魔力量歴代最強な転生聖女さまの学園生活は波乱に満ち溢れているようです~王子さまに悪役令嬢とヒロインぽい子たちがいるけれど、ここは乙女ゲー世界ですか?~ 作:行雲流水
ヴァイセンベルク辺境伯領にある大木の下へと向かえば、そちらで生活している竜のお方たちに盛大に迎え入れられた。大木の精霊さんも久方ぶりの再会となるためか、凄く嬉しそうな顔をして竜のお方の背から降りる所をガン見している。
なんだか恥ずかしいとリンのエスコートを受けながら、どうにか無事に地上へ足を着ける。ふうと息を吐けば肩の上のクロが大丈夫と声を掛けてくれ、一緒にきている毛玉ちゃんたち三頭も怪我なく降りられたことを喜んで私の周りをくるくる回っていた。
セレスティアさまは羨ましそうに私へ視線を向けていることに気付いて、毛玉ちゃんたち三頭にこっそりと耳打ちをする。毛玉ちゃんたち三頭は首を傾げながら意味を理解してくれて、セレスティアさまの方へと向かった。
直線状に楓ちゃんと椿ちゃんと桜ちゃんが並んで、セレスティアさまの前で三頭が横並びになる。撫でてと訴える視線を投げた毛玉ちゃんたち三頭にデレっとした顔を彼女は向けて、毛玉ちゃんたち三頭の無言の訴え通りに順に撫でていた。
「娘ばかり狡いですわ……」
辺境伯夫人であるアルティアさまが私の近くでぼそりと呟き、失言だったとはっとした顔になる。辺境伯さまの耳にも彼女の声が届いていたようで、苦笑いを浮かべていた。私の肩に乗っているクロもアルティアさまの本音が漏れたことを聞き届けていたようで、脚を少し屈めて私の肩から彼女の下へと移動する。アルティアさまの視界にクロが映ったのか、彼女は近づいてきた小さな白銀の竜に腕を出せばゆっくりと降りた。
『アルティアも一緒にお話しすれば良いよ。遠慮なんて必要ないからね~話しかけ辛いならボクとお話しよう』
クロがアルティアさまの腕の上で機嫌良く声を上げる。
「わたくしもよろしいのでしょうか?」
少し顔を歪めたアルティアさまにクロがこてんと顔を傾げた。
『どうして遠慮なんてするの?』
私もアルティアさまが遠慮している意味があまり分からないのだが、なにかしら彼女の中にルールのようなものがあるのだろうか。
「気高き竜のお方と人間が話をするなんて、夢のまた夢の出来事ですもの……」
なるほど……彼女の中で竜のお方は気高く誇り高いものであり、人間がそうそう話なんてできる存在ではないと認識しているようである。小型の竜の方たちはまだ歳若いから懐っこいし、気さくに声を掛けてくれる。
大型の竜の方は内包している魔力量が多いため話し辛いだろうから、小型の竜の方たちと話して慣れていけば遠慮なんて直ぐ消え去るのではなかろうか。どうすれば仲良くなれるのか考えていると、私の足にヴァナルの鼻先がちょこんと当たる。
どうしたのかとヴァナルに視線を向ければ、彼もアルティアさまの下へと行きたいらしい。構わないよと私が無言で合図を送れば、彼も無言で頷いてアルティアさまの下へと向かった。そうしてヴァナルの後ろに雪さんと夜さんと華さんも一緒に付いて行く。
『夢じゃないよ。現にボクとお話しているんだから、他の仔たちとも話そうよ~』
『ヴァナルも話、したい』
『皆で仲良くしましょう』
『こうして他種族が集まる環境も珍しいですからねえ』
『良いことです』
クロとヴァナルと雪さんと夜さんと華さんが順にアルティアさまへ声を上げていく。突然訪れた竜とフェンリルとケルベロスが一斉に彼女に声を掛けたことで、辺境伯夫人という高い地位に立つお方のお目々がグルグル回っていた。
