚姻するよりはマシかなあと。ラウ男爵さまの件はジークの提案なので、私だけだと話が広がらなかったでしょうね。あと前だと一般的なことでしたから。成立するのは難しいですし、お付き合いの期間もありますからね」
いろいろと手探りではあるものの、上手くいけば他の方も試してみれば良いだろう。婚活パーティが貴族のような側面を持っているのか分からないけれど……年に数回小規模で行えれば良いなと考えている。他の領地の方を迎え入れられるメリットはやはり血統を濃くしないという意味合いが強い。恐らく他領の方がこちらにくれば文化の違いは必ずあるだろうし、揉める原因とならなければ良いのだが。
「普通は年頃の男性か女性を宛がって終わりですものねえ。ソフィーアさんが驚くのも致し方ないかと。わたくしは良い案だと考えますが」
「セレスティア。私はナイの意見を否定したつもりはないぞ」
「あら、ごめんあそばせ。そう感じたならばソフィーアさんに謝罪しますわ」
とまあ憎まれ口を叩き始めたお二人を見て私が肩を竦めると、家宰さまが肩を竦め、ジークとリンはいつものことだと壁際で見て見ぬふりをしているのだった。
――三日後。ロゼさんの転移でヴァイセンベルク辺境伯領領都に飛んだ。
ロゼさんも流石に女神さま二柱を一緒に転移はできなかったので、西の女神さまと南の女神さまは単独で転移して頂いている。私の気配を追えば良いので、行ったことのない土地でも大丈夫とのことである。
転移をして暫く経つと、西と南の女神さまの姿がぼんやりと視界に映り、どんどんと姿形がはっきりとしてくる。神さまの転移と人間の転移は少し違うみたいだなと感心していると、二柱さまは完全に転移を終えたようである。
転移した場所は辺境伯領領都にある領主邸の庭である。普通なら『何者だ! 出会え、出会え!』となって領主邸の護衛の方々に囲まれるのがオチだ。そこはセレスティアさまがご一緒しているし、西と南の女神さまが一緒であること、転移しますねと連絡していることで避けられる。某ご隠居さまのように悪事を働く代官や商人の屋敷に勝手に侵入して、ばったばったと狼藉者を倒していくのは爽快だろうなと全く違うことを考えていると、辺境伯家の皆さまがお出迎えをしてくれる。
「西の女神さま、南の女神さま、そしてアストライアー侯爵。ようこそ、ヴァイセンベルク辺境伯領へ!」
少し硬い表情の辺境伯さまが両手を少し上げながら私たちを迎え入れてくれる。セレスティアさまがもう少し領主としての威厳があっても良いのではとぼやいているが、女神さまが二柱も同道しているのだから仕方ないのではなかろうか。
どうにも私は女神さまに対しての考えがバグっているようで、他の方から見れば私の信仰心は凄く薄くて女神さま方と平然と話していることが信じられないらしい。話を聞いた私はそんなことでと思うのだが、カルヴァイン枢機卿さまが向ける女神さまへの態度を見ていると確かにと頷く他ない。
でもずっと緊張しっぱなしというのは正直しんどいし、仲良くなれるのであれば神さまでも宇宙人でも距離を詰めた方が得策である。幽霊はノーサンキューだけれど。
「よろしく」
「おう。暫くの間、世話になる」
「辺境伯閣下、お話を受け入れてくださり感謝致します」
西の女神さまと南の女神さまと私の順で辺境伯さまと挨拶を交わす。第一段階は乗り越えたと言って良いだろう。下手をすれば辺境伯家の皆さまはもっと緊張していた可能性があるのだが、特に問題はなかったのだから。西の女神さまも圧を抑えるコツを身に着けているようだし、私もきちんと魔力操作ができるように頑張らないとと気合を入れ直す。
「では、当初の予定通り大樹の下へ?」
「はい。ロゼさんの転移で向かおうかと」
辺境伯さまの声に私が答えると、彼が少し緊張しているような雰囲気を醸し出した。辺境伯さまの後ろに控えている奥方さま、ようするにセレスティアさまのお母さまのアルティアさまが『確りしてください』と言いたげだった。