大丈夫かと心配していると『ぱん!』と良い音が鳴った。何事かとジークとリンの方を向けば、そっくり兄妹が状況を説明してくれる。彼女の隣に立っていた辺境伯さまが状況を把握して足蹴りを入れたようだ。ジークとリン曰くかなりの速さだったようで、私の目が認識できることはなかったけれど。
「…………はっ!」
お目々ぐるぐるだったアルティアさまの視点が通常に戻る。クロが少し引きながら口を開き、ヴァナルと雪さんたちは状況を見守るようだった。
『だ、大丈夫?』
「も、申し訳ありません。余りの嬉しさに意識が天高く舞い上がっておりました。なかなかこちらにくる機会に恵まれませんし、本日は楽しませて頂きますね」
アルティアさまの声に辺境伯さまが大丈夫かというような視線を彼女に向けていた。お屋敷では普通の貴族夫人だったから今回が特殊なだけである。きっと。セレスティアさま同様に魔獣や幻獣が好きみたいだから、ジャドさんたちも一緒にくれば良かっただろうか。
今度、王都の子爵邸にアルティアさまをお茶会に誘えばきてくれるかもしれない。合法的に幻獣や魔獣の皆さまと触れ合えるのだから、セレスティアさまはきっと乗り気で動いてくれるはず。いつかはお茶会を開いて楽しく喋るのも良いなあと未来を描いていると、ふと気になることがあった。
「あれ、西の女神さまは?」
西の女神さまの姿が見えないことに気付いて、周りをキョロキョロ見渡せば彼女はまだ大型の竜の方の背の上にぼーっと立って大木を見つめていた。大丈夫かと首を傾げれば南の女神さまが私の隣に立つ。
「姉御はまだ竜の背の上だ。きちんと受け入れられてねえな……大丈夫かよ」
南の女神さまが盛大な溜息を吐きながら目を細めて西の女神さまを見ていた。私は南の女神さまに視線を向けると、彼女は私に気付いて肩を竦める。
「話は咀嚼できたけれど大木を見て現実を知った、みたいな感じでしょうか?」
「多分な。本当に白銀の竜の存在が大きかったんだな……そりゃ姉御がアイツに激怒するよなあ」
西の女神さまの事情を知っている方々はなるほどというような顔を浮かべて、竜のお方の背の上に佇んでいる彼女を見上げていた。アルティアさまの肩からクロが大木の精霊さんの下へと飛んで行き、なにやら話し込んでいるようである。
そうしてクロと大木の精霊さんは竜のお方の背の上を目指して行く。西の女神さまは一頭と一精に気が付いてはっとした顔を浮かべていた。クロは西の女神さまの肩の上に乗り、大木の妖精さんは西の女神さまの前に立つ。
「悪いな。面倒掛けて」
南の女神さまが後ろ手で頭を乱雑に掻きながら謝ってくれる。なんだかんだ言いながらも西の女神さまを心配しているのだから、家族だよなと私は目を細めた。
「いえ。お礼ならクロと妖精さんにお願いします」
「分かった。あとで伝えておく」
私は南の女神さまの言葉に頷いて、視線を西の女神さまとクロと大木の妖精さんに視線を移す。なにやら随分と話し込んでいるようで、クロは西の女神さまを伺いながら、大木の妖精さんは背中しか見えないのでなにを考えているのかは分からない。
ただ一頭と一精はご意見番さまの記憶を持っているので、西の女神さまの心を救う方法をある程度知っているはず。私の力では西の女神さまの抱えている傷を治せない。クロと大木の精霊さんで西の女神さまの心を癒せるようにと願っていれば、彼らが竜のお方の背から降りてこちらへとやってくる。
女神さま方が地面に降りた途端に小型の竜の方たちがわらわらと向こうへ走って行く。そうして女神さまの脇にズボッと顔を突っ込めば、彼女は目を真ん丸に開いて驚くものの直ぐに笑顔になっていた。そうして西の女神さまは小型の竜のお方の背にひょいと乗り大木の精霊さんとタンデムをして、一柱と一精を乗せた小型の竜のお方が勢い良く走り出す。
「待たせて、ごめん」
「おう。少しでも姉御の気が晴れたならなによりだ」
西の女神さまに南の女神さまが歯を見せながら笑った。南の女神さまを咎めるでもなく西の女神さまは小型の竜の方の背から降りて、大木の精霊さんに手を差し出した。
『おや、照れ臭いですねえ。女神さま自らのエスコートとは。ありがとうございます』
大木の精霊さんは西の女神さまに緊張している様子は全くなく、笑みを浮かべて西の女神さまに手を重ねた。なんだか凄い光景なのだが、そういえば以前西の女神さまから私もエスコートを受けた記憶が残っている。なんだかなあと目を細めていると、クロが西の女神さまの肩の上から私の肩の上に戻ってきた。
「彼の残滓が二つ残っているのは不思議な感じ」
『ナイさんのお陰です。多く魔力を注ぎ込んでくれたので、私が生まれたようなものですので』
西の女神さまがクロと大木の妖精さんに視線を向けながら照れ臭そうに呟いた。大木の妖精さんは私を見下ろしながら優しい顔を浮かべている。特になにかしたことはなく、大木の妖精さんが細い若木だった時に大きくなりなと望んだだけである。本当に直ぐに大きく育って大木となり、妖精さんまで現れるとは本当に想定外だった。
『ナイだからねえ。本当に驚きの連続だからボクはナイの側で楽しんでるよ~』
「クロ……」
クロの酷い言い様に私が声を零せば、クロは機嫌良く私の顔にすりすりと顔を擦り付ける。なんだかなあと溜息を吐きたくなるが、彼らに囲まれているのは楽しいので文句は言えないか。大変なこともあるけれど、案外どうにかなっているのだ。あれこれ考えていても仕方ないと前を向けば、私の前に中型の竜の方がぬっと顔をこちらに近づけた。
『聖女さま。どうか我が仔を受け取って頂きたく』
「え?」
地面に顔を付けた中型の竜の方の側で小型の竜の方が口になにかを咥えて私の前へと差し出した。手を出してと目で訴えているので、両手を広げて彼らの前に出してみる。そうして一頭の小型の竜の方の口からぽろりと卵さんが私の手の上に転がり、もう一頭の小型の竜の方の口からも私の手の上に卵さんが転がり計二個の卵さんが私の手の上にある。
『代表から聖女さまの屋敷に卵を落とすなと言われましたから。なら聖女さまに直接渡せば良いと、大木の下で暮らしている者たちで考えました。どうか我々の同胞を受け入れて頂きたく』
大型の竜のお方は大木の下に住んでいる竜の方々のリーダー格を担っているようだった。中型の竜のお方の言葉を補足する形で私に卵さんが渡ることを促している。
「え、え?」
『ナイの下でならきっと強く育つよ~放っておいても卵は孵るから受け取ってあげて』
私が混乱しているとクロが肩の上で呑気な言葉を放つ。ジークとリンが私の背後で妙な空気を醸し出し、ソフィーアさまも『またか』という諦めモードに入っているような。セレスティアさまだけがまた卵さんが孵る瞬間を見届けられると嬉々としていた。そして辺境伯さまとアルティアさまは目を白黒させながら竜のお方の発言に驚いている。
「え、クロさん。なにを仰っていますか?」
『今更じゃないかな、ナイ』
私がクロに言葉を投げるとふふふと笑うクロがいる。私の手の上に二個転がっている卵さんに西の女神さまが興味深そうに視線を向けて、顔をぐっと勢い良く視線を向けた。
「ナイ、私、竜の卵が孵る所みたい」
西の女神さまにそう言われてしまうと卵さんを受け取る他ないようなと考えていると、南の女神さまも私の手の平の上に視線を移してマジマジと覗き込んだ。
「…………すげえな。竜に卵を預けられる人間がいるなんて」
なんだか驚く内容が私に向けられているようなと空を見上げる。青く澄み渡った冬空は雲一つない。平和だなあと竜のお方に視線を向けて、責任を持って預からせて頂きますと私は宣言するのだった。