なんだかクルーガー伯爵家も恐妻の気があるけれど、辺境伯家も恐妻とまではいかないが女性の方が強そうである。ご当主さまを慮らねばならないから口には出していないけれど。
「西の女神さま、南の女神さま、アストライアー侯爵。実は……この話を大樹の下で暮らしている竜のお方に話をすれば、迎えに上がると申されましてな。竜の背に乗っての移動でも良いだろうか?」
「転移より嬉しい」
西の女神さまの言葉でロゼさんがぷりんとしていた真ん丸ボディーをぺしょんと凹ませる。器用なことをしているけれど、ロゼさんの感情が分かるので有難い。
「あたしはどっちでも構わねえ」
「問題ありません。ロゼさんに負担を掛けたくはないですし有難いことです」
私はぺしょんとなっているロゼさんを抱き抱えて真ん丸ボディーを撫でれば、少し機嫌が戻ったのかロゼさんボディーに張りが出てきた。辺境伯さまは私たちに確認を終えれば護衛の方に頷いて、命を下された方たちはいそいそと動いて狼煙を上げる。暫く待っていると大樹のある方角から竜のお方が凄い速さで飛んでくる。大きい竜の方の後ろには小さな竜の方たちもいて結構壮観な光景になっていた。
「領の方たちが驚きませんか?」
素直な疑問を私は辺境伯さまへと投げてみる。移動するために身体の大きな竜の方が二頭に小型の竜の方が数頭飛んでいるのだが、三年前であればかなり騒ぎになったはず。
「いえ。子育てを一段落させた竜の方たちと領の者たちが交流を持ち始めたので、最近は快く迎え入れてくれています。辺境伯領の者たちと縁がある竜のお方は色や角の形に身体の大きさで個体識別をして覚えてくれています」
大木の下から移動できない竜の方たちは分からないけれど、慣れていなければ辺境伯領の方に覚えられている竜のお方が暫くは付き添ってくれるらしい。力仕事を手伝えば報酬として果物やお肉を得ている小型の竜の方たちもいるそうだ。
亜人連合国の代表であるディアンさまからも許可は得ているため問題はなく、人手が足りない時に竜のお方の存在は凄く重宝されているとか。どうやら共生できているようだし、辺境伯領の皆さまと仲良くできているのなら安心である。
「ふふふ。ナイが機会を齎してくれたのです。良いことですわ!」
セレスティアさまも機嫌良く鉄扇を広げて口元を隠しているのだが、いつもより鼻が高くなっている気がする。幻獣好きな彼女であれば簡単なことかもしれないなと納得して、辺境伯領の庭に小型の竜の方が数頭降り立つ。
どうやら大型の竜の方は辺境伯領領主邸の空の上を旋回したままでいるようである。そして小型の竜の方が大型の竜の方の背に降り立って私たちを運んでくれるようだ。
てってってと小型の竜の方たちが私たちの下へとやってくる。まずはクロと挨拶をするようで鼻先をちょこんと合わせていた。アズとネルにも挨拶をするようなのだが、流石にジークとリンの肩の位置には顔が届かないようで困った顔になる。ジークとリンはアズとネルに合図を送り、腕に移るようにと彼らの前に差し出した。アズとネルは嬉しそうにジークとリンの腕へ移動して、小型の竜の方たちと鼻タッチをして挨拶を終える。
『聖女さま、久しぶり……?』
『凄い人がいる!?』
『誰だろう?』
『なんだか気配が凄いよ?』
小型の竜の方たちが揃って首を右側に傾げれば、見事に姿がシンクロしていた。可愛いなあと私が目を細めると『ぐほっ!』『ぐはっ!』という声が背後から耳に届く。誰だと後ろを振り向きたいけれど、なんとなく察しがついてなにも考えないようにしておく。
そうして西の女神さまと南の女神さまだよと説明を小型の竜の方たちに説明すれば『凄い人!』『偉い人!』『敬う!』『仲良しになる!』と元気に声を上げている。西の女神さまも南の女神さまも小型の竜の方たちの無邪気さに呆れながらも悪い気はしていないようだ。
「じゃあ、上までよろしくお願いします」
『乗って!』
『二人か三人くらいなら余裕!』
『早く行こう!』
『みんな待ってるの!』
元気で無邪気な小型の竜の方に私たちは笑みを浮かべて、二度ほど往復して大型の竜の方の背に乗り込むのだった。