◇
――深く考えると禿げそうなので、一先ず竜の卵さんを預かることにした。あとは卵さんが孵った時に考えよう。
ヴァイセンベルク辺境伯領の大木の下で竜の方たちとエルとジョセとルカとジアにヴァナルと雪さんと夜さんと華さんと毛玉ちゃんたち三頭が交ざって、凄い光景を作り出していた。異種が交ざり込む機会はなかなかないらしく、セレスティアさまとお母上であるアルティアさまが恍惚の表情を浮かべている。
あまりにもヤベー顔になると辺境伯さまの足蹴りが彼女にヒットして通常のご尊顔に戻っていた。凄く特徴的な家族だなあと感心しながら、私たちは大木の根元に座り込んで子爵邸の料理人さんに作って頂いた軽食をロゼさんに取り出して貰って、簡単なピクニックを開催している。
レジャーシートの代わりに厚手の布を敷いて座り、バスケットの中を開けばサンドイッチが大量に入っている。辺境伯家の皆さまや護衛の方が交代で食べられるようにと用意してきたので本当に量が多い。
中身は至ってシンプルなハムとチーズを挟んでいるものや、生ハムとチーズとアボカドを挟んでいるもの、キュウリだけとか、カリカリベーコンとか、アルバトロス王国のお貴族さまが良く食べるというラインナップだ。
少し変わり処はタマゴサンドだろうか。私が提案してなんちゃってマヨネーズとゆで卵を潰して混ぜてサンドイッチにしたものである。あとイチゴサンドにキウイやブドウなどのフルーツサンドもお願いしてみた。
料理人の皆さまは私から話を聞いて怪訝な顔をしていたが、作って食べてみると美味しいことが判明して嬉々として作ってくれたのだ。生クリームは十分にあるので、他の家でも流行らないかなと考えている。とんでもなフルーツサンドができ上れば食べてみたいし、他のサンドイッチも新しく生まれるなら食べてみたい。
用意ができたのでサンドイッチを食べようとなり、竜の方たちやエル一家とヴァナル一家と遊んでいる面々……主に西の女神さまは放っておいて良いだろう。
腰を下ろしている面々は南の女神さまと辺境伯さまと辺境伯夫人であるアルティアさまとソフィーアさまとセレスティアさまと私である。ジークとリンは護衛に就いているし、クロとアズとネルは竜の方たちの下でなにやら遊んでいるので飽きれば戻ってくる。
「すげえ量を作って貰ったな」
「護衛の方たちの分もと考えていたら、結構な量になってしまいました」
南の女神さまがバスケットの中身を覗き込んで私に視線を向けた。消費できなくはないので大丈夫なはず。私のお腹の空き具合は九割くらいだし結構な量を食べれる自信がある。南の女神さまも私と似た体格の割には食べるので、量が多い方が良いだろうに。私の言葉に南の女神さまが息を吐いて私を見ているようで少し違う所を見ていた。
「ま、美味いから文句ねえんだが……なんでナイはそんな恰好してんだ」
呆れた顔の南の女神さまは私の後ろにいる大木の精霊さんを見ていたのだ。何故か私は精霊さんの膝の上に乗せられて腕をお腹に回されて逃げられないため、彼女の膝上でじっとしているしかない。
「精霊さんに聞いてください」
恥ずかしいから止めて欲しいけれど精霊さん的に私から離れると、彼女の髪が勝手に私の手首に巻き付くのだ。それの方がホラーなので私は彼女の膝上に大人しく乗っておくという選択が生まれるわけで。
リンが微妙な視線を精霊さんに向けているけれど、少し前に貴女はナイさんといつも一緒にいるのだから良いではないですかと精霊さんからマジなトーンで言われてしまっていた。リンもリンで思う所があるのか、微妙な視線を送るだけに留めていた。
「……いや、好きにすりゃ良いけどよ。食いにくくねえか、ソレ」
南の女神さま、ナイスな意見ですと言いたくなるのを堪えて私は後ろに振り向いて精霊さんの顔を見る。
『おや、駄目でしょうか』
精霊さんは顔色一つ変えずに南の女神さまへと言い放った。そうして南の女神さまは小さく溜息を吐く。
「それはナイに聞いてくれ」
「下ろして頂けると嬉しいです」
南の女神さまから私に会話のバトンを渡されたこともあり、遠慮なく精霊さんに伝えてみようと意を決した。
『残念です。せっかくナイさんがきてくださったというのに』
精霊さんは残念な表情をアリアリと浮かべて私を膝上から降ろしてくれた。そうしてすぐさまゼロ距離で私の隣に移動すれば、私の左手首に彼女の髪が伸びてきた。なんとなくだけれど魔力を吸われているような気がする。
でも問題ない範囲だし、竜のお方や精霊さんに魔獣の方々には魔力は生命の素だと知っているので口には出さない。流石に気絶するほど吸収されると困るけれど、私に気付かれないようにと制御しているので倒れることはなかった。
南の女神さまと精霊さんにどれが食べたいですかと聞いてみれば、全種類と言い放つ黒髪黒目のお方と動物が関わるものは避けたいと仰る方に私は苦笑いを浮かべる。南の女神さまは適当に食べるとして、動物性のものは避けたいとなるとかなり難しい。水分がパンに沁み込まないようにとバターやマーガリンを塗っている。
一緒に食べれないのは寂しいのでどうにかしたいが……あ、そうだ。足りない場合は直ぐに追加で作れるようにと別口で料理長さんからパンと材料だけ手渡されていた。ロゼさんに預けているので、別のバスケットをロゼさんの身体から吐き出して貰う。またバスケットを開ければ、パン包丁と硬めのパンと具材が沢山入っている。
「精霊さんの好みのお野菜はどれでしょう? それともご自分で作られますか?」
『ナイさんにお任せ致します。ナイさんが自ら作ってくださるとは感激です』
私が問いかけると精霊さんはへにゃりと笑う。凄い美人さんが笑うと破壊力があるなと感心しながら、私はバスケットの中に視線を移して精霊さんにはどれが良いかと考える。もう少しお野菜を多めに持ってくれば良かったなと少し後悔していると、精霊さんがある個所に指を差した。
「どうしてマンドラゴラもどきが…………いつの間に?」
バスケットの端っこに鎮座しているマンドラゴラもどきを精霊さんは食べたいようである。
「あー……食べて欲しかったんじゃねえか? 一応、食い物だしな。若干精霊とか妖精に近い存在だけどよ」
南の女神さまが後ろ手で頭を掻きながら状況を説明してくれるのだが、マンドラゴラもどきがバスケットの中に勝手に入った理由までは分からなかった……しかし。
「そうなると共食いでは……」
『精霊が精霊を取り込んで強くなるのは普通ですよ。まあ妙な輩を食べ過ぎると闇に落ちることがありますけれど』
私の心配に精霊さんがにこりと笑って教えてくれる。どうやら精霊さんの世界では共食いは異常なことではないらしい。となればお婆さまもある程度精霊さんたちを取り込んできたのだろうか。精霊さん文化にケチをつける気はないけれど凄い世界だなと目を細めて、濡れタオルで手を拭いた私はパンにマンドラゴラもどきを挟み込み紙ナプキンで一部を覆った。
「どうぞ」
『ありがとうございます。ナイさんが自ら作ってくださったこと凄く嬉しいです』
私がサンドイッチを差し出せば精霊さんが凄く綺麗な笑みを浮かべる。マンドラゴラもどきをそのまま挟み込んで欲しいというリクエストだったので、凄くシュールな絵面だけれど。
私たちを見ていた辺境伯さまとアルティアさまが驚いた顔をしているが、ソフィーアさまとセレスティアさまはお二方に『いつものこと』と仰っていた。いつものことではないと私は否定したいが、否定しても白い目で見られるだけである。さっさと美味しいサンドイッチさんを食べようと、皆さまに勧めて私も食べたいサンドイッチを手に取って一口齧ってみた。
「美味しい」
「あー……美味いな。屋敷で出される料理も美味いが、こういう単純なのも良い」
『美味しいです』
私と南の女神さまと精霊さんが一口頬張るなり声を上げる。やはり子爵邸の料理長さんたちが作った物は美味しいと目を細めていると、辺境伯さまとアルティアさまも美味しかったのか二口目、三口目を食べ進めていた。気に入って頂けたなら良かったが、タマゴサンドは誰も手に取っていなかった。それならばと私は一つ目のサンドイッチを食べ終えて、二つ目に手を伸ばすべきはタマゴサンドだと決める。
「美味いのか……?」
南の女神さまが凄い顔をして私を見ている。残すのが嫌で彼女はタマゴサンドという未知のものに手を伸ばさなかったのだろうか。それなら味見してみますかと問えば、南の女神さまは少しくれと言って口を開く。
私は女神さまの口元を目指してタマゴサンドを持って行けば、割と大きめの一口を彼女は齧り取る。結構な量が消えてしまったぞと女神さまが食べた部分に視線を向けた。あと二口分くらいしか残っていないと私が口を尖らせていると、南の女神さまがごくりと嚥下する。
「色味が凄いけど美味いな、これ」
それは良かった私は南の女神さまを見て安心する。アルバトロス王国に住む鶏さんの卵は黄味の色が日本のものより薄かった。おそらく餌の関係で色味が薄いのかなと考えているのだが味に問題はない。
ただやはり生で食べるとお腹を壊すと言われているので、生卵は食べたことはなかった。いつかは卵かけご飯を賞味したいと考えていると口の中の唾液が増してくる。
南の女神さまがタマゴサンドが美味しいと告げたなら、他の面々も次に手を伸ばすのはタマゴサンドであった。どうやら口に合ったようで残さず食べてくれている。良かったと私は笑って、カリカリベーコンと卵焼きを挟んだバケットに手を伸ばす。
これまた美味しいと一つ食べ切り、次のサンドイッチに手を伸ばす。お腹が膨れてきたので締めにしようと、最後はフルーツサンドに手を伸ばした。イチゴさんと島バナナさんが入っており、果物自体が甘いためクリームは控え目の甘さに調整してくれている。
アルティアさまが気に入ったのか作り方を教えて欲しいと請われたため、セレスティアさまにレシピを預けておきますと伝えれば彼女は満足そうな顔をしていた。
ひとしきり食べて落ち着くと、竜の方たちはまだみんなで遊んでいる。元気だなあと目を細めていると、セレスティアさまが身体をくねくねさせてなにやら妙な表情になっている。
「ここにジャドさまとアシュとアスターにイルとイヴが加われば、どんなに幸せな光景だったか……想像するだけで胸が張り裂けてしまいそうです……」
彼女の頭の中では幸せな光景が広がっているらしい。現実になれば身体をくねくねするだけでは留まりそうにない。くねくねしているセレスティアさまにソフィーアさまが呆れた視線を向けていた。
「いや……張り裂けるものじゃない気がするが」
ソフィーアさまの突っ込みを無視したままのセレスティアさまは幸せそうに竜の方たちを見続けている。そしてアルティアさまも幸せそうな顔をして身体をゆらゆらさせていた。どうやらセレスティアさまの魔獣と幻獣好きはアルティアさまから譲り受けたものらしい。ゆらゆら揺れているアルティアさまに辺境伯さまが彼女の肩を揺らして正気に戻れと無言で訴えていた。
でもまあ、ジャドさん一家もいつか辺境伯領の大木にきて欲しいなと私が精霊さんを見ると、彼女はいつでも歓迎しますと目を細めるのだった。